思い出を抱えていると生きるのに不便だ。

それが眩しければ眩しいほど。

私はずっと続く牢獄の様な道を歩いている。

死ねない。

消せない。

外れない。

抜け出せない。

そんな道をずっと。

そして……きっと、これからもずっと……








朝、目が覚める。

まず確認することがあった、起きて手や足を見る。

華奢な体。

およそ11~12歳くらいだろうか。

またここからかと思いつつカレンダーの日付を確認した。

やはり思った通りの年だった。

中学に上がる前の私。

麻雀を始める前の私。

まだ彼は産声を上げていない。

そして私の退屈になるかもしれない人生が始まる。









――中学一年――


(中学かぁ……どうしようかな……)


私は中学へと上がり、どう時間を潰すか悩んでいた。

やはり麻雀でもやるべきなのだろうか。

茨城の片田舎中学に集まる面子なんて高が知れてるから、私は一人でこつこつ何かやることになるけど。

とりあえず顔だけ出してみようかな……

部室のあるところに歩を進めてみる。

中には十人程の男女が居て卓を囲んでいる。

私に気付いた女子が声をかけてきた。

一応私よりは年上だろうか。


「貴女入部希望者?」


「えっと……見学……ですね。」


「そう、よかったら実際に打っていってね?」


「あ……はい。」


果たして私が入って打っても良いのだろうか?

まだ肉刺すら出来てない手を見て躊躇った。





「ほらほら、実際に打ってみようよ、楽しいよ?」

「あ、その前に麻雀の役とかわかる?」


「えっと……はい、一応。」


「じゃあ大丈夫だね。」

「名前は何て言うの?」


「小鍛治です。」


そう言って始まった対局。

辿辿しい運指の子も居ればしっかりと打つ子もいる。

多分半荘に一回和了れば問題ないか。

カチャカチャと牌が擦れる音がする。

子供らしい少しうるさくて幼稚な会話を聞き流しながら適当に打っていた。

私は外から見て不自然に見えないようにわざと裏目を引いたように見せて打った。

まともに打ったら碌なことにならないのは眼に見えて分かっていたから。








オーラス。

私はツモで削られて18300点になっていた。

別にこのまま負けても良いんだけどそうするとお節介な女子が関わって来そうな気がしたので適当に和了っておくことにした。


「立直。」


10巡目に立直をかける。

大体次の巡目に何が来るのか予想は出来ている。


「ツモ、立直・一発・平和・ドラドラ。」


無いとは分かっているけど一応裏ドラを確認する振りはしといた。


「裏はないから3000・6000。」


「うわ、まじかよ。」


「私は逃げ切り一位!」


「お前らはいいじゃん、俺焼き鳥だぜ?」


「あはは、ざまぁ。」


終局後、中学生らしい和気藹々とした会話が流れていた。

ああ、それにしても麻雀が退屈だ。

でもだからといって本気で打つわけにも行かないので手を抜いて打ってるわけで。

先ほど誘ってきた女子が声をかけてくる。


「ねぇ、どうだった? 麻雀。」


「え、面白いですね。」


とりあえず取り繕っておいた。

実際のところ入部とかどうしようか。

いっそのこと周りの子を鍛えるかな……

そう思いながら次に打った局の点数は29600だった。




何だかんだあり一応は入部した。

でも基本的にはマネージャーの真似事みたいなことをしながらだった。

皆が打ってる所を余所に牌を磨きながら何となく卓を見る。

あの子とあの子は筋に弱いとか。

あの子はちょっと立直を多用しすぎかなとか。

そんなことを思いつつ雑用をしていた。

対局が終わり、一息吐いた所にそれとなく促す。

牌譜を書いていて気付いたとか、そんな体で。

経験上言ってしまえば雑用より麻雀指導の方が楽だ。

前に子供教室の先生を請け負ったことが活きているのだろうか。

というか雑用の方が大変。

今までの人生全てお母さんや彼に面倒見てもらっていたから家事などの女子力が皆無だった。

今更気付かされた、雑用ってこんなに大変だったのか。






インターミドルの季節になって部内の士気が上がる。

どうやら彼(女)らは優勝目指して頑張ろうとしているみたいである。

私も時たま卓に着いては30000点前後を行ったり来たり。

そして3位4位になった子にアドバイスをしておいた。

そうすることでメンタルケアにもなるし、部全体の実力をあげることが出来るからだった。

そしてそれが終わると再び雑用に勤しむ。

私マネージャーに向いてないんじゃないかなと思い始めた。

家事をやるお母さんや彼に感謝したくなった。











インターミドルに行って戻ってきたとき。


「小鍛治さん、ありがとうね。」


「え?」


感謝の言葉を貰った。


「小鍛治さんのアドバイスや雑用のおかげで私たち良い所まで行けたし。」

「だからお礼を言っておきたくて。」


「そんなことないよ、皆が頑張ったから準決勝までいけたんだよ。」


「それでもお礼、言っておきたかった。」


「あ、俺も、小鍛治のおかげで全国行けたんだから。」

「去年なんて県予選敗退だったし。」

「小鍛治には礼を言っておきたい。」


「あたしもあたしも!」


次々と男女問わずにお礼を言ってくれた。

人からお礼を言われた久し振りな気がした。

恨みがましい目や怯えた目で見られたことは数え切れないほどあるが心の伴ったお礼はいつ振りだろうか。

彼も雑用をしているときこんな気持ちになったのだろうか?

