「...ほんとに、良かったの?」

「なにがだよ、咲」

「決まってるじゃん。親戚の人にお世話にならないで、二人だけでこの家で暮らす事」

「二人と一匹な。ここ重要」

「キュ!」

「咲ちゃん、カピーも僕を忘れるなー!って怒ってるよ?」

「誤魔化さないでよ!」

「......ま、お前が心配するような事じゃないよ。父さんがたんまり稼いでくれてたから生活費諸々に困ることはないし、分からないことがあった時や本当に困った時はじいさんばあさんに頼る約束だし」

「カピーのお世話も、学校に行ってる間はしてくれるんだよ」

「でも...」

「...それにさ、約束したしな」

「え?」

「父さんと母さんがいない間、俺とみなもとカピーで留守番してるって」

「...!京ちゃん、二人はもう...」

「分かってる」

「.........」

「父さんも母さんも、もう帰ってこないけど、だからこそ俺達がこの家を守らないと」

「...京ちゃん」

「二人で決めたんだ。空き家にするには、思い出が詰まりすぎてるから」

「...みなもちゃん」

「うっし、じゃあ墓参りに行くとするか」

「うん!」

「...なんて言ったっけ?そのお花」

「んー?あー、そういや買う時よく見てなかったな、名前」

「もぅ、おにいちゃんはだめだめだね」

「むぐぅ...」

「白薔薇っていうお花だよ」



「照さん、来年から那由多中学に通うそうじゃないですか」

「ん?あぁ中学ね。それがどうかしたの?」

「何でですか?高遠原中学の方が近いでしょうに」

「そういえばそうだね。何でなの?」

「どうして?照お姉ちゃん」

「ん。まぁ理由は色々あるけど、一番の理由はここらへんで一番ハンドボール部が盛んだからかな」

「え...?お姉ちゃんそれって」

「京ちゃんの実力なら那由多中学に入るのが一番だし、多分咲も京ちゃんに付いてくるから。私が先に入れば馴染みやすいかなって」

「あー...。なんだかすみません」

「いいよ、私が好きでやりたいからだから」

「な、なんだ。そういうことか...」

「...どういうことだと思ってたの?咲」

「べ、別に何でもないもん!」

「むー...」

「?どした?みなも。難しい顔して」

「わたしだけ照お姉ちゃんと一緒に学校通えないや」

「あー...。歳の差ばっかりはどうしようもないからな」

「私としても残念だよ、みなもちゃん」



「お兄ちゃーん!」

「お、みなも!どうした?」

「試合お疲れさま!はい、タオルとスポドリ!」

「サンキュ!......ふぅ。やー、ちゃんと冷やしてくれてる辺り気が利くよなー」

「お兄ちゃん、今日も大活躍だったね!」

「ははっ。いや、みんなのお陰だよ。俺が点取ってたから目立ってただけだって」

「またまたー。先輩達の大会が終わってレギュラー定着してから負けなしのくせにー」

「とは言っても、先輩達と一緒に大会出れなかったのは事実だし」

「お兄ちゃんの実力が足りなかった訳じゃないよ!監督さんが、先輩達に最後の大会出させてあげたかったからだって!」

「ん。ありがとな」

「ふわぅ!うにゅー...」

「...お前、いつも頭撫でると変な声出るよな」

「だってぇ...」

「そろそろ帰るか。まずはシャワー浴びたい」

「あ、うん。ご飯何がいい?戦勝祝いにお兄ちゃんの好きなの作ってあげるよ」

「そうだなー。手軽にハンバーグとかで頼む」

「りょーかいなのだー」

「みなもも結構家事できるようになったよな」

「お兄ちゃんが色々教えてくれたからね。わたし、それぐらいしかやれる事はないし」

「なーに言ってんだよ。今日みたいに応援に来てくれるのだって、スゲー助かってるんだぞ?」

「...ほんと?」

「ああ。当たり前だ」

「...えへへ、そっかそっかー」



「もうすぐ新年だね」

「そうだね。やっぱり今年もこたつの中で過ごすのか」

「照さん、足。足がこっちまで伸びてます」

「...だってあったかいから」

「照お姉ちゃんばっかりこたつ取りすぎだよー」

「...だってあったかいから」

「さっき聞きました」

「ご、ごめんね。なんか」

「なんで咲ちゃんが謝るの?」

「占領してんのは照さんの方だろ?」

「...だってあったかいから」

「はい三度目ェ!」

