289 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/10(日) 13:12:09.59 ID:1pgCD7RWo [15/38]
[オープニング]



アカン、死んでまいそう。

ふらり、ふらり。

足元が覚束ない。

まるで熱に犯されたように体が重い。

微熱があったのは知ってた。

だけど、そんなにひどくない。

そう思う自分がいたもの事実で。

でも、実際は今倒れそうになっている自分がいるのも事実なのだ。

こんなに自分は貧弱だったかな、と問いかけてみる。


怜「あ、せやった……ウチ、病弱やった……」


ふふふ、と。

一人でツッコミを入れて薄く笑う。

本来ならここで竜華やセーラがツッコミの一つや二つ、入れてくれるもんやのに。

なんでいないんだろう。

そこまで考えて、自分が今向かおうとしている場所にいるからだ。

そう理解する。

新学期。

3年生になった、春。

千里山高校には新入生が入ってくる日。

入学式の前に部の方で勧誘の準備をする。

そう、妙に張り切ってた監督が言ってたっけ。

でも、それには間に合いそうにない。

なんだか、体がふわふわ。

ふわふわと、してきたからだ。

ぐらりと、揺れる。

倒れるくらいなら、家で休んでればよかった。

硬いアスファルトに身を叩きつける直前。

ふと、そんなことを思った。

その時だ。

手を握られ、倒れるのを遅らせられる。

その一瞬。

その一瞬に手を肩に添えて、ひょいっと。

軽々と、私を支える男の子が見えた。


京太郎「大丈夫ですか!?」


それが、ウチと京太郎との出会い。




296 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/10(日) 13:28:43.39 ID:1pgCD7RWo [16/38]



京太郎「千里山……俺と同じ高校の制服……大丈夫ですか、名前言えますか?」

怜「あ、うん……ウチは園城寺怜や」

京太郎「園城寺さんですね、俺は須賀京太郎って言います……意識はハッキリしてる、呼吸も異常なし、負傷も無し……救急車は必要ですか?」

怜「そ、そこまでせぇへんでええよ!ウチ、病弱なだけやから休んでれば……」

京太郎「そうですか……じゃあ、学校の保健室に行きましょう。立てます?」


近くのバス停のベンチ。

そこにウチを支えていった後、色々と尋ねてくる。

手馴れてるな、と思う。

さっき倒れそうになったとき、体を支えるのと一緒に頭と首をカバー。

そして今は意識の確認と体の診断をしている。

まるでお医者さんみたいやな。

緊急事態に対応するために勉強していたみたいだ。

そこまで考えて、男の子。

須賀京太郎君。

千里山が共学になったのは知っていたけど、こうしてその一人と会うことになるとは思わなかった。

彼の言葉、学校の保健室に行こうというもの。

それに思った以上に素直に「うん」と。

そんな言葉が出る。

四肢に力を込めて、立ち上がろう。

ぐっと。

……ぐっと。


怜「…………」

京太郎「……園城寺さん?」

怜「……あ、足…」

京太郎「足?」

怜「……足に力、入らへん……」プルプル

京太郎「」


アカン、須賀君絶句しとる。

がんばれ怜ちゃんフッド、命を燃やすんや。

やれば出来るって炎の妖精さんも言っとるやんか。


怜「ふっ……く……」

京太郎「………失礼しますね」


その時、須賀君が動く。

学ランの上を私に被せ、布団のようにする。

そのまま、横抱きに。

………横抱き?


300 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/10(日) 13:48:28.97 ID:1pgCD7RWo [17/38]



怜「ちょ、ちょ、何しとん自分!?」ペチッ

京太郎「あいた」

怜「こ、ここここれってお姫ひめひめ……!」

京太郎「いや、握力無いからおんぶは無理っぽいなと思ったので」

怜「いや、せやけど」

京太郎「不快かもしれませんけど、まぁ保健室に行くまで我慢してくださいなお姫様」


さっくりと、そう言って歩き出す。

……手馴れてるなぁ、やっぱり。

なんともいえない、初めて感じる感覚。

男の人に抱っこされるのは、覚えてる限りではお父さん以外ない。

新品の学ランの匂い。

ちょっと前まで、中学生だった男の子。

そんな妙な感覚を誤魔化すように、ウチは問いかける。


怜「……須賀君、“たらし”なん?」

京太郎「これ以上なく激しい中傷を浴びた気分なんですけど」

怜「普通の子は初対面でお姫様抱っこなんかせえへんよ」


あと、お姫様発言もせんな。

そう言うと頭を抱える……は出来へんな。

非常にバツが悪い。

そんな顔を須賀君はする。

それにくすりと。

小さく笑う。

一個お返しや。

そう思って、「あっ」と呟く。

そうだ、竜華たちに連絡入れとかな。

『今、保健室におる』。

目の前に見えた校舎を見ながら、ウチはそんなメールを送る。

保健室は開いていたけど、先生がいない。

何か用事かな、と思いつつ。

ウチは椅子に座り、肩に学ランをポンチョみたいにかけて。

ごそごそと、体温計を取り出す須賀君を見ていた。


京太郎「じゃ、俺は職員室にでも行って保健室の先生探してきますから、ここで体温でも測って大人しくしててくださいね」

怜「すまんなぁ京太郎や、ウチの体が弱いばかりに……こほっ、こほっ…」

京太郎「おかあ、そりゃあ言わねぇ約束だろ……って何でやねん」

怜「おお、ノリツッコミやな」

京太郎「はっはっは……いや、大事なさそうで何よりですよ」



306 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/10(日) 14:05:07.03 ID:1pgCD7RWo [18/38]


怜「………」

京太郎「………」

怜「……あはは」

京太郎「ははは」


二人揃って、笑う。

なんか、笑ってしまうのだ。


怜「おもろいなぁ、須賀君」

京太郎「関西で暮らすことになりますからね、褒め言葉として受けときます」  ィ...

怜「そっかー」 ...キィ

京太郎「じゃ、俺はちょっと行って……何か聞こえません?」 トキィィ

怜「へ?」 トキィィィィ!

竜華「怜ぃ!!」

セーラ「トキ!!」

京太郎・怜「!?」ビクリッ

怜「……って、りゅーかとセーラ?」


その瞬間、バンッと。

ドアが叩きつけられるように開く。

反射的に、ウチと須賀君が手を握ってしまう。

それくらいのびっくり具合。

息荒い竜華と目を丸くしているセーラ。

竜華が息を整え、周りを見回す。

ウチと須賀君を見て、そして状況を確認。

すぅっと。

竜華が息を吸った。


竜華「怜が保健室に男連れ込んどるー!?」

京太郎・怜「「なんでやねん」」


アカンわ、もう疲れたで……。




[プロローグ:終了]

313 名前: ◆VB1fdkUTPA[!red_res] 投稿日:2013/02/10(日) 14:17:12.38 ID:1pgCD7RWo [19/38]




