551 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/09(水) 22:24:30.73 ID:BkpBaiMJo [33/41]


まだ雪が濃く山々や田畑に残る通学路。

春の色未だ遠い宮守の町。

気だるげに足を進める私は何処までも変わらない風景に飽きが来ていた。

ダルい。

口を開けばそう出てくるだろう。

ただ、もう口を開くのもダルいんだけど。

どさり。

一時間に一本くらいしか来ないバス停。

そこに置かれた古いベンチに腰を降ろす。

学校は春休み。

私が学校に行くのは、部活動があるから。

それももう一時間くらい遅れてるんだけど、何時ものこと。

きっと、集合時間を前もって早く言ってるに違いない。


白望「………」


学校、行こう。

そう思い、腰を上げる。

そんな私の背中に、声がかかる。

ダルい。

小さく息を吐いて、振り返る。

見えたのは、金色。

何処かまだ困惑したような顔をした、あの子との出会いだった。



京太郎「すいません、宮守高校ってどこですか?」



これが、京太郎と私の出会い。

だる……くは、無い出会い。

多分。

それに事実、京太郎は優しい。

塞とか、胡桃が厳しくしても、「まぁまぁ」って言っては私に尽くしてくれる。

やっぱり。

うん。

ダルくは、ないな。





554 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/09(水) 22:46:04.16 ID:BkpBaiMJo [34/41]



春になった。

寒さは薄れ、徐々に花々は実る春。

私たちの部活は一気に人数は倍になっていた。

私、胡桃、塞。

新しくエイスリン、豊音。

そして、京太郎。

この出会いを生んでくれた、熊倉先生。

全部で7人の仲間たち。

私の居場所。

そうして県大会へと挑んで、勝って。

全国の切符を掴んだ。

ダルい。

その口癖だけは変わらないけど。

不思議と。

京太郎。

あの子が、頑張って、と。

そう応援してくれると。

背中を押してくれると。

張り切って戦える。

そう思う。

だから。

私の背中を押していて欲しい。

うん。

そうすれば、頑張れるから。




【宮守高校編、開始します】

558 名前: ◆VB1fdkUTPA[!red_res] 投稿日:2013/01/09(水) 22:53:10.92 ID:BkpBaiMJo [35/41]



夢を見た。

赤い夢だ。

俺は鎖に縛られ、身動き出来ないでいた。

映像は、三つ。

俺は三つの映像を見せられていた。


一つ。

鎖で縛られた女の人。

鎖で縛る女の人。


二つ。

ナイフを持つ人。

それを止める人。


三つ。

ビルと、女の人。


一つ目が変わる。

鎖で縛られた女の人と、同じように縛られた俺がそこにはいた。


二つ目が変わる。

まるで豹変したかのようなその女の人に殺される俺が居た。


三つ目。

一筋の涙を流し、伸ばした俺の手を握らず堕ちて行く女の人が見えた。

赤い色が、見えた。

何処までも赤い色が。

俺は何もできなくて、ただそれを拾い集めようとする。

でも、でも。

ばらばらになったそれは、元通りにはならなくて。

どうやっても壊れたままで。

俺も壊れる。






そんな、夢を見た。







572 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/09(水) 23:07:21.60 ID:BkpBaiMJo [36/41]

【8月14日:朝】


京太郎「うわああああああああッ!?」


布団を跳ね、俺は起きる。

寝汗が酷く肌を伝う。

気づけば、俺はトイレに駆け込んでいた。

吐き出す。

胃に吐く物は入っていない。

ただ、胃液が喉を焼くだけの痛みだけがそこにあった。

息荒く、俺は座り込む。

周りを見た。

ここが俺の部屋じゃないのにはすぐに気づく。

ああ、そうか。

俺は呟く。

俺は今。


京太郎「東京に、来てるんだったっけ……」









豊音「京太郎くーん?」


朝。

トイレから出た俺を呼ぶ声がドアから聞こえる。

この声は姉帯さんだ。

俺は服装を正して、ドアを開く。

見えたのは、肩。

視線を少し上に上げれば、何時も通り微笑んだ姉帯さんの顔がそこにはあった。


豊音「おはよー京太郎君ー」

京太郎「お早うございます、姉帯さん」

豊音「うん、おはよー」


間延びした口調。

それも特徴的だけど、一番の特徴はこの人の身長だ。

身長197cm。

目を引く容姿に、その背もあるからこそ、この人はこういうギャップが強いという感じがする。

ただ、たまに“いいこ いいこ”されるのは非常に複雑なのだけれど。


豊音「朝ごはんだから、皆で食べようと思ってー」

京太郎「すぐ仕度します!」


いかんいかん。

先輩たちを待たせるのは不味い。

俺は直ぐに着替えると姉帯さんに声をかける。

嬉しげに、俺の手を引っ張るこの人。

やっぱり、ギャップあるよなぁ……?




小瀬川白望:レベル2(病み度0/3、従順度2/6)
エイスリン・ウィシュアート:レベル2(病み度0/3、従順度1/6)
鹿倉胡桃 :レベル1(病み度0/3、従順度1/6)
臼沢塞:レベル1(病み度0/3、従順度1/6)
姉帯豊音:レベル0(病み度0/3、従順度3/6)
に変化しました。

698 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/10(木) 22:22:24.01 ID:IJYtrjoeo [2/14]




胡桃「須賀君!正座する!!」

京太郎「はいいぃぃ!!」


逆らえない。

そういう雰囲気を持つ人が身近に居る人は多いだろう。

俺もそんな人間の一人である。

場所はホテル。

全員が集まれるように広々とした、片隅には自動麻雀卓も置かれた部屋。

そこで繰り広げられるこの光景は、もはや宮守麻雀部名物というものだった。

俺がミスする。

鹿倉先輩が怒る。

俺がミスする。

先輩が怒る。

この繰り返し。

そして今、何で俺が怒られているか。

それを言えば、まぁこの人が俺の麻雀教育を担う一人だから、なんだけど。


胡桃「そこで何でドラ切るのかな?リーチ掛かった状態でスジだからって迷い無く切る牌じゃないよ!」

京太郎「スジくらいしか読めなかったし手が無かったんですってー!!」

胡桃「言い訳しない!」


ああ言えばこう言う。

こう言えばああ言う。

そんな押し問答。

というよりは一方的なやり取りが響く。

熊倉先生は先生でそんな光景を微笑ましそうに見てるだけ。

シロ先輩は「ダルい……」と呟きながら俺と鹿倉先輩のやり取りを眺めて。

ウィシュアート先輩は何か「ばかちんがー!」とか言いそうな見覚えある熱血教師の絵を描いていた。

臼澤部長と姉帯先輩は……ああ駄目だ、微笑ましそうに遠巻きに見てる。

救いは……救いは無いんですか!?


