それは開会式が終わってすぐのことだった。


久「さて、忘れ物は無いみたいだし、後はホテルに帰るだけなんだけど...」

優季「まーた咲ちゃんがいないじぇ」

和「どうしてこう、トイレに向かうだけで迷子になるのでしょうか...?」

京太郎「はぁ、しょうがない。また俺が探しに行きますんで、部長達は先に帰っててください」

まこ「すまんのぅ、おんしには損な役回りばかりさせてもうて」

京太郎「あいつのこれは今に始まった事じゃないですから。ルーティンワークみたいなモンですよ」

まこ「大変じゃなぁ...。ほれ、わしらは二人の荷物も運んどいてやらんと」

優季「えぇー、めんどいしだるいじぇー」

久「恨むなら迷子の子羊ちゃん・宮永咲を恨むことね。じゃ、須賀君よろしく♪」

和「あまり遅くなりませんようにね」

京太郎「へいへい...」





咲「うぅー...ここどこぉ............」クスン

インターハイの会場で迷っちゃった。

おトイレは膀胱がもうすぐで決壊しそうな所で奇跡的に通りがかれたから解決したけど、問題は帰り道だった。

控え室から結構長い時間ふらふらーっと歩いてたから、自分がどこのトイレに辿り着いたのか全く見当がつかなくなってしまったのだ。

そもそもここ屋内じゃないし。

何階何号室とか以前の問題だよ。

咲「京ちゃ~ん...」ベソベソ

耐えられず、中学の時からの幼馴染みの名前を呼んでみた。

私からすれば絶賛片想い中(矢印は当然私から京ちゃん)の憧れの人だけど、京ちゃんはきっと気付いてないどころか、多分そういう意識を持ったことは無いんだろう。

原村さんとお近づきになりたくて麻雀部に入ったみたいに振る舞ってるけど、実は私がお姉ちゃんと仲直りするために手助けしてくれるのが本当の理由みたいだし。

咲(京ちゃんはそういう事は絶対口に出さないから、確証は無いんだけど...)

ただ、京ちゃんの原村さんに対する態度がどうにも演技っぽい所があるのは確か。

そういう所を弄ったりする人達がいるから余計に信憑性が増したりしてるけど、部に顔を出した時に私が麻雀をやってたことを知らなかったみたいに振る舞ってたから、私としてはそう思えて仕方がない。

前に話したことがあるのだ。

お姉ちゃんと疎遠になったこと。

お姉ちゃんの名前は出さなかったけど、私もお姉ちゃんも麻雀をやってた事は話した。

だから、きっと麻雀でやり直してほしいと思ってくれたんだろう。

そのために色々と回りくどい事をしたりして、私を麻雀部に誘ったんだ。

きっとお姉ちゃんと仲直りして優勝した暁には、京ちゃんは麻雀部を辞めてしまうだろう。

その時には............









照「............」

咲「............」


疎遠になってたお姉ちゃんと遭遇した。

曲がり角でバッタリエンカウントだ。

照「............咲」

咲「............なに?」

照「なんでここにいるの?」

咲「その、えっと...」

なんでここにいるのかって?

それは私が聞きたい。

神様に聞きたい。

神様、貴方は馬鹿ですか?

咲「お、お姉ちゃんこそ、チームの人と一緒じゃないの?」

照「...ちょっとお散歩ついでにお菓子を買って、今その帰り」

咲「でも、今会場内から出てきたよね?会場外で待ってるの?」

照「...............」

咲「...............」

つまり迷ったみたいだ。

血は争えないとかいうけど、こういうところは徹底抗戦してほしい所だよ。

京太郎「あ、いたいた。おーい」

二人一緒に迷子センターで泣きべそかいてた頃の記憶に思いを馳せていると、私の想い人の声が聞こえてきた。

咲「きょ、京ちゃん!」パァ

照「?」

会場内側、つまりお姉ちゃんの後ろから京ちゃんがスタスタと歩いてくる。

モデル歩きよりも美しい歩き方だ。

まぁそれは置いといて。

京太郎「ったく、お前は本当にどうしようもないポンコツ娘だな」

咲「うぅ、お手数かけます...」

京太郎「前々から疑問だったが、来た道を引き返して取りあえず見覚えのある場所に出るとかいう発想は無いのか?」

咲「............」

京太郎「無いのか...」

いいえ、来た道を覚えてられないだけです。

何にせよこれで一安心。京ちゃんが来てくれたからには、お姉ちゃんに別れを言って後は帰るだけ。

とまで考えて気付いた。

お姉ちゃんが振り向いて京ちゃんを見たまま固まってることに。

咲「...お姉ちゃん?」

京太郎「へ?お姉ちゃん?」

ここで京ちゃんはお姉ちゃんをきちんと認識したようだ。

ジーッと見つめて、一秒。

二秒。

三秒経って納得したように頷いて


京太郎「あー、咲のお姉さんって照さんの事だったんすね」


と言った。


咲「............pardon?」

京太郎「何故英語」

咲「......もう一度お願いします」

京太郎「いや、和訳せんでも...。

咲のお姉さんって、照さんの事だったんだなって」

咲「............」

ちゃんとリピートしてくれた。

どうやら聞き間違いとか幻聴とかの類ではみたいです。

咲「って違うよ!何でお姉ちゃんのこと名前呼びしてるの!?

