夢乃さんが戻ってきてやや興奮気味で語る。

初の公式試合で買ったのだから仕方ないといえば仕方ない。


「マホ勝っちゃいました!」

「みなさんのおかげです!」


「ちゃんと見てたからわかってるじぇ。」


「マホの初勝利祝いだ、後でなんか奢ってやるよ。」


「本当ですか!? やりました!」


「京太郎、ついでに私の分も奢ってくれ!」


「自分の分くらいは自分で払えよ。」


はしゃぐ夢乃さんに悪乗りする片岡さんに漫才をし始める京太郎君。

そんな中何とも言えないオーラを放つ女子が一人。

原因はわかってるんだけどね。


「……むぅ。」


また咲ちゃん(の出番なし)かぁ……(個人戦選手が)壊れるなぁ……

流石に脹れっ面になった咲ちゃんに何も言わないのは可愛そうなので話しかけてみることに。


「咲ちゃん、出番なかったね。」


「別に皆を信じてたから問題ないし……」

「私が出るまでもないだけだったから気にしてないし……」

「いや、ほんと、別に気にしてないし……」


それにしては妙にプルプルしてるね。

これはあれかな、咲ちゃんも決め台詞を考えていたけど出番がなかったから空振ったから震えているのかな……

咲ちゃんが若干池田ァみたいな口調になっていたのは置いといてお菓子を買い与えておいた。

多少は機嫌がよくなったようである。

さて、次の週末は個人戦だね。

それまでの間は練習をするか息抜きするかどうしようかな。











学校の放課後、来る個人戦に向けて休息をとるか練習をするか部室で悩んでいるときに部員達がやってくる。

正直悩んでいるので生徒達に投げようかと思う。

生徒が望むなら練習しても良いし毎年の恒例になりつつあるプールに行ってもいいのだ。


「練習とプール、どっちがいい?」


「私はプールかな? 毎年行ってるし。」


「私はどっちでもいいじょ。」


「私は先輩達に合わせます。」


「私もです。」


「マホも行って良いんですか?」


「勿論だよ。」

「あとは部長さんの意見次第だけど。」


そう言って京太郎君に意見を求める。

夢乃さんは目を輝かせている。

少し悩みながら京太郎君は口を開く。


「俺は別に練習でも「え?」……息抜きは必要だからプールに行こうか。」


女性陣の声が被った気もするけど最初から京太郎君はプールに行くつもりだったはずだ、きっとそうに違いない。

部長なのに発言力がないって辛いね、でもウチは女所帯だから仕方ないね。







「持ち物はどうします? 俺が適当に見繕っても良いですか?」


「それは良いけど何で自動卓に手をかけているのかな?」


「ちょっとプールで打とうかと。」


「京太郎は少しくらいは息抜きするべきだじぇ。」


「俺は24時間365日いつでも打てるぞ。」


「おい誰かあの麻雀馬鹿を止めろ。」

「そうだ、咲ちゃんの幼馴染だろ、早く何とかするんだじょ。」


「京ちゃんがああなったのは健夜さんの責任だから健夜さんが止めるべきだと思うんだよね。」


「え、私!?」


案の定私にお鉢が回ってくるわけで。

ダメだと言って軽く窘めて諦めさせた。

それでも京太郎君は麻雀をしたいのかマットと牌をを持っていこうとしていたが私が止めた。

全く、プールに全自動卓持っていこうとするひと前代未聞……

いや……そういえば居たね、一人……

しかも結局現地で係員さんに怒られてた人が……

プールに自動卓持って行くのはあの子だけで十分だよ……







生徒たちを車に押し込んで出発する。

然しもの京太郎君も麻雀を取り上げれば大人しくなると思ったのが甘かった。

私が運転していると後ろから声が聞こえてくる。


「部長、カード麻雀持ってきたんですか……」


「おうよ、インターハイが久しぶりの大会だからどうも気合が入っちゃって。」


「気合入れるのはいいけど空回りしないでよ?」


「そうだじょ、空回りならまだしも相手を再起不能にするなよ。」


「お前らと一緒にすんなよ、俺は割りと良心的な雀士だっての。」


「え?」


「え?」


その「え」は何の「え」なのか気になるけどそろそろ車がスポーツランドに着くし、そもそも話を伸ばしたら私にまで飛び火しそうなので流しておく。

そしてスポーツランドで水着に着替えるときに注意しておくことがあった。

この中では一番スタイルのいい私ではあるが少々体の肉付きが全体的に増えているので気になるところではあるが其処は亀の甲よりなんとやら。

体をぎっちぎちに締めて寄せて上げて全身(主に腰周りと背中)から持ってきた余ったお肉を胸に集中させる。

これでワンサイズカップ数が上がるのだ。

ただし咲ちゃん達みたいに痩せている子はこれをやっても効果は薄い。

まあ何にせよ今回はパーカーで隠さなくても良いかもしれない、代わりに激しい運動はできないけど。











寄せて上げて上げ底して胸を増量した後は皆でプールに向かう。

皆去年とは違う水着を着ていて女の子らしさが際立つ。

しかし咲ちゃんはぎりぎり大丈夫だけど夢乃さんと片岡さんは一部の方々には受けそうな体型だこと。

ただし一般受けはしない面子であるね。

プールに着くと去年とは違うパーカーを着た京太郎君が待っていた。


「お待たせ。」


「パーカー要りますか?」


「今回はいいよ。」

「それよりも私達の姿を見て言うことがあるんじゃないの?」


私が京太郎君に話を振ると皆の姿を確かめる。

まず最初に目が合った夢乃さんがこういう機会が無かったのか恥ずかしそうに京太郎君に声をかけた。


「マホの水着はどうですか?」


「ああ、かわいいよ。」

「水着もマホに似合っているしな。」


「やったー!」


厭味や含みを持たせずさらっと褒めるあたり彼らしい。

褒められた夢乃さんも普通に嬉しそうだ。

それを見ていた加藤さんも期待して視線を送る。

視線を受けた京太郎君も直ぐ様褒めだした。








「ミカもその水着似合っているな、とても綺麗だ。」


「ありがとうございます。」


褒められた加藤さんがにっこりと微笑んだあと、後ろに振り返ったときに然り気無くガッツポーズをしていた。

そんなに嬉しいのかな?

