共学設定です
一目あったその時から、須賀くんには何か、不思議な存在感があった。
麻雀の腕に覚えのある一年生が、全国から集まる名門校、千里山。
ウチはその中でも、最強の一年生やと思ってる。
そして須賀くんは……誰の目から見ても、最弱。
魔境こと、長野から来たから強いのかと思ってたけど……全くそんなことはなかった。家の
都合で引っ越してきたらしい。
気まぐれで入った麻雀部で、須賀くんは毎日ひたむきに練習してて、人が嫌がる雑用を率先
してやっていた。
そして、誰よりも楽しそうに麻雀を打っていた。それこそ、麻雀バカって言ってもいい位。
そんな須賀くんに……ウチは恋をしてしまった。
朝クラスで会って挨拶する時でも、ウチは赤くなった顔を隠すので必死。
先輩たちにいじられて楽しそうに談笑している所を見てると、胸の辺りがザワザワして落ち着かない。
かといって話しかけられてもテンパる。まともに会話もできない。
ある日の放課後……ウチと須賀くんは。
泉「……」ダラダラ
京太郎「……」キュッキュッ
部室で二人きりになった。
ヤバいヤバい、かなりピンチ。
今日は部活が休みで誰もいないはずやったのに。
部室に忘れ物を取りに行ったら、須賀くんが牌を洗ってた。
このまま帰るのも悪いし、手伝うことにしたんやけど……困った。
京太郎「二条、汗がすごいぞ?」
泉「ふぇっ!?いいいっ、いやー今日は蒸すなー!///」パタパタ
京太郎「……変な奴だなー」キュッキュッ
な、なんとか誤魔化せた?今五月やけど。今日は肌寒いくらいやけど。
泉「……」チラッ
京太郎「?」
泉「ッ~~~!///」サッ
無理、直視できん!とにかく早く終わらせな……!
泉「………………」キュキュキュキュ
無。心を無にして、ひたすら牌を磨く。
京太郎「うおっ、早いなぁ二条」
泉「………………」キュキュキュキュ
京太郎「おーい、にーじょう?」ズイッ
泉「ぅひゃあっ!?そ、それ卑怯やぁ!///」
京太郎「なにが!?」ビクッ
自分から目線に入ってくるとか!逃げ場ないやんけ!?
京太郎「……なー二条、別に手伝わなくてもいいんだぞ?」
泉「……えっ?」
唐突に、須賀くんが言った。
京太郎「俺がやっておくからさ、用があるなら帰ってもいいんだぜ?」
一瞬、心がチクリと痛んだ。もちろん、気を遣ってくれてるんやろうけど……。
泉「それって……ウチとおるのが、嫌ってこと……?」
分かってても聞いてしまう。あーもう!ヤなヤツやわ、ウチ。
京太郎「え、あ……そ、そういう意味じゃないんだ、ごめんな」
やっぱり、須賀くんはそういう人や。須賀くんの優しさにうまく答えられない自分に腹が立つ。
泉「ウチこそ、変なこと聞いてごめん……ってゆーか、須賀くんこそ帰らへんの?」
京太郎「え、俺?」
泉「……今日、部活休みやで?なんで放課後に残って雑用してんの?」
京太郎「休みってのは知ってるよ」
須賀くんはコクリと頷いて言った。
京太郎「俺、麻雀弱いからさ。麻雀部の足、引っ張ってるだろ?だから、せめて自分に出来ることはないかなって思ってな」
京太郎「あ、もちろん麻雀はこれから強くなるからな!?今に二条を抜いて、レギュラー入りしてやるぞ?」
……改めて、思った。須賀くんは麻雀バカだ。あと、執事気質というか、雑用を苦と思ってない。やっぱバカだ。
もう一つ。そんなバカを……ウチは、どうしようもなく好きってことも。
泉「……ぷっ!くくっ、ないない!冗談やろ?須賀くんが、ウチを?あっははは!」
バカげた発言とは裏腹の、その真剣な表情に、おかしくて腹を抱えて笑ってしまう。
京太郎「……うっせー、笑い過ぎだぞ」
泉「しかもレギュラーって男子と女子で別れてるし……はー、涙出てきた」ゴシゴシ
やっぱり須賀くんといると楽しい。いつもは一緒にいるとドキドキして、自分から避けてたけど。
……ってあれ?なんか今の所、うまく会話が弾んでないか?
