276 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/06(水) 21:43:00.58 ID:zp+WGvdGo [22/32]
【8月16日:夜】



京太郎「はっ、はっ、はっ……!」


俺は走る。

走っている。

そうすることしか出来ないからだ。

視線を後ろに。

見えた。

金色が追ってくる。


淡「待っててばー!!」

京太郎「誰が待つかぁぁぁあ!!」


俺を追う狩人、大星淡。

昼間の一件から何かと俺へとちょっかいかけてくるようになり、そして今は油性ペンを片手に俺を追っている。

畜生め。

あのほっぺの酷使が未だに響いてるのだろうか。

それともそんなに恥ずかしかったのか?

今も真っ赤になって追ってきてるし。

しかし、だ。

仮にも俺は男。

女の子である淡とは体力も、歩幅も違う。

曲がり角を曲がり、返すように俺はレクリエーションルームに。

勢いよく、しかし音なく入ってきたせいか、驚きで咳き込む声が聞こえた。


尭深「けほ、けほっ……す、須賀君……?」

京太郎「すいません渋谷先輩!淡には俺は来てないって言ってください!!」


ロッカーを開き、その中に。

その十数秒後。

バンッと。

勢いよくドアが開く音が聞こえた。


淡「京太郎!!……あれ、たかみー?」

尭深「あ、淡ちゃん……?」

淡「たかみー、京太郎来なかった?」

尭深「須賀君?えっと、来てないけど……」チラッ

淡「そっかー……麻雀強くないくせに逃げ足だけは速いなぁもう……」

京太郎(大きなお世話だよちくしょー!!)





309 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/06(水) 22:55:00.91 ID:zp+WGvdGo [25/32]



ガチャン、たったった……。

俺は耳を澄まして、音を聞き取る。

フェイントが仕掛けられてるかも知れない。

そう思ったからこそ、俺はまだ待つ。

足音。

かなり体重が軽い。

ふわふわした、優しい足取りだろうか。

その足音が、ロッカーに近づいている。


京太郎「………」

尭深「須賀君、淡ちゃん行ったよ」

京太郎「………っはー!」


渋谷先輩の声。

それに俺は詰めていた息を吐き出し、ロッカーから出る。

ああくそ、ようやくだ。

ようやく逃げ切れた。

息も少し乱れている。

そんな俺を見て少し目元を優しげに緩ませた渋谷先輩が、「ちょっと待ってね」と言って給湯室へと向かっていく。


尭深「あの、これ濡れタオルと水出しの緑茶……良ければ」

京太郎「………」

尭深「あの……須賀君……?」

京太郎「天使じゃぁ……」ウッ


天使だ、天使すぎる。

優しいとか優しくないとかじゃない、もはやそれ自体が癒しだ。

思わず目元が緩む。

それにおろおろと、困ったような顔をする渋谷先輩。

それに何でもない。

何でもないんですと、俺は指で目元を掬う。

お茶、いただきます。

……ああ、あったけぇなぁ……冷たいんだけど、あったけぇ……。






315 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/06(水) 23:03:37.38 ID:zp+WGvdGo [27/32]
【8月17日:朝】


玄「あのー」

京太郎「はい?」


朝。

特にすべきこともなく、自由行動の許可が出ていた俺は財布をポケットに突っ込み、私服を着て街に繰り出していた。

俺が住む白糸台。

そこは西東京、いわゆる都心部から離れた僻地でもある。

その分、家賃もそれなりに安いし、まぁ普通に生活するには十分な場所だった。

だから東東京。

大会会場がある周辺の地理は正直言うと疎い。

ちょっと遠出するとなると、携帯の地図アプリとかのお世話になるのが通例だ。

そんな俺にかかる声が一つ。

女の子の声だ。

聞き覚えない声からして、白糸台の生徒じゃないな。

そこまで考えつつ、振り返る。

見知らぬ制服だ。

少なくとも、初めて見る。

それに俺が思わず首を傾げると、目の前の女の子は困ったような顔をしている。

なんというか、助けを求めている、という感じの顔か?


