エキシビジョンが終わり、瑞原はやり(29)から変な言葉がでてくる。


「これで京太郎君はウチのものだね☆」


「「……は?」」


咲ちゃんと京太郎君、それに控え室で観戦していたメンバーが揃って口にしている。

それほどまでにミルコクロコップばりの「おまえは何を言ってるんだ」状態なのだ。

それに異を唱えたのが一人。





「待って!」


「なにかな? 理沙ちゃん☆彡」


「キツイ!」

「じゃなくて!」

「ずるい!」


「え~? でも~、はやり勝っちゃったし~☆」


「よくない!」


「……え? なに? なにかのどっきりなのかこれ?」


アラサープロ二人がみっともなく言い争い、当事者は突然の事に思考停止、女子王者は米噛みに青筋を立てながら表情を凍りつかせている。

だけどもアラサーは尚も続ける。





「彼はこっち!」


「ダメだよ、大宮に来てもらうんだから☆彡」


「あの、俺の意思は……」


「京太郎君! 大宮に来ようよ!」

「今ならピッチピチのお姉さんが待ってるゾ☆」

「何なら今からでも高校を辞めてプロとして働いても良いんだし★」


「! ダメ! 九州に来る!」

「大沼プロ! 私と待ってる!」

「九州の未来、京太郎君に懸かってる!」


「おじいちゃんよりはやりみたいな女の子の方がいいよね☆」


「ええ~……」






自チームに対する勧誘に必死すぎる二人にドン引きの京太郎君。

自分の意見を述べようにも口を挟ませない勢いである。

この二人何が何でも首を縦に振らせたいらしい。

でも京太郎君にはちゃんと意思があるし、なにより高校を中退してほしくは無い。

それは人生の先輩としても、そして彼らの麻雀の先生としても、教師としても、保護者としてもだ。

だから二人の強引な勧誘は私にとって眉を顰めるものであり、憂慮すべき事態である。

つまり何が言いたいのかと言うと、いい大人がしている事に対し、「私はそれを我慢できない。」








私は控え室を後にして局の放送を止めるように指示を出して対局室に移動する。

対局室では今も尚、言い争ってる。

何となく男子戦力として貴重だし希少だから彼がほしいのは分かる。

でもやっぱり許せない事はある。

越えちゃいけない線はある。

彼らの未来は彼らが決めることであって大人が無理に歪めていい物ではない。

そういう思いを込めてアラサー二人に言ってあげた。



 大人   子供
「プロが、一般人を巻き込まないでよ。」






とりあえず二人には色々と話して反省してもらうとして、大沼さんはどうするかと思ったがあの人はご老体なので無茶はしないことにした。

というかのらりくらりと躱される。

伊達に長くは生きてないわけだ。








尚、お話したあと矢吹ジョーみたいになった瑞原はやり(29)と野依プロに詳しく聞いたところ何か色々と頭の痛い勘違いをしている事が分かった。


「すこやんばっかずるい! はやりだって若い男の子と触れ合いたい!」

「はやり今年で29で後がないの!」

「だからちょっとくらい唾を付けたっていいじゃない!」


29で焦って結婚してその後離婚した例を知っているんですけどそれでもいいのかな……

一方の理沙ちゃんは結構違った考えを持っていた。


「男の子貴重な戦力!」

「彼がいれば男子は安泰! だから欲しい!」


今の男子プロには所謂花形がいない、そこに京太郎君みたいな若くて華のある打ち方が出来る子が入ればほぼ男子プロの人気を独占できるだろう。

試合前に大沼さんと話していたのは多分こういうことだろうけどそれにしても急すぎる。

いや、もしかしたら九州組二人は一年位前から考えていたのかもしれない、酒の場でプロ達の前で京太郎君の話をした時点で。







とりあえずプロに釘をさして置いたから暫くは大丈夫だろうけど京太郎君の将来が心配ではある。

何せ彼はしっかりしてるようで女に弱くて人が好い性格だから。

そう思いながらみんなのところに戻って夕ご飯を食べる事にした。

何故か松実玄も一緒に。

だから彼女は何故ここにいるのか。

ホントしれっと混ざるよね、この子……

自由時間には二人でトレーディングカードゲーム(おっぱい系)で遊んでいた。

そのあとは写真(去年や今年のインターハイの)を見ながらあーでもないこーでもないと論じている。

その後には呆れて何も言わない染谷さんとゴルゴ13に変貌した咲ちゃんが佇んでいた。

そんな中、空気の読めない片割れである松実玄はとある発言をする。


「このおもちは出来損ないです、揉めないのです。」


はっは~ん、わかったぞ。

さてはこの子、アホの子だな?

