14 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/01(金) 00:12:05.20 ID:4mnrNGoSo [2/4]
【8月23日:朝】



智紀「………」

京太郎「………」


互いが無言。

部屋に響くのは呼吸音、そしてPCをタイピングする音だけ。

そんな空間に俺と沢村さんは居る。

昼の食器。

それを回収するのと夕食の呼び出し。

それをして夕食を済ませ、さぁ何をしようか。

そんな時にこうして仕事を頼まれた次第だ。

整理したデータの仕分け。

有珠山、有珠山、臨海、姫松、清澄、清澄。

俺はそれぞれのフォルダにデータを詰め込む作業を続ける。

そんな代わり映えのない作業。

データを纏めてはUSBを俺に渡す沢村さん。

一切の淀みない作業。

なんというか、もはや敬意を表したい。

そう思っていると、パタン。

そう音が鳴ってPCが閉じられる。

見れば、ゆったりと。

小さく息を吐いて、背もたれに身を預ける沢村さん。

そして俺を見て、小さく口を開いた。


智紀「これで全部、終わり」

京太郎「……マジですか?」

智紀「ん」


こっくり。

そう頷き、肯定。

俺も最後のデータを処理して、保存。

ミスを無いことを確認し、沢村さんに見せる。

頷き、OKサイン。

それに思わず「よっしゃぁ!」と声を上げていた。


智紀「!」ビクン

京太郎「あ、すいません!なんかこう息を吐きたくなっちゃいまして…!」

智紀「……ふふっ」


……そんな小さく笑われると、すっげー恥ずかしいなぁなんか。





43 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/01(金) 00:44:23.64 ID:kok5DpM0o [1/27]
【8月23日:朝】



純「いやー今日は天気いいなぁ」

京太郎「そっすね、確かに」

純「悪いな、朝から付き合わせて」


朝。

俺は純さんとホテル近くの公園にいた。

格好はそれぞれ半そで半ズボン。

周囲に目を向ければ同じような格好で歩いたり走ったりして運動する人が見える。

俺たちは今、散歩に来ていた。

というよりは、小走りでの運動みたいな感じだけど。


純「最近、大会ばっか見てたから運動してねーしな」

京太郎「気分転換にはいいと思いますよ」


会話短く、俺たちはいく。

しかし、周りを見ればビルばかり。

そんな中にぽつんと。

取り残されたように頼りない木々がこの公園を囲んでいる。

その姿はなんとも、この街というものを感じさせてくれる。

しかし、暑い。

こうして少し歩いたくらいで汗ばむくらいにはここは暑い。

なんというか、運動ってのは爽やかになるものだと思うのだ。

これじゃ不快になるだけな気もする。


純「……暑い」

京太郎「ですねぇ……」

純「やっぱ高原とか、そっちのほうがいいな。涼しいし」

京太郎「ですね、避暑地ってだけはありますし」

純「あれだな、大会終わったら透華にでも慰安で避暑地行き提案してみっか」


あーだこーだ。

揃い揃ってあれだこれだを提案しあう。

そんな気軽な関係。

それが俺と純さんの仲だったりする。





104 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/01(金) 21:17:04.50 ID:kok5DpM0o [8/27]
【8月23日:昼】


京太郎「WAWAWA忘れ物~」


気分は明るく。

一日の始まりが何であれ、運動して食べる飯。

それが不味い訳がない。

加えて言えば、料理のレベルを知っている俺。

それだけ期待できるのは無理もないと思う。

今日も元気だご飯が美味い。

実に良い言葉である。

しかし、だ。

世の中、不公平なものである。

元気な人間が居れば元気じゃない人間も居る。

ふと、俺は脚を止める。

見れば、憂鬱気に座っている透華さんの姿が見えた。


透華「はぁ……って、あら?須賀さん?」

京太郎「どうかしました、透華さん」

透華「いえ、少し考え事がありまして……」


ちらり。

俺を見て、またため息をつく。

……俺が原因なのか?

考えてみる。

さっきまでは、衣さんと一さんと遊んでたくらいだ。

それ以外に何も問題は起こしてない。

そのはず……だよな?

いや、もしかすると俺のことで何か頭を悩ませてるということ自体が勘違いなんじゃね?

