咲「京ちゃん、私達の名前の由来ってさ」

京太郎「うん?」


――とある日の午後。
本のページを捲る音がぱらぱらと不規則に響く、そんな須賀京太郎の自室で。


咲「改めて考えると、何なのかな?」


突然――そう、本当に突然。
京太郎はそんな事を、宮永咲に尋ねられた。


京太郎「んー、親に訊かないと正確にはわからないけど」


ふむと一拍置いて。
あまりに唐突な問い掛けに疑問を覚えなくもなかったが、首を傾げつつ僅かに思索を巡らしてみる。


京太郎「俺の名前なら、字的には人間関係の中心にいて心身共に健康にありますようにって感じだろ」


『京』――中心を意味し、交友関係の広さ、才能の豊富さ、あるいはそれらを希求する気持ち等を強める名前漢字。
『太郎』――力強くしっかりした者。心身共に健康の意味。
故に、至って一般的な見解だろう。


京太郎「咲なら笑顔とか、花のように可愛らしいとかそんな感じじゃないか?」


これもまた一般的な見解の筈だ。
彼女に相応しい女の子らしい可愛い名前だと、京太郎は思う。

――が、しかし。
咲がわかってないなーと言わんばかりに「ちっちっち」と、したり顔で人差し指を京太郎に振ってきた。


咲「そんなの判ってるよ。そっちの意味じゃない方」

京太郎「じゃあ、何だ?あと、その仕草と表情は咲に似合ってないぞ、部長ならともかく」

咲「むっ――――何それ?二人っきりの時に別の女の人の話をふつー出す?」


頬をぷくっと膨らませて、じとっと睨め上げられた。
地雷を踏んでしまったようだ。実際デリカシーに欠ける行為ではあった気はする。
しかし、ちょっと嫉妬深くないか?と思わないでもなかったり。


京太郎「あー、いや、そういう事じゃなくて――――」


さーせん。
と、心中で部長こと竹井久に、これから当て馬にする事を謝罪。
まあ、部長といっても現在は京太郎、久、共に清澄を卒業しているので部長部員の関係ではなかったりするのだが。

――それはともかく。
さっさと踏んでしまった地雷を除去しようと試みる。
宮永咲とはそれなりに長い付き合いなのだから、その程度手慣れたものだった。


京太郎「意地悪な部長と違って、咲は名前通り笑ってた方が俺は嬉しいって意味な」


至極真面目に言いながら、サムズアップ。
次いで無駄に爽やかに歯を光らせてみたり。


京太郎「――笑ってる方が可愛いぞ」

咲「きょ、きょうちゃん……」


ぽっ、と赤らめた頬を手で隠す様に押さえ、いやんいやんと首を左右に振っていらっしゃる。

そんな咲の様子に京太郎はこいつかわいーなおい、と思いながらも確信した。
――ちょろい、と。
『計画通りっ』って感じで、黒の騎士団総帥並の邪悪な笑みが溢れそうになるのを、必死に堪えたりもしていた。

何となく竹井久を彷彿と小狡いやり口なのだが、京太郎本人は気づいていなかった。
小狡さに関しては、別世界線で生徒会長と副会長の関係だった事が、影響してしまっているのかもしれない。


京太郎「ま、話を戻すけど……名前云々っていうのはどういう意味だ?」

咲「私達の原作での由来の事だよ」

京太郎「……パードゥン?」

咲「京ちゃん、何でいきなり流暢な英語なの?」

京太郎「いや、特に意味はないから、そこは突っ込まなくてもいいからな」

咲「そうなの?」

京太郎「あー、まあ……原作での由来ってのは具体的に何だ?」

咲「ほら、連載当初はともかく、今は意味がなさそうなキャラ設定関連での名前付けの事だよ」

京太郎「……方向性が変わる事は良くある事なんだから、毒を含ませるのはやめとけ」

咲「えー……」

京太郎「何でそんな不満そうなんだ」


ちょっとキャラ崩壊激すぎない?と思いつつ、溜息を一つ。
そして、まあ馬鹿話に付き合うのも一興かと判断して訊いてみる。
――本題開始。


京太郎「設定つーと、あれか。俺なら名字関連か」

咲「そう、京ちゃんなら――須賀だからぱっと原作的に連想・考察されるのが『スサノオ』かな」


京太郎「有名な日本神話の神様だな」

咲「うん、『日本書紀』では素戔男尊(すさのおのみこと)、『古事記』では建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)って呼ばれてるよ」