それは本人に聞いてみなければ分からないけど、今となっては聞き様が無い。







とある日、家に戻りお母さんの手伝いをする。

その内お父さんも帰ってくる。

家はこの三人で暮らしている。

ただ、私としてはお父さんもお母さんも知らない、私の弟が家族の中にいないのが寂しい。

彼とは、あんなに一緒だったのに。

今でも私の隣は少し寒い。








最初彼は私の弟だった。

そのときはあくまで義理であり、血の繋がりなど無かったが。

だけど目一杯可愛がったし、面倒も見てあげていた。

そしてその弟を失ってから私の輪の中を歩む人生は始まった。

次に彼はどこかの御曹司だった。

そこでの彼は母親を失って色々傷付いていたけど気付いたことも築いたものもあった。

途中助けてあげたいとも思ったけど彼は自分で立ち上がる強さがあったし周りの協力もあって立ち直った。

だから私の手は必要なかった。

その次は誰かの彼氏として出会った。

そのときは彼自身が立ち直るのではなく、むしろ支える側に彼の立場はあった。


何回も過ぎていく人生。


きっと……私一人だけ、世界に置いてけぼりなんだ。








ああ……神様は残酷だ。










――高校一年――


高校に入っても麻雀部を続けた。

そこでもマネージャー紛いのことをしていた。

ただそこは女子高で、しかも私を含めて5人しかいない麻雀部だった。

なので私は雑用をしながらインターハイの選手としても出場しなければならなかった。

今の私は一年生だし頭数を揃えるための要員なのでそこそこの活躍をすればいいだろう。

そんな想いだったが三年生である部長に大将を押し付けられてしまった。

何を思って私をそこに置いたのかは不明だった。

私はあくまでマネージャーポジションを強く主張していたつもりだったのだけれど。

先行逃げ切りのための大将なのだろうか、それとも気まぐれや弱小麻雀部の記念出場だからと思って適当に決めたのだろうか。










インターハイ前日に部長から呼び出された。

そのとき部長は私が纏めていた牌譜を眺めて部室で待っていた。


「あ、小鍛治来てたのか。」


「はい、えっと……それで何の用ですか?」


「ん? いやちょっと小鍛治と本気で打ってみたかったからさ。」


「私なんかと打っても面白くありませんよ。」

「それに私とはいつも打ってるじゃないですか。」


「まぁ確かに打ったことはあるよ、手を抜いた小鍛治とはね。」

「牌譜、みたよ。」


部長には見抜かれていたようだ。

しかし何処でバレたのだろうか。

牌譜で分かるようなうち方はしていないはずなのに……


「なんで部長はそう思うんですか?」


「点数。」


「え?」


「小鍛治の打ったときの牌譜、中学とかのも遡って見たんだけどさぁ……大体が29600~30600の間なんだよねぇ。」


それがどうしたのであろう。

特段上手くない人だったらそのくらいはおかしくないとも思えるのに。

少なくとも打ち方で分かる迷彩のレベルでは無いはず。


「いや、小鍛治さぁ……一回も振ってないんだよねぇ。」

「防御重視かなとも思ったけどそれにしても毎度2位の収支±0はおかしいじゃん。」


「え?」


部長から牌譜を受け取り目を通してみる、確かに収支が±0だった。

今更気付いたが余り目立たないために打ってた手抜きがよもやこんなことになろうとは。


「で、小鍛治はなんで本気で打たないの?」


「本気出したら色々と壊しちゃいますから……」


「ああ……なるほどねー。」


どうやら部長は理解してくれたようだ。


「だったらインターハイでは適当に打って適当に勝ってくんない?」


「本気出さなくていいからさ。」


「それでいいなら……」


「んじゃよろしくー。」


なんとも適当な部長だった。

まぁでも都合は良かった。

部内で打つときは適当に勝ったり負けたりしとけばいいのだから。

あれ、そういえば打ってみたかったって言ってたのに打ってない。

結局、事の真実を確かめたかっただけだったのか。







そして翌日のインターハイ。

適当に打っていた。

失礼な話だがインターハイの県予選程度では遊びで打っていた。

大将戦で如何に100点だけ勝って一位抜けするかをやっていた。

つまり相手が100000ならこっちは100100で抜けて行くのだ。

それでもかなり簡単だったが。

部長以外は「ひやひやした。」とか「ギリギリで勝ったねー。」とか言ってた。

当の部長はなんかニヤニヤしてた。

そのあと全国に行ったが準々決勝では珍しく本気を出そうと思っていた。

赤土さんと久し振り打つなぁと思っていたが阿知賀の名前が無い。

しまった、一年早かった。






準々決勝、若干今は劣勢である。

副将戦に差し掛かると部長が意気揚々と言ってのける。


「ちょっと相手校トばしてくるわー。」


そう言って部長は出て行ったが戻ってきたときには凹んでいた。


「ごめん、大将まで繋げんかった……」


何だろう、このお約束感……

その後お詫びということで部長のおごりでラーメンを食べて帰った。

夜中にこってりとしたラーメン食べても体形の心配しなくてもいい女子高生の体最高。

いや、まじで。








翌年のインターハイ。

ついに阿知賀がやってきて瑞原プロや野依プロとも(今はまだぷろじゃないけど)とも打てるのか。

そんな思いでやってきたけど後続が事故ると怖いので今回の先鋒の私はトぶ寸前かトばしておいた。

阿知賀や朝酌、新道寺とも当たったけど件の三人は先鋒じゃなかったので会わなかった。

そしてそのまま優勝。

手を抜いたら裏目るし、楽しみにしていても裏目る。

何なのもう。