そうは思ってみるが、ふと向く視線。

俺を見る視線。

そこにあるのは、何とも言えないものだ。


透華「はぁ……」


……なんか、すいません。

俺、何もしてないけどすいません。





132 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/01(金) 21:57:04.84 ID:kok5DpM0o [11/27]
【8月23日:夜】



他人の考えていること。

それは普通は分からないものだ。

ただ、訓練を積めば。

麻雀で例えるなら場に出た牌などの牌効率で相手の手牌を読むことが出来る。

それと同じで、長い間その人と接していれば、無言でも何を思っているか分かるものである。

例えば、熟年夫婦。

うちの親父とお袋もそうだが、「ん」と親父が言う。

それだけで、お袋は何をしてほしいか分かってしまうらしい。

以心伝心。

こういう姿を見ると、何とも関心してしまうものだ。

さて、ここ龍門渕。

基本的に開放的な面々ばかり。

何かを察せさせる。

それより言った方が早い、という人たちだ。

ただし、と前書きがつくけど。

俺には何を考えているか、最近ようやく分かり始めた人が居る。

沢村さん。

チームの参謀だ。

眼鏡の奥にあるその表情は変化が少ない。

入学当初、俺との会話がとことん続かなかった。

そういう時代があったからこそ、磨いたスキルでもある。

小さな表情変化。

そして仕草。

それでもって何を欲しているか、今どんな状態なのかを測定する。

これはこれで、「雀士の癖を見抜く眼力になるかも」と言われてるのだ。

無能力者。

というか、基本的に弱者の俺は技術を磨くことしか出来ないから、これは良い武器になると思う。


智紀「……ジロジロと見すぎ」

京太郎「あ」

智紀「……恥ずかしい」

京太郎「すいません!!」


気をつけよう。

いや、最近はこれだけでセクハラ扱いになっちまうらしいし。







169 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/01(金) 22:26:27.79 ID:kok5DpM0o [17/27]
【8月24日:朝】



『IH先鋒戦、まもなく開始いたします。選手の方は競技場にお越しください』


アナウンス。

それと共に始まる中継。

今、ここで日本一の高校が決定する。

その全てのチームが、今までの試合でその力を示してきた。

どのチームが勝つか。

それは今、雀卓に向かう選手たちにも分からない。

ただ、言えること。

それがあるとするなら、そう。

これだけは、決まっているのだ。

負けると思って戦う奴は居ないということだけが。


智紀「今の面子は、半分は予想以上通り」


沢村さんが決勝卓に残ったメンバーを見て呟く。

大会前から予想した決勝卓に出場するであろう高校が多く的中したらしい。

データを流し読みしながら、また新しくデータを入れる。

なんというか、何時も通りな感じだった。


京太郎「どうぞ、お茶です」

智紀「ありがとう」


俺は横目でそれを眺めつつ、タイミングごとに補助。

昨日は恥かしい、とか言われてしまったけど便利なものだ。

そこで視線をさらに右に。

沢村さんの反対方向に向ければ、透華さん。

俺は保温ポットを取り出しつつ、尋ねる。


京太郎「あ、透華さんもお茶いりますか?」

透華「結構ですわっ!」


ツーン。

そんな感じで拒否される。

はて?

何でこの人はこんなにツンとしてるんだろうか?

何もしてないよな、俺。

そんな自問をして、自然と手は沢村さんへ道具を渡すために動く。

……あれ、おかしいな?

もっと不機嫌になったような…。





227 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/01(金) 23:19:09.32 ID:kok5DpM0o [23/27]
【8月24日:昼】決勝戦中



ふと気づけば、隣に透華さんが居なかった。

いつからだ、と考える。

中堅戦。

それが始まる頃はいたはずだ。

今は前半戦終了、そして後半戦前のインターバル時間。

それまでの時間に消えたことになるだろう。

透華さんは通路側に座っていたのも今気づいた原因だ。

探してきます。

そう言って俺は席を立つ。

待ってれば帰ってくる。

そんな気もするが、どうにも気になる。

言うが早い。

俺は会場から外れ、透華さんの目的を考える。

トイレ……だったらそっちには行けないか。

となると、それ以外で居るかも知れない場所。

それを探さなければならない。

そして、思いつく。

気づけば、俺の視線は上へと向いていた。


京太郎「透華さん、ここでしたか」

透華「遅いですわ!」


屋上。

そこに透華さんは居た。

派手好きなこの人だ。

きっと、そういうところに居るに違いない。

そう思って探してみれば、案の定という奴だった。

しかし、なんと言う理不尽な怒りなのだろうか。


透華「ハギヨシならば即座に気づき、こちらへと向かっておりますわ」


修行が足りませんわね。

そう言う透華さんに俺はトホホを肩を落とす。

すっげー理不尽。

というか理不尽すぎる。

そんなことを思いつつ、俺は前を歩く透華さんの背中を追いかけていく。

妙に、機嫌が悪いことにやっぱり首を傾げながら。







275 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/01(金) 23:54:20.22 ID:kok5DpM0o [26/27]
【8月24日:夜】