流石気遣いが出来る男は違いますね、だから部長をやらされているのかもしれないけど。

それはそれとして若干リップサービス感が否めないけどそれが彼の処世術なのだろう。

多分に私達のせいではあろうけど。

続いて副部長こと室橋さんに移ったときだった。

室橋さんは徐に京太郎君に進言する。


「あ、私は良いので先輩方を見てあげてください。」


「おう、と言っても勝手に俺に評価されるのも気分良くないだろう。」


「いえ、そういうわけではないですけど。」

「その、余計な恨みは買いたくないので……」


何となく理解した。

京太郎君は恨みを買うような人物ではないのに、と不思議そうな顔をしている。

確かに室橋さんは良い子だし恨みを買うような人物ではないね。

でもそういうことじゃないんだよ、人間は。





続いて咲ちゃんと片岡さんがポージングを取りながら京太郎君に見せ付ける。

一昨年の副会長君なら泣いて喜びそうではある。


「どう? 京ちゃん、似合う?」


「どうだ京太郎? 私の水着に発情したか?」


「え? ああ、いいんじゃねぇの?」

「似合ってる似合ってる。」


「何だその雑さは!?」

「ムロやミカやマホはちゃんと褒めたくせに!」


「そうだよ京ちゃん! 私去年より成長しているんだから良く見てよ!」


「ははは、わりーわりー。」


軽口叩けるのが付き合いの長さを物語っている。

仲のよさも。

彼らの夏は今年で最後だけど付き合いは今年で最後ではないだろう。

私も良い友達がほしいよ、主にスク水と猫耳を勧めてこない友人が。

まぁ軽口は叩けるけどね。






京太郎君が準備体操をしてパーカーを脱ぐと夢乃さんが京太郎君の背中を見つめている。


「須賀先輩!」


「ん? ああこれか?」


「かっこいいですね!」


夢乃さんは目をきらきらと輝かせながら言い放つ。

なんか夢乃さんって人とずれてるよね。

京太郎君は夢乃さんの言葉に対してあっけらかんと返している。


「だろ?」

「一生もんの思い出だぜ?」


「まるで天使の羽みたいでかっこいいです!」


「ありがとな。」


のりのりだね、あの二人。

何にせよやっぱり京太郎君はあまり気にしてないんだね、火傷の事。

周りが思っているより結構楽観的なのかもしれない。






いよいよ泳ぎだすというとき、私はふととあることを思った。

ここで私が泳いだら溢れんバストが水着からポロリしてしまうのではないのかと……

流石に私と言えどもポロリしても大丈夫なほど女を捨ててはいない。

なのでちょっと様子見。

決して動くと疲れるからではない。

きっと加藤さんたちの「ドキ! 女子麻雀部員だらけの水泳大会! ポロリもあるよ!」がおきてしまう。

だからあえての様子見。

おお、くわばらくわばら。

それからしばらく様子見をしていると案の定事故が起きた。


「せんせー! ミカが溺れて心肺止まりました!」


「やっぱりかー、京太郎君蘇生お願い。」


「はい。」


手慣れているけどやっぱりおっかないものである。

息を吹き返した加藤さん曰くもう少しでプールを泳いでる途中で三途の川を泳ぐところだったらしい。

危なかった……もう少しで加藤さんの命がポロリするところだった……





その後も明らかにわざと溺れた加藤さんを助けながらもプールを楽しんでいた。

一頻り楽しみ、一旦休憩に入ると通路の向こうから見覚えのある顔ぶれがやってきた。


「きょーたろーではないか、久方ぶりだな、息災だったか?」


「ええ、衣さんこそどうですか?」


「うん、大学に行ってるよ。」

「父君のような国文学者を目指しているところだ。」

「時折衣のことを迷子と間違える無礼な輩も居るが大学生活は概ね快適だ。」


そりゃそうだろうよ、御付の人も保護者も居るんだし、しかもあの容姿だから取り巻きも出来ているかもしれない。

それに多分大学も龍門渕の息が掛かっているんだろうなぁ。

それからしばらくの間、京太郎君と天江さんは喋っていたが二人してどこかに行ってしまった。

もしかして保護者(VIP)のところに行くのかな?