玄「あの、近くのJR線の駅って何処にあるか分かりますか?」

京太郎「駅ですか、俺も今行こうと思ってたので一緒で良ければ案内しますよ」

玄「わっ、ありがとうございます!」


結構勢いよく頭を下げる女の子。

それに釣られて震えるおもち。

……まぁ、あれだ。

一瞬とはいえ目を引かれてしまった自分が居るということは正直に言うべきだろう。

実にすばらですよ、こいつァ…。

そんな時。

目の前の女の子、松実玄さんがぴしりと固まる。

それと同時に後ろに気配。

……なんだ?この威容な威圧感と恐怖は。

手がね、勝手にね、カタカタって震えるんだ。

ぎちり。

視線はゆっくりと、後ろへ。


照「…………ふーん」


これはアカン。




440 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/07(木) 20:19:11.39 ID:LbpamgC3o [7/28]



玄「み、みみみみみ宮永照さん……!?」

京太郎「な、何で照さん居るんですかー!?」

玄「え、須賀君知り合いなの!?」

京太郎「というか幼馴染で同じ学校と言いますか……」

照「別に、本を買おうと思って出てきただけ………そっか、京ちゃんはナンパしに行ってたんだね」

京太郎「ファッ!?」


そっかそっか。

そう一人で頷く照さん。

いやいやいや……いやいやいやいや!

おかしいでしょう!

俺ってば困ってた人助けただけだよね?

それに(おもちに対して視線は行ってたけど)やましい気持ちなんてないぞ!

俺はその主張を視線に込め、照さんを見る。

視線を受けた照さんは自分の胸に手を当てて、俺を見返す。

……ああ、そうっすか。

俺が視線を向けたってことだけに怒ってるんですか。


玄「えっと……須賀君にナンパ、され……ちゃった?」


余計なこと言わないでください松実さんんん!!!?






447 名前: ◆VB1fdkUTPA[!red_res] 投稿日:2013/02/07(木) 20:26:20.01 ID:LbpamgC3o [8/28]




                    マツミクロ



                    アチガ




                    ゼッタイツブス





457 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/07(木) 20:30:19.09 ID:LbpamgC3o [9/28]
【8月17日:昼】



京太郎「いやーはっはっは」

玄「あ、あはは、はは……」

照「………」

玄「………」

京太郎「………」


誰か、この空気から助けてくれ。

俺は四人がけのボックス席でそんなことを考えていた。

運よく開いていた席を確保。

行き先が偶然にも同じということもあり、旅は道ずれともいうものだ。

俺、照さん、松実さんはどうせ、ということで一緒に行動していた。

照さんがそうするように仕向けた、と言ってもいい。

まるでじろじろと監視するように、松実さんを見ている。

そんな、無言の圧力空間。

乾いた笑いしか出ないとはこのことだろう。

電車が停車。

降りる人も無く、乗る人が多少いるくらい。

その時。

俺の位置から見えた姿があった。

よくあるデザインのセーラー服。

それを着た、何処か足取りが覚束ない、一人の女の子。

顔色は、かなり悪い。

焦燥している、という感じだろうか。

その女の子が、視線を俺たちの空いている席へと止めた。


怜「ちょおスマンけど……相席しても、ええかな……?」

玄「園城寺さん!?」

怜「……あれ、確か阿知賀の……」

玄「玄です!松実玄!って、フラフラじゃないですか!どうぞ座ってください!」

怜「か、堪忍な……」ヨロヨロ


ふらりと、椅子に腰を下ろす。

はぁ、と小さく息を吐いたのが見えた。

……かなり消耗している、か?


照「園城寺……千里山の」

京太郎「あの、大丈夫ですか?」

怜「……あれ、おかしいな?なんやチャンピオンが男と居る幻覚が見えるわ……」

玄「園城寺さん、それ幻覚じゃないです……」





508 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/07(木) 21:23:45.38 ID:LbpamgC3o [13/28]



京太郎「ちょっと失礼します」

怜「……変なとこ触らんといてー」

京太郎「触りませんよ!!」


俺は園城寺さんの目と顔色を見て、額を触れる。

熱い。

体の中に熱でも篭ってるんじゃないだろうか。

それに汗の量が少ない。

今日は暑い。

汗ばむくらい、誰だってしているはずだろう。

となると、この人は体温調整があまり効かないのか?

汗をかけないと体温調整が出来ない。

見るからに病弱なこの人はそんな体なのだろうか?