「そうじゃなくて、せっかくの年越しなのにお邪魔しちゃってる事だよ」

「えー?もしかして兄弟水入らずのお邪魔とか考えてんのかお前」

「水臭いよ咲ちゃん。お友達なのに遠慮なんかしないでよ」

「そうじゃなくて...。いや、それもあるけど。でも、やっぱり理由が家に居づらいからっていうのは、ね...」

「.........」

「...上手くいってないんだって?咲と照さんのおじさんおばさん」

「...うん」

「...あんまり言いたくないけど、その内別れるんじゃないかって思うくらい」

「そ、そんなこと!...ううん、あるかも。最近じゃ仲良く話してるのは見ないし...」

「わかんないよ」

「...ううん。確かにすぐ離婚って訳じゃないだろうけど、きっと」

「そうじゃないだろ」

「え?」

「みなもが言いたいのは、そういうことじゃないだろ」

「...うん。違うよ咲ちゃん」

「...それじゃあ、どういう」

「せっかくそこにいてくれる家族なのに、なんで喧嘩するのか、全然わかんない」

「.........」

「...みなもちゃん」

「...三人とも。湿った空気になっちまったけど、そろそろ年越しの時間だぜ」

「あ、と。そうだそうだ。ちゃんとやらないと起きてる意味がなくなっちゃう」

「...ん。そだね」

「...あ、除夜の鐘鳴ったね」

「うし。じゃあせーの...」

「「「「明けましておめでとうございます」」」」



「キャーっ!スゴイ!スゴイよお兄ちゃん!」

「やった!やったよ!京ちゃんがついに全国優勝したよお姉ちゃん!」

「うん、ほんとにスゴイね京ちゃん」

「スゴイよお兄ちゃん!スゴイ!あー、スゴ過ぎてスゴイって言葉しか出てこないよ!」

「あ、胴上げされてる。そりゃそうか。ヒーローだもんね」

「うん!ヒーローだよお兄ちゃんは!いつでもどんなときでも、私達のヒーローだよ!」

「バンザーイ!京ちゃんバンザーイ!」

「バンザーイ!バンザーイ!」

「うん。しばらくしたら入口で待とっか。ヒーローが出てくるのを」



「もう卒業かー。早いね」

「そうかぁ?俺は濃密な時間を過ごしたから、むしろ長かったように感じたぞ」

「お兄ちゃんは大会が終わってからも忙しかったもんね。優勝祝いとか、後輩の指導とか」

「はは。みんな俺が一番かっこよくてスゴイプレイヤーだったからって言って集まってくるんだよな」

「事実そうだもん。色目無しでも、お兄ちゃんがクラブで一番スゴかった」

「...中学の部活でも上手くやれるかな、俺」

「出来るよ。那由多中学見てきたことあるけど、お兄ちゃんは負けず劣らずスゴかったもん」

「あんまり持ち上げると、逆に不安になるな」

「何で!?」

「嘘だよ。みなもがそう言ってくれるなら、お兄ちゃんは無敵だ」

「...もぅ。調子いいなぁ...」



「お兄ちゃんスゴイ!」

「なんか最近はスゴイって言葉よく聞くなー...」

「だってスゴイもん!一年から夏の大会のレギュラーなんて普通じゃないもん!天才だよお兄ちゃん!」

「でも先輩達には申し訳無いよ。せっかくの夏の大会なのに、一年の俺がでしゃばっちまって」

「でもでも!お兄ちゃんがいれば全国優勝も夢じゃないって顧問の先生言ってたよ!?お兄ちゃんが優勝旗持ってきてあげれば、先輩達も大喜びだよ!」

「そういうもんかなー...」

「お兄ちゃんが納得できなくても、実際にレギュラーに選ばれたんだから頑張るだけだよ!ね?」

「...ん。りょーかい。目標は全国優勝だな」

「頑張るぞー!おー!」

「おー!」



「.........ほんと、神様って残酷だよ」

「............」

「頑張ってた矢先、こんな事を起こすんだもんな」

「............」

「部のみんなに会わせる顔がないな。期待の新人がこんなになっちまって」

「............」

「...みなも?」

「ね、お兄ちゃん」

「ん、どうした?」

「嘘だよね?」

「............」

「もう二度とハンドボール出来ないなんて、嘘だよね?」

「............」

「そうだよね。嘘、嘘だよ。嘘に決まってる。だって、お兄ちゃん頑張ってたもん。

天才天才って呼ばれてても、ずっとみんなの知らないところで頑張ってたの知ってるよ?