京太郎君が天江さんと一緒に消えてから十数分。

気になった加藤さんが後を追っていった。

しかし加藤さんが出て行ってから時間が経っても戻ってこない。

中々戻ってこない二人を心配した片岡さんも探しに出て行く。

だけども片岡さんも中々戻ってこなかった。

そして更に探しに行った部員が次々と一人、また一人と姿を消していく。

明らかにおかしいと思った私は最後まで残っていた咲ちゃんと一緒に生徒達を探しに廊下を歩く。

ひたひたと廊下を歩いていく。

辺りには人の気配は無く、また物音もしない。

私達は以前教えられたVIPルーム場所を記憶を頼りにして進む。

およそVIPルームと思しき場所が見つかった。

龍門渕さんの趣味らしい華美な装飾が施された扉がある、多分間違いなくここだろう。。

私達はその扉をノックして開ける。






其処にはタコスを貪る片岡さん。

そして別の場所では京太郎君と天江さんと夢乃さんと龍門渕さんが卓を囲んでいる。

どうやら加藤さんと室橋さんもローテーションで入っているらしい。


「あ。」


「あ、じゃないよ。」

「人を放って置いて何楽しんでいるの……」


「いやー、衣さんと一緒に卓を囲んだら何時の間にか時間が。」


「はあ……まったく……」


折角の休息だと言うのに。

心配して損した。





完全に私達のことを忘れていた生徒達を説教を食らわせた後、執事さんやら龍門渕さんやらに挨拶してお邪魔させてもらった。

タコスを食べ終わった片岡さんが卓に入り打っている。

そういえば片岡さんも今年で三年目か。

二年とちょっと見てきたけど一年生の頃と比べて大分腕を上げたね。

多分インハイ全国の雀士では相手にならないレベルまで仕上がっている。

だけどもそれでもまだ上を目指す、二人に追い付く為に。


「立直だじぇ。」


片岡さんがどれだけ頑張って来たか知っている。

上級生や京太郎君と咲ちゃんに追い付く為に必死で練習していたのを私は知っている。

私だけじゃない、三年生は一緒に打ってきたのだ、二人ともちゃんとわかっている。


「ツモ、8000オールだじぇ。」


まだ気が早いかもしれないけどインターハイが終わった後も練習していけばオリンピックにも出られるかもしれない。

少なくともオリンピック強化選手候補には選ばれると思う。

片岡さんから見れば上は遥かに高いだろうけど人生は長い。

なのでこれからの成長にも期待していこうかな。






咲ちゃんは夢乃さんに先輩風を吹かせながら調子に乗って打っている。

その天狗のような鼻を手折ってやろうかと思うくらいドヤ顔がすごかった。


「そういえば宮永先輩は決め台詞をどうするつもりだったんですか?」


「あ、聞いちゃう? 聞いちゃうか~、仕方ないなー。」

「ちょっと次和了ったときに言うね。」


「ありがとうございます!」


「わたくし達の前で簡単に言ってくれますわね。」


「割と簡単ですから。」

「ほら、カン。」

「嶺上ツモ、1000・2000。」


そう言って笑顔で咲ちゃんは応対する。

苦虫を噛み潰したような顔をした龍門渕さんを置いといて咲ちゃんは咳払いした後。

決め顔で夢乃さんに視線を送りながら決め台詞を言う。


「絶望をその身に刻め。」

「……なんてね。」


「わー! 宮永先輩かっこいいです! マホ憧れちゃいます!」


「そんなに言われると照れるよ~。」


これは調子扱いてあとで布団でジタバタするレベルですね。

卓に着いてない京太郎君ですら他人の振りをしてる。

あともうちょっと主人公っぽい台詞にならなかったのかな。

せめて悪役っぽくない台詞にしてほしかった。






打ってる途中途中京太郎君が創作タコス(地雷)を作って執事さんと話していた。


「これ俺的には結構当たりだと思うんですけど皆からは不評で。」


「これは人を選ぶフルーツですので無難な味にするか臭いを徹底的に抑えるかしないといけませんね。」


とか言っている。

多分この間の合宿のときに作ったフルーツタコスだろうね。

でもアレはない。

正直無い。

味的にも臭い的にも。

それから打ったり遊んだり食べたりして遊んでいた。

まだ夏前とはいえ早くも日が暮れてきたので挨拶してその場を去ることにした。

天江さんは片岡さんや京太郎君と今生の別れをするかのように別れを惜しんでいる。

何と言うか微笑ましいね。








皆を車に詰め込んで送り届ける途中、皆疲れたのか車内で眠ってしまっている。

唯一起きているのは助手席に座っている京太郎君だけだ。

何と無しに会話をする、皆眠ってしまうと私が退屈なのだ。


「京太郎君、今日はどうだった?」


「楽しかったですよ。」


「そう、いい息抜きになったね。」

「……インターハイ今年で最後だね。」


「ええ、負けられませんよ。」


「大丈夫だよ、学生で君達に勝てるのはまず居ないから。」


「敵は学生だけじゃないですよ。」

「それに今年は絶対に負けたくないんです。」

「勝ってしたいことがあるんで。」


「そっかー。」

「ちなみにそのしたいことってなに?」


「えっと、それは……」

「……その時まで秘密ですかね。」


「秘密かー残念だなー。」


「大丈夫ですよ、その内わかりますから。」

「多分健夜さんびっくりしますよ。」


「んー? じゃあ期待してようかな。」


そんなくだらない話をしながら車を揺らして生徒を送り届けた。







皆を車に詰め込んで送り届ける途中、皆疲れたのか車内で眠ってしまっている。

唯一起きているのは助手席に座っている京太郎君だけだ。

何と無しに会話をする、皆眠ってしまうと私が退屈なのだ。


「京太郎君、今日はどうだった?」


「楽しかったですよ。」


「そう、いい息抜きになったね。」