京太郎「凄かったですね、試合」

智紀「うん…」


無言になる。

そんなことがある。

あまりに美味い料理を食べる時とかに経験はあるんじゃないだろうか?

例えば、蟹とか。

剥くのに夢中になって、皆が無言になる。

それはその蟹が魅力ある物だからだ。

それは、全てに通じる。

芸術品を見た時。

自身の感性を刺激された時。

エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ。

それは麻雀も同じだ。

今日の、決勝。

それは、絶句するような。

何も言えなくなるような、戦いだった。

透華さんは今頃、原村に突撃している頃だろう。

あの人は変わらない。

そんな小さなことにくすりと。

俺は苦笑していた。


京太郎「沢村さん、先に帰ってますか?」

智紀「そう、だね……うん、先に帰ろう」

京太郎「衣さんに一さんは純さんと何処かに行っちゃってますし、沢村さんはこれから忙しくなりそうですね、データで」

智紀「ん……」

京太郎「……沢村さん?」


沢村さんが会話の途中。

何かを考えるような仕草をする。

はて?

俺はそれに考えると、小さく。

沢村さんは小さく、口を開いていた。


智紀「衣、透華、純、一……沢村」

京太郎「へ?」

智紀「私だけ苗字」


不意に、そんなことを言われた。

………ちょっと、不機嫌?




300 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/02(土) 00:15:18.80 ID:N9GFG6+Ro [2/33]



俺のそんな疑問。

それは正しいのか、少し歩くペースが速くなる。

俺は沢村さんに慌てて追いすがり、言葉を考えた。

いや、あれだ。

別に気恥ずかしいとかそういうのじゃないんだ。

なんというか、そう。

もうこう呼ぶのになれてて、他の呼び方をイメージできない。

そんな感じなのだ。

唾を飲み込む。

覚悟完了。

……何で覚悟せなアカンのかなぁ……。


京太郎「と、智紀……さん…?」

智紀「………」


無言。

気のせいか、少し頬が赤い気がする。

……こっちまで恥ずかしくなりそうだ。




  • ともきー従順マックスやでー


315 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/02(土) 00:20:21.01 ID:N9GFG6+Ro [5/33]
【8月25日:朝】



透華「須賀さん、そういえば随分と皆さんと仲良くなりましたわね」

京太郎「はい?」


不意にかかる言葉。

それに俺は思わず聞き返していた。

何が?

