思ったより時間が余ってしまったので昼食を取りに行くことに。

皆自由に食べに行ったのだけれど私はちょっと用事があったので皆を先に行かせていた。

私は所要を済ませて食事に向かうとその途中に千里山の監督さんと遭遇した。


「小鍛治プロやないですか。」


「ご無沙汰してます、愛宕監督。」

「これからお昼ですか?」


「そうやけど……ところで小鍛治プロ、いや小鍛治監督のほうがええんかな?」


「今は顧問としてきていますので。」


「なら小鍛治監督、率直に聞きたいんやけど、あんたがおたくの片岡って子にウチを残すように指示したんか?」

「自分で言うのも何やけど他の高校と比べて何や尖っているわけでもないで?」


「私は何も指示してないですよ。」


「ならなんでウチを残したんやろな。」


「多分胸部の問題じゃないですかね。」


「……ああ~……それでか~納得行ったわ。」

「今回泉が選手を選出したいって言ってたのはこのためやな……」

「『私より大きいのはあかんから。』やなんて言うから何事かと思たわ。」


通りで皆胸部が薄いわけだ。

さっき気付いたのだけれど千里山女子は監督が一番グラマラスという清澄と共通な点があるね。

いやー被っちゃうなー私とキャラが。





ご飯を食べた後、千里山のメンバーをざっと見てみた。

確かに絶壁である。

明日はBブロックだからお休みだ。

羽を伸ばしてゆっくりしたいけど皆で遊びに行くとか言っていたような……

折角の東京なんだからもっとゆっくりしようよーとか思ってみたりする。

だってラーメンにタコスにファッションに本屋を回るとか言い出してるんだもん、一日で回れるわけ無いよ……

特に渋谷、あそこは場所によっては十代しか歩いちゃいけないような場所だよ、私はまだ若いけどつらいよ。

ファッションで109とかあと道玄坂の方のラーメンとか色んな意味で死んでしまいます。




五日目はBブロックなので私たちは自由に動いていた。

と言っても元々は仲良しグループが適当にそれぞれで動いているようなものなので普段のそれと変わらない。

片岡さんはタコス巡り、咲ちゃんは本屋、京太郎君と室橋さんは対戦校のチェック。

夢乃さんは片岡さんといっしょで加藤さんは咲ちゃんと一緒に動いていた。

加藤さんと咲ちゃんの組み合わせとは珍しいけど別段仲が悪いわけではない。

前は打つときに若干怯えていたけど今ではコミュニケーションは取れている。

まぁ付き合い長くなればお互いの気心は知れてくるから誤解とかも解けるよね。

誤解じゃないところや新たな面が見つかるかもしれないけど。





生徒達が何事も無く帰ってきた、部長副部長はまだ対戦校をチェックをしているけど片岡さんは夢乃さんと一緒にタコスを満喫してきたらしい。

咲ちゃんは文学少女らしく流行の小説なり何なりを買ってきていた。

一緒についていった加藤さんは何か買ってきたのだろうか?


