338 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/03(日) 23:20:28.10 ID:3NYRhKZUo [22/24]



あの宮永照が男を連れてきた。

今から数ヶ月前。

時期で言えば春休みの頃、それが白糸台麻雀部に奔る激震だった。

前部長から私に部長引継ぎも終わって半年、トラブル無く過ごしてきた毎日。

それをあいつ自身の手でぶち壊されることになるとは思いもしなかった、というが本音だ。

いや、あいつは小さい問題は起こしていた。

よく迷子になってたり、気づけば消えていたり。

部員総出で探そうとすれば、今度はコンビニの袋を持って帰ってくる。

しかも、「何でこんなに騒がしいの?」と真顔で聞いてくるくらいに。

ああそうだ。

こいつはこういう奴だ。

制御の効かない、何処までも自由な奴なんだと。

思い知ったのは一年の頃からだろう?

己に問いかけてみれば答えは肯定。

思えば、苦労ばかりかけさせられた。

ため息の回数だって増えたと思う。

だが、それを悪く思っていないという自分にも驚いてはいた。

まぁ、それも友人という間柄だからだろう。

付き合っていて、困ることはあれど不快となることは無い。

宮永照というのは、そういう奴だった。

……ああ、そうだった―――話を戻そう。

照が連れてきた男……須賀京太郎。

何でも、照とは幼馴染に近い付き合いらしい。

去年の冬から交流が戻り、白糸台を受けてみればと勧めたらしい。

結果は、合格。

そういうことで、一足早く学校見学をしているそうだ。

そして、その案内を照がしている。

なんとも、聞けば普通のことなんだろう。

だが、私が驚いているのはそんなことじゃない。

あの照が、笑みを浮かべているのだ。

何時も愛想笑いや営業スマイルしか浮かべない照が、微笑を浮かべている。

別に照の笑顔を初めて見た、ということは無い。

無いが、あそこまで満面の笑みは初めてだった。

それが、須賀京太郎との出会い。

第一印象は、どうにも印象薄くなってしまった出会い方だった。






347 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/03(日) 23:34:32.50 ID:3NYRhKZUo [23/24]



春。

入学式を終え、新入生が多く入るこの季節。

それぞれの部活は新たな部員を確保しようと宣伝を開始する。

まぁ、麻雀部にはその必要は無いのだけれども。

昨年、一昨年の全国覇者。

その名前の売れ方というものは、一つ異常だ。

あまりにも入部志願が多すぎて、足切り試験を開始するとまで発展したことから察せれるだろう。

試験までの期日は一週間。

雀卓は麻雀マットによる手積みも含め多く用意され、それでもなお手が余る入部希望者は特訓へと打ち込む。

その時、やけに照がそわそわとしていたのを私は見ていた。

視線の先には、金髪。

ああ、彼か。

私が名前を思い出しながら、少し覗いて見る。

見たが……実力は低かったと見るべきだろう。

一応は春休み中に自学していたらしい。

最低限は理解していても、まだ雑、ということは分かった。

ふと、視線を向ける。

照が立って、こっちに来ようとしている。

それだけは拙い。

咄嗟に、私は照の腕を掴んで給湯室に向かう。

人気は無い。

少しお茶の香りがすることからして尭深がさっきまで居たってのが分かるくらいだろう。


照「菫、離して」

菫「おい待て、何するつもりだ?」

照「京ちゃんを鍛える」

菫「お前がやったら鍛える前に壊すぞ、確実に」


シュン、と。

それが分かっているからこそ俯く照。

ああ、厄介なことになったな。

返ってくる答えは無い。

今は駄目だ。

そう言い、照を抑える。

しかし、レギュラーの練習中でも彼の背中を追うように見ていて、そして調子も悪くなった。

もし、これで彼が足きりされて部に来れなくなったら。

そう思うと、照の行動が読めなくなる。

そこから先の行動はもう、決まっていた。





352 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/03(日) 23:50:36.86 ID:3NYRhKZUo [24/24]