「……インターハイ今年で最後だね。」


「ええ、負けられませんよ。」


「大丈夫だよ、学生で君達に勝てるのはまず居ないから。」


「敵は学生だけじゃないですよ。」

「それに今年は絶対に負けたくないんです。」

「勝ってしたいことがあるんで。」


「そっかー。」

「ちなみにそのしたいことってなに?」


「えっと、それは……」

「……その時まで秘密ですかね。」


「秘密かー残念だなー。」


「大丈夫ですよ、その内わかりますから。」

「多分健夜さんびっくりしますよ。」


「んー? じゃあ期待してようかな。」


そんなくだらない話をしながら車を揺らして生徒を送り届けた。










来る個人戦の県予選。

男子一位はどうやっても出来レースになるので割愛するけど女子の方の個人戦はちょっとわけが違う。

総合力だったら咲ちゃんの方が上なのだけど東風のみだったら片岡さんに分があるのだ。

去年までだったら東風戦だとしても咲ちゃんが本気なら勝っていたかもしれないけど片岡さんだって必死に練習してきたのだからどうなるかわからない。

と言っても後半からは半荘戦になるんだけどね。

だけどそうなると咲ちゃんと片岡さんが全国出場枠に入ったとして残り一人がどうなるかだ。

もしかしたらウチの高校からではないかもしれない。

夢乃さんはおいといて加藤さんと室橋さんは良い線行っているとは思うけど今年の三年生がすんなり通してくれるかどうか……

現シニアプロ南浦聡プロの孫である平滝高校の南浦数絵選手。

かなり特殊なオカルトを持った鶴賀学園の東横桃子選手。

女子団体戦にも出ていた風越女子の文堂星夏選手。

ウチ以外の三位候補をざっと挙げればこんなものだろうか。






「じゃあ行ってきます。」


「おう頑張って来いよ。」


「京ちゃんも油断しないでね。」


生徒達が軽く会話を交わしてそれぞれの戦場に赴いて行く。

私はそれを見送り、観戦席でのんびりと見守る。

安心して試合を見ていられるあたり皆成長したんだなと思える。

のんびりしているとふと後ろから気配がした。


「靖子ちゃん?」


「よく見もせずに私だってわかりましたね。」


「え、だってカツ丼の臭いがしたんだもん。」


「……そんなに臭うかな?」


そう言いながら靖子ちゃんは自分の服とかを嗅いでいた。

間も無くしてから二人して席に座って観戦を始めた。

疑問に思ったことを口にしてみる。


「ところで靖子ちゃん、どうしてここに?」


「後輩の様子を見に来てたんですよ。」

「っとそんなことより咲の試合始まるみたいです。」


「あ、本当だ。」


基本的に同じ学校の人間同士が同卓になることは少ない。

もしそうなったら露骨なアシストが横行が出来るからだ。

だが今回は面倒臭い事に咲ちゃんの相手の一人が片岡さんだった。

その脇を固めるのは文堂選手に東横選手。

いきなり県予選できつい勝負が始まった。







「優希ちゃん、同じ学校だからって手は抜かないからね。」


「咲ちゃん、余裕抜かしてるのも今のうちだじぇ。」


「私も居ることを忘れないでほしいっす。」


「私のことは忘れてくれてかまいません。」


「文堂ェ……」


そうして始まる東風一戦目。

先制はやはり片岡さんだった。


「立直!」


「ポン。」


片岡さんの宣言に合わせて咲ちゃんが鳴く。

これで一発消しと巡目をずらした上、咲ちゃんは加槓の準備を出来た。

しかしそれでも片岡さんの勢いは止まらない。


「ツモ、門断平・赤ドラドラ! 6000オールだじぇ!」

「さぁ、続いて一本場行きますか!」


結果として一発と一盃口が消えたので跳ね満止まりだった、咲ちゃんが止めてなければ倍満になっていただろう。

そのままの調子で片岡さんは行くつもりだろうけどそう簡単には事は進まない。






「もっかい立直だじょ!」


「カン!」


一回目のカン。

嶺上開花するにはまだ足りない。

そのまま牌を捨ててドラをめくる。

咲ちゃんが先ほど明槓した二索だ。

しかもカンしたことによって片岡さんの勢いが完全に殺されている。

片岡さんは当たり牌を引けずにツモ切りする。


「カン。」


咲ちゃんは自順にツモった牌で暗槓をする。

暗槓した牌は二筒。

捲られたドラ表示牌は一筒。

これで倍満確定。

そして嶺上牌をツモり宣言。


「嶺上ツモ、嶺上開花・ドラ八・三色同刻。」

「6000・12000は6100・12100。」


三倍満ツモ。

槓ドラもろ乗りの恐ろしさである。





その後も激烈な点数争いをするもほかの二人が同時にトんで終了。

片岡さんは勢いを殺されて二位に甘んじた。

とは言っても50000点オーバーだが。

ちなみに咲ちゃんは55000オーバーである。

後半の二次予選に入れば点数はリセットされるけどトんだ二人は結構頑張らないと二次予選に行けないんじゃなかろうか。

今日一日の個人戦で咲ちゃんと片岡さんに当たった人はご愁傷様です。

出場人数がかなり減っているのでウチの高校以外はほぼ当たっているはずだけど。


「それにしてもすごいですね。」

「あれだけ強かったら並みのプロじゃ歯が立たないですよ。」


「誰が顧問やっていると思っているの?」


「世界一位の小鍛治健夜プロですね。」


乗ってくれるあたり靖子ちゃんはやさしい。

こーこちゃんも乗ってくれることは乗ってくれるけど更に余計な追加をしてくるからだ。

そして靖子ちゃんと話している内にあっさりと前半が終わり、お昼になったので食堂に向かうことになった。

人が少ないからか食堂はそれなりに空いていた。




「あれ? 靖子さんも来てたんですか?」


「ああ、ちょっと様子を見にな。」


「俺たちの応援ですか?」


「まぁそれもあるんだけど……」

