天江選手が水を呼び、それに呼応して京太郎君が更に奥の手を出す。

インターハイ個人で結局使わなかった新技。

発想を転換した技。

私の名前は小鍛治健夜、小鍛冶ではなく小鍛治。

分かっているとは思うけど念のため、予め言っておく。

私が折り返し折り返し京太郎君を鍛えて、そして貼り付いた鉄。

それが今、力になる。

元々の京太郎君の力は炎。

だけど今まではそれを-にして相手に使っていた。

今度はそれを、炎の-の力を+に転化する。

要はロケットエンジンのようにブースターとして炎を使う。

その為の鉄。

鉄の外装を纏った鳥が火を噴きながら卓上を翔る。

まさに鉄火の鳥。

海に沈んだ火の鳥が、鉄火の鳥となって生まれ変わる。

海を突き破る加速力。

身を守る鉄の外装が水を弾く。

狙うは水の中の獲物。


「ロン、7700は8000。」

「俺の勝ちっすね。」


「くぅ~! 悔しいけど楽しかったし!」

「華菜ちゃん負けちゃったけど今度は勝つからな!」


「衣も楽しかった。」

「また打ってくれ。」


「あらあら、いいお友達が出来たわね、京太郎君。」

「華菜はいい子だからよろしくね。」


「ええ、また打ちましょう。」


明るく笑顔で返す京太郎君。

宮永姉妹と一体どこで差がついたのか。

環境?

しかし全員の顔が赤い。

あ、もしかしてさっきのオカルト同士のぶつかり合いかも。

上は洪水、下は大火事、これな~んだ?