夢を見た。

ニュースを見る夢。

環状線で人身事故があった。

それだけの話。

ベッドで身を起こし、ニュースを見る照さん。

俺もぱちりと。

目を開く。

照さんが、俺が目覚めたのを見て笑う。

ゆっくりと。

ゆっくりと近づき、手の平に手を重ねて、キスをしてくる。

薄いシーツ越しに触れ合う素肌と素肌。

俺と照さんの唇と唇。

その間に伝う銀糸。

愛おしそうに。

俺の頬を撫でる照さん。

蛇が獲物を飲み込むように。

俺が埋れていく。

その感覚が、俺にはあった。

拒絶できない。

拒絶は許されない。

そう、言うように。

照さんの寵愛を、俺は受ける。

一方通行の愛を。

愛でられる人形の愛を。

縛られた心で、俺は受ける。

照さんが、笑った。

小さく。

大きく。

唇に弧を描いて。

笑う。



ニュースキャスター『……被害者は学生、遺留品から長野県在住の宮永―――』



笑う。





330 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/10(日) 14:28:35.45 ID:1pgCD7RWo [20/38]


【8月14日:朝】


目が覚めた瞬間、トイレへと駆け込む。

胃液を吐き出す。

それだけの行為。

喉をひりひりと。

焼く感覚に涙が零れる。

なんだよ、あの夢。

なんなんだよ、これ!!

ふざけんな、あんな夢ふざけるんじゃねぇ。

俺はあんなの望んでない。

望みたくもない。

俺は何も。

小さい、普通の幸せさえあればそれでいいのに。

何で。

何であんな夢ばかり……。

しかも、何で体験した事実みたいに。

なんで、感じるんだ……。






京太郎「……」

浩子「なんや須賀、えろう顔色悪いやないか」

京太郎「船久保先輩、おはようございます……」

浩子「おはよーさん……って、ホンマに大丈夫か?」


よほど顔色が悪いのだろうか。

朝食の席に向かった俺は、先に食事をしていた船久保先輩に声をかけられる。

まぁ座れ、と席を空けられて俺は座る。

何処までも冷酷に見えて、でも何かと世話焼きの苦労性。

船久保先輩はそんな人だ。


浩子「何か食べれるか?」

京太郎「はい、なんとか……」

浩子「よっしゃ、ちょお待っとき」


そう言って、席を立つ船久保先輩。

朝のバイキング。

そこをぐるりと巡り、戻ってくる。


浩子「ほら、白かゆや。熱いからゆっくり食べ」

京太郎「ありがとうございます……」


レンゲを渡される。

白粥に、4種類くらいの漬物、それとキンピラ。

我の強い、油っけの無いメニューは無い。

それに感謝しつつ、俺は息を吹きかけ、一口。


京太郎「熱っ……」

浩子「そういうもんや、ええからゆっくり食べ」

京太郎「はい……なんか、船久保先輩妙に優しくないですか?」

浩子「おう、喧嘩売っとるんか」

京太郎「すいません!すいません!!」

浩子「はぁ……病人くらいには優しくするで」

京太郎「すいません……」

浩子「ええよ、こんくらい……ほら、ちゃっちゃと食べる。お仕事お仕事」

京太郎「了解っす」






359 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/10(日) 14:49:59.83 ID:1pgCD7RWo [23/38]
【8月14日:昼】



船久保先輩に気遣われて朝を過ごした。

そんな今、俺は園城寺先輩と並んでソファーに座っている。

小さき咳の声。

あの春の出会いから四ヶ月が過ぎた。

この人が先輩だったということも、麻雀部の新エースだということも。

色々と知ってきた毎日だ。

細い背中。

その背中に皆の期待を背負っている。

その重圧は、どんなものなんだろうか。

この人の弱い体で。

どれだけの重荷を担ぐつもりなんだろうか。

ふと、そう思うことがある。

ただ、言えること。

一つだけ、言えること。

園城寺先輩は一人じゃない。

その事実だ。

清水谷部長も、セーラさんも、船久保先輩も、泉も、愛宕監督も。

そして他の部員に、俺も。

皆の思いを園城寺先輩は抱え、そして皆がその重みを支えている。

だから、この人は強いんだろう。

強くなれるんだろう。


竜華「怜、おるかー?」

怜「ここにおるでー」

竜華「お、ここに居ったかー病人コンビ」

京太郎「俺も病人扱いですか部長……」

竜華「当然や、船Qがウチに声かけてくるくらいなんやで?」


そう思っていると、部長がドアを開けてくる。

そうか、そろそろ開会式か。

俺は時計を見て、そう思う。

ゆっくりと立ち上がる園城寺先輩。

部長が片目を閉じ、「こっちは任せて」と合図する。

それに俺は頷いて、見送る。

レギュラーの。

思いを背負った、背中を。

今、全国大会が、幕を開く。





393 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/10(日) 15:12:19.86 ID:1pgCD7RWo [28/38]
【8月14日:夜】


竜華「須賀君、こういう場合はどないするんやろ?」

京太郎「園城寺先輩の場合だと、基礎体力の時点で問題ありますからね……」


夜、俺は清水谷先輩と向かいあってノートを手に、話し合い。

書かれた内容。

それは合宿での園城寺先輩の身の回りに関することが記入されている。

栄養面、肉体面、精神面。

そういった情報がある、ある意味では女の子のプライベートなんて無いと言わんばかりの本。

たまに園城寺先輩が半目で見ていたのが気になるけど、まぁいいだろう。

いや、よくないんだけどね。


竜華「んー……怜の体力を考えると一荘が限界やね、やっぱり」

京太郎「セーブして戦える相手じゃありませんしね、全国区は」


大阪府大会。

そこではある程度セーブしての試合だった。

倒れるほどじゃないにせよ、それでも消耗は激しい。

ちらりと。

俺は視線を向ける。

ノートを見て真剣に考える清水谷部長。

そこでふと、俺は気づく。

部長の後ろ。

つまりは俺の真正面から。

ゆっくりこっそりと、園城寺先輩が近づいているのを。


怜「………」シッー

京太郎「リョウカイッス」

竜華「ん?須賀君なにか言うた?」

京太郎「イエナニモ」

竜華「そか?」

怜「……」(氷を取り出す)

竜華「んー……船Q呼んだ方がええかなー?」

怜「とりゃ」

竜華「ひっ……冷たぁぁぁ―――んぁ!?」


びくりと、部長が立ち上がる。

振り向けば、悪戯成功という顔をした園城寺先輩の姿。

部長が、ぽろりと出てきた氷を掴んだ。

「怜ぃぃい!」 「え、ちょ、ウチお医者さんに冷物はアカンって…」 「お返しや!」


怜「ひゃああああ!?って、冷たいわ!!」



436 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/10(日) 16:25:18.89 ID:1pgCD7RWo [33/38]
【8月15日:朝】


雅枝「須藤ー、須藤おるかー?」

京太郎「監督、須賀です」

雅枝「おお、おるやん須藤!ちょ、こっち来い」

京太郎「須賀ですってば」


愛宕監督に呼び出される。

それはレギュラーじゃない俺を呼ぶ、という物珍しいことだと思う。

ぶっちゃけると、名前を本当なのかワザとなのか分からないくらいに間違えるからだ。

つか、須藤って誰だよ須藤って。

俺の苗字より一文字多いじゃねーか。

そんなことは、まぁおいて置いて。

監督が「入るでー」と軽く声をかけて部屋に入る。

あれ、ここって園城寺先輩と部長の部屋じゃ?

