まず開会式と抽選会が始まる。
私達は去年優勝したとは言え春季大会に(人数不足のため)出てなかったのでシードではない。
つまり苦しむ高校が増えただけである。
「じゃあ行ってくるか。」
「去年久が緊張していた気持ちもちょっとはわかるのう。」
そういう染谷さんはケラケラと笑いながら抽選会場に向かった。
京太郎君は暇していたのでお金を渡して飲み物を買いに行かせた。
あのこは結構手持ち無沙汰な時間が苦手でそわそわするから何かさせてあげた方がいいのだ。
人格形成というかそういう性格になったのは大体宮永姉妹のせいだけど。
染谷さんが抽選で18番という微妙な数字を引いた。
なぜ微妙な数字なのか、それはまだ同じ区画(対戦校)が決まってないからだ。
案の定ウチと場所に入った人は抽選を引いた時点で涙目になっていた。
引いた人はご愁傷様、籤運が悪かったね。
涙はまだとっておいた方がいいよ、一回戦のときまでね。
今年も白糸台・臨海女子・千里山女子・姫松・永水女子・新道寺女子などの強豪は健在だ。
ここから先には強力な敵が待っているだろう。
その他には個人戦でも厄介な相手も。
きっと一筋縄ではいかないだろうね。
インターハイ初日。
そこには元気に暴れ回るうちの生徒達の姿が!
「ローン! 24000だじぇ!」
「ロン、12000。」
「ロン、32000じゃ。」
「ロォンンンン! 18000です!」
「トビですね!」
それにしてもこの加藤さん、ノリノリである。
そして咲ちゃんは出番無くて不機嫌である。
インターハイ二日目。
そこで事件が起こった。
おかしいなぁ……今日は試合ないはずなのに……
事の発端は咲ちゃんがフラストレーションを溜めて雀荘に向かったことが原因である。
そして雀荘から京太郎君の携帯に電話が掛かってきたのだ。
「はぁ? 雀荘から帰る道がわからない?」
明らかに呆れた声を上げる京太郎君に集まっていた皆の視線が集う。
染谷さんと室橋さんは頭と目頭を押さえていた。
片岡さんは何か悟った顔をしながらタコスを食べている。
加藤さんは京太郎君の顔をじっと見つめていた。
私と京太郎君は咲ちゃんを迎えに行く為にホテルの一室から出ようとした。
全員が全員「なんで咲(先輩)を一人で行かせたんだろう……」と思いながら私達を見送るはずだった……が。
「京太郎さん! あの女のところに行くんですか!? 私達を見捨てて!」
ん? 一気に変な空気になったぞ?
「悪いミカ、咲は……俺がいないとダメなんだ。」
「そんなまだゆーきだってちいさいのに……」
「え~ん、え~ん、パパー……」
片岡さん乗ってきた割に泣く演技はへたくそだ!?
というか室橋さんは状況がわかんないのか固まってるし、染谷さんは完全に我関せずだよ!
「すまない二人とも……それでも俺は咲を迎えに行くよ……」
「そんな……京太郎さん……」
「パパー! パパー!」
「……じゃあ、行こうか……義母さん。」
「う、うん。」
母親という歳ではないけど義理がついてるからセーフってことにしてあげた。
この世界での京太郎君のお母さんの元々の歳を考えると何にも言えなくなるし。
というか小芝居を投げっぱなしにしないでよ!
咲ちゃんを無事雀荘から回収して戻ると皆で麻雀をし始める。
最初に入ったのは咲ちゃん・片岡さん・室橋さん・加藤さん。
「王手。」
「ま、待った!」
「待ったは無しじゃ。」
一方で余った染谷さんと京太郎君は囲碁とか将棋をやってた。
正直麻雀より囲碁と将棋の方が面白そう……
一応麻雀の指導もやってたけど二人の将棋が面白かった。
流石染谷さん、伊達に暇なとき竹井さんと照ちゃんの相手をしてただけのことはある。
京太郎君も割りとこういうロジックめいたものというか思考ゲームが好きだよね。
結果は3対2で染谷さんの勝ち越しだったそうだ。
こっちはこっちで室橋さんは普通に強くなったし加藤さんは死に掛けた。
インターハイ三日目。
今日は二回戦目でここで勝てば準決勝進出だ。
前年と同様ここから二校同時進出なのでどこを残すかが戦略に置いて重要になってくる。
清澄・千里山女子とあと二つ高校だ(可哀想なので高校名は伏せる)
ただ特筆するべき点もないのでざっくり言うなら結果的に清澄と千里山女子が進出したわけなんだけど……
大将戦のときに咲ちゃんにビビッタ相手校(進出できなかった高校)の子が急に……
「あいたたたた! これダメなやつだ!」
とか言って腹痛を訴えて棄権しようとしたり(結局打った)
かと思ったらもう一つの高校の子は咲ちゃんと目が会った瞬間全国放送でお漏らししたり。
挙句の果てには大戦が終わったあと、千里山女子で大将を務める二条選手が……
「すんません……去年は高一最強とか言ってもうてほんまにすんません……」
何かやたらとネガティブになっていたり。
咲ちゃん自体は特に何もしてないのにオーラと噂(去年に関すること)だけでこの惨状である。
何でこうなった。
あとお漏らしの子は咲ちゃんに慰められながら更に漏らしていた。
やったね、咲ちゃん! お漏らし仲間が増えたよ!