「加藤さんも何か買ってきたの?」


「え? いえ、大した物は買ってきてないですよ。」


怪しい、明らかに人の目を気にしている。

気にはなるけどすごく隠したがってる、気になる。

咲ちゃんに視線を送ってみると首を振られた。

咲ちゃんも知らないのか。

でもまぁ本人が見せたがらないなら無理矢理見ることはよくないよね。

こーこちゃんみたいなこともしたくないし。

と思っていたら加藤さんの後ろに片岡さんが後ろに回っていた。


「何隠してるんだじぇ?」


「ちょっと!? 先輩だめですって! 見ないでください!」


「……おろ? バストアップの本?」


「あー!? 見ないでって言ったのに……」

「ひどいですよ……」


加藤さんは見る見る赤くなった後、両手で顔を隠してしまった。

そんな加藤さんを見て片岡さんが声を掛ける。




「気持ちはわかるじょ、ミカ。」

「でもな恥ずかしがることは無いんだじぇ。」

「隠すことも無いんだじぇ。」

「女にとって体型の悩みは誰にでも持っている永遠のテーマだからだ。」

「だけど周りを見てみるんだじぇ。」

「見よ! 私の体型を! そして咲ちゃんの体型を!」

「すっごいまな板だじょ!」

「でもな、こんな体型でも好きだと言ってくれる人もいるんだじぇ、きっと。」

「それは一種のステータスなんだじょ。」

「巨乳のような下品さが無い乳、それはつまり、貧乳は品乳なんだじょ。」

「品がある乳に誇りを持つんだじょ。」


その主張は多分一部の人だけだと思うな、特に前々年の副会長君とか。

それでも納得行っていない加藤さんは声を搾り出す様に言った。


「先輩……それでも私は……胸を大きくしたいです……」


「そうか、それでも貧乳が気になるなら私も付き合ってやるじょ。」

「皆でやれば恥ずかしくないからな。」

「それに一緒にやった方が長続きするはずだじぇ。」


「ミカちゃん、私も一緒にやるよ。」


「マホも一緒にやります!」


「先輩……マホちゃん……皆、ありがとう。」

「わざわざ私のために……」


涙ぐむ加藤さんに片岡さんが笑顔で応える。


「ミカ、気にするな。」

「だって私達みんな……」



「仲間だもんげ!」



君は一番いいところで噛んだね。

それに君達手伝うって言ってるけど一人だけ大きくなったら裏切り者と言って怒るでしょうに。

後で戻ってきた室橋さんと京太郎君は状況がわからず、疑問符を頭の上に抱えていた。










夜になって対策会議が始まる。

と言っても残す高校は既に決まっていた。

満場一致の「千里山。」だそうな。

なんだろう、すごい一体感を感じる。

今までにない何か熱い一体感を。

ただし調べてきてくれた京太郎君は若干冷えた顔をしていた。


六日目、Aブロック準決勝。

今日当たる相手高校は千里山女子、有珠山、晩成。

先鋒戦に出るメンバーは聞いたこと無い名前ばかりである。

新子選手は知ってるけど岡橋初瀬って子は聞いた覚えが無い。

はてさて、実力はいかがなものか。




先鋒戦終了、片岡さんが八万点ほど稼いで来てくれた。

岡橋選手は普通に上手い程度だったけど善戦していたと思う。

だけども片岡さんは止まる事を知らない破竹の勢いで点を稼ぐ。

後続が安泰だと思わせてくれるエースは強い、信頼関係も精神的な意味でもチームとしても。

よくもまぁこれだけ育ったものだね。

一年の頃を思い出すと感慨深いものだ。




次鋒戦に入る。

続く室橋さんも副部長としての自覚が出てきているのか中々に上手くなった。

打ち方自体はオーソドックスなスタイルだし染谷さんのことを意識してあるんだろうけど彼女とはまた違ったアプローチの仕方だ。

慎重な打ち回しと経験による危機回避。

パッとはしないけど堅実を地で行くような打ち筋だ。

信頼とは斯くあるべきと示しているようだね。




中堅戦に入ると加藤さんの番である。

最近発育してきたオカルトを使っていくがまだ若干拙い部分がある。

それでも十分な武器には違いない。

彼女のオカルトは心臓に関してのオカルト。

人の中心である心臓に牌を見立てて、数牌の中心である五牌を中心に動く。

まるで心臓を動かすように牌は流れてくる。

彼女の心《ハート》に火をくべるから心臓《エンジン》は動いてくれる。

感情によって、或いは体調によって心臓は早く強く鼓動を刻む。

それに伴い流れも速くなっていくもののようだね。





副将戦、夢乃さんの番だけどコピーは敢えて使わないで打ってもらった。

収支はトントンだけど隠し球を活かせるのは魅力的だ。

球種が多いのが隠し球とは変な話ではあるけど。


大将戦。

我等が咲ちゃん。

ウチの持ち点は250000点オーバー。

まず負けない。

とはいえ溜まった鬱憤もあるだろう。

何せ相手はあの真屋由暉子選手だ。

他には新子選手と二条選手もいるけどゴルゴ咲ちゃんは完全に真屋選手ロックオンしている。

暴れる気だ。

だってシャープシューターより鋭い目つきをしているもん。

完全に狩る気だ。

げに恐ろしきは人の嫉妬なり。

でも原村選手と福路さんにはしないんだよね。










モニターの中の咲ちゃんが宣言する。


「カン、ツモ、責任払いで8000。」

「ロン、12000。」


容赦の無い攻撃、まるで巨乳は駆逐すると言わんばかりだ。

有珠山の点数は見る見ると減っていき、あっと言う間にトび寸前。

だがそれを新子選手は黙ってみている気ではないようだ。


「チー!」


巡目をずらして相手の手を遅くすると同時に自分の手を進める。

中々に上手い、が。


「カン、ツモ、4000オールは4100オール。」


咲ちゃんには敵わない。

伊達に私の元で十年近くも打っていない。

対応の出来ないレベルではないということだ。

歯噛みするような表情の新子選手。

トび寸前の真屋選手はカタカタと震えている。

一方では二条選手は我関せずのスタイルでお茶を啜っては黙って気配を消している。

不意に咲ちゃんの目の色が変わる。





「新子さん、貴女はノットギルティだけどリア充っぽいから」

「ダメです!」


オレたちひょうきん族のひょうきん懺悔室の如く手で×を出された後、倍満ロン宣告。

そのあと三倍満ツモをして有珠山をトばした。

リア充も許さない咲ちゃんのストロングスタイルである。

確実に私の影響を受けているね。

何にせよ決勝進出だ。

そういえばひょうきん懺悔室のあれって許されたことあるのかな?









