「いいだろー?」

「いやじゃー!」

(どうして…どうして…こうなったんじゃ)

佐々野いちごは涙目になりながらそんな事を思った。
最後のインターハイで東京に着てから不幸ばかりがいちごを襲う。
試合では役満の直撃を受け、せめて最後の思い出にと仲間と出かけようとしたら。
いちご以外の人は彼氏と出かけていった。
そんな考慮しとらんよ…といちごは嘆き悲しんだ。

「ちゃちゃのんもいい人と巡り合うんじゃー!」

悲しんだ後、そう息巻いて出かけた結果、性質の悪いナンパに捕まった。
かれこれ1時間経つが諦める気配が無い。
男の視線はいやらしいものでこの男に着いて行けばどうなるかいちごも判っている。
周りに視線を向け助けを呼びかけるが誰も相手をしてくれない。

「チッ」

「ひぅ」

そうこうしていると男が舌打ちをして此方へと手を伸ばしてきた。
痺れを切らしたのだろう、無理矢理でも連れてく気だ。

(助けて…助けて)

「誰か助けて欲しいのじゃ」

「おい!!」

いちごの小さな嘆きはどうやら天に届いたらしい。
男の腕がいちごに掴みかかろうとした時、その手を逆に取った人が現れた。
その人は綺麗な金髪をした少年だった。

「あ…」

「俺の先輩になにしやがる!」

そう言ってその少年は男といちごの間に割りはいる。
いちごはすぐさまその背中に縋りつくように抱きついた。
この少年がどの様な人物か知らないし後輩でもないと判る。
それでも助けてくれた事だけは判った。


「うっせぇ……チッ」

ナンパ男は怒鳴り込もうとしてやめた。
先ほどの少年の声で周りの人が此方を注目し始めたのだ。
このまま騒いで誰かが警察を呼べば捕まるのは自分だと理解したのだろう。
男は少年を最後に睨み去っていく。

暫くの間、いちごは抱きついたままの状態で止まる。
こうしているとすごく落ち着くのだ。
胸が高鳴り暑さでない熱さが体を火照らせる。
目が潤み頬を赤らめ少年を見上げた。

「とっ…大丈夫ですか!染谷せん…ぱい?」

「………」

「だ、だれ?」

「……あんまりじゃ~~~!!」

少年の言葉に一瞬の内に熱が冷めいちごは泣き出す。
ようやく自分にも春が来たと思ったのにまさかのまさかである。
いちごの春はだいぶ遠いらしい。








  • 数分後-

「ど、どうしよう」

「わーん、ちゃちゃのんも恋がしたいんじゃ~~!!」

京太郎は泣き叫ぶ少女の前で困惑する。
部活の仲間達と買い物に来ていた際に他の皆と逸れた事に気づき慌てて探し始めたのが数分前。
ウロウロと視線を彷徨わせていると聞きなれた方言が京太郎の耳に入る。
そちらを向くと女性が言い寄られていた。
京太郎は染谷先輩だと思い助けた所、人違いだったのだ。
それで思わず誰と口に出してしまったら少女が泣きはじめた。

「えーと…すみません、とりあえず自分が出来る事なら何でもするんで…」

「…なんでも?」

「無理ない範囲なら」

京太郎の言葉でいちごは泣き止み此方を見てくる。
少しばかり出した言葉に後悔するも京太郎はしっかりといちごと視線を合わせる。
暫く2人が見詰め合っているといちごが声を出した。

「ならちゃちゃのんと遊んでくれる?」

「それは…」

京太郎はいちごの言葉に少し戸惑った。
先ほどのナンパの件を気にしてるのだ、ここではいと言ったら自分もあの男と一緒ではと思ってしまう。
戸惑っているといちごが察してくれた。

「京ちゃんは大丈夫じゃから」

「え?」

「さっきの人と違うってしっかりと判るから…じゃから駄目?」

「…判りました、俺でよければ」

京太郎がそう言うといちごはパァーと輝くような笑顔をしてくれた。
それを見た京太郎は人違いとはいえ助けれて良かったと思った。






  • 色々と遊びました-

「楽しかった!」

「えぇ…とっても」

二人はあれから様々な所へと遊びまわった。
既に外は暗く眩しい街灯が2人を照らす。
のんびりと2人で会話をしているといちごの泊まっているホテルについてしまう。

「あっ…」「…」

いちごがホテルに気づき残念そうな声をあげた。
先ほどまでの輝かしい笑顔が落ち込んだものへと変わる。
シュンとし顔を下に向けた。

「それじゃ俺はこれで……楽しかったですよ」

「ちゃちゃのんもじゃ」

「では」

そう言って京太郎も自分のホテルへと向かおうと踵を返す。

「…いちごさん?」

「…っ」

歩こうとするといちごが京太郎の服を掴み離してくれない。
いちごは京太郎の言葉に少し反応するも服を放さなかった。
京太郎は暫しの間、俯くいちごを見た後ポンといちごの頭に何かを置いた。

「これは…」

「俺の連絡先です、大会の間は居ますからまた遊びましょう?」

「いいの?」

「いちごさんがよければ」

そういってニカっと笑った。
それを見たいちごは連絡先の書かれた紙と京太郎の顔を交互に見た後笑った。








  • 数日後-
あれから暫し、いちごと連絡を取り合っている。
中々直接会う機会に恵まれないが関係は良好だ。

「あれ…これって」

清澄の控え室でのんびりとしているとある雑誌が目にはいった。
麻雀をやっている女子高生をよく特集している雑誌だ。
いちごとの会話でもよく聞く名前のものだったので覚えていた。

「もしかして…載ってたり」

京太郎は暇つぶしにパラパラと捲る。
いちごが載っているかもと思いながら中を見ていくと

『佐々野いちごに彼氏!?』

「おろ?」

なにやら見覚えのある名前が一面に書かれている。
へー…確かにいちごさん可愛いしな彼氏いても不思議じゃないよな…うん…
と思いつつ心の中で静かに泣いた、結構いちごの事が好きだったらしい。

(あーなんだか悲しい)

これ以上見たくないが遂見てしまった。

「あれ?」

そこに写っていた写真はどう見てもこの前一緒に遊んだ時の物だった。
この瞬間、京太郎は嫌な予感がした。
震える手で次のページを捲り読んでいく。

『彼氏とは何処でお会いに?』

『ナンパされてた所を助けてもらって…』

『相手のことはなんとお呼びになられているのでしょうか』

『京ちゃんじゃ!』

「………俺の事じゃね?」

嫌な汗が出てくる。
既にこの雑誌は多くの人に渡っているだろう。
これで彼氏じゃないですと言ったら京太郎はどうなるのだろうか。
時間が経つにつれ逃げ場がなくなる感覚を味わいながら京太郎は苦笑いをした。

「使える物は使わんとね♪」

なんとなく何処からかそんな事を言ういちごの声が聞こえた気がした。

カンッ