つまりは湯中りみたいなものである。

私は4人に指示を出して休むように伝える。

麻雀で湯中りとは初めて見た。








しばらくして復活した4人が各々の卓に着く。

ただし京太郎君と天江選手は同じ卓? ようだ。

京太郎君が座ったところに天江選手が付いていき何かを聞いている。


「きょーたろ、知見の為に衣も随伴してもいい?」


「ええ、いいですよ。」


「では失礼するぞ。」


「……え? ……え?」


「衣はここがいい。」


「ここならきょーたろの手牌がよく見えるし修学にもなる。」


そういった天江選手は京太郎君の膝の上に座る。

ざわつく練習場、一点に集まるロリコン疑惑の目。

そして嫉妬などの謎のオーラ。

これは一波乱あるね。

そう思った矢先、京太郎君が着いていた卓に宮永姉妹と龍門渕選手がどっかりと着いた。


「京ちゃん、ちょっと打とうか。」


明らかに値踏みしているような目つきの龍門渕選手に、ニコニコしてるしているけど目が笑っていない宮永姉妹。


「きょーたろは負けないぞ!」


そして何故か京太郎君の膝の上いるせいか強気の天江選手が火に油を注ぐ。

これもうわかんないや。








京太郎君たちの対局はほぼ照ちゃんと京太郎君の速度合戦の鍔迫り合いだった。

咲ちゃんはスピードでは置いていかれたけどちょこちょこ掠め取って和了っていた。

問題は龍門渕選手、最初は強い対局者とあたってかなり冷たい雰囲気になっていたのだけれど途中から素に戻っていた。

後半は京太郎君と照ちゃんの雰囲気に流されてかなり熱くなっていた。

多分だけどオカルトが干渉し合って片方が発動しない状態だったんだと思う。

要は温まってて冷えなかったということだ。

色々あったけど結果としては京太郎君は2位、咲ちゃん3位、龍門渕選手ラスの照ちゃんトップである。

その結果を見て照ちゃんが変な事を言い出した。


「京ちゃん、罰ゲーム。」


「なんで!?」


「京ちゃんが負けたから。」


「俺二位なのに……」


「いいから早く。」


有無を言わせない照ちゃん。

理不尽だといいながら逆らえない京太郎君。

そのやり取りを見て笑っている咲ちゃん。

京太郎君を慰める天江選手。

やりとりそっちのけで対局の結果に落ち込んでいる龍門渕選手。

何とも言えない状況だね。


そして気になる罰ゲームの内容を照ちゃんが説明した。


「京ちゃん、うつ伏せ。」

「いつものやつ。」


「……はいはい。」






周りの人は気になるのか、チラチラと横目で見ながら成り行きを見ている中で照ちゃんが京太郎君に指示を出す。

京太郎君が渋々了解して部屋の隅っこの方に行き、床に肘を着いて上体を起こしたままうつ伏せになった。

照ちゃんはそのまま京太郎君の上に背中合わせの状態で寝転がって本を読み出した。

周りが若干ざわつく中、当の本人はどこ吹く風で気にすることもなく、ご満悦そうな照ちゃんが言う。


「京ちゃん座椅子は楽。」


「そうですか。」


京太郎君が肘を立てて上体を起こしてるおかげで照ちゃんは丁度よく首を起こして本を読めるらしい。

しかも京太郎君のお尻の所に照ちゃんの腰が来ておりお尻と腰の凹凸がフィットしていい感じとの事だ。

身長差22cmの奇跡、というのか健全な意味で体の相性がいいらしい。





ざわつく広間の中、咲ちゃんが二人の下へ向かい止めに行くと思いきや……


「お姉ちゃん、私もいい?」


「ん。」


お菓子片手に本を読んでいる照ちゃんが短く返答すると咲ちゃんが照ちゃんのお腹辺りに頭を置いて本を読み出す。

幼馴染みであるせいか行為自体に遠慮はないらしい。

3人とももうちょっと人目は憚ろうか。

京太郎君は巻き添えだけど二人を止めよう。

咲ちゃんは照ちゃんの案に乗っかるのをやめよう。

多分どこかから嫉妬の仮面が飛んでくるから。



対局が終わったのか加治木選手が私に近付いてきて聞いてくる。


「あの、小鍛治プロ、二人はそういう関係なのでしょうか……」


「ううん、付き合いが長いからってだけで別に付き合ってるわけじゃないよ。」

「ただ、あの三人は幼馴染だから感覚としては兄弟姉妹に近いんじゃないかな?」


多分そのはず、というか私の与り知らぬ間に教え子たちから「恋人が出来ました。」なんて言われた日には立ち直れない気がする。

私より先に恋人が出来るなんて絶対に認めないし、許さない。




ある程度堪能したのか照ちゃんが京太郎君を解放する。

開放された京太郎君は首や肩を回しながら対局を始めようとする始末。

そして突進して抱きついた天江選手に片岡さん。

再び集まるロリコン疑惑の視線。

多分今日の出来事で京太郎君の嗜好は確実にロリコンか貧乳だろうと思われているはずだ。

本人はおっぱい好きなのにね。

清澄のメンバーが控えめなのもその一端だと思う。








京太郎君が席を立つ。


「お手洗いに行ってきます。」


「大丈夫? 衣も付いていってあげようか?」


「大丈夫ですって。」


そのまま京太郎君は広間を後にした。

私はそれから暫く他の子達をみていたけど一向に京太郎君が帰ってこない。

トイレにしては明らかに遅い。

天江選手も何故かそわそわしていて頻りに扉の方を気にしていて落ち着かない。

なので私は少し京太郎君を探しに部屋を出た。

そこら中を探してやっと見つけたのだが、なんと彼らは厨房を借りて料理を作っているではありませんか。

ちなみに彼らというのは京太郎君と執事さんのことである。

どうやら二人は料理の指南と夕飯の追加料理を作っているようだった。

いくら待っても帰ってこないと思ったらこんな事をしているとは。

私は呆れて思わず京太郎君に声をかけた。


「京太郎君、何やってるの?」


「あ、健夜さん。」

「いや、俺って無理言って連れてきてもらった立場じゃないですか。」

「だからせめて何か役立とうと思って……」


「いやいや、君も練習しないといけない立場だよ。」

「だからそんなに気を使わなくてもいいの。」


昔、女の子に気を使えと宿題を出したがここまで効いてくるとは思わなかった。

もう少し加減とかを覚えさせるべきだね。

私が京太郎君に呆れていると執事さんが口を出してきた。


「申し訳ありません、小鍛治様。」

「私が須賀様をお借りしたばかりに迷惑をおかけしました。」


「いえいえ、俺が勝手にハギヨシさんの後を付いてまわっただけですから。」


「そうそう、京太郎君が勝手にやっただけだよね。」


お互いがお互いのフォローをしだした。

このままだと埒が明かないので私は提案をする。






「あ、じゃあ、私も手伝いますね。」


「いえ、監督である小鍛治様のお手を煩わせるなど……」


「健夜さんさっき自分で言っててそれかよ。」


「いいのいいの、乙女の心は移ろいやすいものだから。」

「それと最近料理の腕が上がらなくなってきたから教わらないとね。」


