二月に入って私はデパートに出向いていた。

明日は京太郎君の7歳の誕生日なのでそのプレゼントを買いに来ていたのだ。

だが周りは少し早めのバレンタインムードである。

独り身にはキツイ雰囲気だなぁ……

そういえばここのデパートは真新しく見えるのだけれど昔からここにあるらしい。

何でも何かの理由で全面改装したとのことだ。

きっちりとした防災設備がやけに印象的だった。

そうだ、この間京太郎君の手がすごく冷たかったから手袋とか防寒具を買ってあげよう。

私は子供サイズの手袋やマフラーを買ってデパートを出た。

そういえば須賀さん、今年はちゃんと休みを取れたのだろうか?





そうして向かえた彼の誕生日当日。

須賀家へ出向くと出勤する準備をしている須賀さんが居た。


「あ、小鍛治さん……」


「もしかしてこれからお仕事ですか……?」


「ええ、本当は祝ってやりたいんだけどこればかりは……」


「折角の日曜なのに……」


「せめて休日くらいは京太郎君と一緒に居てあげられるようにしてください……」


「一般的に人が休むときには休めない、それが俺たちの仕事だから……」


分かってる、仕事だってことは。

でもやっぱり京太郎君のことをもうちょっと気にかけて欲しい。

せめて誕生日くらい一緒に祝ってあげるくらいの余裕くらいは作ってあげて欲しかった。

聞きたかった事、言いたかった事、色々有った。


「京太郎君にお母さんが居ないのは分かってます。」


「だからあの子には貴方が必要なんです。」


「どうしてそこまで頑なに仕事を優先するのかは分かりませんがもうちょっとだけ京太郎君のことを見てあげてください。」


こんなとき京太郎君のお母さんが存命ならと思う。

そんな私の気持ちに気付いたのか須賀さんが重要な話をしてきた。


「……以前京太郎の母親が死んでいることを話したよな。」


「はい……」


「実は京太郎と妻はデパートに出向いていたんだけど、そこで火災が発生した。」

「そこははしご車や放水等では届かなかったくらい高いデパートだったんだ。」

「そしてそれが原因で救助に遅れが出て上の方の火は徐々に大きくなっていった。」

「見る見る煙は上の方に昇っていってデパートに取り残された人たちを巻き込んでいった。」

「漸く俺たちが救助に入れた頃にはあいつは倒れていて……」

「あいつは、俺の妻は、逃げ遅れた子供一人と京太郎を庇う様に死んでいた。」

「俺の妻は最期の最期まで、子供を護るために母親であり続けたんだ。」





この間行ったデパート、そういえばやたらと防災に関して注意するように書いてあった……

もしかしてそこに関係あるのだろうか……

尚も須賀さんは続ける。

まるで自分に言い聞かせるように、若しくは告解をするように。


「俺は……一番助けたかった人を助けられなかった。」

「鍛えていれば、あとほんの1メートル先で救助を待っている人に手が届くかもしれない。」

「鍛えていればもっと多くの人を助けられるかもしれない。」

「だから俺は鍛えているんです……」

「俺や京太郎みたいに大切な人を失う人が少なくなるように。」


多分だけど、須賀さんは助けられなかった後悔からしているんだ。

それが雁字搦めの鎖になって須賀さんを縛り付けている。

きっとそれが須賀さんが背負った十字架。

自ら背負った十字架。




「……すまない、京太郎の事を俺の代わりに祝ってあげてくれ。」

「京太郎は俺より小鍛治さんに懐いているくらいだから小鍛治さんが居てくれれば京太郎も喜ぶと思うんだ。」

「それとこれ……」


「これは……」


「誕生日プレゼントなんだけど、渡せる雰囲気じゃなくてね。」

「代わりに渡しておいてくれ。」


「……はい。」


「それじゃあ行って来る。」


須賀さんはそう言って包みを私に寄越してから家を出て行ってしまった。

私はどこか須賀さんは冷たい人だと思っていた。

でも須賀さんは冷たい人ではなかった。

むしろ静かに熱く、まるで熱せられた鉄のような印象を受けた。

ただ須賀さんの熱は京太郎君に向かうことはなく、京太郎君のお母さんの命を無慈悲に奪った火災というものに向けられていた。





家の居間に入るといかにも不機嫌ですという表情をした京太郎君がいじけながら座っていた。


「残念だったね、お父さんと一緒に居られなくて……」


「いいよ、いつもそうだったし。」


「お父さんは仕事だけど私と誕生会しようよ。」


「うん……」


そう言って京太郎君を宥めながら買って来たケーキに蝋燭を刺して火を灯す。

火を全部点けると京太郎君に促した。


「さぁ京太郎君、蝋燭を吹き消して。」


「う、うん……」


京太郎君は少し戸惑いながらも蝋燭に息を吹きかけ火を消した。


「七歳のお誕生日おめでとう、京太郎君。」


「ありがとう、お姉さん。」


「あ、そうだ、お誕生日プレゼントがあるんだった。」

「こっちは私から、そしてこっちはお父さんからだよ。」


「お父さんから?」


「うん、須賀さんが出かける前に私に預けて行ったの。」

「ほら、早く開けて?」


「うん。」







京太郎君がプレゼントを開けていく。

まずは私からの贈り物から。

包みを開けて出すとマフラーを首に巻き、手袋を填めた。


「あったかい。」


「よかった、サイズ合ってるね。」

「次はお父さんの方を開けてみようよ。」


「結構重い……」


そう言いながら京太郎君は須賀さんから渡された包みを開けていく。

中から出てきたものはケースだった。

更にそのケースを開けると中には麻雀牌のセットが入ってあった。


「麻雀牌かー。」


「うん、前にお姉さんとしてるって言ったから。」


「それで須賀さん京太郎君専用に牌を……」

「……あれ?」