弘世選手の写真を見ながら言った松実玄を見てそう確信した。

そういえば別の世界の話だけど弘世選手に関して噂があった。

実はPADなのではないのかと。

出所は不明だけどさ。

誰かが言った彼女は「借りおもちのスミレッティ」というあだ名に怒っていたね。

誰だろうね、おもちなんて言い方は一人しか知らないけど、誰だろうね。










エキシビジョンが終わった日に皆と一緒に夕飯を取り、その後の懇親会という名の飲み会に誘われた。

去年も行ったのだが正直面倒くさい。

だけどこれに出なくなったら本当に物臭な女になってしまう。

なので生徒達にはそこそこの時間で戻ると伝えて出かけることにした。

京太郎君も染谷さんも室橋さんもいるので幾らなんでも問題はおきないだろう。








私が集合場所に着くと飲み会は既に始まっていた。

元プロである千里山女子の愛宕雅枝監督。

正式に姫松の監督となった赤阪監督。

臨海女子のアレクサンドラ監督。

本来なら今年からプロになっていたはずの赤土晴絵プロ。

あとはやらかしたプロ二人にアラサーアナウンサーとか無理に動かしたら危なそうなシニアプロとかとか。

そして私に声を掛けたのは……


「健夜さん、こっちこっち。」


「あ、照ちゃんに福路さん、二人とも来てたの?」


「私達も御呼ばれしちゃいまして。」


「分かってるとは思うけど二人は飲んじゃダメだからね?」


「わかってる。」


「私も付いてますから。」


「うん、任せるね。」


靖子ちゃんが返答してくれた。

社会人になったとは言え照ちゃんも福路さんも未成年である。

何か拍子で飲んでしまったらとても面倒くさい。

二人とも……福路さんはしっかりしてるし靖子ちゃんもついてるから大丈夫のはず。

少し気になることがあったので老婆心で聞いてみた。


「そういえばそっちの仕事の方は大丈夫だった?」

「三尋木プロのチームと対局してたって聞いたけど。」


「概ね大丈夫でしたよ。」

「照の奴も福路も期待以上の仕事をしてくれましたし。」


「そう、それならいいんだけど。」


「……小鍛冶さん何かお母さんみたいですね。」


「まだそんな歳ではないんだけど……」

「ただ二人とも小さい頃から面倒見ていたからそういうことが気になるだけで……」





私が何となく若さをアピールする為に言い訳してると照ちゃんたちが寄ってきた。

一体何事かと思ったら何の事はなかった。


「健夜さん、お菓子がない。」


「居酒屋にお菓子は無いと思うけど。」


「……騙された。」

「美味しいものいっぱい食べて良いって言われたから来たのに……」


まさか誘った人もこの子が御菓子狂いだとは思わなかったんだろうなぁ。


「……カツ丼置いてないのか。」


こっちもか。

ウチの事務所でまともなのは私と福路さんだけだね。

頭を抱えているとふと外から聞こえた音が耳に入る。

救急車のサイレンの音が聞こえた気がしたけど……まさかね?







監督達やプロと飲んでいてお酒がある程度入るとこんな話が出てきた。

それは昼間の騒動にも関係してくる話なのだけれど知らない人は知らないだろう。


「そういえば小鍛冶プロ、須賀君のことなんやけど、進路どないするとか言うてました?」


「あ、それ私も気になるわ~。」


その話が出ると明らかに空気に変化を生じさせた。

皆気になるところではあるということなのだろうか。


「京太郎君はまだ二年生ですよ。」

「進路とかまだ考えてないんじゃないですかね。」


適当に流して別の話題に移してしまおうと思ったけどそうは問屋が卸さない。

関西のおばちゃ……お姉さん方はなんでか気にしてるようだった。


「今度ウチんとこに練習試合しに来てくれへんかなって。」


「なんやったら姫松のとこにもきてほしいわ~。」


「まぁそれなら考えておきます……」


「お願いするわ~。」


赤阪監督にお願いされた後、愛宕監督が割りと小声で聞いてくる。


「あ、そうそう、須賀君って彼女持ちやったりします?」


「いえ、そういう浮いた話は聞いてませんね。」


「やったらええんやけどな……」

「……はぁ。」


あ、愛宕監督の顔が私が三十後半に入った時のウチのお母さんと同じような表情をしている。

結婚はもう諦めたんだろうなっていうときの親の顔、中々にきつい。

四十越えるとマンションとか保険とかさ、勧めてきたりして……

ん? ということはもしかして京太郎君を自分の子供の婿候補にする為に聞いたのかな?

大丈夫ですよ、私の経験上お宅の娘さんは憎たらしいことに二人とも結婚できてました。

ウチの子に唾なんか付けなくても将来安泰ですよ。







ふと周り見るとついさっきまでいたはずの行き後れ共が見当たらない。

もしかしてと思い、照ちゃんたちに話を聞くと先に帰ったのだという。

私は嫌な気がして靖子ちゃんに後の事をお願いしてホテルに戻ることに。

現在私達が泊まっているホテルは関係者以外立ち入り禁止になっている。

つまり保護者か引率者、または学生しか入れないはずなのだが……

私がホテルについて息を整えていると入り口に制服を着た人が三人ほどいた。

その三人は警備員に堂々と嘯いている。


「君達は?」


「……17才学生です。」


「17才学生だよ☆」


「17才! 学生!」


「よし、通っていいぞ。」


ここのセキュリティがザルじゃないかな!? あと29歳が制服着て12才鯖読むのは無理があるよね!?

アラサー三人の行動を見張りつつ移動すると一人が愚痴っている。


「何で私がこんなことに巻き込まれてるんだろ……」


「まぁまぁ☆ これも何かの縁だよ★」


「一蓮托生!」


うん、変装していても誰が誰だか分かるね。

キツイプロに緊張して単語しか喋らないプロ。

その二人付き合わされている赤土プロ。

しかもよくよく野依プロの格好を見るとおかしなところがあった。

バイーンと膨らんでいる胸部。

これ絶対に入ってるよね? み○らじゅんもびっくりなレベルで胸に何かが入ってるよね?

完全に食品の偽装表示ですね。

しかも賞味期限も偽装している始末。

ダメだこいつら早く何とかしないと。





「何してるのかな?」


「……げ、すこやん。」

「何でここに……」


「私は巻き込まれただけなんです……」


「瑞原プロが主犯!」

「私達巻き込まれた!」


「あ、はやりを売ったね!?」

「理沙ちゃんだってノリノリだったのに★」


「私は完全に巻き込まれたんですけど……」


ぐだぐだと文句を垂れる赤土プロに主犯瑞原と言い逃れようとする野依プロが揉め始める。

正直お酒の入った頭では考えるのが面倒くさいので一言言ってあげる。


「まぁまぁ揉め事は後にして。」

「とりあえず私の部屋に行って打とうか。」


三人は観念したのかがっくりと項垂れて私に着いて来た。



   このあと
   滅茶苦茶
   徹夜麻雀した。





















結局あのあと二人ほどリタイアさせて御帰り頂いた。

赤土さんをリタイアさせなかったのは主犯じゃないことを鑑みて。

あと二人を運ばせる為。(これが主な理由)

