バレンタイン数日前……宮永家

咲「うーん、バレンタインの日にどんなチョコあげたら喜んでくれるのかな、京ちゃん……」

宮永父「おーい咲ー、ご飯できたぞー」

咲「去年と同じじゃ味気ないし、かといってインパクト優先して気持ちが伝わらなかったら意味ないし……ムムム」

宮永父「おーい、ご飯ー……」



咲「もうド直球の一色染め手戦法で、この間読んだ本のヒロインみたいに、自分にリボンでも巻いちゃおっかなー」

宮永父「ヤダ、この子なんて本読んでるの……」

咲「たまたまだよー、たまたま。だいたい、そんなことできるわけないでしょ、恥ずかしいし………………ん?」

宮永父「お、妄想世界からご帰還ですか。ご飯できたから早く食いにこいよー」

咲「キャーーー!?なんでお父さん、勝手に私の部屋に入ってるの!?」

宮永父「いや、ノックしたぞ五十二回ぐらい」

咲「それは別の意味で気持ち悪いんだけど!?」

宮永父「娘に気持ち悪いって言われた……これが世に聞く反抗期って奴か……」

咲「ぁ、ゴ、ゴメン、気持ち悪いは言い過ぎだったよ……」

宮永父「いや、父さんの方も配慮が足りなかったよ……」

咲「ま、まあ、次から気をつけてくれればいいよ……」

宮永父「ああ、わかった。それでな咲、なんか困ってるようだから父さんからアドバイスな」

咲「ん……なーに?」

宮永父「年頃の男の子っていうのはな、なんていうか、こう……『初物』に弱いから、それ使って既成事じ――」

咲「娘になに吹き込もうとしてるの!?っていうか、言わんとしてることが本気で気持ち悪いよ、お父さん!」

宮永父「ケッ、今のうちから男の悲しい性を知っておけば幻滅せずに済むぞー?どうせお前の京ちゃんも、夜な夜な右手を忙しなく動かしてるに決まってるんだー」

咲「私の京ちゃんはそんなことしなっ――――い……んじゃないかな、うん、たぶんしてない」

宮永父「えらく微っ妙な信頼度だな……」

咲「いや、まあ、手は動かしてるんじゃないかな……」



同刻、須賀家……

京太郎「右7で山割って配牌して―――――ツモ、切り、ツモ、切り、ツモ、切り……」(チャッチャカチャッチャカ

カーたん(カピバラ)「キュー?」

京太郎「うん、たぶんこっから萬子、萬子、索子、筒子、筒子……オッケー、エンジンかかってきた――――おー、カーたんお腹空いたのかー?この自主練終わったら、一緒に飯食いにリビングいこうなー」(カチャチャチャチャチャ…

カーたん「クワー♪」

京太郎「さて、いい感じに温まってきたから……今日は赤木さんと僧我さんに見せてもらった『拾い』と『もどし』と……原田さんのカンドラすり替えも試してみるか。なんかみんなして、できるようになってて損はしないって言ってたし」(ゴキゴキ…



カーたん「くわーっ」(プンスカ

京太郎「ハハ、心配すんなってカーたん。例えどんなに劣勢でも、俺は絶対に裏技なんか使わないから。太陽みたいに熱く、正々堂々やってこその俺の麻雀さ!」

カーたん「くわわ♪」

京太郎「……そういうや、やり方知ってたら対処もできるって天さんやヒロさんも言ってたけど、こんなの使う人と対局する機会なんてないだろ、普通」(カチャカチャ…




Prrrrr…


京太郎「あ、メール……原田さんからだ。なになに、『ちょっとバイトせえへんか』……?」

カーたん「…………」

京太郎「んー、どうしよっかな……赤木さんたちも来るならオッケーですよ、と」

カーたん「くわー……」(ヤレヤレだぜ



そんなこんなでバレンタイン当日……


京太郎「―――――」(ざわ…ざわ…

モブA「あ、あの、須賀君、これ貰って―――ヒィ!?」

京太郎「あ、ゴメン、ちょっとバイトの影響で顔が戻らなくて……」

モブA「へ、へー、ここ何日か顔見なかったのはアルバイトしてたからなんだ!どんなアルバイトしてたの?」

京太郎「…………麻雀してただけだよ、うん。フツーの麻雀だよ、フツーの」(ざわ…ざわ…

モブA(ぜ、絶対に嘘だ……)

京太郎「それで、なんか言いかけてたけど、なんか用?」

モブA「あ、え、えっとね、今日が何の日か知ってる?」

京太郎「――――――――ゴメン、今日って何日だっけ……?ずっと料亭に缶詰で打ってたからわっかんねー……」(ゲッソリ

モブA(ホントにどんなアルバイトしてたんだろ、須賀君……)

