雨った。土砂降りと言うわけではない。霧雨が視界を覆うようにただ音もたてずに降り続いている。
一つ、部屋がある。広い部屋。幾つもの机。それは麻雀と呼ばれる遊戯に使われる机だ。部屋には影が二つしかない。大柄なものと小柄なもの、二つが対面するように影があった。
男がいる。少年をようやく脱したばかり、青年にようやく足をかけたばかりの若い男だ。
少女がいる。いまだに少女の爛漫さが抜けきらぬ若い少女だ。
両者、互いに目を引くほどに目立つ金の髪を靡かせている。
「ねえ、キョータロー だ 」
甲高い声が室内に響いた。
「何だよ」
気だるげに男が返す。
「キョータローはさぁ」
「ああ」
「運命って信じる?」
男には問いの意図を理解出来なかった。運命と言う言葉を口内で転がす。普段の少女からは考えられない言葉だ。むしろ、男にしてみればその女ならば『運命なんて関係ない』とでも言うとすら思えた。
「運命ね」
故に、男は思考の海に落ちる。
鈴がなるように、女は笑い声を上げる。
「そんな難しく考えなくて良いんだよキョータロー」
女が立ち上がり、男の隣に移る。
女の両手が男の顔に触れた。視線を会わせるように男の顔が動かされた。
男の心臓が跳ね上がる。急な状況に、思考が掻き乱された。わずかな理性が抗議の声をあげようとする。しかし、声はあげられない。視線が、交差。まるで、星空。吸い込まれるよう。何もない場で空お見上げたように、ゆっくりと時間が流れていく。
例えば、と、声がした。
「一生に人が出会える人数は決まっていて、その間に出会って別れていく」
それは独白。ただ内面を吐露しているだけだ。
「キョータローと私が出会う、ううん、もしかしたら出会わないことだってある」
だから、と、
「今ここでキョータローと私がここにいるのはきっと運命だと思わない?」
「そう言われれば、そうなのかもな」
男の言葉は簡素だった。それすらもようやく絞り出したものだ。
楽しそうに、少女は女になった。
「なら、きっとキョータローがここで私に惚れるのも運命だと思わない?」
「何いって……」
声がかすれ、途切れた。
漏れるのは吐息。男の口は女によって塞がれた。
数瞬が、永遠的で、しかし刹那的。
口が離れていく。
男は女の目をのぞきこむ。
女は少女に戻っていた。
そして、その目は今まで見た何よりも美しく見えた。