そのあとは適当に生徒達の様子を見て床に就いた。

生徒達(松実玄も何故か居た)は若干羽目を外していたが頑張ったから大目に見てあげよう。



翌日、私達は車に乗って長野に戻った。

照ちゃん達は靖子ちゃんの運転する車で帰るらしい。

去年はプロ一人に対して三人で挑んで負けたけど。

今年はプロ二人に挑んで片方に勝った。

照ちゃんと福路さんも今回のタイトル戦で三尋木プロと戦って成長したみたいだ。

皆少しずつ進歩してるね。

長野に戻り、少しするとインターハイ後の処理がある。

新たな部長・副部長の誕生、そして染谷さんの引退、それに伴っての部長引継ぎ。

元々副部長だった京太郎君が部長に繰り上がり、室橋さんが新たな副部長になった(事前に私と京太郎君と染谷さんで相談していた)

正式に決まると部長、副部長として挨拶する。


「え~っと、新たに部長になった須賀京太郎です。」

「もう少しタメ二人がしっかりしてくれりゃ俺の負担が減るんだけどそこは諦めた。」


「何だ? この優希様に文句があるのか?」


「私はちゃんとしっかりしてるよ!」


「うっせ、そう思うんならもっとしっかりしろ。」

「今年から一年間部長として頑張るんでよろしくな。」


片岡さんと咲ちゃんの野次に反論しながら京太郎君は続ける。

京太郎君が軽めの挨拶を済ませると片岡さんが声を上げた。






「じゃあ、京太郎、新たに部長になったところでタコスを作ってくれ!」


「早速パシリじゃねぇか!?」


結局そのあとぐだぐだな空気の状態で室橋さんが挨拶して終わった。

京太郎君と室橋さんと染谷さんが話す。


「部長って要は面倒臭い事を引き受ける役目ですよね。」


「そうとも言うのう。」

「ま、上手くやりんさい。」

「わしや久が通った道じゃ、京太郎達にも出来るじゃろ。」


「だといいんですけどね。」

「ま、何かあったら頼りになりそうな先生と新副部長に手伝ってもらいますよ。」


「え、私もですか!?」


「おうよ、当たり前だろ?」

「頼むぜ、"室橋副部長"?」


「……私、大丈夫かな……?」


何かあったら"頼れる大人である私"に相談してくれたまえ。

困ったときは手を貸してあげるよ。

そんなこんなで交代と引継ぎが終わって新たな世代に入ったわけである。




染谷さんが引退してから色々新人戦とか国麻とか他校との合同練習とかやっていたり。

細々としたイベントには事欠かなかった。

更にそれから少しすれば秋も過ぎて雪が降り始めるような時節となる。

毎年この時期になると憂鬱になる、何故なら要らぬ歳を取るからだ。

今年で29歳の誕生日、今年で最後の二十代。

結局今年も浮いた話一つなかった。

ああ、無常。

侘しい人生を送るのは嫌ではあるが相手がいないことにはどうしようもない。

唯一の救いなのは周りに教え子がいて祝ってくれることか。

あとで須賀さんにちょっと愚痴でも聞いて貰う為に酒盛りしに行こうかな。

酒の肴は京太郎君に作ってもらう前提だけど。





更にもうちょっと経つと正月がやってきた。

今年は実家に帰るかどうか悩みながらも帰らずに居た。

何と言うかやばいから。

主にお母さんからの「あんた早く結婚しなさいよ」オーラが。

29と30の差には絶大な差があるんだけれどそれを超えて結婚というプロセスを通して家庭を築くことなんてなかった。

というか毎回死ぬときは孤独に死ぬ。

人間死ぬときは一人だ、何回か死んで悟りました。

だから私は結婚しないの。

結婚出来ないんじゃなくてしないの。

別に結婚しなくても幸せは見つけられるもん。

旦那が見つかんなくたって子供作れなくたっていいじゃん、それだけが幸せじゃないよ。

ただ、人間死ぬときは一人だけど。

そんなことを須賀さんに愚痴を言いながら正月を過ごした。

……何と言うか須賀さんには申し訳ない。






正月が過ぎ、冬休みも明けて染谷さんの進路も決まるとなるといよいよ持って何もすることがない。

厳密に言えば教職員としての仕事はあるんだけれど顧問としてあんまり手がかからない状況なのだ。

京太郎君が後輩に(と言っても後輩は二人しかいないけど)麻雀を教えながら上手いこと部長として働いているからだ。

染谷さんにしても竹井さんにしても、部長業はそつなくこなしていたけれど京太郎君の場合は私に手間が掛からないように動いてくれていた。

全く持って先生思いのいい生徒である。

後輩の指導にしても感覚派である咲ちゃんや片岡さんに比べて京太郎君は割りと理論派なので(私がそういう風に育てたのが原因)きっちり説明しながら教えることが出来る。

というか二人が教え下手なので京太郎君に皺寄せが来てるだけなんだけど。

「勢いでドーンと行けばいいじぇ」とか「まずここで槓材がくるから」とか人と違う前提を出されてもどうしようもない、人に合わせて指導しないと……

まぁ、何と言うか一流のプレーヤーが一流の指導者になれるとは限らないと言うことだね。

逆もまた然りだけど。








そして迎える卒業式。

染谷さんはあっけらかんとして自身の後輩達と話している。

片岡さんや室橋さん、それに咲ちゃんは結構感情を抑えることなく目に涙を浮かべて話しているけど加藤さんや京太郎君は平静に努めているようだ。

咲ちゃんや片岡さんでも別れを惜しむレベルで面倒を見てくれた人。

それが前部長、染谷まこと言う人物だった。

恐らく人徳のなせる業なんだろうね。

貴女はきっと将来良いお嫁さんになるよ。

何はともあれ卒業おめでとう、染谷さん。







さてさて、加藤さんと室橋さんが二年生になり、京太郎君達が最上級生になって新たな新入生がやってくる。

例の如く今年も部員の確保に躍起になっていた。

染谷さんが卒業して今女子は4人なのだ、団体戦に出るにはあと一人足りない。

部員不足に悩まされるのは毎年のこととは言えこれは死活問題である。

何故こんなに苦労するのか。

名門校とは言えないけども女子団体戦は二連覇。

個人戦に到っては京太郎君と咲ちゃんで男女でも二連覇だし、照ちゃんのも含めれば学校として三連覇。

人が集まらないのは何が原因なんだろうか。

やっぱり今年も頑張ってアピールしないといけないのかな。

そう思いつつ頑張っても結局惨敗するわけで。

もしかして私、知名度が足りないのかな?

