京太郎「部長!先に上がります!」

久「え…あっはい」

まこ「だいぶ急いでおったの」

優希「きっとエロ本でも買いにいったんだじぇ!」

和「優希!」

咲「…」

和の剣幕に冗談だじぇっ…と優希は一言呟き麻雀卓に付いた。
咲は京太郎が帰った後も少しの間、扉を見つめている。

咲(もう大丈夫そうだね)

咲は少しだけ笑うと雑談している4人の仲間の下へと駆け寄った。






姫子「先に上がります!」

哩「お疲れー」

仁美「だいぶ急いでましたね」

哩「今日は特別な日そいけんね」

美子「特別な日?」

哩「文通相手から手紙が届く日やね」

煌「文通ですか?」

哩「…色々あってな」

哩は話を終えると外の景色を眺めた…
あの時を思い出す、あの時は一時的だが本当に大変だった。







  • 1年前-

京太郎「あ~…何書こうかな」

のんびりとした昼下がり京太郎は手紙を前に悩んでいた。
中学校が春休みに入り何かしようかなと思い立った矢先に選んだのが手紙だった。

小学生の頃、旅行先でたまたま拾った<手紙つきの赤い風船>それが文通の始まり。
最初は興味本位だった、面倒だと思った事もあった。
だが、次第に楽しくなって今では2週に1度送っている。

相手の人は九州の人で方言が強い人なのか最初は読むのに苦労した。
それでもなんとか解読して頑張ったものだ。
むしろ解読するのが楽しかったのかも知れない。

京太郎「…うん、バレンタイン騒動の事を書こう!」

京太郎は机に乗り出し手紙を書き始めた。









  • 姫子side-

姫子「…ふふふ」

姫子は自室で手紙を広げている。
何年も文通を続けている相手からの手紙だ。
毎週交代で出し合っている手紙は今ではなくてはならないものだ。

姫子「…ぬっか」

胸の前で読み終えた手紙をぎゅっと抱きしめる。
読むたびに心がポカポカと暖かくなる。

よく笑顔が素敵と言われるけどそれはこの手紙の御蔭だろうと姫子は思っている。
姫子は暫くの間抱きしめボーと過ごす。この時間がたまらなく好きだった。

姫子「…手紙書かなかと」

抱きしめていた手紙を大事に大事に保管すると机に向かう。
さて…何を書こうか?大好き(尊敬)な部長の事を書こうか?
それとも……ほら考えるだけで笑顔になってくる。

姫子「…好いとー」

自然とでた言葉は素直な感情の表れだった。
姫子は上機嫌に手紙を書いていった。

こんな日々が長く続くだろう、そう思いながら……
そんな思いも虚しく神の試練か…悪魔の悪戯か…それが起きたのは5月に入った時だった。









  • 5月-

姫子は自分の番であった為、夜に書き終えた手紙を朝早くにポストに入れた。
これで来週ぐらいにはあっちにつくだろう。

姫子(今日もよか日になりそう♪)

鼻歌交じりで姫子は歩いていく。
それから何ヶ月もの間手紙が途絶えるとはこの時は思ってもみなかった。

ほんの偶然から始まった。
手紙を届ける郵便配達員の少しのミスのせいで手紙が届かなくなってしまった。

  • 京太郎side-

京太郎「…まだこない」

京太郎は毎日のように郵便ポストを確認する。
今まで2週間に一度は着ていた手紙が届かないのだ。
自分がだしたから次はあちらのはずだ。

もう3週間は経っている。何かあったのだろうか?

京太郎(…飽きられたのかな)

京太郎が空を見上げると心を表しているかのようにポツリポツリと雨が降ってくる。
暫くの間動かず雨に当たり続ける、心は晴れそうになかった。









  • 姫子side-

姫子「なんで…?」

姫子はポストの中身を確認して呟いた。
手紙が来ない…自分は確かに送ったのだ、それでも来ない。

姫子(何かあったと…そいとも飽きられたと?)

姫子は両腕で自分を抱きしめると震えた。
寒いせいだろうか…否怖くなった、恐怖で震えているのだ。

このまま届かないのだろうか?
空を見上げる、空は暗く暗い曇りであった。









  • 6月-

6月の終わりになっても手紙は届かなかった。
もう一度だせば解決するだろう…だけどもう一度出して返ってこなかったら?
完全な拒絶だ、希望も潰えるだろう。

そうなったらもう立ち直れない。
結果姫子は何も出来ずに(やらずに)日々を過ごしている。

笑顔が自然と消え、自分の目に映る景色が色を失う。
あぁ…自分が住む世界はこんなにも寂しいものだったのか…

哩「姫子…」

姫子「…」

大好きな部長の言葉にも姫子は反応しない。
眼が虚ろで空っぽのようだと哩は思った。
前までの明るい姫子は消えた…消えてしまった。

今では友達付合いもせず…すぐに帰るとポストの前で1日中待ってるのだ。
その姿は痛々しくどうにかしてやりたいと思った。
だが何も出来ない、代わりに手紙を出そうとも住所がわからない。