明日はいよいよ団体戦決勝。

今日の時点でA、Bブロック同時に準決勝をやっていたから一日置かなくてもいいのだ。

ウチの部長さんの調べによると明日の対戦相手は姫松と白糸台らしい。

姫松の大将は名前の知らない高校生だった。

実質千里山と白糸台の二位争いだろうか。

対策会議は開かれてはいるけど決勝なのでどこを残すとかはないのだ。

好きなように打てる、思いっきり打てる。

彼女たちにとってはただそれだけでいいようだ。






翌日になりついに女子団体戦の最後の日になる。

流石にこの夏最大の大舞台とあってか色々と思うことがあるようだ。

ある者は緊張で顔を強張らせて。

またある者は楽しみで顔を綻ばせる。

またある者は目の保養を楽しみにしている。

最後のは余計だった。

一番気合を入れているのは片岡さんだ。

今年最後のインターハイ、否が応にも力が入るようだ。

試合前に京太郎君がタコスを渡す。


「ほい、優希。」


「お? 気が利くな。」

「んぐ!?」

「これこの間の失敗作じゃないか!」


「わりぃわりぃ、間違えて渡しちまった、本物はこっちだ。」


「ったく、そそっかしいやつだじぇ。」

「……ま、礼は言っとくじぇ。」


「あんまり気負うなよ。」

「あとでタコス作ってやるからさ。」


「おう、行ってくるじぇ!」


気合を入れすぎて空回りしそうな片岡さんにいつも通りのペースに戻してあげた京太郎君。

部長であり、仲間であり、友人であり、尚且つ今日の団体戦出場選手ではない彼だから出来る気遣い。

本来私がするべき何だろうけど先を越されてしまった。

より気遣い出来るようになった彼を見て成長したなぁと感慨深くなる。







対局室に向かう片岡さんを見送りモニターに目を向ける。

そこには各校の先鋒が映っていた。

千里山と姫松の選手は知らないけど白糸台の先鋒は知っている。

原村和。

いかに片岡さんが強くなったと言えども彼女は大きく崩れない。

それは彼女が信仰していると言っても良いほどのデジタルへの信頼。

それがバックボーンになっているので多少勢い付かれても大きく崩れないのだ。

ただデジタルの申し子のような彼女だが、彼女もまたオカルトを持っていると思われる。

先鋒を任せられるというのはデジタルだけでも運だけでもダメなのだ。

ただ彼女が自身の能力に気付いているかどうかはわからないけど。






「ツモ! 4000オールだじぇ!」

「ツモ! 6000オールは6100オールだじぇ!」


とは言え今の片岡さんの序盤の勢いを止められるほど片岡さんはやわではない。

開始三本場まではきっちり稼いでいた。


「通しません、7700は8600。」


そこを崩していったのが原村和である。

彼女の能力を見るに前はただデジタルに運がいい程度だったのに対し、今ではデジタルで打っている限り裏目にならない能力。

より正確に言うなら自分の信じる理論を使う限り裏目にならない能力。

そういう形に昇華したと言える。

一応は違うけど一番近い例は一昨年の宮守女子に居たウィッシュアート選手が近い。

流石はインターハイ決勝まで残った先鋒なだけあるね。






やがて先鋒戦が終わり、片岡さんが帰ってくる。

如何にも疲労困憊といった表情をして戻ってきた。


「三万点しか稼げなくてすまないじぇ……」


「大丈夫ですよ、先輩。」

「次は私が頑張りますから。」


「頼んだじぇ。」


掛けられた言葉に対し片岡さんは笑顔で応えて椅子に座った。

そのあと京太郎君からの差し入れを食べて元気を取り戻していた。

そのあと室橋さんは対局室に向かっていった。

心なしか彼女の表情は凛としていたように見えた。







「さあ打ちましょうか。」

「清澄の副部長という肩書きが伊達ではないことを証明して見せます。」


モニターの中で室橋さんは啖呵を切る。

その切った啖呵に負けないくらいの活躍をしていた。

自身が和了るのではなく相手の手を先読みしてその手を悉く潰していった。

大舞台というのは人によって影響の掛かり方が違ってくる。

影響を受けない者。

緊張して実力を発揮出来ない者。

逆に本番に強くいつも以上に力を出せる者。

てっきり室橋さんは影響を受けないタイプだと思っていたけど、ここ一番でいつも以上に力を発揮してるみたいだった。

彼女も何か思うものがあるのだろうか?