そんなことはないよね、私ってば結構有名だよね。

なら一体何が悪いのか、未だに原因が分からないままだけど。






「先輩!」


「ん? おお、確か夢乃さんだったか。」

「ウチの高校に来たのか。」


「はい! マホは頑張って清澄に入りました!」


私がやたら悩んで今年は皆で何の着ぐるみを着ようかと考えて部室に入ると、そこには一昨年の合宿に室橋さんと一緒に参加していた子がいた。

今その子が京太郎君と話しているが少しもじもじしながら聞いてくる。


「それでですね……麻雀部に入りたいんですけど……」


「おう、いいぜ、ウチの部はいつでも部員歓迎だ。」


やった! 部員一人確保だよ! これで変な着ぐるみを着ないで済むね!

よくよく思い返したら着ぐるみ作戦を発案したのは私だったけど。

結局そのあと皆で着ぐるみを着て部員勧誘したけど新入部員は結局夢乃さんだけだった。

何で人が集まらないの? 何がいけなかったの? 着ぐるみ? 着ぐるみのデザイン?

それとも咲ちゃんが自虐でぬりかべとか言ったから? 私がアラサーだから?

もし運命の神様がいるなら一発引っ叩いて来たくなるレベルだった。





「何はともあれ新入部員が入ったね。」


「ええ、これで今年も女子は団体戦に出れますね。」

「男子は未だに出れないけど。」


「もう、京ちゃん、腐らないの。」


「わかってるって、ただ言ってみただけだって。」

「ま、一回くらいは団体戦を経験してみたかったって気持ちはあったけどな。」


京太郎君の気持ちは分かる。

同性の人間がいないこの部で上手く立ち回れているのは京太郎君の不断の努力とコミュニケーションがあるからだ。

その中で少しくらい気を許せる同性の友達とか欲しかったんだろうね。

それに咲ちゃんたちの団体戦を見てきてるから自分もやってみたいという気持ちもあっただろうし。

ともあれいないものは仕方ない、無いものねだりしても出てこないものは出てこないのである。






新しく入ってきた夢乃さんを加えて初の部活動。

時間がないので実力を測るのと同時に強化を施すことに。

卓は片岡さん・室橋さん・加藤さん・夢乃さんの四人に着いて貰う事に。


「カン、ツモです。」


彼女の対局を見ていて大体分かった。

見た感じ夢乃さんの能力は真似することらしいけど、これには問題が何点かある。

まずは錯和。

これは夢乃さんがうっかりしてるせいか能力のせいか分からないけどよく少牌・多牌などの錯和をしでかす。

次にコピーの限界度。

これは強力なオカルトを真似した時になるんだけど、真似する対象のオカルトがあまりに強力すぎると制限が掛かるようだ。

単純にオカルトに対するセーフティなのかそれとも単に技術不足なのかは分からないけど訓練次第でどうにでもなると思う。

その次はコピーの持続時間。

これは半荘に一局分しかコピーできないという欠点だ。

これの問題は片岡さんや咲ちゃんみたいなオカルトならばいいけど京太郎君や照ちゃんみたいな継続して使うタイプのオカルトの真似には向いていない。

別にそこまで問題ではないけど一応欠点ではある。

最後にコピーの回数。

先ほど問題と重複するけど半荘に一回しか真似しきれないということ。

つまり半荘で一回使ったらそれでお終いなのである。

ここの部分を何とかしない限り実戦運用は難しいだろう。







その後夢乃さん専用の対策を練って練習に組み込んでみる。

と言ってもいつも通り大会まで時間がないので合宿する予定になった。

出来れば合宿中に皆仲良くなって欲しいけど本の虫娘がどう親交を深めるのかが心配だ。

まぁ何とかなるよね……?








