学校であった須賀い話



私が次の話をするのね

えーとね、これは私の友達の…U沢Sっていう子の話なの

Sは普段は結構勝気で仲間を引っ張って行くタイプなんだけど、

ある男の子――そう、京太郎君だね、彼に会ってからはちょっと入れ込みすぎちゃってね

京太郎君に会うたびにずっと彼の方ばかり見るようになってね、やけにニコニコするの
そんな男に媚びるようなタイプだなんて思ってなかったから、私達はちょっと幻滅した

あくまでちょっとだけだよ?

Sが幸せそうだし、まあそれならそれでいいかって思うことにしてね

だけど、そんなに好きなら告白すればいいのにって話なんだけど、
彼女からすればそうもいかないみたいでね、なかなか次のステップへいけなかったの

京太郎君も京太郎君でSの事は「フレンドリーで笑顔の絶えない人」ぐらいにしか思ってなかったんじゃないかな
彼は女の子の友達が多かったから、Sもその一人って印象だったと思う

Sからしたら歯がゆかったと思うな

あんなに好き好きって目で訴えかけてるのにちっとも気づいてもらえないんだから

おまけに私達の学校は岩手県、長野とはちょっと距離があったから頻繁に会えるわけじゃなくって、

一ヶ月に一、二度くらいしか京太郎君は遊びにこれないからSはチャンスにも恵まれなかった


そんなある日の事…


岩手は山の多い県だから、ちょっと町から外れるとすぐ山地に入るんだ

だからね、京太郎君が遊びに来た日に折角だからハイキングに行こうって話になったの
一人はダルいダルいって言って来たがらなかったけど、京太郎君がいるからね

結局みんな参加したんだ


天気にも恵まれて、気持ちよくみんなで低い山道を歩いていったんだ
……Sはずっと京太郎君のそばについていたよ

お昼は少し広いところで各自で持ってきたお弁当を食べたんだけどね

そのときも彼の近くに座って「どんなの持ってきたの」ってさりげなく体を寄せてね
そして自分のお弁当のおかずと交換しようとか言ったりして…

まあ、はたから見てたら可愛いものだったよ
行き過ぎた行動に出ないかとハラハラはしたけど…


帰る時間になるとSは私達に「京太郎と二人きりになりたいから先におりてほしい」と言ってきた

納得できない子もいたけど、必死にお願いしてくるから私達は言われた通り先におりたの


それでここからは後でSと京太郎君に、別々に聞いたものをあわせた話になるんだけど……

Sは二人きりになると早速、京太郎君に積極的に話しかけていったの

今日は楽しかったね、から始まって、自分の最近の出来事や気になった映画の話をして、
京太郎君の地元の話とかも聞いたりしてたの
京太郎君も話好きな方だから、ずっと歩きながら話してたんだって

するとね、熱中して足元を見ていなかったせいで、Sがちょっと地面に出ていた木の根に
足の先をひっかけて転んじゃったんだ

そして軽く捻挫したみたいだから、京太郎君がおぶっておりていく事になったの

Sからしたら夢のような話だよね、もちろん彼女はお言葉に甘えて彼の背中にひっついた

想像のなかでしか知らなかった京太郎君の背中、彼の体温、におい、
Sは足の痛みなんか、この状態を得るためなら全く安い代償だった
むしろ木の根に感謝したぐらいだって

「ずっとこのままでいたいなぁ」ってSは心から思った


…しばらく京太郎君はSを背負って歩いていたけど、なんだかおかしい気がしたの

とっくに下についているはずなのに、ちっともつかない
それどころかまだ山の中腹ぐらいな気がした

でも、それってありえないんだ、近所の人たちも気軽に散歩するような低い山だし、
ちゃんと登山用の道を歩いていたから道を間違えるわけがなかったのに

だけど、まったく進まなかった

どんなに歩いても歩いても……まるで同じところでずっと足踏みをしているような感覚

周りの景色はちゃんと歩いた分だけ動いているのに、それでも前に進んでいない

京太郎君は内心焦っていた、自分が道をあやまったのかもしれない、そのせいでSを遭難させてしまうかもしれない…って
そんな責任感が強い子だからSもベタ惚れしちゃったんだね

とうのSはそのとき京太郎君の背中を堪能することで頭がいっぱいだったらしいけど

やがて京太郎君にも疲労がたまってきた
そりゃそうだよ、女の子とはいえ人ひとり背負って歩き続けているんだから

それになぜだか分からないけど、全然前に進めないっていう心的疲労もあったしね

Sはここまで何回かちょっと休もうって提案していたけど、京太郎君はもうすぐ着くはずだって思っていたから、
その必要はないって考えていたんだけど、どうにも状況がおかしいから、流石に一息つくことにしたの

慎重に京太郎君はSを背中からおろした、彼女としてはちょっと名残惜しかったけど、京太郎君の体のほうが大事だからね

そのときにちょっと足が大丈夫か試してみたら、ずっと背負われていたおかげで、すっかりよくなっていた
やっぱり一時的なものだったんだね、歩くのにも支障はないから自分の足でおりるってSは言ったの

京太郎君は少し考えたけど、彼女の意見を尊重して様子見で一緒に歩くことにした


少し休んでまた出発すると、また京太郎君は驚いた

なんとあっさり下についちゃったの

やっぱり単純に道を間違えていただけなのか、と彼は思った


それで、待っていた私たちに京太郎君とSは「だいぶ待たせてしまって申し訳ない」って謝ってくれたんだけど…



私達、そんなに待ってなんかいなかったんだよね…

先について、10分ぐらいしたら二人がおりてきたんだから、
むしろもう少しゆっくりでもよかったのにって思ったぐらい

京太郎君とSはおりることだけ考えていたから時計を見る暇もなかったらしいけど、
二人で時間を確かめたら目を開いてびっくりしていたよ

2~3時間ぐらいは歩いていたはずなのにって……


…これは私の想像なんだけど、Sはね麻雀をするときにある能力が使えるの

それは相手の和了を『塞ぐ』能力…


それでね、もしかしたら京太郎君に背負われていたとき「このままでいたい」って思ったから、
無意識に出口を『塞いじゃった』んじゃないかなって…

でも、京太郎君が疲れているのを見て「自分も山から出たい」って思ったから、それが解除されたんじゃないかって…


あくまで私の想像だから、Sにも京太郎君にも言ってないけどね


そんなことがあったって京太郎君とSから聞いた時はちょっと…背筋がぞっとしたよ

何にしても二人が無事でよかったけどね


さあ、私の話はこれでおしまい

次は誰かな…?


カンッ