「あ…明日から許婚と同棲な」

「は?」

インターハイも終わった秋の日京太郎がのんびとリビングで寛いでいると父親にそんな事を言われた。
あまりに自然に言われ暫しの間呆然と立ち尽くす。

「俺達は明日から別の所に住むから頑張れよ」

「え?あれ?」

その宣言どおり両親は次の日に家から荷物を持って出て行った。
残されたのは意味が理解出来ない京太郎とペットのカピーのみだった。
取り合えず親が置いていった手紙を読む。

「なるほど」

暫く読み進めるとようやく理解した。
よく漫画などにある話で爺さん同士の約束で孫を結婚させようとしたらしい。

「いい迷惑だな…俺も彼女も」

大人の身勝手な約束に振り回される身となり京太郎は机に伏せた。
怒りを通り越えもはや呆れしか出てこない。
ピンポーン……京太郎がその格好のまま居るとチャイムが鳴った。
許婚の子がやってきたのであろう。
気が進まないが寒空の下で何時までも待たす訳にもいかず京太郎は腰を上げた。

「はーい」「………」

京太郎が外に出ると1人の女の子が待っていた。
その女の子に京太郎は見覚えがあった。
たしか…この人は………

「宮守の…一番ちいs……」

「ていっ!」

言葉を全て言い切る前に京太郎の視線は女の子から青空へと無理矢理変えられた。
次第に顎から感じる痛みを感じながらあぁ…余計な事を言ってしまったと後悔した。

京太郎と京太郎の許婚である-鹿倉胡桃-の出会いは小柄な彼女から放たれたアッパーカットから始まった。

「すみませんでした」

「今後気をつけるように!めっ」

あれからリビングに移動し京太郎は深々と土下座をした。
そんな京太郎に胡桃も強く言えず軽くたしなめた。


あれからリビングに移動し京太郎は深々と土下座をした。
そんな京太郎に胡桃も強く言えず軽くたしなめた。

「えっと…許婚との事ですが」

「そうみたいだね」

立ち上がり京太郎は念のため確認を取ると胡桃は素っ気無く頷いた。
間違えで無い事を知り京太郎と胡桃はため息をついた。
この先どうなるか判らないが不安が残るスタートとなった。

  • 10日目-

「京太郎!これは駄目だって!」

「…忘れてました」

あれか10日経った。
意外と胡桃との生活は円満に進んでいる。
胡桃がしっかりとした性格で京太郎を支えてくれた。
むしろ尻に敷かれていた。







  • 1ヶ月目-

「これお願いね」

「ん、わかった」

料理と洗濯、掃除を胡桃が引き受けてくれている。
最初は京太郎も手伝おうとしたのだが胡桃に反対された。
嫁の仕事を取る気かとのことらしい。
しょうがなく掃除だけはと手伝わせてもらっている。







  • 2ヶ月目-

「あー………」

「どうしたの京ちゃん」

京太郎は、自分の机に突っ伏し呻り声を上げる。
そんな不気味な京太郎に咲が声をかけた。

「鹿倉さんの事でな」

「あー許婚の」

京太郎の言葉に咲は彼女を思い浮かべた。
最初京太郎が許婚だと紹介した時は皆で驚いたものだ。
そんな事を思い出しつつ咲は何があったのだろうかと聞いてみた。

「いい人だよ…いい人だけどさ」

「だけど?」

「元々爺さん達が勝手に決めたことだし…俺の好みとは…」

「あー……」

咲は京太郎の好みを思い出す。
童顔に胸が大きな子…そんな子が京太郎の好みである、胡桃とは正反対であった。
そんな事を話しているとコンコンと教室の扉が叩かれた。
教室に残っていた人が一斉に其方を向いた。

「あれ…」

「京太郎、お弁当忘れてたよ」

「へ?」

其処には胡桃が立っていてお弁当を持っていた。
慌てて京太郎がカバンを漁ると確かに無かった。

「すみません」

「次から気をつけてね!」

京太郎が謝ると胡桃は手を大きく広げアピールする。
そんな可愛らしい姿に咲はくすりと笑った。


「京ちゃんはもうちょっと素直になればいいと思うよ?あと…胡桃さんの気持ちも知ってあげてね」

「なにが?」

胡桃が去った後、すぐに弁当を開け美味しそうに食べる京太郎に咲が一言言った。
なんのことか判らない京太郎は不思議そうにしながらも愛妻弁当を楽しんだ。







  • 帰宅-

「ただいまー」

咲との不思議なやり取りをし、午後の授業と部活に出て帰宅した。
帰宅しすぐにリビングに行くも胡桃はいない。
何時もならここで迎えてくれるはずなのだが…

「何処行ったんだろう」

買い物かと思い自分の部屋に戻りリビングに戻って暫くのんびりとした。







  • 2時間後-

「遅いな」

あれから2時間経っても胡桃が帰ってこない。
流石に心配になりウロウロと落ち着きなくリビングを回る。
暫くウロウロとしているとある物が目に入る。
いつも胡桃が何かを書いていたノートだ。
京太郎は悪いと思いながら何か手がかりがないかを探す為、読む事にした。