そんな記憶の掘り返し。

それが完了する前に、ドアが開く。

中には、膝枕をする部長とされる園城寺先輩の姿。

……うん、なんか白い花が咲いてそうだ、背景に。


雅枝「ほんなら須藤、二人は任せたで」

京太郎「はい?」

雅枝「ほな、よろしゅう」

京太郎「いや説明くらいしてください監督ぅぅぅぅ!?」


ツカツカと、足早に去っていく監督。

いやいやいや、待ってくれ。

何で女の子の部屋に置いてけぼりにされなきゃいけないんだ。

そう思っていると、ぱちり、と。

園城寺先輩が目を開く。

もぞりと、身を震わせて。

俺を見た。


怜「………なんで須賀君おるん?」

京太郎「分かりません」


まぁ、その後で今日の試合を撮りにいくから部長に細かい指示を受けることになったんだけどね。

そういうのって船久保先輩か監督の仕事なんじゃ…。





499 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/10(日) 22:42:03.04 ID:rJ3/o4NGo [2/9]
【8月15日:昼】



浩子「よっしゃ、準備ええな?」

京太郎「うっす!」


全国大会一回戦。

その試合を撮影するために俺は船久保先輩と会場へと向かう。

今日撮影するチーム。

そこには、以前PAで昼休憩の時に出会った阿知賀の皆さんも居る。

一回戦。

勝ち上がるのは一位通過のみ。

千里山は共学だからその心配は2回戦からになる。

となると、何所が勝つのだろうか。

俺としては、やっぱり阿知賀に買ってほしい。

そんな気持ちがあった。

そうこうしている内に会場につく。

席を探して、一角を確保。

カメラを準備する俺は準備を最低限終えると、ちらりと時計を見る。

あと20分で試合開始、というとこだろう。

俺は財布を掴み、先輩に顔を向けた。


京太郎「先輩、何か欲しいものありますか?」

浩子「買いにいくん?ほな、適当に飲み物と軽食頼むわ」


長丁場になりそうやし。

そう言って目線をタブレットに戻す先輩。

俺はオーダー通り、適当に飲み物とパンを買う。

うん、これだけあればいいだろう。

意外とこの人、食べるしなぁ。

セーラさん>船久保先輩=泉>清水谷部長>園城寺先輩。

食事量はこんなものだろう。

俺は早速パンを一つ齧る。

量は、ちょっと足りないかもしれない。


京太郎「先輩、試合終わったら情報整理と小腹満たしでお茶でもどうです?」

浩子「ええなそれ、そうしよか。店んことは任せるわ」


うーん、店か。

コーヒーお代わりできるし、ドーナッツとかいいかも知れないな。

会場近くにも店があるの知ってるし。

……あれ、何で俺知ってるんだ?そんなこと。






523 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/10(日) 23:13:19.81 ID:rJ3/o4NGo [5/9]
【8月15日:夜】


セーラ「おーおかえりー」

京太郎「セーラさん、今戻りました」

セーラ「あれ、船Qは?」

京太郎「先輩は疲れたから部屋で少し寝るみたいです」アトコレオミヤゲデス

セーラ「お、ドーナツやん!おおきに!」


ホテルに戻る。

俺は小分けにされた箱の一つをセーラさんに渡し、肩を並べて歩く。

江口セーラ。

昨年の千里山のエースで、今大会でも中堅エースとして園城寺先輩との2段階での火力運用としている。

その性格は、一言で言えば豪快。

3900三回より12000一回、そういう火力ある打ち筋を好んでいる。

それでいて、性格も非常にサバサバとしている。

話している間に誰かの気分を軽くする。

そんな人だ。

そんな先輩の格好。

半ズボンに半そでTシャツ、上に学ランという姿。

格好のせいか可愛らしい男の子にも見えなくもない、そんな姿だ。

この人の欠点?と言えばいいんだろうか。

あまりに豪快すぎて、女の子らしくない、ということだ。

船久保先輩もそれでたまに雷飛ばしてるしな。


セーラ「ん?どないしたん?」

京太郎「いえ…セーラさんは元気だなぁ、と思いまして」

セーラ「そか?せやけど、暗い気分にワザワザなる必要もあらへんやろ?」


さっぱり。

そう言われると何も言えない。

そんなこの人だからこそ、こうして俺の顔に笑みは浮かぶんだろうけれど。


セーラ「なんや京太郎、なしてそない景気悪そうな顔してん?」

京太郎「あはは……いえ、セーラさんはそんままで居てください」

セーラ「ん?」

京太郎「何でもありません、お茶飲みます?」

セーラ「オレは紅茶な!」

京太郎「うっす、了解っす」





552 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/11(月) 00:01:14.52 ID:SjuryLolo [1/14]
【8月16日:朝】


世話係。

そう銘打たれた俺の肩書きはなんてことはない。

体の弱い園城寺先輩をサポートする皆のサポート役、ということだ。

その係を指名したのは監督だが、推薦したのはレギュラーの皆だ。

曰く、力があり、細かに気が利いて、信頼できる。

他にも女子部員が多くいる中、そうまで推薦してくれた。

その事実に何とも言えない恥ずかしさを感じつつも、俺は今日の仕事を準備する。

今日は何をしようか。

昨日の一回戦の試合のデータ処理をするために船久保先輩の所に行こうか。

ああ、そういやセーラさんの学ランのボタンが取れたって言ってたし後で直しにいかなきゃいけない。

泉は何も無い日は試合の映像を見てるし、後で昨日の分を渡しておくのもいいかも知れないな。

思えば、仕事ってのは結構あるもんだ。

そんなことを思いつつ、俺はレクリエーションルームに入る。

雀卓が一台、大型のモニターが一つと、試合映像や練習を行える他、お茶なんかも飲める場所。

俺が主に常駐するこの部屋に入って見れば、そこにはソファーに横になる園城寺先輩の姿と、先輩を膝枕する清水谷部長の姿があった。


京太郎「おはようございます、部長、先輩」

竜華「おはよう須賀君」

怜「おー、おはようさん京太郎ー」


片手をひょいっと。

上げて挨拶する園城寺先輩。

この人、早速膝枕してるよ…。


京太郎「今日は早速ですか、先輩……」

怜「ふふふ、怜ちゃんパワーを竜華に充填中やで」

京太郎「意味分かりませんから」


怜ちゃんパワーってなんだ、怜ちゃんパワーって。

しかも部長は部長で満更でもなさそうだし…。


竜華「もう、怜ったら……」

怜「ええやん、もうちょいだけ……」

京太郎「もしもーし、まだ朝ですよー?」

怜「せや、京太郎もどや?ええで、竜華の太腿は病み付きになるで…!(ゲス顔)」


アンタおっさんかなんかか。






670 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/11(月) 20:09:08.75 ID:JVGYGWJ7o [3/44]

【8月16日:昼】
接触対象指定↓3




気配が薄い。

元々の呼吸も浅く、体温も低く、線も細い。

生きている人間が出す気配。

それが薄い園城寺先輩の接近には気づかないことが多い。

俺は誰もいないはずのレクリエーションルームで一人、ソファーに寝転がっていた。

このソファー、元々はベッドになるようなもので、非常に大きい。

また、ふっくらとしていて体を包む柔らかさがある。

きっちりと座るにはきついが、だらけるのには向いている。

そんなソファだ。

俺は午前中の仕事、主に船久保さんやセーラさんの一件を終え、昼食を済ませる。

そうして出来た休憩時間に、まどろんでいる。

テーブルの上には新聞。

さっきまで時間つぶしに読んでたのだが、文字を読むとどうにも眠気が来る。

気づけば、寝ていた。

それが今だ。

左手に着けられた腕時計を見よう。

そう思って、腕に力を込めると感じる重み。

なんだ?と、視線を腕に向ける。

見えたのは、俺の腕を枕に眠る園城寺先輩の姿。

フリーズ。

………え?どういうことなの?