ピンポーン。

はーい。

実に短いやり取りだ。

こうするだけで家の中に居る人間を呼べる。

アパートのドアが開き、彼と目が合う。

今の彼の顔は呆気に取られてる、というのが正しい表現だろうか。


京太郎「ひ、弘瀬部長?何でここに……」

菫「あー……その、な…」

照「私も居る」

京太郎「てっ、照さん!?」


つかつかと、勝手に部屋に入る照。

悲鳴を上げて照を追いかける須賀を哀れに感じつつも、私も家の中に入る。

ふと見回してみれば、なんてことはない、1Kのアパートだ。

ダンボールが山積みしてあり、ちゃぶ台と布団だけが置かれている。

まぁ、これが普通か。

そう思いつつ、私は畏まって座る須賀の前に膝をついて座る。

……照が何かを探し回ってるのが気にはなるが。


京太郎「そ、それであの……俺に何か御用ですか、部長?」

菫「ああ………そこのポンコツのことなんだがな」

京太郎「照さんの……ですか?」

菫「そうだ、君が試験を受けるということで普段の練習にさえ気が入らないんだ」


そう私が言うと、申し訳なさそうな顔をする須賀。

別に責めてる訳じゃないと前置きを置き、本題を繰り出す。


菫「私はこれ以上こいつの問題行動を起こさせたくないんだ、分かるか?」

京太郎「は、はい」

菫「だから、君には確実に試験に受かって貰う必要がある」


そう言って、私が荷物から出すのは様々な本。

そして折りたたみ式の麻雀マット。

それを見た須賀の頬が、ひくり、と。

大きく引きつった。


菫「これから数日間、胃に汗を掻いて貰うぞ」

京太郎「いやあああああああ!?」


………今思えば女のような悲鳴だったな、あれは。





360 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/04(月) 00:00:26.67 ID:9kPBi8WCo [1/11]



結論から言おう。

彼は、なんとか合格していた。

むしろ俄か仕込でよくあれだけ打てた方だと思う。

運にも救われたな。

私はそう思っている。

しかし、この足きり試験は大成功だ。

目ぼしい一年が一人、浮かび上がった。

大星淡。

あの照と一年の時、出会ったような。

それに似た感覚を感じた子だ。

きっと、すぐに一軍に上がってくる。

そんな確信すら、私にはあった。

事実、一軍レギュラーへと上り詰めたのだからその実力は本当だ。

しかし、須賀は実力自体は低い。

上手くなってはいるが、ここは白糸台だ。

その程度の雀士は多く存在する。

埋もれていくか。

そう思ったのだが、妙なところで才能を発揮する、ということがある。

須賀は、そんな奴だ。

気づけば牌譜は整理され、気づけば部屋は清掃され、壊れた自動雀卓が何時の間にか直っている。

茶を淹れれば尭深並。

気づけばそこに控えている、そんな妙なスキルがあった。

執事か何かか。

そう聞けば、首を傾げて頭を捻っていた姿が思い浮かぶ。

そんな須賀が。

ここ、白糸台で築いた地位。

それは、ある意味では私と並ぶ仕事になっていた。

宮永照世話役。

今日も、お互い揃ってため息をつく。

そんな毎日。

私と彼は、今日も小さくため息をつく。



【プロローグ エンド】

369 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/04(月) 00:10:56.31 ID:9kPBi8WCo [2/11]




夢を見ていた。

何処か、寂しい夢を。

俺は高校を卒業して、龍門渕家の使用人となっていた。

ハギヨシさんと同じ執事。

純さん、一さん、智紀さんの後輩として。

高校時代と変わらず、毎日を皆と過ごしていた。

楽しかった。

騒がしかった。

悪い日なんてなかった。

こんな日がずっと続くと思ってた。

そんなこと無いのに。

俺は、忘れていたんだろう。

時間は、人を変えていくのだと。

純さんがクビになった。

何でクビになったか、教えてくれなかった。

むしろそんなことを忘れろと。

そう言うように俺に対する給金が上がった。

歯車が一つ、欠けた。

ぎしっ。

軋む音が聞こえる。

ぎしぎし。

まるで、機械仕掛けを無理して動かしているような。

そんな軋む音が。

それが長く続くはずも無い。

気づけば。

……気づけば、俺は。

俺は。

………。

俺は、屋敷から出ていっていた。

衣さん、一さん、智紀さん、ハギヨシさんに支援されて。

俺は、誰も知らない土地に来ていた。

故郷に帰ることもなく。

溜め込んでいた給金と、定期的に振り込まれる無言の給料。

振りぼけた大型バイクで転々と。

誰とも出会わない場所へと。

転々と。

転々と。




374 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/04(月) 00:16:10.06 ID:9kPBi8WCo [3/11]



バイクが止まる。

ぷすんと。

短い音と共にシリンダーが軋む音。

燃料切れ。

俺は周りを見回し、ため息をつく。

ここで野宿か。

バイクを路肩に止め、手は慣れた手つきで焚き木を組む。

ふと、視線を空に。

山合いの中、人口の光が無い空間。

邪魔する光が無く、浮き上がる星々が見える。

火を起こし、バイクから上着を複数取り出す。

寝袋へと入り込み、バイクにもたれかかるように座る。

今夜はきっと。

……きっと、良い夢を見れる。

そんなことを思いながら。

俺は、目を瞑っていた。






381 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/04(月) 00:21:09.17 ID:9kPBi8WCo [4/11]