やってきた夢乃さんを加えての初合宿。

今回も例の如く京太郎君に手伝ってもらって車に荷物を詰め込む。

こういう時男手って重要だよね。

部長自ら荷物運びしてるのはどうかと思うけど。

ともあれ今年で三回目で慣れてきた合宿所の山道。

例え京太郎君と片岡さんと咲ちゃんが修羅場ごっこしていても気にならなくなった。

三人が最上級生になったので上の押さえが私しかいない。

なのでそこは副部長さんに頑張ってもらおう。

頑張れ室橋副部長さん。





合宿所にあっさり着くと室橋さんを部屋で休ませる。

室橋さんは立ったり座ったりしていたせいか車酔いでぐったりしていたのだ。

一休みして室橋さんの体が休まると特訓を始める。

休ませている間京太郎君が用意してくれたPC(私の私物)で三年生組はネトマ。

二年生二人と夢乃さんは卓でがっつり指導です。

時たま三年生が交代して入ったけど基本的には夢乃さんの猛特訓。

全員で寄って集って夢乃さんの指導。

ネックになるところは今の内に強化しておかないと。






「はい、一旦お昼休憩に入ろうか。」


「あうぅぅぅ……」


時刻はお昼になり一区切りと掛けた号令が緊張の糸を弛める。

長い吐息とともに倒れこんだ夢乃さん。

ぷしゅうと音を立ててそうな雰囲気だ。

最初は錯和(ちょんぼ)してばかりだったけど今では大分改善されて10半荘に一回程度になった。

まだ不安ではあるけど1半荘に一回やらかしていた時に比べて大きな進歩。

この調子でもっと頑張ろうか。

だがその前に昼食を取ってそのあとお風呂に入ろう。

お風呂に入るのは恒例行事だから仕方ない。

昼食を取り終えたあと女子皆で脱衣所に向かう。

その間京太郎君は留守番をしながらネトマをしている模様だった。

私達が脱衣所に着くと私はあることに気付いた。

染谷さんが抜けてしまったことでこの中で一番胸が大きいのが私になった。

若干ウェスト周りは怪しいけどそれでも一番プロポーションがいいんじゃなかろうか。

前のプールの惨劇を教訓に節制したのが功を奏したようだね。


「うわー、先生、大人の体です……」


「え? そうかな。」


夢乃さんが私に対して言ってくれた言葉が嬉しい。

いやぁ、まいったなー、大人の貫禄見せ付けちゃったよー。







清澄麻雀部で一番スタイルがいい女教師こと小鍛治健夜はお風呂から上がって部屋に戻ると京太郎君は暇を潰していたようだ。

麻雀部一のプロポーション持ち主である私は聞いてみる。


「あ、お帰りなさい。」


「京太郎君ずっとネトマ打ってたの?」


「いえ、途中からチャットしてたんですよ。」


「へぇ~誰と~?」


何の気なしに聞いてみた会話。

だがお相手は意外な相手だった。


「のどっちです。」


「え? もしかして原村選手?」


「ええ、二年のインハイ終わったあとの秋大会にメルアドとか交換したんですよ。」

「『一年の時に励ましてもらったお礼です』って言われましたよ。」


「なんと言うか人脈が着々と……」

「麻雀する度、友達増えるね……」


「はい、本当にそうですよね。」

「練習試合とかインハイとかで友達増えましたね。」


まぁ私は麻雀する度友達減らしたけどね。

京太郎君と私達、どこで差がついたのか。








京太郎君の話はまだ続く。


「で、実はさっき判明したんですけど玄さんと龍門渕さんも同じタイミングで打ってたらしくどうやら同室だったみたいで。」

「それで話が盛り上がっちゃって……」


ヤバイ、京太郎君からリア充オーラが発せられている。

このまま私達喪女予備軍が当てられ続けたら日光を浴びた吸血鬼の如く灰になってしまう!


「だ、ダメだよ! リア充なんて不良の巣窟だよ! 世の中の敵だよ!」

「ほら! 咲ちゃんとかが悲しむよ!」


「健夜さん、俺リア充じゃないっす。」


「え?」


「だって男友達いないし……」


「……あっ。」

「何かごめんね……」


「いえ……同性との付き合い方を学ばなかったのは俺ですから……」


ごめんよ……先生じゃどうしようも出来ないよ……

そして京太郎君ごめん……君がボッチなのは間違いなく私達のせいだ……

主に麻雀漬けにしたせいだ……

あと女所帯のせい。

ここは私のせいじゃないね。

うん、わたしのせいじゃない。




結局そのあと京太郎君は若干ブルーが入った状態でお風呂に向かっていった。

まぁ汗と共に嫌な気分も流れるでしょう。

京太郎君が出て行ったあと、夢乃さんと咲ちゃんが戻ってきた。

夢乃さんはつい先程まで京太郎君が使っていたPCを気にしているようだ。


「…………」


やたらと気にしている。

もしかしてネトマをしてみたいのだろうか?

そう思って私が声をかけようとした時、一足早く咲ちゃんが声を掛けた。


「もしかしてマホちゃんPC使いたいの?」


「! はい! マホはネット麻雀してみたいです!」


「うん、三年生の私が教えてあげるよ。」

「えっとじゃあここの電源を……」

「スイッチオーン!」


咲ちゃんすっごいドヤ顔、しかもPCの電源を入れただけで。

夢乃さんも夢乃さんで電源が入っただけなのに目を輝かせていた。

咲ちゃんはそのあとにネトマのブラウザを立ち上げながら説明する。

流石は先輩と言うところか、二年前はネトマのネの字も知らなかったのに進化するもんだね。


「で、ここにアカウントを入れるとネトマが出来るようになるよ。」


「わー! 咲先輩ありがとうございます!」


「まー、このくらいはね。」


咲ちゃんすごいしたり顔。

ペタン娘と身内や友達には優しい咲ちゃん。

今は滅多に吹かせられない分先輩風を吹かせている。

だがそのあとの夢乃さんの発言で咲ちゃんはフリーズする。


「ところで咲先輩、新しいアカウントってどうやって作るんですか?」


「…………えっと」

「……健夜さーん!」


結局私か京太郎君か福路さんか照ちゃん……には頼らないけどいつもの誰かに頼る破目に。

咲ちゃんのポンコツ具合は小さい頃から変わらないなぁ……






「ありがとうございます小鍛治先生!」


「いいよいいよ。」


「では『スーパーまほっち』頑張ります!」


結局私がアカウントを作ってあげたわけだが夢乃さんは既にやる気満々である。

意気込むのはいいけどへばらない様にして欲しい。

何せこのあとも練習はあるのだから。

そういえば夢乃さんが入った部屋ってさっき京太郎君が入っていた部屋じゃ……

まぁ気にするほどじゃないか。







夢乃さんがスーパーまほっちとして頑張っているのよそに咲ちゃんは文庫本を取り出して読み漁る。

それから少しするとぞろぞろと女の子達が戻ってきた。


「あれ? 須賀部長は?」


「お風呂に行ったよ。」


「そうですか。」


私がそう答えると気の抜けた返事をする加藤さん。

最近心停止することが少なくなってきたけど油断は出来ない。

特に今は京太郎君がお風呂に行ってるのでここで止まったらアウトである。

一応AEDを持ってきているとは言え慣れてる人がいないと不安なのである。

その点、室橋さんは心停止しないから心配ない。







よく考えたら京太郎君が戻ってくるまで加藤さんにネトマを打たせれば良い事に気付いてそれを実行する。

幸いにも京太郎君は長風呂するタイプではないので1~2半荘ほど打っていれば上がって来るはず。

それにしても男の人って何であんなにお風呂短いのか?

お父さんにしろ須賀さんにしろ京太郎君にしろ結構入浴時間が短い。

周りにいる男の人の例が少ないから一概には言えないけど。

割とどうでも良い考えを他所に追いやり練習の再開をする。

加藤さんは京太郎君がお風呂から上がるまでネトマ固定、夢乃さんと室橋さんは卓に固定。

私と片岡さんと咲ちゃんはローテーションで入る。

まず誰が一番最初に音を上げるのかな?






