94 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/02(水) 21:46:28.22 ID:WkIFPeFoo [2/6]


優希「犬!遅い!!」

京太郎「集合時間には間に合ってるだろ!?」

ホテルの奥。

宮永さんと共に出てくる彼。

ぽりぽりと頭を掻く姿が何処か抜けてもいるような、そんな顔。

私は小さく微笑み、口を開く。

それは優希を窘めるような、周囲に優しく響くだろう私の声だ。

久「はいはい、優希ー。約束した時間には間に合ってるんだから気にしない」

優希「じぇ~……」

京太郎「ぶ、部長ぉ……!」

優希が何か言いたげな、そして須賀君が希望を持った瞳で私を見る。

くすり。

私は笑う。

それを須賀君にうっすらと見えるような笑みで返し、私は腰に手を当てて目を瞑る。

ただし。

そう、少し悪戯めいた声色で私は釘を刺すことを忘れない。

久「で・も、確かに一番遅かったのは須賀君ね」

須賀「うぐっ!?」

久「そうね……そうだ、後で雑用を手伝って貰うわ。いいかしら?」

須賀「りょ、了解っす…」

久「ん、よろしい!」




95 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/02(水) 21:47:59.69 ID:WkIFPeFoo [3/6]



私が大仰に頷く。

それに優希が「がんばれよー」と笑い、まこが「何時も迷惑かけるの」と苦笑している。

咲も和も、困ったように顔を見合わせ、微笑みあうだけだ。

この光景で、誰も困る人はいない。

須賀君も、まこも、優希も、和も、咲も。

そして、私も。

最高の幸せだ。

この関係が崩れないということ。

私の夢を叶える、誰も不幸にならない。

そうして今、全国の舞台に立つことが出来ている。

それも全て私の仲間たち。

彼女たち……そして、彼だ。

県大会に参加できるようにしてくれた須賀君。

本気の文句も言わず私たちのために汗を流してくれる須賀君。

私たちの現在を支えてくれる須賀君。

須賀君との出会いを私は思い出す。

京太郎『カモ連れてきたぞー』

そう言って最後のメンバーになった咲を連れてきた彼。

当初、何処までも初心者であるあの子に麻雀を教えていたのは私。

彼の人となりに身近に接する機会が多かったのは、咲に続いて私だ。

咲には及ばないけど、彼を一番に知るのは私だ。

ふふん、と笑いたくなるのは少し抑える。

地下鉄を利用し、会場へ。

抽選会のため、他の県代表の部長たちと共に並んで待機する。

ふと、目があった。

須賀君が観客席に座っているのが見える。

京太郎「行けー!清澄ー!!」

と、そんな声。

周りの部長が私をちらりと見た。




96 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/02(水) 21:48:48.27 ID:WkIFPeFoo [4/6]



『女子大会なのに男子部員?』

そんな視線だ。

思わず、吹き出す。

ああまったく、やっぱり彼は良い。

退屈しない子だ。

そうして、抽選会が終わる。

私は皆と合流して、口を開いた。

久「じゃ、明日はよろしく!須賀君、朝の通りお仕事よー」

京太郎「うーっす……」

がっくりと肩を落とす須賀君。

私はからからと笑い、彼の腕を引く。

びくり。

そう反応したのが、すぐにも分かった。

私が笑う。

須賀君は少しだけ顔を赤くして、私に手を引かれるままになっている。

だけど、彼は男の子。

こういったのはやっぱり恥ずかしいんだろう。

でもこうした部分が、可愛いんだけれど。

久「さて、須賀君。命令があるのだけれど」

京太郎「へへぇ、何でごぜぇましょうかお代官様」

へへー。

そんな芝居がかったような返事。

諦めた様子というより、私に対する意識の変え方。

咲や優希ならば軽く、からかうように。

和やまこには真正面からしっかりと受け答えるように。

私には、こうして少しのジョークを交えた芝居がかった対応で。

私だけの特別。

フレンドリーに付き合える、そう思ってくれてるからこそだ。

だから、私はその距離を縮めるつもり。

彼を困らせるように腕を組み、微笑みかけた。

この時間。

それを奪われることは不愉快だと、今は気づかぬ思考を奥底に抱えながら。



【※魔性型は一線越え、または他女子とのレベル3が存在した時……】

105 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/02(水) 22:23:21.83 ID:WkIFPeFoo [5/6]