――高校三年――


進路を考えてなかったので担任の先生に呼び出された。


「なぁ小鍛治、お前進路どうするの?」


「えっと……実は何も考えてないです……」


「……一応お前の学力だと普通に受験しても受かるだろうし特待制度もあるからそっちからでも大学に行ってもいいと思うぞ。」


「麻雀プロの道もあるだろうし悩むとは思うがちゃんと考えておけよ。」


「お前の人生はお前のだけの物だから先生としては好きな道を選んで欲しくはあるが。」


生まれてこの方麻雀以外でお金を稼いだことが無い私は大学に行ってプロデビューか大学等を行かずにプロデビューしか選択肢が無かった。

そこで私はほんの思いつき言ってしまった。


「長野の大学に……教育学部に行きます。」


「何でまた教育学部に……しかも何で長野なんだ……」


「えっと……先生みたいになりたいから?」


「それで先生になって子供に麻雀を教えるとかか?」


「そういうことです。」


我が事ながらかなり適当なことを言ってしまった。

若干嬉しそうにしている先生には申し訳ない気分だ。









――長野――


高校卒業とともにやってまいりました長野へ。

一人暮らしに不安は残るもののお母さんたちにはきっちり太鼓判を押された。

やっててよかった部活の雑用とお母さんの手伝い。


小中高は4回分勉強したが大学は初めてだ。

まぁ何とかなるよね……

そして今日から私の城になる借家。

城と言うにはちょっとぼろっちいけど一人暮らしに一軒家は贅沢だから文句は言わない。

というか長野は土地が余っているらしく近くに良いアパートやマンションが無かった。

とりあえずご近所さんに挨拶しておこう。

えっとまず隣の須賀さんの家に挨拶しておこうかな? かな?

あっれれー? おっかしいぞー? 隣が須賀という苗字とはきぐうだなー






インターフォンを鳴らすと年は30近いであろう男の人が出てきた。

ナイスミドルだがおじさん臭さはなくむしろ若々しい。

どこかのほほんとした綺麗な金髪の男性、多分あの子お父さんだと思う。

そのお父さん(暫定)が問いかけてきた。


「えっと、どちら様で?」


「あ、隣に越してきた小鍛治健夜です。」

「これは、お近づきの印に。」


「あ、これはこれはわざわざご丁寧にどうも。」

「……もしかして中身はお蕎麦ですか?」


「はい、よりお傍(蕎麦)に意味合いで。」


これを言ったとき、今奈良のどこかで誰かが凍えている気がした。


「ははは……古風だなぁ……」

「見た目の割りに随分としっかりしているように見えますがお幾つですか?」


「18になります、こっちには大学の関係で来ました。」


「あーそうなんですかー、家には息子がいるんでもしよかったら仲良くしてください。」


「はい……でも、失礼かもしれませんがお子さんがいらっしゃるとは思えないくらい若々しいですね。」


「よく言われるー。」


若々しいフレッシュな挨拶を済ませて中々に好印象なはず。

挨拶もそこそこに帰ろうとしたとき噂をすれば影と言うのか件の息子が家からでてきた。




「おとーさーん……だれ?」


「お隣に越してきた小鍛治お姉さんだ、ほら挨拶して。」


「すがきょうたろう! 3つ!」


「小鍛治健夜だよ、よろしくね。」


京太郎君のお父さんが少し考えて口を開いた。


「……小鍛治さんって麻雀やってました?」


「はい、わかりますか?」


「やっぱり、指に肉刺が出来てるから。」


どうやらインハイを見ていたと言うわけではないみたいだ。

すると京太郎君が聞いてきた。


「まーじゃんってなにー?」


「遊びの一種かな?」


「へー。」


どうやら3歳児には理解できてないみたいだ。

……少し思いついた。


「……実はお姉さん、悪の麻雀組織と戦う正義の味方みたいな者なんだ。」


「すっげー!」


「ふふふ、すごいでしょ。」


子供にはこっちの方が分かりやすかったようだ。

しかし自分で言っててなんだけどあまり私って正義の味方っぽくないような……

というか何だろう悪の麻雀組織って……

本当に自分で言っててなんだけど訳が分からない。




大学の一回生になってから高校に比べてやることが多くなった。

講義、それは単位のために出るもの。

講義、それは眠くなるもの。

講義、それは時に代返してもらうもの。

まあ割かし真面目に受けてましたけど。

家に帰ってから夕飯の支度をする。

一人分を作るのって面倒くさい。

ズボラ飯でいいかな……

いけないいけない、折角グータラ生活から脱却したのにこれじゃあ元の木阿弥になってしまう。

ちょっと多めに作って明日の朝とお昼のお弁当の足しにでもしよう。

夕飯が出来て食卓に着こうとしたらドアを叩く音がする。

とても軽い音だ。

何だろうと思い玄関を開けると視界には誰も映らない。


「おねえさん。」


声がした。

というか視界に映らなかったのは相手が低身長のせいだった。

視線を下にずらすとそこには京太郎君が居た。

こんな時間にどうしたのだろうと思い聞いてみる。


「どうしたの京太郎君?」


「おとーさんおしごといった。」

「おとーさんごはんつくってなかった。」


彼の話を要約すると父親が寝坊して慌てて仕事に行ったら夕飯を作るのを忘れて行ったらしい。

何と言うか京太郎君のお父さんはそそっかしいなぁ。

仕方ないのでご飯を食べさせてあげることに。

ズボラ飯にしなくてよかった。

京太郎君が私の作ったハンバーグを食べる。


「おいしい?」


「うん。」




そういえば彼の母親はどうしたのだろうか。

私が挨拶に行ったときには会えなかったけど共働きなのだろうか?