インターハイ四日目。
明日は永水女子・千里山女子・臨海女子と打つ事になるのだけれどどこを残すかの相談をしていた。
何故か京太郎君の部屋で。
いや私の部屋でも良かったんだけどさ。
で、検討会は途中までは良かった、途中までは。
「おおお! あのおもちすごいよ京太郎君!」
で、何で阿知賀の松実玄がここにいるのか理解に苦しんでいます。
京太郎君がちょっと所用で出かけて戻って来た頃にはその不穏な足音は聞こえていた。
今回も個人戦でやってきた松実玄選手と偶々出くわして連れてきちゃったらしい。
そのせいか色々と空気が……
「え!? まじすか!? どこどこ!?」
京太郎君も過剰に反応しないように。
今部屋の空気がものすごいことになってるから。
主に咲ちゃんと加藤さんのオーラがヤバイ。
室橋さんと染谷さんは胃と頭を押さえている。
片岡さんは基本的に京太郎君と松実選手と同様の乗りなんだけどおっぱいだけは許せないのか羨ましいのか若干テンションが違っていた。
「流石永水女子……おもちがすごいのです……」
「玄さん……去年の永水女子には更にビッグモンスターがいたんですよ?」
「!! それは本当ですか……!?」
「本当のことだじぇ……恐らくあの石戸明星ってやつの姉なんだと思うんだけどアレや先鋒の神代より大きかったじぇ……」
「なんと……それは拝見したいのです……!」
もうだめかもしれない。
加藤さんの米噛みがやばいもん。
咲ちゃんなんてFFのボムみたいな顔してるし。
明日の試合なんてもうどうにでもなーれ。
インターハイ五日目。
準決勝先鋒戦に現れた永水女子の先鋒、神代小蒔。
エースを先鋒に置くのは常とは言え(例外もある)、彼女の安定しない麻雀で果たしてうちに勝てるのだろうか?
臨海女子の先鋒は新たに入った生徒らしいけど余りぱっとしない。
まぁそれは千里山女子もおんなじなんだけどさ。
去年の主戦力がごっそり抜けたところは痛いだろうね。
「ツモ、3900オールだじぇ。」
しかしそんなこと知ったこっちゃないと言わんばかりに片岡さんがガンガン和了って行く。
そしてそれは破竹の勢いで次鋒・中堅・副将と流れが寄っていく。
あ、これもうどうしようもないな。
そんな状態で咲ちゃんにお鉢が回ってきたわけだけど……
「永水だけは! 永水だけは何卒御容赦願いたい!」
京太郎君がみっともなく咲ちゃんに追い縋ってる。
それに対して咲ちゃんは愉悦顔で言い放った。
「ん~? 聞こえないな~。」
「やめなされ……やめなされ……惨い殺生はやめなされ……」
「私からもお願いしますのだ……」
だから何で松実玄がここにいるのか理解に苦しむ。
貴女の出番は個人戦までないでしょうに。
始まる準決勝大将戦。
相手はあのおっぱいお化けこと石戸霞の親戚?の石戸明星。
ああ……咲ちゃんの顔が去年と同じような顔をしているよ……
まるでゴルゴ13みたいだ。
「宮永さん、姉さんの仇、取らせてもらいます。」
「ふ~ん、あの人の妹なんだ……」
「姉妹揃って……遺伝子って残酷だね……」
「私達姉妹は持たざるものなのに貴女達姉妹は持っている!」
「世の中は不公平だ!」
ああ、無常。
咲ちゃんのお胸はすっごいまな板だもんね。
「天に滅せい!」
「カンカンカンカン! 48000!」
「もいっこカンカンカンカン! 48000は48300!」
「ワンモアセッ! カンカンカンカン! 48000は48600!」
咲ちゃん怒りの三連続四槓子。
そうだよね、おっきいおっぱいは敵だよね。
「次で三本場だね……」
「何本目に死ぬかな?」
「しねぇ~!」
もしかしてあれは……南斗翔鷲屠脚……!?