京ちゃんってフレンドリーではあっても年上に対する最低限の礼儀は欠かさないキャラだったよね!?それも初対面の人は特に!」

京太郎「最低限ってお前...」

照「...もしかして、京ちゃん?」

フリーズ解凍したお姉ちゃんが言う。

初対面では無いらしい。

咲「きょ、京ちゃん!?待ってよお姉ちゃんも京ちゃんのことアダ名呼びしてるの!?」

京太郎「そうなんだよ。さすがにちゃんは恥ずかしいからやめてくれって言ってるんだけど、お前と一緒で全く直す気がないらしくてな」

照「京ちゃん。咲とも知り合いだったの?」

京太郎「ええ。とは言っても中学からの知り合いですので、照さんが引っ越しちゃってからになりますね」

照「そう...」

咲「ちょ、ちょっと待って!」

照「........あれ?咲、まだ生きてたんだ?凄い意外」

咲「なんで急に生存確認!?そんなすぐ死なないよ私!!」

照「へぇー、そうなんだー。寿命長ぁー」

京太郎「...仲悪いってのは本当だったんだな」

咲「と、とにかく!京ちゃんとお姉ちゃんがいつ、どこで、どんな風に知り合ったか聞かせてもらうからね!」

照「.......................................いいけど」

咲「今凄い面倒臭がったでしょ!?」

そうしてお姉ちゃんは語りだした。

「私が中学に入ってすぐの頃の事」と前置きして。









照「はぁ...」

もう何度目になるかも分からない溜め息が出る。

溜め息一つつくと幸せが一つ逃げていくというが、その場合私の中からいくつの幸せが逃げているのだろう。

そんなオカルトあり得ないとは思うが、しかし麻雀の能力とかを考えると、案外このオカルトも馬鹿に出来ない。

照「............」

公園では男女交えて缶けりをする小学生達がいる。

自分も少し前までああだったと思うと、今の自分との落差にまた一つ溜め息が出る。

また一つ幸せが脱走した。

看守は一体何をしているのだろう。

照「友達、かぁ...」

小学校と中学校は違う、というのを思い知らされたというか、直面したというか。

たかだかランドセルを背負わなくなっただけだと甘く見ていた。

思春期の年頃がこんなにも難しいものだとは。自分含めて。

小学生の時はそれなりにはいたのに、中学生になってからは全くと言っていいほど出来なくなってしまったのだ。

このままでは輝かしい青春を麻雀だけで終わってしまう。

麻雀部には一応入ったが、そこでも孤立気味なのだ。

照「...友達、どうやったら出来るかなぁ」


京太郎「うにゃ?」


いつの間にか座っていたベンチの隣の席に男の子が座っていた。

今の呟きも完全に聞こえる距離だ。

照「............」

京太郎「どうしたんだおねーさん。あ、おねーさんで良いよな?なんか中学校の制服?みたいなの着てるし。俺は須賀京太郎っつって、小学五年生なんだけども」

照「............須賀君」

京太郎「うん?」

照「今の、聞いてた?」

京太郎「友達がどうやったら出来るのかってのは」

ばっちり聞かれてた。

自殺したい。

京太郎「成程なー。要するに中学に上がってぼっちだから友達作りたいって訳ね」

照「ぼっち言わないで...」

否定できないだけに心が抉れる。

須賀君は「これも何かの縁って事で」と言って私の相談に乗ってくれた。

私としても身近な家族に相談し辛い話題だったので、見ず知らずではあるが親切な他人に話したい気持ちはあった。

カウンセラーとかに行くと負けた気になるし。

京太郎「でもそんなに深く考える必要ないと思うけどな。話しかけて気が合えば一丁上がりで」

照「中学生の難しさを知らないからそんな事言えるんだよ...」

京太郎「難しいのはなんとなく想像つくけどさ。幼稚園児の頃だったら小学生も同じくらいは難しく見えなかった?」

照「それは...」

覚えてないけど。

何園に通ってたのさえさっぱりだ。

京太郎「周りも確かに中学生になったけど、自分も中学生になったんだから遊びのレベルはおんなじ。

自分が楽しい事は大抵の同級生の人も楽しい事に違いないんだから、自分が楽しいと思える事で仲間を増やせばいいんじゃないか?」

照「............成程」

京太郎「ちなみに好きなこととか、得意なこととかある?」

照「麻雀」

京太郎「.............渋いの来たな」

照「そう?うちの家族の団欒は大抵麻雀だし、麻雀部も結構な人数いるよ?」

京太郎「いや、最近流行ってんのは知ってるけど、俺には分からん。そもそも知らんし、もっぱらアウトドア」

照「健康男子だね」

京太郎「つか、部活内では駄目なのか?麻雀部入ってるんだろ?」

照「............私が打つと、みんな怯えたような目で見てくる」

京太郎「どんな蹂躙してんだ...」

失礼な。精々本気で打ったら三人が同時に飛ぶくらいだよ。

京太郎「じゃ、他にはなんかあるか?」

