やっちまった――

 須賀京太郎の頭の中を支配する言葉はそれに尽きた

 レースのカーテンからやや漏れる朝日に顔を顰めつつ

 彼はベッドから上半身を起こし隣を見遣る

 一糸纏わぬ姿で横たわり穏やかな寝息を立てる少女の顔は

 先程までの痴態がまるで嘘のように安らかであった

京太郎「…………」

 京太郎くん、と自分を何度も呼びかける嬌声が思い出され

 気持ちを昂ぶらせる本能と裏腹に

 理性は酷く冷たく、己の所業を詰る

 ただ求められるがまま、欲望に身を任せ

 獣のように少女の身体を貪る自分自身に

 諦念にも似た息が一気に吐き出され

 京太郎は再びベッドに寝転んだ

 どうしてこんなことになってしまったんだろう?

 そう、疑問を持つことは許されなかった

 全て彼女が望んだこと

 自分が――望んだこと

 その結果であったから

 事に及ぶ前は、京太郎に後悔も躊躇いもなかった

 だがこうして冷静になって考えてみれば

 これは重大な裏切りなのではないかという気分が

 彼の中で大きくなっていってしまう


 もしアイドルとしてこのまま進路を採るのであれば

 ――私は、そういったこともやることがあるかもしれません


 京太郎も既にただの子供ではない

 だから、彼女の言う“そういうこと”が

 実際にある現実と、その闇と業の深さは承知していた

 しかし承知していて……たったの一言が言えなかった

 言えなかったから、言わせてしまった


 京太郎くん。お願いが、あるんです――


 それが何よりも口惜しく


 ――私の、初めてを、貰ってください


 雑誌のグラビアを見て、テレビを見て

 彼女が躍動するステージを見て

 有象無象の大衆が熱狂する一方で

 彼女は自分に組み敷かれ、淫らな声を上げる

 俺だけのもの。俺だけが知る素顔……

 独占欲と優越感

 人間が持ち得る本能に従うままに承諾して

 彼女を自分だけのモノにできるかもしれないと

 薄汚れた打算に縋った自分自身に

 吐き気を催すほどだった

京太郎「……でも、くよくよ悩んでちゃダメなんだよ」

 もはやその時は過ぎてしまったのだ

 一人の少女を、抱いてしまったその瞬間から

 京太郎は、一人の男として歩み出してしまった

 彼女の――真屋由暉子の操を立てるという意味でもまた

 迷って、悩んで立ち止まることはできないのだから

 やってしまったことはもう取り返せない

 ならばその上で、先に進む道を、方策を

 考えていかなければならない

京太郎「……ふぅ」

 彼女が起きたら――

 言えなかった一言を、今度こそは、ちゃんと言おう

 赦されるためじゃない

 背負って、先に進むために

 京太郎はそう決意する

京太郎「何があっても、俺がユキを守るから……」

 彼女に向けられた欲望や悪意からも

 彼女が希望を、アイドルで在ることを失って

 立ち行かなくなったとしても

 ――絶対に守るから

 すぅ、すぅ、と。彼女の規則的で静かな寝息に

 心が安心感と充足感で満たされていく

 未だ目を覚まさない想い人の横に向き直ると

 京太郎は由暉子の身体を抱き寄せて瞼を閉じた

 柔らかくて

 温かくて

 ……儚くて

 由暉子の体温と匂いに包まれながら

 京太郎の意識は闇に溶けていく 

 光の差し込む暗がりに

 暖かな光が二つ寄り添いあって

 先の見えない道程を、ほんの少し照らした


 カンッ