【8月14日】


………なんか、妙な夢を見ていた気がする。

一人ずっと旅していたような、そんな夢。

夢で見た俺は疲れていて。

でも、毎日ちょっとした楽しみを見つけては笑みを浮かべていた。

そんな夢だ。

ああいう、風来坊な生き方はやろうとしても出来ないだろうな。

思い返せば、苦い夢だった。

そんな気がする。

さて、と。

俺は背伸びし、冷蔵庫を開く。

一応、俺は白糸台高校の選抜スタッフとして大会に同行が許されているのだ。

仕事はきっちりこなして見せようではないか。








京太郎「おはようございまーす」

照「あ、京ちゃん」


集合場所。

……というか、白糸台高校が利用しているホテルの小さい宴会場。

そこに選手たちとスタッフとなる生徒が集合している。

そのレギュラー陣。

そこに一足先に来て本を読んでいた照さんが立ち上がり、俺の傍に来る。


京太郎「おはようございます、照さん」

照「おはよう、京ちゃん」


にこり。

小さく笑む照さんに周りも笑みを浮かべる。

もはや見慣れた光景らしい。

それに妙な気恥ずかしさを感じつつも、俺は声を出す。


京太郎「皆さんは?」

照「菫は淡を起こしに、誠子と尭深は朝食が遅かったから、あと少しだと思う」

京太郎「淡の奴、まだ寝てるんですか……」


もうすぐ9時だぞ。

時計を見て、俺は呟く。

ああ、きっと部長は今頃大変なんだろうな。

そう思わずにはいられない。

そんなことを考えつつ、俺は座布団を持ってきて座る。

会議室が開けば次は会議室でミーティングでもするのかなと思いつつ。

その隣に照さんが座る。

無言で。

本のページを捲くる音だけが聞こえる。

ふと、周りを見る。

……なんで、皆遠巻きにいるんだ?




  • テルチャーの従順度1上昇

425 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/04(月) 00:55:23.83 ID:9kPBi8WCo [7/11]
【8月14日:昼】


レギュラーの皆は今、開会式の真っ最中だろうか。

俺は他のスタッフと共にテレビ画面に写る照さんたちを見る。

湧き起こる歓声。

登場しただけで、多くの観客が反応する。

白糸台麻雀部のネームバリューの広さを実感する瞬間だ。

自然と、俺も手を握る。

誰もが焦れる、全国の舞台。

そこに立つ多くの雀士の一人になりたいと、誰もが思う。

その頂点に居る照さんは、何処までも堂々としていた。

表情に変化なく、薄く閉じられた瞳が開かれ、選手代表の挨拶をするために動く。

その第一声。

それが、この2週間の闘いの火蓋を切って落とす言葉になった。


照「宣誓――――」


……さて。

開会式は終わり、ここ、白糸台麻雀部には緊迫した空気が張り詰めていた。

なぁに、なんてことは無い。

早くホテルに戻ろうとしたら、何時の間にか照さんが消えてたってだけの話だ。

弘瀬部長が頭を抱えて、照さんの携帯をその手に持っている。

……そうだ、あの人、携帯を忘れていってるのだ。

いや、開会式に携帯を持ち込まなかったからそのまま忘れていたんだろう。

誰かさんに似て、何処までもすっ呆けだと俺は思う。

ゆっくりと、立ち上がる部長。

その目は、鋭く据わっていた。

ゴ○ゴ13の女版みたいだ。

そんな感想を口には出さず、命令が下されるのを待つ。

照さんの捜索。

これこそ、我々白糸台高校レギュラー直属スタッフの真髄である。

何を隠そう、照さんの対応こそこのメンバーの職務の一環なのだ。

……いや、他高校の試合を記録という仕事も勿論あるんだけどね?

それは、まぁいい。

俺は部長の命令が下った後、携帯電話を片手に会場の外に出る。

会場から一斉に白糸台の制服が出てきたことでカメラが向くが、俺はそう他の高校と変わらないシャツとズボン姿だ。

以外とあっさり、会場から抜け出せた。

さて、照さんのことだ。

この近辺の甘味所を探せば、すぐ見つかるだろう。






536 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/04(月) 21:56:15.00 ID:2UiN0tOoo [4/21]




そう思い、捜索開始して10分。

俺は一軒のドーナツショップに到達していた。

朝方の照さんの呟き。

『今日はドーナツ』というその言葉の通りだ。

ただ、予想外にドーナツ屋があって驚いたけど。

まぁ、いいだろう。

俺は店内に入るとぐるりと見渡す。

店内はそう広くは無い。

見渡せば、すぐに見つかるはず――――




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人_    u              j.: .:|            に二二] 
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i.: .: .:i .: : _;〕ト  _/| h ≦.:.:.|: 八/  モグ…
ト、.: .:|/⌒ 、_| | | | ト、`〉、|/
| \{ .,_  \|     |/ ハ
  / ヽ >   |    ノ / ∧


京太郎「………」

照「………」

京太郎「帰りますよ」

照「……あといっk」

京太郎「か え り ま す よ ?」

照「うん」


駄目だこの人、早くなんとかしないと……!