そんなことを思いつつ、俺はカバンから冷え○タを取り出し、玄さんに協力して貰いでこに張る。

張った瞬間、「はうっ」と。

びくん、と反応した。

どうにも冷たかったらしい。

次の停車駅。

俺は150円を掴んでダッシュでスポーツドリンクを買ってくる。

それを俺は園城寺さんに渡して、そして最後に取り出した飴玉を口に押し込む。

カロコロと。

少し戸惑ったようにしていた園城寺さんが口内で飴玉を転がす音が聞こえる。

そのままスポーツドリンクを一口。

そうすることで結構顔色が良くなってきているように見えた。


怜「ぷはっ……あー……死ぬかと思ったわ」

京太郎「知らずのうちに脱水症状起こしてましたね……結構歩いてますよね?」

怜「うん、今朝調子よかったからちょうな……これ、塩飴やな」カラコロ

照「京ちゃん、私にも飴頂戴」

京太郎「無理が祟りましたね……あ、レモンと塩と梅がありますけどどうします?」

照「レモンがいい」

京太郎「はいどうぞ、あーん」

照「あーん…んっ……おいしい」カラコロ

京太郎「松実さんも要ります?」

玄「あ、じゃあ私は梅で……」

京太郎「はい、あーん」

玄「じ、自分で食べるから大丈夫だよ!」

京太郎「あ、すいません癖で……」





518 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/07(木) 21:41:08.68 ID:LbpamgC3o [14/28]



はっはっは。

伊達に照さんや淡の世話で磨かれたスキルだ。

以前よりも増して磨かれているぜ。

しかし、何でだろうなー?

俺、一人暮らしになる前にお袋から色々と仕込まれたけど、何故か何でも出来たし。

すわ才能か、と疑ったりもしたなぁ。

………主夫の才能って何かあれだなぁ…。

そんなことを俺が思わず思うと、小さく。

クスッと、そんな笑い声が聞こえた。


怜「須賀君、やったっけ………君、おもろいなぁ」

京太郎「へ?」

怜「ん、何でもあらへんよ」

アナウンス『次は――――』

怜「ここで降りな」

京太郎「丁度、俺たちもですね」

よっと、立ち上がろうとする園城寺さん。

だが、がくん、と膝が砕ける。

そりゃ、そうだ。

塩分の不足は筋肉の動きに障害を引き起こす。

元々体が強くない園城寺さんなら、その効果も通常の数倍だ。

困ったような、そんな顔をする園城寺さん。

それに俺は小さく息を吐くと、背中を差し出す。

旅は道ずれ。

まぁ、そういうのは助け合いから続くもんだろう。

また小さく、園城寺さんが笑う。

すまんな、と。

小さく。



照「………っ」

玄「………んん??」




  • 両名の病み&害意上昇

523 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/07(木) 21:46:57.11 ID:LbpamgC3o [15/28]
【8月17日:夜】



京太郎「いやー、今日色々と買いましたね照さん」

照「そう」

京太郎「まさかこうなるなんてなー」

照「そう」

京太郎「……楽しかったなー、照さんと買い物いけて」ボソッ

照「……そう?」

京太郎(これ誘導尋問じゃね?)


帰り道。

俺は二人と別れて照さんと帰っていた。

松実さんは集合場所に向かい、園城寺さんはチームメイトの人が迎えに。

行き先の駅が同じというだけで、そこから先の行動は別々だ。

俺は照さんと一緒に目的を果たしたので特に不満はない。

ただ、照さんの距離が全体的にやけに近い。

そう感じるくらいだ。

……というか、だ。

実際、照さんは俺の手を握ってる。

近いというか接触してるのだ、これ。

何でかなぁ。

俺、何も悪いことしてないのになぁ。

いやまぁ、ふらふらと何処かに消えることはこれで無くなるんだろうけど。


京太郎「……そういや、明日試合ですね」

照「うん」


大丈夫ですか?

なんて言葉は、当然出ない。

聞くまでもない。

それだけのことだ。

ただ。

俺はちらりと、照さんを見る。

無表情の中にある、少しの喜色。

それを滲ませるような、人形みたいな顔。

この人は、こうして無表情のまま。

当然のように、勝つんだろうな。

そう、俺は思っていた。

ふと、俺はビルを見上げる。

月を背景に光るビルを背に。

俺は帰り道を二人で行く。




543 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/07(木) 22:30:01.26 ID:LbpamgC3o [18/28]

【ビル屋上】














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             .|/'  |: / ∨: !、:.::/ |>o。_          /  .!-ー--  .._
           {.     |:./   ∨{. Y/ |:.:.:.:./i:.:¨7 T¨¨¨¨¨¨´    ^ー 、     ` ̄