怜「ん……」ゴソリ

京太郎「ちょ!?」


寝返りを打ち、すっぽりと。

俺の懐に丸まる先輩。

ウチのカピバラが俺の布団に潜り込むような感じだな。

思わずそうのほほんとしたが、直ぐに再起動する。

いや待て、待ってほしい。

何で園城寺先輩が俺の腕枕で寝てるんだ!?

教えてくれ怜ちゃん、俺は今どうすればいい。

俺は何故か、SD化してふよふよと浮いている怜ちゃんを幻視して問いかける。

怜ちゃんが、にっこりと笑う。

俺もにこりと、引きつって笑う。

答えは一つらしい。


怜ちゃん『これは責任やね』ニッコリ

京太郎「言われなき罪をつけないでください!!」




【8月16日:夜】


一年生。

千里山という名門高でレギュラーを掴む。

それは並大抵のことじゃあない。

それを一年生で成し遂げた数少ない人物。

それが泉という女の子だった。

性格は一言で言えば、不敵。

誰にも負けない、劣っていない。

それを自負して、糧にする。

対抗心と向上心の塊みたいな奴が、二条泉という女の子だ。

ただ、あまりに上手く行き過ぎると舐めてかかり、手痛い反撃を受けてリズムを崩される。

そんな面があるんだけれども。

まぁ、言うならば小生意気。

真面目だけど、小生意気が正しい評価かも知れない。


泉「あーうー……」

京太郎「その…あれだ……お疲れ?」

泉「そないな慰めせんといてぇ……」


俺は雀卓に撃沈する泉にどう声をかけるか考える。

14時くらいから始まった部内での練習試合。

それは泉が大きくマイナスをつけられた結果になった。

まぁ、セーラさんに妙に調子よかった園城寺先輩、そして部長。

我が部のトップ3と真正面からやりあえば読めた結果な気もするけど。

さめざめと、涙を流す泉。

俺はそれに苦笑しつつ、茶を淹れる。

こういう時はあれだ、気分を落ち着かせるのも一番なんじゃないか。

置かれたカップに気づいた泉が顔を上げて、俺を見る。

その顔は……複雑?

うん、そんな色がある。


泉「そない優しくせんとってぇ……」

京太郎(駄目だこら)


優しくしないでいいんだったらデコピンしてやろうか。

思わず、そんなことを考えた俺は悪くないだろう。

だってめんどくさいんだもん。




733 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/11(月) 21:03:41.31 ID:JVGYGWJ7o [12/44]
【8月17日:朝】


泉「はぁー……なんやごっつい人おんなぁ……」

京太郎「まぁ、白糸台高校の初試合だからなぁ」


2回戦初日。

俺は泉と共に大会会場へと来ていた。

目的はただ一つ。

白糸台高校の試合を見る。

それに尽きる。

準決勝。

そこで千里山は白糸台とぶち当たることになる。

少なくとも、千里山も白糸台もそこまで勝ち残る前提だ。

負けることを考えて試合に出る選手はいない、ということだ。

見回せば、やはり人は多い。

誰もが白糸台の力を見に来ている、そういう顔だ。

まぁ、俺たちもそうなのだけれど。

しかし、だ。

取材陣は妙に騒がしい気がする。

耳を澄ませば、「宮永照選手がいないぞ」やら「何所に行ったんだ…?」やら。

そんな声が聞こえる。


泉「チャンピオンおらんって、言うてる?」

京太郎「何かあったんか?」


うーむ。

俺と泉は顔を見合わせ、首を捻る。

その時だ。

声がかかる。

何所か鋭い、そんな声が俺に。


菫「すまない、ちょっと聞きたいんだが……」

京太郎「え、へ?俺ですか?」

菫「他に誰がいるんだ?」

泉(あれ、ウチもおるよね?)

菫「聞きたいことがある、宮永照を見なかったか?」

京太郎「いえ、知りませんけど……」


照さんって、あの照さんだよな?

俺は首を捻る。

ふと泉にも聞こうと顔を向ければ、そこにあるのは少し気圧された。

そんな表情の泉がいる。

……ああ、この人は何所かで見たと思えば、白糸台の次峰の弘世さんか。


772 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/11(月) 21:33:25.93 ID:JVGYGWJ7o [16/44]



菫「チッ、アイツめ……いや済まない、ありがとう」


小さく舌打ち。

苛立ちというよりは焦りに対してのものだろうか。

こうして知らず知らずの人である俺に聞く。

それくらい焦ってるんだろうか。


京太郎「照さんは、甘い物好きですから近くのそういう店を探せばいるかも知れませんよ」

菫「何?おい君、今何を―――」

京太郎「それじゃ、ほれ泉いくぞー」

泉「えちょ、ま、待ってぇな!」


俺は泉の手を引いて、そそくさと離れる。

試合まであと20分。

……不戦勝だけは、やめてほしいなぁなんか。




菫「あの男……ん?淡から電話か……もしもし?」

淡『あ、すみれー?テルー見つけたよー!』

菫「何、何所にだ?あと変わってくれるか」

淡『ドーナツ屋さんー。テルー、電話だよー』

照『あと一個だk』

菫「よし待ってろ、今そっちに行って引きずってきてやる」





774 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/11(月) 21:36:50.36 ID:JVGYGWJ7o [17/44]
【8月17日:昼】



試合が終わる。

いや、正確には強制的に終わった、だ。

先鋒宮永照。

その大立ち回りによって削られ、弘世選手によって集中的に抉られ。

そうして中堅では役満が炸裂。

何をどうすればここまで火力を運用できるのか。

そう思ってしまうほどに凄まじい、白糸台における蹂躙だった。

最後の大将戦なんか、悲惨だ。

配牌に嫌われたように他高校は攻撃の基点を失い、その中でも相応に動いた新道寺を除いた2校は敗退した。

あれがチャンピオン。

あれが白糸台。

まさにそれを証明する。

そんな結果だ。

泉は船久保先輩と合流してトンボ返り。

きっと、今日は明日に備えて特訓だろう。

そう思いつつ、俺は一番遅くに会場を出る。

日差しはまだ強い。

園城寺先輩なら倒れてしまいそうだな。

そう思いつつ、俺は横目を引かれる。

そこには、うなされるように倒れてる園城寺先輩の―――。


怜「今、いくで…」

京太郎「いっちゃ駄目ー!?」


アカン。

この人、毎回こういう登場の仕方してないか!?