少し一般的な麻雀牌と違うところがあった。


「あ、イーソーのマークがお姉さんのとちがう。」


「これは……鳳凰だね。」


麻雀牌は孔雀の意匠を用いることが多いのだけどこの牌は鳳凰の意匠を用いられていた。

京太郎君はそれをじっと見た後、私の方に向き直り言ってくる。


「お姉さん、あとでこれで打って。」


「うん、いいよ。」

「でもその前にケーキ食べちゃおうか?」


「うん。」


こうして二人でケーキを食べた後、誕生日プレゼントで麻雀を打った。

誕生日なのにずっと麻雀を打っていたが喜んでいたのでまぁそれもいいかと思いながら誕生日を祝った。











――二回生――


三月が過ぎ、大学二回生になった私は車の品定めをしていた。

田舎で車はかなり重宝するので欲しいのだけど今一琴線に触れるものがなかった。

この間須賀さんに相談してみたものの冗談だとは思うが消防車と言われた。

どうしようかと思いながら悩んでいるとフォルクスワーゲンが目に入った。

……ないな、何か縁起悪そうだし。

でも軽とかならかわいいし取り回しやすそうだから良いかも。

そういうことを先輩に話していたらこんなことを言われた。


「京太郎と遊びに行くためか?」


「それもありますけど不便なんですよ。」

「よく須賀さんから車借りたりして運転してるんですけどやっぱり自分の車を持った方がいいかなーって。」


「何か完全に家族状態だな。」


「え……」


家族と言われるとどうなんだろうか。

確かに京太郎君はべったりだし誕生日の件もあって須賀さんともそこそこ会話するようになったけどまだ溝を埋められてない気もする。

少しどこかに遠出してみてもいいかもしれない。

その為にも車があったら便利だなぁ……

車どうしよう。

色々意見を聞いて結局おすすめの軽になった。








須賀さんを誘ってみたが仕事があっていけないとのことだった。

仕様がないので咲ちゃんを誘って京太郎君と三人で遊びに行く。

この車の名前はRitz(リッツ)日本だとスプラッシュって言う名前だけどこっちの方がしっくり来るからインドの名前で呼ぶ。

今回は遊園地に来た、そこで三人分の入場料を払って(フェレッターズからチケットを貰ってた)入ると人も疎(まば)らだった。

ここら辺は子供が少ないのだろうか。

まず最初にジェットコースターを選ぼうとする子がいたがもう片方は乗り気ではなかった。

で、何とか小さめではあるもののちゃんとしたジェットコースターに乗ったものの今私は若干グロッキー気味で……

小さい頃は絶叫系とか大丈夫だったのになぁ……

その次はティーカップに乗って咲ちゃんと京太郎君が猿の如く回して私は更に気持ちが悪くなる。

そのあと少し休んでメリーゴーランドに乗って休む。

須賀さんが来れなかったのは残念だけど二人が楽しそうで良かった。

その次にお化け屋敷に行ったら咲ちゃんは完全に泣いてた。

京太郎君は「あんなの作り物だから。」と言って完全に冷めていた。

もしかして君のそれはフォローのつもりかい?

最後に迷路にでも行ってみようかと私が誘う。

京太郎君は若干苦虫を噛み潰したような顔をしていたがその前にもじもじし始めた咲ちゃんをお手洗いに連れて行った。

そして一人で出来ると言った咲ちゃんをお手洗いに残して京太郎君の所に戻った。

それから十数分が経つも中々戻ってこない。

お手洗いに一回戻って様子を見てこようとしたとき迷子のアナウンスが聞こえる。


「長野からお越しの宮永咲ちゃん――」


完全にあの子の名前だった。

ちょっと待って、迷路に入る前に迷うってどういうこと!?

急いで迎えに行ったら涙目の咲ちゃんが申し訳なさそうに待っていた。

係員さんが私を見て反応する。


「あのすみません、咲ちゃんを迎えに来たんですけど。」


「あ、はい、咲ちゃん、お母さんが来たよ。」


なんですと!? 私が7歳の子持ちに見えるの!? 私まだ10代だよ!

結局訂正すると面倒くさいのでそのまま咲ちゃんを引き取って迷子センターを後にした。

迷路には行かず他の所を楽しみながらその日は帰った。





今日は珍しく誰も来ずゆっくりしていたのでTVを見ていた。

チャンネルをザッピングしていると知り合いの顔が映った。

赤土晴絵。

何か知らないけどいつの間にかプロになっていたようだ。

でも本来なら赤土さんはまだプロになってないはずなんだけど……

……ああ、そうか。

インハイで私とぶつかってないからか。

あの時はひどいことしちゃったなぁ……

まぁ今更気にしても仕方ないことなのかもしれないけど。

夕方前に京太郎君がやってきた、誕生日に貰ったお気に入りの麻雀牌を持って。

そしてまた今日も夕飯を一緒に食べて麻雀を教えて、一緒に寝る。

こうしているとあのときを思い出して懐かしむ。

前よりは大きくなった京太郎君の意識と共に夜の帳は落ちていく。






夏になり面倒臭いシーズンに入る。

この時期プロたちは鎬を削って覇を競い、オリンピック出場枠を巡って争う。

フェレッターズもそれは例外じゃなかった。

漸く入ってきた新人の子を鍛えて戦力にするために事務所は躍起になっている。

余り私を巻き込んで欲しくないなぁとも思いつつも私目当てに来てくれた人を邪険にするわけにも行かず後進の育成を手伝わされていた。

京太郎君や咲ちゃんと同じように麻雀を教えるわけにも行かず、正直麻雀教えるのはダルイと思った。

スカウトさん最初に言ってた契約内容と違うじゃないですかー、やだー。





家に戻って京太郎君に麻雀を教える。

日課と言うか日々の癒しである。

今日の京太郎君の席はいつもの指定席だ。

咲ちゃんが居ると私の膝の上に座ろうとしない。

女の子の前だからといって意地張らなくて良いんだぞ~?