胡桃「うるさいそこ!」

京太郎「マジで救いがねぇ……」



  • 胡桃の病み度が1上昇しました。

701 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/10(木) 22:29:53.32 ID:IJYtrjoeo [3/14]

【8月14日:昼】



京太郎「うう、酷い目にあった……」


鹿倉先輩のありがたーい教育。

それを受けた俺は何処かよろよろとした足取りでホテルの廊下を歩いていた。

ああもう、あの人のお説教はとてもキツイ。

毒舌。

これが当てはまる、そんな人だ。

まぁ、間違ったことで怒らないのだから俺が一方的に悪者なのだけれど。

たまに説教中、正座する俺の膝の上に“充電&体罰”として座ってくる時なんかは可愛らしいのに。

正直、先輩が軽すぎてそんな負担でも何でもないし。

でもまぁ、慣れない正座の代償はあるもので。

俺は脚の痺れという脅威の敵と戦う必要があるのだ。

俺がそんな悲痛で孤独な、自分との戦いに没頭している中。

後ろに気配を感じる。

い、いかんッ!
 ・ ・ ・ ・ ・
“この感じは”……ッ!!


塞「あれ、須賀君?」

京太郎「う、臼沢部長……」


で、出会ってしまった。

宮守高校麻雀部。

鹿倉先輩と並ぶツッコミ係、臼沢部長!

クールな笑みの裏にあるのはシロさんやたまに無自覚天然行動する鹿倉さんへのツッコミする一面。

そう、この人は典型的ないじられ役!

だから、こうして“弄る”機会というものを得たこの人は……。


塞「―――ほほう?足が痺れているのか?」キュピーン

京太郎(こうして俺にちょっかいだすんだよなぁ~!?)


モノクルをクイッと上げる部長。

弱い者いじめ、よくない!

まぁ、そんな叫びは絶対に通用しないんだけど。


塞「えい」チョン

京太郎「あひぃ!?」


そこは駄目ぇぇぇえええ!?





塞「………ッ」ゾクッ


  • 臼沢塞の病み度が1上昇しました。

731 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/10(木) 23:01:18.60 ID:IJYtrjoeo [6/14]
【8月14日:夜】



さて。

朝と昼、俺は非常にえげつない後輩イビリを受けた。

それが愛ある指導であっても、まぁそれは置いといて。

俺は深く、それはもう深く傷ついたのだ!

……何?自業自得?

少なくとも臼沢部長のアレは自業自得の範疇じゃないと俺は主張したい。

それはまぁ置いておいて。

俺は今、傷ついているのだ。

大事なことなので2回言いました!

だからこそそれを癒す必要があるのであるが、まぁそういう機会は望むと来るものである。

気づけば俺は、手を引かれて皆のレクレーション部屋に居た。

俺の手を引いてきたのは、この人だ。


エイスリン「~♪」


鼻歌交えつつ、軽やかにペンを奔らせる金髪の女性。

エイスリン・ウィッシュアート先輩。

ニュージーランドからの留学生で、片言の日本語と耳に挟んだペン、常に抱えたスケッチブックが特徴の人。

日本に馴染めなかったところをシロ先輩が麻雀部に連れてきた人で、今じゃこの部活には無くてはならない人だ。

そして、何でこの人が俺の癒しか。

お答えしようではないか。


エイスリン「キョウタロ!ウゴカナイ!」

京太郎「了解っす」

エイスリン「ウン!ヨロシ!」


……分かるか?

そうだ、この楽しげな表情である!

俺の似顔絵を絵書きの練習にしているのだが、こうして楽しげな姿は小動物を見ている気分になる。

我が家のアイドル、カピさん(カピバラ♂)のようなものである。

俺が顔を崩すと、「ダラケナイ!」と可愛らしい叱咤が飛ぶ。

だから慌ててキリッとすれば、スケッチブックを覗き込む先輩。

………あれ、見えてるんだろうか?



  • エイスリンの従順度が1上昇しました。

775 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/10(木) 23:38:40.75 ID:IJYtrjoeo [10/14]
【8月15日:朝】試合当日



大会。

一回戦当日。

熊倉先生は一回戦で負けるようなお前たちじゃない。

胸を張っていけ、とそう笑って送り出していた。

俺も、それは疑っていない。

先輩たちの強さも、先生の指導力も身を以って経験しているのだ。

しかし、である。

俺の汗は止まらない。

暑いから、とか緊張しているから、とかじゃない。

いや、緊張しているにはしてるんだけどね?

それはもう別種の緊張といいますか………。


シロ「………ダル…い……」

京太郎「………どうしてこうなってるんだ…」


……説明、しよう。

俺の、背中。

そこには、シロ先輩が居る。

ああ、そうだ。

分かりやすくいえば、おんぶしてるのだ。

俺が、先輩を、会場で。

というか会場までずっと。


シロ「ん……」

京太郎「はいはい先輩、もう着きますから……」


俺が泣きそうな声で思わずそう告げる。

ああもう、あれだよ。

絶対に変な人見る目で見られてるよ。

ただ、先輩はそんなの全然気にしない人で。

聞いた話じゃ学校に炬燵持ち込むくらいは平気でするくらいに、人目は憚らない。

言っても聞かないのも、実感済みだ。

だってこの人からすれば俺、ぶっちゃけダルくないタクシーですし?