俺が駆け寄る。

脈拍とか、その他もろもろの確認。

………あれ?


京太郎「……先輩?」

怜「んー?」

京太郎「貴女、普通に平気ですよね?」

怜「そんなことあらへんよ、眩暈が止まらんねん」

京太郎「目線逸らさないでください」

怜「~♪」

京太郎「吹けない口笛もいいですから」


この人はまったく。





808 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/11(月) 22:02:04.91 ID:JVGYGWJ7o [21/44]



怜「……いや、あんな?」

京太郎「どうせ、俺の姿が見えたからどっきりでも仕掛けよう、ですか?」

怜「よう知っとるやん」

京太郎「はぁ……」


くすくす。

そう笑う先輩に俺はため息をつく。

なんか、気を抜かれる。

そんな気分だ。


怜「よっと……」


小さく掛け声をかけ、体を起こす先輩。

その足取りはしっかりしている。

健康状態に異常はない。

その見解は正しいようだ。

ふふん、と。

妙に澄まし顔をする先輩を見下ろす。

……はぁ。


怜「ほな帰ろか、京太郎」

京太郎「はいはい、了解しましたよお姫様……はぁ……」









怜「―――――お姫様、な……」






812 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/11(月) 22:04:43.77 ID:JVGYGWJ7o [22/44]
【8月17日:夜】


泉「大丈夫…大丈夫や……」

京太郎「………」

泉「ウチは高校一年最強のつもりや……いける…いけるんや……!」

京太郎「………泉?」

泉「千里山優勝待ったなし!……せや、いけるやん―――」

京太郎「………泉ぃ!!」

泉「ひぃ!?」


びくり、と声をかけても反応しなかった泉が反応。

それに少し声を大きく、監督みたいな感じで声をかけるとびくりと震えていた。

あ、なんか涙目になってる。

そんな泉は俺を視界に納めると、ゆっくりと引いた構えを解く。

そこに出てきたのは、笑顔。

なんというか、何時もどおりの不敵な顔だ。


泉「な、なんや京太郎か……え、用事あるん?」

京太郎「そろそろ飯だから呼びに来たんだよ…」


ほれ、いくぞー。あ、ちょお待ってー。

そんな軽いやり取りをして、俺と泉は並んで歩く。

レストランはホテルの地下。

エレベーターに乗り込み、俺は地下行きのボタンを押す。

妙な空白がある。

無言の空間というか、何か話そうにも話せない……そんな空気だろう。

俺はちらりと、泉を見る。

さっきの姿は無い。

あの姿……自己暗示するような光景。

泉は明日が、最初の公式戦になる。

当然、緊張するだろうし、俺には分からないプレッシャーを感じているのかも知れない。

気づけば、ポンッ、と……俺は泉の頭に手を置いていた。


泉「え、ちょ、何!?」

京太郎「いやさ、泉……今はとりあえず、飯食って寝るのがいいと思うぜ?」


悩まなくてもいいじゃねーか。

高1最強、だろ?

そんな軽い言葉に泉が小さく、俺を見上げる。


京太郎「ま、頑張れよ、泉」


俺にはこれくらいしか、できねーけどな。




844 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/11(月) 22:29:12.51 ID:JVGYGWJ7o [27/44]
【8月18日:朝】2回戦当日



セーラ「よっしゃー!今日勝って準決勝や!」

浩子「そないなこと言って制服忘れんでくださいよ」

セーラ「……アカン?」

泉「アカンです」

京太郎「船久保先輩、ベッドの下に隠してあったの確保しました」

浩子「ほぉーう?」

セーラ「ひ、ひぃ……」


朝。

出陣前の準備中。

そんな中で俺は悲鳴をあげるセーラさんを泉と一緒い生暖かい目で見ていた。

2回戦。

シード故にここからが試合となることもあり、気合の入れようも一層違う。

俺は涙目になって船久保先輩の魔の手(間違ってない雰囲気ではある)から逃げるセーラさんを見る。

公式戦。

そこではセーラさんも、普段の男装から制服へと着替える。

本人はあのセーラー服がどうにも恥ずかしいのか、顔を赤くしているのが愉しいのか。

通称・乙女モードなるそれは船久保先輩のタブレットPC内に多く画像が納められている。

つまり、いじられるのだ。

セーラさんは船久保先輩にしょっちゅう。

それがこの乙女モードへの苦手意識を生み出しているのかも知れない……多分。


セーラ「きょ、京太郎!た、助けて……」

京太郎「え、ちょ、ちょちょちょ!?」


セーラ先輩が俺の背中に隠れる。

いや、何かすごい違和感を感じる。

普段のセーラさんは、言うなら兄貴肌。

そういった雰囲気を持つ人だ。

それが今はあれだ、こうして縮こまって俺の背中に隠れている。

しかもちょっと涙目で、だ。

背中に感覚を感じる。

きっと、背中のシャツを掴んでいるんだろうか。

あのセーラさんが。

涙目で。

………。


京太郎「どうぞ、船久保先輩(ゲス顔)」

浩子「おおきに、須賀(ゲス顔)」

セーラ「んなぁぁぁ!?」



915 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/11(月) 22:58:49.32 ID:JVGYGWJ7o [36/44]



俺はセーラさんを確保する。

そして、船久保先輩の前へ。

きっと、良い笑顔が浮かんでるだろう。

多分、船久保先輩が今浮かべたような笑顔が。

セーラさんは目を見開いて俺を見ている。

捨てられた子犬みたいな目だな、と漠然と感じる。

きっと俺は売られていく子牛を見送る目をしているだろう。

どなどなどーなー、である。


泉「……」

京太郎「……ん?泉、どうした?」


そこでふと、俺は視線を泉に。

なんというか、判断に困る。

そんな顔をしている。

あれか?

セーラさん弄りに参加したかったんだろうか?

俺は目の前に手をやって、振ってみる。

反応が無い。

……うーむ?