「お姉さん、ここはどうした方がいいの?」


「あ、ここはね……」


あ~やっぱり京太郎君や咲ちゃんに麻雀教えている方が性にあってる。

まだまだ発展途上だから教えたいことは一杯だしやらせたいこともあるけど子供故に素直に伸びてくれる。

まるで砂が水を吸うように覚えていく様は教えている方も気持ちがいいものだ。






結局新規の人が一定基準のところまで育ってくれず私が個人で出ることになる。

そもそもこんな短期間で実力を伸ばすというのが土台無理な話であって私は悪くない、現にうちの教え子はちゃんと実力を伸ばしているんだから。

個人出場枠の方は手なりで打っていたらいつの間にか出場選手になっていた。

赤土さんとは出場枠が違ったから搗ち合わなかったけど出来れば久々に打ってみたいものだ。

個人で頑張るのは教え子二人に少し良い所を見せたいというのが本音ではあるが、同時に私を楽しませてくれる人が居るかどうかを確認するのも重要である。

そうして迎えるリオデジャネイロでの東風フリースタイル戦。

もし相手がつまんない人だったら軽く千切って世界貰ってきますか。







まぁ……その……色々ありまして……


取っちゃったよ……世界……


どうしよう、世界取ったら誰も打ってくれないだろうからこの世界から足を洗う気だったのに事務所抜けるに抜けられないじゃん。

世界タイトル取った人間が即座に引退宣言とか面白いよねとか思いつつ打ってたけどよくよく考えれば周りがそれを許してくれる訳ないよね。

あー……どうしよ……

……そうだ、京太郎君に麻雀教えて嫌なことは忘れよう。

うん、そうしよう。






夕飯に肉じゃがを作っていたときのこと。

私は京太郎君にお袋の味と言うものを知ってもらいたくてお袋の味の代表格、肉じゃがを作ることにした。

まずじゃが芋・人参・玉葱・牛肉・サヤインゲン・しらたき・白菜を下準備。

サラダ油を敷いて玉ネギがしんなりするまで炒める。

次にしらたきと人参投入。

全体的に油が絡んだら白菜を足して水分を出す。

白菜が柔らかくなったら出し汁をひたひたになるまで注ぐ。

出し汁が煮立ったら中火にして灰汁を取る。

10分ほど経ったら竹串で刺して確認。

そのあと時々混ぜながら煮詰めて汁が少なくなってきたらサヤインゲンを追加して一回混ぜて一煮込み。

そして火を止めて少し待ったら完成。

更に盛り付けて食卓に並べる。

あれ、なんか忘れている気がする……

まぁいっか。


京太郎君が食卓に着き、食べている。

美味しいと言ってくれてほっと一安心。

私も料理に箸を付けていると京太郎君が聞いて来た。


「お姉さん、これ何て言う料理?」


「肉じゃがだよ?」


「え……?」


京太郎君が何故か戸惑っていた、自分が食べた肉じゃがとは違ったからだろうか?

料理を見ながら考えているとあることに気付いた。

と言うか致命的なミスをした。


「……あ、お肉とじゃが芋入れるの忘れてた。」


「肉とじゃがいもがない肉じゃがってなに……?」


今回のは和風ポトフってことで……

……ダメ?








今日この日、私は大人になります。

さよなら十代、お久し振り二十代。

ということでお酒を堂々と呑める年になりました。

京太郎君の前じゃ飲まないけどね。

ある日、咲ちゃんと京太郎君が家の前で立っていた。

京太郎君は涙目になりながらそのままに放心して、咲ちゃんは泣きながら謝っている。

京太郎君、その濡れた背中と黄色い液体はどうしたの?