いかん、悲しくなってきた。


京太郎「シロ先輩、もうどうせなら台車とか用意しません?」


俺が思わずそう尋ねてしまうのも、まぁ無理も無いと思ってほしい。

いや、別に本当に用意する訳じゃないんだけどさ。




808 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/11(金) 00:02:18.33 ID:/K5F0vEEo [1/22]

その時だった。

きゅっ。

少し、抱きつく力が強くなった……ような気がした。

もぞり、と後ろで先輩が動く。

耳元の辺りに口があり、漏れ出た吐息が俺をくすぐる。


シロ「別に……いい」

京太郎「そうですか?」

シロ「うん……京太郎が居るから」


………なんか、ずるい言い方だ。

俺がそう思っていると、ふと前方を見る。

見えたのは、おさげ髪が二つ?

どきり。

俺の心臓が、跳ね打つ感覚があった。

あれは。

口内が乾く。

そのおさげの二人がそこに居るのは、偶然だ。

偶然に、過ぎない。

そこが自販機の傍で、二人とも飲み物を片手に持っている。

偶然だ。

だけど。

二人が同時に。

俺を見る。

俺を、見る。

俺、を………。


お、れ………






シロ「京太郎、落ちる」

京太郎「ぐえ!?」


その瞬間だった。

シロ先輩が、俺の首へとしっかりと抱きついた。

力が抜けかけていたのもあり、一瞬で絞まる首。

慌てて俺が背負い直して見ればもう、その女性二人は、居なかった。





シロ「―――――だるい」




840 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/11(金) 00:28:08.08 ID:/K5F0vEEo [6/22]



試合というものは、終わってしまえば呆気ないもの。

それを感じるのは、その瞬間を迎えてしまった人の特権だろう。

少なくとも。

俺が帰って来た姉帯先輩の微笑み。

それには、まだ続けていける。

皆との時間がある。

そういう、微笑みだ。

宮守高校、一回戦突破。

それを成した全員に俺はお疲れ様でしたと声をかける。

シロ先輩は帰ろうと言っては俺の背中を要求。

鹿倉先輩と臼沢部長はシロ先輩に歩くようにと口を酸っぱく。

エイスリン先輩は姉帯先輩と手をとって喜びを分かち合っていた。

その姉帯先輩の視線が、俺に向く。

嫌な予感。

それが次の瞬間には、現実になるんだけど。


豊音「勝ったよー京太郎くーんー!!」

京太郎「もがぁああああ!?」


思いっきりハグされる俺。

身長差のせいで胸元……というか鎖骨辺りに顔を押し付けるような体勢だ。

あと、この人、山育ちのせいかすっげぇ力が……!


エイスリン「!」バッ


……エイスリン先輩。

バラバラになった筋○マンの○ート君の絵はシャレになってません。

俺がタップをしながら姉帯先輩に限界を告げる。

それに気づいたのか、「ご、ごめんねー!」と思いっきり離れる先輩。

俺は少し咳き込みながら。

少ししょんぼりとした先輩の俯いた頭を小さく、撫でる。


京太郎「――――本当に、お疲れさまでした」

豊音「―――――」

京太郎「って、すいません!頭撫でちゃってつい……!」


俺の弁明。

それに小さく、でもしっかりと。

ううん、と。

先輩は微笑み、否定した。




841 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/11(金) 00:31:35.62 ID:/K5F0vEEo [7/22]

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二二二二二二二二\
二二二二二二二二二\
-=ニ二二二二二二二二∧
   -=ニ二二二二ニニニニ∧
ニ=-     -=ニ二二二二 |  _
二二二二ニ=-   -=ニ二ニ}/  \
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〃 ̄`ヾ>从:::::::::::|_∨:::::::::::::::|
         ∨::::::| `l::::::::::::/::|    ううん――――ちょーうれしいよー!
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      ′ \::::\:::::/: : :|
   、   __  /:\::::∨::l : :|
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、   ---  ァ/:::::::/::∧:::||:.:|
. \_  _/::{::::::/::/::∧:l八:::{
 /^Y^  \{:::/::/::/:: : |  \
  • 従順度が1、上昇しました。
ヤンデレタイプが一つ判明!
姉帯豊音(監禁/??)

848 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/11(金) 00:33:55.65 ID:/K5F0vEEo [8/22]
【8月15日:夜】


気だるげな部長。

そういう姿を見ることは普段からある。

特にシロ先輩、姉帯先輩なんかを相手にした時に顕著な症状。

消耗してる。

それが一番の表現方法なんだろう。

臼沢部長は少し覚束ない、そんな足取りなのが俺は気になっていた。


京太郎「部長、大丈夫ですか?」

塞「須賀君……うん、大丈夫……今日は慎重に行きすぎたみたいだよ」


あはは、と笑う部長。

それに俺は手を貸しますよ、と片手を差し出す。

きっと、大丈夫だ。

そう言って断られるだろうなぁ、とか思いつつ。

そう思っていると、思案顔の部長。

それに何だろうと思っていると、部長は小さく笑みを浮かべた。


塞「じゃあ……任せようか」

京太郎「え?」

塞「……いや、須賀君がそう言ったじゃない」

京太郎「い、いやそうなんですけど」


予想外というか、なんというか。

俺がそういう顔をしていると、小さく溜息。

部長が何処か呆れた目で、俺を見上げていた。


塞「私だって疲れた時、人の好意は無駄にはしないよ。シロみたく頼りっぱなしは無いけれどもね」

京太郎「シロ先輩のは頼るというより依存なんじゃ……」

塞「かもね」


揃って、小さく笑う。

俺はそれから新たまるように、こほん。

小さく席を吐くと、手を差し出した。


京太郎「さてさて、距離短いなれどエスコートさせていただきます」

塞「ふふっ……よろしくね」





  • 臼沢塞の病み度が1上昇しました!

875 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/11(金) 00:51:13.28 ID:/K5F0vEEo [12/22]
【8月16日:朝】試合無し




胡桃「特訓するよ!」


試合の翌日。

未だ布団の中で呆然とする俺に対して告げられる起床のコール音。

そんなのが耳に入らないほど、俺は混乱していた。

ここ、俺の部屋。

俺、男子。

なんで、鹿倉先輩、いる。

ジェスチャーのような動きで思わずそう喋る。

いやだって、おかしいだろ。

ここ男子部屋で、使ってるのは俺だけだ。

そして見れば、鹿倉先輩の首。

そこにかかってる、一本の紐に結ばれた鍵。

……あれー?