昼を過ぎ、練習を始めてから一時間ほどして音を上げたものがいた。


「じょ~……もうだめだじぇ……」


「優希ちゃん、だれるのが早いよ。」


「うぅ~咲ちゃん……私はもうだめだ……」

「タコスが切れて集中出来ないじょ……」

「京太郎とマホには一日三食与えてください……」


「マホ一日三食食べさせてもらえるんですか?」


「夢乃さん、突っ込むところはそこじゃないと思うよ……」

「……それにしても京太郎君遅いね。」


「そういえばそうですね。」

「私見てきましょうか?」


「加藤さんは男風呂にどうやって行くつもりなの……」


「……修学旅行とかのお風呂で覗きするのは恒例行事みたいなものですよね。」


「……流石に先生としてそれを肯定することは出来ないかな。」


加藤さんの怪しい発言はさておき、京太郎君が湯中りを起こしてる可能性も無きにしも非ずではあるが。

流石に先生で小さい頃からの付き合いとと言えど覗きに行くわけにもいかない。

男友達云々の話が地味に響く。

私が行くか行くまいか悩んでいると部屋の戸が開いた。







「良いお風呂だったー。」


「おかえり、京太郎君にしては珍しく遅かったね?」


「お風呂入っている時にちょっとアイデアが浮かんで。」

「それで優希もそろそろへばるかなと思って新作のタコス作ってました。」


「……え?」


「京太郎の新作タコスかぁ……」


タコス成分が枯渇した片岡さんが新作と聞いて渋る。

それを見た夢乃さんが疑問に思い聞いてきた。


「? 須賀部長のタコスはおいしいですよ?」

「マホ、須賀部長の作るタコス大好きです。」


「マホは知らないから言えるんだじょ……」


それもそのはず片岡さん(私と咲ちゃんもだけど)は割りとタコスの試食実験台になっているのだ。

一年のときにはタコ墨タコス(実際はイカ墨だったけど)を作って食べた片岡さん顰蹙を買っていた。

そのあと龍門渕の執事さんから教えてもらって大分改善されたけどそれでも時たま創作タコスを作ってくる。

しかもそのタコスは当たり外れが多いのだ。

そんな経験からか咲ちゃんが苦笑いを浮かべながら言う。







「あはは……前に失敗したからね。」


「大丈夫だって、今回は自信作なんだ。」


「まぁ、タコスだから食ってやるじぇ。」


「余りの美味さに腰抜かすなよ?」

「まずこっちはフルーツ系の新作。」

「で、こっちはサラダ系の新作。」

「皆の感想も聞きたいから皆食べてくれ。」


京太郎君はそう言いながらタコスを振舞う。

それを手に取った皆が一斉に食べ始める。


「美味しいです! このサラダ系タコスいいですね、マホ大好きです!」


「うん、須賀部長、これ美味しいです。」


甘辛系のサルサソースを入れたトマトなどが入ったサラダ系のタコスは概ね好評だった。

が、横ではフルーツ系タコスを食べた片岡さん撃沈している。

こっちは外れかぁ……


「優希、もしかしてまずかったか……?」


「盛られたかと思ったじぇ……」


「そんなに不味かったんだ……」


「味は悪くないんだが食べた瞬間に口の中で広がる匂いがやばいじょ……」

「一口二口はいいけど何個も食いたくはない……」

「あと女子は絶対匂いが気になるじょ。」


「失敗か……」


「でもまぁ方向性は間違ってないと思うじぇ。」

「甘いのはクレープみたいで美味しいしな。」

「それにこっちのサラダ系タコスはヘルシーで美味い。」


「ん、感想サンキュな。」


それにしても京太郎君、タコ墨タコスの時と比べたら段違いに腕が上がったなぁ。

前のは食べられたものじゃなかったからね。

フルーツ系も残念だったけど改良すれば美味しいし結構何だかんだで進歩してるね。






さて、京太郎君が戻ってきたことだしこれで心置きなく加藤さんを参加させられる。

そのあと何回か加藤さんが失神しかけた。

加藤さんも進歩した、前は簡単に心肺停止していたのに。

気を取り戻した加藤さんが言った「伊達にあの世は見てないです。」という言葉には驚いた。

そんなどこぞの不良主人公じゃないんだから。










三年生を交えての練習。

片岡さんは東場の勢いを更に強めていき、咲ちゃんは周りを封殺するが如く動く。

京太郎君に到っては鉄火の鳥のブースターを思いっきり噴かして周りを焼き焦がさん勢いだ。

京太郎君にしても咲ちゃんにしてもリベンジしたい相手がいる。

片岡さんも今年は個人でも全国に行きたいことだろう。

三人とも今年が最後のインターハイ、否が応にも練習に力が入る。

ただこうなると二年生でもかなりきつい状況だ。

片岡さんは二年とちょっと伊達で鍛えられたわけじゃないから二人に張り合えるが室橋さんや加藤さんじゃ相手にならない。

一年生の夢乃さんなんか勝てる勝てないという状況を通り越して尊敬や憧れといった感情を抱いているのが分かる。

おいおい、夢乃さんもそのチームの一人なんだからしっかりしてもらわないと困るよ。









そうこう練習している内に日はすっかり落ちて一日目の練習は終了した。

三年生の練習は今までの総仕上げ。

二年生は粗が目立つ所を矯正して弱点潰し。

一年生(といっても夢乃さんだけである)は基本的なところを徹底的に覚えさせてミスをなくさせた。

結果として全体の底上げとチームとしての穴を埋めることができた。

そのあとは休憩時間と夕飯と自由時間である。

つまり毎年のことではあるが私はお酒を片手に京太郎君に作ってもらった肴で晩酌である。

出先の宿場で温泉上がりに浴衣を着てお酒を飲む。

たまらなくいいものだ。










お酒を飲んで、ある程度出来上がってくるころに部屋を訪ねる者がいた。

部屋の戸を叩かれそれに返事をすると人が入ってくる。

てっきり京太郎君がおつまみを追加しに着てくれたのかと思ったが違ったようだ。

厳密にはそれもあったのだけれどそれだけではない。