ここで料理を作っておかないと女子力が下がるとすこやんアンテナが受信した。

そして三人で追加の料理を作ることに。

しかし執事さんの腕は本物である。

京太郎君と私が手伝うほどがないほどに。

なので各々作ることにしたけど私たちは執事さんにアドバイスを貰いまくっていた。

漸く完成した料理を旅館の料理とともに運んで行く。

一品だけ明らかにクオリティが違う料理。

出された料理の中では間違いなくトップだけど周りの料理から浮いている感じはしない。

むしろ和食が並ぶ中、京太郎君が作ったタコスだけが浮いている。

クオリティで一番低いのは私と京太郎君の煮物と天ぷらだけどタコスが目を引いてるので気にならないだろう。

料理が運び終わると執事さんが目の前から消えた。

一瞬にして消えた、文字通り。

執事ってすごい、改めてそう思った。




ご飯を食べ終わると腹ごなしに卓球を打つことに。

京太郎君と片岡さん、宮永姉妹、染谷さんと私で打っていた。

京太郎君は長い手足を使って上手く拾っていく。

片岡さんは勢いだけで打っている。

宮永姉妹は言わなくてもわかるね。

染谷さんは運動神経がよろしくない私のレベルに合わせてピンポンをしてくれていた。

最初は清澄だけで打っていたんだけど途中からあれよあれよと人が増えていく。

気づいたら龍門渕選手と京太郎君が本気の卓球をしていてギャラリーは賑わっていた。

白熱した両者の試合が終わった後お互いの健闘を称えて握手をしている。

そのあとは天江選手や照ちゃんも交えて楽しくダブルスをしていた。

君たち麻雀打ってるときより賑わってるね。

いや麻雀は五月蝿くしたら駄目だけどさ。








そして夜も深くなり、私は今、久保さんや藤田さんとお酒を飲んでいる。

隣にはおつまみを用意した京太郎君に絡みながら。


「どうぞ、お酒の肴に。」


「いや、悪いな。」


「それにしても須賀は結構手際がいいな。」


「さっきハギヨシさんに色々教わったんですよ。」

「それにお酒のつまみとかよく作ってましたし。」


「ん? 親とかにか?」


「いえ、健夜さんにですよ。」


「普段小鍛治プロはしっかりしてる印象だったが意外だな。」


「だってこの人酒入った途端面倒臭がりになるんですもん。」

「普段はまぁしっかりしてますし、俺が小さいころも健夜さんにご飯作ってもらってましたけど。」

「素は結構そういう気がありますね。」






仕方ない、仕方ないよ。

私はこっちに来るまでおんぶに抱っこの干物女だったし。

しかし干物女三人が集まって干物を食べてる様は実にシュールだ。

まさに共食い。

お酒片手の久保さんが質問をする。


「須賀、今日の合宿はどうだった?」


「えっと、色んなタイプの人と打てて楽しかったですよ。」


「久しぶりに会えた人も居ますし。」


「うちの福路のことか。」


「ええ、同じ中学だったんです。」


「う~ん、福路はな……」


「面倒見も腕も良いんだが教えるのは向いてないのかもしれない。」


「え、そうですか?」


「教えるのは上手いんだがいかんせん優し過ぎると言うか甘いと言うか。」

「面と向かって欠点を言う厳しさが足りないから一人では教えるのは向かないな。」


何となく久保さんが言いたいことがわかる。

福路さんは人が傷付くのを怖がっている節があるから。

それは多分自分の過去にも起因しているものなんだろうけど。

私のように時には厳しく指摘しないといけないこともあるだろう。

しかし久保さん福路さんが卒業したらどうするんだろ?

福路さんが飴役だったのに対して久保さんは鞭役。

飴と鞭を使い分けるようにするのかな?






今度は藤田さんが質問してくる。


「京太郎、私や小鍛治さんと打ってどうだった?」


「いつも通りですね。」

「というか藤田さんとは割と打ってるじゃないですか。」

「たまには別の人とも打ってみたかったんで久保コーチと打てたのはラッキーです。」


「おー? 私と小鍛治さんじゃ不満かー?」


「須賀は普段小鍛治プロと打ってるのに贅沢だなー。」


そう言いながら京太郎君に藤田さんが絡む。

久保さんもそれに便乗する。

多分藤田さんはこういう答えがくるとわかっていて質問したのだろう。

結構意地悪だね。


「いやいや、そういうわけじゃないですけど俺たちいつも打ってるじゃないですか。」

「だから今回は別のプロとか来るかなー? って。」

「健夜さんはそういう繋がりないんですか?」


「んー?」

「大体のプロとは連絡交換したよ。」

「今でも連絡は取ってるし。」


「じゃあ何でまた……」


「先生として適正な人が居なかったんだよ。」

「単純に都合がつかなかったってのもあるけど。」


いやだってさ、生ケツはやりプロ(28)は結構キツイって。

九州プロ二人はまともに喋らないし。

三尋木プロはバレるかもだから絶対呼べない。

あとは赤土さんくらいだけど遠い。









そのあとも色々と麻雀関係の話題をしていたが唐突に藤田さんが話題を変えてくる。


「そういえば京太郎のロリコン疑惑はどうなった。」


「え? どういうことですか?」


京太郎君にとってはまさに青天の霹靂と言わんばかりの話題。

というか藤田さんのキラーパス。

話の意味がわかってない京太郎君に久保さんが補足をする。


「いやな、須賀が天江衣や片岡優希を侍らかして居るからロリコンなんじゃないかと疑われているわけだ。」


「侍らかしてなんか居ないですよ。」

「それに俺はちゃんと好みのタイプが居るんです。」


「ほー、どんなタイプだ?」


「家庭的な人です。」

「あとどこか放っておけないタイプもそうかもしれないですね。」


「ふむふむ、確かに天江や片岡にはなさそうなものだな。」


京太郎君、タイプの女性の中に胸の大きいという項目を敢えて言わなかったね。

まぁ、女しか居ない場所で「胸が大きいのが好きです」なんて言わないだろうけど。

更に弄る為か藤田さんが聞いてくる。


「じゃあ京太郎、この中で付き合えるとしたら誰がいい?」


これは京太郎君がどう答えても弄られる質問だ。

さあどう躱す?

だが思ったより早く京太郎君は答えを出した。




「健夜さんです。」


「はぇ?」


京太郎君からの不意のキラーパス。

指されるとは思わなかった私は変な声を出した。


「ほっほーう、小鍛治さんが好きとな。」


「ええ、俺は好きですよ、健夜さんが。」


「あはは、京太郎君口が上手いねー。」


「私たち完全に手玉に取られそうじゃないですか。」


みんな笑っていたし私も笑って誤魔化したが内心ビビリまくりですよ。

か、勘違いさせないでよね! 普段お世話になってるから姉みたいなものとして好きとかそういう意味なんだからね!

そんな言葉を貰って喜ぶのは小娘とモテないアラサー独身女ぐらいだからね!