多分片岡さんのこともあるんだろうけど自分も団体は最後だと思ってるからかもしれない。







次鋒戦が終わり室橋さんが戻ってくる。

収支こそは多くなかったけど支出をほぼ全て抑えたあたりが素晴らしかった。


「流石次期部長、見事な腕だったな。」


「ありがとうございます。」


戻ってきた室橋さんが京太郎君の言葉を受けて返事をする。

さて次は加藤さんである。

加藤さんは京太郎君に向かって言う。


「見ててくださいね、部長。」

「私、頑張りますから。」


「おう、ちゃんと見てるよ。」


「はい!」


元気よく返事をした加藤さんが対局室に向かう。

はてさて京太郎君はこの意味に気付いているのかどうか。






加藤さんがモニターの中に映る。

席に着いて宣戦布告。


「悪いけど負けてあげるわけには行きません。」

「先輩達が見ていますから。」


実際加藤さんはよくやってくれた。

先鋒からの収支を合計すると五万点強稼いでくれている。

個人では15000強くらいだ。

文句なしに役目は果たしてくれていた。

戻ってきた加藤さんがいの一番に発した言葉はこんなことだった。


「どうでしたか?」


「よく頑張ったな、ミカ。」


「私ほどではないけど稼いできたのは偉いじょ。」


「ええ、頑張りました。」


「じゃあ次はマホの番ですね。」

「頑張ってきます!」


意気揚々と夢乃さんが出て行く。

が、対局室とは違う方向に行きかけたので京太郎君が慌てて追いかけて対局室に連れて行った。

何か締まらないね。










そして副将戦が始まる。

夢乃さんは若干緊張してるが問題なく打っている。

とはいえ周りが全員三年生であり、かつ三校から狙われているからか若干押され気味だ。

必死に喰らい付いて来る三校に少しずつ、夢乃さんは点棒を手放していってしまう。

ピリピリとした雰囲気に今にも泣きそうな夢乃さんが深呼吸をしてブツブツと呟き始めた。

数巡後、夢乃さんが聴牌をして黙のまま進行していく。

更にその数巡後、夢乃さんはツモった牌を手牌と一緒に倒して宣言する、


「これが今のマホの精一杯です。」

「三つずつ、揃いました!」

「ツモ! 四暗刻です!」


まさかの役満。

役満ツモで何とか点棒を取り返したものの、その後も夢乃さんは点数を取られてしまい結局彼女の収支は微弱ながらマイナスになってしまった。

それでも一度は一矢報いたから良しとしよう。

それに大将である咲ちゃんまで回したんだから問題ない。










大問題の大将戦。

多分構図としては清澄対他の高校の1対3の形になると思う。

それはまるでこの世界ではない、かつての照ちゃんの如く。

千里山と新道寺と阿知賀で抑えた時と似たような構図になると予感をした。

そうじゃないと40000点以上のアドバンテージを持った清澄以外に勝ち目がなくなるからだ。

ただ、それでも咲ちゃんに勝つには並大抵のことではない。

大前提である三校連携が取れても尚、実力差があるからだ。

しかも大星選手・二条選手はお互いに面識も無い上に負けん気の強い選手。

すんなりと「仲良く咲ちゃんを倒しましょう」とは行かないだろうね。





姫松は開幕からカタカタしている。

まだ何もしていないのに……どうやら周りの威圧感に萎縮しているようだ。

そこから大将戦が始まった。

大星選手がまず先制の絶対安全圏でジャブをする。

咲ちゃんは当然対応できるけど様子見といったところか。

二条選手も様子見ではあるが準決勝とは違って積極的だ。

まず塔子を集めてチー宣言。

それに合わせて大星選手が巡目を鳴き戻す。

成るほどね、今の行動で大体わかるね。




そして数巡後大星選手が一足早く和了する。


「ツモ、1300・2600。」


そのまま東二局に移行。

先程と同じように大星選手が絶対安全圏を使って和了る。

東二局が終わった時点で空気が変わり始めた。

大体小手調べが終わったところで全員が本腰を入れ始めたのだ。

お互いの探り合いはここで終わらせたのだろう。

大星選手が二条選手に言い放った。


「ねぇ千里山の人、悪いことは言わないから大人しくしておいたほうが良いよ?」

「これからサキと私の闘いが始まるから、巻き込まれちゃうよ?」


およそ大星選手の善意での忠告だろう。

若干傲慢な物言いではあるが咲ちゃんが潰してきたのを見ているであろうと言うことと自身でも何人か潰したこともあるような経験から言える言葉だった。

そんな大星選手に対し二条選手はツモった牌を手牌に加えて言い放つ。


「確かに宮永には勝てんかも知れん。」

「けど決勝の舞台で簡単に諦められるほどええ根性してるわけでもないんやわ。」

「あと大阪の人間として東京もんには、負けられへん!」

「大阪人の本気見せたるわ!」

「立直!」


「私たち相手に立直って強気だねー。」


「雀士だったら例え負け確定だとしても最後の最後まで強く打って死ぬ。」

「それだけのことや。」


その局、結局大星選手が和了る。

たださっきの言葉を受けて姫松の生徒も何か思うことがあったのか、多少顔持ちがよくなった。

単独で戦える感じではないけどそれでも戦意は戻ったみたいだ。

多分これが二条選手の狙いだったのだろう。

戦うために周りを利用する。

言い方は悪いけどそんな感じかな。









東三局一本場、またもや大星選手が安全圏を作り出していた。

だけども二条選手は喰い下がる。

負けん気と根性で泥臭くっても点棒を奪いに行く。

鳴いて巡目をずらし。

鳴かれて巡目を戻される。

それでも喰い下がる。

鳴いて喰い下がる。


「チ、チー!」


その姿をみて姫松もアシストし始めた。

ただし自分も勝つために。


「ツモ、2000・4000の一本付けや。」


その結果は千里山が拾ったけどまだまだ戦意は衰えない。








そのまま試合は進み局は南二局。

咲ちゃんは意外にも動いてなかった。

点数差による余裕の表れなのか。

それとも眠れる獅子が居眠りしてるだけなのか。

何れにせよ転機が訪れる。

調子に乗った二条選手が更にリミッターを解除するべくとある行動にである。


「私の本気、見せたる。」


二条選手がそう言いながら服に手を入れて布切れを取り出す。

つまりさらしを取ったのだ。




「私が本気出せばバストサイズが上がる。」

「13mmや。」


1.3cmって……それって元を考えたらほぼ誤差じゃん……

もしかしてとは思うけど息を大きく吸って胸囲を誤魔化すなんて小技やってないよね?

どんぐりの背比べとはこのことを言うのだろう。

そもそもさらしと麻雀関係ないじゃん。


その後も続く二条選手の自己申告。


「カップもAAからAになった。」


「なん……だと……」


「うそ……」


なぜか驚いている咲ちゃん。

大星選手もその場のノリで生きているらしく一緒に驚いてあげている。

案外いい子なのかも。

あほの子っぽいけど。

でも大星選手ってDくらいあるよね?









しかし先ほどまで真面目な雰囲気だったのにこのざまとは……

大阪人恐るべし。

そんなところより麻雀の腕を磨けば良いのに。

姫松は咲ちゃんと同じ世代を育ててないし。

一年生のうちに育てておかないと後で苦労するよ。

後続の育成を怠ったからこうなるのだ。

まぁうちは後続の育成どころか確保すら危ういんだけどね。

来年以降は団体戦は無理だろうなぁ……

三日天下ならぬ三年天下である。









大星選手が二条選手に言い放つ。


「あまり強い言葉を使わないでよ、無乳に見えるよ。」


いや見た目は元々だよ!

強い言葉関係ないよ!

だがそれに対し二条選手が言い返す。


「宮永の乳圧が消えた……?」


なんで流れがそっちに行ったの!?

それに咲ちゃんには元から乳圧なんて無かっただろ! いいかげんにしろ!

