京太郎「…」

ある日咲達が部活の為部室に行くと京太郎が何やら難しい顔で手紙を読んでいる。
京太郎に手紙とあまり似つかわしくない組み合わせに少しばかり驚いた。

優希「犬!なんだじぇそれ、ラブレターか?」

咲「京ちゃんに限ってそれは…」

京太郎「…」

和「須賀君…?」

優希と咲が何やらひどい冗談を言い放つが京太郎はやっぱり反応しない。
そんな京太郎に3人は暫く戸惑う。

京太郎「なぁ…T・Mのイニシャルってどんな名前がある?」

優希「タコス・マックス?」

京太郎「どんな名前だよ…」

和「ん~それだけじゃ何とも…手がかりは他にないんですか?」

咲「本当にラブレター?」

京太郎「あぁ…麻雀をやってるらしい、ラブレターではないな 文通相手のイニシャルでな」

和「イニシャルで文通ですか?」

京太郎「俺は自分の名前だけど相手は恥ずかしいらしい」

咲達が全国に行くから彼女も来るのかなと思ってな、と言い手紙を大事そうに仕舞った。
その後、文通の経緯を聞きながら先輩達を待つことにする。

咲(…麻雀をしている T・M…-宮永照-、お姉ちゃん?)

久「さー全国に向けて練習を開始するわよ!」

まこ「元気じゃのー」

咲の思考は部長達の登場により中断された。
まさかね…と呟いた言葉は誰にも聞かれずに空中へと消えていく。






  • 白糸台-

照「…菫」

菫「あぁ…-何時もの-か、お疲れ」

照は菫の名前を呼んだ、それだけでも菫には判ったのだろう。
何時ものと言葉にし帰ることを承諾した。
コクリと小さく頷き照は帰り支度を始める。

淡「えー…もう帰るの?まだやろうよ」

照「用事あるから無理」

期待の星-エース-こと大星淡はまだ遊び足りない-勝負-のだろう。
帰ろうとする照を引き止める。
可愛く頬を膨らませ抗議するも照はそんな淡をバッサリと切る。

照「お疲れ様」

誠子「お疲れ様です」

尭深「お疲れ様です」ズズズ

挨拶を終えると照はパタリと扉を閉め帰って行った。
そんな照を見て淡は つまんないと一言呟いた。







  • 帰り道-

照「…」

何時もの帰り道、何時もの景色、ただ何時もの違うのは-歩く早さ-
のんびり帰る道も今日ばかりは急ぎ足になる。

途中でコンビニに寄りお菓子と飲み物を購入し、他の店で手紙の便箋を買いに行く。
今回はどの便箋にしようか?これがいいのかなと考える。
自然と笑顔になってくる、鼻歌を挟むほどの上機嫌だ。

便箋を選び終わり家へと帰宅する。
勿論忘れずにポストを覗いてからだ。

照「あった」

照は-手紙-を手にすると胸の前で大事そうにぎゅっと抱きしめる。
5分か10分か暫くの間、その時間を楽しんだ。

家に帰ると普段着に着替え手紙を読み始める。

照(ん、京ちゃん東京に来るんだ)

手紙を読み終えた照は複雑な思いになる。
会えるかもしれない…それは嬉しい、でも…
彼が麻雀をしてるのが嫌だ、彼には-あのような-思いをして欲しくないと照は考えた。

照(…それに咲の事もある、京ちゃんに無様な姿を見せる事になるかも知れない)

妹の咲が全国にやってくる…たぶんぶつかる事になるだろう。
その時の自分はひどい事になる。

照(飽きられないといいな)

手紙を抱きしめながらベットに横たわる。
もうすぐ夏がやってくる…そこでどんな事が待ち受けているのか
楽しみでありながら同時に怖いと思った。









  • 京太郎side-

京太郎「ふぅ~暑いな」

咲「じりじりと暑さが…」

2人は買出しに出ていた。
長野とは違う東京の暑さに2人は参ってしまう。

京太郎「てかお前まで来なくてもよかったんだぜ?」

咲「流石に任せきりには出来ないよ」

生意気なー!やめてーとじゃれ合いながら頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
やめてと言っているが咲は笑いながらその行為を受け入れる。
京太郎に構ってもらえるのが好きなのだ。