ツンもデレも需要がないアラサーです。

宴も酣(たけなわ)になったので各々部屋に引っ込んでいった。

私たちも明日に備えて寝ることにする。

私は酔った頭で目覚まし時計を弄りながら京太郎君に聞く。









「『起こすの』何時にする?」


「ええっと……何で俺に聞くんですか?」


「私は先生だけど遅くまで寝る所存だよ。」

「それに京太郎君の方が起きるの早そうだから。」


「確かに明日はハギヨシさんの手伝いをしようと思ってましたけど……」

「だから『起こすの』は6時前でいいですよ。」


「早いね。」


「色々あるんで。」


そういえば前にこーこちゃんが泊まったときがあったんだけど。

そのときは『起こすの』では通じなかった。

京太郎君には通じるのは私の教育による賜物だね。

こーこちゃんはツボにはまって笑っていたけど京太郎君は笑わない。

ふと気になることがあったので京太郎君に言ってみる。


「そういえば執事さんってどこで寝てるんだろうね?」


「別に部屋を取ってるんじゃないですかね?」


「……案外パジャマにナイトキャップ被って寝てたりして。」


「ごふ……ふはは、やめてくださいよ、想像しちゃったじゃないですか。」


あの完璧執事さんがパジャマを着てその上可愛らしいナイトキャップを被って寝ている所を想像したらシュールだった。

そして私たちはいつの間にか眠りに落ちていった。









明くる朝、気が付くと京太郎君は既に着替えていた。

寝ぼけ眼の私に気づいた京太郎君が声を抑えて申し訳なさそうに言う。


「すみません、起こしちゃいました?」


「ううん……そんなことないよ。」

「これから執事さんのところに行くんだっけ?」


「ええ、練習に付き合ってくれる皆の為に何かしておきたいので。」


「私も支度したら行くから先行ってて……」


「はい、無理しないでくださいね。」


そういうと京太郎君は部屋を出て行った。

私も顔を洗い着替えると厨房に向かう事にした。

私が厨房に行き着くと既に二人はテキパキと動いて朝食を用意していた。

思っていたより軽食用の朝御飯が出来た。

しかしちゃんと昼までお腹が持つようなものである。

執事レシピのレパートリーは底が知れない。

旅館が出す朝食に紛れさせて皆が集まる広間に運ぶ。

数人は既に集まっており、そのほかの数名は未だに起きているのか寝ているのかわからない状態だった。

藤田さんはまだ寝ているのかもしれないが久保さんはしっかりピシッと起きている。

昨日久保さん結構飲んでたよね……

服装も何とも言えない状態だ。

風越と龍門渕は天江選手以外はちゃんと身嗜みを整えているが、鶴賀は若干危うい。

清澄到っては染谷さん以外は全滅、もう少し君たちは男の人の目を意識するべき。

じゃないと女子力が下がります。

というか普段異性の目がある共学より女子高の方がちゃんとしてるってどういうことだろう。

まぁ今回来た女子高はお嬢様校だしそれに久保さんとかしっかりした大人も居るからちゃんとしているのかもしれないけど。

……何か清澄の顧問である私が恥ずかしくなってきた。






起きてきた藤田さんを加え朝食をとり終わった後、片岡さんが京太郎君に不遜な態度でお願いをする。


「おい京太郎、タコスを用意しろ。」

「タコスがないと練習がままならないじぇ。」


「ったくしょうがねぇな、いくつだ?」


「15個ほどあれば大丈夫だじぇ。」


「わかったよ。」


「京ちゃん、甘いもの欲しい。」


「クレープで良いか?」


「ん。」


照ちゃんと片岡さんのお願いを受けて再び厨房に向かう京太郎君。

君はすっかり世話焼き体質になってしまったね。

暫くすると二人の来訪者が現れる。



「こんにちは! 優希先輩!」


「お久しぶりです。」


「おー! ムロマホ!」


どうやら片岡さんの後輩だったようだ。

片方はリボンをつけた可愛らしい少女とおかっぱ頭のコンビだった。

そこにちょうどよくやってきた京太郎君が疑問符を頭に浮かべて聞いてきた。







「健夜さん、あの子達誰?」


「片岡さんの後輩だって。」


「ふーん。」


京太郎君が気の抜けた相槌を打つとリボンの子がこっちを見た。

私たちと目が合うとこっちに近付いてきて挨拶をしてくる。


「こんにちは、須賀京太郎先輩に小鍛治健夜プロですよね?」


「こんにちは、世界一位の女小鍛治健夜です。」


「あ、ああ、確かに俺が須賀京太郎だけど。」

「俺たちどこかであったっけ?」


「いえ、須賀先輩のインターハイとインターミドルの個人を見ていたんです。」


「ああ、なるほどね。」

「俺の事知ってるなんて意外だな。」

「てっきり俺は無名だとばかり。」


「そんなことありません! 確かに今男子はぱっとしませんが須賀先輩の活躍はすごかったですよ!」


「お、おう。」


あの京太郎君が勢いに負けてたじたじである。

リボンの子はその後も語り出すが痺れを切らした片岡さんが口を挟んできた。


「おい! 京太郎!」

「タコスはどうした!」


「何そんなにキレてんだよ……」

「ちゃんと用意してきたぞ。」


「それは須賀先輩が作ったタコスですか?」


「ああ、優希にせがまれてな。」


「おいしそう……」

「あ、すみませんマホったら……」