そう聞けば、答えはすぐに返ってくる。

俺が、皆と。

そう言われ、少しフリーズ。

ああ、と。

透華さんがまた口を開いた。


透華「別に怒ってなどいませんわよ?ただ、そう感じただけですわ」

京太郎「……すいません、何か」

透華「謝らないでよろしいですわ」


うーん、と俺。

確かに、ここ最近で皆との距離が縮まってる。

そんな気はしていた。

しかし、だ。

こうして面を向かって言われる。

それはちょっと予想外だった。

透華さんは、こういう時はからかうような。

そんな口調だが、はっきりと言う。

だけど、今は何かが違う。

ぼやかせるような、そんな言い方。

それをされると、こっちも気にしてしまうものだ。


京太郎「うーむ?」


首を傾げつつ。

しかし手は茶の用意を進めながら俺は悩む。

なんでだろう。

こう、もやもやする。

何かが引っかかってる。

そんな、違和感があった。







【8月25日:昼】




お昼時。

明日から始まる全国個人戦の抽選をしているであろう会場。

それからほどなく近いホテルのレストランに俺は居る………なんてことは無い。

東京。

それは物流の中継地でもあり、一点に全国の品物が集まる都市だ。

目新しい物は多く、またその変化も早い。

そんな、川の流れみたいな所だ。

しかし、川にはところどころ、上流から流れてきたり、途中で川の流れに入ったりする岩がある。

東京に今も残る物としてある岩。

浅草の下町だったり、そういう時代から切り離されたような町。

今、俺と純さんはそんな街中の一角にある店の中に居た。

俺の右手にはへら、左手にもへら。

店内にソースの匂い芳しい、そんな所。

さて、東は東京と対になる西は大阪。

そこの名物と言えば、粉物。

所謂たこ焼きとかお好み焼きだ。

しかし、東京にもこれがある。

それは……。


純「おーい、山作ったぞ」

京太郎「ソース入れますよー」バチャー

純「お、良い匂いだな。もんじゃ焼きとか久しぶりだぞ」


そう、俺たちは今、もんじゃ焼きを食べにきている。

元々は下町の駄菓子屋で発展した“ソースおこげ(小麦粉に水とソースを入れて鉄板で焦がし、おこげを作る)”にキャベツを入れたのが始まり。

確かそんな気がする。


京太郎「隣の群馬じゃカキ氷のイチゴシロップ入れるそうですよ、もんじゃに」アツッ

純「マジか?」

京太郎「秘○のケン○ンショーでやってました」


ふぅん、と純さん。

それぞれ適当にもんじゃを突きつつ、取りとめのない会話をする。

今頃、咲とかは抽選中だろうかとか。

衣さんたちも呼べばよかったですね、とか。

そんな会話が、少し続いていた。






456 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/02(土) 21:58:18.97 ID:N9GFG6+Ro [19/33]
【8月25日:夜】



純「いやーもうこんな時間か」

京太郎「適当にブラブラしてただけでも時間ってのは無くなるもんですねぇ」

純「だな、そろそろ帰らないと透華が『何時まで須賀さんは外に行ってらっしゃいますの!?』って怒るぜ、きっと」


夕暮れ。

その光を背に受けながら俺と純さんは帰路についていた。

もんじゃ食って、適当に散歩して、駄菓子齧って。

そんな感じの下町体験記だ。

なんというか、旅行にでも来たみたいで新鮮な感じだ。

やっぱり普段見ないような風景ってのは新鮮でいい。


純「須賀、どうした?」

京太郎「へ?」

純「足止まってるぞー」


そこで声がかかる。

ああ、と俺。

街並みを見ていて足が止まってたらしい。

呆れたような顔をしてこっちに来る純さん。

半分に開いた目で俺を見ると、何かを思い立ったのか悪戯する子供のような。

それよりかはちょっとあくどい感じの顔をして、俺の肩を抱き寄せていた。


純「おいおいおいー、なんだ?また幼馴染の咲ちゃんのことでも考えてたのか?」

京太郎「え、何でですか?」

純「お前、何かぼうっとしてる時とか会話に困ったら何時もそんなこと言ってるじゃん」


何言ってんだ?

そんな顔をする純さんに俺は困ったような顔を浮かべる。

まぁ、普通にぼうっとしてただけなんですけど。

そう俺が告げると、ちょっと参ったような顔をして先に歩いていってしまう。

慌てて、俺も追いかける。

追いつけば、欠伸をする純さんの姿。

なんというか、無言でそこに居てくれる。

そんな空気が、俺と純さんの間にはあった。





494 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/02(土) 22:33:04.74 ID:N9GFG6+Ro [23/33]
【8月26日:朝】



にやにや、いらいら、にこにこ。

三者三様の表情を浮かべる中に俺は居る。

左から、純さん、透華さん、ハギヨシさん。

お茶の用意をするハギヨシさんを除けば、俺と純さんと透華さんが席についていた。

さて、ここで何でこうなっているかを説明しよう。

何、実に些細なことである。

昨日の純さんとの外出。

あれが無許可だっただけだ。

……いや、俺は純さんが取ってる、って言ってたから平気だと思ってたんだけどなぁ。


純「だから、悪かったって」

透華「あのですね!一応、私たちは清澄の応援に来てますのよ!?」

純「昨日は抽選会だし、団体は終わっただろー」

透華「それでも私たちには龍門渕としての行動が求められますの!」

純「固いなぁ……」


言い争い……というか、一方的に言う透華さんをかるーくあしらう純さん。

噛み付く猫となされるがままの犬。

言うならそんな感じだ。


ハギヨシ「どうぞ、ハーブティーです」

京太郎「あ、ども」

純「ありがとう、ハギヨシさん」

ハギヨシ「いえいえ………透華お嬢様、ハーブティーは気分が落ち着きますよ」

透華「私は落ち着いてますわ!!」


ぷりぷりと怒りつつ、しかし優雅にカップを傾ける。

俺も同じく、飲む。

すっと抜けてくような爽やかな香り。

あんまり飲む機会は無いけどやっぱり美味い。

しかし、これでも透華さんのお怒りは収まらないらしい。

またくどくどと続くお説教。

うへぇ、という顔をした純さんが困ったように俺へと視線を向けていた。

表情を読む。

助けてくれ?