私は何かを察して咲ちゃんの着替えを用意してあげた。

京太郎君、君は悪くない。

咲ちゃん、貴女はもうちょい早めに用を足そうね。





咲ちゃんや京太郎君に麻雀を教えて結構経つ。

そろそろお年玉争奪戦で勝てるんじゃないかな。

そう思いながら迎える年末。

須賀さんは例の如く仕事で居ないので私は京太郎君と一緒に実家に帰った。

電話で事前に連絡しておいたが一応京太郎君に挨拶させる。


「すが京太郎です、お世話になります。」


「あらぁ、ちゃんと挨拶できるのね、えらいわ。」


「あ、お母さん、私この間リオデジャネイロに行って来たんだけど……」


お母さんには開口一番リオデジャネイロの事を言おうとした。

だが返答は……


「健夜、お土産は?」


「ええ~……自慢話くらいさせてよ……」


世界一位の権威なんてこの人には関係なかった。

娘の栄光よりブラジル土産だった。

お父さんは京太郎君の相手をしながら頻りに呟いていた。


「いやぁしかし……娘婿が来る前に孫が来るなんて……たまげたなぁ……」


いやいや、気が早いってお父さん。

とりあえずブラジルの自慢話をした。

南米の主婦層では「女としてはあの中では8番目。」とか言われてたらしいけど……

世界一位ですよ。

「危うく三位になるかもしれなかったけど」と言ったものの、ぶっちぎりの世界一位ですよ。

……これ私の鉄板ネタにしようかな。





正月が明けて家に戻ったら程なくして咲ちゃんがやってきた。

だが何処となく陰鬱な感じだった。

大負けしてお年玉を取られたのかなと思って聞いてみるとどうやら違ったみたいだ。

むしろ勝って前より増えたとのことだった。

ではどうして暗い顔をしているのか。

それは勝ちすぎて反感を買ったみたいだった。

おいおい、普段お年玉を取っておいて勝ったら怒るってそりゃないんじゃないの?

咲ちゃんが今にも泣きそうな顔をしながら聞いてくる。


「すこやお姉さん、私どうすればいいのかな……」


勝ったら怒られる、負けたらお年玉を奪われる。

応えに困窮した私は何とか知恵を絞って思いつき、答えを出した。


「勝っても負けてもいけないなら勝ちも負けもしなければいいんだよ。」


「? どういうこと?」


「要は±0にしちゃえばお年玉を取られないし怒られないって事だよ。」


「本当?」


「うん、とりあえず私がお手本を見せてあげるから。」


うん、今私良い事言った気がする。

幸いにも私には学校のとき目立たなくするための±0にしていたそのノウハウがあるのだし。

まぁこれで咲ちゃんの悩みも解決。

私って結構頭良くない?


「咲ちゃん、お姉さん、早く麻雀やろうぜー。」


だから君はもう少し間を読もうか。








そうして始まった±0特訓。

最初は中々上手く行かなかったけど咲ちゃんは嶺上開花を使って±1~2ぐらいまで調整できるようになった。

そういえば私も昔はやったなぁ、点数調整。











長野で雪が降って雪掻きに追われる頃、須賀さん・私・京太郎君の三人で雪掻きしていた。

京太郎君は私が去年贈った防寒具を着けて雪掻きをしている。

そろそろ京太郎君の手袋とかボロボロだよね、買い換えなきゃ。

今年は他にも何か買ってきてあげたほうがいいだろうか。

須賀さんともちょっと相談しよう、プレゼントが被ったら嫌だし。

とある休日、家から隣を見ると須賀さんが穴を掘っていた。

サイズは須賀さんの膝くらいの深さで広さは3畳くらいだろうか?

一体あの人は何をやっているんだろう……

暫く見ていると見るからに屈強な男の人たちがやってきた。

ウホッいい男たち……じゃなくて、多分須賀さんの同僚だろう。

その人たちが大きめの機械を置いて須賀さんの手伝いをしている……のかなぁ?

