――小瀬川白望は夏が一番好きだ。
 もっとありていに言えば夏休みが好きだ。
 それは人一倍ダルがりの彼女にとって学校に行かずとも誰にも文句を言われずに済むと
いうことが大きなウェイトを締めているということはまず、間違いない。
 ただ、それなら夏休みではなくとも春休みや冬休みでもいいようなものだが、それでも
やはり白望は夏休みが一番好きなのだ。

 いつも通り白望は朝からぐでんと二つ折りにした座布団を枕に寝転びながら、ふと、自
室の壁に掛かったカレンダーを見やった。
 ――今日は八月十三日。盆の入りだ。
 まことにダルいことだが、小瀬川家はいわゆる旧家の本家というやつで。毎年、お盆の
時期になると親戚一同がご先祖様の供養にひっきりなしに訪れてくる。
 だから今も父親は忙しそうに家中の大掃除をしているし、母親はあたふたとご馳走を作
っていることだろう。
 階下からドアチャイムの音が鳴った。それを追いかけるように談笑の声。耳をそばだて
てみれば訪ねてきたのはきっと長野の叔父一家だろう。
 今、訪いを入れた叔父も盆の時期になると婿入り先の長野から実家のある岩手に毎年欠
かさずやってくる。その時には必ず叔母と、――そして従弟も一緒だ。

 ――それじゃ、俺はシロ姉に挨拶してくるよ。

 階下から聞こえる去年より少し大人びたような声に白望はとくり、と心臓が高鳴るのを
感じた。少しだけ頬が熱くなったのは夏の太陽のせいなんかじゃない。
 ――ダルい。ダルい。
 照れ隠しのように口癖のようになっている言葉を呟いてみる。
 それでも階段を登る音。そこから自室に繋がる廊下のきしむ音が少しずつ自分の部屋に
近づいてくるのを聞いていると、待ち遠しい気持ちが早鐘のように心臓を叩き、頬をこれ
以上無いくらいに熱くしていく。
 そして扉の開く音。
「――久しぶり、シロ姉」
 寝転んだままの自分の顔を覗き込んでくる従弟に白望は、少しだけ弾んだ声で「おかえ
り。京太郎」と返すと、まるで太陽に向かうように手を天に掲げた。
 苦笑いしながら京太郎がその手を掴む。
 去年と同じように暖かく、去年よりも大きくなった手が白望を抱き起こしていく。
 そのぬくもりが全身に拡がっていくのを確かに感じながら、白望はそっと目を閉じた。
 ――だから、小瀬川白望は夏休みが好きなのだ。

カン