「それより早く昼食を取ろうお腹が空いて仕方ない。」


私達はそれぞれ適当に食事を取った。

会話でタコスがどうのカツ丼がどうのと食べているものの話をしている二人に京太郎君が巻き込まれていた。


「京太郎、今度カツ丼タコスを作ってくれ。」


「カツ丼にタコスって……」

「タコスはいいですけどカツ丼は作ったこと無いですし手間掛かりそうですよね。」


「この際カツ丼は出来合いのものでもいい。」


「でもカツ丼用意したらしたで靖子さんカツ丼はカツ丼で食べちゃうでしょう?」

「カツ丼タコス用意してカツ丼も用意しろって……」


「京太郎、日本にはいい言葉がある。」

「『それはそれ、これはこれ。』だ。」


「にほんごってたのしーなー。」


若干諦めモードに入っている京太郎君、年上の女性には逆らえない性分なんだね。

仕方ないね。









後半の二次予選始まる。

今回人が少ないので一日で個人戦を終わらせるつもりなのだろう。

どうやら二次予選では解説が付くようだ。

私は再び生徒達を見送って観戦席で靖子ちゃんと一緒にポップコーンを食べながらスクリーンを見ていた。


「女子個人戦の解説をする宮永照です。」


「よろしくおねがいします。」


ああ、靖子ちゃんがいた理由がわかった。

後輩というのは京太郎君たちじゃなくて照ちゃんのことだったのか。


「靖子ちゃん、今日解説にに来たのって照ちゃんだけ? もしかして福路さんも居る?」


「ええ、福路の方は男子個人戦の解説に回ってますよ。」


「そっちかぁ。」

「二人とも弁が立つわけじゃないけどちゃんと能力や戦略が見極められるし理解しているから解説には向いているのかもね。」


「福路は言わずもがなですけど照も営業モードに入ればそこそこには愛想がよくなりますよ。」

「これも健夜先生の教育の賜物ですかね。」


「かもね。」


私はそう返すとまたポップコーンに手を伸ばす。

そういえばさっき食べたばっかりなのにこんな油っぽいものを食べたら後で節制しないといけなくなる。

剣呑剣呑。

男子は観戦しなくてもわかるのでやっぱり割愛。

女子は案の定咲ちゃんと片岡さん確定の候補はウチの残りの女子部員と文堂選手・東横選手・南浦選手である。

残り一枠を巡って六人が奪い合う。











スクリーンを眺めてると試合が始まる。

最後のインターハイとなると流石に気迫が違う。

後半から鬼気迫るように追いかける南浦選手とずっと気配を消して機を窺う東横選手。

三位争いは実質この二人かな。

しかしかたやポップコーン片手に試合観戦してる女とカツ丼の匂いが染み付いた女。

女子力が足りない二人が並んでいて余計男が寄って来なさそうである。


「うーん、やっぱり南浦プロの御孫さんの方が有利ですかね。」


「そうだね、ただ何が起きるかわからない分東横選手からも目が離せないけど。」


まぁどちらが勝ってもウチの子二人が全国に行くからどうでもいいのだけれど。

全国でも咲ちゃんと京太郎君が男女で優勝だろうしなぁ……









で、全試合が終わりましてざっくりと結果を言うなら咲ちゃん文句無しの一位で+356。

二位片岡さん+258、三位は+143で南浦選手。

ちなみに京太郎君は+395だった。

鬼か。

何にせよ全国予選は通過出来たので夏休み明けまで余裕が出来ました。

ここからきっちり生徒を鍛えないとね。









夏も中頃、外は茹だる様な暑さの中、私達はクーラーの効いた部室で麻雀を打っていた。

最近めっきり強くなって簡単には心臓を止めなくなった加藤さんに多少のことでは動じなくなった室橋さん。

錯和が無くなりオカルトの幅が出てきた夢乃さんに今一番の気合の入っている片岡さんが卓に入っている。

咲ちゃんネト麻していて、私は監督をしていて、京太郎君は部長としての雑事に追われていた。

私は生徒達を眺めていたが突然加藤さんがこんな事を言い出した。


「牌が見える……」


室橋さんは若干怪訝な顔をしているし夢乃さんの頭の上には疑問符が浮かんでいる。

だが私は即座に理解し、そして加藤さんに聞いてみる。


「どの牌が見えるの?」


「山にある五萬・五筒・五索です。」


ついにその領域に辿り着いたのかと私は安堵した。

ガン牌に近い能力。

これがあるのと無いのでは違ってくる。

プロの能力の中ではこういう能力も少なくない。

というより厳密には「能力に沿った牌の感知が出来る」と言った方が正しいのだろうか。


「ミカもわかるようになったのか。」


「多分キー牌は5牌だね。」


京太郎君と咲ちゃんもさらっと言ってのける。

先輩方による突然のカミングアウトに目を丸くする室橋さんと加藤さん。

まぁそれが普通の反応だよね。

咲ちゃんは更に続ける。


「私は王牌とその付近の牌がわかるよ。」


「だから咲はよく嶺上開花を出すんだよな。」

「俺は大体は拾う予定の牌はわかる。」

「最初は一索だけだったけど途中から他の牌も見え始めたんだよな……」








京太郎君が感慨深く言っているが君達にいつの間にそんなことになっていたのか。

私の教育方針が間違ってなかったという証明のはず。

ちなみに私が前に言った麻雀は囲碁や将棋みたいなものだというのはこういうことである。

それは例えるならば開始時にランダムで数目碁石を置かれる囲碁やルーレットで駒が増減する将棋に近い。

運だけではどうにもならず。

理屈だけでもどうにもならず。

技量だけでもどうにもならず。

能力だけでもどうにもならない。

それが私達の麻雀である。



まぁ私に到っては全部見えるんですが。









頭を抱えている室橋さんは置いといて練習を進める。

加藤さんだけ特別練習である。

世界一位とマンツーマンだよ! よかったね!