何かホース繋いだりして掘った所を固めてる。

それが終わるとその人たちは帰っていったが須賀さんは尚も続ける、訳が分からない。

あ、そういえば須賀さんに相談しようと思ってたんだ。




須賀さんが何かやっているところに行き、話しかける。


「須賀さん、何してるんですか?」


「ああ、小鍛治さん、ちょっと京太郎にサプライズを。」


「もしかして誕生日の?」


「そんなとこ。」


よく見たら須賀さんは汗をかいている。

須賀さんのかいた汗、須賀さんの汁、男の汁。

略して男汁。

なんかイイ。

いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないね。

そのあと少し須賀さんの手伝いをしながら相談をした。

須賀さんすごいことするなぁ……





迎えた京太郎君の誕生日当日。

京太郎君の家に行き、お祝いする。

私は先に帽子と手袋を渡す。

先に渡しておかないと須賀さんのプレゼントのインパクトに負けるから。


「京太郎君、お誕生日おめでとう。」


「ありがとう。」


そう言いながら帽子をかぶせる。

実はこれ、私とお揃いなのだよ。

もしかしたら姉弟に見えるかもね。

絶対親子なんて言わせない。




続いて須賀さんが外の庭に誘導してブルーシートが掛かった所に案内してくれた。

須賀さんがブルーシートを引っぺがすとそこにはビニールハウスとその中にプールがあった。

これはなんぞ?というような表情をした京太郎君。

よくよく中を見てみると何か生物が居る。


「お父さん、何これ?」


「カピバラ、そしてそのカピバラの家。」

「プールはボイラーに繋がってるから温水も出る。」


「お父さんすげぇ……」


うん、すごいよね、長野のファイヤーマンは。

いや、須賀さんがすごいのかな……


「京太郎、カピバラの名前はどうする?」


「う~ん……」

「あ、お姉さんも一緒に考えて。」


「うん、いいよ。」


カピバラ、カピバラ……バラ……


「ばら肉……」


「「え……」」


「え……だめ?」


「そんな名前ってないよ……」


「ばら肉って……」


親子二人に変な顔をされた……

今日始めて知った、私こと小鍛治健夜はネーミングセンス0だった。

結局名前はカピーになりました。









次の日、京太郎君がやってきた。

いつも通り麻雀を打っていると京太郎君が聞いてくる。


「お姉さんの誕生日っていつ?」


「え? 私の?」

「私は11月の7日だよ。」


「ふんふむ、お姉さんの次の誕生日にはお祝いしてあげるね。」


「その時はお願いします。」


最近京太郎君が大人びてきたなぁと思いつつ麻雀を教えてあげた。

京太郎君の打ち方は大分安定して和了れるようになってきた。

基本はデジタル、時にアナログにロジカルを使い分ける。

一応彼にもオカルトはあるんだけど上手く使いこなせていない。

まぁこれは気長に育てて行こうか。

その後は途中から咲ちゃんも家に来て三人で打っていた。










――3回生――


冬も過ぎて春になり、私も三回生になった。

受ける講義の内容も本格的になり早い人だと今年度の後半あたりから教育実習を受けるものもいるらしい。

そういえば私、適当に教育学部って取っちゃったけどどうしよ。

小中高のどれがいいかな、今の内に考えておかないと。





最近フェレッターズからの呼び出しが多い、繁盛しているのはいいことだけどすごく面倒くさい。

これで必要単位落としたらどうするのかと聞いたら「その時はうちに就職すればいいじゃない。」と言って来た。

うわぁ……勘弁願いたい。

ある日咲ちゃんがやってきた。

その顔は暗く、いつも安穏としている我が家には珍しいと言えば珍しかった。


「どうしたの咲ちゃん?」


「あの……私、お姉ちゃんと麻雀打ってたんですけど……」

「±0にしてたことがバレちゃって……」

「それでお姉ちゃん怒っちゃって……」


あ~……ばれちゃったか……

でも勝ったら怒る、負けたらお年玉没収、その上±0でも怒るってもうどうしようもないじゃん。

家で打つのは止めた方がいいかもしれないね。

楽しく打つんなら家で打ってもいいんだし。

そんな旨を伝えたら咲ちゃんは頷いて家で打っていた。

しかし宮永家どうすればいいんだろう、赤の他人が口を挟むわけにも行かないしなぁ……






そうだ、最近のことを忘れないように日記でも書こう。

そう思って日記帳を買ってきて書き記す。


6月17日

今日は京太郎君に麻雀を教えてあげた。

いつもやっていることだけど日々の成長が楽しい。

最近はもう膝の上に座ってくれなくなってくれたのは寂しいけどそれも成長だと思うと複雑ではある。


6月18日


今日は咲ちゃんと一緒に京太郎君と打った。

咲ちゃんは嶺上開花ばかりしていた。

京太郎君もオカルトに目覚めてきている。


6月19日


今日は晴れでした。



8月23日


今日は暑かった。





10月15日


飽きた。









埃を被った日記帳を見つけて思ったことがある。

結局私は三日坊主でした。

なんだよ、『今日は晴れでした』って……

根本的な所で変われてない私はやっぱりダメな大人かもしれない。









単位を早めに取るため教育実習を受けることにした。

教育実習は小学校は大体4週間、中学・高校なら大体3週間ほどで済むらしい。

さて、どっちも取る予定だけど小学校はどこがいいかなー。

近いところがいいよね、通いやすいし。

うん、良い所があった、ここにしよう。


行き着いた所は長野小学校の4年2組。

私は子供たちに自己紹介する。


「少しの間ですが今日から実習生として通う小鍛治健夜です、皆よろしくね?」


ざわめく子供たち。


「なぁあの人って……」


「ああ、確か世界一位の小鍛治プロだぜ……」


「俺前に中継で見たんだけどさ、相手がかわいそうだったぜ……」


「あ、あたしも見た、イメージで言うなら惨劇の血祭り会場って感じだったよね……」


子供たちの間に風評被害が飛び交う。

私はそんなに怖くないよ……


「なぁ、俺たちも下手したらロン(物理)にさせられるんじゃ……」


「ありえるな……とりあえずあの先生にだけは逆らっちゃいけない、俺の本能がそう言っている……」


こんなことでは挫けないぞ!

あ、咲ちゃんがいる。

京太郎君は別クラスみたいだけど。

いやー、同じ学校だなんて偶然だなー。

……頑張ろう。











放課後、咲ちゃんと京太郎君に話しかけられた。


「お姉さん、実習生って本当?」


「うんそうだよ、あとここでは先生だからそれに相応しい呼び方でお願いね?」


「んじゃ……健夜さん?」


「京ちゃん、健夜先生の方がいいんじゃないかな?」


「それもそうか。」

「これからよろしくお願いします、健夜先生。」


「こちらこそよろしくお願いね。」


なんとか上手く行けばいいなー、教育実習。










京太郎君と咲ちゃんが家に来ていた。

何でも二人でお小遣いを出し合ってケーキを買ってきたらしい。

誕生日を祝ってもらえるのは嬉しいものだ、来ても嬉しくない誕生日が楽しいものになるなんて。

実は私もケーキを買ってきていた、しかもホールで。

まぁ3人で食べれば食べきれるでしょ。

京太郎君からは可愛らしいコンパクトミラーを渡され、咲ちゃんからはポプリを貰った。

これはあれかい? 暗にもっと女を磨けと言う二人からのメッセージかい?