気になるので少し聞いてみることにした。


「京太郎君、お母さんは?」


「おかーさんってなに?」


「え……」

「お母さんって言うのはね、えっと……いつも京太郎君や京太郎君のお父さんと一緒に居る人?」


私は何で母親の説明をしているのだろうか……


「いない?」


「何で疑問系なの……」

「というかお母さん居ないんだ……」


「うん。」


そのままモグモグとご飯を食べる京太郎君。

もしかして私はとんでもないことを聞いてしまったんではなかろうか……

こんな小さな子供を置いて仕事に行くのはどうかと思うけど須賀さんにも色々事情がありそうだ。

しかし須賀さんはこんな時間から仕事に行ったのか……どんな仕事をしているんだろ?

前に挨拶に行ったときは平日だったのに居たしなぁ……

そこも気になったのでそれとなく聞いてみたが要領を得ない。

何でもゴツいおじさんたちが居て赤い車に乗る仕事だとか。

今度須賀さんに聞いてみよう。


夜も更けてきたが中々須賀さんが帰ってくる気配がない。

京太郎君も大分おねむになってきたようだ。

一人で家に置いて置くのもかわいそうなので京太郎君に聞いて一緒に寝ることになった。

成り行き上仕方ないので須賀家へ行き、書置きを残しておいた。

ただし多少は悪戯っぽくしておいた、文言がアホ臭いのは茶目っ気である。

家に戻り京太郎君を着替えさせて一緒に床に就く、やっぱり子供って体温が高い。

その晩私は京太郎君を抱きしめて眠った。

今の京太郎君の体は小さく私の体でもすっぽり覆えるくらいだった。

そのときの私は珍しく寝付きが良かったようにも思える。

疲れていたのだろうか、それとも昔を思い出して落ち着いて眠れたからだろうか。





翌朝、家のインターフォンの音で起きた。

寝ぼけ眼で玄関を開けると須賀さんが立っていた。

どうやら書置きを見て来てくれた様だ。

須賀さんは開口一番に謝罪の言葉と共に頭を下げてきた。


「すいません小鍛治さん。」


「ああいえ、大丈夫ですよ。」

「今京太郎君を起こしますね。」


寝たままの彼を抱っこして須賀さんに引き渡す。

その時須賀さんと話したことがある。


「ご迷惑お掛けしてすみません。」


「いえ、京太郎君の面倒なら幾等でも大丈夫ですよ。」


「ありがとう小鍛治さん。」

「あ、それと、へんてこな書置きがあったんでびっくりしちゃったよ。」

『お前の息子は預かった、返して欲しければ子供の夕飯を作り忘れないように。 隣の小鍛治より』

「なんてまるで誘拐犯じゃないか……」


「あはは……ちょっとしたジョークですよ。」

「あ、一つ聞いていいですか? 京太郎君から聞いちゃったんですが須賀さんの奥さんって……」


「ああ、こいつを生んだ後、死んでしまったんだ。」

「だからこいつにはいつも寂しい思いをさせてしまって申し訳ないと思ってる。」


須賀さんが少し悲しい表情をして言ってのけた。

人の家の事情の深いこと聞いてしまった。


「すみません、変なこと聞いてしまって。」


「いやいいんだ。」


「それともう一つ聞いていいですか? 須賀さんのご職業ってなんでしょうか?」


「ああ、言ってませんでしたっけ?」

「消防士ですよ。」


ああなるほど、たまの遅い時間の出勤にゴツいおじさんと赤い車の謎が解けた。





そんなことがありそれからちょくちょく京太郎君はうちに来てくれるようになった。

今ではすっかり私に懐いてくれている。

それにしても三歳の京太郎君はかわいいな。

言っとくけど私はショタコンじゃないよ。





それから少し経って大学が夏休みに入り手持ち無沙汰になってしまった頃、大学の先輩が遊びに来た。

その時は丁度京太郎君の相手をしたので先輩には驚かれた。


「小鍛治、あんた子供居たのか。」


「いやいやお隣さんの子供ですから。」


「ああそうなのか、やっぱり小鍛治は小鍛治だったか。」


「どういうことですか!?」


「男っ気がないという意味だよ。」


「失敬な、私にだってその気になれば男の一人や二人ぐらい……」


「休日はTシャツジャージの癖にか。」


「うぐぐ……」


ぐぅの音も出ない。

一人暮らしや京太郎君に作るために料理の勉強して女子力を上げたつもりだったがお洒落方面の女子力は余り上がってなかった。

着る服は専らお母さんが買ってきてくれた服ばっかりだったからなぁ……

自分で買いに行くときは大抵こーこちゃんに選んでもらっていたのが徒となって今はこんな体たらく……

それでも自分で料理するようになった分マシになったと思いませんか?




