/ 雨に打たれて文学乙女


「……雨、止まないね」

肩が触れ合う程の距離で、咲は隣で傘を持つ京太郎に言った。
学校が終わり下校時刻となった時、ぽつぽつ、と突然と降り出した雨はとても強い。
降り頻る雨水から二人を隠す、一人ならば問題ないだろうサイズの大きな傘も、二人を覆うには少しばかり小さかった。

「ああ、止まないなぁ……」

まいったなこれ、と京太郎は透明なビニール傘越しに空を眺めては言った。

「ごめんね京ちゃん……」

咲は申し訳なさそうに言う。
視線の先は京太郎と咲、お互いが触れ合わせた肩とは逆の肩だった。

「私のせいで……肩が濡れちゃってるね」
「……気にすんなよ」
「でも、私は傘なんか持って来てなかったし、元々この傘だって京ちゃんのだから……」

やっぱり気にするよ、と言って咲は俯いてしまった。
その言葉に、京太郎は一瞬の間だけ眉を八の字に曲げると、

「俺の方が咲よりデカイんだし、こーゆー時は男が濡れるのが相場ってもんだ。それに、女の子を庇って濡れるとか……格好良いだろ?」
「うん、そうだね……京ちゃんは優しいからね」

そう言って咲は顔を上げ、態とらしく笑う京太郎を見つめた。
すると京太郎は途端に恥ずかしくなったのか、慌てて咲の視線から顔を反らした。

「ん……ま、まあな。俺は女の子には優しいからな……」
「あ、京ちゃん。今、照れてるでしょ?」
「バ、バーカ。俺が咲相手に何を照れるってんだよ」

勘違いすんなよ、と顔を反らせたまま京太郎は言った。
その姿に、相変わらず不器用だなぁ、と咲は京太郎を見上げながら思った。

―――だから、こんなに惹かれてしまったのかも知れない。

初めて会った時は無かったはずの感情は、日に日に確かな形となり熱を帯びて行った。
他人は友人に変わり、友情は愛情になった。
不器用なこの人といつまでも一緒に居たいと、そう思える様になった。
でも少しだけ―――後少しだけ近付きたいな、と咲はそう願う様になった。

「じゃあ、仕方ないからそうゆー事にしとくよ」

クス、と小さく笑いながら咲は空を見た。
二人に降り注ぐ俄か雨は止まないまま、止む気配も伺わせないまま降り続ける。
路地を濡らし空を曇らせ、今も傘からはみ出した京太郎の肩を濡らす。
空を眺めながらもさりげなく目を向けた先には、雨水に晒され黒く染みになった制服の肩口。
それを視界に捉えると、咲は途端に申し訳のない気持ちになる。
しかし同時に、けれど―――、と咲は胸の内に想いを溢した。

“私は今、恋をしています”
“肩が触れ合う距離に大好きな人が居ます”
“これって、幸せな事だと思います”

だから―――と咲は優しげな表情を浮かべて京太郎に言うのだ。

「……ねえ、京ちゃん」
「ん、どーした咲?」
「その、ね……」
「……何だよ?」
「その……だ、だからね……い、いつも一緒に居てくれて……あ、ありがとうね」

―――今はもう少しだけ、この人と雨に打たれて居たいと思います。