まぁ二人に限って他意はないと思うけど。

素直に嬉しいと言って受け取ることにした。






何事もなく過ぎた二週間、というか私の近くでは何も起きなかった、が正しいのか。

そういえば冬休みに実習期間が丁度終わるようになっているけど咲ちゃんの問題も何とかできないものだろうか。

後で咲ちゃんに相談してみよう。


咲ちゃんと相談した結果、お正月に私が乗り込むことになった。

ふふふ、久々の代打ちだ。

相手の態度次第ではすこやん暴れちゃうゾ☆

そして元旦当日。

時間を見計らって私は咲ちゃんに招かれて宮永家へ招かれた。

ついでに京太郎君も付いて来てる。

咲ちゃんのご両親が私を見てギョッとしていた。

私は透かさず自己紹介アンド前口上を上げる。


「雀卓の牌が輝く陰で、惡の笑いがこだまする。牌から牌に泣く子供の、泪背負って宇宙の始末。」

「銀河雀士スコヤン、お呼びとあらば、即、参上。」


「貴女は……!」


「3年2組担当教育実習生、小鍛治健夜。」

「咲ちゃんの代打ちとして来ました。」


決まった。

決め台詞決まった。

若干皆呆然としているけど私の格好良さに目を引かれたのだろう。

そして驚いてる間に強引に話を進めて麻雀を始める。

まぁ結果は想像の通り、宮永さんたちは自らの行為の間違いに気付き、涙ながらに謝ってくれた。

よかったよかった。

若干子供たちが引いてたけど気のせいのはず。

やめて! そんなダメな大人を見るような目で見ないで!

私じゃなくて宮永さんに向けてよ……







てんやわんやあった正月だがその後から咲ちゃんのお姉ちゃんが来るようになっていた。

何でも連れてきてしまった咲ちゃんの話曰く……


「お姉ちゃんが『京ちゃんと一緒に教えてもらうなんてずるい。』って言って……」


その子が狡いと思ったのは京太郎君と一緒の部分なのかそれとも私から師事を受けたことなのか。

当の本人は全くもってマイペースである。

咲ちゃんのお姉さん、照ちゃんは突如こんなことを言い出す。


「おままごとしたい。」


小学5年生がおままごと?

きっと麻雀漬けの人生でそういうことをやったことがなかったんだね。

照ちゃんは尚も続ける。


「京ちゃんは旦那さん。」

「私奥さん。」


「ああ、うん。」


まぁここら辺は分かる。

男の子は京太郎君しか居ないわけだし。

だがここからが問題だ。


「咲は猫。」


「え……」


何で猫? せめて子供とか妹とかじゃないの?

照ちゃんは容赦なく私にも役を振ってきた。


「健夜さんは京ちゃんのお母さん、しかも継母。」


え~……なんで高がおままごとにこんなドロドロ設定を突っ込むかなぁ……

なんて私が考えていると照ちゃんが音楽を掛ける。







選曲を何故それにした……

この子の考えていることが良くわからない……






照ちゃんの寸劇おままごとが始まる。


「あなた、おかえりなさい。」


「ああただいま。」


「ご飯どうする?」


「外で済ませてきたよ。」


「……誰と?」


「会社の人とだよ。」


「ふ~ん、その人女の人だったんだ。」


「何も疚しいことはないって。」


「嘘だッ!!!」


「何だよそんなに大声出して……」


「どうせ咲って女と厭らしい事してたんでしょう!?」


ええ……どういうこと?

ここで訳がわからないといった感じの咲ちゃんが入ってきた。


「あ、お姉ちゃん……」


「あんたね!? あんたが京ちゃんを誑かしたんでしょう!?」

「この泥棒猫!!」


咲ちゃんの猫ってそういう意味なの!?

そしてその言葉を受けた咲ちゃんが速攻で返していく。

身代わり早いね……


「京ちゃんを満足させられない奥さんに問題あるんじゃないですか?」


「くっ……言わせておけば……!」

「京ちゃんは私が居ないとダメなの!」

「京ちゃんは私さえ居ればいいの!」


「ええ~……」


全く着いていけない私を横に寸劇は進んでいく。

暫くしてその寸劇が終わると人が変わったように麻雀を打っていた。

君たち役者になれるよ、うん。








それが終わるとまた音楽が掛かる。

また君(照ちゃん)かぁ……(雰囲気が)壊れるなぁ……

そしてまた寸劇が始まる。


「お義母さん、味付け如何でしょうか?」


何かいきなり振ってきたー!?

仕方ない、ここは乗ってやるか。


「…………濃い。」


「ごめんなさいお義母さん……」


「京太郎君にこんなもの食べさせる気?」


「作り直します。」


「いいわよ、私が作るから。」

「それより京太郎君の方はいいのかしら?」

「最近帰りが遅いみたいじゃない。」


「それは……」


「貴女がしっかりしていないから京太郎君が他所に女を作ってるんじゃないの?」


「京ちゃんはちゃんと帰ってきます、私の元に。」


「どうだか……」


「本当は知っているんです、お義母さんが京ちゃんのこと男して愛していることを……」

「でもお義母さんは京ちゃんのお養母さんだから……」

「でも昨日見てしまったんです……京ちゃんとお義母さんが一緒に寝ているところを……」


何だその設定!?

ええい、もうどうにでもなれ!


「……そうよ、昨日京太郎君と寝たわ。」

「勿論男女の仲としてね。」


「そ……んな……」


「残念ね、貴女……女としても妻としても誰にも勝てていないのよ。」


「ひどい! お義母さんのこと信じていたのに!」

「これも須賀家の妻としての役目だと思って我慢してたのに……」


何だこれ。

この寸劇が終わると姉妹は帰っていった。

満足したか、ちなみに私の心は疲れてボドボドダ……













教育実習が終わり、二月に差し掛かった。

もうこんな時期か、季節の移り変わりは早いね。

何を用意しようと思っていた矢先、電話が掛かってきた。

げぇ……チームからだ……

仕方なくフェレッターズに顔を出すとチームに泣きつかれた。

またか、またなのか。

君たちはいつもそうだ、自分たちの尻拭いを私に押し付ける。

たまには私に頼らないで勝って欲しいよ……

あーもう、誕生日プレゼント買う暇なくなっちゃうじゃん!