  • 17日、終了


557 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/07(木) 22:44:47.16 ID:LbpamgC3o [21/28]
【8月18日:朝】2回戦当日です



『ないてるの?』

『ないて、ない……』

『うそだ、ないてるじゃん』

『ないてないもんっ!』

『いーや、ないてる!』

『ないてない!』


少年と少女が居た。

遠い記憶の中。

そこに微かに。

だが二度と忘れないように刻まれた風景の中に。

少年と少女が居た。

その出会いは偶然で。

その出会いは必然。

少年は、泣いている女の子を放っておけなかった。

少女は、泣くことで誰かの救いを求めていた。

その両者がかみ合っただけの話。

須賀京太郎、6歳。

※※※、※歳。

小さな、運命の出会い。

それは何所までも普通で。

何所までも不器用な。

小さな、出会い。


京太郎『ほら、たてるか?』

※『う、うん……』

京太郎『けが、ないよな』

※『だ、だいじょうぶだよ!』

京太郎『そっか……あ、おれはすがきょうたろうっていうんだ……なぁ、きいていいか?』


教えてくれないか、君の名前。


※『わたし……わたしは――――』











※【私の名前は、※※※、だよ】




823 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/08(金) 23:34:41.89 ID:Ks+wqLmPo [27/33]



「―――ちゃん!ぅ……ゃん!!」

「―――よう!お……ん!ど…しよ…!」

京太郎(あたまが、いたい)


声が聞こえた。

聞き覚えのある声。

なんだ?

なんでそんなに、あせってる?

分からない。

脳みそがシェイクされるような感覚。

指先が、感覚を感じる全てが痺れているような。

そんな気だるさがある。

ゆっくりと、目を開く。

見えたのは……2本の角?


京太郎「照さん……咲……?」

照「京ちゃん…!」

咲「良かった、京ちゃん……」

京太郎「………え?」


俺は、ベンチに寝ている。

何でだ。

それを理解する前に、俺は二人を見た。

……前は、あんなに咲を拒絶していた照さんが。

咲に反応していない。

だけどそれは一瞬だけ。

照さんが、俺の腕を掴んだ。


照「京ちゃん、待機部屋に戻ろう」

京太郎「いや、照さん?試合は……」

照「私の出番は終わって菫が出ている……いいから、帰ろう」

京太郎「いや、でも……」


俺は咲に視線を向ける。

そうだ、思い出してきた。

俺は試合終了後、またお菓子を買いに行った照さんを探しにいって、咲に会った。

少し話し込んで、照さんを探そうと思って咲と別れようとしたんだ。

そしたら、照さんが居て……。

その二人が向かい合う構図を見て、意識を失ったんだ。

この前は、そんなこと無かったのに。




829 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/08(金) 23:39:20.70 ID:Ks+wqLmPo [28/33]



だけど。

あの女の子は、誰なんだ?

知っている子だ。

そのはずだ。

そのはずなのだ。

それを思い返そうとする前に、手を引かれる。

見れば、照さんがまた手を引いていた。

俺は咲に視線を移す。

さっきまで険難な空気が無かった。

それは、照さんがそれを咲に向ける余裕が無かったから、だろう。

それだけ、俺が倒れたことに注意を向けてくれたのだろうか。

咲は、小さく頷く。

行っても大丈夫。

その意味だろう。

俺はすまんと、小さく呟いて照さんに引かれていく。

ぽつんと。

遠ざかる咲の姿。

また、何所かで見たことがある。

そんな光景だった。






832 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/08(金) 23:41:17.11 ID:Ks+wqLmPo [29/33]
【8月18日:昼】2回戦当日です


京太郎「照さん……」

照「……」

京太郎「照さん……!」

照「………」

京太郎「照さん!!」


ぴたりと。

俺の手を引いていた照さんが止まる。

周りに人気は無い。

勢いよく、前すら見ずに歩いていたから当然だろう。

それが照さんなら、なおさらだ。

俺もここが何所だか、分からない。

そんな場所に俺たちは来ていた。

ただ、一つ。

一つだけ言えるとすれば、ここなら誰かが聞き耳を立てることも。

誰とも出会うことも無い。

ただそれだけは、分かるのだ。

俺は照さんを見る。

表情が無い。

感情の抜け落ちたような、そんな顔だ。

それは、咲を前にして見せた顔。

それを、俺に向ける照さん。

ぞわりと。

背筋が粟立つ。

この人は、何かを考えている。

ろくでもない何かを。

それを実感するだけの雰囲気が、あった。


京太郎「照さん……?」

照「………京ちゃんは――――」

京太郎「え……?」


また前を向いた照さんが口を開く。

それに俺は疑問の声で聞き返し。

照さんは、ゆっくりと振り返った。



照「京ちゃんは、どこにも、いかないよね?」





937 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/09(土) 21:45:04.50 ID:vjZyLTM7o [3/11]



