「こんにちは」

 部室に入ると須賀くんが茶菓の準備をしているのが目に入る。

「よっ和、今日は遅かったな」

「ええ、掃除当番で少し遅れました。……須賀くんだけですか?」

「あー、他のみんなは風越の皆さんを迎えに行ってるよ。俺は留守番兼お茶の用意」

 言われて練習試合の日だった事を思い出す。

「折角福路さん来るんだしお茶には気合い入れるぜー。どうせ対局中は空気だろうし」

 ……最近の彼は口を開けば風越のキャプテンさんの事ばかり。
 須賀くんからの好色な視線にうんざりしていた私はそれから解放されて清々していた。……はずなのだけど。

「福路さんビターなの好きかな?気軽に摘まめるように今日のクッキーはカロリー控え目にしてみたんだけど」

 何故だか……釈然としない。

「そうだ、こないだハギヨシさんに茶葉の蒸らし方のコツを教わったんだよ。紅茶はちょっと自信アリだぜ」

「ふふ……そうなんですか。それは期待のハードルが上がってしまいますね」

「プレッシャーかけてくれるなよ……あー、喜んで貰えるといいんだけど」

 ……いや。正直言って苛々している。

「この頃は部長と三人とは言え、時々遊んでくれるんだよ。このまま仲良くなれないかな~」

 それは聞いていない話だった。意外と須賀くんもやり手らしい。

 ……辟易としていた彼からの熱視線が他の人に向けられて、やっと解放された……それが最初の感想。
 次に抱いたのが福路さんも大変ですね。御愁傷様です、と言った感想。
 今抱いてる気持ちとしては……。

「そろそろいらっしゃるかな……やべ、緊張と高揚がいっぺんにやってきた」

 ……ペットが他人に尻尾を振っている、と言うのが近いかもしれない。
 どうも私は自分で考えていたより大分性格が悪かったようだ。
 須賀くんを犬呼ばわりするゆーきを窘めていた自分がこれなのだからどうしようもない。
 でも……自分のモノが他の人を見ているのがどうにも許せないと、今はそう思う。
 これまで気が付かなかったそんな自分の卑しさに戦慄する。
 それでも彼の手綱を手渡しなくないなんて、今更ながら強く感じる自分の薄暗い感情にはむしろ笑えてくる。

「あ、来たみたいだな。……皆さんこんにちは、お待ちしてまsッの、和!?」

 突然腕を抱き締められて焦る彼は小動物のように見える。
 それが体格にそぐわなくて何だか妙に可愛らしく思えた。

「遠路はるばるお疲れ様です、ようこそ清澄高校へ。……本日は胸を借りるつもりで打たせて戴きます。宜しくお願いしますね」

「こ、こんにちは。今日はお世話になります。……あの、お二人はそんなに仲が良かったかしら?」

「い、いや、その……俺にも何が何やら……」

 須賀くんは私からのスキンシップに混乱しているようだ。
 あ、後ろの方でで部長達も固まってる。
 まあ、私のこれまでの彼への態度を鑑みれば栓のない事かもしれない。

「さ、こちらへどうぞ。ほら須賀くん、皆さんにお茶をお出しして」

「は、はい!」

 何が起きてるのか理解出来ないなりに言われた通り動く彼。パタパタ揺れる尻尾が見えるようだ。
 ああ……ゾクゾクしてきた。
 もう決めた、須賀くんは私がずうっと飼い殺しにする。
 性悪女で申し訳ないけど、一度でもこんな女に尻尾を振った自分を恨んでほしい。
 ……ふふ。そんなに不安そうな眼をしなくても大丈夫ですよ。
 いい子にしてたらちゃあんと、御褒美あげますからね、京太郎くん♪