「よいしょっ…」

今日は時間があるので、少しお家の中を片付けようと思いました
始めてみればこれが中々に楽しくて、つけていたラジオが三時を過ぎた事を教えてくれるまで、
私は時間が経つのも忘れて没頭していました

「これなら京太郎さんも綺麗になったと褒めてくださいますね……うふふ

 『でも、もっと綺麗なのがあるな…』
 『あら、それは何でしょうか?』
 『お前だよ小ま……』

  …キャー!もう、京太郎さんったら~!昔からそうやって私を喜ばせる事ばかり……あら?」

それは片付け忘れて、出したままになっているアルバムたちでした
私のうっかりはいくつになっても治りそうにありません…
ですが、折角なので思い出にひたってみようと、一冊手にとり中身を見ることにしました


「あ……」


開いてすぐ一枚の写真が目に飛び込んできました
それは忘れられない美しい思い出の始まりの瞬間をとらえた一枚です


「私達が出会った時の写真ですね…」


ラジオからいつか京太郎さんに聞かせてもらった英語の歌が流れてきています
その歌を聴きながら、自分がまだ十代だった時の事を思い出していきました


  ”初めて出会った時、私達は子供だったね”
  ”瞳を閉じれば蘇るの、バルコニーにたたずんでいたあの夏の日を”

…………

夏のインターハイの会場です
私はほんの少しの冒険心から、会場の外へ一人で出ていました

「はぁ、暑いですね~…」


  ”ライトにドレス、舞踏会”
  ”そして人ごみをかきわけてくるあなたが見えるわ”


当然ながら慣れない土地なので、すぐに迷ってしまいました

「あら……ここはどこ?」

本当は会場からそれほど離れてはいなかったのですが、
この時の私にはそんな事も分かりませんでした

困っていると、後ろから男性の声がしました

  ”声をかけてきたときは知らなかったの”


「あの、もしかして永水の方ですか?」

「え、ええ…はい」

「あぁ、やっぱり!巫女さんの服着てるから分かりやすいですね!ところで、ここへは気晴らしの散歩ですか?」

「ええと…その…」

年の近い殿方と話す事は非常に希なので、緊張して上手く会話ができませんでした
でも、彼は私の心を読み取るかのように

「間違いだったら申し訳ないんですけど、実は迷子になって戻れない、とか…?」

「………はい」

穴があれば入りたい気分でした


「俺も戻るところですので、よければ一緒にどうですか?」

「え、あ………はい!ありがとうございます」

「へへ…いいんすよ、それより…あとで写真一枚だけ撮っても大丈夫ですか?」

「写真ですか? ええ、私でよければ!」

「あぁ~、よかったぁ……じゃ、行きますか」

「はい!」

本当に不思議なほど、親しみやすい方でした
今考えてみれば、運命だったのかもしれません



  ”あなたがロミオだったなんて”

…………

その後、私達は大会が終わった後も文通で親交を深めていきました
手紙は霞ちゃん達が出しに行ってくれていました


そして、手紙の中でこちらへ京太郎さんが遊びに来てくれると書いてあった時、
私は楽しみで楽しみで、その日が来るのが待ち遠しくて、それだけで幸せな気持ちでした


その日が来て、京太郎さんが神境の中へ入ってきました
私が出迎えようとした時、父が出てきて……



  ”そうしたら父さんは「ジュリエットに近づくな!」って…”
  ”私は階段で「お願い…行かないで」と泣いていた”

  ”ロミオ、私をどこかへ連れて行って もうそれしかないの”
  ”あなたが王子様に、私がお姫様になるの”
  ”これはラブストーリーなんだから、どうか心を決めて”



悲嘆に暮れる中、そのとき私は彼に恋をしているのだとやっと気づきました…
ですが、当時の私はただただ、京太郎さんがまた来てくれるのを泣いて待つしかありませんでした…


…………


それからも私達は遠い遠い距離にも負けないように文通を続けました
父の監視もありましたが、それでも霞ちゃん達が以前にも増して力を貸してくれたおかげで、
想いを伝え合うことが出来たのです

ある手紙の中で京太郎さんも私と同じ気持ちで、
いつも私の事を考えてくれていると知った時は人生で初めて喜びで泣き崩れました…


  ”あなたに会うために、こっそり庭に抜け出すの”

そうして京太郎さんが鹿児島へこっそり来ているときは、私も夜にこっそりと部屋を抜け出し、
神境のなかで落ち合いました
いけない事なのかもしれませんが、京太郎さんに会えないのはそれ以上に苦しいのです


  ”知られてはいけない命がけの恋”
  ”目を閉じて、少しの間だけ逃げ出しましょう”


束の間の逢瀬が終われば、またそれぞれの日常へ…
次に会えるのはいつになるだろうかと思いながら

  ”ロミオ助けて、みんなで私を試そうとしているの”
  ”困難な恋だけど、これは本物の愛だわ”
  ”恐れないで、私達なら乗り切れるわ”
  ”これはラブストーリーなんだから、どうか心を決めて”

…………

それから…もうだいぶ経った頃…
京太郎さんへの想いは募るばかりで、それでも先の見えない恋
流れる涙も涸れそうになりました…


そんな時でした


疲れきった私がぼんやりとしていると……


「小蒔さーん!!」


  ”これは現実なの?何も考えられない”


「……え?」



  ”彼はひざまづくと指輪を取り出した”


「京…太郎さん…?」


  ”そしてこう言ったの”


「俺と結婚してください!」


  ”「もう君を独りにはしない”
  ” 君を愛している、それが僕の本当の気持ちだ”
  ” 君のお父さんとも話はつけたよ、さあドレスを選びにいこう”
  ” これはラブストーリーなんだから、心を決めてくれ」”


それは本当に夢を見ているようでした…でも現実です
京太郎さんが私を迎えにきてくれたのです
お話の王子様のように…



――私の返事は決まっていました




「………はいっ!!」

…………


「若かったんですね~…あの時は、うふふ…」

「誰が?」

「ひゃいっ!?きょ、京太郎さんっ!お、おかえりなさい」

「ただいま、今日は早く帰ってきたんだ」



結婚してから、私達は霧島から離れて暮らすことにしました
世間のお勉強という事で説得をして、父も許してくれました
いずれ戻るのかもしれませんが、今は二人きりの時間を楽しんでいます


「お、アルバムか?……うわぁ~、懐かしい写真だなぁ」

「ええ、ふふっ…」

「あっ、これまだこっそり会ってた時に撮った写真か…あの時はヒヤヒヤしてたよなぁ」

「そうですね……ねえ京太郎さん?」

「ん?」



「…私達、幸せですねっ!」

「…ああ、幸せだな」



  ”初めて出会った時、私達は子供だったね”


カンッ