「すがきょうたろう、3つ。」


「自己紹介できるのか、京太郎は偉いなー。」

「俺は小鍛治の先輩だ。」


何か気付いたら先輩と京太郎君が自己紹介してた。

それが終わると先輩は本題を切り出してくる。


「でさ、小鍛治、話があんだけど。」


「なんですか?」


「いやさ、小鍛治俺のところのサークルに入ってくんねぇかなって。」


「私サークルとかちょっと……」


「気が向いたときに出てくれるだけでいいから、な?」


「ちなみに何のサークルなんですか?」


「オカ研。」


「帰れ。」


「ちょちょ!? ちゃんと話を聞いてくれ!」


先輩を追い出してドアを閉めようと思ったけど執拗に喰い下がる。





「小鍛治の思ってるのオカ研とは違うから!」

「オカルト研究って言っても麻雀の方だから。」


「ああ、そういうことですか。」


「で、小鍛治あんたインターハイ出てたよな?」

「だから出来れば入って欲しいんだよ。」


「気が向いたときでよければ。」


「それでいいよ、なんならついでに京太郎も連れて来ていいし。」


そう言った先輩が京太郎君を見ている。

そして京太郎君も先輩をじっと見ている。

というか先輩の胸を見ている。

先輩はかなり胸がでかい。

瑞原さんくらいには。

そうか、京太郎君は大きい胸が好きか。

そうだね、君は昔からそうだったね。

畜生、ナイスバディな先輩が妬ましい。

仕方ない、今度連れて行ってあげるか。





最近気付いたことがある。

京太郎君のことだが3歳にしては大きい気がする。

それに彼はよく遊びに来てくれるが、私が大学に行っているとき何処で暇を潰しているのかがわからない。

少し不思議だ。

元々彼と私は十二歳差のはずだけど今回は生まれた時期が違うのかな……

なので彼に聞いてみることにした。


「京太郎君、今いくつ?」


「3つ。」


「ここ来る前は何してるの?」


「がっこういってる。」


ん? 学校? どういうことだ?

小学一年生だとしても5歳のはず……

明らかに数が合わない。


「本当に京太郎君って三歳なの……?」


「おたんじょうびやってもらってないから3つ。」


「え……何回してもらってないの?」


「……3つ?」


「え……つまり今6歳……?」


「ともだちにはいうときはそういってる。」


彼の話を聞く限りでは父親が誕生日の日に限って夜勤やら仕事やら入って祝えてなかったらしい。

つまり、誕生日と言う概念がなかったので数えてなかったというかいじけて3歳と言っていたようだ。

これは誕生日が来たら私だけでも祝ってあげないといけないだろうなぁ……

2月2日には7本の蝋燭をケーキに刺して上げよう……





今私はシャカシャカと自転車を漕いで大学に向かっている。

しかも後ろには先日6歳と判明した京太郎君を乗せて。

田舎の3駅分は結構しんどい。

大学についてサークルに顔を出すと先輩方が待っていた。


「おっす小鍛治、んで京太郎も。」


私と京太郎君をサークルに誘ったナイスバディ先輩が挨拶してきた。

先輩に小声で聞いてみる。


「あの、京太郎君も連れてきてよかったんですか?」


「6才だったら大丈夫でしょ。」


「あれ? 京太郎君が6歳って知ってたんですか?」

「確か前に会った時に3歳って……」


「ん? ああ、京太郎は三歳って言いながらW3ピースしてたから合わせて6歳だろ?」


「え~……」


「と言うのは冗談で実は京太郎からこっそり教えて貰ってた。」


何だそれ。

これはあれかな、胸の差ってことかな?

