ある夜、仕事から帰ってきた時に、これはもうぐずぐずしていてはならない、そう思ってしまったのだ

安定した仕事をして、ただ眠り、ただ1人で飯を作るという 淡々とした生活を送っているただの一般人であった自分

但し、そういった大多数の人達と俺は違う事が2つある

それは、清澄高校麻雀部の雑用係だったあの夏の熱気を今も忘れられずにいる事

彼女達はあまりにも輝いていた。そして今も麻雀の熱意を胸にプロや解説を行っている他、時には麻雀教室を開き子供達に笑顔で教えていた

だが、俺はどうなのか?

そう比較すると、あまりにも自分の凡人さや社会での存在の必要性といったものがあまりにもちっぽけで、それでいて確かに自分に重くのしかかっていた。日に日に心にどす黒い何かが充満していた

しかし、一方であの熱意がじわりじわりと心の隅からこびりついてきたのだ

それでついに堪えきれず、冒頭の思いにつながった

自分が住むアパートの部屋を隅まで片付け、タンスの裏に隠れている一円硬貨までかき集め、ほんの少しだけ預金を残し、それ以外は今の日本では少々古風な2000ドルのトラベラーズチェックと500ドルの現金を作ると、俺は仕事のすべてを放擲して旅に出た

そしてもう1つの違う事、それは、


この場所が、日本ではなく、香港だという事だ


到着した時、あの時の奇妙な熱気が、はっきりと甦ってきている事を肌に感じた

怪しく光るネオン街の暗い路地裏に安宿を見つけた時は宝を見つけた探検家の様に喜んだ

そして今、後で思い返すと、この時は知るよしもなかった

この香港で妖気な美しさを放つ女性、ハオと出会う事を

そして彼女によって、そこで行われる様々なギャンブルに引き込まれていく事を

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