鹿倉「さぁ!早く行くよ!」

京太郎「ちょっと待ちましょうか」


先輩の脇下に手を入れ、ひょいっと持ち上げる。

「∑!?」というような反応を見せる先輩。

俺は文句を言われる前に、ベッドに正座させる。

俺も倣うように正座だ。

見れば、鹿倉先輩の頬には汗。

どうやら普段と様子が違うことに気づいたようである。

まぁ、当然なんだけどね?

兎に角、だ。

俺は有無を言えないほど素早く、場を整える。

その素早さと来たらもはや芸術芸だろう。

そんなくだらないことを考えつつ、俺は刑事ドラマ宜しく部屋の卓上ライトを先輩に放射し、詰め寄った。


京太郎「で、何で俺の部屋に入れてるんです?あとその鍵なんなんです?」

胡桃「………」

京太郎「答えてください」






胡桃「………シロ起してくる!」

京太郎「おう、逃げるなや」



  • 胡桃の数値に変動はありませんでした

892 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/11(金) 01:06:04.58 ID:/K5F0vEEo [15/22]
【8月16日:昼】


鹿倉先輩の持っていた鍵。

それが熊倉先生が貸し出した、緊急招集用の鍵であると判明したのは少し前。

正座する俺と鹿倉先輩という珍しい光景を見て呆れたような視線を向ける部長。

切腹の絵を描く何気に黒いエイスリン先輩を回避して、俺は外に出ていた。

目的は無い。

強いて言えば、ぶらぶらするのが目的だ。

試合は明後日。

18日。

少なくとも俺にやれることはない。

ともなれば、俺は皆のサポートが手っ取り早いものだ。

効果は、サポートを受けた人の感想待ちなのだけれど。

俺がそんなことを考えつつ歩いていると、ちょうど曲がり角から出てくる人影があった。

しゃがんでいても、なお目立つ。

姉帯先輩だと、俺は声をかけた。


京太郎「姉帯先輩?」

豊音「はうあ!?」


跳ねるように立ち上がる先輩。

同時に聞こえる、猫の悲鳴。

見れば、一匹の野良らしき黒猫が猛ダッシュで逃げていくのが見えた。

もしかして。

俺はちらりと先輩を見る。

いや、まさか……まさか?


豊音「逃げられちゃったよー……」

京太郎(やっちまったぁぁぁぁああああ!?)


そこには、どよーん、という感じで落ち込む先輩の姿。

サポートが俺の仕事(笑)

逆にメンタルをダウナーにしてどうするんだと俺は頭を抱える。

えーと。

猫じゃないけど……ううん。


京太郎「先輩、猫の代わりにはならないと思いますけど……岩手に帰ったら、俺の家のカピバラでも見にきます?」

豊音「カピバラ!?うん!見る見る見る!ちょー見たいよー!」

京太郎「あはは……ということで、どうにかさっきの猫の分は勘弁を」


なんかすまない、我が友よ。

お前の犠牲は無駄にはせんぞ……。



  • 姉帯豊音の数値は変動しませんでした。

920 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/11(金) 01:24:03.01 ID:/K5F0vEEo [19/22]
【8月16日:夜】


自慢する訳ではないことを前もって置いておく。

俺は、先輩たちにかなり可愛がられているという自覚がある。

特に姉帯先輩、そしてエイスリン先輩にだ。

何でか、と問われれば単純だ。

今、麻雀部に居るのは3年生の先輩方と、一年の俺だけ。

加えて宮守高校も元々生徒数の絶対数は少ない。

男子と言えばなお更で、来年は麻雀部がどうなっているかどうかも不明だ。

つまり、多分。

俺は、来年から一人になる。

きっと。

それに過敏に反応しているのが、この二人の先輩だ。

エイスリン先輩はシロ先輩に出会うまでの孤独を知っている。

姉帯先輩は皆と出会うまでの孤独を知っている。

二人じゃなくても、部長も、鹿倉先輩も、シロ先輩も。

皆がそれを知っている。

だけど。

皆は言う。

もし全国で活躍すれば、来年は部員がきっと一杯来ると。

だから、寂しくなんかない、と。

俺は、助けるつもりで助けられている。

何処までも優しい、この人たちに。


エイスリン「キョータロ?」

京太郎「どわっ!?せ、先輩!?」

エイスリン「ドウシタノ?」

京太郎「な、何でもないっす!湯冷めしちゃいますから、早く戻った方がいいですよ」


そこで、覘きこまれているのに気づく。

小さく疑問符を浮かべたエイスリン先輩。

ほのかに赤い肌と浴衣。

風呂帰りなんだろうか。

俺は少し慌てながらもそう伝えるだけは伝える。

ただ、この人は絵を描くだけはあるというか……俺の変化を、逃してはいなかった。


エイスリン「―――ダイジョウブ!キョータロ、一人ジャナイ!」

京太郎「先輩……」

エイスリン「皆、マダオ別レシナイ!キョータロ、一緒!」






981 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/11(金) 21:14:12.45 ID:L0VPytv+o [4/6]










                                      一緒、ダヨ











  • 数値上昇しませんでした。


16 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/11(金) 21:25:37.77 ID:L0VPytv+o [3/22]
【8月17日:朝】


シロ「…………」

京太郎「…………」

シロ「………なに?」

京太郎「何じゃねーです」


朝目が覚めて目の前に女の人の顔がある時の俺の動揺。

それを考えてもみて欲しい。

心臓止まるかと思ったよ正直。

しかも、だ。

この人が首にかけてるのは昨日の鹿倉先輩と同じ鍵だ。

ということはシロ先輩が今日は起しに来たんだろう。

来たんだろう。

来た……ん?


