春の日差しは暖かく、風は涼しい。
外に出て運動するには絶好の日で、用事が無くても何となく散歩に出かけてみたくなる、そんな日。


京太郎「けど、なぁ」


だからと言って、屋上にシートを敷いて読書に勤しむのは彼女くらいだろう。
呆れたような溜息で彼女はやっと俺に気付いたらしく、読んでいた本を閉じてそっと俺に手を伸ばしてきた。

俺は白く細いその手をとって、ゆっくりと彼女を起き上がらせた。


京太郎「それじゃ、行こうぜ……照」


レディースランチ。
手頃な量と味を両立させた素晴らしいメニュー。

残念ながら、その名の通り女子専用メニューなので今日も照に代わりに頼んで貰ったわけだが。


照「……」じー


ガン見である。
手元の本に視線を落とさず、俺をガン見している。


京太郎「……それ、読まないの?」

照「もう読み終わったから」

京太郎「……あ、そう」


照「……」じー


ガン見である。


「おっす。また嫁さんつれてメシ?」

照「どうも、旦那が世話になってます」


嫁さん違います。


尭深「おつかれさまです」

京太郎「ありがとう」


部室に顔を出すと、後輩がお茶を淹れてくれた。
熱過ぎず温過ぎず、甘過ぎず苦過ぎずな丁度いい塩梅。


京太郎「うん、うまい……渋谷、結婚してくれ」

尭深「え、あ……」


照れている。可愛い。
ちょっとしたジョークにこんな反応をしてくれるのは渋谷くらいのもの。

色んな意味で嫁に欲しい逸材である。


菫「あまり後輩を困らせるなよ」


そんな小言を引っ提げながらやってきたのは我らが部長。
顔良し、スタイル良し、性格良し――なれどチーム虎姫で婚期を逃しそうな女子No.1と
密かに陰で囁かれている苦労人こと、弘世菫さんである。


菫「ああ、あと少しプリント運ぶのを手伝ってほしいんだが……」

京太郎「おっす、了解」


なのでまぁ、せめて卒業するまでは色々と手伝ってやろうと思う。
俺は菫の後を追って、部室を後にした。


尭深「……」ズズッ



京太郎「ふー……」

菫「ありがとう。大分楽になった」

京太郎「いいってこんぐらい」

菫「そうか……ところで、もし良かったら今度――」


誠子「あ、おつかれさまです!」


京太郎「お、おつかれー」

誠子「あ、そだ。先輩、今度の日曜空いてます? ボーリングの券貰ったんですけど」

京太郎「いいね、空けとくわ」



菫「……」

菫「……」クシャッ





放課後。
部活が終わってさあ帰ろう、という時。


淡「せーんーぱーいー」


不意に背中に感じる重み。
すわ心霊現象か、視界の端に髪の毛らしきものが映る。


淡「あーそーぼーおーよー」


幻聴まで聞こえる。
恐らく疲れているのだろう、早いとこ帰って寝よう。


淡「せんぱいー? どこいくのー? あ、もしかして私お持ち帰りされちゃう?」


訂正。
ちょっとだけ寄り道して帰ろう。



よく喋るお荷物を女子寮に送り届け、さて帰ろうとした矢先。

照「それじゃ、帰ろうか」


何故か、照が俺の後を着いて来る。


照「……どうしたの?」

京太郎「いや、お前がどうしたの」

照「今日明日明後日といないから、京ちゃんをよろしくってお義母さんが」

京太郎「……まじか」

照「うん」


照「夕飯はなにがいい?」

京太郎「確か昨日の麻婆がまだ残ってる」

照「じゃあ、明日の朝ごはん」

京太郎「朝もトーストとかでさっさとやっちゃうからなぁ」

照「……じゃあ、昼は」

京太郎「学食の日替わりランチを食べたい。明日は確かハンバーグだし」


照「むぅ……京ちゃんはワガママ」

京太郎「そうか?」

照「うん」

京太郎「そうか」


京太郎「……」

照「……」


会話が止まる。
何となく、気まずい。


京太郎「そういやさ」

照「?」

京太郎「妹さんも……もう、高1だっけ?」

照「……」

照「……うん」

京太郎「そっか。元気だといいな」

照「会えるよ」

京太郎「……?」

照「多分、会える。インターハイで。そんな気がする」

京太郎「そうか……」

照「……」

京太郎「照がそう言うなら、会えるんだろうな」


照は、小さく頷いた。


照「……ん」


照が控え目に手を握ってきたので、少し強めに握り返す。

小さい手が、ちょっとだけ震えていた。


京太郎「……妹さんへの挨拶、考えといた方がいいかなぁ」


そんなことを考えながら、俺は照と並んで帰路に着いた。





カンッ