「 カ ン 」
そのときズシン、と会場が揺れた。
偶々地震が起きただけかもしれないけどさ。
照明が割れるんだもの、家鳴りくらいするよ、きっと。
「貴女達の闘牌には執念が足りないよ。」
永水女子のトび終了。
ネリー選手はまな板だったけどロリだから疑惑の判定だった。
でも二条選手は違う彼女は紛うことなきまな板だ。
かなりいいまな板だったから許されたのだ。
まな板しか残らなかったことに控え室にいた京太郎君と松実玄は打ちひしがれていた。
そして同じく控え室で観戦していた染谷さんの眼鏡はまたもや割れた。
あまりに理不尽すぎる……
インターハイ六日目。
今日は反対側のブロックが準決勝をしているはずなのだけれど私達にとってはどうでも良かった。
加藤さんの心肺がまた止まった。
今度は京太郎君が心臓マッサージしても中々戻ってこない。
仕方ない、こういうときのためにAEDを用意して置いたのさ。
Dr.ミンチに会いましょう。
きっとこの電撃で蘇らせてくれるよ。
あとは加藤さんがミンチからハンバーグにならないように祈ろう。
それから数分後、何度目かの蘇生で加藤さんは何とか三途の川から戻ってきた。
「……はえ?」
「もしかしてまた逝ってました?」
「うん……」
「あと……何で私上半身裸なんですか?」
「AED使うときに邪魔だったから……」
「え……ああ……はい……」
「あの、須賀先輩もしかして私の裸見ました……?」
「見てないぞ。」
「本当にですか? これっぽっちもですか?」
「ああ。」
「何で見ないんですか……それでも男なんですか……」
何となくわかるよ、加藤さん。
見られると恥ずかしいけどこの状況で見てないと言われても女として負けた気分になるよね……
でもいくらおっぱい星人の京太郎君と言えども女の子の裸に反応しないとは思えないんだけど……
……もしやこれは……あれか……?
「京太郎君、戦争について聞きたいんだけど。」
「え? そうですね、何で無くならないんでしょうかね……」
「やっぱり!」
「何か知っているんですか小鍛治先生?」
加藤さんに質問されたことに返答する。
これは以前さっさと結婚したこーこちゃん(別の世界)に聞いたことがある。
正しく状態が一致しているから間違いないはずだ。
けんじゃもおど
「あ、あれは……『賢者喪男努』!」
「なんですかそれ!?」
「一度限界まで欲を捨てることによって煩悩に囚われなくなる業!」
「まさか京太郎君が体得しているとは……」
加藤さんには気の毒だけど『賢者喪男努』に入った男の人には色仕掛けなど無駄である。
私も昔に試しで色仕掛けをしたことあるけど会う男性は悉く『賢者喪男努』を使ってやがった、思い出しただけで腹立たしい。
その時ガチアラフォーだったけどさ。
何にせよお尋ね者にならなくて良かった。
インターハイ七日目。
今日は決勝戦である。
Aブロックからは清澄と千里山女子。
そしてBブロックからは新道寺女子と白糸台。
一体どんな決勝戦になるのだろうか……
余り特筆する点がないようなら染谷さんに頑張ってもらおうかな。
ついに始まる決勝戦。
先鋒戦に行くは片岡さん。
対して新道寺は去年に引き続き花田煌選手。
そして白糸台は原村和選手。
何たる偶然か、本来なら知り合いのはずなんだけどね。
「花田先輩、のどちゃん、悪いけど全力で行かせて貰うじぇ!」
「ええ、手なんか抜いたら承知しません。」
「二人はお知り合いなんですか?」
「はい、去年の練習試合のときに知り合いまして。」
なんて軽く話していたみたい。
千里山の先鋒? 知らない人ですね。
「ツモ、8000オールだじぇ!」
開幕の倍満。
僅か5巡だった。
確実に彼女は成長をしている。
そのオカルトのスピードの如く。
「ツモ! 6000オールは6100オール!」
「まだまだ行くじょ!」
勢いに乗っている片岡さんが更に稼ぐべく尚も攻勢に出る。
しかしそれに待ったを掛けられた。
「させません。」
「ロン、8000は8600。」
「うぐぐ……この私に振り込ませるとは……」
「さすがのどちゃんだじぇ。」
「当たり前です。」
「私達も強くなっているんです、去年と同じだと思わないでください。」
よくよく見ると原村選手の背中には翼が生えてるように見えた。
きっと彼女の力なんだと思う。
片岡さんが親流れしたのを挽回するためにも攻勢に出る。
「立直!」
「むむむ……」
まだ勢いが殺しきれていないせいか川には6枚しかなかった。
花田選手は少し悩んだあと、牌をつかんだ。
「通りますか。」
「通るじぇ。」
無筋の牌を通す。
しかも脂っこいところを次々と捨てていく。
かなり強打。
あの子、案外肝が太い。
「すばら! 純全三色ドラで3000・6000。」
脂っこい所を切ったのはこのためか。
それにしてもよく躱したものだ。
「先鋒戦終了!」
「去年の覇者清澄高校が30000点以上稼いで二位白糸台との差をあけました!」
「白糸台に続くは新道寺女子と千里山女子、ここから巻き返すことは出来るのか!?」
先鋒戦が終わる。
戻ってきた片岡さんは少し嬉しそうな晴れ晴れとした顔で言ってのける。
「いや~、もうちょい稼げると思ってたんだけど意外と手強かったじぇ。」
「十分だよ。」
「そうですよ、先輩に稼いでもらった得点、減らさないように頑張ってきます。」
「おう、任せたじぇ、ムロ。」
尚室橋さんの試合は特に面白くも無かったので染谷さん効果。
次鋒戦終了!
室橋さん頑張った!