胸囲の格差社会ですか。

まさかこんなところでそんな暴露されるとは思わなかったよ。





私に説明したときは須賀さんが居たから当て付けで言っていたのか。

それで先輩の前では私が居たからこっそり教えたと。

ちょっと先輩が羨ましい。


「ナイスバディ先輩、打ちましょうか。」


「ん? おお、良いけど何でまたナイスバディ?」


「胸が大きいからです。」


そう言って卓に着くと興味があるのか京太郎君がふらふらとこっちに寄ってきた。

私は彼を捕まえて膝の上に乗せてあげる。

それを見た先輩が揶揄って来た。


「そうしていると母親みたいで貫禄があるな。」


「誰が子持ちの貫禄ですか。」


途中途中子供の京太郎君にも分かりやすく麻雀の説明をしながら打っていた。

というか配牌やツモ牌を説明しながら打っていたので手牌は晒している様なものだった。

それでもツモり勝つけど。

終わる頃には京太郎君は牌と先輩のπを見比べていた。

君はそこまで胸が好きかい。

先輩に無茶を言ってみる。


「ナイスバディ先輩、勝ったのでその胸を分けてください。」


「分けられるなら分けたいって、でかくても邪魔だし。」


「ぐぬぬ……」


これが勝者の余裕か……

麻雀で勝っても女として負けてる気がする……




さてさて、そんなことがあり家でも京太郎君に麻雀の講義をすることになった。

今では私の膝の上はすっかり京太郎君の指定席である。


「さぁ次は何が来るかなー?」


私がそう言って京太郎君が牌を引くと3pを自摸って来た。

今の手牌はこんな感じだ。


123678m45789p89s 3p


89sのどっちかを切って聴牌単騎待ちである。

片方は次の自摸で和了れるのだが片方は裏目。

勿論京太郎君がそんなこと知る由もない。

というか私も見たわけでもないのだけどそこは長年の勘というやつである。

京太郎君が8sを切って横に曲げる。

次の巡目9sが来て和了る。


「和了りだね。」


「なんてん?」


「500・1000点。」


こんな風に麻雀に興味を持った京太郎君に教えていた。





理論や牌効率などを教えてもいいのだが年端も行かぬ子供にそれを教えてもつまらないだろうと思い体に麻雀を染み付かせていく。

しかし二人では麻雀は味気ないものである、やはり四人で打つのが良いんだけど……


「京太郎君、同い年に麻雀やってる子いない?」


「ん~……わかんない。」

「あ、でもさきちゃんならできるかも。」


「さきちゃん?」


「ちかくのともだち。」


さき……さき……さき……

どこかで聞いた覚えがある名前ではある。

さき……咲……宮永咲。

あ、思い出した。

やっと思い出した。

インターハイに出ていた子だ。

そうかそうかあの子か。

この時期からやってたんだねあの子。


「今度そのさきちゃんを呼んで打ってみようか。」


「うん。」


あの子からは私と同じ匂いがする。

何というか喪女予備軍と言うかそっち方面。

あと宮永咲を思い出すのに時間が掛かったのは決して年だからではない、何せ私は今10代だし。









翌々日、家に来訪者が現れた。

京太郎君が宮永咲を連れてきたのだ。


「こんにちは、みやながさきです。」


「はい、こんにちはお姉さんの名前は小鍛治健夜だよ。」


「あの、おねえさん……まーじゃんうってもいいんですか?」


「そのために京太郎君が誘ったんじゃないの?」


「はい……」

「その……かってもおこらないですか?」


ん? さきちゃんが何か変なこと言い出したぞ?

疑問に思いつつも回答する。


「麻雀は勝ち負けがあるものだから勝ってもいいと思うんだけど……」


「ほんとう!? あ……ほんとうですか?」


「うん、いいよ。」


「はやくうとうよー。」


麻雀をしたくてたまらない京太郎君が痺れを切らして催促してきた。

全く君は堪え性がないね、乙女座かい? 違った、水瓶座だった。

そうして始まった麻雀、咲ちゃんの先程の言動が気になり聞いてみた。


「咲ちゃんってあんまり麻雀好きじゃないの?」


「おうちでうつといつもまけちゃうんです。」

「まけたらお年玉とられちゃう……」


「あー……」


何とも言えない家庭事情である。

というかお年玉は没収されているのか、それとも親御さんが貯金しているのだろうか。

いまいちわからない。

というか当の咲ちゃんもお年玉の行方はわかっていないだろう。






「またお年玉とられちゃうのかなぁ……」


咲ちゃんが今にも泣きそうなのでつい言ってしまった。


「だ、大丈夫、麻雀強くなってお年玉取られないようにすればいいんだから!」


「でもお父さんもお母さんもお姉ちゃんも強いよ……?」


「京太郎君や私と打って強くなろう。」


「強くなれるかなぁ……」


「お姉さんが強くしてあげるよ。」


「お姉さんおねがいします……」


こうしてお正月までに咲ちゃんと京太郎君の特訓が始まる。

しかしこのやり取りを見ていた彼は何を思っているのだろうか?


「さきちゃん早くツモってー。」


うん、君はもう少し女の子の気持ちを考えようか。

これは私からの宿題ね。





それから咲ちゃんが家にちょこちょこ来るようになり、よく京太郎君と一緒に私の講義を受けていた。

私の方といえば教育学部の講義もあるのでいい予行演習だと思いながら教えていた。

京太郎君と咲ちゃんが仲がいいのは良い事だ。

年が近いせいか割と打ち解けているみたいだし。

年……あれなんでだろ、何か涙が出てきた。

迎えた回数が三桁を超えてるので今更どうと言うことはないが、私の誕生日だけこの世から消え去ればいいのにー……


「きょうちゃん、なんでそっちをすてたの?」


「ん~、なんとなくこっちのほうがくるきがしたんだよなぁ。」

「りくつとしてはこっちのほうがくるはずなんだけどこっちきっちゃった。」


「うん、そっちはわたしのあたりだよ。」


うんうん、二人とも仲良く打ってるね。

でも、あれ、なんでだろ。

今すっごく二人の間を邪魔したい。

家の子京太郎君が取られそうだからか?

それとも私の仲間になりそうな子が早めに抜け駆けしそうだからか?

今私は何考えてたんだろ……あ~……私ダメな大人だ~……





咲ちゃんにはデジタルを、京太郎君には感覚打ちとデジタルを両立させる打ち方を教えている。

理由はどちらも大切だけど咲ちゃんは京太郎君より長く打っているので感覚打ちはある程度しているから。

京太郎君はデジタルを教えてもよくわかってないから飽きさせないように感覚打ちも混ぜてる。

実際京太郎君がデジタル・アナログ・ロジカル・オカルトのどれに傾くかは今後次第ではある。

もう一方の咲ちゃんは牌に愛されてるからまず間違いなくオカルト打ちになるんだけど。

知ってる咲ちゃん? 牌に愛されると男にモテなくなるし所謂ポンコツになるんだよ。

かつての私のようにね!