入ってきたのは京太郎君と咲ちゃんと片岡さん。

京太郎君と咲ちゃんが来るのは珍しくないけど片岡さんが来るのは珍しい。

てっきり中学の後輩と親交を深めているものとばかり思っていた。


「どうしたの?」


「先生に特訓をつけてほしいんだじょ。」

「しかも飛び切り濃いやつを。」

「もう個人戦だけ置いてけぼりなんて嫌だからな。」


「俺も今年こそはリベンジして終わりたいからやれることはやっておきたい。」

「今年は絶対に勝ちたい。」

「勝ってやりたいことがあるんだ。」


「……私も京ちゃんじゃないけどリベンジがしたい。」

「お姉ちゃんたちは既にリベンジしてるらしいから一番乗りとはいえないけど、それでももう一度お姉ちゃん達みたいに頂に上りたいです。」


「うん、わかった。」

「悔いを残さないように目一杯に練習しよう。」


皆真っ直ぐな目をしていたいつも和やかな空気を醸し出しているあの三人がだ。

その目を見て私は先生として力になってあげたいと思った。

そのあと後輩達が寝静まっても、上級生は切磋琢磨に己の技量を上げていた。

どうやら今日は夜が長そうだ。










夜もどっぷり浸かりながら打っていく。

時間の感覚も忘れたまま、ただ研鑽を積むためだけに。

やがて空が白み始めてきた、辺りでは雀が囀っている。

時間の移り変わりに流石に拙いと思い三人に伝える。


「とりあえず今はこれくらいにして少し仮眠を取ろうか。」


「これ以上はこのあとの練習に支障が出ちゃうと困るし。」


「そうですね。」


「わかったじぇ。」


「俺も寝るか……」


皆各々にのそのそと自分の部屋に戻っていく。

さて私も寝ないと持たない。

生徒の体調も心配だが何より私が眠いの。

十代の体とは違ってこっちは二十代後半の体なの。

無茶するとガタが出るしお肌も荒れるしで大変なの。

お酒を止めれば少しは改善するかもしれないけどする気は無い。

人生の楽しみの一つを奪わないで頂きたい。







朝に軽く寝たあと恒例行事の一つ早朝ランニングをする。

これは麻雀部みたいな座りっぱなしの部活動には結構重要なことなのだ。

しかし二日酔いで戻す事は無かったけど足腰にガタがくる。

日頃の運動不足が祟ったか。

毎回運動とかプールに行く度に常日頃から運動しないといけないと思いつつも麻雀とデスクワークの日々。

昔は京太郎君を乗せて自転車で走ったこともあったけど今では車の便利さに負けて物置の肥やしになっている。

そんなことを思いつつもこういう機会が無ければ結局しないことになる。

一方三年生は部長である京太郎君を先頭にきっちり走っている。

私と同じタイミングで寝たはずなのに……若さってすごいなー。






ランニングが終わると朝食を取って練習である。

今年は最初とは違ってちょっと遅めに帰るのだ。

具体的には夕方頃に車が出る。

それまではぎっちり練習だ。

特に夢乃さんは戦力になって貰わないといけないので念入りに。

しかしいくら十代の体がタフとは言え終わってみると二年生と一年生はグロッキーになっていた。

少しは三年生を見習いなさい。

京太郎君と咲ちゃんは長年やってるから仕方ないとして片岡さんなんてタコスをあげれば直ぐ復活するんだから。

そう思いつつもそのあと皆を労ったあとお風呂に入って合宿所を後にした。

車の中では揺られたせいか疲労のせいか生徒達の殆どが眠っている。

いよいよ来週からはインターハイだ。

京太郎君たちにとっては最後のインターハイだからしっかり対策とかしておかないと。











休みが明けていよいよインターハイ。

三年生は今年で最後なので気合の入り様が違う。

しかし気合の入れ様に反して恐ろしいことに今年の出場校は清澄を含めて全部で14校。

競技人口は変わっていない筈なのに去年より減っている。

とはいえちゃんと出場してくれる高校はあるわけであり、その中には当然常連校も含まれている。

だけど去年県予選を準優勝した龍門渕は出場しておらず代わりに風越がシード枠に入っていて、順調に行けばうちと当たるのは決勝だ。

シード枠はこの出場枠から推測する限り準決勝からだと思う。

つまりうちと風越は最多でも準決勝と決勝の二回しか打たない。

もしかして高校麻雀は衰退しました? そんなこと無いよね? ね? だって照ちゃんがいた時はすごい盛り上がっていたし。

それはそれとして皆が居る状態で話しておかないといけないことがある。


「はい、皆聞いて。」


私の号令に皆注目してくれた。

それを確認して再度話し始める。

毎回恒例のオーダー発表である。


「えっと、本来なら部長が説明するんだけど京太郎君は女子の部にはノータッチだから私が説明するね。」

「先鋒、片岡さん。」

「次鋒、室橋さん。」

「中堅、加藤さん。」

「副将、夢乃さん。」

「大将、咲ちゃん。」

「以上です。」


「「「「「はい。」」」」」


今回は染谷さんが抜けた部分を詰めて副将に夢乃さんを入れた形だ。

片岡さんが稼いで二年生二人が守って副将で吐き出して咲ちゃんで勝利をもぎ取る。









オーダーを発表したのはいいけど私達は出番が来るまで暇なので控え室で待機していることにした。

というか京太郎君は男子個人のみ出場なのに律儀についてこなくても……

部長(お守り役)だから仕方ないんだけどさ。

控え室で待っている間、一応対策とかで現試合をモニターで眺めている。

割と良い感じの雰囲気だ。

予選の予選だから温い雰囲気とも言えるけど。

風越もシードから出てきて打っている、私達もそろそろか。


「それじゃあ行ってくるじぇ。」


「頑張ってください優希先輩。」


「おうよ!」


そういうと片岡さんはタコス片手に向かっていった。

対策とか特に何も言って無いけど片岡さんだから大丈夫でしょ。