- 11000とかすごいね!
続いて中堅戦。
我らが部長染谷さん対するは船久保浩子選手と渋谷尭深選手。
三年生眼鏡対決。
一筋縄ではいかないだろう。
「ツモ、2000・4000。」
「ツモ、1000・2000。」
けど実力で言えば染谷さんが一番上だ。
伊達に清澄の部長をやっていない。
途中船久保選手と染谷さんが女の子がしちゃいけないゲス顔をしていた気がする。
放送禁止にはならないレベルである。
対局の内容は十代の打ち手とは思えない染谷さんが周りを手玉に取り、燻し銀のような渋い闘牌だった。
更に続くは副将戦。
加藤さんがいく。
相手は白糸台現部長の亦野選手。
千里山女子と新道寺女子は無名の選手。
実質一騎打ちだろう。
「君、一年生か。」
「悪いけど手加減は出来ないよ。」
「そうですか、でも私が勝ちます。」
「勝たないと後が怖いので!」
加藤さんが必死過ぎる。
今回プレッシャーを掛けない為に咲ちゃんには黙ってもらっていたのに……
「無言でオーラ送ってきた先輩が怖いんです!」
「ロン! 8000!」
「だから負けられません!」
「ミカちゃんに頑張れって念を送ったんだけどな……」
とは咲ちゃんの言。
完全に徒になってるじゃないですかやだー。
そして本日目玉の大将戦。
点数は182600でうちが一位。
続いて白糸台が80500で二位。
新道寺女子は75300で三位。
千里山女子は61600で四位。
大体十万点差がある。
そして選手は。
白糸台、大星淡選手。
新道寺女子、鶴田姫子選手。
同じ準決勝ではお世話になった千里山女子、二条泉選手。
そして昨日迷子センターで保護されていた『みやながさきちゃんこうこうにねんせい』。
対局室までの道程を迷わなくなったのは偉いと思うことにした。
始まった大将戦。
親は白糸台。
全員の配牌を見る限りかなりばらつきがある。
しかも大星選手自体は。
「立直。」
大星選手の絶対安全圏からのダブル立直。
最初から全力で挑んできている。
咲ちゃんは手を進めていく。
そして角が過ぎた頃。
大星選手が動いた。
「槓!」
大星選手の暗槓。
だがその時咲ちゃんも発声する。
「ロン。」
「……え?」
大星選手は何が起きているのか分かってないようだった。
一筒を暗槓したのにロンをされた。
しかも相手の配牌をバラバラにした上での振り込み。
思慮の外だったのだろう。
咲ちゃんが口を開いた。
「淡ちゃん、私が槓しか出来ないと思ってる?」
「え……だって……暗槓だよ……?」
「うん、だからもう一度言うね、それ、ロン。」
「国士無双、32000。」
搶槓、国士無双。
暗槓でも唯一搶槓が出来る役。
だが滅多に出ないので考えなかったのだろう。
でも咲ちゃんならやる。
国士無双や四暗刻を普通に聴牌する咲ちゃんならやってのける。
勝負は決していた。
最初の局に役満を振り込んだ瞬間。
例え白糸台がトばなくても大星選手は完全に精神で負けていた。
咲ちゃんのことを意識的であれ無意識であれ書く上と認めてしまったのだ。
一度イメージがついてしまうと中々抜け出せない。
ましてや同日中に払拭するのは無理だったのだろう。
大星選手は絶対安全圏を使って守りの麻雀に入ってしまった。
その間の咲ちゃんは容赦なく周りを削る。
「おうちかえりたい……」
大星選手、終わらないと帰れないよ。
「やっと、こん場まで来ようたのに……」
鶴田選手は鈍りきつくて唇読めても意味が分からない。
そもそも正しく唇読めているのかもわからない。
「なんかすみません生きててすみません。」
「端っこの方で埃とか食べて生きてますんで許してください……」
二条選手卑屈すぎぃ!