「ん~……」




京太郎君が少し考えている。

だが数えたところでタコスは15しかないように見える。

間が空き、何か思いついたらしい京太郎君は口を開いた。


「えっと……そういえば君の名前聞いてなかった。」


「はぅ!? すいませんマホったら自己紹介もまだでした!」

「高遠原中学二年の夢乃マホです! 優希先輩の後輩です!」


「そっか、じゃあ夢乃さん、今俺は15個しかタコスを持ってないんだ。」

「優希が15用意してくれと言って来たからな。」


「そうですよね……」


目に見えて落ち込む夢乃さん。

だけど京太郎君は続ける。


「でももしかしたらタコスが増えるかもしれないからちょっと夢乃さんは祈っててくれないか?」


「はぇ? タコスって増えるんですか?」


「運がよければな。」


「じゃあマホは増えるのを祈ってます!」


「京太郎ー! タコスー!」


「俺はタコスじゃねぇって。」

「慌てなくてもちゃんと作ってやったから。」


そう言って京太郎君は片岡さんにタコスを渡そうとした。

だがその前に京太郎君があることを言い出す。





「優希、タコスがちゃんとあるか数えてくれないか?」

「何せ量が量だから数え間違いがあるかもしれない。」


「わかったじょ。」


京太郎君がそう言って片岡さんにタコスを渡しながら数を数えていく。


「1、2、3、4、5、6、7、8、9……」

「おっと、優希、今何時だ?」


「? 10時だじょ。」


「おう、ありがとう、11、12、13、14、15個。」

「ちょうどだな。」


「よし! タコス十五個貰ったじぇ!」

「これでタコスパワーフルチャージ!」


タコスを受け取った片岡さんが雀卓に向かっていった。

そして京太郎君は照ちゃんにクレープを渡した後、夢乃さんにタコスを渡す。


「ほい、夢乃さん。」


「増えてます! 須賀先輩って魔法使いなんですね!」


「マジシャンならそこにいるよ。」


「確かに僕はマジックは得意だけど……須賀君はマジシャンの逆位置に居ると思うな。」


「まさか古典落語で食べ物を増やすとはな、きょーたろの手口は見ていて愉快だったな。」


「こりゃ優希の算数の勉強増やさんといけんのう。」


トリックに気付いた何人かは笑いをこらえて口々に言う。

だまされた片岡さんは気付いていないようだった。

確かに国広選手が言うようにマジシャンとは逆位置に居るかもしれないね。

何せ天江選手が言ったように古典落語の滑稽話だったから。








そしてそれから京太郎君は三度厨房に引っ込んでいく。

戻ってきた京太郎君の手にはたくさんのタコスとクレープが抱えられていた。

それを皆に配っている。

君はもうちょっと自分の為に時間を割くべきだよ。

それから少し経って片岡さんが京太郎君に文句を言い始めた。

今更気付いたか。

だがそこを見越しての追加タコス。

ついでに夢乃さんにも上げていた。

それからは先輩後輩のことに関して室橋さんに謝られながら夢乃さんに懐かれている京太郎君。

片岡さん、天江選手、夢乃さんに懐かれて何回か卓を囲んでいた。

やはり集まるロリコン疑惑の目線。

京太郎君は報われないね。






それから更に暫くして池田選手、照ちゃんが入った卓でトラッシュトーク染みた事が始まった。


「宮永照はなんで須賀と仲がいいんだし。」


「小さい頃からの付き合いだから。」


「キャプテンとも仲がいいな。」


「美穂子とは同じ中学。」

「それとライバル。」


「ふふん、キャプテンとライバルなんておかしいし。」

「麻雀の腕はともかく女としてはダメダメだな。」

「そんな風にお菓子ばかり食べてるから女として成長しないんだし。」


「ご飯は食べてる、お菓子は別腹。」


「そんな事言ってるから胸が……」


「胸」という単語が出てきた瞬間ビシッと空気が固まる音がした。

あ。

確か照ちゃんの禁句だ。


「おい、そこの駄猫。」

「それ以上言ったら頭ホールドした上でコークスクリューする。」


「そんなことされたら華菜ちゃんの首が捩じ切れちゃうし!」


あーあ、怒らせちゃった。

所謂世紀末麻雀開催です。

池田選手は多分京太郎君と福路さんに関して照ちゃんに嫉妬してたんだろうけどおイタが過ぎたね。

あっという間に池田選手はトばされてしまいましたとさ。

そのあとトばされて凹んだ池田選手は京太郎君に慰められて復活した後、ジェラシーストームを発動した照ちゃんに再びトばされていた。

ああ、池田ァ……自業自得な部分もあるけど不憫だな池田ァ……











練習が一段落して、藤田さんが京太郎君にこんな事を言い出した。


「京太郎、相変わらずロリコン疑惑かけられてるのか。」


「俺のタイプとは違うんですけどね。」


「京太郎が好きなのは大人の女だったな。」


「久保さん、どうしてそうなるんですか。」


「昨日の話だろ。」


そう言いながら混ざった久保さん藤田さんは笑っていた。

数名がスッと立ち上がって抜かす。


「須賀のやつ、そんなに華菜ちゃんにメロメロなのか。」


「参ったな、きょーたろは衣の大人の魅力に酔ってしまったか。」


「全く仕方ない犬だじぇ、私の色気に発情するなんて躾が必要だな。」


貴女達じゃないから座ってなさい。

それとももしかしてツッコミ待ち?