そんな声が聞こえそうだけどそれを口にしたらアウト。

というか全員アウト。

咲ちゃんが静か過ぎて怖い。

まるで潮が引いて水位が下がった感じ。

およそこれから来るのは大津波だ。


咲ちゃんは始める間に一言だけ言った。


「さぁ、私と一緒に麻雀を楽しもうよ……」


まず照明が割れた。

その次にノイズが混じって音声が途切れる。

最後に映像も途切れて様子がわからなくなった。

咲ちゃん達の力の解放に耐えられなかったんだね。

その結果機材の全滅。

やってしまいましたなぁ……










それから少しして「ただいま映像が乱れておりますご不便をおかけして申し訳ありません。」というテロップがしばらく流れていた。

あーあ、咲ちゃんが機材を壊すから……プロは基本的にそこらへん気をつけて打っているので壊さないのだ。

そしてそれからしばらく経った後、映像が戻る。

モニターの中には項垂れた二条選手と泣いている姫松の選手。

そして一人で思いっきり笑っている大星選手と勝利の拳を挙げた咲ちゃん。

一体何があった。

結果的に清澄は一位、白糸台二位、姫松と千里山がトびの三位四位である。

その後対局室でむっすりした大将を宥めて表彰台に上げた。

団体戦でこれなら個人戦では一体どうなるのだろう。












さてさて、個人戦が始まる前に休日を挟むわけだけど。

ここで注目しておかないといけないのは個人戦でしか出てこない選手と団体戦では本領を発揮していなかった選手だ。

一応京太郎君と室橋さんの調査で目ぼしい選手はピックアップできている。

普通なら私の仕事なのにやらせてしまって申し訳ない。

照ちゃんが在学していて彼が一年のときは私がやってたんだけどいつの間にか……

それでも対策立ててるあたり私って偉いと思わない?






調査した結果、個人戦に出場する選手で目をつけたのは以下の選手。

白糸台の原村和、大星淡。

永水女子の十曽湧、石戸明星、滝見春。

千里山女子の二条泉。

平滝の南浦数絵。

晩成の新子憧、岡橋初瀬。

阿知賀女子の高鴨穏乃。

有珠山の真屋由暉子。

劔谷の森垣友香、安福莉子。

覚王山の対木もこ。


大体こんなあたりだろうか。

全員に当たるわけではないけど全員分の対策は考えておかないといけない。

かなり面倒くさ、骨の折れる作業だなぁ。

いっそ部長達にも手伝ってもらおうかな。








そして個人戦当日となったわけだけど、結局部長二人に手伝ってもらって私のお肌を守ってもらった。

ほら、この歳になると睡眠不足はお肌の大敵らしいから。

それに部長とかって分析とかできないとまずいじゃない。

だからその練習も兼ねている。








個人戦に出場するのは咲ちゃんと京太郎君と片岡さんの三人なので私たち4人は観戦である。

出場三人に多少注意するところを伝えているときに声を掛けられた。


「おもちの同士よ、ひさしぶり。」


「玄さん……お久しぶりです……」


「団体戦は残念だったね。」


ちょっと待って、何でいるの?

君高校卒業したよね?

その疑問を咲ちゃんが代わりに聞いてくれた。


「あの、何でここに?」


「私の高校の後輩を応援しに来ました!」


「あーもしかして高鴨選手?」


「そうです。」


そっかー応援かー応援なら仕方ないねー。

決しておっぱいを眺めにわざわざ東京くんだりまで来るわけないもんね。



「石戸選手は本当に惜しかったね……」


「ええ……」


……ないよね?