京太郎(無理です!)

純(おまっ!?)

透華「聞いてますの!純!!」

ハギヨシ「ふふ……」




556 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/02(土) 23:13:26.00 ID:N9GFG6+Ro [27/33]
【8月26日:昼】


純「あー、長かった……」

京太郎「ですねぇ」

ハギヨシ「お嬢様のお言葉は、お二人を心配してるからこそだと思いますよ」


説教終了。

試合を見るということで、ようやく終わりを見せた。

俺と純さん、ハギヨシさんは昼食準備のために移動している最中だ。

そこで、純さんが口を開いた。


純「んー……そうかね?」

京太郎「へ?」

ハギヨシ「ほう」

純「透華が心配してんのは、須賀だけだろ」


いきなり、そんなことを言う純さん。

飄々とした雰囲気の中、唐突にそんな言葉が出てくる。

それに俺が思わずフリーズ。

ああ、と。

純さんは続けた。


純「なんだかんだ、俺らは透華と長い付き合いだからな」

京太郎「あ、ああ……そういうことですか」

純「じゃないかね?」

ハギヨシ「つまり、お嬢様はあっちへふらふらこっちへふらふらと京太郎君が何処かにいかないか心配、と」

純「まるで犬猫の扱いだな、おい」

京太郎「すっげー複雑なんですけど……」


俺、ペット枠かなんかなのか?

そう二人に聞いてみると苦笑される。

それだけ。

答えが返ってこないとこを見ると、真実のようだ。

は、はは。

やばい、乾いた笑いしか出てこねぇわ。


純「ま、今は頼ってくれよ、須賀」

京太郎「……頼らせていただきます」







589 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/02(土) 23:32:57.53 ID:N9GFG6+Ro [30/33]
【8月26日:夜】


うーん。

俺はまさにそんな感じで悩んでいる。

この空気。

どうにも純さんと透華さんの空気が悪い気がするのだ。

あの無断での観光。

それが不味いのか。

にしては、どうにも透華さんらしくない。

そんな気もするのだ。

透華さんはこんな小さいことで文句を言うような性格をしていない。

純さんにしてもそうだ。

純さんはきっちりとするべき部分は自分をしっかりと戒している。

なのに。

今ではああしていることが多いような気もする。


京太郎「……くそ」


なんか、嫌だ。

こういう空気は、龍門渕らしく。

皆の空気らしくない。

ここは、びしっと言うべきだろう。

俺が女の子だったら、「やめて!私のために争わないで!」と冗談気味にかませる。

しかし俺は男。

女の子同士の喧嘩じみた雰囲気にそんなことを言って突っ込めない。

ならば、ここはこう言うべきだろう。


京太郎『へいガール!俺のために喧嘩しないでくれよHAHAHAHA!!』


……絶対に怒られるだろうなぁ。

そんなことを思いつつ、俺は小さくため息。

ドアをノックして、部屋に入る。

ここには今、純さんと透華が居る。

何事もありませんよーに。

そんな神頼みが通じるか否かが、今から分かる。

ドアを開き、中へ。

そこに見えたのは……


純「お、来たか。お茶頼むわ」

透華「あらいらっしゃい、須賀さん」


………あれ?

仲、いい?




664 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/03(日) 00:24:43.44 ID:z+XTx9PAo [3/29]
【8月27日:朝】


衣「京太郎!早くしろー!」

京太郎「走らなくても会場は逃げませんって!」


俺は衣さんと共に会場へと向かっていた。

個人戦。

初日で半数近い学生が消えたその戦い。

今日、決勝進出メンバーが決まる。

咲も、その一人だ。

きっと注目選手として視線を浴びているだろう。

宮永照と、宮永咲。

それを関連つける記者や選手は多い。

たとえ照さんが認めていなくても、だ。

まぁ、それは今言うようなことじゃないだろう。

咲の問題は、咲の問題だ。

今の俺は衣さんの付き人。

となれば、やるべきことは衣さんのためのことだ。

ハギヨシさんにも、しっかりと頼まれているしな。


衣「あ!」

京太郎「ちょ、衣さん!?」


と、衣さんがいきなり走り出していた。

声を上げるところを見れば、何かを発見したのだろうか?