咲「それで…見つかったの?」

京太郎「ん~?」

咲「文通相手」

京太郎「あ~…ここには居るらしいけど人多くてな。
    それにいきなり文通してますかって聞けねーし」

咲「あぁ~…不審者だね、それ」

だろう?と咲に微笑み2人は歩いていく。
大会が終わるまでに彼女は見つかるのだろうか?
期待と不安を他所に京太郎の時間は進んでいく。










  • 照side-

照「…なんで?」

それを見たのは本当に偶然だった。
出掛けた先に咲が居た、思わず顔をしかめたがやはり気になってしまった。
バレないように後ろから尾行する事にする。

隣には金髪の男性を連れて居た。制服を着ていることから部活仲間だろう。
そう思っていた、咲が彼の名前を呼ぶまでは。

照「…京ちゃん?」

淡「どうかしたの?テルー」

照は固まり男性のほうを凝視している。
そんな照を付いて来ていた淡が不思議そうに見上げる。

照(…また…また…全部奪っていくんだね、咲)

それ以上見ていられなかったのか照は踵を返し走って行ってしまった。
淡は照の様子が尋常でない事を悟り照が見えていた方へと目を向ける。
仲良さげな男女の2人組みがいる。

淡「…ん~、菫に聞いてみよう」

淡はもう一度だけ京太郎達を見ると自分達のホテルへと戻っていった。











  • ???-

黄昏時の公園で1人の少女が泣いている。
周りには誰も居らず1人ぼっちだ。
泣いている少女を照は少し離れている所で見ている。

照「…あぁ、これは夢なんだね」

照はこれが夢である事を悟った、なぜなら泣いている少女は自分なのだから…

照「この後は…」

昔の記憶を頼りに次に起こる事を予測する。
照は自分から目を離すと空を見上げた。赤く赤く燃えるような空だった。
そんな空から少しずつこちらに近づいて来るものがあった。

子供照「あ…」

子供の照もそれに気づいたのだろう。
泣き止むと空から落ちてくるソレを両手で抱きしめた。

照「赤い赤い風船に手紙が付いていて…」

全ての始まりの記憶、大事な…大事な…
親の関係…咲との関係…全てが嫌になった時に訪れた小さな小さな奇跡。

この手紙にどれだけ助けられただろうか、家族が分かれた時、チャンピオンになって
プレッシャーを感じていた時、初めての場所での生活で戸惑っていた時
全て全てこの手紙があったから乗り越えてこれた…だけど…

咲?「お姉ちゃん、それ頂戴?」

照「全て奪っていくんだね」

赤い赤い風船も空も子供の照さえも全てが罅割れ粉々に割れていく。

あぁ………夢が終わる………

照「…」

眼が覚めるとホテルの天井が見える。
昨日帰って来て、そのまま寝てしまったようだ。

体を起こし顔を触ると手が濡れた。
どうやら泣いていたらしい。












~数日後~

照「…」

控え室で画面を見つめていた。
ちょうど画面向こうでは決勝戦の大将戦が終わったところだ。

白糸台は残念ながら清澄に負け2位になってしまった。
淡を責める気はない、自分自身調子が悪く大きく稼げなかったのだ。
全員で淡を迎えに行くと前から淡がやってきた。

照「お疲れ様」

淡「テルー…」

淡は項垂れ涙が地面に落ちた。
ここまで落ち込んでる姿を見るのは初めてだ。

照「淡のせいじゃ…」

淡「咲に負けちゃった」

照「え?」

淡「菫に聞いたの…テルーと咲の事、それに文通の事も」

照は菫に視線を向ける、菫はバツ悪そうに視線をそらす。

淡「テルーはさ…私にとってお姉ちゃんみたいな存在なの」

照「…」

淡「寂しいときは傍に居てくれて、悲しいときはお菓子をくれて…我侭にも付き合ってくれて」

淡「そんなテルーの力になりたくて!!」

淡「照は先鋒で咲と戦えないから私が代わりにと思って…」

淡「それでも負けちゃった…」

冷め切っていた心に火が灯った。
あぁ…この生意気な後輩-妹分-は自分の為に頑張っていてくれたのだ。

それなのにの自分-姉貴分-は何をしているのだろう?