モブA「ま、まあいいや、聞かないでおこ……。えっとね、今日はバレンタ――――」

咲「――――京ちゃん!」

モブA「あ……」

京太郎「おー、咲、どした?」

咲「え、えっと、お……お昼!今日、食堂のレディースセット、美味しそうだったから、またお願いしにくるだろうなーって……!」(アタフタ

京太郎「おー、レディースセットか。丁度よかった、ここ何日か、目が飛び出るような値段の料理ばっかだったしなー」

咲「ホントになにやってたの、顔見なかった数日の間!?」

京太郎「聞いてくれるな……」

咲「う、うん、わかった……」

京太郎「えーっと、俺ちょっと咲と飯食ってくるから。用事は後でいいかな?」

モブA「う、うん、いいよいいよー、ホントはちょっと勉強教えてほしかっただけだしー」

京太郎「そうなのかー。んじゃ咲、食堂行こうぜー。今宵の虎鉄はレディースランチに餓えておるわ」



咲「う、うんっ!――――ゴメンね、邪魔しちゃった……」

モブA「ううん、いいよ。なんとなく、渡せない予感はしてたし。えっと……ガンバッて!」(ニッコリ

咲「――――ありがとね……」






清澄高校食堂――――


咲「――というわけで、ハイ!レディースランチ」

京太郎「おぉー、さすが咲が誘いに来るだけあって、今日は格別ウマそうだぜー」

咲「ちゃんと味わって食べてねー」

京太郎「わかってるわかってるって。んでさ、咲ー」

咲「ん、なに京ちゃん?」

京太郎「俺になんか用事あんだろ?咲があんな風に人と話してる時に割り込んでくるとか、普通はないし」

咲「――――な、なんでこういう時だけ勘が冴えるのかなぁ」

京太郎「バカ、麻雀でエンジンかかった時の勘の冴えに比べれば、これくらいフツーだぜ、フツー」

咲「普段は朴念仁じゃん」(ブスー

京太郎「バンナソカナ」

咲「いいえ、朴念仁ですー」

京太郎「その辺については後でじっくり、腹を割って話し合うとして……本日のご用事なーに?」

咲「あ、うん、そうだね、えっと……そ、そのレディースランチ食べ終わったら言うよ!」

京太郎「もう食ったけど?」

咲「早っ!?ちゃんと噛んで食べてるの?そんなんじゃ、体に悪いよ……」

京太郎「いいじゃん、別に。ほれ、聞いてやるから何でも言ってみなー」

咲「むー、聞く姿勢が不真面目すぎるよ……」

京太郎「咲相手だかんなー。もうちょっと喜んでいいんだぜ?」

咲「そーいう特別感はいりません!」

京太郎「なんだよ、今日はやけにツンツンしてんのな」

咲「べ、別にツンツンはしてないよ。ちょっと緊張してるというか……」

京太郎「?」

咲「きょ、京ちゃん、今日はなんの日か知ってる?っていうか、覚えてる?」

京太郎「なんだよ、妙に引っかかる言い方するのな……」

咲「うー……ハァ、もういいよ、京ちゃん相手に緊張なんかする私が悪いんだから」(ジトー

京太郎「だからなんなんだよ、そのオオバカヤローを見るような目は」

咲「あ~ぁ、もう少し前の京ちゃんなら、まだ私の気持ちに気付いてくれたんだろーけど」(ハァ…

京太郎「??」

咲「京ちゃん、ご飯の後のデザート欲しくない?」

京太郎「お、そういえば今日のレディースランチにはデザート突いてなかったな。いつもはプリンとかゼリー付いてくるのに」

咲「あ、それは私が持ってくる途中で食べちゃったからだよ」

京太郎「なにやってんの?なにやっちゃってんの?ランチセットのデザート食べるとか、死刑ものだぜ?」

咲「い、いいじゃん、ちゃんとレディースランチのものとは別にデザート用意してあげてるんだから!」

京太郎「うーむ、納得いかないけど、まあそれなら許してやらんでもない……」

咲「なんでそんなに偉そうかなー。まあいいや、京ちゃん、口開けて」

京太郎「ん……こうか?」(アー

咲「はい、あ~ん」(ヒョイ

京太郎「んがぐぐ……ムグムグ――――これ、チョコか?」

咲「そーです。今日はバレンタインデーだから、今年もちゃんと用意してあげたんだよ、感謝してね」(エッヘン

京太郎「おー…………そうか、今日は二月十四日だったのか」

咲「……ホント、いろんなトコで麻雀するのはいいけど、最低限一般社会の行事とか忘れないレベルでやってよね」

京太郎「気をつけるぜー。にしても美味しいな、このチョコ」


咲「え、えへへ、そりゃもちろん、咲ちゃんお手製のチョコレートだもん、当然じゃない!」

京太郎「そういや毎年、咲って手作りのチョコくれてたよなー。うん、ありがたい話だぜ」

咲「感謝してよねー……。チョコ、まだあるから食べてね。ハイ京ちゃん、ア~ン」

京太郎「アーン」

咲「ウン、素直でよろしい♪どうかな、それはちょこっとだけ香り付けでブランデーを利かせてみたんだけど」

京太郎「うん、美味しい美味しい。ちょこっと癖はあるけど……まあ、そこは咲さん作ってことで」

咲「あ、ヒドイ、そんなこと言うんだ」

京太郎「アハハ、冗談冗談」

咲「も~……ハイ、じゃあ次はコレね。コレは自信作なんだから!」

京太郎「おお、チョコが麻雀牌……しかも一索模様!すばらだぜっ、咲!」

咲「フフーン、どうだ驚いたか。ハイ、アーン」

京太郎「モグ――――いやぁ、ウマイ。サンキューな、咲」

咲「どういたしまして♪」









久「なにやってんのかしらねー、あの二人」

まこ「お互い、周りの状況をガン無視で二人の世界に浸っとるのー」

久「あれでまだ二人とも中学の頃からの友達のつもりなのかしら……?」

まこ「いやぁ?ありゃわかってないだけで、どっから見てもバカップルじゃろ」

久「よねー……対局で跳ばしてやろうかしら、二人とも」

まこ「――――無理じゃろ、もう……」

久「…………色々とメゲるわ」

まこ「そうじゃのー」




咲編……カン!