何所にもいかない。

そう聞かれる。

そう、問われる。

それに答えるのは、簡単だ。

何所にもいかない。

今の状況を受け流すには、最適の言葉だ。

だけど。

ああ。

何で、喉が震えるのだ。

そうだよ。

照さんだって、完全に全てが本気な訳じゃない。

これからの長い人生だ。

人との出会いも別れも多く存在するだろう。

何所にもいかない、というのはつまり、「勝手にいなくならない」。

そういうことを示しているのだろう。

当たり前だ。

それ以外の意味に取る理由がない。

ああ、そうだ。

うん、と。

はい、と。

そう答えろ。

俺がそうすれば、場は全て収まる。

にこりと、顔を引きつらせて、笑う。

答えようと、息を吸い込み。


京太郎「俺は―――」

照「あいつなんかと、もう会う必要なくなるもんね」


あい、つ……咲。

咲と、会う必要が無くなる……?


京太郎「照さん、貴女―――ッ!?」

照「ん……」


どういう意味ですか。

その俺の問いかけは、問う前に閉ざされる。

照さんの唇で。

唐突に。

あまりにも唐突に、閉ざされて。



947 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/09(土) 21:58:08.51 ID:vjZyLTM7o [5/11]



壁に背中がつく。

追い込まれた。

痺れる脳みそじゃそこまで考えれなくて。

俺は目を見開く。

まるで眠っているように瞳を閉じた照さんが目の前に居る。

この人は。

いや、これは、誰だ?

分からない。

俺の知っている照さんは、もっと何も考えてない。

いや、何かとお菓子の事を考えていて、それでいて不器用。

そんな人だ。

なのに、今の顔は。

何所までも色気に満ちている、そう見える顔だ。


京太郎「っぁ……て、る……さん……」

照「っ……」


ずるずると。

俺は壁に背中をつけたまま、膝を砕く。

俺の尻が地面へとつき、今度は俺が照さんを見上げる角度に。

だけど、それは直ぐに同じ高さに。

照さんが、俺の足を跨いで膝立ちになって。

俺の頬を両手で挟む。

にこりと。

ゆっくりと、微笑む照さん。

今まで見たこともないような、笑顔で。

俺へと、告げる。


照「大丈夫だよ、京ちゃん……京ちゃんは、何も考えなくていいんだから……」


ああ……畜生。

何で、こんなことに…。






951 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/09(土) 22:01:21.68 ID:vjZyLTM7o [6/11]
【8月18日:夜】




どれだけの時間が過ぎたんだろうか。

1分だったかも知れない。

1時間だったかも知れない。

ただ、俺がそれに気づいたのは本当にいきなりのことで。

ああ、携帯に出なきゃ。

それくらいの感想だった。


京太郎「もし、もし……」

菫『須賀か!?お前今まで何所にいってたんだ?』

京太郎「すい、ません……」

菫『まぁいいさ……お前は別にそんな問題を起こすような奴じゃないからな……お前、照を知らないか?』

京太郎「……すいません、知りません」

菫『参ったな……分かった、照に会ったら確保しといてくれ、じゃあな』

京太郎「はい、失礼します……」


電話を切る。

電話を切って、俺は視線を向ける。

俺の隣に座る、照さんを。

すみません、弘世部長。

照さんは、ここにいます。

それに。

……それに、俺、問題起こしました。

届かない言葉。

俺は手を握り、眠るように肩に寄りかかる照さんを見る。


照「………菫から?」

京太郎「はい……」

照「そっか……」


小さく、そう尋ねる照さん。

俺は、そこから言葉は続かない。

照さんが、目を開いた。


照「どうしよう」

京太郎「俺に言わないでくださいよ……」






96 名前: ◆VB1fdkUTPA[sage] 投稿日:2013/02/09(土) 23:39:25.37 ID:vjZyLTM7o [9/12]



照「帰ろう」

京太郎「……了解です」


照さんの言葉。

それに俺は頷く。

足が重い。

くそ、何でこんなに疲れてるんだ?