京太郎君を見送り咲ちゃんと片岡さんを見守る一団の中に傍らで松実玄がいる。

当然のように馴染んでいる。

しかもウチの後輩たちに胸の成長に関する雑学を語っている。

本当に彼女は何しに来たのか。

呆れながら思っていたが試合が始まるので意識をそちらに持っていった。

咲ちゃんや片岡さんが方々で奮戦している。

というか暴れている。


「穏乃ちゃん頑張って!」


もう一方で彼女が応援する高鴨穏乃はカーディガンを上に羽織った阿知賀女子の制服姿だった。

やる気満々の彼女、応援してるほうも熱が入っている。








試合が進み、南場に入ると何と無く感じていた松実玄に対する違和感の理由がわかった。

高鴨選手が試合中に突然こんなことを言い出す。


「すいません、暑いので脱いでも良いですか?」


審判がこれを承諾。

咲ちゃんも靴下を脱ぐこともあるしありえないことではない。

しかし暑くなるのがわかっているのならなぜカーディガンなんて暑苦しいものを着てくるのか。

ただ単に私の女子力が足りないだけなのかもしれない。

前にこーこちゃんがオシャレは我慢と言ってたし。

話が逸れたが高鴨選手がカーディガンを脱ぐと下に着ていたTシャツが顕わになる。

ブラウスではなくTシャツだ。

それも「松実館」のロゴと連絡先入り。


「よし! その調子だよ穏乃ちゃん!」


熱心に応援していたのはこれか。









「え、何で高鴨選手は貴女の実家のTシャツを着ているの?」


「それはですね……」


松実さんに話を聞いてみると今の阿知賀女子には麻雀部という物が無いらしく同好会止まりだったらしい。

部になるほどの部員を確保できなかったため急遽決まった全国出場に足りない分の予算申請が間に合わず(これは顧問がいないせいでもある。)自腹で東京に。

しかし一介の高校生にそんなお金がすぐに用意できはずも無く困ったところに先輩でもある松実館の次期若女将が。

自身も全国に出るとき同じパターンの苦労を経験したためか親身になって相談に乗り結果として松実館がスポンサーになった、というわけなのだ。





「しかし大丈夫かな……放送的に……」

「下手したらモザイク処理とかされるんじゃ……


「生中継と聞いたから映ってしまえばこっちのものです。」


そこまで計算の内か。

この子結構黒い。






更に時間が進み、別の相手と打っている咲ちゃんが映る。

どうやら今から始まるようだ。

相手は石戸明星選手・二条泉選手・真屋由暉子選手。

あれ、この三人って……

既に着いた三人の後に咲ちゃんが座り三人が反応する。


「げえっ! カンう!」


ジャーンジャーンジャーンってね。

ダンディな髭おじさんだと思った?

残念、咲ちゃんでした!

三人とも咲ちゃんの被害者だった。

更に言うなら私の教育の被害者でもある。

魔王式公文術。

赤(土)ペン先生と二分する教育。

ちょっと今思い付いただけだけどよく考えたら赤土さんこっちでは先生やってないや。










石戸選手と真屋選手、そして二条選手が結託して咲ちゃんを抑えようとしている。


「ツモ、2000・4000や。」


二条選手が先制でツモった後、咲ちゃんが深呼吸をして一言だけ言う。


「そろそろ本気出すね。」


まるでこれから駆逐するかのような宣言、卓を介した一同に緊張が走るのがわかる。

そして案の定咲ちゃんが和了る。


「ロン、8000。」


真屋選手への直撃満貫。

中々にきつい一撃。

そのままの勢いで咲ちゃんが連続で和了るのかと思いきや意外な人物が和了る。


「ロン、12000や。」


「え……?」


二条選手が和了った相手は真屋選手。

相手からしたらいきなり横からぶん殴られたような衝撃だったのだろう。

そのまま動揺が牌に伝わっている。


咲ちゃんが意外に思っているのか二条選手に話しかける。


「どうしたのいきなり? 二人を裏切って大丈夫なの?」


「だいじょうぶや、わたしはしょうきにもどった。」


二条選手裏切った!


「いやむしろなんで私をそこの二人の味方だと思うん?」

「私にとっても巨乳は敵や!」


成長したといっても貧乳から抜け出てないもんね。








そのあとは二条選手が溺れる犬を叩いて沈め咲ちゃんと一緒に連対(ワンツーフィニッシュ)を決めた。

一方の高鴨選手、先ほどとは別の試合に出ているが流石に審判がまずいと判断したのか「松実館」ロゴ入りのは駄目だと注意したらしい。

それを受けてから松実館シャツは着ていなかった。

そう、「松実館」シャツは。


「ふぅ~暑いなぁ~……あの脱いでもいいですか?」


「松実館の宣伝で無ければ。」


「はーい。」


出てきたのは高鴨選手のご実家のTシャツである。

きっちり実家を宣伝しているあたりこの子も大分ちゃっかりしてるね。






更にもう一方では片岡さんが奮戦している。

タコスを片手に奮戦している。

ウチの中で一番の良心って彼女じゃないかな。

咲ちゃんあんなんだし。

咲ちゃんに関してはまぁ人のことは言えないし、元凶が言える事でもないけど。







それから咲ちゃんや片岡さんは高鴨選手や原村選手・大星選手などと打って行き、全ての個人戦が終わった、

結果としては咲ちゃん一位、片岡さんが二位で三位に原村選手だった。

案外原村選手が健闘してたね。

とはいえアベレージ上では高鴨選手も大星選手も原村選手とはかなりの僅差だったので惜しかったといえば惜しかった。

悲しいことに一位には遠く及ばないけど。











男女共に個人戦が終わり表彰式典とかも終わった後はエキシビジョンマッチに突入する。

実は今回出張るプロを私は事前に知っていた。

一人は大沼プロ。

とあることが切欠で、以来一線を退いてシニアプロとして活動するようになったとはいえ未だに中高年からの人気が高いスタープレイヤー。

私もかつての打ち筋に憧れた。

一線を退いた原因でもある、病で倒れてからは今ではその打ち筋も鳴りを潜めてしまったが。

もう一人は三尋木プロ。

言わずと知れたトップランカー、京太郎君とはかなり深い因縁もある。

去年は別の仕事が入っていたらしく(ウチの佐久フェレッターズとの試合)出れなかったが一昨年の大会では京太郎君は惜敗している。

今年は京太郎君に咲ちゃん、そして大沼プロに三尋木プロのエキシビジョンが開かれる。





「部長、宮永先輩、頑張って来て下さい。」


「おう、任せとけ。」


「咲ちゃん、負けんなよ。」


「うん、わかってるよ。」


「京太郎君、咲ちゃん、行ってらっしゃい。」


「「行ってきます。」」


皆で京太郎君と咲ちゃんを送り出した。

生徒達を先に戻らせたあと、私は対局室の近くで待機していた。

少しすると大沼プロがやってくる。

お互いに知らない仲でもないので軽く挨拶をしたがまるで覇気を感じられない。

果たしてこの人は大丈夫なのだろうか?