――――部長と合流して向かうスーパー。

俺が買い物籠を持ち、部長に続いて増えつつある買い物を見る。

ペン、紙、テープ、携帯保存食料。

部費じゃなくて部長の実費での買い物だから、個人的な用品だろう。

意外とずっしり。

男の俺でも結構重いと感じるくらいだ。

なるほど、今日の雑用依頼というのは必須だ。

でもこれくらいなら、言ってくれれば普通に手伝えるのに。

そう部長に言ってみよう、そう思ったが、ふと気づく。

部長の髪型。

何時もの流した髪型じゃない、部長が試合の時にしかしないおさげ髪。

こうして見ると新鮮なものだと俺は思う。

白いうなじ。

良く、親父が『女は後ろ姿が良い子がいい』とか言っては母さんに殴られてたが、それが少し分かる気がする。

新鮮さもあるけど、なんというか。

色気、という奴だろうか。

エロじゃなくてエロスというか、もっと高尚なものだ。

そんなことをだらしない顔で考えているとふにょんとぶつかる。

固まって、視線を下に。

こちらを見上げる部長の姿が、俺の前にあった。

わぁい、やわらかーい。

久「須~賀~君~?」

京太郎「」

笑顔の部長。

“ふにょん”で怒ってるんですか?あ、はいそうですか。

久「須賀君、私の胸の柔らかさに対して自分で雑用増量ね」

京太郎「はい……」

………許してくれるレベルって、どんくらい仕事するべきなんだろうか?




112 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/02(水) 22:40:44.58 ID:WkIFPeFoo [6/6]


久「さ、入ってー」

そんなことをうんうんと悩みつつ、ホテルへ。

そのまま俺は部長の部屋へ。

勿論だが、荷物を運ぶためだけだ。

……別に、本当の部長の家じゃない。

レンタルであるホテルの一室なのになんでこうドキドキとするんだろうか?

やっぱりあの“ふにょん”が印象強く残ってるせいか?

いやいや、俺だってそんな単純な男じゃ……。

久「あー疲れた!」

京太郎「ブッ!?」

ベッドに飛び込む部長。

ベッドのスプリングでポン、と体が少し浮いた。

仰向けで、片足を曲げてこちらを見る。

そのアングルが、どうにもやばい。

何がどうとかじゃなく、やばいのだ。

久「んー?どうしたのかしら、須賀君?」

こちらを寝転んだまま見上げる部長。

何処か眠たげな声が俺の耳に届く。

えーと……









えーと、うーんと。

思わず無言の空間。

何を言うべきか、と考える。

腕を組みたいけど組めない。

俺と部長の視線が揃ってる間、この空気をどうにか晴らすべき案を考える。

個室、部長、おさげ、制服、ふにょん、おさげ、おさげ、おさげ、おさげ、パンツ。

………パンツ?

視線は足へと向かう。

そして少し視線は上に、タイツの下に見える三角の……。

京太郎「………」

久「あら、なんで目を覆うのかしら?」

足を組み替え、そんな声。

……なんでそんなに挑発的なんですか、部長。

思わずそう嘆くが答えてくれる相手はいない。

言うしかない。

言って、さっさと帰ろう。

そうしようったらそうしよう。

京太郎「部長、見えてます……」

久「ん?」

とぼけた声。

いやもう、本気で勘弁してください…。










久「あ、もしかして見たの?」

京太郎「えーと、その」

久「見たのね?」

京太郎「………はい」

久「へぇ……?それは何を?」


にやり。

そんな風に笑う部長に俺は泣きたくなる。

いじめるのを楽しんでるとしか思えない。

もうこれ逆セクハラなんじゃねーかな。

そんな諦めすら混じった声。

俺が短く、口を開いた。


京太郎「……部長のパンツっす」

久「ふぅ~ん」

京太郎「言ったんだから少しは恥じて隠してくださいよ!?」

久「だるいのと、動きたくないのよ」


疲れたー!

