憧「困ったなぁ…しずと一緒に来るんだった…」

 三人で東京見物をしていると、見覚えのある少女が何か困ったように立ち尽くしているのに気付いた。

和「憧じゃないですか?こんな所で何を…?」

憧「あ、和…と、部長さんに……えっと……」

 まあ俺の事なんて他校の選手が知ってる筈もない、いいとこマネージャーとか雑用扱いだし。

憧「そうだ!片岡さんの専属シェフの人!」

 どうも清澄の空気雑用です。本日新たな称号を賜りました。

和「あ、憧!」

久「決勝ではどうも、竹井久よ。こっちはうちの部の黒一点、須賀京太郎くんね」

 フォローが入る。なんだか最近部長が優しい気がする…俺の事が実は好きだったりするんだろうか。しないか。

京「初めまして、タコス給仕係こと須賀です」

憧「あ!いやこれはその…ご、ごめんなさい…」

 あたふたしながら謝ってくる。なんだこの娘可愛いな。

京「いいよいいよ。新子さん、でいいんだよな?なんかそこの木を見上げてたみたいだけど何を……猫?」

憧「そうだ猫ちゃん!あの子、木に登ったのはいいけど降りられないみたいで…あたしじゃ助けに行けないし」

京「あー、女の子にはあの高さは無理だな」

和「いえ、不可能では無さそうな女子はいるのですが…」

憧「生憎の不在でさ、ホントどうしよ。猫ちゃん震えてる…」

 ああ高鴨さんの事か、和の話じゃかなりの野生児らしいな。
 あのちっこい体のどこにそんなパワーが…いや、ウチにも似たようなのいたな。

久「須賀くんなら登れそうだけど、あの枝の細さは…」

 俺の体重に耐えられそうには見えないな。

京「よし、俺に任せてくれ。和、荷物頼めるか?」

和「ええ。でもどうするんですか?」

京「こうする」

 枝を目掛けて跳躍。
 落下開始前の僅かな静止時間を利用して勢いを殺し、猫をそっと腕に抱く。
 地面に戻ると変な物を見るような視線を向けられた。何故。

憧「今三メートル位ジャンプしなかった!?」

和「二秒程、空中に留まっていたように見えたのですが…」

 人をゼット戦士みたいに言わないでほしい。

久「須賀くんは中学時代、ハンドボールをやっていたのよ。大会でもかなり活躍したんですって」

 あれ、部長に言ったっけ。咲に聞いたのかな?

和「何故部長が得意気に説明するんですか…と言うかそれだけで三メートル跳躍したり空中で静止出来るとは…」

憧「ハンドボールのプレイヤーなら仕方ないわね」

和「…私がおかしいんですか…?ハンドボールとは一体…」

 俺も理解してやってる訳じゃ無いからなぁ…なんとか力学とかよう分からんかったし。

京「おっとそれより、ほら」

憧「猫ちゃん!…良かった、怪我とかしてない…」

 新子さんは猫の無事を認めると優しく抱いて撫で始める。

憧「よちよち、お兄ちゃんが助けてくれてよかったでちゅね~。運がいいのね、おまえ」

 何やら喋ってはいけない空気。空気に徹するのはまかせろー。
 あ、猫頬擦りされてら。いいなあ…。

憧「須賀くんがいてくれて良かった…。どうもありがとうね」

『いてくれて良かった』。『いてくれて良かった』…。
 何だろう、とても報われた気分だ…。

憧「頼りになるのね、男の子って」

 はにかむような笑顔を向けられた。結婚しよ(結婚しよ)。
 て言うか、これがボーイとガールのミーティング的なイベントで、お近づきになれたりしないだろうか。
 頼む、そうであってくれ。もう『いい人だとは思う』とか言われたくない!可愛い娘と仲良くなりたい!

憧「それでね、お礼とかしたいから…良かったら番号とか、その…」

 キタ━━━(゚∀゚)━━━!!

京「もちr」

久「いやー、猫に何事もなくて何よりね!」

和「では憧、私たちはこれで!穏乃や玄さんに宜しくお願いします!」

憧「え?あ、あの…」

京「そんなー」

 ドナドナドーナー以下略。

和「もう!須賀くんの馬鹿!」

 暫く歩くと、和に突然罵られる。なんでだ。

久「これ以上ライバル増えんのやーよ、私」

京「何ですかライバルって。決勝戦は勝ったでしょう」

 そう言ったら二人に半眼で睨まれた。おい、新たな扉を開いちゃったらどうするんだ。

和「やはり無自覚の犯行でしたか…。一人で出歩かせなくて正解でした」

久「そうね、どこで女の子ひっかけて来るか分からないものね」

 人を盛りのついた犬みたいに言うな。てか何だそれ、事実無根すぎる…。
 ん、何かポケットに入って…これ、新子さんの電話番号!?

和「いつの間に…流石は憧、抜け目ないですね」

 マジか…?俺にもとうとう春がやってきたのか!?これ、本当にかけてもいいの?

久「気付かなかった…警戒が必要な相手みたいね。和、ここは手を組まない?」

和「そうですね、憧は一筋縄ではいきません。一時休戦としておきましょう」

 部長たちは何を言ってるんだろうか、何だか剣呑な気配。
 ふと右を見ると部長が俺の腕を両手で掴まえていた。反対側を見れば和ももう片方の腕をしっかりと抱えている。

和「もう、手っ取り早く体から骨抜きにしちゃいません?どうせ私その内するつもりでしたし」

久「そうね。大会終わってからのご褒美のつもりだったけど…その前に横からさらわれたんじゃたまらないものね」

 うわ~…和の胸は言うまでもなく、部長も手とか肩とか超柔こいし左右からいい匂いする…

和「まあ、最後に笑うのは私になるんですけどね」

久「言ってなさい。今だけ共有させてあげるけど、誰にもあげないんだから」

 首を間に挟んで喋らないで…五感が幸せすぎて、頭が、はたら…かな…

和久「ふふ、ふふふふ…」

 …あ、あれ?こんな所歩いてたっけ?なんか見慣れない感じの似たような建物がいっぱい…?

和「今まで我慢させちゃってごめんなさい。これからはもう溜め込まなくていいですからね」

久「夢を叶えるの、手伝ってくれて有難う…私、とっても嬉しいわ。一杯お礼するから、受け取ってくれる?」

 の、和?対局中でもないのにそんな顔を赤らめて…やばい可愛い結婚したい…
 う、部長の上目遣い!パネェ…エロい可愛い結婚したい…

久「ここなんて丁度いいんじゃないかしら?」

和「私は詳しくありませんので…部長にお任せします」

久「失礼ね。私だって知らないわよ」

 …?ここ…入るんですか?はい…お供、します…

和「はあ、色んな部屋があるんですね…」

久「適当に決めちゃいましょ」

 なんか…夢現って、こういう感じなのかな。頭の中に霞がかかったような…

和「まずは、お背中流してあげますからね」

久「サンドイッチよ、嬉しいでしょ?」

 …蜘蛛の巣にかかったような気分だけど…もういいや、抗えない。身を委ねてしまおう…


 カンッ