何が貴女をここまでにした……
大将戦の結果は清澄一位、385600点。
次いで白糸台二位、5600点。
その次の三位千里山女子、4800点。
最後に新道寺女子、4000点。
このとき咲ちゃんは「5600ってお揃いだね!」と大星選手に言っていた。
咲ちゃん的には何て声を掛けていいか分からなかったのだろうけどそのチョイスはないと思う。
去年の県予選といい、嫌味にしか聞こえない。
その後の表彰式は流石の咲ちゃんも空気を読んだのかおとなしくしていた。
が。
「原村選手のおもちは中々の中々ですね。」
「うん、中々ですよね、特に丸みがすばらしい。」
空気を読めないおっぱい御馬鹿が二人。
君達個人戦にしか出ないからってフリーダム過ぎ。
ああ、逃れられぬ業の深さ。
この二人に少しは天罰が当たりますよう。
迫り来る壁に挟まれろ。
明日は休みで明後日から個人戦。
つまり今日はやや羽目を外せる訳で。
「すこやん団体戦おめでとー」
「ありがとうね。」
「と言っても私は大したことしてないんだけど。」
グラスが高い音を立てて鳴った。
「またまた謙遜しちゃってー。」
「すこやんが監督してたからじゃないの?」
「皆が頑張ったからだよ。」
実はコレ、謙遜じゃなくて責任逃れなのだ。
で、今こーこちゃんアナウンサー組やプロ達と呑んでいます。
「私も子供に教えてみようかなー。」
「赤土さんが監督やるの?」
「やったことはないけどちょっと興味はあるんだよ。」
「というか小鍛治プロや愛宕元プロ、それにスカウトしてくれた熊倉さんの様子を見ていて思うことがあってね。」
「うん、いいんじゃないかな。」
「赤土さんならきっといい指導者になるよ。」
お酒を飲みながらの話だったけど私は彼女が教える側として優秀なのは知っているしそれをどうこう言う資格もない。
阿知賀女子には申し訳ないとは思うけど。
熊倉さんで思い出したんだけど大人組みの間で流行った宮守女子のあだ名がひどい。
誰なのさ、小瀬川選手のことを最初にダルレアンの乙女だのジャンシ・ダルクだの言ったのは。
そう思っていると多分元凶っぽい人がやってきた。
「すこやん呑んでる~?」
「もー飲みすぎだよこーこちゃん……」
「それでアラフォーのすこやんは呑んでるのかね?」
「アラフォーじゃなくてアラスリーだよ。」
「アラサーじゃなくて?」
「うん、アラスリー。」
べろんべろんに酔って支離滅裂なこーこちゃんを適当に相手しながら話す。
アラウンドスリーハンドレッド……
厳密にはスパルタの兵士よりは少ないけどスパルタの兵士も吃驚するくらいの年齢です。
そんなスパルタの兵士も驚く私ですがこーこちゃんの酔っ払って絡んでくるのは苦手である。
何と言うか面倒くさい。
どの世界においても何歳になってもこーこちゃんが私を置いてスポーツ選手と結婚しても、お酒が入ると面倒くさいのが変わらないのがこの福与恒子という女である。
「ん~そっかそっか。」
「すこやん、アラ・サーメンになっちゃったもんね。」
「黒いオカルトなんて生み出そうと何てしてないしそもそも麻雀力(マゴイ)なんてものもないから。」
処女のまま三十路を過ぎても魔法使いにはなれないのだよ。
こーこちゃんは何でそこまで私の歳をネタにするのか。
解せないけどそれは多分私が弄られやすい人間だからだろう。
前からこーこちゃんとはよく呑むけど印象に残ってるのは自棄酒と祝い酒だったかな。
彼が消えたあの晩は思いっきり呑んだ。
……やだな、酔っ払うと感傷的になるようだ。
今日はそこそこにして寝てしまおう。
明日は個人戦の前に京太郎君の調整しておかないといけないよね。
さて、今日は久しぶりに京太郎君の面倒を見ようかと思う。
当然他の個人戦出場者の部員も見ないといけないのだけれど京太郎君は団体戦に出てないから特に気をつけないといけない。
と言っても男子に敵はいないんだけどね。
女子も照ちゃんと福路さんが抜けたあとは咲ちゃんの一強だし二位以下がどうなるかの問題である。
染谷さんか龍門渕選手かはたまた別の選手か。
まぁとにかく練習しようか。
「じゃあ今日は特別なゲストがいらっしゃっています。」
「どうせお姉ちゃんじゃ……」
「美穂子さんか靖子さんかもな。」
「何で分かったの!?」
「健夜さんワンパターン。」
そこ、うるさい。
部屋に入ってきた照ちゃんに心の中で突っ込みながら福路さんと照ちゃんに席を設ける。
京太郎君固定の咲ちゃん・照ちゃん・私・福路さんでローテーションして打っていく。
正直な話これから始まる練習ってすっごい豪華でこれ個人決勝でいいんじゃないかなと思えてくる。
「じゃあ本気でいこうか。」
「照や京太郎君や咲ちゃん相手に手加減できるほど自惚れちゃいないわ。」
「団体戦の間俺は指を咥えてみてるだけだったんだ思いっきり打たせてもらうぜ。」
「私だって、大将だから何回か出番回ってこなかったから打ち足りてないよ。」
中学時代の面子が本気で打ち始めた。
自然災害のような打ち手が4人も集まり打っている。
染谷さんの眼鏡と加藤さんの心臓を避難させて置いたのが功を奏したのか被害は少なくて済んだ。
加藤さんが近くにいたら危なかった。
それから少しして照ちゃんが口を開く。
「健夜さん、仕事はいいの?」
「今してるよ?」
「教師じゃなくて雀士のほうの仕事。」
「う~ん。」
「この間大きい大会に出たばかりだから当分はいいかなって。」
「特に解説は当分受けないって社長にも言っておいてくれる?」
「……わかった、言っておく。」
「福路さんもお願いね、照ちゃんだけだと不安だから。」
「あら、うふふ、はい。」
「健夜さんひどい、私だってもう社会人。」
「それはもう少ししっかりしてから言おうか。」
妹の方がしっかりしてるもんね。
と言ってもその妹もポンコツだけど。
京太郎君も含めてまだまだ私のお守りが必要かな?