……今度、部長に胃薬差し入れよう。




544 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/04(月) 22:01:56.31 ID:2UiN0tOoo [6/21]
【8月14日:夜】


部員全員にお土産ドーナッツ購入。

それを済ませて、俺は弘世部長に連絡を入れる。

照さん発見。

ドーナツ屋に居た。

短いながらそれを伝えて、小さく部長がため息を吐く。

なんというか、本当に疲れてる声だ。


京太郎「お、お疲れ様です…」

菫『ああもう、何でこんな……いや、すまないな』

京太郎「部長の気持ち、よーく分かりますよ俺も…」

照「―――」

菫『そうか、分かってくれるか……ふふっ、案外君は良い部長になりそうだな……今のうちに考えとかないか?』

京太郎「あは、あはは……俺はそんな仕事勤まるとはーって照さん何」ガッ

菫『須賀?どうした、おい?』

照「菫、心配かけた」

菫『照か、確かに心配したが……』

照「……このままホテルの方に京ちゃんと帰るから、皆もそのままホテルで集合で、じゃ」

菫『あ、おい待て!おいっ、てr―――』プー、プー


俺の携帯を奪った照さんが携帯を閉じ、俺に渡す。

澄まし顔。

言うとすれば、そんな顔だ。

ドーナッツの箱片手に、俺は照さんを見る。

……なんか、不機嫌か?


京太郎「照さん、何怒ってるんです?」

照「怒ってない」

京太郎「いや、絶対怒ってますよね?」

照「怒ってない」

京太郎「いや怒ってry」

照「無いから」

京太郎「………」

照「………」


……急に、無言。

俺は頭を抱える。

なんというか、あれだ。

……俺、何かしたかなぁ?




662 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/04(月) 23:02:01.38 ID:2UiN0tOoo [15/21]




京太郎「……お、ホテル見えましたよ」


会話に悩んだ俺は視界の先に納めたホテルを見てそう呟く。

さっさと戻ろう。

戻って、皆と三時のおやつとしゃれ込むのもいいだろう。

そんなことを思いつつ、俺は脚を進める。

しかし、不意に。

ぐいっと。

後ろに引かれる感覚があった。

バランスを崩すほどじゃない。

だが、確実に意識されるような引き方だ。

振り返る。

……見れば、照さんが空いていた俺の手を握っていた。

じっと。

見つめられる。

……なんで?


照「………」

京太郎「あ、あのー?照さん?どうしました?」

照「………何でも、無い」

京太郎「そうですか?って、皆居ますね、もう」


手を振る姿が見える。

あれは……淡か。

一人跳ねて楽しそうだな、おい。

思わずそう思いつつ、俺と照さんは皆の下に。

早速、ドーナッツの箱に反応するふわふわ娘を牽制しつつ。

俺たちはミーティングルームに行く。

お茶の用意をして、タイミングを見計らい。

残りのスタッフの分を分けておいて、俺はレギュラーの皆さんが使う部屋へと続くドアをノックした。


京太郎「ひと段落ついたと思いますので、お茶にしませんか?」

菫「ん……そんな時間か」

尭深「あ……お茶、手伝うね…」

誠子「よーし淡、お前そっちの机の端持ってくれるか?」

淡「了解でーす!」





672 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/04(月) 23:18:14.44 ID:2UiN0tOoo [16/21]



俺と渋谷さんでお茶入れ。

淡と亦野さんは机を移動させて席を作っている。

弘世部長は会議に使った資料片付け。

照さんは……。


照「………」


照さんは。

じっと、こっちを見ている。

じっと、だ。

まるで、何かを堪えるような。

そんな目だ。

それに俺は気を引かれつつも、手元は淀まない。

気づけば、もうお茶の準備は完了していた。


京太郎「ドーナッツですから、部長と亦野さんはコーヒーでいいですか?」

菫「ああ、それでいい」

誠子「やー、ありがとうね」

京太郎「渋谷さんは緑茶がありますか」

尭深「うん、ありがとう…」

京太郎「ほれ淡、お前は○ンジュースでいいだろ」

淡「京太郎私だけなんか適当ー!」

京太郎「果実から絞れっていうのか、俺に」


ぶーぶーと文句を言いつつ、しかし一口飲めば大人しくなる淡。

いやー、ポ○ジュースって便利だよな。

何処でも手に入るし、味もそれなりだし。

そういや、愛媛のある学校では水道蛇口からポンジュースが出るところがあるらしい。

そんなどうでもいいことを思いながら俺は紅茶のカップを照さんの下に運ぶ。

当然だが、一言釘を刺すことも忘れずに。


京太郎「照さんはもう何個か食べてるんですから、抑えてくださいよ?はい、紅茶です」

照「………」

京太郎「……照さん?」


反応が無い。

ただ小さく、最後に「ん…」と。

そうとだけ答える。

それに首を傾げつつ、俺はお盆を持って引き下がっていたあ。

――――背中に、視線を感じつつ。




679 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/04(月) 23:31:19.65 ID:2UiN0tOoo [17/21]










