京太郎「暑い…コンクリートジャングル怖い…」

 激戦の全国を見事制したみんなは個人戦までの思い思いに過ごしている。
 長野から応援に来てくれた皆と優勝の喜びを分かち合う者、旧友と思い出話に華を咲かす者、
 この夏新しく出来た友人との親交に興じる者。…何か一人いつも通り昼寝してる奴がいた気がするが気のせいだろう。

 祝いの席には俺も誘われていたが辞退していた。この夏実際に大会で鎬を削った選手達の中に混じるのは
 どうにも無粋な気がしたのだ。

京太郎「部長は気にすることなんて無い、雑事に身を砕いてくれた俺がいてくれたからこその、皆で掴んだ優勝だ…なんて言ってくれたけど」

 いくら何でも大袈裟だ、俺はそんな大した事なんてしちゃいない。つか部長、普段あんな感じなのに
 いきなりあんな事言うんだもんな…ちょっと卑怯っす。

 そんな訳で、一人宛てもなくブラブラしてるんだけど…夏の東京ってこんなに暑いのかよ。
 何か色んな建物あってどこ入ろうかすげー迷うし。

京太郎「あっぢぃ…溶けちゃうよこれ。どっか涼める場所は…」

「あれ、もしかして京くん?」

 背後からかけられた声は、懐かしくて、胸が高鳴って、同時に焦燥感を覚えるもので…。
 燻っていた胸中に、今までとは違う感情がじわりと広がっていくのが分かる。

「やっぱり京くんだっ!」

京太郎「み…瑞原プロ…ご無沙汰してます…」

 なんでこの人がここに。いや試合の解説してたみたいだしそりゃ東京にはいるだろうけど…
 こんなピンポイントの遭遇は想定してないって。

はやり「なんで他人行儀?昔みたいにはやりお姉ちゃんでいいよっ!はやりちゃんでも可。むしろ推奨☆」

京太郎「…久しぶり、はやり姉さん」

はやり「うんうん久しぶりだねっ☆わぁ身長随分伸びたんだね!昔はうんとちっちゃくて可愛くたのに。
    覚えてる?おんぶとか抱っことかいっぱいしてあげたんだよ♪懐かしいよね☆あ、でも女の子みたいに
    綺麗なお顔は昔のまんまだ!やーんお肌ツルツル~。
    お姉さんも肌年齢には自信あるけど負けちゃいそう☆おや?でもでもよく見れば可愛らしい中にも何処か
    精悍な男らしさがあっていいお顔になったねぇ。
    これは背の高さも相まって女の子が放っとかないでしょ?引く手あまたで困っちゃうね☆弟のように思って
    可愛がってた京くんがこんな立派になってるとはねぇ。うんうん全くご同慶の至りだよ☆」

 うわぁ超喋る…何で久しぶりの再会でこんなハイテンション&マシンガントークなのこの人。無敵か。

 はやりさんは俺が島根に住んでいた幼少の頃、仕事で家を空け勝ちな両親に代わりまだ小さかった俺の面倒を
 見てくれていた家の娘さんだ。彼女とその母親には大変世話になった。
 遊んでもらって勉強見てもらって、ご飯なんて下手すりゃこれこそお袋の味ってくらい作ってもらっていた。
 要するに頭が上がらないお姉さんだ。…なのだが…。

 猫だったら死んじゃうじゃないかってレベルで旺盛な好奇心の持ち主だ。将来研究者とかになるものと思っていたから、
 麻雀プロとしてメディアに出た時は驚いた。

 だから恩人である事に違い無いのだが、その知的好奇心?探求心?を満たすためのモルモットになるのは辛かった。
 心理的な実験と称して色々とからかわれたり人体の観察と称してひん剥かれたり…。ご褒美じゃんって思うかもしれないけど
 子供には何されてるかも分からなくて兎に角怖かったんだよ。

 女装させられる程度ならまだマシで、お医者さんごっこなんてトラウマもんだ。部長の悪戯なんて可愛いものに感じるくらい、 と言えば少しは伝わるだろうか?
 お陰で内緒だけどこの歳で不能気味なんだぜ俺…あ、でもおっぱいに強く惹かれるようになった原因もはやりさんかも
 俺ェ…。

 そんな感じで俺にとってはやりお姉さんは子供の頃抱いていた大好きって気持ちと思春期の今抱く
 苦手意識が同居していて、我ながら感情の向きが複雑な人だ。今もどういう態度を取るべきか測りかねている。

はやり「って、どうしたのかな京くんっ。さっきから黙りこんじゃって、男の子は元気が一番だぞっ☆」

京太郎「ん…いやちょっと感慨に耽ってたと言いますか」

 喋る隙も与えられなかったと言いますか。あとそれはセクハラでしょうか。
 思考を現実に戻しはやりさんの顔を改めて見てみる。あーくそ、やっぱ可愛いな…あれ、
 この人確か俺の一回り上な筈だよな。じゃあこれで30手前って事になるね…嘘だろ?