加藤さんの心臓が三回ほど止まりながらも時間は過ぎて翌日を迎える。
個人戦の開幕である。
京太郎君はいつもより気合を入れて。
咲ちゃんは鬱憤を晴らすかのように。
染谷さんは有終の美を飾る為に本気で向かっていく。
これからが本当の地獄だ。
最初に染谷さんが当たったのは松実玄と大星選手と二条選手だった。
「速攻のダブリー!」
「それなら私も立直です。」
「チーじゃ。」
「ずらされたところで淡ちゃんの勢いを止められると思ってるの?」
「ロンです。」
「……へ?」
「だからロンです、立直・断幺九・ドラ3・裏3で16000。」
なんと言うドラ爆。
しかも染谷さんもわかっててやってるね。
松実玄も角が来るまでに和了れると確信して打っている。
そのあと大星選手がムキになってドツボに嵌るも染谷さんが一番美味しく頂いていって松実玄を押さえていた。
二条選手? 空気でしたね。
その次の試合。
染谷さんと龍門渕選手・十曾選手・上重選手の試合。
龍門渕選手は最初から冷え切った状態からのスタート。
如何に今の染谷さんが強くなったと言えど冷えられたら分が悪い。
十曾選手も上重選手も必死に喰い下がるも突き放される。
「それは通らんぞ、12000じゃ。」
「また当たりじゃのう、8000じゃけぇとっとと払いんさい。」
しかし染谷さんも老獪とも言える打ち方で切り抜けていた。
龍門渕選手より他二人からの方が稼げると判断してからは奪うようにして。
そして龍門渕選手が動く気配を見せると邪魔しに入る。
同じ河の支配者だけど得意の部分だけは譲らなかったみたいだね。
経験だけが頼りになることもある。
そういうときに培ったものが支えになる。
結局のところ、僅差で染谷さんは和了って切り抜けた。
下手をしたら龍門渕選手に追いつかれていたかもしれない試合だった。
今のところ負け知らずの染谷さん。
それでも上には上がいるわけで。
咲ちゃんはきっちり全員から絞るだけ絞ってトばしていた。
咲ちゃん現在五戦終えて+200越えです。
もしかしたら+400行くかも。
これ間違いなく咲ちゃん一位だ。
平行して行われてる男子の方も大概だった。
咲ちゃんと同等のスコアを叩き出している京太郎君。
こっちは血の池あっちは火の海。
どちらも地獄である。
そして十戦終わった結果。
一位は当然のごとく咲ちゃん、+384。
二位は意外なことに松実玄選手、+187。
咲ちゃんに凹まされて一度は沈んだものの点数さえ稼げればいいのでドラ爆は個人戦でかなり有利である。
あとはタンヤオか立直にドラ4とかドラ6とかドラ8とかを絡めればいいだけなのだ。
三位は染谷さんで+183ある。
惜しくも後塵を拝した結果になったけど咲ちゃんにトばされたのに持ち返したのは十分な結果と言えるだろう。
しかも入賞なのだから喜ばしいことだ。
一方の京太郎君のスコアと言えば+386であった。
べつにそこまで稼ぐ必要はなかったんじゃないかな。
「気合入れすぎました。」
とのこと。
それに対してずっと男子側のモニターを見ていた加藤さんは……
「先輩素敵でした!」
加藤さんは京太郎君に盲目になっていた。
京太郎君も変な子に好かれるよね。
周りを見るに今までを見るに胸無し系が多いこと多いこと。
しかもポンコツとかオカルトの極致みたいな人物とか。
いつかオカルトで次元の狭間にでも取り込まれるんじゃないかなと心配になる。
そしてまたもや始まるエキシビジョンマッチ。
今回は男女の一位だけの出場である。
つまりプロ枠が二人と言うことだ。
果たして今年のプロは誰なのか。
私がちょっとお化粧直しをしに行った帰り、廊下のベンチに会話をしている男女二人がいた。
会話と言っても言葉は交わしていない。
男女と言っても決して色っぽい雰囲気ではない。
傍からみて孫と祖父くらいの年齢差があるからだ。
というか九州コンビである。
何をしているのだろうと思いつつ二人に目をやっていると視線がかち合う。
大沼プロが私に会釈したあと野依プロにサムズアップして去っていった。
その野依プロはこっちに向かってきた。
「こんなところでどうしたの理沙ちゃん?」
「解説! 仕事!」
「ああ、やっぱり。」
「それで大沼さんと話していたの?」
「別件!」
大沼プロと話していたのは別件?
仕事とはということだろうか?
それとも解説とはということだろうか?
少し頭を捻っていると続け様に単語が繰り出される。
「エキシビジョン!」
もしかして野依プロが今回のエキシビジョンにでるの?
ということは今回京太郎君と咲ちゃんが相手にするのは大沼プロと野依プロってこと?