俺は思わず反射的に唇に手を添える。

そして、見上げた。

こちらを見下ろす、照さんの顔。

女の艶を見せた、顔。

ちろり。

照さんの小さい舌が、自分の唇を舐める。

……くっそ。

何も言えん。

いや、言うべきことはある。

あるんだ。

でも言うに言えないというか。

この人が分からないというか。

そうだ。

俺は混乱している。

今は時間が欲しいんだ。

それも切実に、本当に。

冷静に物事を処理する時間が。

そこにあるのは、虚しさだけだから。

何かに見切りをつけなければ。

俺はきっと、駄目なんだろう。


照「帰ろう、京ちゃん」

照「……うっす」


明るくそう笑う照さん。

差し出される手を握らず、俺は自力で立つ。

照さんは腕を掴んで。

俺の顔を、覗き込んだ。


照「続きは、帰ったら」


………ああくそ。






134 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/09(土) 23:56:59.05 ID:vjZyLTM7o [12/12]



照さんと並んで帰る。

会話は無い。

会話することがない。

それが今のこの奇妙な関係を彩っている。

そんな気がするのだ。


照「~♪」


一人、機嫌良く前を行く照さん。

数日前。

咲と出会った道だ。

それを行く照さんには、翳りが無い。

俺はちらりと。

周囲を探る。

咲は来ないか。

そう思って、前を向き直す。

目が合う。

照さんが、目を見開いて。

俺の顔を、至近距離で覗き込んでいた。


照「誰、探してるの?」

京太郎「――――ッ!」


思わず、下がる。

じりっと。

下がる。


照「駄目だよ、京ちゃん」

京太郎「……何がです?」

照「そんなに不注意だと、怪我するよ」

京太郎「……気をつけます」


視線を車道に。

向けて喋る照さんに、俺も車道に視線を向ける。

気づかれてない。

それに詰めた息を吐いて。


照「アイツは来ないよ、京ちゃん」


息を、吸い込めなかった。






152 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/10(日) 00:10:31.06 ID:1pgCD7RWo [1/38]



照「……」

京太郎「………なんの、ことです?」

照「……さぁ…?」

京太郎「答えてください!!」


俺は照さんに詰め寄る。

なんでだ。

この人が言ってること。

それが何でも軽いのに。

どこまでも重いと感じるのは。

それに。

それになんで。

なんで、この人はそんなに。


京太郎「なんでそんなに……笑顔、なんです……!?」

照「…………」 


そうだ。

この人は笑ってる。

まるで何もかもが予想通りだと。

いや、自分の思うとおりになっていると。

そう嬉しげに。

笑っているのだ。


照「……さぁ?」

京太郎「さぁ、って……」

照「分からない……でもね、京ちゃん」


照さんがまた、俺の頬に手を触れる。

ゆっくりと、抱きついてくる。

それを離そうと。

そうすれば出来るだろうけれど。

照さんの言葉。

それだけしか、俺は聞けなかった。


照「アイツが居ない……それだけで、私は……」




  ′    |: : : \|:ハ::::::: ̄:::::::::::: \{:::::::: ̄´:::::::/: ::∨: : |
        |l: : : : : : λ       ,        ハ: : : : : : :|
        i|: : : : : : :込、   __   __,.   ,イ: ! : : :、 : :|   それだけで……笑顔が、消えないんだ。
       __|: : : : : : : : :|__,.    ー‐ ´  ./|:|: : : : : ハ: :|
-‐= '      |: : :.l| : : : : | .::/>       . イ.>|: : |: : :/ ‐ :|
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158 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/10(日) 00:18:03.76 ID:1pgCD7RWo [2/38]



話は終わり。

そう言うように。

照さんは俺の手を掴む。

ずるずると。

手を引いてくる。

くそ。

くそ、くそ、くそ。

動けよ、俺の手。

何で、動かないんだ。

気づけば、ホテルの前に。

皆が、手を振っていた。

ずるずると。

俺を引き込もうとする、照さん。

そうだ。

この人は。


照「さぁ、帰ろう?今の京ちゃんの居場所に……」

京太郎「照…さん……」


この人は……。







照「あそこは……今の京ちゃんが帰れる、数少ない場所なんだから」





…………。





【END:シマイ】