空いたところに咲ちゃんを入れて私と加藤さんは濃密な練習をする。

時折京太郎君も混ぜて練習するけどそのときに限って能力に振れ幅が出ていた。

おや? おやおやぁ? これはもしかして?

無粋な勘繰りは一旦置いといてこの後無茶苦茶練習した。











またある日、それは室橋さんの練習を見ていた日だった。

最近は加藤さんと夢乃さんの底上げが急務だったので他の人に比べて室橋さんの練習につけてなかったけどそこは三年生がカバーしてくれていた。

流石我が教え子達というべきか。

京太郎君が練習プランを考えて咲ちゃんと片岡さんが手伝いをするといった感じで進んでいた。

部長としての責任感からかそれとも生活と共に身に付いた物なのか知らないけど京太郎君は教えることに長けているようだ。

京太郎君は基本的にぐいぐい引っ張るタイプではなく、皆に合わせて歩む性格だけど時には強引に事を進めることもある。

彼が部長になってよかったと思うよ、本当に。

そんな彼がみんなの前でこんなことを言い出す。


「なぁ、今日の夜にお祭りあるんだけど皆で行かないか?」


「いいね、去年は行かなかったんだっけ。」


「去年はインハイ間近で練習不足だったから仕方なかったんだろ。」

「その分染谷先輩が気を遣ってくれただろ。」

「でも今年は夏祭りに行って一旦息抜きでもしようと思ってな。」


「染谷先輩には感謝してるじぇ。」

「だから今年は私ら最後の夏祭りになるんだから今回は目一杯楽しむじょ!」


「あ、片岡さん、数学の追試あるって担任の先生が言ってたよ。」


「じぇじぇ!?」


「お前また赤取ったのかよ。」


「おかしいじょ……会心の出来だと思ったんだがなぁ……」









案の定片岡さんはKONOZAMAだよ。

幸いにも日程の関係で夏祭りは参加できそうだから可哀想な事にはならないけど。

それでも先輩として格好が付かないね。

それから部活を早めに切り上げてみんな一時帰宅する流れに。

私はある程度仕事を片付けると急いで家に戻り浴衣に着替えることにした。

が、家に戻ったところで電話が鳴ってしまった。

学校からのラブコールで内容は仕事の追加が入ったんだって、モテる女はつらいね。

私は京太郎君たちに連絡を入れて祭りにいけないことを謝って急遽出来た仕事に取り組む。

ああ、なんでこんなときに限って仕事が入るんだろ。

公務員だから? 教職員って結構ブラック企業染みてるんだよね……やりがいはあるけどさ。

仕事を放り出したい気持ちを抑えて仕事をやっつける。

何とか終わらせた頃にはオレンジ色だった外も今ではどっぶりと濃い紺色に浸かっている。

今頃皆は祭りを楽しんでいる頃かな。

今から祭りに向かっても多分皆のところには間に合わないだろう。

こんなことなら残業確認をするべきだったが後の祭りである。

そう思いながら何となく部室に足が向かう。

何となくというよりは部室の窓から花火でも見えたらなぁって思ってのことだ。

しかしまだ打ち上げの時間ではないようで暇を持て余す。

仕方ないから帰りにお酒でも買って帰るかと考えて部室を出ようと思ったら不意に扉が開く。


「あ、居た居た。」


「あれ、京太郎君お祭りは?」


「ちゃんと楽しんできましたよ。」

「それでこれはそのおすそ分けです。」

「俺たちだけで楽しむのも申し訳ないし。」


そう言って京太郎君は屋台のたこ焼きやら焼きそばを寄越してくれた。

私はお礼を言って食べ物を口にするのはいいが気になることがあった。





「咲ちゃんたちはどうしたの? 花火も見に行ってたんでしょ?」


「ああ、途中で靖子さんや照さん、美穂子さんと会いまして。」

「それでその三人に咲たちを任せてきました。」


「靖子ちゃんや福路さんは安心だけど照ちゃんは不安だなー。」


何て事無い会話を交わして屋台の出物を食べる。

何でお祭りの焼きそばってこんなに美味しいんだろうね、雰囲気かな?