そう言ってベッドで転がる。

子供かあんた。

そんな乱暴な物言いになる俺は悪くない。

そう思っていると、差し出される。

何を?

足を。

足を組んだ部長がタイツを穿いた足を、俺に差し出していた。


久「ねぇ、脱がせてくれないかしら?」

京太郎「自分で着替えて下さい!?」


もう俺この人が分からねぇ!!



【8月13日終了→8月14日(朝)に続く】

170 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/04(金) 00:49:53.07 ID:Hyu07NMLo [6/6]


【8月14日:朝】



一夜明け、天気はからりと晴れ。

東京の夏本番という熱さが肌を焼く。

俺は手に持ったパンフレットを片手に小さく汗を拭い、息を吐く。

今日から大会開始。

その予定は実に単純なものだ。

14~24日:団体戦
25~27日:個人戦

という、約2週間の長丁場。

清澄……俺の高校も、個人戦に咲と和が参加する。

あの二人が呆気なく終わる、なんてことは想像できるものじゃない。

多分、28日まで大会は続いていくだろう。


京太郎「しっかし部長には参った参った……」


あんなご褒美……じゃなくて尋問。

遊ばれてるのか、楽しげだったあの人にはかなり困ったものだ。









まぁ、昨日のことは昨日のこと。

俺は待機部屋から出ていき、優希のタコスを初めとした買出しへと行く。

前もってここらの地理は把握しているし、もう成れたもんである。

そんなことを思って歩いていると、ふと視線が移動していった。

あれは、制服だろう。

手には赤ペンとファイルを持った女生徒がモニターに集中しているのが目に入った。

片方が巻いたような、特徴的な髪型をしている。

試合を見ていることから選手なんだろうけど……。


やえ「っと」

京太郎「あ」


その時だった。

彼女が持っていた書類が零れ落ちる。

ふわりと、俺の足元へ。

拾い集めている彼女に渡そうと、俺はおれを拾う。

そこにあるのは、個人戦の名簿だ。


京太郎「あの、落としましたよ」

やえ「す、すまないな」

京太郎「いえいえ。……個人戦の選手なんですか?」


少し慌てたように、ほんのりと羞恥からか紅葉した頬。

俺はそれに気づかないように、少し話の方向性を変える。

それに目の前の女性は「ああ」と、大仰に答えた。



194 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/04(金) 10:47:00.38 ID:HFUoB/OUo [2/5]


やえ「奈良、晩成高校3年。個人の小走やえだ、よろしく」

京太郎「俺は須賀京太郎です。一年で、麻雀部のお手伝いみたいな立ち位置でやってます」

やえ「やはり選手ではない、か。まぁ、女子大会だから当然だったな」


そう苦笑して書類を払う。

なんというか、かっこいい人だ。

自信に満ちているというか、なんというか。

言うならば王者の風格とでも言うべきだろうか。

実力に裏打ちされた自信が、彼女の根底を成している。

例えるなら、派手すぎない龍門渕高校の龍門渕透華さんという感じだろうか。

そんなことを思い出すと、俺は「あっ」と声を漏らす。


京太郎「や、やっべ!?買い物の途中だった!失礼します!!」

やえ「あっ、お、おい!」

慌てて走り出す俺。

小走さんの声が聞こえたような気がしたけど、そんな場合じゃねぇ!