京太郎「誰ですか貴女!?」

シロ「え」

京太郎「シロ先輩が俺を起しに来る訳ない!ダルい…とか行ってて絶対に来る訳ない!!」


何処の組の廻しモンじゃワレェ!といわんばかりの勢い。

俺がベッドから跳ねるように立ち上がると、シロ先輩らしき人も体を起す。

そして、俺を見る。

じっと。

訴えるように。


シロ「………」

京太郎「う、ぐ……そんな批難めいた目線を俺に向けないでください、混乱してたんです」

シロ「ふーん…」


スカートをぱさ、っと叩き、起き上がる。

そうだよな、先輩の偽者とか、んなアホみたいな話ないよな。

起しに来て、だるいから寝てしまったに違いない。

俺がそう一人で頷く。

その間に、先に行ってるよ、と先輩。

俺がすぐ行きます、そう答えるとドアを開く。

そして出ようとするその時。

思い出したように、俺へと顔を向けた。


シロ「………これ、別にダルくなかったよ…」

京太郎「へ?」

シロ「じゃね」


………あれ?



40 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/11(金) 21:52:29.39 ID:L0VPytv+o [6/22]
【8月17日:昼】



豊音「猫さん、ねっこさん♪」

京太郎「ここいらだと、この公園に居そうなんですけどね」


朝食を終えて昼。

俺は姉帯先輩にお願いされ、彼女と一緒にこの間の猫を探していた。

どうやらここ数日の話し相手でもあったらしく、俺が出会って逃げてから会ってないそうな。

まぁ俺の責任でもあるのでこうして探索しているのだけど……。


京太郎「猫ー、お前は完全に包囲されてるぞー大人しく出てこーい」ガサゴソ

豊音「田舎のお袋さんが泣いてるよー」ガサゴソ


こんな感じに、もはや良く分からないやり取りが起こっているのである。

いや、むしろこうして探しても逃げるだけなような。

野良とか、警戒心の塊だし。


京太郎「先輩、ふと思ったんですけど」ガサゴソ

豊音「んー?」ガサゴソ

京太郎「俺が居たら出てくるもんも出て来ない気がするんですが」ガサゴソ

豊音「あ」ピタッ


あ、と固まる先輩。

にゅっと立ち上がり、俺を見る。

……なんで涙目なんだろうか。


豊音「う、うう……じゃあ京太郎君は、ベンチで待っててー!」

京太郎「りょ、了解です」


うわぁぁぁぁぁん、と駆け出していく先輩。

俺はそれを見送って、ふと目に入った自販機に近寄る。

スポーツドリンクでいいかな。

2本購入。

一本の蓋を開き、少し喉に通す。

生き返るとはこのことだろう。

そのまま半分ほど飲み終えた頃、俺の前から小走りで戻ってくる先輩の姿があった。


豊音「京太郎君、居たよー!」

京太郎「お疲れさまです、それで猫は?」

豊音「今度ここで会う約束したよー」


約束できるんだ、すごいな先輩。

俺はそんなことを思いつつ、先輩にもう一本の方のジュースを渡す。

本当に、お疲れ様です。



  • 豊音の従順度が1上昇しました

89 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/11(金) 22:53:20.47 ID:L0VPytv+o [10/22]
【8月17日:夜】



明日は2回戦。

対戦相手はそれぞれ永水、姫松、清澄という高校だ。

永水、姫松は昨年も大暴れした強豪。

それもあってか、夜の最終仕上げは時間は少ないが、密度濃くやっている。

負ける、という想像は出来ない。

俺が知る皆はそういう雀士たちだ。

応援、しよう。

それしか出来ない自分。

情けなさもあるけど、それは今考えることじゃない。

だって、一番大変なのは先輩たちなんだ。

俺はそう思いつつ、レクレーションルーム……練習部屋の掃除をしようと足を向ける。

明日も使う場所。

そう思って、俺は行く。

入って、気づいた。

誰かの声が聞こえる。



塞「ん……」スヤスヤ

京太郎「ぶ、部長……?」


そこに居るのは、椅子に座ったまま眠りについている部長の姿。

見れば、モノクルが落ちて繋がれたチェーンで宙ぶらりんになっている。

確か、さっきまでの練習でも塞いでいたから……。


京太郎「もう一時間くらいこのまま!?」

塞「はぅ!?」


俺が声を上げる。

それにびくん、と反応する部長。

慌てたように左右を見て、そして視線が俺に止まる。

ぴしり、と停止。


塞「………寝顔、見た?」

京太郎「………ちょっとだけ」

塞「うわぁあ……油断してた、恥ずかしい」


モノクルを外しながらそう言う部長。

俺は「なんかすいません」と謝罪。

部長は部長で、「いや気にしないで」と笑っているのだけど。




120 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/11(金) 23:20:59.54 ID:L0VPytv+o [13/22]



京太郎「部長、とりあえず明日に備えましょうか」

塞「ん、そうだね」


暫く沈黙が続き、次に俺がそう告げる。

明日の試合。

熊倉監督の言う作戦では部長が大きな役割を持つ。

永水の、薄墨初美。

ほぼ確定の役満使いという、恐ろしい選手。

その火力を真正面から塞ぐ。

それが先輩に課せられた、仕事だ。

それはきっとかなりの体力を消耗するだろう。

だから、先輩には少しでも英気を養ってもらわないと。

俺はそう思っている。


京太郎「部長、部屋まで着いていきましょうか?」

塞「シロじゃあるまいし、大丈夫。お休み、須賀君」

京太郎「お休みなさい、部長」


じゃあね、と部長。

足は前に向いている。

去っていく背中。

俺はあまり大きくはない声を出して、部長へと声かけた。


京太郎「明日……お願いします!」




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      |::::l:l::::从::::::|  \___|\::::」从:l::::|:::::|::::Ⅵ「 ̄  \
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      |:::从  ̄`,_     ´ィ芹心`ァl::::|:::::ト::::::ト、ヽ{_ァ   ,
      |/:}:∧ィ芹心、     乂゚ツ  l::::|:::::|ノ: : |    {    ′
         /::_∧{{乂゚ツ}}      .:::.   l::::|:::::|::::::::|   \‘ _   |
.        /:::::⌒辷_ノ' ′      川|:::::|::::::/     }  } |
       |:::::/::/:人     -‐ ~)    //::|:::::|/       |    |
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                {//: : :/l ∨     ∧  ,′     |
.              //: : : : {八 l|l         \′     |
.             //: : : : : ∧ Ⅵl         ,′     |
           __彡く{: : : : : : : : ∧‘ |        __,′     |
  • 臼沢塞の従順度が1、上昇しました