ぱたん、と。

私の帰りを待っていた個室の冷えた空気が身を包む。

そっか。

エアコン、時間予約していたんだっけ。

帰ってきたら、部屋が暑くないように。

ベッドに腰掛ける。

スプリングが加重を支え、跳ね返す感覚。

それを受けると、私は制服のスカーフへと手をかけた。

しゅるり。

衣擦れ音と共に制服を脱いで、下着姿になる。

そのまま下着も外して、部屋に備え付けられたバスルームへ。

シャワーの蛇口を捻る。

冷たい水。

それが徐々に温水になり、体を濡らす。

はぁ。

搾り出すように息を吐く。

思い返すのは、さっきのことだ。

京ちゃんは皆の好みも、何もかもを把握していた。

知っている中では、京ちゃんは頼れる男子部員として信頼されているということ。

あの菫が重宝していて、部長にならないか、と冗談を言うくらいに信用している。

淡なんかは、クラスが同じだ。

自然と顔を合わせる回数もあって、麻雀部ともなれば交流は嫌でも出来る。

あの子がああして懐くのも、分からなくもなかった。

……過去に、同じようなことがあったのだから。

そうだ、京ちゃんは気が利く。

それに、とても優しい子だ。

誰かが困っているのを放っておけない、優しい子。

だから、ああして誰でも優しくする。

そうやって……。

そうやって、勘違いしちゃう子だって出て来ちゃうかも知れないのに。






683 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/04(月) 23:39:14.69 ID:2UiN0tOoo [18/21]



ああ、駄目だ。

そんなの、駄目。

京ちゃんと付き合いが長いのは、私なんだ。

他でもない、私。

アイツなんかでもない、私だ。

私なのに。

私が一番なのに。

なんで。

京ちゃん。

なんで笑ってるの?

なんでそんなに奉仕してるの?

なんで何かを思い返すように寂しげな顔をするの?

ねぇ。

………ねぇ…!





ねぇ!!!



ガンッ。

額と手を側壁にぶつける。

募る苛立ちを吐き出すように。

息を吐いて、温水を冷水に。

落ち着こう。

頭を冷やさなきゃいけない。

そうだ。

だって、今一番有利なのは私。

そう、焦る必要なんて、無い。

無いんだ。







照「……額、痛い…」




  • テルチャーがレベル4となりました

710 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/05(火) 00:03:17.86 ID:tSAAN0cqo [1/7]
【8月15日:朝】


基本的にスタッフとして呼ばれている部員は二人部屋だ。

ただ、俺は一人部屋を利用していたりする。

まぁ、当然だ。

麻雀部に男子部員はほとんど居ない。

それに、スタッフで男は俺だけなのだ。

白糸台は女子麻雀部名門。

男子は男子で、全国へ行くのなら麻雀部の強い高校を目指すだろう。

まぁ、そういうことだ。

俺は早朝、目を覚ます。

体を捻れば間接の鳴る良い音が聞こえる。

慣れないベッドは体が凝る。

まぁ、これから長く利用する場所だ。

さっさと慣れるべきなのだろうけど。

ごきんごきん。

手首を回しつつ、俺は着替えを返しする。

その時だ。

コンコンッ。

そう聞こえた。

ドアのノック音。

いや、というか早くないか?

今、朝の6時だというのに…。


ドンドンッ!

京太郎「はーい、今開けまーす」


徐々に強くなってくる音。

それに顔をしかめつつ、俺はドアへと向かう。

ったく、一体誰だ?

そう思って、俺はドアを開く。

ガチャリと。

小さく隙間が開いて。



そこに勢いよく、手が差し込まれた。





837 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/05(火) 21:12:52.14 ID:6QeWacwyo [5/20]



京太郎「ちょ……」


ドアを締めれないようにされた。

それに気づくと同時に、俺は一瞬焦る。

のぞき穴で確認してなかったのが悪かった。

そうだ、知り合いとは限らないじゃないか。

思わず、身構える。

だけど、それはすぐに解かれる。

その手を差し込んだ人。

その人が、照さんだったからだ。


京太郎「て、照さん……?」

照「おはよう、京ちゃん」ガチャン


普段どおりの様子で照さんが答える。

そのまま俺の部屋の中へ。

それに目をぱちくりとしていると、手を引かれる。

もう片方の手には……洗面用具?


照「シャワー、貸して」

京太郎「え、照さんの部屋に無いんですか?」

照「今は動かない」


直すにも時間がかかる。

朝早いから他の人からシャワーが借りれない。

そう、照さんは言う。

んー……まぁ、それなら…。


京太郎「それなら、仕方ないですね」

照「ごめんね」

京太郎「いえいえ、じゃあ俺は外に出てますから」

照「えっ」

京太郎「終わったら勝手に出てっていいですよー!」


言うが早く、俺は部屋を出て行く。

シャワーを浴びる音なんか、聞いてたら失礼だしな。

……しかし、なんで照さんチェーンロックまでしてるんだ?






