部室の扉を開こうとして、その手が直前で止まった
中の話し声が酷く耳に障り
私は扉の前で蹲る
最近こんなことが多い
入ったっていいのに怯えてばかり

和「では須賀くんは、本当に誰とも付き合ったことがないんですか?」

京太郎「そういう機会もないし、中途半端なのも嫌だしな」

京太郎「それに今、なんか麻雀が面白くてさ。当分は恋愛とは縁が無さそうだ」

和「そうですか……残念です」

京太郎「えっ? 和なら喜んでくれる話だと思ったんだけどな」

和「ふふ。麻雀の楽しさに気付き始めてくれたのは、もちろん嬉しいですよ」

和「初心者に楽しんでもらうのは私としても気持ちのいいコトですから」

京太郎「はやく脱初心者・したいんだけどな……はは」

和「須賀くんならすぐですよ」

和「それより、当分恋愛無し、というのは残念に思いますね」

京太郎「へぇ、なんか意外だな。和はそういうのにお堅いタイプかと思ってたけど」

和「……須賀くんに限り、です」ぼそっ

京太郎「え、何だって?」

和「何でもありませんよ、ふふ」にこにこ

京太郎「あのさ……多分、訊く迄も無いんだろうけど……和は誰かと付き合ったコトとかあんの?」

和「ありませんけど」

京太郎「そ、そうかぁ~……ふー、なんか、安心してしまった」はは

和「……バカにしてるんですか?」

京太郎「とんでもない! すげえモテてきたろうに、和のブレないトコ、マジでリスペクトするよ」

和「ブレない、ですか」

和「それは誤解がありますね」ずいっ

和「これから、変わるかもしれませんよ?」じっ……

京太郎「そ、そりゃ、そうかもしんないけど……」

和「……ふふ」にこっ

京太郎「!!?」どきっ

死ねばいいのに

憎い
あの子が憎い
京ちゃんをずっと好きだったのは私で
京ちゃんは私を理解してた
あの子が割って入れる余地なんて何処にもないのに

なんで京ちゃんそんなカオするの
私が隣に居たらそんな子要らないの気付けるよね

長い時が流れた気がする
私は漸くドアノブに手を掛けた
恐怖で手が震える
でもこの恐怖があの子に危険が満ちている証で
その危険から京ちゃんを護りたいと願える

きぃぃ……

二人が私に気付く
私はファンキーな髪の色をした、悪魔の子を睨んだ

京太郎「なんか咲、怖いカオしてない?」

咲「……え? そうかな。そうかも」

咲「和ちゃんに比べたらそうなのかもね」

咲「私はただ普通に真顔だっただけなんだけど」

京太郎「ゴメンゴメン! そうおこるなよ」ばしばし

京太郎「咲っていつも抜けたカオしてるから新鮮だったわ」はは

咲「あはは……怒るよ?」

京太郎「すいませんでした今日もかわいいです咲さま!」

咲「えへ……よろしい」にこ

和「……」ぎりぎり

咲「どうかした? 和ちゃん」

和「いえ……」

和「……咲さん。私に勝てると思ってるんですか?」じろ

咲「こっちの科白だよ、和ちゃん」ぎろ

剥き出しの敵意を感じる 
私から京ちゃんを奪いたいって気持ちが伝わってくる
渡すワケないのに

ああ そろそろ 私の我慢も限界だ

和「!」

咲「京ちゃん」

京太郎「ん?」

咲「たとえば……そう、たとえばの話……しない?」

咲「たとえば私が京ちゃんの彼女で」

咲「不幸にも和ちゃんも京ちゃんのコトが好きだとする」

咲「京ちゃんは私の恋人なのに、和ちゃんは意地汚く欲しがってきます」

咲「京ちゃんも嫌がってるのに……そんなのお構いなしに関わってきます」

咲「でも無駄だよね。京ちゃんは既に私のもの。深く繋がってるのに、奪えるワケない」にや

咲「京ちゃんは私が好きで、私も京ちゃんが好き。和ちゃんだけが誤った道を歩んでる」

咲「為す術が無いってこういうコトだと思わない? 京ちゃん」


京太郎「……え」


和「須賀くん。気にしなくていいですよ。咲さんの戯れ言です」

和「為す術が無い?」

和「そうですね。あなたにはもう、無いでしょうね……咲さん」だっ

和「須賀くん。少し……じっとしてて下さいね」ずいっ

咲「!?」

咲「え……ち、ちょっと……待って、和ちゃんやめて! 許して!」

咲「やめてええええええええええ!!!!」


京太郎「の……っ!!?」

和「……ん」ちゅる


どんっ

和「うっ」どたっ


咲「……」はーっ はーっ

痛い
痛い
痛いよ
あたまもおなかも心臓も痛いよ

今なにしたの、この子