走る衣さんを俺は追いかけ、そして視線を先に向ける。

見えたのは、セーラー服の後姿。

その見覚えある姿を知っている。

知っている。

そうだ。

こいつは何時も俺の隣に居て、本を読んでて。

でも気づけば今は麻雀で全国に出ている。

でも、昔から変わりない幼馴染だ。

気づけば、俺は駆ける脚を遅くして、ゆっくりと歩いていた。

前では、衣さんが咲にタックル。

そして笑顔で会話をしていた。

俺も、そのまま近づいて、笑みを浮かべる。


京太郎「よっ、咲」

咲「京ちゃん!?」


そんな、軽い挨拶をしていた。




697 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/03(日) 00:51:34.94 ID:z+XTx9PAo [6/29]



衣「えへへー」


俺と咲、衣さんで並んで会場に向かう。

衣さんは俺と咲の手を握り、真ん中に居た。

何やらご満悦。

そんな顔を浮かべている姿に小さく苦笑する。

ふと、咲と顔が合う。

お互いに浮かんだのは、小さい笑み。

なんというか、らしい感じだ。

これが俺と咲の間柄。

久しぶりに感じたが、変わらない。

俺は口端を吊り上げ、笑みを浮かべた。

所謂、あくどい笑みを。


京太郎「しっかし、あのお姫様がこんなことになるとはなぁー?」

咲「な、何が?」

京太郎「麻雀だよ、全国に出るまで強くなりやがりまして」

咲「ん……そうだね」

京太郎「そうだねって、お前なぁ…」

衣「?」


短いながら会話は続く。

しかし、あれだな。

衣さんが着いていけない内容ばかりになりそうだな、会話。

長い付き合いだし、そういうのが滲み出ちまうのかも知れないけど。

そんなことを思いつつ、俺は咲をからかう。

途中で、衣さんが気になったのか過去の咲を教えながら。

自然と。

自然と、時間は過ぎていった。










【―――――】ザザッ




706 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/03(日) 00:56:44.30 ID:z+XTx9PAo [7/29]
【8月27日:昼】




つい、軽いノリで。

そんなこと無いだろうか。

俺は数時間前の自分を思い返し、後悔していた。

咲を昼食に誘う。

そこまでは、良いだろう。

午後は準決勝。

午前中はその準決勝に駒を進めるためのメンバーを決める3回戦の最中だった。

しかし、だ。

全国大会個人準決勝進出。

それはそれだけで、目を引く。

全国ベスト8。

一万人という競技人口の中の、ベスト8だ。

中には運悪く個人に出れず、準決勝にも駒を進めれる力がある選手が居るかも知れない。

だから断定は出来ないが、それでも大衆の目は彼女たちがベスト8だと決める。

そして、だ。

そこに咲は残っていた。

競技場から出れば、報道陣のシャッターの嵐。

逃げるように出た咲と合流できたのは奇跡だろう。

しかし、悪いことは重なるもの。

混んでるので相席。

そう言われて入った店。

そこに居るのは、純さんと透華さんだったのだから。


京太郎(い、居辛い……)


思わずそんなことを俺は思う。

なんというか、女の子3人に男一人。

そんな席は気分的にきつい。

視線を隣の席に。

ストローに口をつけていた咲が首を傾げる。

向かいを見る。

にこりと、静かに透華さんが笑んだ。

その隣、純さんは瞳を閉じてコーヒーを啜っている。

その無言空間。

まるで俺が悪い。

そんな気分にすらなってくる。

……ような、気がする。






730 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/03(日) 01:18:57.93 ID:z+XTx9PAo [10/29]
【8月27日:夜】