「はやりちゃーん、急に走り出して一体どう…あら?もしかしてそこにいるのは京太郎ちゃんじゃない?
 やっぱりそうだ、メロンソーダ!
 久しぶりね~、まぁどうしちゃったのこんなに大きくなって。聞くなって?やぁんもう京太郎ちゃんたらつれな~い」

 上 に は 上 が い た !

 え?えっ、え!?はやりお姉さんのママだよね?いやいやおかしいだろ!何で俺の記憶の中のママさんと完全に一致するんだ!
 最後に会った時と寸分変わらないんですけど!?
 いや、お姉ちゃんあの時大学生だったな…大学生の娘がいてこの見た目って!子供ながらに綺麗で
 やさしいお母さんいいな~なんて思ってたけど!

 考えてみたら若いなんてもんじゃねえ!姉妹にしか見えないよ!大体はやりさんの親って事は50前後?
 えー家の母さんより上 に見えないって!それこそ精々アラサー位だろこれ!
 なんだこの親子、柱の一族か!あと駄洒落好きは知ってたけどちょっと親父ギャグ寄りになってらっしゃる!
 ダメだ、ツッコミきれねーよ!

はやり「ごめんねー京くんみたいな後ろ姿が見えたからつい追っかけちゃって。
    京くん、ママの事は覚えてる?解説の仕事も日程空くからママを東京に呼んで観光してたんだ☆」

 普通にママって呼んだ…あれ、確か昔はお母さんて言ってたような…ママさ、コホン。
 おばさんの方も俺にはママって呼ばせてたけど娘と話す時は自分の事お母さんって言ってた筈だし娘を
 ちゃん付けで呼んだりするタイプでもなかったよな。