須賀――日本の地名や名字。
由来は幾つかあるが、ここで連想・考察されたのは、『古事記』による地名の由来だ。
須佐之男命が当地に来て『気分がすがすがしくなった』として『須賀』と命名したのは有名な話だろう。
当然、当地にある須賀神社の主祭神の一柱は須佐之男命(すさのおのみこと)である。


咲「取り敢えず京ちゃん関連は保留して置いて、私は『木花咲耶姫』って連想・考察されるんだけど――」

京太郎「ああ、その神様も知ってるぞ。日本神話の女神様だろ?」

咲「うん、詳しくは省略するけど、桜の神でもあり、山の神でもある女神様なの」


木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)――霊峰富士に鎮座するとされる女神。
浅間神社に祀られている。
浅間神社の総本山である富士山本宮浅間大社の社伝では、木花咲耶姫は水の神でもある。
ちなみに大層美人――ってか美神。


京太郎「咲って名前と嶺上開花から考えるとぴったりだな。原作的にほぼ間違いないだろ」

咲「京ちゃん、ちょっと待って」

京太郎「ん、なんかあるのか?」

咲「今回は木花咲耶姫以外でアプローチしてみようと思うんだ」

京太郎「ふむ、なるほど。でも該当するのがあるのか?」

咲「ん、それは後々……順を追わないといけないから――お姉ちゃんを考えてみるね」

京太郎「えっと……名前からすれば直ぐに太陽が思い浮かぶな」

咲「だね、事実チーム虎姫は星に結び付くと考察される場合が多いかな」

京太郎「ふむふむ」

咲「お姉ちゃんなら太陽、淡ちゃんなら金星っていう感じで」

京太郎「ちなみに、他のメンバーの人は?」

咲「今回の主題と関係ないからぶん投げかな?」

京太郎「うわっ、ひでえ……」

咲「そんな事言っても尺の都合とかキリがないとか色々あるんだから……でね、神話関連で考えれば――淡ちゃんは天津甕星」

京太郎「お、ペルソナで見た事がある神様だな」

咲「この神様も有名だね、簡単に解説すると――」

天津甕星(あまつみかぼし)――日本神話に登場する星の神。
『日本書紀』にのみ登場。
平田篤胤は、神名の『ミカ』を『厳(いか)』の意であるとし、天津甕星は金星であるとしている。
神仏習合の発想では北極星を神格化した妙見菩薩の化身。

ちなみに、大星淡に関しては考察として、金星等から当然ルシファーとも関連付けられる。


咲「詳しくはwiki等で」

京太郎「それでいいのか?」

咲「いいの、いいの。でね、天津甕星って神様は、『天津赤星』って神様と同一神格の存在として語れる事が多いんだ」

京太郎「なるほど、なるほど――ってその神様聞いたことないぞ」

咲「あはは……んー、まあ有名じゃないから仕方ないのかな。簡単に順に追って説明すると――」


天津赤星――饒速日命(ニギハヤヒノミコト)が天から下った際に従えていた神の一柱。

饒速日命――『先代旧事本紀』では天照國照彦天火明櫛玉饒速日尊(あまてるくにてるひこあまのほあかりくしたまにぎはやひのみこと)。
十種神宝を天神御祖から授けられたとする。
また天火明命(アメノホアカリ)と同一神とされる。
『新撰姓氏録』では両者を別である。
天火明命の別名は天照御魂神。太陽の光や熱を神格化した神。