咲に怯え何もせずに負けを認めてしまっていた。
子供のように泣いている淡をぎゅっと抱きしめる。

照「ごめんね、私が頑張らないといけなかったのに」

淡「テルーッ!!」

違う…この言葉じゃない…この言葉ではない。
言わなければいけない言葉はこれじゃない。

照(言葉にならない…言わなくちゃいけないのに)

自分の弱さに照は嘆いた。
暫く淡を抱きしめていると前のほうから一団が現れた…清澄だ。

勿論その中には咲も京太郎も居る。
ふと手紙の内容を思い出す。

『怖い怖いとずっと怖がってるより、立ち向かって1度の怖いで済ました方がいいと思うな』
『何より1人じゃない、俺とか他にもTちゃんの傍に居てくれる人達が居る、だからさ…』

そうだ…そうだった。心の火が大きくなった。

照「淡…ありがとうね、今度はお姉ちゃんが頑張る番だね」

淡「テルー?」

言えた…この言葉-ありがとう-が言いたかった。
たぶん、これからする事は菫達にも迷惑をかけるだろう。
それでも止まれない、止まってはいけない。

照は淡を離すと咲達に近寄っていく。
一歩一歩近づくとあちらも気づいたようだ。
咲と眼が合った、体は震えない、怖くない。

咲「…お姉ちゃん?」

照「久しぶりだね、咲」

咲と久しぶりに会話する、でも今は咲に用事はない。
照は京太郎の前に立った。
京太郎は自分に用事があるとは思わず驚いている。

照「あなたが須賀 京太郎君?」

京太郎「は、はい、そうですけど…」

照「文通してるって本当?」

京太郎「はい」

照「イニシャルが T・Mの人で小学生の頃からずっと続けている人だよね?」

京太郎「なんで、それを…」

京太郎は驚愕する、まさか照がそれを知っているとは思わなかったのだ。
照はそんな京太郎を見て満足する。

照「これ…わかる?」

京太郎「あっ…!」

照はポケットから手紙を取り出す。
お守り代わりとして持って来ていた、京太郎の手紙だ。

京太郎「それじゃ…宮永さんが…」

照「私が文通相手」

咲「…お姉ちゃんが?」

咲は不満そうな顔をする。
そんな咲に少しだけクスリっと笑った。

そして視線を京太郎に合わせると背伸びをし京太郎の首に手を回す。
照に引っ張られ自然に顔が照に近づいた。

そして…







咲「え?」

京太郎「むぐっ!?」

照「んっ」

照は京太郎と口を合わせた
皆が驚く中、暫く続けると口を離す
咲を横目で見ると最初は唖然としていたが次第に顔を赤くし怒りだす

それを見てふふふと軽く笑う、もう奪われるだけじゃない…今日からは奪うのだ
なにより妹分を泣かせた分と今まで奪われた分…両方のお返しをしなければならない

私の前で-咲き誇れるなら咲き誇ってみろ-

全て私-竜巻-が吹き飛ばしてやる

これが-口付け-が私なりの<宣戦布告>だ

『ねぇ…京ちゃん?私の名前は…』

外に浮かんでいた赤い赤い風船が強風によってあちらこちらへと揺れていく

この先の未来を暗示しているかのようだ
姉妹によって京太郎は大きく振り回される

台風の接近による強風と大雨にご注意を…この夏は大きく荒れるだろう


<手紙つきの赤い風船 照バージョン カンッ!>