美月「ふぅ~。はやりちゃん、ママ走ったら疲れちゃったよぅ。京ちゃんとお話もしたいし涼しい所入ってお茶にしよう?」

 …うん、俺の記憶違いだな。然り気無く京ちゃん呼びに変わってるのも気のせい気のせい。大丈夫、全然アリだよ。
 ホラこんなに可愛いもん!

 ~~~~~

「コチラがメニューになりマス。お決まりになりマシたらお呼びくだサイ」

 ふぅ、一先ず暑さからは逃れる事が出来たぞ。じゃあまずは…

京太郎「改めて…おばさん、ご無沙汰してます。お元気そうで何よりです。…お世話になっていたのに
    こちらからは便りもあまり出してなくてすみません…」

美月「京ちゃんたらなんでそんなによそよそしくするの~。おばさんなんて言わないでよぅ、美月ちゃんかママが推奨~」

 親子か!……親子でした、見えないけど。

京太郎「…美月さ「ママ」…美つ「ママ」…あの「ママ♪」…はい、ママ…」

美月「よろしい♪」

 うわぁ、いい笑顔。流石母親、美月さんははやりさんの上を行く強キャラだった。
 …て言うか俺、高校生になって人の親をママって…恥ずか死にたい。誰にも見られませんように…。

はやり「所で京くんも麻雀やってるって言ったよね?東京はインハイで?」

京太郎「いや、女子団体の荷物持ちだよ。恥ずかしながら地方予選落ちの身でさ」

 いい機会だしここまでの経緯や女子達の全国制覇を掻い摘まんで説明してみた。
 多少自嘲的なニュアンスが入ってしまうのが情けない。

はやり「そうだったんだ。大変だったんだね…」

美月「素直に優勝を祝ってあげたいけど割り切れない自分もいるのね」

 …やっぱり親代わりの人達には敵わないな、自分でも把握できない気持ちをさらりと代弁されてしまった。

はやり「じゃあ、来年は京くんが頑張る番だねっ☆自分の力で行きたいんでしょ、全国!」

京太郎「…え?」

美月「だって、京ちゃん男の子だもんね。このままは嫌でしょ?それなら頑張るしかないわ」

京太郎「あ…そっか、そりゃそうか…」

 俺、今凄い間抜け面さらしてるんだろうな。何だよ、こんな簡単な事だったのか。
 …へこたれてる暇なんて無いじゃん。

はやり「オフの時ははやりも鍛えてあげるよっ☆
    そうそう京くん、はやり今度埼玉に新しく家を買ってママと一緒に住む事にしたんだよ♪」

京太郎「え、そうなんだ?」

はやり「忙しいと中々里帰りも出来ないからね~。だからチームの地元にママと一緒に住む方が手っ取り早いかなって思って☆」

 思い立ったら即購入…部屋じゃなくて家だよね?プロって凄い、ぼくにはとてもできない。

はやり「そしたら、お休みの日はまた家に来てね☆」

京太郎「うん、楽しみだね」

はやり「遊んで、勉強見て、ご飯も一緒に食べて。勿論麻雀の特訓もね♪
    それと…あの時の続きもちゃんと…ね」

 うん…?あの時の続きって…もしかして!?

はやり「うん、京くんのおば様から聞いてるんだ。女の子が少し苦手と言うかある程度まではすんなり仲良くなれるけど…
    そこから踏み込めなくなっちゃうみたいって…
    ごめんね、まだ京くん小さかったのにはやりが悪戯したのがトラウマになってるんだよね」

 あ、それでさっきあんなに女の子が放っておかないとか、引く手あまたとか言ってたのか…気にしていたって事なのか?

京太郎「いや…その、はやり姉ちゃん…別にそんな大それた事じゃないんだ、年相応にエロは好きだし、って何言ってんだ」

 いざって時に失敗するのが不安とは言えないけど。キーワードは役立たず。

はやり「だから、はやりが治すよ。これからは何でも京くんの好きな事してあげる」

 !?

はやり「京くんの物だよ、はやりのぜんぶ」

 ななな…何て事!てか美月さんの前なのに…つかここ飲食店!そんな大きな声で…

美月「あっ京ちゃん京ちゃん、ママも混ぜてね♪」

京太郎「ブフォッ」

 スリーポイント!?はやり姉と美月さんと!?これが天使の3Pなの!?
 …ハッ、意識飛びかけた。可愛いお姉ちゃんと可愛いママがベッドで待ってんの想像したら
 天使過ぎて天国行きかけてたぜ、あぶねー…

京太郎「えと…美つ、ママは何の話してるか分かってる?」

美月「はやりちゃんとえっちするのよね?だから一緒にしましょ。仲間外れは嫌ぁよ」

 把握してた…!!剰え親子丼がお出しされるってそんなバカな、小学生だった俺に何のフラグが建つと言うのか。

京太郎「な…何で?はやりさんは兎も角、ママが何で俺の事…」

美月「え~…だって、京ちゃんさっきあんまりお手紙くれてないって言ったじゃない?」

はやり「でもでも、はやりとママの誕生日には毎年欠かさずお手紙とプレゼント贈ってくれてるよっ☆」

美月「お母様が、お小遣い貯めたりバイトしたりして一生懸命悩んでプレゼント選んでるのよって仰ってたわよ♪
   もう、京ちゃんみたいな素敵な男の子にそんな事されたらおばさんでもときめいちゃうのよ」

 何で言っちゃうんですか、母上。…てか、こう客観的に聞かされるとですね。
 俺どんだけこの二人の事大好きなんだよっていうね…あー、恥ずい。

はやり「はやりはずっと京くんの事愛してるからね☆ショタコンとか言われても揺るがないよ!
    だって大人になってもやっぱり好きだから♪」

 潔すぎる…俺も声を大にしておっぱい大好きとか言ってみたい、いや言えるか。捕まるわ。

京太郎「嬉しいよ、はやりお姉ちゃん。今まで会いに行けなくてごめんね。
    これからは気持ちをちゃんと伝えていくよ。俺もお姉ちゃんの事大好きだ」

美月「ママとはやりちゃん二人とも京ちゃんのお嫁さんになるんだからね♪それとも、おばさんじゃいや…?」

京太郎「それこそ有り得ないよ。ママと話す大人の男にいつも妬いてたんだぜ俺。
    ママにちかづくな!はなれろ~!ってさ。美月ママの事も他の奴の物にしたくない、大好きだよ」

 ガキの頃美月ママに超甘えてたのって今思えば絶対エロ心に目覚めてたよな。
 ママにしがみついて離れないの見て家のかーちゃんすげー冷めた目して呆れてたし。何てエロガキだ、俺か。
 しかしこうなると稼がないとな、お姉ちゃんのヒモになるのは嫌だし。

 …こ、こうなったらもう俺も雀プロ目指すしかないよな、腹くくれ!まずは来年個人制覇からだ!
 誰に無理って笑われようともう立ち止まったりしないぞ!可愛い嫁さん二人の為にやってやるぜ!

はやり「お姉ちゃんと」

美月「ママの事」

「「幸せにしてね」」

 両の頬に幸せ過ぎる感触。 …あれ、もうED治ってら。


 槓!