163 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/11(金) 23:43:22.83 ID:L0VPytv+o [20/22]
【8月18日:朝】


さて、一つ言いたい。

これは非常に重要な案件で、俺にも関係する。

2回戦、先鋒戦。

それは卓に着く前からすでに戦いは始まっている、そういう試合だ。

そこに向かうからには、ある程度の威風堂々さ。

正確に言えば自信に満ちた姿を見せておくべきである。

弱さとは、つまりはその雰囲気からも分かってしまう。

ライオンなどの肉食獣が狙う獲物を子供の動物に変えるのも、その方が捕らえやすいからだ。

つまり、見た目は大事だ。

そういうことである。

ここで一つ、告げよう。

俺がなんでわざわざこうして語ったのか。

それが意味するもの。

それは。


シロ「」ダラーン

京太郎「試合でもこれですか、マジですか」


……つまりは、こういうことなのだ。

背中で溶けているシロ先輩。

俺はその人を背負って思わずそう呟く。

むしろ呟かざるをえない。

選手召集のコールの後、この人の第一声を教えてやろう。


シロ『ダルい、おんぶ』


これである。

見れば、放送局のカメラさんらしき人が困惑した顔をしているのが分かる。

すいません、男ですいません。

きっとお茶の間に俺の姿が流れてるんだろうなー、と。

ああ、乾いた笑い声しかでねぇわ。

そんなことを思いつつ、俺は曲がり角を曲がる。

ここまで来ると、他に誰もいない。

カメラも他の選手を写しに行ったのだろう。

ぽつん。

そういう空間が、出来ていた。


京太郎「先輩、シロ先輩。着きましたよ」

シロ「中に入れて……」

京太郎「それは流石に無理ですって!」




197 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 00:10:38.58 ID:IDg01zbNo [1/89]



どっこいせ、と先輩を降ろす。

ああもう、最後までこれだ。

俺は小さく息を吐くと、頭をぽりぽりと掻いている先輩と向き合う。

……この人、半分寝てたな?

俺は小さく、息を吐く。

同時に苦笑が浮かぶ。

なんというか、シロ先輩らしい。

俺はぼけっと、こちらを見上げるシロ先輩と目を合わせる。

小難しそうに歪んだ眉毛。

半分閉じられた眠たげな瞼。

何処か色が読めない瞳。

それが小さく閉じられた唇で纏まっている、そんな何処か先輩らしさを感じさせる顔。

それが俺を見て、小さく口を開いた。


シロ「行ってくる」

京太郎「うっす、お願いします」


ドアを開く。

体を半分入れた後、「あ」と呟いた。


シロ「京太郎」

京太郎「はい?」

シロ「終わったら、迎えにきて」


それだけ言って、卓に入っていく。

なんともマイペース。

俺はそう思いつつ、帰り道を行く。




  • シロの従順度が1上昇しました

198 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 00:11:38.75 ID:IDg01zbNo [2/89]
【8月18日:昼】



『試合終了――ッ!!』


モニターが、アナウンサーが、それを告げる。

試合、終了。

試合、終了。

終わった。

試合が。

モニターの中で、姉帯先輩が泣いている。

シロ先輩が薄く目を閉じ、そして開く。

エイスリン先輩は連られたように、一筋の涙を流した。

臼沢部長は砕けたモノクルを片付けていて、何も語らない。

鹿倉先輩は小さく、スカートを握っていた。

負けた。

先輩たちが、負けた。

それをやったのが、咲。

中学時代の、そして幼馴染の、宮永咲。

なんだよ。

お前、麻雀嫌いって。

嫌いって言ってたのに、そんなんで俺たちの。

先輩の夢を――――!!


トシ「京太郎、落ち着きなさい」


ぽん、と。

肩に手を置かれた。

振り返る。


京太郎「熊倉、先生……」

トシ「シロも、塞も、胡桃も、エイスリンも、そしてトヨネも……皆よく戦った。その結果が、これだよ」


勝負の世界。

その結果が、これ。

それに納得しないのは、筋が違う。

そう、当然のことを、先生は諭すように語る。

見れば、皆も。

俺に向けて、小さく笑顔を向けていた。


トシ「さぁ、頑張ったトヨネを迎えなきゃねぇ」


そう、カラカラと笑う先生の言葉。

皆が揃って、「はい」と答えた。




238 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 00:50:32.28 ID:IDg01zbNo [6/89]



一路、足は帰路に向かう。

皆は、先輩たちは、何処か吹っ切れたように笑っている。

勝負。

その結果。

納得したから、そうして笑えるのだろうか。

気づけば、俺は薄く暗くなりつつある街中にいた。

納得、できない。

というか、それを言う資格が俺には無い。

俺は戦ってなかったから。

口出す権利はない。

はぁ、と溜息。

しかし、先輩たちが納得してるんだ。

俺も、意識を切り替えるべきなんだろう。


トシ「おや、京太郎?」

京太郎「へ?」


そこでいきなり声がかかる。

振り返れば、先生の姿。

そして、前髪が特徴的な女性。

俺が少し驚いていると、先生が「ああ」と口を開いた。


トシ「ああ、この子は私が監督してた社会人リーグの時の選手でね。偶然出会って、この後食事でもって」

晴絵「生徒さんね。私は赤土晴絵、奈良代表の監督してるわ」

京太郎「ど、どうもっす!」


奈良代表。

確か、Aブロックだったか。

俺がそう考えていると、赤土さんが俺の顔をマジマジと見る。

そして、うん、と頷いた。


晴絵「宮守の結果は見たわ。私は別の高校の監督だから、あんまり無責任に君には言えないんだけどさ」

京太郎「………」

晴絵「宮守の子たちのこと、自分のことみたいに悔しがれる。なら君はきっと、良い雀士になる」


それだけ、告げる。

意味を考えなさい、と先生。

意味。

それは……。






251 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 00:58:25.23 ID:IDg01zbNo [8/89]
【8月18日:夜】