やえ「ふむ……須賀君、か……」













【8月14日:昼】


優希「遅いー!タコスは!?」

京太郎「ぜぇ、はぁ……!!」

まこ「ほれ、水でいいかの?」


息荒く俺が帰還。

返ってきたのは優希のタコスをせがむ声と心配そうに水を差し出す染谷先輩。

優希にこんにゃろう、とも思いつつ例を言って水を受け取る。

ああ、美味い。

東京って正直暑すぎるだろ……




久「ナンパでもしてたのかしら?」

京太郎「ブッフゥ!?」

優希「じぇぇぇぇえ!?」



  • 昼、接触対象を指定してください↓2

258 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/04(金) 23:09:11.74 ID:mKgbOrn8o [2/3]


全国大会。

その試合は野球の甲子園と同じで、一つの雀卓によって行われる。

俺たち清澄が所属するBブロック第一回戦。

それはこの大会における一発目の爆弾だ。

中堅での他校飛ばしての勝利。

優希も、染谷先輩も、その3人が全員大爆発した結果だ。

これだけで、今三つのチームが全国から消える。

俺はその様子を清澄の待機室で見ながら、小さく声を漏らしていた。


京太郎「はぁー……緊張した…!」

和「どうして須賀君が緊張するんですか?」

咲「あはは、京ちゃん落ち着かなかったね」


そうは言うけど、部屋の空気は随分と柔らかいものだ。

そう思っていると、足音が聞こえる。

扉が開けば、薄い笑みを顔に貼り付けた部長がそこに居た。


久「先ずは一勝、もぎ取ってきたわ。さ、今日の試合はここまでだから帰るわよー」

まこ「随分と急ぎ足じゃの」

久「帰って他の勝ち抜き校の牌譜チェックしたいのよ」

和「ですね」

咲「あ、じゃあ先にちょっとお手洗い行ってきます!」

京太郎「あ、ちょ待て咲……もういねぇ!」


慌てて走り出す咲。

俺の脳裏に甦るのは何時もの迷子状態だ。

ただトイレに行く女の子を男が追うというのもひじょーにアレであって……。

気づけば、咲が部屋を出てもう10分も過ぎていた。


京太郎「………すいません、ちょっと探してきます」

和「私も手伝います」

優希「私も行くじぇ!」

まこ「ワシも行くかの」

久「じゃ、私はここで咲が帰ってくるか一応待ってるわね」


全員が揃って立ち上がる。

なんとも締まらないものだ。

そんなことで皆が苦笑。

さてさて、さっさと見つけてやろうか。





259 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/04(金) 23:10:19.54 ID:mKgbOrn8o [3/3]