……自分で考えてて少し凹む。







そして迎えるお正月、流石の須賀さんも何とか休暇をとって京太郎君と一緒にいられるらしい。

咲ちゃんは鍛えた腕でお年玉争奪戦を迎えに行った。

二人ともそこらの中学生には負けないくらいには強くしておいた。

一方の私は実家に里帰りして久し振りにグータラ生活。

時にはお母さんを手伝って料理もしたがそのときには腕が上がったと褒められて私は気をよくしていた。

お母さんからは「これでいつでもお嫁にいけるわね。」と言われ。

お父さんからは「まだ気が早いんじゃないか?」と言われた。

まぁお嫁に行くって言っても相手もいなければ、今までの私の経験上、彼氏が出来るというスケジュールはスッカスカなんですけどね。







そして実家から戻り未だに大学の冬休みを堪能している私の所に京太郎君と咲ちゃんがやってきた。

戦果を聞いてみると咲ちゃんはボロ負けすることはなかったが以前より取られるお年玉が少なくなったらしい。

前は2000円しか残らなかったお年玉が3000円になったみたいでそのお金で本を買ったと意気揚々と述べていた。

一方の京太郎君の方は途中で須賀さんが職場から呼び出されてゆっくり出来なかったらしい。

消防士と言う職業柄上仕方ないのかもしれないがこれは由々しき事態なので今度何か言ってあげよう。

こうして向かえた新年は中々に新鮮だった気がした。







ある日大学のサークルに顔を出すと見知らぬ人が居た。

まぁ私も滅多に顔を出さないから面識のない人が居てもおかしくはないなと思いながら先輩と打っていた。

ここのサークルは名前の通り研究が主なので余り勝ち負けには拘らないせいか負けた人たちもあっけらかんとしている。

勝負の世界で生きてきた私としてはここのそういう雰囲気が私は好きである。

打ち終わった後先輩が話しかけてきた。


「なぁ小鍛治、最近何してんの?」


「? 相変わらずですよ。」


「いやさ、最近小鍛治の雰囲気が変わったから男でも出来たのかなって。」


「彼氏なんて出来ませんよ……ただ教える子が一人から二人になりましたけど。」


「ふむふむ、つまり京太郎の母親から二人の子持ちになったわけか。」


「なってません。」


「ところでさっきからこっちの方を見てるあの人って誰ですか?」


「ああ、あの人か、あの人は麻雀所属事務所のスカウトだよ。」


「へぇ~……」


「小鍛治の打ち筋見て狙っているのかもな。」


そう言って先輩はケラケラと笑う。

嫌なフラグを立ててしまった気がするんだけど……






今日も今日とて京太郎君が家に遊びに来る。

何でも今日は須賀さんが休みらしいのだが夜勤明けでぐっすりらしい。

最近思うのだけれど流石に京太郎君ここに入り浸りすぎではないだろうか。

私としては構わないけど親子のコミュニケーションが心配ではある。

咲ちゃんもちょくちょく家に来ては打っていくが京太郎君ほどではない。

何でも面白い本を見つけて黙々と読んでいると時間が何時の間にか過ぎ去っているのだとか。

咲ちゃん知ってる? 文学少女ってね、コミュ障の隠れ蓑みたいな物なんだよ?