京太郎「……てぃ」ペシッ

泉「あんっ…!」


ぺしりと。

軽く俺はツッコミを入れる。

これくらいは普段もやってるから問題ない。

それでやっと気づいたのか、頭を抑えてキョロキョロと周りを見回す泉。

それに俺は声をかけて、ゆっくりと部屋を出ていった。


京太郎「……にしても、泉変な声出してたな……」






920 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/11(月) 23:01:13.68 ID:JVGYGWJ7o [37/44]
【8月18日:昼】2回戦当日


試合自体は、そう語ることは無い。

阿知賀。

PAで出会ったその高校との対戦があった。

それくらいだ。

園城寺先輩も、泉も、セーラさんも、船久保先輩も、清水谷部長も。

それぞれの仕事を全うした。

その結果が、1位通過だ。

俺は帰宅の準備を始める皆と共に準備する。

視線をチラリと。

園城寺先輩へ。

体力はだいぶ、回復したとは思うんだけど。


京太郎「園城寺先輩、大丈夫そうですか?」

怜「うん……なんとかな」

竜華「怜、頑張ったからなぁ」

怜「せやね……ちょお疲れたわ」


ぐでん、と。

部長の膝枕に体を崩す園城寺先輩。

いや、それはいい。

それはいいんだが、今は撤収の時間だ。

俺がそう言うと、不満顔の両者。

……俺が何をしたっていうんだ。


怜「知らんよ、そんなん」

竜華「せやなー」

京太郎「理不尽ですよね!?」


ぷくーっ。

そう頬を膨らませる園城寺先輩に部長。

ああもう、この人たちはどうしてこう…。

俺が小さく頭を抱える。

そして見れば、くすくすと。

顔を見合わせて笑う二人。

……セーラさんに続いて、俺も弄られ枠なんだな。

それを妙に実感する、瞬間だった。






953 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/11(月) 23:18:56.73 ID:JVGYGWJ7o [41/44]
【8月18日:夜】2回戦当日



セーラ「う、うぅ……」


―――例え話をしよう。

もし、男まさりな女の子が居たとして。

その子が普段しないような女の子らしい格好で顔を真っ赤にして隅っこに隠れるように座っている。

そんな光景がある。

それは実にありえない光景だろう。

かくいう俺も、直面していると硬直して動けなかったくらいだ。

いや、誰だってそうだろう。

俺は悪くないぞ、これは。

………おほん。

そして、だ。


セーラ「きょ、きょう、たろぅ……?」


俺が居ることに気づいたんだろう。

蹲った状態から顔を上げ、俺を見上げる。

そして、妙に舌足らずな声で。

俺の名前を呼ぶ。

……うむ。

なんだろうか、こう、笑顔になるな!

妙な心の爽快感すらある気がするぞ!

悪くない、悪くないぞ。

こういうのもいいじゃないか。

普段頼りがいがある子が妙に弱々しい姿とか。

実に庇護欲を刺激する状態じゃないか?

セーラさんを見る。

所謂、ふわふわ、という感じの服だろうか。

ワンピースが妙に映える気がする。

元々可愛らしい顔をしているセーラさんに良く合う格好だろう。

そして、これを仕組んだ人物は一人しかいない。

俺はこちらに近づいてくる足音に首を向ける。

現れたのは、カメラを持つ船久保先輩。

そして泉だ。

………セーラさん、俺の後ろに隠れないでください。





24 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/11(月) 23:46:41.32 ID:JVGYGWJ7o [3/9]



京太郎「船久保先輩はまだしも、泉……お前もか……」

泉「ち、違っ!これは船久保先輩の命令で……!」

浩子「泉もノリ気やったやん」

泉「先輩命令やったやないですかー!?」


悲鳴を上げる泉。

まぁ、後でしっかりと泉にはお話してやろう。

俺はそう思いつつ、船久保先輩を見る。

うーん。

この人、本気で嫌がってるとそこまでしないんだけどなぁ。

そう思いつつ、俺は腕を組む。

ここから先へは通しません。

そんな意思の表れだ。

それが通じたのか、船久保先輩は妙に面白そうに部屋から出ていった。


泉「ほ、ほなウチも……」

京太郎「おっと、泉は別だ」

泉「な、何でぇ!?」

京太郎「俺が先輩を説教できないが、同学年は出来るんだよ!」

泉「ひぃ!?」


逃げようとする泉の襟首を掴む。

そこに正座し、俺は泉の前に立つ。

さぁて、とりあえずは足が痺れるまでしっかりと反省して貰おうではないか。






35 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/11(月) 23:53:54.22 ID:JVGYGWJ7o [5/9]
【8月19日:朝】



なんてことは無い。

園城寺先輩が散歩に出たい。

そう言ったから、お供しますと告げただけ。

ふらふら。

そんな足取りで前を行く園城寺先輩を俺は追う。

なんというか、気づいたら倒れてそうで妙に気が気でない。

そんな気分だ。

俺は目を細め、空を見上げる。

天気はいい。

それに今日は風もある。

夏とはいえ、日陰はかなり涼しい日だ。

そうそう、本なんかを読むには一番良い日かも知れない。

そう、俺は木影の下に座って本を読む女性を片目に写して思う。

その時だ。

俺に、戸惑いが混じった声が聞こえた。


照「もしかして……京ちゃん?」

京太郎「え?」


声。

懐かしい声だ。

思わず立ち止まって、視線を向ける。

影の下。

そこに小説片手に座り込んだ人。

小さく。

本当に小さく。

照さんが笑っていた。


照「久しぶりだね、京ちゃん」

京太郎「お久しぶりです、照さん」

怜「……チャンピオンと知り合いなん、京太郎?」

京太郎「どわあああ!?何時の間にそこに!?」

怜「二人して見つめあっとる時やで」


見れば、園城寺先輩はジト目で俺を見ている。

ぱちりと。

照さんが、園城寺先輩を見た。


照「千里山の……園城寺さん?」

怜「どうもー、宮永さん。ウチの京太郎がお世話になっとるみたいやな」




134 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/12(火) 00:34:03.99 ID:cIlx3zjQo [5/28]



キョトンと。

そんな顔をする照さん。

ああ、そういや俺が千里山高校に入学してるの知らなかったっけ。

それを今伝えると、「驚いた」と一言。

やっぱりこの人はサバサバしている。

そう思っていると、怜さんが俺の手を引く。

行こう、ということだろうか。


京太郎「じゃ、じゃあまた、照さん!」

照「うん、またね」

怜「京太郎、時間は有限やからはよ行こか」

京太郎「ちょ、ちょちょ!引っ張らないでください園城寺先輩!!」


つかつかと。

普段からは考えれない力で俺の手を引く園城寺先輩。

暫くそれが続いて、急に。

急に、先輩が止まった。


京太郎「お、園城寺先輩……?」

怜「……怜」

京太郎「へ?」

怜「怜って、呼んで」


え、いや、あの。

俺は思わず困惑する。

いきなりだな、とか。

嫌じゃないんですけど、とか。

口を開けば言葉は出る。

ただ。

園城寺先輩の顔を見ると。

それを口にすることが出来なくなっていた。

思いつめた顔。

それを、されたから。


怜「お願いや、京太郎……怜って、呼んで欲しいねん」

怜「お願いや……」

怜「お願い……」






怜「―――ウチを一人にせんとって……」



148 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/12(火) 00:42:11.02 ID:cIlx3zjQo [6/28]



フルフルと。

寒さに身を抱くように、園城寺先輩が……怜さんが言う。

それに答える術が、俺には無い。

いや、答えれない。

そう言うべきだろうか。

ただ言えること。

それは、何所までも。

……怜さんの体が何所までも。

弱々しく、小さく。

儚いものに見えた。

それが、俺が見た怜さんの姿だった。


京太郎「あの……怜、さん」

怜「うん」

京太郎「……なんか妙に恥ずかしいっす」

怜「そか……」


ふらり。

怜さんが体をふらつかせる。

疲れてるみたいだ。

俺は慌てて支えて、怜さんを見る。

怜さんは。

何所までも弱々しく笑う怜さんは。

今も、同じように小さく、笑っていた。




  • 怜ちゃんレベル4だし!