ホテルに戻る。

俺の足は迷い無く、レクレーションルームに向かっていた。

ドアをノック、開く。

見れば、麻雀を打つ音が響いている。

見れば、そこに居るのはシロ先輩、鹿倉先輩、エイスリン先輩、臼沢部長。

何時もの部活みたいに所々談笑を交えながら、麻雀を打っていた。


胡桃「あ、おかえり豊音。遅かった……あれ?」

シロ「京太郎?」

京太郎「え、はい、なんです?」


なんか、雰囲気は軽い。

何時も通りだけど、そこにあるのは想定外、というもの。

何でだろう、と俺が考える前。

臼沢部長が俺へと問うた。


塞「豊音と、すれ違う……いや、会わなかったか…?」

京太郎「―――――」


先輩が。

豊音先輩が、居ない?

気づけば、俺は妙な焦りに満たされていた。

足は、踏み出される。

一気に、駆け抜けるように。

俺の背中に、皆の驚愕の声を受けながら。

俺は気づけば、昨日の公園に、居た。


京太郎「先輩……ッ!」


駆け出す。

東京は狭いくせに、この公園が広い。

俺は荒い息を正す間も惜しむように走る。

走って、走って、走って。

見つけた。

姉帯先輩を。

膝に猫を乗せて、その背を静かに撫でている先輩を。





296 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 01:26:25.25 ID:IDg01zbNo [13/89]



京太郎「せん、ぱい……ッ!」


息が整わない。

両手を膝に、肩で喘ぐような呼吸だ。

それで気づいたのだろうか。

ぴくり。

そう、先輩は肩を揺らした。


豊音「きょー、太郎、君?」

京太郎「やっぱりここでしたか。皆、心配してますよ。一緒に帰り―――」


言葉が詰まる。

帽子に隠れて見えた、顔。

赤い、泣きはらしたような眼。

まだそこには一筋の涙が残っていた。

ああ。

この人は。

皆の前でもう一度泣けなかったのだ。

だから、静かにここで泣いていた。

その顔を見られないように。

先輩は被っていた帽子を少し、前にずらした。


『にゃー』


そう、猫が俺に警告する。

近寄るな。

そう言うように。

俺に顔を向けて、鳴く。

それでも。

俺は。

俺は……。


豊音「ごめんね、京太郎君」


俺が口を開く、直前。

泣きはらした声が、俺の名前を呼ぶ。

それに俺が答えようと。

何かを言おうと言葉を必死に探しているその時。

先輩が、続けた。


豊音「京太郎君に、新しい部のお友達を作れるか分からないよ……」

京太郎「――――」



302 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 01:40:16.89 ID:IDg01zbNo [14/89]



ああ。

この人は優しい人だ。

結果が残せなかったから。

勝てなかったから。

まだ続けられなかったから。

来年の俺のために宮守に人を呼びたかったから。

部に、俺に、人を呼びたかったから。

勝ちたかった。

でも、負けてしまった。

それを、悔いている。

泣いている。

涙を流している。

誰にために?

俺のために。

優しい先輩は、泣いている。


京太郎「先輩」


気づけば、俺はもう先輩の前にいた。

帽子を手に。

抵抗は無い。

そっと退けると、先輩の顔が見えた。

猫は鳴かない。

見れば、くりりとした瞳で俺を見ていた。


京太郎「ありがとうございます、先輩の考えてることはすっげぇ嬉しいです」


でも。

続ける。

赤土さんの言葉を思い返す。

それは、他人を思えるということ。

誰かのために行動できるということ。

俺には今、これくらいしか出来ないけど。


京太郎「――――今は、胸くらい貸しますから」

豊音「あ――――あ、う、うわああああああああああん……っ!!」

京太郎「あはは、よしよし」


だから、今くらい。

存分に、泣いてください。

先輩。



305 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 01:44:34.48 ID:IDg01zbNo [15/89]



俺のために泣いてくれるのなら。

思う存分。

泣いて、もう俺のことで泣かないでいいように。

今は……。









                     -───-  、
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              |:::::i ::::::::::|:::,'レ∧:::|::::::::::::: .、::,'::{::| :::::::i :!:::::::'     【姉帯豊音の従順度がMaxになりました】
              |:::::| :::::::: |V-─ |:::'、::::::::::::::Vヾヾ:::::::::|::|::::::::.
              |:::イ:::::::::: |r´f'癶ヾ:::.\:::::::::::::Vミx!::::: |::|:::::';:::.
              |::{ {::::::::::::!ヽ夂_ソ \{ \::::::::',ソ |:::::::|::|:::::::ヽ'
             ヾ }::::i:::::| ///   `'   \::::\! :::::|::|:::::::::::::\
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             ノ:/{::::::/ニニ三二ニ ニ \ 、 ::: \|:::::::::::::::::\::::` ‐ 、
              /:/ }:/二三三三三二ニニ \\:::::::\:::::::::::::::::::. ̄丶:}
                /:/./´ニニ二三三三三三二ニニ\}::::::::::.',:::::::::::::::::\ }/
           __./'/'ニニ ニ -─ ─‐- ,三二 ニ ニニ\:::::::}:::::::::::::::::::::::::.′
          / 、  {ニ ニ 二/二三三三二ヽ 三三三ニ/¨\─ ‐- _:::::::::::::::\
        /  、 \| ニ ニ/二三三三三三二\三ニニ,'_ヽ  \二二ニ\::::::::::::::.
    //  、 \/ニニ/三三三三三三三三三',三ニ{__ノ    /‐ 、二二`、:::::::::::.
    ,'ニ {   ,、/二, '二三三三三三三三三三ニ,三:{  ノ   /二二 二二 |:::::::::::::.
    {二ヽ /二二 ,'ニ二三三三三三三三ニニニi三.{´_  ,'二二二',二ニ!::::::::::::::',
    ',ニ Yニニ二.iニ二三三三三三三三三二ニ|三ゝ─ヽ,'二二二 |二ニ|::::::::::::::::
      |二.|ニニ二|ニ二三三三三三三三二ニニ|三二ニニ ,二二二.!二二!:::::::::::::::::::.
      |.二|ニニニ二, ニニ二三三三三三三 二ニニ|三二ニニ i二二二{二ニ.|:::::::::::::::::::::.
     ,二.|ニニ二ハニニ二二三三三 三二二ニニ, 三二ニニ:|二二二:}二ニ!::::::::::|:::::::::::.
     V|二ニ/  Vニニ二二三三三二二二ニ,'三二二 ニ |二二二.|二ニ|::::::::::|::::::::::::.
      V.',二./   |\ニニ二三三三三三二ニ/三二二ニニ.!ニ二二.|二二!:::::::: |::::::::::::|
      |::,ニ/ / |ニ\ニニ二三三二ニニ/三三二二ニ,'二二二二二 ,'::::::::: |::::::::::::|
      |:::V /   !二二`  ────  ´三二二ニニニ./二二二二二ニ, :::::::::::!::::::::::::!
【次回に続く】