つまりようこそ喪女の道へ。

歓迎しよう、仲間として。

そんな時先輩から呼び出しが掛かってきた。

何でも先日のスカウトさんがどうしても私と話がしたいとのことだった。

先輩に呼び出されたんだったら仕方ないと思いながらも二人を残すのも忍びないと思い家に呼んだ。

すると数十分後、スーツを着た女の人と先輩が並んで立っていた。

うん、ペラい、どこがとは言わないけど少なくとも京太郎君の好みではないタイプだ。

スカウトさんが自己紹介してきた。





「私、佐久フェレッターズのスカウトしている――」


佐久フェレッターズ……ああ、藤田さんのところの。

と言ってもまだ入ってるかどうかもわからないけど。

後ろから咲ちゃんと京太郎君がやってきて聞いてくる。


「おねえさん、その人だれ?」


「あんまり聞いてない方がいい?」


「えっと……」


「あ~……小鍛治、俺この子達と隣の部屋で遊んでるな。」


「変な遊び教えないでくださいよ?」


「小鍛治は俺を何だと思っているのか。」


戸惑っている京太郎君と咲ちゃんを見て先輩が気を利かせたのか三人で別室に行ってしまった。

ちゃっかり遊びに使えそうな物を持って。





「それで、ご用件と言うのは?」


スカウトが来る用件なんて一つしかないけど一応礼儀上聞いておいた。


「はい、単刀直入に申しますとうちに来――」


「いやです。」


「うぇ!? 早くないですか!? まだ言い切ってないですよ!」


スカウトさんが言い切らぬ内に返答する。

だって京太郎君と居た方が楽しいもん。

そこを喰い下がってくるスカウトさん。


「うち今やばいんです! 小鍛治さんに入っていただかないとうちが無くなってしまいかねないです!」


「でも私大学生だし、何よりあの子たちの面倒を見ている方が楽しいんで……」


「大丈夫! ちょっときてちょっとだけ打ってくれればいいだけだから!」


「それにプロとして入るのも楽しいと思うんで!」


いや、元々プロだったわけだからどういうものか分かってるから。

その言い訳は聞かないです。


「あの、でも麻雀って長丁場になるものじゃないですか……」


「大丈夫ですから! 先っちょだけ! 先っちょだけ打てばそれで大丈夫なんで!」


「え~……」


涙目を浮かべて懇願するスカウトさんが必死すぎて怖い。

佐久フェレッターズってそんなに崖っぷちなのだろうか……

何かこの人が気の毒に思えてきた。


「……まぁ気が向いたときだけでいいなら。」


「本当ですか! やったー!」


「あ~……ホントちょっとだけですよ? しかも好きなときだけですからね?」


「ありがとうございます! 本当にそれでいいんで来てください!」


なんかすごい喜んでいた。

スカウトさんは少し契約などの話をして帰っていただいた。




そしてそれが終わると隣に居た三人の下へ赴く。

すると何ということでしょう、三人が仲良くしているではありませんか。


「カン! ツモ! りんしゃんかいほー!」


「ロン! 3900!」


「おお~いい感じいい感じ、あれ? 小鍛治話し終わったのか?」


「何教えているんですか先輩……」


「いや~オカルトについて教えたんだけどさ、中々に筋良いね。」


しかも先輩オカルト教えてた。

咲ちゃんなんか嶺上開花ばっかりしている。

京太郎君も何か感じ取っているみたいだし。

私の役割取られてない?

まぁどうせだからと言って結局二人の観察をしながら四人で打ったけどさ……

ナイスバディ先輩に八つ当たりしていた。

しかしそれでもふざけているナイスバディ先輩の心は砕けない。

これはあれか、胸についた緩衝材が心を守っているのだろうか。

この憎たらしいおっぱいめ。










ある日、フェレッターズから呼び出された。

何か知らないけど劣勢らしい。

本当は本来の大将が出るはずだったんだけどいきなりお腹を壊したらしい。

どんだけプレッシャーに弱いのさ。

こっちは大学の講義があるから出たいと言うか落とせない単位があるんだけど……

仕方ないので自転車を必死に漕いで向かう。


「ぜぇ……ぜぇ……今来ました……」


「ごめん小鍛治さん、今トップと80000点差近くまでリード取られていて……」


「ちょっと……対局してきます……」


息も絶え絶えの私は時間の余裕がないのでさっさと対局したかった。

というか対局が始まるギリギリで着いてよかった。

対局室に入ると既に対局相手3人は着いていた。

私は肩で息しながら言い放つ。


「すみません……今着きました……」


「……大丈夫ですか?」


「大丈夫です、ちゃちゃっと始めましょうか……」


そう言って自身のチームの席に着くとボタンを押して賽を回す。

せり上がって来る山から13枚の牌を配牌にした。

時間がないからさっさと終わらせたい。





そんな気持ちが通じたのか配牌が鬼のようだった。

親の第一打。

打、西。

私は口を開いた。


「あ、ロン。」


「え?」


振った対面が鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているが構わず手牌を倒す。

私が倒した手牌はこうだ。


白白白發發發中中中西北北北


大三元・字一色・四暗刻単騎待ちの人和(ただし人和はローカルなので除外)

で、振り込んだチームは私に128,000点払ってトび。

正直焦ってたから東一局一巡目の僅かな時間で済んだのはありがたいことだった。

私は席から立ち、一言「ありがとうございました。」と言って対局室を出る。

足早に対局室から自転車置き場に向かう途中でまさかこんなに早く終わるとは思わなかったであろう記者陣が待っていた。


「こ、小鍛治選手、すごい和了りでしたね?」


「一言お願いします!」


「すいません! 大学の単位がやばいんです!」


「「え~……」」


記者陣に呆れられていたが今はそんな事は重要な事じゃない。

私にとっては今日の収支結果より一つの履修単位のほうが重要なのである。

再び自転車を必死に漕いで大学に向かう。

やっと着いて入ると机に突っ伏して講師の出欠に応える。


「小鍛治大丈夫か?」


「はい……小鍛治健夜出席です……」


自転車しんどい……今度絶対車の免許とろう。






適当に時間を見つけて車の免許を取ってきた私は一息吐く為に家に向かった。

家の前には京太郎君が待っていた。


「あ、すこやお姉さん。」


「どうしたの京太郎君?」


「遊びに来たけど居なかったからお姉さんを待ってた。」


「お隣だから家の中で待ってれば良かったのに……」


「お姉さんを待ってたかったから。」


「でも手がこんなに冷たくなってるよ?」


京太郎君の小さい楓のような手が真っ赤になっているのを見てそれを掴んで私の頬っぺたに付けてみる。

とても冷たい手だった。

京太郎君は面白そうに笑いながら言ってくる。


「お姉さんの頬っぺたはあったかいね。」


「ほら、家の中であったまろっか?」


「うん。」


寒い時期なので雪が降っていた。

そのせいで京太郎君の体は溶けた雪で濡れていた。

濡れた服を乾かすために服を脱がせてあげようとしたらこう言われた。


「おきがえくらい一人でできる。」


「もう小学2年生だもんね。」




京太郎君は一人で服を脱いでいるときに背中が見えてその背中に異様なものが有ることに気付いた。

京太郎君の背中にあったのは古い火傷の痕。

私は気になり聞いてみた。


「これ、どうしたの?」


「気付いたらあった。」

「お父さんはお母さんからのおくりものだって言ってたよ。」


「そうなんだ……」


火傷の痕がまるで、炎の翼のように感じた。

火傷のことが気になるので今度須賀さんに聞いてみよう。