準決勝が終わった。

咲は、当然のように残った。

決勝卓へ。

全国最強の高校生を決める場に、咲が行く。

遠い。

遠い山の先だ。

衣さんや、透華さん。

部の皆のように遠い場所。

そこに咲が行っている。

なんというか、妙な寂しさが俺にはあった。

こんなこと、相談できる人は……。


純「俺か」

京太郎「純さんです」


……まぁ、この人しか居ないよなぁ。

なんというか、気軽だし。

そんな俺の相談。

それをすれば、あれだ。

めっちゃ笑われた。

なんというか、中学生かよ、って感じで笑われた。

腹を抱える純さんは、悪い悪い、と俺に向き直る。


純「あれだ、お前の感じって手のかかる妹が居なくなったとかそんな感じじゃねーの?」

京太郎「はぁ……」

純「絶対そうだって」


そんなこと言われても。

そう言いたげにしている俺の顔を察したのか、また口元を押さえる純さん。

なんか、からかわれてる。

というより、相談に乗ってくれてないような感じだ。

自分で解決してみます、と俺。

純さんは、そんな俺を見てまた笑みを浮かべているのだった。




40 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/03(日) 15:46:43.38 ID:XTffMP4Do [2/10]


誰かが言った。

進むからには、上へ、上へ。

どこまでも高く登っていきたいと。

登山家は、そこに山があるから登るという。

だが、雀士は。

元はギャンブルとして、一つの闇を築いてすらいるそれの頂点を目指す雀士は。

何を思うのだろうか。

王者は、王者であるため。

少女は、姉と出会うため。

理由は違えど、今。

その決着が、つく。

全部に。

決着が。



【8月28日:朝】


決勝が、まもなく始まる。

気づけば、俺は。

俺は。


純「須賀」

京太郎「……はい?」

純「フラフラしてんじゃねえよ、車道に近づいてんぞ」


ぐいっと。

俺は腕を掴まれ、引き寄せられる。

すいません、と俺。

しっかりしろよ、と純さんが言う。

何を考えていたんだろうか。

小さい女の子たちが、居たような。

そんな気がする。

って、いかんいかん。

またぼうっとしてた。

これじゃ、また純さんに怒られてしまう。

俺は視線を純さんに向ける。

呆れた顔をしているだろうか。

そんな、予想。

そんな、予測。

普段どおりのあの人がそこに居るから思える、他愛ない感情。

ふと、見る。

そこに居る純さんの、表情。

それは、何かを見ている。

蛇のような、目だ。

視線を辿り、俺は息を吐く。

視線の先には、俺がある。

今まで見せたことが無い表情で、俺を見つめて。

純さんが、居た。


京太郎「純さん……?」

純「ん……ああ、よし、行こうぜ」


不意に、何時も通りに。

そんな変化に俺は首をかしげ、はい、と答える。

もうすぐ、試合が始まる。

今は置いておいて、早く行こう。





89 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/03(日) 16:37:54.29 ID:XTffMP4Do [9/10]
【8月28日:昼】


『試合――――終了』


静かなアナウンス。

俺はモニターの向こうで行われた闘牌に、絶句すらしていた。

すさまじい。

そんな感想しか、出ない。

というよりも、何かを語ることすら許されないような。

そんな気さえ、感じるのだ。

試合が終わり、そのまま大会の表彰式に移る。

団体優勝。

個人優勝。

それぞれの表彰と連盟理事会長からの言葉。

そんな言葉が何処か向こうごとになっている。

そんな感じだ。

閉会。

その瞬間、記者たちは一気に動き出す。

きっと、取材をするためにだろう。

俺はそれを受ける表情を思い浮かべ、小さく笑みを零した。

会場の外へ。

少し歩こう。

そう思うと、足は公園に向かう。

そこで、ふと。

後ろから駆けてくる足音に耳が取られて。

俺はふと、振り返った。


照「―――――」

京太郎「――――照、さん……?」

照「……京ちゃん?」


その声は。

知っている。

懐かしい声だと、俺は知っている。

さっきまで、決勝卓に。

咲と一緒に決勝卓に居た、照さんが。

俺の目の前に居た。





122 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/03(日) 17:07:32.45 ID:3NYRhKZUo [2/24]



京太郎「お久しぶりです、照さん……インタビューは?」

照「………知らない」

京太郎(あ、逃げたなこれ)