157 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/12(火) 00:46:49.47 ID:cIlx3zjQo [7/28]
【8月19日:昼】



……怜さんとの衝撃的な散歩から少し時間が過ぎた。

今、ベッドで眠る怜さんを見送り、俺は部屋を後にする。

疲れたらしく、帰ると怜さんは寝てしまったのだ。

それを報告するために俺は清水谷部長を探す。

多分、レクレーションルームだろうか。

探せばいるだろうと俺は脚を向け、入る。

中にはセーラさんも居るのが見えた。


セーラ「お、京太郎やん。怜は?」

京太郎「そのことで部長に報告です」

竜華「うん、どないしたん?」

京太郎「怜さん、疲れたから部屋で寝るそうです」


そう告げる。

ほー、とセーラさん。

仕方ないなぁ、と部長。

一様に違った反応を見せて、ぴしり、と。

お互いが固まった。

ぎしり、と。

俺に視線が向く。


セーラ・竜華「「怜……さん……?」」

京太郎「あ」


俺がそう呼んだ。

その事実に二人が反応する。

あ、良い顔してるよセーラさん。

昨日のあれ、まだ恨んでるんですか?

それに部長。

世界が終わったみたいな顔しないでください。

何もありませんから。


セーラ「よっしゃ京太郎、ちょう座り!」

竜華「尋問やな、これは」

京太郎「勘弁してくださいよ……」






189 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/12(火) 01:06:37.46 ID:cIlx3zjQo [10/28]
【8月19日:夜】



セーラ「ツモ!2000・ザンキュー!」

京太郎「と、飛んだ……」

泉「京太郎……駄目駄目やないか」

竜華「せやなー。もうちょい頑張らなきゃアカンなー」


夜。

部長とセーラさんによる尋問は泉が来訪したことで終わりを告げた。

そうして今は数合わせを含めての麻雀に参加した俺はその圧倒的戦力差になす術なく殲滅されたところである。

おかしい。

そんなに悪い打ち筋じゃないと思うんだけど勝てる気がしない。

これがレギュラーの実力、という奴だろうか。

当ててもダマの安手が限界だったのも虚しい。

くそう、悔しいぞ。

なんか知らんけどすげぇ悔しいぞこれ。


泉「まー京太郎はまだ駄目駄目ですからねー」

京太郎「宣戦布告と受け取るぞ、泉」

泉「げっ!?」


ははははは!何処に行こうというのかね?

泉を捕獲し、俺はその頬を抓りながら笑う。

セーラさんも部長も笑う。

半泣きで悲痛な声を漏らす泉の声。

それがここに響いていた。


セーラ「あっはっはっはっは!あー、笑ったわ!……京太郎、そろそろやめてやり」

竜華「せやせや、泉も反省しとるやろうし」

京太郎「二人がそういうんでしたら……」


ぽいん、と。

引っ張っていた頬を勢いよく離す。

うむ、良い弾力であった。

俺は頬を押さえて俺に背中を向ける泉を見る。

……ちと、やりすぎたか?

妙に息が荒く、頬を摩っているのが見える。

……痛かったのか?

なら、悪いことをしたなぁ……。




241 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/12(火) 01:36:23.55 ID:cIlx3zjQo [14/28]
【8月20日:朝】



はて、俺は何をしてるんだろうか?

今の現状を説明する言葉を捜してみる。

しかし、どれも今の状況を示すにはどうにも足りない気がする。

俺の表現的な問題ならいい。

いいんだけど、これは絶対に違うからそう言えないだろう。


泉「あ、そこ……っ」

京太郎「ここか」

泉「う、うん……ええ感じや」


ぎしり。

ベッドが軋む。

ベッドに寝転んだ泉と、ベッドに膝立ちで体重をかける自分。

その振動と共にスプリングが悲鳴を上げる。

ぎしりと。

その音と共に、泉が声を漏らした。


泉「も、もうちょっと、強…くぅ!?」

京太郎「す、すまん!痛かったか!?」


動きを止めて、俺は泉の顔を見る。

目尻に涙。

拙い。

初めてだから失敗したのかも知れない。

そう思い、これ以上はやめる。

そう口にしようとすると、泉は俺の服を掴む。

無言だ。

無言で、俺を見た。

続けてほしい。

そんな色合いで。

俺を見る。


京太郎「……いいのか?」

泉「うん、大丈夫やから……」

京太郎「ったく、どうなってもしらねーぞ?」





京太郎「マッサージとか初めてなんだからな」ギュッ

泉「ひぃん!?」


あ、すまん。



272 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/12(火) 01:58:56.66 ID:cIlx3zjQo [18/28]
【8月20日:昼】



寝違えて体が痛い。

そう言っていた泉をマッサージして、そのままベッドに放置した俺はレクリエーションルームに居た。

泉は動けない。

その旨を部長に伝えて、俺はお茶を用意する。

今ここにいるのはセーラさんと部長だけ。

となると、お茶はそんなに時間をかけて飲むものじゃない方がいいだろう。


セーラ「今日もええ色やな」

京太郎「まぁ、修行してますから」


俺はセーラさんの言葉にそう答える。

無意識。

無意識に俺はそういうスキルを学んでいることが多い。

お茶入れも、清掃も。

何かと万遍なくだ。

まぁ、それがここで役立っている。

そう思えば、悪いものじゃないだろう。


竜華「せやなー、昔から助かっとるしなぁ」

セーラ「確かに、京太郎の淹れるお茶は美味いからなぁ」

京太郎「褒めても何も出ませんよ」


にやりと笑うセーラさん。

にこりと笑う清水谷部長。

それに俺は小さく息を吐いて苦笑する。

全く、調子がいい人だ。

そう思いつつ、俺は冷蔵庫から紙箱を取り出す。

中身はシュークリーム。

それを皿に載せて、俺はお茶を淹れた。

全く、しょうがないなぁ。





290 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/12(火) 02:18:04.94 ID:cIlx3zjQo [22/28]
【8月20日:夜】

明日が三回戦。

Aブロック準決勝その日。

ふと思えば、まだ試合自体には1回しか出ていないんだよな、と。

俺は少し不思議に思っていた。

この数日。

それはとても長いと俺は感じた。

思い返せば全部が勝負。

勝ち負け、勝者と敗者を生み出し続けた毎日だった。

そう思う。

一回負ければ終わり。

明日、終わるかも知れない。

そのプレッシャーは、どんなものなんだろうか。

先輩たち。

セーラさん、清水谷部長、怜さん。

3年生の皆はこれが最後になるのだ。

怖い。

俺はそう思う。

負ければ、そこで終わってしまう。

そう思うと、怖い。

怖くて怖くて。

俺は、今ここに居るセーラさんと部長に聞いていた。

だけど、帰ってくるのは笑い声。

部長も、セーラさんも。

二人が顔を見合わせ、そして大笑いする。

にやりと、セーラさんが笑った。

不敵な笑みだと、俺は思った。


セーラ「負けたら終わり……なら、勝てばええんやろ?」

竜華「そういうことやで」


気持ちの問題。

最初から負けることを考える必要は無い。

負けてから、負けたことを考えればいい。

これは麻雀。

将棋やチェスのように、手詰まり、ということは無い。

全てが運に、己によって左右される競技だ。

諦める。

その必要は無いのだと、二人は笑っていた。





380 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/12(火) 19:29:22.22 ID:je3npvgDo [8/13]
【8月21日:朝】準決勝当日