対局が終わったころには夜も更けていた。

どうしよう、京太郎君のプレゼント……

事務所で考えていると最近入ってきた自動雀卓が目に入った。

これだ。

事務所の社長に許可を貰って捨てるはずだった古い自動雀卓を貰って車に詰め込む。

車の免許持ってて良かった。


当日京太郎君に渡したらすごく喜ばれた。

須賀さんには申し訳なさそうにされたけど捨てるものだったから気にしないようにしてもらった。

ただ同然の雀卓が手に入るなんて役得だね。

まぁ元々雀卓がなかったから麻雀マットでも贈ろうと思っていたんだけどちょうどよかった。

いざ打ってみようと思って来ていた宮永姉妹と私と京太郎君で席に着く。

だが照ちゃんがあることを言い出す。


「あれ? 牌は?」


「あ……」


自動雀卓用の牌を忘れていたことに気付いた。

今度追加で持ってきます。


「健夜さん詰めが甘い。」


照ちゃん、そんなことは重々承知ですよ……

結局その時は京太郎君のお気に入りの牌を使って手積みで打った。













――4回生――


4回生になってすぐに高校の教育実習を受けて単位を取得する。

あとは暢気に構えていればいいレベルで単位は取得した。

だが相変わらず佐久フェレッターズから電話は来るし、照ちゃんには寸劇おままごとをやらされる。

勿論その後にはちゃんと麻雀を教えています。

最近咲ちゃんのオカルトが余り伸びず、アナログ面デジタル面が成長している。

一方京太郎君はその逆で、デジタルをそこそこにオカルトを開発している。

照ちゃんの方も新たなオカルトを伸ばしている最中。

私個人としての印象としては……

咲ちゃんは花。

照ちゃんは鏡。

京太郎君は火? ってところかなぁ……








さて冬季オリンピックの季節でございます。

私はやっとこさ育った事務所の後輩たちを率いて団体戦と個人戦に出場しました。

えー……結果だけ言うとですね、団体戦は3回戦敗退。

個人戦は東風・半荘フリースタイルで二つとも優勝。

何だこの差。

またワンマンチームとか言われちゃうよこれ……

そういえば前回の世界2位さんは現れなかったけどどうしたんだろ?

後で調べてみよう。

後進育てないとどうしようもない。

あー……私事務所抜けられるのかなぁ……

抜ける予定はないけど。

実際のところ引き抜きの話は来てるんだけど一応断ってる。

だって今の事務所、家から近いんだもん。







ジメジメとした時期が過ぎ、ふと思い出したことがあった。

あとで調べよう調べようと思っていたこと。

私は大学にあるPCの電源をつけてインターネットなるもので検索する。

えっと……ソニア・メルタ 麻雀 世界二位 っと。

あったあった、んー何々……

…………なんだと……?



あの世界二位……





結婚してやがった!








私に負けて以来スランプに陥ったけどそんな時フランス人のイケメン彼氏にプロポーズされただぁ?

なんだそれ! なんだそれ!! なぁ~んだそれ!!!

試合にも勝負にも勝ったけど女として負けた!

私なんかそんなフラグなかったよ!

というか世界一位のときは結婚しなかったじゃん!

貴女私と同じで喪女仲間だったじゃん!

何で負けたら結婚できるのさ!

ん? ということはつまり私が負けて傷心状態だったら男が寄ってくる可能性が微れ存……?

でもそもそも私に勝てる人が居ない……

よし……わかった。

今度元世界二位に会ったらお祝いしてあげるから覚悟してよ!









季節は更に移り変わって秋になる。

この頃めっきり冷え込んだなぁと思いつつ家に帰ると京太郎君たちが来ていた。

そういえばこの子たちの中に私の仲間が居ます。

と言うよりも私が引き摺り込もうとしているんだけど。

咲ちゃんは順調に喪女として育って行ってるし、照ちゃんも咲ちゃん同様、行かず後家のお局様の風格が出てきた。

かわいそうだなぁ、二人ともこんなにかわいいのにー。

二人とも良い人と結ばれて普通に結婚出来そうなんだけどなー。

でも残念ながら抜け駆けは許さない。









少し時期が経ち、私の誕生日になった。

その日は三人が来ていたのでケーキ1ホールはすぐに消えた。

が、何かおかしなことが起きた。

ケーキを切るときである。

照ちゃんがお姉さんだからと言ってケーキにナイフを入れた。

きっちり四等分。

確かに四等分だったはずなのだが……


「ずるいよおねいちゃん、自分の分ばっかり大きく切って。」


「おなじ、どっちもおなじ。」


ちょっとまった、何で切ったそのケーキだけサイズが違うの? ビッグになるライトでも使ったの?

切る前は同じサイズだったよね!? そこに誰もツッコまないの!?

私の誕生日だと言うのに君たちマイペース過ぎるよ! 特に照ちゃん!

ケーキの印象がすごすぎて誕生日に貰った安産祈願のお守りにツッコむ余裕はなかった。






何事もなく正月が来る。

そして元旦には三人が家にやってきた。

君たち自分の家の方はいいのかい?