十種神宝――鏡2種、剣1種、玉4種、比礼3種となる。
これを三種の神器に対応させて、鏡は八咫鏡、剣と比礼は草薙剣、玉は八尺瓊勾玉であるとする説もある。


京太郎「ん、色々新しい神様が……『天照御魂神』?……あー、照って入ってるな」

咲「京ちゃんの察しの通り、淡ちゃんの由来から、お姉ちゃんは『饒速日命』と『天火明命』も関係してると思う」

京太郎「一緒なチームにいるってのもネックってやつか」

咲「うん。あと可能性として天照大神」

京太郎「ああ、超有名だな。まあ、太陽の関係としてはありきたりか」

咲「だよねぇ……衣ちゃん、お姉ちゃん、淡ちゃん、神代さんで天照大神となるのは保留しておいて――」


『天』江衣、宮永『照』、『大』星淡、『神』代小蒔。
原作通りである。


咲「――お姉ちゃんの由来に、天照大神が含まれてもおかしくはないんじゃないかな」

京太郎「びっみょーに頭がこんがらがってきた」


咲「あはは……えっと、それでここからが私関連の本題」

京太郎「あー、長かった……」

咲「文句言わない――――天照大神をお姉ちゃん、もしくは四人全員で見るにしても、清澄からすればライバルポジションになるよね?」

京太郎「極論すれば主人公チームつまり清澄、ひいては咲が天照大神に挑む図式か」

咲「うん、そう――京ちゃん、私の由来を考慮して、天照大神と同等で逆になる神様って何だと思う?」

京太郎「ん、いきなりだな…………あー、すんごい適当な知識だけど月読か?」

咲「三貴士、月を神格化って事だから、間違いではないけど私の特性からしたら薄いかなぁ」

京太郎「つーことは……って、そっちも満たすとなると、俺の知識じゃ無理ゲーなわけだが」

咲「ん、まあ、そうだよねぇ」

京太郎「なんか微妙に馬鹿にされてる気がするぞ」

咲「……」メソラシー

京太郎「おい!」

咲「……で、天照大神と同等で逆になる神様なんだけど『瀬織津姫』って神様がいるんだ」

京太郎「スルーしやがった……ま、聞いたことない神様だな」

咲「えっと、瀬織津姫っていうのは――」


瀬織津姫――大祓詞に登場する神。
古事記、日本書紀には記されない神名である。
天照大神の荒魂(すさたま)とされることもある。

天照大神の荒魂としての瀬織津姫を祭神とする神社、伊勢神宮内宮第一別宮荒祭宮等々。


京太郎「荒魂(すさたま)?」

咲「うん、荒魂。神道における概念で、神様の霊魂が持つ二つの側面の一方の事。もう一方は和魂(にぎたま)だね」


荒魂――神の荒々しい側面、荒ぶる魂。
天変地異を引き起こし、病を流行らせ、人の心を荒廃させて争いへ駆り立てる神の働きである。

和魂――雨や日光の恵みなど、神の優しく平和的な側面。神の加護は和魂の表れである。

荒魂と和魂は、同一の神であっても別の神に見えるほどの強い個性の表れであり、実際別の神名が与えらる事がある。
また皇大神宮の正宮と荒祭宮といったように、別に祀られていたりする。


京太郎「荒ぶる魂って……あー、魔王ってそういう……」

咲「ま、まおうじゃないもん!」

京太郎「……まあ、冗談は置いとくとして、天照大神と同等で逆になる神様は満たしたけど、咲の能力とかはどうなるんだ?」

咲「京ちゃん。後で追求するから覚えとくよーに……とりあえず、それはね――――」


瀬織津姫:追加情報――祓戸四神の一柱で災厄抜除の女神。
また水神として知られるが、瀧の神・河の神でもある。
小社・松熊神社では瀬織津姫は、同社境内の案内で『瀬織津咲神』と表記される。
山桜を象徴とする山津見神族。

木花咲耶姫が富士山本宮浅間大社に祀られるようになったのは江戸時代とされ、かつては瀬織津姫が祀られていた説もある。
尚、二神には山津見神族、水神と似通った面も多い。


京太郎「咲って付くこともあるのか……嶺上開花的にも、なんかそれっぽく見えてきたぞ」

咲「だよねっ!」

京太郎「……何でそんなに嬉しそうなんだ?」

咲「あっ、えっと、それは置いておいて……京ちゃん、嶺上開花以外に私を象徴する事がもう一つあると思わない?」

京太郎「もう一個か?うーん……迷子に良くなって本が好きとかか?」

咲「それも間違いではないけど、麻雀の話!」

京太郎「……ああ、もしかして、プラスマイナスゼロか?普通に勝つより遥かに難しいよな」

咲「正解!それに関しては――」


瀬織津姫:更に追加情報――祓神としての関連で『中臣祓訓解』等では別宮の荒祭宮祭神の別名を瀬織津姫、『八十禍津日神』とする。
つまり瀬織津姫と八十禍津日神は同神格。

八十禍津日神――禍津日神(まがつひのかみ)の一柱。
神道の神である。災厄の神。もう一柱は大禍津日神。

この事から瀬織津姫は災厄抜除の女神でありながら、災厄の神の側面も持つ。
ついでに、その他では宇治の橋姫神社では橋姫と習合されている。
更に、瀬織津姫が弁財天として祀られる例も少ないがある。