「マホはこれからです!」


「私もこれからだもん。」


「私もこれからこれから。」


夢乃さんはわからないけど宮永姉妹は諦めなさい。

京太郎君はなんだかんだ言って胸で判断する子じゃないから。







夕食も例の如く追加した私達の一品料理が紛れ込む。

今日は合宿最後の夕食なので私達の追加料理もこれで最後だろう。

そう思いつつ敢えて黙っていたのを天江選手がこういう。


「やはりハギヨシの料理は美味しい。」


「ああ、やっぱりこれはヨッシーが作ったのか。」


「ヨッシーってあの執事さんのことか?」


「でも純君ぐらいだよ、ハギヨシさんのことヨッシーって言うのは。」

「僕達はハギヨシさんって言ってるのにね。」


「だがこの二つの料理がわからない。」

「ハギヨシとも旅館の料理とも違う。」


天江選手の言葉に反応して私と京太郎君はそろっと手を上げた。

それを見た天江選手は何故か納得した顔をする。


「やはりか、きょーたろは度々姿を晦ませていたからな。」


「私は小鍛治プロの手料理を食べていたんだ……」


「これがあの男の料理っすか……女として複雑っす……」


「ああ、敗北とはこんな感じなのか……」


何故かネタばらししたことによって色々な反応が返ってきた。

津山選手は何故か私の作った料理よく食べていた。

そんなにありがたいものなのかな?

あと女子諸君、京太郎君に女子力で負けた気分はどうかね?