しかし何で急に……
私は気になって聞いてみることにした。
「ねぇ理沙ちゃん、何でまたエキシビジョンに出ることにしたの?」
「勧誘! 貢献!」
「青田買い!」
うん? 気になる単語がまた出てきたぞ?
もしかして何かウチの子達に何かする気なのかな?
「それじゃ!」
「え、ちょっと待って理沙ちゃん!?」
「仕事!」
私が質問しようとすると野依プロはさっと走っていった。
多分仕事があるから話を切り上げたんだろうけど私には聞きたいことがまだあった。
変な事にならなければいいんだけど。
京太郎君と咲ちゃんがエキシビジョンマッチの席に着いた。
そして相手取るプロも。
相手はやはり野依プロ。
もう一人は話していた大沼プロか三尋木プロかとも思っていたけどどうやら違うようだ。
そもそも大沼プロはシニアだし三尋木プロは別の仕事のはずだ。
多分今頃横浜と佐久の試合、つまり靖子ちゃんや照ちゃん、福路さんと打っているだろう。
で、野依プロともうひとりのプロが瑞原プロ。
旋風のはやり。
またの名を『島根のハーピィ』
「はやりの相手をしてくれのは君達だね☆」
「あ、はい。」
「よろしくお願いします瑞原プロ。」
「やだ、かたーい☆」
「はやりのことはもっと気軽にはやりんって呼んでもいいんだぞ☆」
しかし瑞原はやり、29であの言動。
きついよ。
あときつい。
「ところで……えっと京太郎君でいいかな?」
「ええ。」
「じゃあ京太郎君、君強いんだってね~☆」
「昨今の男子はレベルが落ちたとか言われてるけど君の実力は本物だって言われてるよね☆」
「しかも先生はあのトップランカーの小鍛治プロ☆」
「流石に注目されてるだけあるよね~☆」
「えっと、瑞原プロ「はやりん☆」……はやりプロは何が言いたいんですか?」
「ん~? ちょっとお姉さん君の事が気になってね☆」
「だから今の内に出来れば唾を付けておきたいんだ☆」
「! 待った!」
「私も!」
「え~? のよりんもなの~?」
「京太郎君ってばモテモテだね~☆」
「でもさー男の子ってこういうの好きだよね?」
瑞原プロがそう言いながら腕を組んで胸を強調している。
京太郎君も若干動揺している。
だがそれが逆に咲ちゃんの逆鱗に触れた!
「ちょっとそこまでにしてくれませんか? 京ちゃんが困ってるじゃないですか。」
「そもそもいい年してそんなこと恥ずかしくないんですか。」
「ちょっとそれどういうことかな?」
一瞬固まる空気。
それはモニター越しにでも伝わる。
「そのままの意味ですよ。」
「そして京ちゃんもデレデレしない!」
「どうせあんな無駄乳なんて直ぐに垂れるんだから!」
「いや俺は別に……」
「あん? 京ちゃん今何か言った?」
「いえ……なんでもないです……」
「とりあえずー失礼な子にははやりがお仕置きしちゃうぞ★」
ああ、京太郎君が完全に萎縮しちゃってる。
しかも周りは敵対心バリバリである。
雰囲気が最悪です。
そんな中野依プロが発言する。
「勝負! 麻雀!」
「ええ、いいですよ。」
「はやりは元よりそのつもりだよ★」
そんなこんなで始まるエキシビジョンマッチ。
一体行方はどのようになるのか。
あと、君達これ中継されてるって事忘れてない?
今回のエキシビジョンマッチは少し変わっていて前回は半荘戦二回の前後半戦だったのに対し、今年は全荘(一荘)戦一回である。
全荘戦など昔のプロタイトルだったらいざ知らず、インターハイのエキシビジョンマッチなんかではやらないものだ。
これは明らかに京太郎君が有利になることを理解していて設けられているルール。
それにしても一体誰が……って京太郎君のオカルトを理解しているのはそんなにいないよね。
プロで多少目端の利く人ならビデオや牌譜で京太郎君のオカルトは大体の見当はつく。
つまり今打ってるプロのどちらかが仕組んだということだ。
試合前に大沼プロとノンバーバルコミュニケーションを取っていた野依プロあたりだろうか。
それともアイドル雀士として顔の広い瑞原プロだろうか。
「「よろしくおねがいします」」
「よろしく!」
「よろしくね☆」
そしてついに始まったエキシビジョンマッチ。
起家(東一局での親)は瑞原プロ。
様子見をすると睨んでか皆余り動かないと予見して相手を探る京太郎君。
対して咲ちゃんはあれだけ喧嘩を売った割に思ったより慎重に警戒をしている。
アラサー二人は化粧を崩さないように頑張ってる。
「立直だよ☆」
と思っていたら僅か六巡目で立直をするはやり(29)
「ツモ、立直一発ツモ、2000オールだよ☆」
そしてそのまま和了った空気の読めない29歳(独身)
この人は一体なんでエキシビジョンなんてインターハイ優勝の余韻に水を差すイベントに参加したのだろうか。
三尋木プロならリベンジとかで動機はわかるけど。
多分瑞原プロの動機は今の私には理解出来ない。