それで県予選の決勝まで行ったんだもんね?だから」

「...本当だ」

「...嘘」

「...あの火事で腕がズタボロにやられちまったんだって」

「...嘘だよ。ね、嘘だって言ってよ」

「見た目は元通りにはなるし、リハビリで日常生活出来るくらいには回復できるけど、必要以上に腕に負担をかけるようなスポーツは無理だってさ」

「...お兄ちゃん」

「だから、ハンドボールも無理だろうな」

「お兄ちゃん!」

「.............」

「...本当なの?」

「ああ」

「...本当に、もうハンドボール出来ないの?」

「...ああ」

「...私のせいだよね」

「............」

「あの時、足の痛みがぶり返してなかったら、お兄ちゃんが私を助けに来て、結果こんなことにならなかった」

「............」

「ううん。足がどうとかじゃなくて、私がさっさと死ねばよかったんだ」

「...みなも」

「そうだよ、私のことなんか放っておけばお兄ちゃんは」

「みなも!」

「っ!」

「......馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ」

「でもっ...でもっ、お兄ちゃんがっ!」

「お前が死んだら、俺はどうやって生きたらいいんだよ?」

「...お、兄、ちゃ」

「父さんも母さんもいなくなって、お前まで失ったら、俺だってすぐ死にたくなるんだよ」

「...そんな、の...」

「...ハンドボールが出来なくなって、先輩達や顧問の先生に優勝旗持ってきてやれなくて、申し訳ないと思うよ」

「...やめてよ」

「でも、辛くはないんだ」

「...やめてよ。そんな」

「強がりじゃない」

「え......?」

「少しだけ、嬉しいんだ」

「...なんで?」

「............」

「そんなわけないよ。こんなのってないよ。こんなのあんまりだよ!こんな筈じゃなかったんだよ!?

あの火事でお兄ちゃんが怪我してなかったら、今頃お兄ちゃんは全国大会で大活躍してるんだもん!こんな狭苦しい病室のベッドで横になってる筈ないもん!

なのになんで!?なんでそんなこと言えるの!?」

「...やっと」

「ねぇ、なんでなの!」

「あの時の、みなもと同じになれた」

「っ!」

「少しだけ、救われた」

「.........ぅ」

「............」

「ぅぇぇ......」

「............」

「ぅぁぁぁぁああああああああ!!!」



「...落ち着いたか?」

「...うん、なんとか」

「...そっか」

「............」

「............」

「............」

「...みなもより先に、咲と照さんが見舞いに来たんだ」

「...うん」

「でも、二人一緒じゃなかったんだ」

「...うん」

「先に照さんが見舞いに来てな。本当に俺の腕の事を悲しんでくれたんだけどさ」

「...うん」

「...咲と一緒じゃない事を聞いたら、あんな奴私の妹じゃないって言ったんだ」

「.........」

「冗談でも何でもないって感じで、本当に心の底から憎んでるみたいに言ったんだ」

「...照お姉ちゃんが」

「...高校も東京にするって言って、帰ったよ」

「.........そうなんだ」

「...しばらくしたら、咲が来たんだ」

「...泣いてた?」

「病院に来る前からずっとべそかいてたみたいだった」

「............」

「京ちゃんの家に火が点いた時みなもちゃんに気付かないまま逃げ出してごめんなさい、
京ちゃんが気付いて助けに行った時に一緒に行けなくてごめんなさい、
京ちゃんの腕をそんなにしてごめんなさい、って感じでずっと泣きながら謝ってきてな」

「.........」

「二人が来る前は咲に何か言ってやろうとか思ってたけど、無理だった」

「............」

「なんだかなぁ...。咲は別にわざとでも悪気があった訳でもないし、悪いことをした訳でもない筈なのにな。結局出火の原因は分からず仕舞いだったし」

「...お兄ちゃん、優しすぎだよ」

「違うよ。あの咲を責めたらあいつ死んじまいそうで、そしたら俺のせいみたいで嫌だっただけだ」

「...だからって、普通耐えられるわけないよ」

「そりゃあ、俺は普通じゃないからだろうな」

「...なんでそんなこと言うの?」

「こんなにも想ってくれる妹がいるなんて、普通ないだろ?」

「.........ばか」

「俺一人じゃ無理だけど、俺にはみなもがいるんだ。無敵で当然だ」

「ばか...!お兄ちゃんのばかぁ...!」

「はいはい。ばかなお兄ちゃんでごめんな」



「ね、お兄ちゃんなにやってるの?」

「んー?麻雀」

「え?麻雀ってあの?」

「おう。高校生になって初めて知ったけど、結構流行ってるんだってよ。これが思いの外面白くてな」

「へー、そうなんだ」

「あ、そういや知らせなきゃいけない事があったんだ。これ見ろよ」

「ん?なにこの雑誌...って、照お姉ちゃん!?」

「そうなんだよ。なんか照さんも麻雀やってたみたいで、今じゃ女子高校生全国大会優勝二連覇達成だって。
あの照さんがなー」

「うわー。私達スゴイ人と知り合いだったんだねー」

「でな、今度それとなーく咲も麻雀部に誘ってみようと思うんだよ」

「え...?」

「あいつも麻雀出来るかどうかは知らんけど、この事は知らないふりしてカモ連れてきたぞーって感じでな。

うち団体戦は人数足らないから女子部員が入るのは喜ばしいだろうし、女子全中王者もいるから、優勝は無理でも良い所までいけるかも知れないからな」

「...でも、お兄ちゃん。二人は...」

「俺は、仲直りしろなんて言わない」

「............」

「きっかけを作ってやるだけだ。仲直りするのもしないのも、咲と照さん次第。でも、このままよりはずっと良い筈だ」

「お兄ちゃん...」

「...ま。ほとんど人任せの計画だけどな。どんな人達がいるかなんて分かったもんじゃないし」

「...ううん、それがいいよ。このままなんて、悲しすぎるもんね」

「...そうだな」

「それにしても、麻雀かー...」


「私も始めてみようかな?」