宮永家の年始行事を壊した私が言うのもなんだけどさ。

京太郎君はカピバラを連れてやってきた。

君も好きだね、私も好きだよ、その悩みがなさそうな表情が。

あ、そうだ、お年玉をあげよう。

でも素直に渡すのも面白くないから何か条件をつけよう。


「皆、打とうか、お年玉をあげるから。」

「半荘打って私に勝った子は点数の分だけお年玉あげるよ。」


「健夜さん、それ本当?」


「あ、う、うん。」


うわぁ……宮永姉妹の目の色が変わったぁ……

すごく獰猛な野獣みたいな目をしてる……

私からはお金取らないけどあんまり負けると癪だから程々の手加減にしてあげよう。

結果と言えばまぁ若干ムキになった私と言えば想像が付くと思うけどちゃんと加減はしましたし、お年玉もあげました。

三人とも私の掌の上で転がされている感じは分かってただろうけど。

何せきっちり点数調整しちゃったから不自然な点棒差になってしまったから。










そして毎年恒例の京太郎君の誕生日。

そういえば前回防寒具を贈れなかったので今年はちゃんと贈ろう。

そうだ、今回は手編みのマフラーに挑戦してみよう。

私は編み棒と毛糸を買って家で勉強しながら編んでいた。

結構面倒くさい、というか上手く行かない。

時間に余裕はあるけどこのペースでは間に合わないので大学や事務所でも編んでいた。

周りから声が聞こえる。


「あの小鍛治さんがマフラーを編んでる……」


「もしかしてあの小鍛治さんにもついに彼氏が出来たの……?」


いや、違うってば。

これは近所の子供にプレゼントするようだってば。

ていうかなにさ、"あの"小鍛治って。

失礼しちゃうなもう。

確かにそういう相手は居ないけど……








迎えた2月2日。

完成した物をちゃんと渡した。

京太郎君が首に巻いて笑顔でお礼を言ってくれた。

わぁ……ごめんね……実はそれ、結局お母さんに泣きついて完成したんだぁ……

照ちゃんが本を、咲ちゃんが手作りの栞を贈る。

なぜ本を読まなそうな京太郎君に本を贈ったのかと聞くと、宮永姉妹曰く「自分が貰って嬉しいものを贈った。」らしい。

それっぽいけど結構自分本位な感じが……

というか照ちゃん本より好きな物がありそうだけど……ついで照ちゃんに聞いてみた。


「ねぇ、麻雀と本、どっちが好き?」


「……麻雀かな?」


「じゃあ麻雀と京太郎君は?」


「京ちゃん。」


「……最後に京太郎君とお菓子では?」


「う~ん……う~ん……」


照ちゃん……そんなに悩むことなのかな……

京太郎君=お菓子>麻雀>本なのに何故お菓子を贈らなかったのだろうと思ったがすぐに無くなるから本の方がいいよね。

あ、そういえば今年卒業だけど就職どうしよう……





就職に関してなんやかんやありまして、教員免許の取りに行ったわけですが……

高等学校の教員免許は取れたが中学校までは無理だった……

なんもかんも単位取得の邪魔した佐久フェレッターズせいだ!

なので佐久フェレッターズを脅し―― 協力して貰って、県から中学校の臨時免許を発行してくれるようにお願いした。

殆ど八つ当たりのダメもとの無茶振りだったが何故か発行していただけた。

ビバ長野の地元パワー。

就く学校どうしよう、とりあえず近くの中学校に行ってみようかな。

世界一位です! とか言えば面接すっ飛ばして受からないかな?







結局のところ近くにある中学校に行って講師になることになった。

講師なら教員免許いらない……

わけでもないんだよね、これが……

まぁ講師の勤続は一年までだからそのあとは助教諭になって臨時免許フル活用しようかな。

臨時免許の有効期限3年までって話だけどどうしよう……

いざとなったら特例を認めさせるかな。


新任講師としてとある中学校に赴任してきまして。

入学式すごく緊張した。

まさか先生側に立って挨拶することになるなんて前は思わなかったよ。

それにしても初々しいと言うか何と言うか小学校から上がって来たばかりの子供たちがかわいらしいもんだ。

そのあと新入生に対する部活紹介などもやってその日は半ドンで終了。

学校楽だな。

と思ってた時期が私にもありました。

担任持ってる先生結構忙しそうだ。

私講師でよかった~。

といっても私は私で受け持ちがあるんだけど。

それは部活の顧問。

受け持つ部は言わずもがな、麻雀部である。





実は現在、教員免許を持った外部顧問状態。

フェレッターズがどうしてもと言うから社長が校長に相談してこういう形になった。

ワンマンすぎるのも問題だよねぇ……

本来ならつくばプリージングチキンズでのんびりやってるはずだったんだけどなぁ……

京太郎君がいるからこっちでいいやって思ったのがことの始まりだよね。

それで現在プロとしてもそこそこ活躍しないといけないわけだけど。

でも折角教員免許取ったんだからちゃんと先生として働いてみたいなぁ……

藤田さんが来るまでお預けかなぁ……

そういえば藤田さんが佐久に来るのって京太郎君たちが高校入るころかその1年前くらい?

うわぁ……めんどくさ……というかしんどい。





気の早い子供たちが部活動を見に来る。

実は私が受け持つ麻雀部は今日から設立されました。

なので現在部員は0人。

放課後になったときに私は麻雀部の部室の中で椅子に座って待っていた。

その日にまず来たのは照ちゃんだった。


「こんにちは健夜さん……人居ないね。」


「今日発足したばかりだからね。」

「元々部員なんて居ないわけだし、仕方ないよ。」


「大丈夫なの?」


「何とかなるんじゃないかな。」

「それより誰か来るまでお菓子食べる?」


「食べる。」


お菓子に関しての反応だけは即答だった。

この子は本当にマイペースだなぁ。