御腹も落ち着いて飲み物を口にしていると窓のほうから幽かな明りが差す。

その直後遠くから花火の音が聞こえてきた。

音がするほうに目を向けると夜空に大輪の花が咲いている。


「始まったみたいですね。」


「花火なんて一昨年ぶりだね。」


私たちは窓辺に近付き花火を眺め始めた。

しばらく流れる空気を振るわせる花火の音。

京太郎君がポツリと零す。


「俺たち今年で最後なんですよね。」


「うん、そうだね。」


「もしかしたらこうやって花火を見るのも今回で最後かもしれない。」


「そうかな? また見ようと思えば見れるよ。」


「だといいんだけどなー。」


やっぱり三年生最後というのは感慨深くなるものだ。

今後の進路によってはもしかしたら離れ離れになる可能性も無きにしも非ずではある。

とはいえ集まろうと思えば案外集まれるものである。

会おうと思えば会えるものだ。

だからそこまで気にする必要は無い、はず。

あとは心の問題かな。

会えることより会いたい気持ちのほうが大事なのである。









更に暫くすると花火も打ち終わり、夜空に静寂が戻った頃に部室の扉が再び開く。

今度は強めの訪問だった。


「楽しんでるかー!?」


「あ、京ちゃんたちやっぱりここに居たんだ。」


「屋台でカツ丼がないのが納得いかない。」


「まぁまぁ。」


ぞろぞろと入ってくる、生徒と福路さんと照ちゃんと靖子ちゃん。

面食らってしまった私と京太郎君。

マイペースに進める他の人たち。

思わず聞いてしまった。


「何で皆がここに?」


「やっぱり屋台の食べ物は皆で食べたほうが美味しいんだじぇ!」


「皆で楽しみたかったんで。」


「カツ丼頼むついでに染谷と久も呼ぶか。」

「あ、お酒買ってきたんですけど飲みます?」


本当にマイペースである。

学校にお酒とか仕方ないなぁ。

ここは先生として没収せねば。





そのあと染谷さんやら竹井さんが来た上で靖子ちゃんが酔い始めて収拾が付かなくなっていた。

こういう景色を見てると先生やっていてよかったと思う。

ビバ教師。

ちなみに次の日が休みだからといって羽目を外し過ぎて二日酔いなったのは内緒である。

尚、京太郎君には見抜かれていて朝ごはんを作っていただきました。






そして満を持して迎えるインターハイ全国の舞台。

今回も多少学校から予算に色を付けて頂いているのでボロッちい民宿に泊まらずに済んだ。

当然今回も教師・男子・女子の部屋はバラバラに取ってある。

有名になったので警戒はしておくべきだろうしね。

今回プロ達には釘を刺しているか大人たちはちょっかい掛けないだろうけど。

でも餓えた狼が襲わないからと言って鳥が啄みに来ないとは限らないので用心するに越したことは無いのだ。

部屋に荷物を置いた後一度女子部屋に集まる、そしてミーティングを始めた。

まずは団体戦でのおさらいをする。

初日に抽選会をするのだけれどウチはシードなので基本的に動かず突っ立って眺めるだけだ。

そしてそれが終わり二日目になるといよいよ本番である。

抽選会の結果次第ではあるけど女子団体戦ではトーナメント形式で二位以上が上がっていくので一緒に進出する相手校を選ぶのもまた重要な要素だ。

と言ってもウチの戦力だったら敵は居ないからどこと一緒に上がっていこうが関係ありませんけどね。

対策もばっちりと取ってあって抜かりも無いし。

そこから一日おきにAブロックとBブロックの対局が始まって最終日にAB両方の一位と二位の優勝争いで団体戦は幕を閉じる。

要するにいつも通り。

団体戦が終わると個人戦が始まる。

男女共に日程は同じである。

そして男女の個人優勝者はエキシビジョンマッチとしてプロとの対局が催される。

一番の目玉と言うか一番視聴率が良いのでTVもこれが目当てになってる部分もある。

このときばかりは猫も杓子もこーこちゃんも注目するのだ。

こーこちゃんはハイテンションなだけだけど。

大体のおさらいをするとこんなものだろうか、と言っても全国が初めて夢乃さん以外は知ってるはずなので問題ないでしょう。

ああ、あとは試合が無い日に遊ぶときとかに羽目を外し過ぎないように釘を刺しておいた。

念入りに釘を刺しておいた。










休みの日に何するか計画を練っている生徒達をよそに私は先生としてやることをやっていた。

主に手続きとか挨拶回りとか。

挨拶回りのほうは相手側の方から来るんだけどその相手と言うのは大会関係者であったりプロチームのスカウトだったりであるわけで。

大会関係者からは頼むからあんまり無茶苦茶しないでくださいと懇願されたり。

スカウトに関しては言わずもがなだけど、アレクサンドラ監督とか熊倉さんとか大沼プロとかも会いに来てくれる。

というか臨海の監督が何してるんですかね。











翌日の抽選会。

開会式が終わった後に行われる抽選会に参加していたのだけれど清澄はシード枠なので何もすることが無い。

とは言え出場校のチェックとかしないといけないので参加しているわけだけど……


『大生院女子、三番です。』


「うわあぁぁぁぁ! 皆ごめんよおおぉ! ごめんよおおぉぉ!」

「部長! しっかりしてください! 貴女は悪くない!」

「そうですよ! 来年がんばりましょう!」


清澄はAブロックの一番シードである。

そこに近い番号を引いた高校はご覧の有様であり引いた瞬間の阿鼻叫喚や絶望の表情が出た後の御通夜モード。

そのあとに慰め合いが入るのはどこも同じようだった。

Bブロックの活き活きとした表情。

Aブロックの半ば諦めたような表情。

まるで天国か地獄かをくじ引きで決めていた状況である。

DEAD OR ALIVEの意味が「生か死か」なのか「生死問わず」なのかはウチの子達(主に咲ちゃん)の気分次第である。










抽選会を終え、軽々とした気分でご飯を食べに行くことにした私たちではある、が。

会場に設けられた食堂でとある人物と出会った。


「あれ? のどちゃーん!」


「優希? やっぱり今年も来てたんですね。」


「おうよ! 今年は個人戦も団体戦も張り切るじぇ!」