378 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 14:18:58.66 ID:IDg01zbNo [23/89]
【8月19日:朝】


京太郎「海……ですか?明日?」

塞「鹿児島の永水の所の皆とね、行くことになったの」


一夜明けて、朝。

朝食の席を皆で囲む中、俺は今さっき聞いた海水浴の予定に目を丸くする。

確かに、個人戦まで後一週間ほどある。

その間は暇だから、別に問題ないんだろうけど。

俺がそう思っていると隣でダルそうにしているシロ先輩がコテン、と俺の肩に頭を寄せていた。

びくりとして、見る。

……この人、箸持ったまま寝てるよ。


胡桃「シロ、起きて!」

塞「昨日は須賀君が出てった後、豊音を真っ先に探しに行ったしね。きっと疲れてるのかな」

豊音「あうう、ごめんねー」

京太郎「ああ、豊音さん、泣かないで下さいって」

塞胡桃エイスリン「「「………豊音……さん?」」」

シロ「………」ピクッ

京太郎「あ」

トシ「おやおや、若いねぇ」


俺が口を押さえる。

しかもそこに熊倉先生のからかうような苦笑。

続いて、顔を赤くする豊音さんがそこには居る。

状況証拠。

それだけで俺はギルティらしい。

見れば、良い笑顔で俺の肩を掴む鹿倉先輩とエイスリン先輩の姿が。


胡桃「さーて、ちょっとお話しようね!」

エイスリン「ゴウモン!」

塞「逃げ道塞いどくよー」

豊音「あああああああ、京太郎くーん!?」

京太郎「いやぁあぁあああああああ!?」


俺は悪くない!俺は何も悪くないぞこれ!?




.           / /   / :.    ,      `¨¨´        ノ      ト、   ト、  }
         i  |  i :从                       /  ト、   | ヽ.  ; } /
         l 人  ト、  ト、    _          rー-イ  イ ! \ !   } / j/   ………ッ
         ∨  \! ∨V .>   `       イ {ス人jヽノ jノ    jノ  j/
               , ´∠ニニ>、 _ ... イ   /  \
                  / /ニニニニニ7   λ    /    /入
              /  {ニニニニニ7/「八.  /     //二\
・シロの病み度が1上昇しました。
430 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 14:47:42.88 ID:IDg01zbNo [26/89]
【8月19日:昼】

女の子の買い物は長い。

それは実に世界共通の真理である。

今、俺はそう告げたい。

エイスリン先輩(一応言っておくが、海外などではファミリーネームよりファーストネームで呼ぶのが基本普通だ)の買い物。

何でも、ペンのインクが切れたということで俺を連れて買いにきている。

日本語に不自由な点が多少ある先輩。

それを補うための筆談だ。

まぁ、その筆談が出来ないのだから俺が必要なんだろう。

そうして足を向けたのが駅前にあるような百貨店。

宮守にも百貨店みたいのはあるけど、ここまででかく広いのは見たことない。

こういうのはやっぱり都会だ。

俺はそう思う。

しかしあれだね。

色華やかで目に悪いね。

あそこにはハート柄。

こっちには花柄。

あれなんかシンプルな色だけど派手すぎる。

…………。

はは、ペンを買いに来たのに何言ってるんだ、と思ってるだろ?

今は、俺はな……。


エイスリン「キョータロー……?」

京太郎「はい……」

エイスリン「コレ、似合ウ……?///」

京太郎「(爽やかスマイル)」


ああそうだよ!

今水着買いに来てるんだよ!!

そして俺の後ろに更衣室じゃ今先輩が着替えてるんだよ!!!

視線が痛いってレベルじゃないぞ正直!


エイスリン「ン……」パサッ

京太郎(衣擦れ音やめてぇぇぇぇえええええええ!!)


ああもう、これは拷問だ!

しかも最初は恥ずかしげに更衣室の遮り布で体を必死に隠してた仕草のせいで、先輩の肢体が、肢体がぁぁ……!





………ふぅ。
すごく落ち着いた。


  • エイスリンの病み度が1上昇しました

459 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/12(土) 15:09:42.58 ID:IDg01zbNo [29/89]
【8月19日:夜】

誰かに欲される。

そういう、ことがあるとしよう。

女性が男性を欲する。

それにはきっと、色々あるだろう。

性、愛、孤独、便利、色々。

理由はそれぞれ、沢山あるだろう。

ああ。

でも。

この人が分からない。

そういう時は、絶対にある。

人は。

自分ですら理解できないのだから。


京太郎「随分、暗くなってきましたねー」

エイスリン「ウン、早ク帰ル!」


片手に先輩の荷物を持ち、俺はホテルへと脚を向けている。

明日は海水浴。

となると、男の俺は大変だ。

パラソル立てたり、荷物運んだりと仕事は色々あるだろう。

そう考えていると、ふと俺の視覚は白を捉える。

白い髪。

シロ先輩の後姿だ。

そして黒も。

豊音さんの姿が、そこにもある。

しかし。

なんだろうか。

あの二人の、空気。

普段と、違うような………。