続いて東一の1本場、咲ちゃんは大体理解したのか様子見に見切りを付けて動き始める。
瑞原プロが切った牌に対して仕掛けた。
「カン。」
「ツモ、責任払いで5200は5500。」
「はやや!?」
びっくりした体面を整えてはいるが彼女にとってはそれなりに想定内だと思う。
野依プロも京太郎君も今だ動いてない。
東二局、野依プロの親。
野依プロの親だと言うのに当の本人は動く気配がない。
京太郎君は京太郎君で機を窺っている。
瑞原プロと咲ちゃんは完全に二人をそっちのけで火花を散らしている。
そんなことをしている内に瑞原プロが和了る。
「ツモ☆1000・2000!」
流石の和了スピード、7巡目で和了っている。
そしてこれ見よがしに胸を揺らしている。
上下に揺らしている、どこかで誰かの舌打ちが聞こえた気がした。
時間は少し飛んで南四局。
京太郎君が一回和了ったが野依プロが現在焼き鳥。
なんとも胡散臭い状況である。
「ツモだよー☆500・1000★」
瑞原プロも今回和了ったはいいものの、そのスピードはかなり落ちていた。
和了った巡目は14巡目、これでは得意の速攻もあってないものだ。
彼女にとって京太郎君の能力と今回のルールは頗る相性が悪い。
時間が経てば経つほど不利になっていくのだから。
そしてここからが未知の領域である。
今まで京太郎君に全荘などやらせたことなどなかった。
けれども状況に予想は付く。
既に場が焼け野原、東場を丸々捨てて様子見してきた京太郎君の独壇場である。
西入からは炎熱地獄だ。
「ツモ、500・1000。」
「ツモ、1000・2000。」
京太郎君の連続和了。
周りの人間は京太郎君の熱気に負けて追えないでいる。
「ツモ……!」
また京太郎君の和了かとも思ったがそうではなかった。
「2000・4000……!」
野依プロの初和了。
今まで動かなかった野依プロがついに動いたのだ。
どうやってこの場の支配を抜け出したのか。
京太郎君は多分気付けていない。
しかも例え気付いたところでどうにか出来るかはわからない。
私だったら問題はないけど。
野依プロのオカルト。
特定の条件で確定和了する能力。
京太郎君の火の鳥のカウンターや去年の新道寺女子のリザベーション、宮守女子姉帯選手の六曜などのオカルトなどがそうだ。
ただ特定の条件の特定するのが難しい、野依プロはそれを隠すのがとても巧妙であるからだ。
流石はプロと言ったところか。
伊達にそれで御飯を食べているわけではないのだ。
更に少し時間が飛んで北三局、ラス前である。
前半瑞原プロと咲ちゃんが稼いだ点数も京太郎君と野依プロが吐き出させて大分場が平たくなっていた。
多少平たくないのは瑞原プロくらいだろうか。
「ツモ……! 500・1000……!」
京太郎君の親のときに野依プロが和了る。
まるで連荘の阻止をするが如く。
多分彼が親のときに自分が和了れるように調節したんだろうけど。
北三局が終わった時点での点数は……
瑞原プロが25200点。
野依プロが23000点。
京太郎君が26300点。
咲ちゃんが25500点。
一応誰でもオーラスでトップになるチャンスがある。
そのために前半飛ばしていた二人が力を溜めていたのだから。
だがそれを許す二人でもない。
このまま勢いに乗って京太郎君か野依プロが和了るか。
それとも瑞原プロやが咲ちゃんがトップに返り咲くのか。
全てはオーラス次第である。
そして迎えるオーラス、泣いても笑ってもこれがエキシビジョン最後の一局だ。
今最大の正念場を前にして熱気が充満する。
「京ちゃん、言っておくけど負けないからね。」
「ああ、手を抜いたら承知しねぇぞ。」
「悪いけど、この勝負決めさせてもらいます……!」
「負けない!」
やる気も気合も十分。
ボルテージが最高潮に上がっている。
意地でも和了るという意思がひしひしと感じられた。
きっと忘れられないくらい熱い一局になるだろうことを誰もが期待している。
そんな中会場に響く声が。
「……あ。」
「ツモ、500・1000……」
「……てへ☆」
僅か2巡目の事故ともいえる和了り。
しかも反応も和了りもパッとしないという何とも締りの悪い終わり方である。
そして結果はこんな感じだ。
瑞原プロが27200点。
野依プロが22500点。
京太郎君が25800点。
咲ちゃんが24500点。
空気読め瑞原ァ!
何そのしょっぱい和了りは!?
久保さんだったら確実にそう言ってるレベルの尻すぼみ感。
完全に会場全体が白けている状況である。
一応プロアイドル雀士なんだからエンターテイメント性というか魅せる闘牌を意識しないとダメだよ。
まぁそんな事やってる余裕がなかったのだろうけども。
結局何とも不完全燃焼のまま終わったエキシビジョンマッチ。
だがその後に起こった事件というか騒動が今年のインターハイで一番まずかった。
最終更新:2015年08月17日 20:55