―――だけど探すとは言っても、実は簡単だったりする。

あいつは迷子になると右に左にと、角を曲がっていく。

典型的な迷子の原因なのだが、無意識でやってるのが性質悪いものだ。

俺は女子トイレ近くから道をざっと見る。

人ごみは多い。

となると、きっと流されるようにこっちに行ってるはずだ。


京太郎「………見つけた」


発見。

意外とあっさりすぎるものだ。

手を組み、うろうろとしている背中。

笑うのを堪えて、俺は咲の肩を叩いた。


京太郎「見つけたぞ。ったく、またか」

咲「きょ、京ちゃぁ~ん……!」


半泣き状態の咲。

俺は携帯を取り出し、部長に繋げる。

部長から皆にメール送信してくれるそうだ。

俺はそれを受けたら咲へと向き直った。


咲「あ、あああのね京ちゃん。私、また迷子になったんじゃ」

京太郎「“また”って自分で言ってるじゃねーか」

咲「あう」


ぽこん。

軽く小突くと頭を摩る咲。

それに俺は小さく息を吐くと、咲の手を引く。

全く、このポンコツ魔王さんはどうしてこうなんだろうか……。

そう思う俺の手を、咲が少し強く握ったのに、俺は気づかなかった。












【8月14日:夜】






夜。

夕食が終われば自由が出来る。

基本的にミーティングと練習。

それだけなのでやることが無い俺は静かなものだ。

今も部屋では和、優希、染谷先輩、部長が卓を囲んでいる。

俺と咲は静かにその様子を見守っていた。

しかし、熱い。

狭い部屋に6人も集まっているというのもあるだろう。

しかし、冷房を強くすると寒い。

俺は冷蔵庫を開き、飲み物でも出そうかと探ってみたが何もない。

どうせついでだ。

皆の分の飲み物でも買ってくるか。


京太郎「お茶買ってきますけど、注文は?」

久「あ、私りんごジュースで」

まこ「ワシは緑茶がいいのう」

優希「あたしはコーラでいいじょ」

和「紅茶でお願いします」

咲「じゃあ私は―――」

京太郎「お前は俺を手伝え」

咲「ひどっ!?」


俺が何を言ってるんだという顔をする。

それにショックを受けたような、そんな顔をする咲。

というか当たり前だろうが。

手が空いてるのは俺とお前だけ。

むしろこれで休めると思うほうが間違っているというものである。




274 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/05(土) 00:27:54.24 ID:TPglUBpoo [2/8]



咲と並んでホテルの廊下を歩く。

会話は無いまま自販機についた。

俺はコインを取り出し、それぞれの注文を買う。

咲に振り返って、俺は尋ねた。


京太郎「咲、お前はどうするんだ?」

咲「あ、うん。お水でいいよ、京ちゃん」

京太郎「水でいいんだな、じゃあこれか」


水を購入し、咲に手渡す。

咲はそれを両手で抱えるように持ち、ふと俺を見た。

なんというか、困ったような、そんな顔だ。


咲「………ありがとね、京ちゃん」

京太郎「ん?何がだ?」

咲「今日、私を見つけてくれて」

京太郎「ああ、そのことか。気にすんなって、もう中学時代で慣れたし」

咲「うん……」


いや、そこでうんと言われても逆に困るんだけどなぁ。

俺は小さく息を吐く。

さっさと戻るぞー。

そう声をかけて。

咲は小さく微笑んで、俺を見た。

うん。

そう答えた、裏側の声。

俺の耳には届かない。




咲「そう……京ちゃんは、私を一人にしない……よね……?」



281 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/05(土) 00:52:37.99 ID:TPglUBpoo [4/8]
【8月15日:朝】



ふと視線を動かせば目に入る。

そんな経験は無いだろうか?

よくTVで見るCMであったり、広告であったり。

多種多様の注意を引く物が人それぞれにはある。

俺が今日、ホテルの食堂に向かう足で目についたのは片方のドリル。

その俺の視線と、ふとそのドリル髪の持ち主である小走さんと目が合ったのは偶然だった。


やえ「ああ、須賀君だった…か?」

京太郎「どうも、小走さん。小走さんもこのホテルに泊まってたんですね」

やえ「ほどよく、会場に近いからね」


席、失礼しても?

そう問いかけると、構わないよ、と返される。

俺はその言葉を受けるとそのまま小走さんの対面に座る。

何を話そうか?

そう思ったのだが、やっぱりこういう時の会話は麻雀が一番だろう。

別に話さなくてもいい、とかもあるがそれはそれでアレだ。

間が持たないだろう。

会話の切り出しは俺。

少なくとも、静かすぎるよりは十分マシ。

それくらいには会話が出た。

奈良の代表。

そこも清澄と同じように5人ぎりぎりだとか、今日一回戦があるだとか。

やっぱり、そういうどきどきというものは何処も同じだ。


京太郎「まぁ、ウチも負けませんよ」

やえ「それは楽しみだな、須賀君」







341 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/05(土) 20:49:43.05 ID:gmHgiAquo [1/3]

【8月15日:昼】



昼、ホテルに戻った俺が部屋でネット麻雀をしていた時。

部屋をノックする音が聞こえた。

なんだ、と思いつつ俺はドアを開く。

見れば、そこには見覚えある姿があった。

そうだ、今日の試合は見所だけはもう見て、先に帰った………


久「あ、ごめんねー須賀君」

京太郎「ぶ、部長ぉ!?」


そこには、片手に小さい鞄を持った部長の姿。

時間的に昼、昼食の誘いだろうか?

