「………目が覚めちまった……ホットミルクでも飲もう」

そう呟くと京太郎はベッドから抜け出し、台所へゆっくりと歩いていった

冷蔵庫を開け、目当ての牛乳が指に触れると取り出し、ミルクパンに注いだ
そしてコンロにかけようとした時、後ろから声がした


「京ちゃん!」


「咲…大声出すなよ夜中だぞ?」

「だ、だって…京ちゃんの姿がないって思ったら、こんなところまで来てるんだもん」

「あのな咲…」

「京ちゃん、咲、台所にいるの?」


今度は照の声だった
二人を探して、彼女もやってきたのだ

暗がりの中で京太郎たちの姿をぼんやりと認めると、ぱちんと電気を点けた

眩しさに咲が目を少し細めた

「大声を出した咲も咲だけど、京ちゃんも…あまり心配させないで」

「照さん大げさだよ、ただ俺はホットミルクを飲もうと思ってさ
 こんなことで二人を起こすのも悪いし」

「それでも」

「……ごめん」

「…私も、ごめんなさい……偉そうな事を言える立場じゃなかった」

「照さん…」


と、二人のやりとりを見ていた咲が京太郎に近づき、抱きついた


「京ちゃん…」

「咲、不安にさせてごめんな」

「京ちゃんは…悪くないよ……」

「咲…」


京太郎は、その頭を静かに撫でた

目が見えなくても、彼女がどんな表情をしているか分かっていた


……


3年前、高校麻雀の全国大会、その個人戦の決勝

その卓には宮永咲と照がついていた

竜虎対決、姉妹決戦、天王山と周囲は口にし、その場は二人の宮永の戦いとして注目されていた

実際の内容も咲と照の点取り合戦の様相を呈し、両者の炎は加熱していく一方だった


そして南四局、その事件は起こった


照がツモるときの腕の回転、それが異常な速さになっていた

その腕を中心に彼女の雀力が凄まじい高まりを見せていた

天井のライトがぐらぐらと揺れ、実況のアナウンサーも解説も無言になった

対面の咲は悟った、姉が自身を麻雀で討ち取るつもりがないことを

それは、彼女にとっても望むところであった
この勝負で白黒つけたとしても、決して自分達の決着にはならない

ならば迎え撃つまでだ、と


そして溜まりに溜まった力が照の腕から解き放たれ、
光線のように凝縮されたエネルギーが咲に向かっていった

身構える咲の目の前を影が遮った




「京ちゃん!!?」



それはどちらの口から出た悲鳴だったのか

控え室でこの光景を見て、咲の身を案じた京太郎が会場内に入ってきたのだ

そして咲をかばい……


「ぐふっ…!!!」


まともに照の雀力を受けた京太郎は、ゼウスの雷を受けたパエトンのように、そのまま地面に落ちて動かなくなった

「京ちゃん!!京ちゃん!!」

「だ、誰かー!!」



先ほどまで魔王の如き気迫を見せていた二人は、普通の少女のように叫び続けた



――京太郎は病院に搬送され手当てを受けた為、命に別状はなかった

しかし、その目は二度と光を見ることはなくなってしまった


試合は当然ながら無効となってしまったが、そんなことは宮永姉妹にとってはどうでもよくなっていた

自分達が力にとり憑かれてしまったが為に、須賀京太郎が犠牲になってしまった

その事がただただ哀しく、泣き続けた


……


「俺は何ひとつ後悔していない

 咲と照さんと一緒に住めるようになったんだから」


咲の頭を撫でながら、京太郎はそう言った

京太郎が視力を失ってから、咲と照は変わった

いや、本来の人間性を取り戻したのだ

両者のわだかまりも最初からなかったかのように消えていた



咲は常に京太郎に尽きっきりとなっていた
京太郎は大抵の事は自分ひとりで出来ると思い、大丈夫だと言ってはいたが、
道を歩くと躓く事が多々あったため、その度に咲は必死に京太郎の体を支えた

まるで昔とは逆の立場になった、と京太郎は心の中で笑った


照は卒業すると、長野へ戻り、地方チームの雀士になった

本当は在学中に戻りたかったが、京太郎が今の学校を卒業してほしいと言った為、
卒業を待って、こちらへやってきた

そして、咲と一緒に京太郎を支えると誓ったのだ


その後、京太郎と咲が卒業すると、照の提案で三人は共同生活を始めた


「京ちゃん、私達は京ちゃんのおかげでまた一緒になれた」

胸の中の咲が呟いていた

「だから、恩返しをしたいの…」


「私も、咲と同じ想いだから」

照も京太郎のそばにより、肩に頭を乗せた



京太郎は二人の体温を感じながら、

俺もこの二人を守っていかないとな、と強く思った



カンッ