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【Aブロック準決勝:先鋒戦】



――――牌が重い。

意識が薄れていく。

こんなに、辛かったかな。

麻雀って、こんなに苦しかったのかな。

そう自分に聞いてみる。

答えてはくれない。

今は、自分の体力が敵になっているから。

自分の体すら、味方じゃなかった。

せめて足を踏ん張って、腕を張ろう。

そう心では思っても、膝が笑う。

声が聞こえた。


『もう、諦めよう』

『私は頑張った』

『無理して苦しむ必要なんか無い』

『ほら、倒れちゃえば楽になる』


ふらりと。

体が震えた。

その甘美な誘惑に誘われてしまった。

でも。

でも……。

あと、少しだけ。

もうすぐ、試合が終わるから。


照「リーチ」


リーチ、したな……?

ウチのお仕事は、これでおしまい、や。

……。

……ちょっと。





疲れた、なぁ……。






401 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/12(火) 19:37:21.69 ID:je3npvgDo [12/13]



怜「おつかれ、さん………」


短く挨拶をして、立ち上がろうと力を入れる。

ただ、自分は想像を超えて消耗しているらしい。

ぐらりと。

椅子という支えを失った体が崩れる。

スローになる視界。

驚きに目を小さく見開いた宮永照に、新道寺と松実さんが咄嗟に手を伸ばすのが見えた。

間に合わない。

きっと、会場の床は冷たいやろうなぁ。

そんな考えが浮かぶ。

だけどそれは、叶わない。

手を握られた。

二人にだ。

視線を向けなくても、分かる。

あの手を知っている。

その温もりを知っている。

竜華。

京太郎。

二人が必死に、声をかけているのが見えた。

声が聞こえない。

意識が沈んでいく。

でも。

こうして眠ってしまうのは。

寂しくない。

京太郎が一緒だから。

ちっとも寂しくなんかない。

そう思える、意識の喪失。

ぴとりと。

震えるウチの手が、京太郎の頬を撫でていた。





406 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/12(火) 19:49:38.94 ID:je3npvgDo [13/13]



嫌な予感がした。

消耗するのは理解していた。

だから、俺たちは全員で駆けつけている。

怜さんの居る試合会場に。

中継の映像。

それでも見て取れるほど憔悴したその姿に。

俺は気づけば、部長と一緒に駆け出していた。

係員の制止の声。

それを振り払い、ドアを開く。

歓声が聞こえ、アナウンスは終了を知らせる。

入り口のドアを開いた。

視線は、椅子に座る怜さんに固定される。

だけど、分かる。

椅子に座っているだけで、肩で息をしていた。

立ち上がり、軸がぶれる。

拙いと。

俺はそう考える前に駆け出していた。

倒れる怜さんの背に手を入れ、崩れ落ちるのを防ぐ。

乱入してきたに近い俺に他高校の生徒がざわめき、驚きを露にするが、それでもって今の事態を把握した人間も多かった。

選手が、倒れた。

その事実と同時に、実況席は実況から観客などに対する説明を開始する。

同時に、スタッフも動く。

救急車の手配や、一時試合中断など。

全国大会がこの一瞬で全て、冷たいものへと変化していた。


京太郎「怜さん!返事できますか!怜さん!!」

竜華「怜!いやや、目ぇ開けて怜ぃ!!」

怜「あ、はは……心配しすぎや、二人、とも……」

泉「担架きました!!」

京太郎「分かった!!」


俺は園城寺先輩を抱き上げ、通路へと向かう。

見れば、救急隊がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。

担架に乗せ、即座に運搬開始。

そのまま会場裏口へと運ばれる怜さんを俺は最後まで見送っていた。





407 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/12(火) 20:04:40.14 ID:Ca8CHG5So [1/33]



京太郎「監督には連絡しておきました!……部長、怜さんをお願いします」

竜華「う、うん!そっち、任せるわ…!」


救急車に同乗し、去っていく部長。

近くの病院へと入るのだろう。

場に残った俺は船久保先輩と顔を合わせる。

船久保先輩は、いかにも苛立っている。

そういう顔で、舌打ちを一つ鳴らしていた。


浩子「……チャンピオン、あそこまで圧倒的なんは想定外やった」


ドラ集めに怜さんの未来視。

その火力の基点、流れを抑えられてなお圧倒。

それに想定外だと、船久保先輩は言う。

俺も、あそこまでとは思ってもいなかった。

あの人は、あそこまで強かったのか。

あそこまで、高みに居るのか。

恨む理由はない。

誰もが全力で戦った結果だ。

ただ一つ、言えることがあるとすれば。

まだ試合は始まったばかり。

そんなことは、後で考えれば、それでいいのだ。


浩子「……さて、と」

京太郎「戻りますか?」

浩子「誰もおらんのに、ここに居てもしゃあないやろ……せや、お昼の出前表貰ってから帰るわー」


ほなな、と。

手をひらひら振って去っていく船久保先輩。

それに俺は頭を一つ下げると、足を部屋の方角に向ける。

そういえば、泉はどうしたんだろうか。

怜さんに言われた後、セーラ先輩が付き添って先に試合会場の方に向かったはずだ。

そう思っていると、視線の先。

そこにぽつんと。

壁に背を預け、顔に手をやっている泉の姿が見えた。





408 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/12(火) 20:20:57.70 ID:Ca8CHG5So [2/33]


京太郎「泉…?」

泉「あ、京太郎……」

京太郎「……どうしたんだよ、そんな顔して」


軽く挨拶。

それをして相対した泉の目尻には涙があった。

見れば、震えている。

そう分かるくらいに、泉は怯えていた。

俺には分からない、泉の恐怖。



―――彼女……二条泉にある思いは複雑だった。

己が負けるのは、良い。

いや、良いという訳じゃない。

元より自己の尊重など深く考えていない。

自分の負けで、どれだけさげずまれようと……それは自分だけの責任でいい。

だが、それでも。

この全国、団体、チーム。

それにおいて、そこにあるのは、自分だけの責任じゃない。

自分が負ければ、仲間が苦しむのだ。

その事実、その重圧が、泉を震わせていた――――。



京太郎「泉……?」


俺が声色を変え、泉に問いかける。

びくりと震え、泉がそのまま、笑みを浮かべた。

まるで強がるような、そんな笑み。


泉「きょ、京太郎……ウチ、負けんで」

京太郎「……あぁ」

泉「……せや、勝負するで。ウチは勝つ、勝ったら京太郎に命令させて貰おかな」

京太郎「おう、上等だ。負けたら罰ゲームだぜ」


泉が小さく、笑う。

俺も笑う。

片手を泉が上げ、俺も上げる。

力強い、ハイタッチ。

お互いが、交差した。


京太郎「勝ってこい、泉」

泉「当然や…!」