846 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/05(火) 21:22:50.59 ID:6QeWacwyo [7/20]
【8月15日:昼】



照「………」フイッ

京太郎「……」


どうしてこうなったんだろうか。

俺はそう問いかけねばなるまい。

一人、雀卓の椅子に座る照さんを発見してはや一時間。

周囲を見回せば、遠巻きに照さんを見つめる皆が居た。

今の照さんは、非常に不機嫌だ。

それを察しているからこそ、皆近づかない。

そして、向かう視線は俺。

その目に込められた意味。

それは、「行け」という命令だ。

……とほほ。


京太郎「あ、あのー……照、さん…?」

照「………」フイッ

京太郎「……」


……神よ、俺にどうしろと言うのでしょうか。

明らかにこっちを無視している照さんに俺は頭を抱えたくなる。

視線を、後ろに。

助けてほしいの。

そんな目線を送れば、皆が一斉に視線を逸らす。

畜生、味方すらいねぇ。

そこで、俺の持つ空気が通じたのだろうか。

ふと、照さんが俺を見上げていた。

椅子に座ってるせいか、そういう構図になっている。


京太郎「………」

照「………」


目と目が合う。

ようやくこっちを向いてくれたのだ。

しっかりと、話くらい聞かせて貰おうではないか。


照「………」プイッ


……なんで速効で顔逸らすのかなぁ……。






881 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/05(火) 22:57:09.00 ID:6QeWacwyo [11/20]
【8月15日:夜】


淡「京太郎ずっこい!!」

京太郎「………は?」


夕食を済まし、風呂から上がって息を抜ける時間。

麻雀卓が設置されたレクリエーションルームには、同じように就寝のための身支度を終えた部員が見えた。

皆、思い思いの姿で休憩している。

白糸台の試合は第二試合から。

それが分かってるし、無理に練習するのも体に毒。

そんな弘世部長の判断が反映されている。

今は、どちらかと言えばコミュニケーションの時間だろうか。

レギュラーたちと部員が交流しては笑う。

そんな、高校生らしい、という風景がここにはある。

……なんというか、男の俺が場違いな甘い空気が漂っているような気がする。

部屋、戻るか。

俺はそんなことを考える。

居心地が悪いんじゃないけど、ふと見れば女子生徒たちが少し身だしなみを整えるのが見えた。

……まぁ、元々麻雀部は女子高みたいな感じだったしな。

オープンになる気持ちが残ってるのかも知れない。

俺は来た道を戻ろうと、向きをくるりと反転させる。

その瞬間だ。

背中にぶつかる感触。

飛びついてきたであろうその衝撃につんのめりつつ、俺は耐え切った。

そして、勢いよく後ろを見る。

こんなこと、やる奴は一人しかいねぇ。


京太郎「いきなり突っ込んでくるなよ淡!!」

淡「えっへっへー、びっくりしたか!」

京太郎「びっくりっていうかどっきりだよ……」


改めて振り返る。

白とオレンジのシャツにショートパンツというラフな姿の淡が、そこにはいた。

大星淡。

俺と同じ一年で同じクラスの一軍レギュラー選手、白糸台の大将を勤めている。

そんな、何処かうねうねとウェーブがかった金髪が特徴的な淡が、またにこっと笑っている。

白糸台麻雀部の一年生レギュラー。

雑誌では多くはミステリアスに語っているこいつ。

俺から言わせて貰おう。

こいつは、アホの子であると。





936 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/05(火) 23:36:38.02 ID:6QeWacwyo [14/20]



京太郎「で、何の用だ?俺はもう帰るとこなんだけどよ」


そんな回想を横に置き、俺は淡に問いかける。

いきなりだったが、まぁなんてことは無い。

何時もの発作みたいなものだろう。

淡の行動をそう処理して、俺は腕を組む。

さて、この我侭姫は何を言い出すのやら。


淡「京太郎ずっこい!!」

京太郎「………は?」


何が?

俺はいきなり「ずるい」と言われ、呆然とする。

訳が分からない、そんな表情が浮かんでいるだろう。

それに頬を膨らませる淡。

何がなんだと、俺は考えているとその答えを淡は言ってくれた。


淡「今日、テルーをまた占領してたー」

京太郎「あー……」


……つまり、あれか。

こいつは遊び相手が取られて拗ねてるのか。

気分屋だとは知っているが、こいつと照さんの世話に部全体の管理。

弘世さんにやっぱり胃薬持って行こう。

そう固く決心した俺は、しっしっと淡を振り払う。

むすっと。

そんな顔をした淡の頭を適当に撫で、俺はそそくさとその場を後にした。










ムーッ………ア、テルー!
アワイ、ウトウ
エ、ドウシタノテルー?
イイカラ




952 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/05(火) 23:51:51.07 ID:6QeWacwyo [17/20]
【8月16日:朝】


168 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/06(水) 20:10:01.07 ID:zp+WGvdGo [10/32]