打っている途中でポックリ逝かないか不安だ。

挨拶もそこそこに大沼プロは対局室に向かっていく。

そのあとには三尋木プロもやってきた。

こちらも知らぬ仲ではないので軽く挨拶を済ませる。





「どーも。」


「こんにちは、三尋木プロ。」


「今年は取らせてもらうよ。」


「ウチの子二人は強いよ。」


「ああ、わっかんねーと言い張りたいけど知ってるさ、小鍛治プロの教え子の強さは去年・一昨年と味わったからねぃ。」


「5年前は倒してくれ頼んだけど今年は頼まないよ。」

「頼まなくたって気持ちは変わらないでしょ?」


「当たり前だろ、この咏様が高校生相手に負けるわけにはいかないんだよねぃ。」

「ほら、あたしの沽券にも係わるじゃん?」


「負けず嫌いだもんね。」


「そういうこった。」

「っと、そろそろ行かないと爺さんたちが待ちくたびれちまう。」


三尋木プロはそういうと対局室に入って行った。

私といえば今度は実況室に足を向けて入る。

今回何故私が出場者のことを知っていたのか、その答えはこれだ。











「すこやーん、遅いよー。」


「ごめんねこーこちゃん、ちょっと話してたら遅くなっちゃった。」


「いいよ、教え子たちの最後のインターハイだもんね。」

「何か言いたくもなるよね。」


「うん。」


対局室から選手達の会話が聞こえる。

三尋木プロが京太郎君と話をしているようだ。


「よー、久しぶりだねぃ。」

「前よりは強くなったんだろうな?」


「ええ、貴女に負けないくらいに。」


そう言って京太郎君は卓にあった牌をひっくり返した。

牌は「北」だ。

そのあと何かを思い出したかのように京太郎君が席に着く前に咲ちゃんに忠告をした。


「咲、今からお前も含めて全員敵だ。」

「変に気を遣ったり手を抜いたりなんて無粋な真似すんなよ?」


「当たり前だよ。」

「むしろ京ちゃんは私が手を抜くと思っていたの?」


「いや、念のためだよ。」

「真剣勝負に水差されたら堪ったもんじゃないからな。」


そんな会話を見ていた三尋木プロが横から口を挟む。


「悪いけど今回も負けてあげられないかんねぃ。」

「特に今回は賞品がかかってるんでねぃ。」


「勝ちは貰いませんよ、奪いに行くんで。」


「言ってくれるねぃ。」


対局が始まるまで軽口を叩きながら火花を散らす中。

大沼プロだけが沈黙を貫いていた。











始まる対局。

親は咲ちゃん。

並べられた牌山から手牌を作っていく。

十二巡した後に声が上がる。


「ロン、16000だよん。」

「まずは景気付けの挨拶だ、粋だろ?」


『おっと三尋木プロ開幕に倍満ー!』

『須賀選手これは痛い!』


三尋木プロは口端を歪めて言った。

それにつられて笑顔の京太郎君。

振り込んだのにこの余裕。

次の局、親は三尋木プロ。

牌が配られてから三巡後に声が上がった。


「ロン、16000です。」


『今度は須賀選手の和了ー!』

『まるでお返しといわんばかりだー!』


火の鳥が喰らいに行った。

傷と、人を。

喰った本人が口角を上げて意地悪そうに言う。


「御返杯。」


彼の能力が使われて場の空気が暖まっていく。

結果的に点数は元通りだがお互いまだ小手調べだ。

だけど麻雀というのは4人でやるもの。

決して決闘のように相手だけを見ていればいいというわけではない。










「カン。」

「もういっこカン。」

「ツモ、1200・2300。」


『70符2飜のレア技ー! 宮永咲選手の華麗な和了りだ!』


卓上に花が咲く。

その一輪の花は綺麗だがどこにでも咲ける生命力と力強さが感じられる。

続いて東四局。

京太郎君の親だ。

咲ちゃんから奪われたのは1200点。

これと同じ点数はロンでは出せないので火の鳥は使えない。

そもそも何回も使うような技ではないが。

なので場を継続するなら自力で和了り続けないとまずいのだが……


「ツモ、3000・6000じゃね?」


『三尋木プロが今度は跳満で和了ったー!』









京太郎君の親被り。

当然子の0本場で6000点というピンポイントな点数は存在しないので火の鳥は使えない。

結構研究されているということだろうか。

何にせよ京太郎君の親は流されてしまった。

そしてそのまま南場に突入する。

南場に入った時点の点数は咲ちゃんが26700点。

三尋木プロが35800点。

大沼プロは19700点。

京太郎君は17800点。

今回半荘一回のみなのでここが折り返し地点だ。

その理由はシニアプロである大沼プロが加齢と持病の為、長時間対局できないとの事。

加齢か……私にも経験があるんだけど加齢臭って結構きつい。

臭いが染みるときつい。

加齢の臭い染み付いてむせる。

まぁ誰でも歳を取れば加齢臭くらいするよね、例え京太郎君でも最近須賀さんも香ってきたし。

これも炎のさだめかな。

でも大沼プロは何で今回出てきたのか。

先ほど三尋木プロが賞品が掛かっていると言っていた。

多分、ドラフト指名権だろうね。

毎年毎回競合するから事前に裏で決めておいてドラフトの枠を潰さないようにしているもんね。

照ちゃんと福路さんのときドラフト指名ひどかったし。

つまり揉めないというかスムーズに事を進めるために二名まで絞って勝った人が独占的にドラフト指名するということだろう。

話がそれたので閑話休題して一旦戻す。

南場に入り後半戦は熱を帯びていく。





「へいへい、このまま行ったらあたしの勝ちじゃね?」

「そろそろ本気出してくんね?」