照「そうだね...。強いて言うなら、本かな」

京太郎「本」

照「うん。一番最近読んだ本は『両親を失った子供にしてやれる精一杯の方法』」

京太郎「小説ですらないのかよ」

照「著者・リチャードソン」

京太郎「いや、書いた人とか聞いてないし」

照「読んでいるジャンルも大体似たような感じ」

京太郎「それじゃあ話合わないのも納得だよ...」

あの本、実際の体験談みたいだから描写がリアルで良いと思ったんだけどな。

その子供というか姪の人が麻雀好きなのも共感したし。

そう言ったら、須賀君は「要は認知度の問題だよ」と返してくる。

京太郎「有名かそうでないかで作品の良し悪しを決めるつもりはないけどさ、友達を作る上で話合わせるのには、そういう有名所を押さえると良いと思うんだよ、俺は」

照「ふむふむ」

京太郎「まぁそういう本はないけどさ、有名な漫画とかなら小説なら俺も持ってるから。それ読んでみるといいんじゃないか?」

照「...貸してくれるの?」

京太郎「ん?あー、そういうつもりは無かったけど、それもいいな。じゃあ、明日の今の時間くらいにまたここでいいか?」

照「分かった」

「その時は私のオススメも持ってくる」と言って、私は立ち上がった。

そろそろ家でのお菓子タイムが恋しくなってきた。

そのまま公園を出ようと出口に向かった時、「あ、ちょっと待った」と言って須賀君は私を呼び止める。

照「?」

京太郎「友達作りの上で、もう一つ大事な事忘れてた」

須賀君はたたた、と私に駆け寄って。

私の口の両端を両の人差し指でちょん、と突いて。

ほんの少し持ち上げてきた。

照「ふぇ!?」

京太郎「仏頂面するよか、そうやって可愛く笑ってくれた方が近寄りやすいだろ?」

照「ーーーーッ///」カァァァ

目の前に輝かしい笑顔の須賀君。

こうして見ると、幼いながらもとても整った顔で、金髪もサラサラで、凄く綺麗な目をしている。

成長したら、そう、高校生ぐらいになったら好青年になるに違いない。

京太郎「あはは!顔赤くしてらー。じゃ、また明日な。ばいび」

彼はスタコラサッサと駆けていく。

小学生らしくブンブンと手を振って、とても可愛らしかった。

照「............」

私は彼がやったように口の両端を指で持ち上げてみた。

うん。

指を使わないまま自然にこれが出来るようになろう。








照「その後、京ちゃんは『ジョ○ョ』を始めとする名作の漫画や小説を、私は傑作だと思った本を交換し合い、交流を深めていった。中学校で話が合う友達を作ることにも成功した」

咲「お姉ちゃんが漫画を読み始めたのも、コークスクリューツモの回転が注意深く見てみたら黄金回転になってたのも、それが原因か...!」

京ちゃんも会ったときからなんか結構博識な所があったし。

私もお姉ちゃんが借りてきたという漫画を読んだし。

ちなみに私のお気に入りはる○剣。

咲「ていうか、京ちゃん何でお姉ちゃんと知り合いだって教えてくれなかったの!?」

京太郎「いや、お前の姉だとは知らんかったし」

咲「お姉ちゃん何で教えてくれなかったの!?」

照「私に妹とかいないし」

咲「ムキーーーッ!!」

京ちゃんはまだ納得できる言い分だけど、お姉ちゃんのは納得いかない!

はしゃいでいると


淡「テルー!」


なんか遠くから呼び声がかかってきた。

お姉ちゃん宛だ。

同じ制服着てるし、同じ学校の人だろう。

照「あれ?淡、どうしたの?」

淡「どうしたもなにも、テルーを探してたんだよ!なんかふらふら~っと出掛けちゃうから、スミレがすぐ呼んでこいって」

照「そう、ごめん」

咲「............」

元気、というか天真爛漫な子だった。

笑顔がギンギラギンである。

いや、それは純粋な輝きじゃないか。

照「菫達はどこで待ってるって?」

淡「んーとね、ここをあー行って」

淡と名乗る女の子は指で行き先を指示する。

淡「あそこをこー曲がって、そしたらぐいーっと行って」

身振り手振りを大きくする。

淡「向かいのところにどーんってぶつかったら、こーいう感じに行って、そしたらー...」

声に段々自信が無くなってくる。

淡「えーと、えーと...」

咲照「「.............」」

淡「................私どうやって来たんだっけ?」

咲照「「.............」」

迷子が一人増えただけだった。

どう考えても人選ミスだよね、これ。

京太郎「......はぁ」

京ちゃんは明らかに呆れた様子だ。

そりゃそうだよね。京ちゃんからしたら面倒なのが増えた訳だし。

京ちゃんだから迷子を放っておくことはしないだろうけど、連れていく場所が増えたらーーーーー

淡「な、なにさ!大体来た道を一々覚えてる方がーーーーー」

京太郎「ったく、お前は昔っから何にも変わんねーな。淡」

淡「.........もしかして、キョータロー?」

咲照「「え?」」


続くよカンッ!