手紙自体姫子が大事に仕舞っていて渡そうとしないのだ。
お手上げだった。

哩(…駄目やったか)

哩は空を見上げた、梅雨の時期のせいか最近雨が続いている。
あぁ…この雨はいつか止むのだろうか と哩は思った。










  • 8月-

梅雨が明け暑い暑い夏がやってくる。
学校も夏休みに入り学生は大いに騒ぎ楽しむ時期だ。

姫子は自室で電気もつけずに横になっている。
ただただ天井を見つめ何も考えない。

開いている窓からは楽しげな笑い声に太鼓の叩く音、
カランコロンとなる下駄の音、近くで祭りがやっている。

姫子はそれにも反応しなかった。
去年までは友達と楽しく回っていただろう、今年は全て断り自室に篭っている。

姫子「…」

携帯が鳴った…部長からだ。
姫子は作業のように携帯を取ると内容を確認する。
用件は19時に○○前に との事だった。

祭りの誘いだろう。
断っても良かったが部長の誘いだ。
姫子は重い体を無理矢理起こし玄関へと向かった。

道を歩いてく、履いてきた下駄がカランコロンと音を鳴らす。
母親に無理矢理着せられた浴衣を揺らしながら目的地へと歩く。

暫く歩くと目的地に辿り着く、哩はまだ着てないようだ。
しょうがなくその場でボーとしながら待ち続けた。

姫子の目の前には楽しそうに笑う人々で溢れかえっている。


『この前はこういった事があってさ』

姫子「…京太郎」

『それでずっと本を読んでいるから少し無理矢理にだけど…』

姫子「っ…京太郎」

『姫子は趣味とかあるのか?俺は…』

姫子「――京太郎っ!」


楽しむ人々に刺激されたのか次々に手紙の内容が思い返される。
楽しかった事、怒った事、悲しかった事、辛かった事、嬉しかった事
全てを共有してきたのだ。
思い返し京太郎の名前を呼ぶたびに顔が歪み涙が出てくる。



姫子「辛か…辛か!」

最後にはその場で蹲り耳を塞ぐ、全てを拒否するかように…

姫子(来なければ良かった…っ!)


暫く泣いていると目の前にボロボロのシューズが現れる。
色を失っている姫子にも一目でわかるぐらいボロボロだった。
何日も何日も歩いたかのような…

そして目の前にハンカチが差し出された。
姫子は顔を上げる、そこには-一昔前のヒーローのお面-を被った人がいる。
背中には風船が漂っている。

姫子「っ!!」

姫子はバシンと出された手を叩き立ち上がると睨んだ。

姫子「邪魔しなかで!!関わらなかで!!!余計なお世話たい!!」

今の姫子にとって風船は辛い思い出でしかない。
反射的に立ち上がり親切にしてくれた彼を怒鳴ってしまう。

お面をつけた人は少し驚くも少し考える動作をした後
ハンカチの代わりに何かを差し出した。

彼が差し出したのは-手紙-だ、ご丁寧にも姫子の名前が書いてある。
なんの嫌がらせだろうか?風船に手紙…嫌味すぎる。

姫子は受け取らずキッと睨み返す。
すると…今度は手紙をひっくり返す。
何を…と思い姫子はもう一度手紙を見る。

姫子「えっ」

差出人 須賀 京太郎






姫子は震える手で今度は手紙を受け取った。
嘘だ…嘘だ…彼は中学生でここは九州で…
夏休みとはいえ遠過ぎる。

なんとか手紙を開け読み始める。
間違いない彼の字だ。
夢中で読んでいく、今までの経緯が全て書かれていた。

読み終えるともう1度彼の顔を見る。
お面は外されそこには愛嬌のある笑顔を浮かべている少年がいた。
<京太郎>は手をこちらに差し出した。

京太郎「遅くなっちまった、ごめんな」

姫子「ずっとずっと…会いたかった」

姫子は京太郎の手を取る。


遠くで花火が花開き祝福するように音が鳴り響く。

空に浮かぶ大きな花の下で二つの影は一つに重なった。

姫子の目の前には赤い赤い風船が漂っている、姫子の世界に色が戻った。


『あぁ…そうだ忘れてた』

『どげんしたと?』 

『はじめまして、俺の名前は…』


今日も快晴、明日も快晴 今年の夏は去年より暑くなりそうだ


<手紙つきの赤い風船 姫子バージョン カンッ!>