天武天皇と役行者は、天河では弁才天=吉祥天として祀った。


京太郎「橋姫って嫉妬で有名な神様で……しかも禍津日神の災厄の神ってやっぱり魔王じゃ……」

咲「京ちゃんしつこい――つまり禍事・罪・穢れ祓い(プラス)の神様でもあり、禍事・罪・穢れ(マイナス)の神様でもあるって事だね」

京太郎「自由自在ってやつか、変な神様だなぁ」

咲「大祓詞後釈では深い理由があるって書かれてて、実際かなり複雑な経緯を持つ神様なの」

京太郎「というか色々結び付きすぎ、こんがらがってきた」

咲「習合を繰り返していくからね……一応まとめると―――」


天照大神の荒御魂=瀬織津姫=八十禍津日神
橋姫=瀬織津姫=弁財天≒吉祥天


京太郎「おおぅ、すっきりしたな」

咲「うん……ここで一旦瀬織津姫は置いておいて、京ちゃんに戻るね」

京太郎「スサノオについてか?」

咲「だね。スサノオの荒魂、習合についてなんだけど――」


須佐之男命の荒魂――平田篤胤によると、禍津日神は須佐之男命の荒魂。

スサノオの習合について――仏教における祇園精舎の守護神である『牛頭天王(ごずてんのう)』と習合。

また、牛頭天王は、蘇民将来説話の武塔天神と同一視されている。

武塔天神――北海の神で、嫁取りに南海に訪れたとされ、自ら「吾は速須佐能神(すさのおのかみ)なり」と称している。
故にスサノオと同一視される。
また、道教の神である『托塔天王』と関連付ける説もあり。

托塔天王――毘沙門天と唐代の武将李靖が習合した道教の神。


京太郎「こっちも、一気に増えたな」

咲「取り敢えず、瀬織津姫と一緒にまとめると――――」


天照大神の荒御魂=瀬織津姫=八十禍津日神
橋姫=瀬織津姫=弁財天≒吉祥天

禍津日神=スサノオ=牛頭天王=武塔の神≒托塔天王=毘沙門天


京太郎「禍津日神なとこも同じなんだな。別神格と取るならスサノオは大禍津日神ってとこか」

咲「……京ちゃん、ここで重要なポイントがあるの」

京太郎「いきなり、めっちゃ真面目な顔になったな……何なんだ?」

咲「まず――」


八十禍津日神(天照大神の荒御魂である瀬織津姫)と大禍津日神(スサノオ)――姉弟。
毘沙門天と吉祥天――夫婦(または兄妹)。


京太郎「!?」

咲「つまり――京ちゃんと私は、この神格的に姉弟で兄妹で夫婦!」

京太郎「属性過多ってレベルじゃねーぞ!」

咲「間髪おかずに次!」

京太郎「まだあるのか……」

牛頭天王=牽牛=牽牛星
弁財天=織姫=織女星
牽牛と織姫――恋人。

※実際に天河弁財天社の七夕祭では、牽牛は牛頭天王、織姫は弁財天。


京太郎「ファッ!?」

咲「つまり、こっちでも恋人!ここから考えれば――――」


須佐之男命と櫛名田比売(奇稲田姫)――夫婦。
習合神格的に須佐之男命と瀬織津姫――夫婦。
つまり、櫛名田比売(奇稲田姫)=瀬織津姫。

宮永咲の由来――瀬織津姫&櫛名田比売(奇稲田姫)
須賀京太郎の由来――須佐之男命


咲「ふぅ……Q.E.D証明完了……」

京太郎「いや、流石の最後の櫛名田比売はこじつけ過ぎだろ」

咲「だって最後も繋げとけば完璧だもん。姉弟で兄妹で夫婦×3だよ!?」

京太郎「何が完璧なのか意味わかんねえ!」


咲・京太郎「「……」」


京太郎「あー、ちなみに何を思っていきなりこんな……」

咲「だって――――そろそろ私達就職だし……同棲してるし……もっと先に……」

京太郎「あー、なるほど……」


咲・京太郎「「……」」


京太郎「……今度正式に挨拶に行くか」

咲「!」


艶やかな大輪の花が咲きましたとさ。

というわけで。
須賀京太郎は宮永家に『娘さんを下さい』の儀式をするはめになったとか。
尚、京太郎はわりとガチ殴りされ、界さんに対して娘がガチ切れしたりするのだが、それはまあどうでもいい話である。

カンッ