そう俺は思っていると、部長は「あっはっはー」と、何処か困ったように笑っていた。


久「ごめんねー須賀君、ちょっとお風呂貸してくれないかしら?」

京太郎「……はい?」


俺の隣は部長の部屋。

何があったと聞けば、ちょっと来てと言われてしまった。

ドアを開き、見る。

そこには一面、紙、紙、紙、紙。

壁や床に張られ、置かれた紙……牌譜の数々。

うわぁ。

そう俺が思わず声に出すほど、何処か狂気的な光景だ。

見れば、部屋の隅。

そこに水のボトルと人が座っていたような小さな空間がある。

失礼して、俺は浴室を見る。

………そこにも、無数の牌譜。

俺の頬が引きつくのが分かった。

振り返れば、後ろ手で部屋の扉を閉じる部長の姿。

にこりと、微笑んだ。



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375 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/01/06(日) 00:14:20.72 ID:iBHONMC3o [1/19]



京太郎「何をどーしたらこうなるんですかぁぁぁぁぁ!?」

久「いやー、昨日から熱入っちゃってねー」


部屋の惨状に俺が悲鳴を上げる。

この人、天井にまで張ってるよ!

その労力と見合うだけの見易さはないよこれ!

こうやってするんだったらファイリングした方がマシだよ本当に!

俺は真っ先に風呂場に突入。

散らばっている牌譜をかき集める。

見れば見るほど、色々な名前が多い。

って、これは……。


京太郎「あ、これって……小走さんの…?」


書いてある雀士の名前は小走やえ。

奈良県個人一位、と記されている。

他のも見れば、多くが県代表選手や、代表校のものだ。

咲と和の個人戦にもすでに目を向けているからこそのこのデータ量。

確かに、団体なら多くても20校くらいのデータで済むだろうけど、個人はそれじゃきかない。

部長なりの応援の準備、という奴なのかもしれない。


久「――――ふぅん、知り合いなの?その小走さんと」

京太郎「――――ッ!」


びくり、と体が震える。

後ろから肩に手を置かれ、俺の横に顔を出す。

横を向けば、部長の頬がある。

体勢で言えば抱きつかれてるような、そんな形。

ここがシャワールームという密室であるからこそ妙に色香が香ってくる。


京太郎「………」


ごくり。

そんな、俺の生唾を飲む音が妙に木霊した。



久「………須賀君」





若いのは勢いで。

そんなことを無責任に言う教育者が居た、ような気がする。

今だけは、それに納得しよう。

俺は背中に抱きついたまま、俺の手を握っている。

えてして、俺の手の牌譜を持っているようにも、後ろから抱きしめてるだけにも見える。

そんな光景。

それが俺が置かれた光景だ。

ふわふわとした柔らかさと、部長から漂う女の子の香り。

嫌でも、俺が男であるというのを再確認するだけの空間。

それだけの力を持つ空気が、ここにはあった。


京太郎「牌譜、片付けませんと……」

久「ん、よろしくね」


そっと、部長が離れる。

それに安堵の息を俺は漏らし、牌譜を拾う。

ああ、ドキドキした。

こんなの一生に何度あるかわかりもしないぞ、きっと。

俺はそんなことを思いつつ、ため息をつく。

いやま、部長のことだ。

どうせからかってるだけに違いないけど、俺だって若い。

こういうのはこれっきりにして欲しいくらいだ。

俺が息を吐いて、意識をクリアに。

そうすることで今まで妨害されてたような情報もはっきりと認識できるようになる。

そう。

例えば。






後ろで聞こえる、衣擦れ音とか。


バチンッ、という甲高い音とか。



一瞬で暗くなる俺の意識。

それがスタンガンであるというのに気づかぬまま、俺は長い夜を迎える。

目覚めた時、もう、何も言い逃れできないという刷り込みをなされて。




【END――秘密共有】