京太郎「えーと……?」


都内、ホテル街から少し離れた百貨店の地下食品売り場に俺は居る。

部活内部での買出し。

それを大よそ終わったので食品を買いにきているのだ。

しかし、ハンドクリームやら化粧品やら小説やら。

なんというか、男の俺に頼むにしては少々大雑把すぎるものばかりな気もする。

まぁいい。

一応、写メ通りの商品を買ってるからミスは無いはずだ。

そんなことを思いつつ、俺はメールを確認する。

欲しい物があれば件名に『食品、雑貨』などタイトルを打ち、区分けして送って貰っている。

その中の食品メール。

それを俺は開く。

えーと、ジュースとかちょっとしかお菓子とか。

そんなのばかりだ。

しかし、不思議だ。

照さんからのメールが一件も無い。

あの人のことだ。

『とにかくお菓子が無いと…』ってくらいにお菓子好きだ。

絶対に注文が来る、そう思っていたから肩透かしだった。

まぁ、そんなことはいいか。

俺は雑貨類が入ったリュックを背負い直し、買い物籠を持つ。

さっさと買う物を買おう。

まずは菓子類を買って、次にジュースとかを買う。

重い物は後回しでいいだろう。


京太郎「えーと、何々?煎餅、グミ、ポテチにチョコ?うわっ、溶けないよな…」

照「さっき冷蔵用の氷があったからそれを使うといいよ」

京太郎「ああ、そういやそういうのも多いですねぇ」

照「あ、これも買おう」ヒョイッ

京太郎「あんまり買いすぎないでくださいよー」

照「うん、考えておく」

京太郎「考えておくだけなんですか……」

照「………」

京太郎「………」

照「………」

京太郎「……照さん?」


……あれ、何でこの人いるの?




174 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/06(水) 20:15:56.92 ID:zp+WGvdGo [11/32]



照「あ、これ新商品……」

京太郎「ウェイ、ウェイ」

照「?」


俺が思わず額に手をやり、考える。

……何時からだ?

この人、何時から居たんだ?

いや、それはもういいだろう。

振り返ったって今の現実が変わる訳じゃない。

今すべきこと。

それは一つしか無いだろう。

ああそうだ、手遅れになる前にだ。


京太郎「照さん、お菓子は3つまでにしましょうね」

照「えっ」


えっ、じゃありません。

幾らそんな絶望した顔しても駄目です。

弘世部長にも命令されてるんですから。


照「菫…余計なことを……」

京太郎「何で照さんが居るのか、そんなことは聞きませんからそれくらいは聞いてくださいよ……」


ブツブツと、小声で何かを呟く照さん。

それから俺は意識を外し、小さくため息。

さっさと買い物済ませて、この人連れてホテルに帰ろう。

しかし、中々に嵩張る。

菓子菓子アンド菓子って感じだ。

袋系はこうなる運命だろう。

俺は小さくため息を吐き、そして照さんに前を行って貰う。

何時の間にか何処かに行ってないようにするためだ。

俺が帰り道を覚えているから、途中で間違えたら声をかければいい。

そんな考えで俺は進む。

途中に照さんと会話を挟みながら。

俺たちは帰り道を行く。

そんな時、前を行く照さんが、急に。

急に、立ち止まった。

固まったように、突然と。

俺はそれに「照さん…?」と困惑した声を発して、照さんの視線の先を見た。

そこには――――




175 名前: ◆VB1fdkUTPA[!red_res] 投稿日:2013/02/06(水) 20:18:27.72 ID:zp+WGvdGo [12/32]

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190 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/06(水) 20:27:13.42 ID:zp+WGvdGo [13/32]



京太郎「咲……?」

咲「………」


そこには、幼馴染の。

そして、照さんの妹の。

咲が。

宮永咲が、ここに居た。

麻雀部に入ったと、聞いていた。

そして、長野代表になっているというのも知った。

そうだ。

ここはそんな遠征してきたチームの宿泊場所が密集している。

こうして出会うことだってある。

あるはずなんだ。

だけど。

だけど、それが無い。

そう思ってた俺も居て。

少しの間、声が出なかった。

「あ」

そんな乾いた、搾り出すような声が出る。

だが、それが呼び水。

言葉が一つさえ出れば、喉は自然と声を出せるようになる。

俺は小さく手を挙げ、顔に笑みを浮かべようとし。

咲に、「よっ」と。

そう、声をかけた。


京太郎「久しぶりだな、咲」

咲「……うん、京ちゃんも」


咲も同じように笑みを浮かべる。

自然と、頬の強張りがほぐれるような。

そんな感覚を俺は感じる。

そうだ。

これが自然なんだ。

咲は笑って、視線を横に。

照さんへと、移した。


咲「お姉ちゃん―――」

照「京ちゃん、早く帰ろう」





196 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/06(水) 20:38:45.90 ID:zp+WGvdGo [14/32]


京太郎「え、ちょ、照さん!?」


照さんが俺の手を引く。

ぐいぐいと。

その細腕から想像できないくらい力強く。

それに俺は驚き、思わず足を止める。

照さんがこちらに顔を向けた。

そこにある表情。

それは言うならば、無感情だ。

まるでお面を着けたように表情の変化が消え、人形のような顔になっていた。

俺は後ろを見る。

咲の方を。

咲は、笑っている。

にこりと、笑っていた。

一歩一歩。

こちらに近づいてくる。

表情を少し悲しげなものにして。

咲は、口を開いた。


咲「お姉ちゃん、無理やりは駄目だよ」

照「………」

咲「まだ、お姉ちゃんのプリン食べちゃったこと怒ってるのかな……」

照「………ッ」

咲「ねぇ、お姉ちゃん――――」

照「私にッ!!」


叫んだ。

あの照さんが。

叫んだ。

俺の思考が凍りつく。

照さんの手が、咲の胸倉を掴んで。

額と額がぶつかる。

その真正面からの睨み。

そのまま激情を吐き出すように。

照さんは叫んでいた。


照「私にッ!妹はいない!!!」





218 名前:誤爆訂正 ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/06(水) 20:48:35.81 ID:zp+WGvdGo [16/32]