私が何もしなくても大丈夫、そう思っていた時期が私にもありました。

怠慢とまでは行かないけど私が油断したのは否めない。


「タコスの奴……」


「これはひどいですね……」


と言ったのは部長と副部長の言だ。

それもそのはず。

何故なら片岡さんは各校から70000ずつ徴収したのだから。

これでは試合経験を積ませたい子にまで回らない。

しかも咲ちゃんは麻雀を打てない。

うーん、惨劇の予感。










結局計220,000点ほど稼いだ片岡さんは意気揚々と帰ってきた。


「帰ったじょ~。」


「お疲れ。」

「お疲れ様。」


「これなら多少点数に余裕があるから軽い気持ちで打てるじょ。」

「仮に点数を失ってもうちの大将は強いからな。」


片岡さんは椅子に座ったあとそう言った。

片岡さんは時折、言に棘があるが何だかんだ言って後輩に優しいタイプ。

年上にも物怖じせずにタメ口を使う。

よく言えばフレンドリーなのだ。

そういうところがあるから後輩に慕われているし友達も多い。

片岡さんが居なかったらウチの部は潰れていただろう。

片岡さんの人徳に感謝だ。






その後準決勝次鋒中堅と流れて行き副将戦に入る前に相手校がトんで終わってしまった。

準決勝が始まるまで和気藹々だったのに準決勝では常時御通夜モードの様相。

裏ではウチのチームは「魔王軍団」や「死神部隊」と呼ばれているらしい。

私にいたってはチャック・ノ○ス扱いである。

誰だ、チャック・○リスのコピペを改変して私のバージョンを作った奴は。

「生まれた赤ちゃんが泣くのは、この世に小鍛治健夜が居ることを知っているから。」

これを作った奴は絶対に許さない、絶対にだ。












続いての決勝。

実質風越との一騎打ちではあるけど敵ではないだろう。

私はふとした思い付きで皆に提案をした。


「試合中に何かかっこいい決め台詞を言ってきてね。」


「!?」

「何の罰ゲームなの……」


「小鍛治先生の意図が分かりません……」


咲ちゃんは中学時代の黒歴史を思い出して京太郎君まで巻き込もうとしていたが、一足先に逃げた京太郎君はどこ吹く風であろう。

その隣では私の何気ない一言(無茶振り)についての意図を一生懸命考えている副部長さんはうんうん唸っている。

実は理由は特に無い。

別に無い。

ただなんとなくだけど教え子たちがラスボス扱いなのが気に食わないので主人公っぽくしたかっただけ。







そして始まった県予選決勝先鋒戦。

注意するのは風越女子の先鋒の文堂選手くらいだ。

正直ウチの片岡さんだったら敵じゃないし他の面子は文堂選手より見劣りするレベル。

夢乃さんだったらいい勝負になるかもしれないけどそれは文堂選手レベルでの話だ。

福路さんが居た頃ならともかく今年はどうやっても勝ちは確定である。

あれ、そういえばこれって大将戦まで回らないんじゃ……?


「賽は回すが親はまわさんじぇ。」


モニターの中の片岡さんが決め台詞を言っている。

私の言葉を忠実に守ってくれるのは嬉しいけどほどほどにしてくれないと困る。

あんまり稼ぎすぎるとラスボスみたいだし、何より咲ちゃんに回らない可能性が高くなる。

そんな祈りも虚しく片岡さんはバンバン和了っていく。

片岡さんは風越女子からは20000前後削っていた。

文堂選手の守りが上手かったからかそこまで削れなかったようだ。

その他二校からは50000前後削ってはいるけど油断はできない。

ウチの子がいつ飛ばすかわからないからである。

でも大丈夫! 室橋さんは気遣いができる子だから私の意図を汲んでくれる筈!

そんなふうに考えていた時期が私にもありました。

室橋さんはずっと悩みながら打っていて和了ったときに一頻り悩んで言葉を繋ぐ。


「えっとえっと……」

「清澄の副部長の肩書きは伊達じゃないです。」

「あの、はい……なんかすみません……」


人間余裕がないと気遣いはできない。

苦労人の香りが其処彼処から感じられる室橋さんは決め台詞を考えていて余裕がなかったようで気付いたら相手の一校から30000ほど削っていた。

次鋒戦が終わる頃には断ラスの一校は20000を切っている状況。

若し三倍満か親倍でも当たれば即終了である。

ああ、次は加藤さんだ、AEDの準備でもしておくべきかな。










中堅戦が始まる。

もう加藤さんに関しては心臓を止めたりしなければいいかなってそう思う。

相手の持ち点は50000・20000・30000であまり余裕はない。

完全に御通夜の雰囲気の状態である。

だけどそんなことは関係ないと言わんばかりに加藤さんは攻め続ける。

何が彼女の心をそんなに追い立てているのか。


「伊達にあの世は見ていません。」

「先輩達が見ているので全力でいきますね。」


そう言った加藤さんは手牌を倒して和了りを宣言する。

そしてその後何かを思い出したように呟いた。


「あ、そうそう、決め台詞を言わないといけないんでしたっけ。」

「それじゃあ……いっぺん、死んでみる?」


それを言われた相手の子は試合終了と共に気絶した。

まさか対戦した子があんなになるなんて……

控え室に居る皆が私を見ている。

…………うん、私は悪くない。

私は悪くない。










副将戦が始まる前に少し整理しておこう。

相手校の持ち点は風越は30000点前後。

他は12000点と5800点である。

しかも選手は全員聞き覚えのない程度の選手。

対してこちらは錯和を無くして能力を強化した夢乃さん。

咲ちゃんまで回るかな?


「ツモです! マホ、ツモっちゃいました! 8000オールですね!」


ダメみたいですね。

片岡さんのまねをした夢乃さんはわざわざ京太郎君からタコスを貰ってまでして力を上げて自摸る。

その結果一校がトび終了。

清澄高校は晴れて三年連続全国出場である。

やっちまったなぁ……