一部を除いた女子は多分京太郎君に歯が立たないと思うけど。









夜も深くなり私は京太郎君とともに特訓をしていた。

よりオカルトを器用に使う為に。

途中天江選手が私達の下へやってくる。

しかしその表情は少し悲しそうだった。

だけど直ぐ様表情を戻して天江選手は進言してきた。


「尚も鍛錬しているのか。」


「ええ、俺はまだ未熟だし倒したい相手が居るので。」


「そうか、きょーたろでも勝てぬ相手がいるのか。」

「衣も手を貸すか?」


「本当ですか? 是非お願いします。」


「うむ。」


「私も打ちますわ、まだ借りが返せていませんもの。」


そう言ったのは龍門渕選手だった。

およそ天江選手を探しにきたのだろう。

面子が四人なら普通に打てばいい。

そうして暫く打っているうちに場に水が溢れて来た。

私はどうということはないけど京太郎君にとっては相性が最悪なのでいい縛りになるだろう。

今使えるのは弱体化した火の鳥と鉄火の鳥。

地の力が違うので普通に和了っているけど普通の子だったら気が滅入ると思う。

打っている途中私は京太郎君にちょくちょく嫌がらせをしていた(もちろん麻雀的な意味で。)がそれを何とか潜ってプラス収支で終わる。

相性が悪いので結局手抜きをしていたはずの私がトップである。

龍門渕選手到ってはわかりやすいくらい悔しがっていた。







打っているときは嬉々としていた天江選手がその表情に陰りを落としている。

私は少し気になり天江選手を観察していると本人から提案を出された。


「小鍛治プロ、少し外で衣と話をしないか。」


「うん、いいよ。」

「二人とも、ちょっと席を外すね。」


私達は京太郎君と龍門渕選手に告げたあと、外に出てベンチに着いた。

天江選手が月を見ながら口を開く。


「閨秀と名高い小鍛治プロと打てるとは、衣は稀有な体験をしたな。」


「そこまででもないと思うんだけどね。」


「聞くにきょーたろは小鍛治プロと日夜打っていると耳に挟んだ。」

「きょーたろは果報者であると同時に不幸にも思える。」


「不幸? どうしてそう思うの?」


「衣は閉ざされた世界から出たおかげで莫逆の友を得、知見を広めることが出来た。」

「宮永姉妹は近くに強いものが居る。」

「およそ好敵手と言える者も。」

「だがきょーたろはちがう。」

「今の男子に女子ほどの力量がない。」

「きょーたろには同性の好敵手も莫逆の友も居ないように思える。」


「でも京太郎君には宮永姉妹が居るよ。」


「確かにそうだ。」

「だが歳が近い、力も拮抗しているとはいえ、やはり男女の隔たりは大きい。」

「歳月を経て重みも増せば釣り合う者も現れるかもしれないが、それだと今度は歳の隔たりが生まれる。」

「きょーたろは何も知らないまま強くなりすぎた。」

「きっとこれからもきょーたろに釣り合う男は現れないだろう。」

「きょーたろはどうしようもなく孤独だ。」

「まるでかつての衣のように。」

「だから衣は、そんなきょーたろを放っては置けない。」








強さがなければ孤独になる。

だけど強すぎても孤独になる。

そんなこと、誰よりも私が知っているくせに。

強くなりすぎて、孤独になったら、麻雀から去っていってしまうかもしれない。

だから氷見木太郎なんて偽者を、居もしない幻像まで作ったのに……

……私、何やってるんだろうね。

おかしなことをしているとはわかっているのに止められない。

きっと私も彼もそのまま突き進んでしまう。

それが例え私がかつて歩いた道と同じだとしても。


「ただ、きょーたろが現状を幸せだと思えるのなら衣は何も言うことはない。」

「自分の人生を幸せかどうかを判断するのはきょーたろ自身だから。」


正しい道なのかどうかは私では決められない。

途中まで押し付けたのは私でも、決めるのは彼自身だ。


天江選手がベンチから降りて口を開いた。


「このような眠れぬ夜には透華が読んでくれる絵本に限る。」

「小鍛治プロもたまにはしてみるといい。」

「きょーたろが眠れぬ夜を迎えたなら読み聞かせてみるといい。」

「特に『2ぶんの1かいしんだねこ』は秀逸だぞ。」


「京太郎君はもう絵本は卒業しちゃったんじゃないかな。」


「そうか、それは残念だ。」

「とても良い物なのに。」


「そんなに好きなんだ……ねぇ、どんな内容なの?」


私は少し気になって絵本の内容を聞いてみた。

天江選手は嬉しそうに語ってくれる。






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猫の前には小さな箱がありました

箱の中に入るとパタリと音を立ててふたが閉まってしまいました


あわてて中からふたを押しましたが開きません


どこからか声が聞こえました


猫よ、お前の入ったその箱は上から石の重りを載せて開かないようにしてある


猫は驚いて言いました――


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これが天江選手から聞いた『2ぶんの1かいしんだねこ』の話である。

いつもそこまで聞いてはいつの間にか寝てしまうとのこと。


およそ『シュレディンガーの猫』と『100万回死んだねこ』の話が組み合わさった話だろう。

『100万回死んだねこ』とは何度も転生する猫の話でどの飼い主に飼われても好きになれなかった猫が野良猫になる。

やがて一匹の猫に惚れて番(つがい)となり子を成すと番の猫が死ぬ。

悲しみに暮れていると自分もやがて死ぬとやっと輪廻から外れたという話だ。

死んだはずなのにやっと開放された事によってめでたしめでたしという不思議な話。

私は一体いつになったら開放されるのだろうか。

私が猫と同様に百万回も人生を繰り返すだとしたら狂ってしまうかも知れない。

いや、もしかしたら既に狂っているのかも。


一度入り込んだ迷宮から抜け出せない私。

その起源はあの時起こった事件。

彼を初めて失った悲しみの傷。

きっと私は未だに癒えない傷を抱えて動けないままで居る。

まるで縛り付ける呪縛の鎖のように。


天江選手を送ったあと、京太郎君を拾って部屋に戻る。

今日で最後の合宿、明日には皆帰らないといけない。

京太郎君は何か得られただろうか?







朝が来て、隣に居る京太郎君を寝顔を眺めながら起きた。

彼がまだ寝ているということは意外と早く起きてしまったようだ。

私は京太郎君を起こさないように身支度をして着替えると彼は目を覚ました。


「おはようございます……」


「おはよう。」


「早いですね。」


「何か早く起きちゃってね。」


京太郎君が体を起こして身支度をし始める。

それが終わると合宿最後の朝食を作るために厨房へと向かった。

だがそこには執事さんだけではなく他の子も会している。

一体なんぞとも思ったが割りと普通の理由を聞かされた。

何でも「世話になってばかりは申し訳ない。」だの。

「執事さんから料理を学んでおきたくて。」とか。

「女として負けたくはない。」というものもあった。

龍門渕は井上選手が一番料理の手際がよかった。

風越は福路さんの独壇場。

鶴賀は蒲原選手が意外にも上手い。

清澄は咲ちゃんが得意料理の肉じゃが(ちゃんと肉もじゃが芋も入っている。)を作り。

染谷さんは朝は軽く済ませられるようなものを作っていた。

照ちゃんは隣でポリポリポリポリお菓子を食べ、片岡さんは京太郎君にタコスを作らせて食べていた。

竹井さんは何故か食品サンプルを持ってこようとしている。

もしかして料理下手かな?

そのあと皆で朝食を取るとお別れの挨拶をして各自帰宅することになった。

その際京太郎君が仲良くなった子から連絡先を貰っていた(主に胸の小さな子)