周囲の目が殺到する。

拙い。

俺は即座にそう考えていた。

明らかに状況が拙い。

照さんは有名人だ。

そんな人が、こんな他の学生も集まっているような場所で。

大会前に問題行動に近い行動を起こしている。

俺は慌てて照さんと咲を引き離して。

気づけば、マシンガンのように咲に言葉を投げかけていた。


京太郎「す、すまん咲!照さん今ちょっと駄目みたいでさ!また今度な!!」

照「京ちゃん!?」

京太郎「いいから来てください!!」


ぐいっと。

俺は照さんの手を引いて駆け出す。

どいてどいてと、俺は行く。

照さんが何かを言っている。

そんなのは馬耳東風といった風で俺は行く。

視線を、一度だけ後ろに。

俺の走る速度に追いつこうとして眉を顰める照さんの表情。

その遥か後方になった咲が。

にこりと笑って、手を小さく振っていた。









まるで花のような、笑顔で。






227 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/06(水) 21:00:55.37 ID:zp+WGvdGo [17/32]
【8月16日:昼】


京太郎「おーい、淡ー」


淡の部屋。

そのドアを俺は叩き、ノック。

買い物前から淡の反応が無かった。

それが少し気になって、俺は今来ていた。

俺は適当に買ってきた菓子とジュースが入った袋を持っている。

一応、あいつ用だ。

入学してから数ヶ月。

クラスで一緒の時も多く、麻雀部じゃ多分照さんの次に接触が多い。

それだけ過ごしていれば、好みくらいは分かる。

まぁ、要らないと言われればそのまま俺が持っておこう。

非常食にもなるし。

そう思って、ふとドアを見る。

スリッパが挟まっている。

つまりは、開いていた。

無用心だなと俺は思いつつ、ドアを開く。

ん?

椅子に座ってる?


京太郎「あ、淡ー…?」





                  (
                   )   ノノ
                  ((   ,,,;)
                   )  ノ
                  ( _ ⌒)
                    (  (
                    ) ノ
            -‐==‐-    )ノ プシューッ
         ´            `
      /             ヽ

     / ,      !   :  |   |     i
.    / |i  , ‐‐i|  .:ト、_|‐‐ |  :i|  |
    l :/:|i  | |/八 .:|     | |  :i|  |  テルーテルーテルーテルーテルーテルーテルー
    |/ :〔!|  N ○ \|  ○ |ノ  ,リ │
.   〔 八! l圦 ,,   '   ,, l //  |
       N |  .  v ァ  . ∨/  .:|
        ヽ|:| l_≧=ァ≦ト /_,′  八
       ノ厂| l  〔,   / / `丶、 `
      /∧ i| |  「⌒ / /  /∧
    / イ′ j ト、∧  / ′´ .イ
   :'  /    | |\ハヒ/| |ニニ/   〉    :
  /  ノ〈    i i   >ニ| |  ´y'    !     |
  .' /   〉  / j / ノ<i| |  〔___!   ト、〕
. 〔′|  `ー‐'  ///  | |  i| Υ─|  | .′


京太郎「淡ぃぃぃぃいいいいいい!?」





273 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/06(水) 21:32:02.75 ID:zp+WGvdGo [21/32]



何かとんでもないことになってる!

何かとんでもないことになってる!!

何かとんでもないことになってる!!!

俺は淡の肩を掴んでがっくんがっくんと揺らす。

いかん、首が据わってない。

全身の筋肉から力が抜けている証拠だ。

肩を揺らすたびにガクガクと。

淡の頭部がヘッドバンキングのようにシェイクされる。

それと同時に「あぅ」とか「へぅ」とか。

そんな声が漏れ出ていた。

しかし、次の瞬間。


淡「………痛い!痛いよ!?」

京太郎「おお、正気に戻ったか」ガシッ

淡「……あふぇ、ひょーたほー?(あれ、京太郎?)」ムニムニ


頬を掴んで抓ると正気に戻る淡。

そのまま餅みたいなほっぺを揉んでいるせいか言葉がはっきりしていない。

しかし、意識もはっきりしたのだろう。

俺の両手をガシッと。

淡が思い切り掴んでいた。


淡「って、触るな!!」

京太郎「おお、元に戻ったか」

淡「馬鹿!京太郎の馬鹿!あほ!」


可愛らしい右ストレート。

それを手の平で受けてはっはっはと笑う。

しかし、何であんなことになってたんだろうか。

それを聞いてみる。

だけど、それだけは答えてはくれなかった。



  • あわあわの病み度1上昇

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最終更新:2015年04月25日 02:30