「これって…」

中を見ると様々なものが載っている。
京太郎の好みの味付け、京太郎の癖、好みのお風呂の温度などなど
京太郎に対しての事がしっかりと記載されている。

「…」

それを読むと京太郎は咲の言葉を思い出した。
胡桃だってこの話に不満はあるだろうしまだ高校生だ、友達とだって遊びたいし別れるのも嫌だっただろう。
それでも京太郎という人物をしっかりと見定め妻となるべく…京太郎に好かれる為に頑張っていた。
その気持ちがこのノートにしっかりと刻まれていた。


「何やってんだろうな…俺」

今更になって京太郎は自分の気持ちに気づいた…いや今まで目を背けていたのだ。
胡桃と一緒に住むようになって胡桃を知るたびに惹かれた。
だが、爺さん達が勝手に決めたという約束が京太郎をその想いから背けさせたのだ。
許婚が嫌ではないか、俺に好かれても困るのではないかと…怖かったのだ。

「…いこう」

京太郎は深呼吸1つしコートを着て外へ出た、胡桃に伝える為に…


「よいしょっと…買いすぎたかな」

胡桃は暗い空の下、すこしばかり買いすぎた袋を持ってよたよたと歩き出した。
早く帰らねばお腹を空かせた京太郎が待っているだろうと思うとふふと笑ってしまった。

「……2ヶ月か」

誰に言うでもなく呟く。
元々1ヶ月でこの同棲は終わるはずだった。
だが胡桃の要望で延長となり今に至る。
最初は京太郎の事を何とも思っていなかった。
1ヶ月の間我慢すればそれで終わると思ってすごしていた。
だけどそれは違った…1日が経過するごとに胡桃は京太郎に惹かれる。
一生懸命会話をしようとしている彼に…ペットのカピパラを優しく世話する彼に
麻雀で胡桃に負けても怒らず尊敬すら向けてくる彼に…

だからこそ今日まで頑張ってこれた。
家事のせいで友達と遊べなくても…大事な親友達と別れることになっても…
京太郎が好きだから、誰よりも好きでいてほしいから…

(好みじゃないか)

胡桃は首元のマフラーに顔をうずくめ今日の事を思い出す。
忘れた弁当を届けに行った際の言葉を思いだしたのだ。
京太郎の好みとかけ離れているのは知っていた。
努力でどうにもならないと諦めていたし、それ以外で勝負しようと思っていた。
それでも悲しいものは悲しかった。

(…京太郎は私の事どう思ってるんだろう)

出来れば女性としてでなくても好きでいてもらいたいと思いながら胡桃は歩く。
暫く歩いていると遠くに見知った顔を見つける。



「胡桃!」

「京太郎、どうしたの?」

何やら必死に走りながら自分の名前を呼ぶ京太郎が居た。
何があったのだろうかと不思議そうにしていると抱きつかれた。

「ふぇ!?」

「胡桃大好きだ!」

「何事!?」

抱きつかれたと同時に告白を受け胡桃は混乱の境地に至る。
嬉しさと何でこうなったのか判らなず微妙な気持ちになった。

「と、とりあえず落ち着いてー!」

京太郎を落ち着かせて事情を聞きだすと胡桃は一息ついた。
どうやら帰ってこない胡桃に不安が増したらしい。
1~2時間でこれってと思いながらも嬉しさで頬が赤らめく。
子供ぽいなと思いながら頬が緩む、京太郎が告白してくれたのだ、今度は自分が返す番だ。

「京太郎…私も好きだよ、これからもよろしくね」

「あぁ!」

今度は胡桃が京太郎へと気持ちを伝えた。
そして、もう一度真っ白い雪の中抱きしめあった。







  • 数年後-

「京太郎!」

俺の好みとはかけ離れているけど

「これ美味しいでしょ」

胸も身長も無いけど…誰よりも頑張り屋で

「味付け変えたんだよ」

誰よりも支えてくれて…

「あなた…愛してます」

誰よりも大好きな自慢の奥さんがいます

カンッ