私の京ちゃんになにをしたのこの子

和「痛いですね……咲さん。急に突き飛ばさないで下さいよ」

京太郎「の、のどか? 今、俺に、き、き、き……」あわあわ

和「ふふふ……これでも恋愛と縁が無さそうですか? "京太郎"くん」


咲「はぁ……はぁ……」


和「いいカオです、咲さん」

和「私は今の咲さんのカオが好きですよ」

和「そのカオを見ると、京太郎くんの大事なものを私が貰ったんだと、実感しますから」


どがっ


和「あぐっ!」ふらっ

咲「許さない許さない許さないもう絶対に許さない」ぶつぶつ

ぼこっ ぼこっ

和「痛い、痛いです咲さん」

咲「死ねれば幸せと思いながら永久に苦しませ続けてやる!!」きっ

がしっ

京太郎「おい止めろ咲!」

咲「は、離して京ちゃん! 許していいのこの子のこと!!」ぶんぶん

京太郎「いいから落ち着け……」

和「そうですよ。落ち着いて下さい……」ゆらり


和「咲、さんっ!!!」ぶんっ

ばごっ

咲「ふぐっ」どたっ


京太郎「和!!?」

和「ああ……殴ってしまいました……」

和「最も蔑む行為だとわかっていながら、初めて人を殴ってしまいました……ねぇ、咲さん」

和「責任とってくれますか?」ぐっ……

ぼこっ

咲「うう……~~っ! 和ちゃんっ! 死んでよ!」どがっ

和「あなたが死んで下さいっ!」どごっ

ぽかぽかぽかぽか

京太郎「やめろ……やめろ!!!!!」ずっ


がんっ


「「!!」」

京太郎「っくー……同時に二人からパンチ喰らって立ってられるのって凄くね?」ぼろっ

咲「きょ、京ちゃ」

和「京太郎、くん……」

京太郎「……落ち着いたみたいだな」

咲「ご、ごめん、京ちゃん……わたし、わたし……」ぽろっ

京太郎「あーあ……手がボロボロじゃねえか。慣れないコトするからだよ」

和「京太郎くん。ごめんなさい……アタマに血がのぼってしまって」

和「ほ、本当に……何と謝ればいいのか……」

京太郎「さあな。気持ちの整理が必要なのはお互い様だろ」

京太郎「取り敢えず……保健室行くぞ。みっともねぇ恰好直してからな」

和「あ……」ぼろ

咲「うううう……ぐすっ……」むくっ

――

京太郎「先生が居なくて逆に良かったな……じゃ、俺はカオ洗いにいってくるから」

京太郎「しっかり消毒しとけよ。喧嘩すんなよ?」じろ

すたすた がちゃ ばたん


咲「……」

和「……その、本当にごめんなさい、咲さん」

咲「ううん。謝るのは私。ごめんなさい、和ちゃん」

咲「最近ずっとイライラしてた。和ちゃんも同じだったんだよね」

咲「何度言うことになるか解らないけど、本当にごめんなさい……」

和「ふふ。今後何回も互いに謝り続けそうですね」

咲「そう……だね。私たち、似た者同士だもんね。あはは」

咲「和ちゃんは……京ちゃんが好き?」

和「好きですよ。彼には嫌われてしまったでしょうが」

咲「そっか。私も京ちゃんが好きだよ」

咲「仲直りしない? 私、悪かったって思ってる。こんなことしちゃって自分ですごく悔しい」

咲「こんなの嫌だよ。京ちゃんに幻滅されて、和ちゃんともギスギスしてさ」

咲「また仲良くなりたい。だって私たち、仲間だもん……」ぼろぼろ

和「咲さんは優しいですね。でも……果たして、いいのでしょうか?」

和「私を許してくれるんですか? いや、許していいんですか?」

和「私は……京太郎くんを諦められませんよ」

咲「関係無い。和ちゃんは友達。今回のは終わった喧嘩」

咲「そして京ちゃんは……ただの私たちの好きな人だよ」

和「咲さん……」ぶわっ


和ちゃんと抱き合って、わんわん泣いて、記憶も定かじゃなかった
帰ってきた京ちゃんもおろおろしてて、京ちゃんの話だと
そのうち燃え尽きたように泣き疲れて眠ったみたい


今日も部室の扉を開くと、和ちゃんが相も変わらず京ちゃんにアピールしてた
けど京ちゃんは知らんぷりで、雑誌の上の現役プロだか現役おっぱいだかに夢中になってる
ほんとにもう、悔しいなあ、和ちゃんって京ちゃんの好みど真ん中だもん
私も混ざってそう言って笑い話にして ああ そっか 
もう自分の心に蟠りが無いって こうなって初めて気付くことができたよ 
そのことをもしかしたら京ちゃんは解ってたのかな ありがとう わたし
心に何も被せないで 思い切り笑いたかったんだ



カンッ