泉「……っ!///」カァッ
あー、意識したらあかん!ぷいっと顔を背けてしまう。
とにかく会話を続けようと頭の中で必死に話題を探す。すると、須賀くんの方から話してくれた。
京太郎「……二条って、かっこいいよなぁ」
泉「かっこいい?ウチが?」
京太郎「麻雀めちゃくちゃ強くてさ、一年生でレギュラー入りするし。そういうのって、漫画の主人公みたいでかっこいいなって」
泉「……そりゃ、須賀くんに比べたら強いって」
京太郎「お、俺は努力して強くなるタイプの主人公なんだよ!」
須賀くんは、ふんっ、と鼻を鳴らして牌磨きに集中する。変に強がりな所も、見ていて面白い。
その時、一瞬心がざわついた。バカにしすぎたかなと思うと、不安でたまらなくなった。
泉「あっ、その!今は弱いけど……続けてたら、絶対強くなるから!」
京太郎「……なにその急なフォロー」
泉「だ、だって……やめられたら、嫌やし……麻雀部」シュン
過去にも何度も、須賀くんの麻雀の腕をバカにしてきた。自分でも幼稚な事だとはわかってるけど、照れ隠しでつい、そのことをいじってしまう。
須賀くんはふっと笑うと、ウチの頭に手を乗せた。
泉「ふひゃっ……?」
京太郎「心配しなくても、麻雀は続けるよ。ありがとな」ナデナデ
泉「っ……うん」
娘のわがままを許す父親のように、頭を撫でられる。
……って娘って!せめて恋人とかに……恋人!?
泉「はぅっ!あ、頭、撫でるのやめて……///」
京太郎「あ、ごめんごめん、良い位置にあったから」
泉「何それ……」
はぁ、とため息を吐く。心配は無用だった。
京太郎「今に見てろ、千里山の雀鬼、須賀と呼ばれるくらいに強くなって……」ブツブツ
泉「あーはいはい、言っとけ言っとけー、えへへっ」
そう言ってから、しばらく牌磨きに集中する。あともう少しで、終わりだった。
京太郎「……あーでも、女性にかっこいいは失礼だったかな?」
一分くらいしてから、須賀くんが言った。
泉「え?」
京太郎「二条はかわいいし、な」
泉「…………!!?///」ボフンッ
不意打ち。さっきまで順調に会話してたのに、その一言で一気に動揺してしまう。
まだこちらが落ち着いてもいない内に、須賀くんは続ける。
京太郎「麻雀も強いし、美人だしなー。清水谷部長とかもそうだけどさ」
泉「あ……あぅ……///」カァァ
京太郎「先輩達と違って心置きなく話せるっていうか……気が合うっていうか」
泉「や、やめ……!///」
京太郎「二条が恋人だったらなぁ」
泉「―――ッ!?///」ガタッ
あぁやっぱりダメだ!須賀くんはバカだっ!バカバカ、バカ!
泉「もっ!もう終わるし、ウチ帰りゅ!!///」ダダッ
京太郎「あっ!?噛んだ?に、二条ー!?」
ほとんど全力疾走で、廊下を駆け抜ける。須賀くんの声が後ろから聞こえたけど、構うもんか!
結局、学校を少し離れたところで、疲れて減速する。
呼吸を整えてから、冷静になる。雑用も終わらない内に逃げ出して、バカはウチやんけ。
……もうとりあえず、今日は帰ろう。顔が真っ赤なのは走ってきたからだと、頭の中で言い訳しつつ。
泉「……須賀くんも、かっこいいよ……はぁ……///」ボソッ
明日言おう。絶対。須賀くんに、ウチと同じ位恥ずかしい思いをさせてやる。
…………無理かな?……無理そう。
カンッ
最終更新:2014年04月30日 16:32