俺は昔からずっとカピバラが好きで好きでたまらなかった……

幼馴染の咲と二人で見にいった夜のサーカス。
そこで見た世にも珍しい毒カピバラに俺が心を奪われたのは、ある種の必然だったのかもしれない。

隣の幼馴染がカピバラ使いを見る目の中に宿った、普段の気の弱さからは考えられないほどの興奮の異様さ。

見た目の若さと言葉の古めかしさが一致しない、色白のカピバラ使いの放つ謎の不気味さ。

自分の行いがどんな事態をもたらすか予測する当たり前の考えすらできない己の愚かさ。

そのどれか一つにでも気づくことができたなら、俺の運命がああもねじ曲がることはなかっただろう。

だけど、その時の俺はどうしようもなく幼く、馬鹿だった。
欲望のままにサーカスに忍び込びこんで毒カピバラを盗み、喜んでいたのも束の間。
咲を家に招いた時に、最悪の事態は起こってしまった。

「頼む!俺が悪かった!カピバラは返す……俺にできることなら何でもする……だから、咲を助けてくれ!」

「くく、なんでもする…か、片腹大激痛。貴様の幼馴染、あの悪辣下劣な雀気の持ち主などどうでもいいが、貴様には興味が湧いたぞ」

幼馴染を救う対価として人外のカピバラ使いが突きつけた条件は、俺の人生を文字通り終わらせるもの。

「貴様は衣と同じ雀鬼、ジャンパイアとなるのだ。そして衣の忠実な手下となり、衣に尽くすがいい」

家族や友人との別れ、すれ違う思いーー

「何で死んじゃったんだじぇ……犬の……ばか」

「私を裏切ったんだね、京ちゃん。絶対に許さない。一生、地の果てまで追い回して、白木のリー棒で心臓を刺して、死体を太陽の下に晒してあげる。フフフ、楽しみだなあ」

人ならざる者の苦悩ーー

「雀気を啜るのだ京太郎。何も死ぬまで吸う必要はない。死なない程度、ほんのちょっぴりでいいのだ。……そうしなくては、お前が死んでしまうぞ…………」

「京くん……ウチの雀気、吸ってくれへん?どうせ死ぬなら、ほんの一部でも京くんと生きていきたいんや。……別に京くんのせいやない。ウチは病弱やから、もともと長くは生きられへん。ただ、死ぬのがちょっとだけ早くなっただけや。だから、そんな悲しい顔せえへんて?」

訪れる過酷な試練ーー

「なぜ京太郎に力量の試練を!?奴はまだ半人前、このことの責は衣にあります。罰ならば衣が負います、だから、お考え直し下さいませ元帥方!」

「何で衣ちゃんがあのガキにそこまで入れ込むんだか、わっかんねー。どーするよアラフォー元帥」

「まだ280歳だよ!アラサーだよおお!」

友の裏切り、友との死別ーー

「ごめんな……ウチの寝顔……面白かった…やろ………」

「どうして、どうしてですか!?ハギヨシさん!あなたは平和を願っていたのに!」

「すべてはジャンパイアのためです。もう、ジャンパイアに時間は残されていない。まだジャンパイアの掟に染まりきってない君なら、私の考えがわかってもらえるはずです。さあ、私の手を取って下さい。私ならあなたの命を助けられる」



「死してなお、勝利の栄光の輝かんことを!」



これは数奇な運命に翻弄された、一人の少年の物語。