「あ、サキー!」


「淡ちゃんも久しぶりだね。」


「今年は負けないからね、何と言っても今年は300年生分の実力だから!」

「ウチはBブロックだから決勝まで会えないけど待ってるからね。」


「うん、私も楽しみにしてる。」


仲のいいことですね、素晴らしき青春ですこと。

私には高校生活に青春は無かった。

訂正、高校生活だけじゃなかった。

心の中の自虐は置いといて生徒達は適当に話して食事を取って解散だった。

夢乃さんと原村選手が仲良くしていたのは意外だったけどネットで知り合った仲らしい。

ああ、そういえばそんなこともあったね。










二日目からいよいよ試合が始まる日ではあるけどシードなので何も無い。

ついでに言うなら明日はBブロックなので今日明日は何も無い。

生徒達に関しては割と自由にさせていた。

練習するもよし、のんびりするもよし、観戦や友達の応援に行くもよし、観光するもよし、各々好きにやらせても問題なかったはずだった。

だが、京太郎君が私に練習したいと言ったときに片岡さんがそれに乗っかり加藤さんと賛同して咲ちゃんも参加して……といった具合に結局全員で練習することになった。

そして三日目の夜、女子部屋に集まって女子団体戦対策会議を行う。


「これが明日戦うことになる対戦校だよ。」

「わからない事があったら言ってね。」


生徒達が配られた資料を読み始める。

その間に眉間に皺を寄せる人物が一人。


「京太郎君、そんな顔してどうしたの?」


「いや、この場に俺要りますかね?」


「京ちゃん部長だから。」


「俺男子なんだけどなぁ。」


「細かいことを気にすると禿げるじょ。」

「それに女子の部屋に入れるなんて役得だろ?」


「いい冗談だな、衣さん風に言うなら片腹大激痛だ。」


「その喧嘩買ったじぇ。」


「優希ちゃん、私も参加するよ。」


「先生、先輩方が遊び始めましたけど良いんですか?」


「いつものことだから気にしないでいいよ。」


団体行動を乱す行為はよろしくは無いけどいつもと違う環境にある夢乃さんに緊張を与えないようにしているのは何となくわかる。

上級生が余裕を持っておれば下級生は安心できるからそういういつも通りに見せている、あの三人は場慣れしているからだろうけど気遣いの余裕が違うね。

今一番意気込んでいるのは三年生のはずなのに。









対策会議が終わり解散となったが女子達はまだ京太郎君を帰す気はなさそうだ。

私もその輪に加わりお喋りとかしていたけどティーンエイジャーの中にアラサーサーティーはきついと思うんだ。

私にキャピキャピ感なんてないし。

そのあとは皆部屋に戻り寝ることにした。

だが私の部屋に訪れる人物が。


「どうしたの京太郎君。」


「健夜さん、嫌な予感がするのでここに退避させてください。」


「え、なにそれ。」


仕方がないので隣のベッドを貸すと京太郎君はすやすやと眠りだした。

完全に安心しきってますね。

それより嫌な予感って何だろう。

不思議に思ったがそれは翌日に判明することとなった。


「京太郎、昨日はどこにいたんだじょ……」


「俺に何か用があったのか?」


「夜食にタコスを作ってもらおうと思ったのに……」


「私は先輩の部屋に遊びに行きたかったんですが。」


どうやら加藤さんと片岡さんが彼の部屋に遊びに行こうとしていたらしい。

だが不在だったのですごすごと戻ったとの事だ。

多分咲ちゃんは京太郎君の行き先を察してはいたけど敢えて彼女たちに言わなかったんだろうね。

理由は多分面倒くさいから。

恐るべし京太郎君の危機察知。












来るべき四日目。

今日から私たちの団体戦が始まる。

今日当たる高校は永水女子と千里山女子と臨海女子。

昨日の会議の話なるが結局残す高校は大将である咲ちゃんの気分次第という結論に至ったわけだけど……

何故か今日勝ち上がる高校が大体わかってしまったあたり悲しいなぁ。

試合の時間が近付くと片岡さんが元気よく控え室から出て行く。

出て行く際に片岡さんはこう言って行った。


「別にトばしてしまっても構わないのだろ?」


「やめてあげてください死んでしま「構わないよ優希ちゃん」す……すみません、なんでもないです……」


「じゃあ行って来るじぇ!」


京太郎君は途中まで何か言い掛けていたけど咲ちゃんのインターセプトにより阻止されてしまった。

京太郎君の要望が通るわけ無いじゃない。

彼は肩をがっくりと落とし、とぼとぼと歩いてソファに腰掛けてぼそりと呟いた。


「あとで画像をもらおう、そして玄さんに贈ろう……」


懲りない男である。










気になる先鋒戦の相手はハオ・ホェイユー選手と滝見春選手である。

千里山の選手はあまり知らない選手ではあるが印象としては地味であった。

先鋒戦の始まりに片岡さんが賽を回すボタンを押しながら周りに宣言する。


「悪いがここから先はずっと私の親番だじぇ。」

「貴様らの乳はいらん! 点だけ置いてけ!」

「ダブル立直だじょ!」


啖呵を切った直後のダブル立直。

ここから片岡さんの独壇場である。


「ロンだじぇ! 9600!」

「ツモだ! 4000オールは4100オール!」

「ツモ! 8000オールの二本付けだじょ!」


そこからの勢いは止まらず結局のところ永水女子を目の敵にしてトばしてしまった。

決勝に進出したのは千里山女子である。

終わった片岡さんは満足そうな顔をした後一言だけ呟いた。


「悪は葬ったじぇ……だが何故か、最後のロンはせつないじょ……」


それはきっと世の中の巨乳を駆逐しても自分の胸が大きくなるわけではないからだと思うよ。









そして意気揚々と戻ってきた片岡さんとは対照的に意気消沈した京太郎君は「ムンク」の「叫び」みたいな顔をした後、携帯電話をいじって誰かと連絡していた。

彼は譫言(うわごと)の様に「石戸選手が……石戸選手が……」と頻りに呟いていた。

仕方ないね。

永水女子は敗退しちゃったんだもんね。

まぁ、どうせ10分くらい経過したら立ち直るからそっとしておこう。