あからさまな挑発。

トラッシュトークで平常心を乱そうということか。

更に三尋木プロが続ける。


「もしかしてあたしと会わないうちに弱くなったとかいうんじゃねーだろうな?」


「安心してください、俺は弱くないですよ。」

「弱い奴ってのはすぐに諦めたり投げ出したりする奴のこと。」

「逆に強い奴ってのはボロボロになっても最後まで諦めずに食って掛かる奴だ。」

「俺は俺と打ってきた奴を見てそう思いました。」


「諦めが悪いってことかい?」

「でもそれって男子のことだろう? 今や質の下がった男子のことを言われてもあたしにはわっかんねーし。」

「女子では技量と運を持っている奴が勝つんじゃね? わっかんねーけどさ。」


明らかに適当に言っている。

本人もそう思ってはいないのだろうけどあえての挑発だと思う。

京太郎君が何か言い返すかと思ったらそこに口を挟む老人が居た。








「麻雀に男も女も関係ない。」

「ここは雀卓で、点棒を奪い合うところだ。」

「強い奴が残って弱い奴は去る。」

「ただそれだけだ。」


「じいさん、それはプロとしての言葉かい?」

「それとも……」


「……さあな。」


言い淀んだ後、それ以上は何も語ろうとはしない。

京太郎君が仕切りなおして宣言していく。


「俺からも言いたいことは色々あるけど今は打牌で応えることにしますよ、だから……」

「一方的な試合になると思うなよ。」

「三尋木プロ。」

「俺の打ち筋、その目に焼き付けな。」

「チー。」


そういった京太郎君が鳴いた。

鳥が鳴くように。

そしてその鳥が羽ばたくように手を進める。


「ポン。」


京太郎君の切った牌を咲ちゃんが拾っていく。

槓材に仕立ててきたということか。


「チー。」


だが咲ちゃんが切った牌を京太郎君がまたもや鳴く。

鉄火の鳥が飛んで行く。

だがいつもとは少し違う。

加速の仕方がいつもと違う。


「ポン。」






加速。

加速。

更に加速。

加速し続けていく。

そこをすんなり通す相手でもない。

三尋木プロがリズムを狂わしていく。


「簡単には和了らせないよ、っと。」


「和了るぜ。」


「来させるわけ無いだろ。」


「いいや、来るね。」

「俺が引く。」

「チー。」


四回目のチー。

そして単騎待ちからの一巡後。


「ツモ、500・1000。」


和了った瞬間、対局室の室温が上がった気がした。

まるでこっちにまで熱気が伝わってくるようだ。

気が付くと卓の辺りは既に火の海になりかけていた。











続く南二局。

京太郎君の加速の仕方がいつもより早いことに気付いた。

そのいつもの差の理由がわからなかったが彼のビジョンを見て漸く理解した。

ジェット噴射のように噴出している炎に集中力や体力という名の燃料を更に注ぎ込んでいる。

これによって一度点火した炎が更に燃えて一段と加速が上がる。

つまり所謂アフターバーナーというやつだ。


「チー。」

「ポン。」

「ポン。」


加速。

加速。

更に加速。

加速し続けていく。

誰も追いつけないほどの加速をしていく。


「ツモ、1000・2000。」









六巡以内のツモ、かなり速度だ。

南三局に入っても続く。

加速。

加速。

更に加速。

また加速し続けていく。

逆巻く炎で相手が動けないところを彼は加速していく。

そして空気の壁にぶつかる。

音の壁にぶつかる。

そこからも尚も加速していく。

折り返し鍛えてきた技術の鉄が鎧となって守ってくれた。

それが風除けにもなり、空気抵抗を減らしてくれる。


そのうちやがて、音の壁を突き破る。

今まで邪魔になっていた風が武器になる。

その衝撃波が辺りを吹き飛ばす。

京太郎君、よく諦めずに頑張ったね。


     この空
今、卓の制空権は紛れも無く君のものだよ。


「ツモ、2000・4000。」











オーラス
南四局。

このまま加速している状況で行けばまず勝てる状況だ。

だけど京太郎君の持ち点は31800点。

三尋木プロは31300点。

容易にひっくり返せる点差だ。

空を取ったからといって油断は出来ない。

何せ相手はプロと女子インハイチャンプなのだから。

だけどもこの加速は簡単に止められるものではない。


「チー。」


「! ポン!」


京太郎君が鳴いた後に三尋木プロが鳴く。

これで加速はすこしは抑えられると考えたのだろうか。

咲ちゃんもそれに合わせて手を進めて行ってる。

だけどこのままだと京太郎君が和了ってしまうだろう。

既に十二分に加速している京太郎君を抑えるのは並大抵のことではない。

だがそれをやってのけようとする人が居た。









「五月蠅い蠅だな。」


そういった老人がオカルトの幻影を見せ付ける。

ハットを被り、スーツを着た男がトンプソン機関銃を構えて鉄火の鳥に向かって撃ち放つ。

まるで映画に出てくるギャングやマフィアのような格好だがばら撒いた弾丸が鉄火の鳥に当たり墜ちていく。

そしてそれは周りをも巻き込んだ。


「ツモ、2000・4000。」


和了宣言と共に開かれる手牌。

大沼プロお得意の多面待ちだった。

久々に見た大沼プロのBarrage(弾幕)。

相手を追い込むような手腕から今まで潜って来た場数の多さと老獪さが窺える。

オーラスを和了った老人が言う。


「あまりロートルの身体に鞭を打たせるな。」


貴方のような老人がどこにいるのかと言いたい。

少なくともこれで油断出来ない相手だと京太郎君たちはわかっただろうね。