ふぃっと。

そっぽに視線を向ける照さん。

それに俺は乾いた声で笑う。

久しぶりに出会ったというのに、この人は変わらない。

咲と一緒に楽しげにしていた頃と変わりない。

そんなことにふと、安堵する。

照さんはあまり他人に見せたことが無いだろう微笑を浮かべている。

取材の時にありがちな営業スマイル、というよりは自然と浮かんでくる笑み。

それを向けられている。

そう思うと、こそばゆい。

何か話題でも。

俺はふと、そんな視線から逃れるように考える。

……ああ。

そうだ。

それなら、今さっきのことがあるじゃないか。

俺は軽く。

どこまでも軽く。

きっと知っていれば。

覚えていれば。

忘れてなければ。

その言葉を出さなかっただろう。

でも、現実には遅い。

俺は笑みを浮かべ。

何処までも疑問を持ったまま。

純粋に、問いを投げていたのだから。


京太郎「――――決勝卓で、咲とは何か話しました?」


その瞬間。

照さんの表情が凍る。

まるで感情が消えたように。

口を、開いた。




照「―――――――私に、妹は居ない」





127 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/03(日) 17:11:19.68 ID:3NYRhKZUo [3/24]



京太郎「え?」

照「………」


聞き返す。

妹は、居ない。

そう、言ったのか?

俺は思わず、何で、と口から零す。

訳が分からない。

そこまで拒絶する理由も、原因も。


照「……またね、京ちゃん」

京太郎「あっ……」


照さんが俺から離れる。

まるで触れて欲しくないように。

遠くに。

遠くに。

離れていく。

俺は、それを見送る。

そうすることだけしか、出来なかった。






129 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/03(日) 17:14:53.32 ID:3NYRhKZUo [4/24]
【8月28日】



京太郎「くそ……」


気づけば、夜だった。

あまりにも衝撃的で、呆然としていた。

そうして気づけば、こんな時間だ。

ああくそ。

耳に言葉が残っている。

照さんの言葉が。

冷たい言葉が、まだ耳に。










透華「須賀さん?」

京太郎「――――ッ」


はっと。

俺は意識を引き戻させられる。

手の感触。

見れば、俺の頬に手を当てる透華さんの姿が、ある。

ここまで近づかれて気づかない。

どれだけ呆然としていたんだと俺は思う。

心配そうに。

俺を見つめる瞳。

そこにあるのは、穏やかなもの。

気づけば、ふと笑みを浮かべれ答えれそうな。

そんな顔だ。


京太郎「すいません、ぼーっとしてました」

透華「あらあら、私の従者としての自覚が足りないんじゃないんですの?」

京太郎す、「すいません……」

透華「ふふ……いいですわ、この分は後でしっかり働いて返していただきましょう」

京太郎「うぅ……」


し、仕事増えた。

そんな短い悲鳴。

しかし、そんなことは知ったことじゃない。

そんな表情を浮かべた透華さんがにこりと、笑む。

手を差し出され、それに思わず疑問符を浮かべる。

それを頭上に浮かべると、透華さんは「んんっ!」と。

大きく咳払いし、片目を閉じた。


透華「あら、エスコートはしていただまして?」

京太郎「え゛」

透華「何でそこでそんな声出しますの!?」


い、いや、そんなお嬢様みたいなことするとは思わなくて。

そうは思ったが、そういやこの人はお嬢様だったな。

そう思い直し、んん、と。

透華さんと同じように声を鳴らす。

片手を持ち上げ、俺は昔見た映画のように。

小さく、笑みを浮かべた。


京太郎「お手をどうぞ、お姫様」



170 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/03(日) 17:59:15.03 ID:3NYRhKZUo [7/24]



透華「………ぷっ」

透華「あ、あははははっ…!」

京太郎「笑わないでもいいじゃないですか!?」

透華「いえ、ごめんなさい……でも、京太郎さんらしく無さ過ぎて……っ」

京太郎「やらなきゃ良かった……」


あれだよ。

まだ『しゃる、うぃー、だんす?』とか言わないだけ良いじゃないか。

結構こっちは真面目だったんだぞ?

そう思っていると、未だ上がっていた俺の手に重さを感じる。

見れば、透華さんが手を添えていた。

まだ少し笑いを残している。

でも、それでも。

そこに浮かんだ小さい笑みは。

まるで楽しげな夢を見る子供のように。

優しさに、満ちていた。





透華「さぁ、帰りましょうか。私“と”家へ」

京太郎「ええ、帰りましょう。俺“たち”の集まる家に」













………しかし、なんか見られてるような。

妙な視線を感じる。

………気のせい、か?



【END:振り向けば奴が居る】