私たちも荷物と部員を乗せて帰宅することに。

一度学校に寄った後、竹井さんと染谷さんが学校で降りて分かれる。

次に片岡さんを送り、その次に宮永姉妹を送る。

最後に我が家に帰って合宿終了。

やっと一段落と言った所だろうか。

ほら昔から言うよね、家に着くまで合宿ですって。





家に着いたのが昼前だったのでそのまま須賀家にて昼食を取ることに。

長旅の運転だったので京太郎君が昼食を作ってくれることになった。

私はというと居間でのんびりしている。

勝手知ったる須賀家で我が物顔しながら部屋を見渡すとあるものに目が行く。

私の目に留まったのは一つのアルバムだった。

京太郎君に聞いて閲覧の許可を貰う。

アルバムには京太郎君と私や須賀さんが写っている物が多かった。

割と最近までの物も多い。

ページを捲って行くと京太郎君が中学生の頃、小学生の頃、幼稚園の頃とどんどん遡って行く。

そして京太郎君が幼児くらいの頃に差し掛かった頃、そこには幼児の京太郎君を抱えている女性が写っていた。

傍らには須賀さんが写っている事もある。

正に幸せそうな家族といったところか。

更に遡ると京太郎君の両親の写真になって行く。

夫婦の写真、須賀さんが同僚の人と写っている写真。

果ては須賀さんが消防士になりたての頃の写真など。

更に遡ると個別の写真が入っていた。

多分結婚する前の写真だろう。

付き合ってる頃より前の写真。

須賀さんが大学生や高校生の頃の写真も入っていた。

そしてそれは京太郎君の母親の写真も。

私は京太郎君の母親が高校生の頃の写真を見て眉を顰めた。

どこかで見たことがある。

思い出して思い起こして掘り返して記憶を整理する。

あともう少しで思い出せそうだ。

そしてやっと辿り着いた記憶。

そこで気が付いた一つの答え。







京太郎君のお母さんって……もしかして……


しかし私が知っている彼女とは明らかに年齢が違う。

もしかしてこの世界での彼女は私よりもっと前に生まれていた?

そうじゃないと京太郎君は産めないはずだ。

彼を産むには年齢が足りないのだから。


「……やさん、健夜さん、健夜さん!」


「え?」


「さっきから呼んでたのに……」


不意に思考の世界から現実に戻される。

私が考えを纏めている内に京太郎君が昼食を用意して何度か声をかけてくれていたようだ。


「あ、ごめんね、ちょっと考え事してて……」

「それよりご飯食べよっか。」


私は謝って京太郎君の手料理を食べることにした。

食べてる途中、京太郎君の母親に関して情報を模索しようとも思ったがやめた。

既にこの世にいない彼女のことを知ってどうなるというのだろうか。

私は彼女の正体がわかったのでそれ以上彼女のことについて調べないことにした。






それからインターハイ全国までの間に猛特訓をする。

主に片岡さんと染谷さんと竹井さんの三人を重点的に。

京太郎君達はうちのチームの暇な後輩等を宛がわせて置いた。

藤田さん頑張れ。

やることがあるときは月日が経つのが早く感じる。

待ちわびる日は長く、過ぎ去る日は短い。

アインシュタインの相対性理論の例えはよく言ったものだ。

気が付くとあっという間に全国が迫っていた。

私は東京の会場近くのところに宿泊施設を予約して皆で出立することに。

途中宮永姉妹が行方不明になりかけたり、片岡さんがタコスがないとぐずったり。

照ちゃんも便乗してお菓子を要求してきたりで全国舞台への緊張感なんて微塵も感じさせない。

大丈夫かな、このチーム。

今度からこのチーム清澄のことを豚汁と呼ぼう。

咲ちゃんの得意料理が豚汁だったはずだし。

各部員を具材で例えるなら……

まぁいいや、そこは。











インハイの抽選で一悶着。

豚汁内で誰が抽選に行くかで揉めた。

というか竹井さんがごねた。


「ああ~緊張してきた……」


「落ち着いてください部長。」


「だって私全国なんて初めてだもの。」

「……そうだ!」

「誰か私の代わりに行って来てくれない?」

「咲なんて籤運よさそうだし、どう?」


「え~……」


「咲に行かせないでくださいよ部長。」

「探す破目になるの俺なんですから。」


「だって私籤運ないもの! そうだ! 照が行ってよ!」


「久が部長、久が行くべき。」


「まぁ久が行くべきじゃろうな。」


「まこまで……行く気ない?」


「このカバチタレ、さっさと腹括れ。」


「だってー……」


さっきからこんな感じで竹井さんが駄々をこねている。

結局竹井さんが行くしかないんだけどね。

あんまりにも緊張してるので誰か付いていってあげようか? と聞いたら

「宮永姉妹と同じみたいで嫌。」と宣っていた。

この子も大概めんどくさいなぁ……





抽選会で竹井さんが動く。

まるで今にもギコギコと音がしそうなくらい緊張して固まっている。

清澄が抽選をする番になり呼ばれる。

引いた場所はBブロック上の方。

つまりインターハイ三日目に清澄の出番が来る。

三日目まで何をしてようか。

しかし竹井さんが抽選を引いた瞬間、会場の一部がどよめいた気がする。

ただの気のせいかな?









インターハイ初日。

東京に来たけど仕事しなくていいのは楽だなぁ。

いや解説の仕事がないのが嬉しいだけで先生の仕事はするけどさ。

とりあえず調整は必要ないだろうし打ちたいなら部内で打てばいいし。

私はゴロンとベッドで寝転んでいます。

そうそう、部屋割りなんだけど前回と一緒です。

京太郎君は私と同じ部屋。

女子部員はまとめて同じ部屋。

京太郎君に関しては個室を与えてもよかったんだけどそれだと寂しいから。

あと私が動かなくても京太郎君が動いてくれるし。










インターハイ二日目、私はだらだらする。

途中皆でご飯食べに行ったけどそれ以外は私はだらけていた。


インターハイ三日目、照ちゃんが先鋒を務める全国初戦。

照ちゃんは各校から5万点ずつ削っていく。

続いて竹井さん、ピンポイントに弱いところを叩いて相手校トび終了。

結局片岡さんまで回らなかった。


インターハイ四日目、今日はだらだらする。

生徒は打ってたりお菓子食べてたり。


インターハイ五日目、今日はちょっと変えてだらだらする。

たまに私も入って打ったりタコス食べてたり。