少年A「(仏)キャーテル!サインちょうだい!」

少女A「(仏)キャーテル!私もー!」


少年B「(仏)握手してよ!」

少年C「(仏)写真撮らせて!」

少女B「(仏)あなたの大ファンなの!結婚して!」



京太郎「わ、たくさんきたな……(仏)あー、ミンナ、並ンデ、順番、イイネ?」

子供達「(仏)はーい!」


京太郎「(仏)君カラネ……ハイ!」

少年A「(仏)ありがとう!…あはは、キャーテル字へたくそー!」

子供達「(仏)本当だ~!」

京太郎「ちょっと気にしてるんだけどなぁ…(仏)アルファベット、慣レテナイ、ゴメンネ?」

少女B「(仏)片言可愛い!結婚して!」

京太郎「はは…」



キャーテル、これはフランスでの俺のあだ名だ

本名の京太郎は少しフランス人には覚えにくいと思って、妻と一緒に考えた

Kyou Ta RouのKTRのフランス語読み、それがキャーテル


俺の今の職業はフランスの一部リーグで闘うプロハンドボール選手、
子供達に夢を与えて大人たちに明日への力を与える仕事だ

高校のとき、麻雀で体がだいぶ鈍ったと思っていたけど、
再び始めたらすぐに勘は戻り、寧ろ中学の時以上にセンスが光った

そのころに世界に出て試合をしてみたいという想いが強くなった俺は日本を出て、
デンマーク、スペイン、ドイツと武者修行をして周った

その時に付き合っていた彼女の進言もあり、
いよいよ世界選手権最多優勝国であるフランスへ骨を埋める覚悟で渡ってきた


言うまでもなく、その彼女こそが今の俺の奥さんだ


……


京太郎「ただいま~」


フランスでの俺の家、必死に闘って建てたマイホーム

外ではフランス語を話す俺も(子供達に言われたように拙いものだが)この瞬間だけは日本語を使ってしまう

一番安心できる空間だからだろう



ドタドタドタ…


「(仏)おかえりなさいパパ!」

「(仏)おかえり~」


京太郎「(仏)タダイマ、俺ノ天使チャンタチ!」ギュー



この双子の兄妹は俺の自慢の子供たち、世界を修行中に生まれた宝物たちだ

物心つくころにはフランスにいたのでフランス語しか話さない

そして…



明華「おかえりなさい、あなた」

京太郎「ただいま、俺の可愛い奥さん」



彼女こそ修行中も、フランスでプロを目指す間も、俺をずっと支え続けてきてくれた最愛の人だ

太郎(タエラン)「(仏)もーパパとママ、日本語禁止!僕わかんないんだって!」

華(はな)「(仏)わたし、少しわかるけど」

太郎「(仏)うっそだー!僕が分からないのにお前に分かるもんかー!」

華「(仏)うそじゃないもん!」



どうやら息子の頭は俺に似たらしい

漢字の読み方は明華風なんだが、いかんせん俺の名から二つ字をつけたせいだろうか



明華「(仏)こら、喧嘩しちゃダメよ 

    それより太郎、パパに見せたいものがあるんでしょ?」


太郎「(仏)そうだった!ちょっと待っててパパ!」


そういって息子が走り出した

華は俺の顔を見て満足したらしく、さっさと引っ込んでしまった

きっと麻雀の練習だろう、頭と才能は母譲りらしい


太郎はすぐに戻ってきた

その手には用紙が握られていた


太郎「(仏)パパ、見て!クラスで自分のパパのことを書くように言われて、僕の書いたものが先生にすごい褒められたんだよ!」


京太郎「(仏)凄イ!サスガ、俺ノ子!」ナデナデ

太郎「(仏)へっへー!」

明華「ふふっ、読んであげて」


京太郎「えーっと…」


フランス語を話すのはたどたどしいけど、読むだけなら多少は自信がある

チームに入るときの契約書もエージェントと一緒に読んだし、何より子供の文章なら大丈夫だ

「僕と華は世界一の子供です

 だって僕のパパは世界一かっこいいハンドボールの選手だからです

 ママから聞きましたけど、パパはフランスに来たとき何も分からなくてすごく苦労したそうです

 毎日毎日、練習に明け暮れて、フランス語の勉強をする暇もなかったそうです

 そのせいで今でも少しフランス語はへんてこです

 でも、へんてこだから一生懸命いつも大事なことを教えてくれます

 そんな努力家なパパだからママのような世界一綺麗な麻雀の選手と結婚できたんだと思います


 キャーテル・スガは人々のヒーローだけど、キョータロー・スガは僕だけのヒーローです


 クラスのみんなとは少しだけ顔の形とかが違う僕だけど、

 世界一のパパとママと少し生意気な華がいてくれるから、世界一幸せです



 僕の夢はいつかパパの生まれた日本に行く事と、パパのような世界一のヒーローになることです


 太郎」




…ああ、泣いたよ

こんなの見せられて泣かない親がいるかよ

息子を抱きしめて近所迷惑になるほどの号泣ぶりだ

視界の隅で明華が少しもらい泣きしているのが見えた


……


京太郎「ふぅ…」

子供達がベッドに入ったあと、庭に出て星を眺める

今頃は明華の思い出話を聞きながら安らかな眠りについているだろう

悠久の夜空をじっと見ていると色んなことが思い出されてくる

ここにくるまでの紆余曲折、忘れたいこと、忘れちゃいけないこと、忘れたくないこと

全部があって、俺は今の幸せを手に入れたんだなぁ…と、しみじみ思う




明華「あなた」


後ろから愛しい声がした


京太郎「明華、今夜はどんなお話をしたんだ?」

明華「ふふっ…あなたが昔、麻雀をしていたこと」

京太郎「…あいたた」


……忘れたいような、忘れたくないようなところだ

結構楽しい事もあったし、まあいい思い出…かも?


明華「二人とも驚いていたけど、あなたが高校一年生だったときの成績を話したら、

   太郎は『パパが弱いわけない!』って」


ごめんよ太郎…今度、人には向き不向きがあるということを伝えないと

……いや、苦手なものを苦手なままにしていた俺が悪いんだな


明華「華なんか『私がパパに麻雀教えてあげる』ですって」


…冗談抜きで娘にも負けそうだな、俺



京太郎「…明華」

明華「はい」

京太郎「ありがとう」

明華「…はい」

京太郎「愛しているよ…これからもずっと」

明華「はい♪」


何故だかそんなことを言いたくて仕方ない気分だった

と、背中に柔らかなぬくもりを感じた


明華「ねえ、あなた…この家ももう少しだけ賑やかになってもいいと思いませんか?」

彼女は誘うときは結構大胆だ


京太郎「…じゃ、俺達もベッドに入るか」

明華「~♪」

嬉しいという気持ちを隠さず腕にしがみついてくる明華

ずっと変わらないな、こういうところ


――ああ、明華でよかった


本当の幸せを俺は改めて噛み締めた


カンッ