【龍門渕高校】

ガードマン「やあっ、キョウじゃない。今日もお嬢様に会いにきたのかい!」(HAHAHA

京太郎「ひぃ……え、ええ、まあ」

ガードマン「フフ、いつまで経っても君はシャイなままだね!」(大胸筋が震え……歯が煌めく……!

京太郎(しかたねーし!ボディビルも真っ青な修羅の国ばりの体格した人に笑いかけられたら引くっつーの!)

ガードマン「まあいい、通るといいさ」(クイッ

京太郎「は、はい……」



龍門渕生徒「あら、須賀さん、ごきげんよう」

京太郎「あ、どもっす」

龍門渕教師「また来たのかね……まったく、理事長のお孫さんは……」(ブツブツ

京太郎「アハッ、アハハ、すみませーん」(脱兎


京太郎「―――うーむ、すっかり龍門渕に馴染んでしまった感があるぜ……」



【龍門渕高校麻雀部】

京太郎「お邪魔しまーす」

透華「ぁ……」(ビクッ

一「あ、す、須賀くん、遅かったね」

智紀「…………」

純「よっ」

京太郎「え、と……?」

異様な空気……。
いつもは和気藹々とした龍門渕高校麻雀部に立ち込める暗雲……!

京太郎「なにかあったんですか?その、なんていうか、みんな落ち込んでるよーな……」

一「ア、アハハ、ちょっと、ね……」

智紀「ついさっきまで怒られてたところ」

京太郎「怒られてたって、誰にですか?」

透華「…………今日は気分が優れないので、帰らせていただきますわ」

一「あっ、ちょっと透華!?」

智紀「……追いかける」

一「う、うん、そーだね!えっと、悪いんださど須賀くんは留守番してて!詳しく話は純くんに聞けば、だいたい分かると思うから……!」

京太郎「へ?あ、は、はい……?」(ナニガナニヤラ

純「いやなぁ、まあ色々あったんだよ」

京太郎「その、気のせいじゃなかったらですけど……透華さん、泣いた跡……」

純「……なあ、京太郎。お前さ――」

京太郎「はい」

――――透華に許嫁がいるって聞かされたらどーする?

京太郎「…………ハイ?」

純から飛び出した言葉に、京太郎があんぐりと口を開けた間抜け面を晒す。


これが始まり……。
後に関係者から【糖華事件】と呼ばれる、騒ぐだけ騒いで後片付けを怠って後々、さらに面倒な話の切っ掛けとなる事の始まり――




……結局その日、京太郎の前に透華が姿を現すことはなかった。

翌日、清澄高校麻雀部。

京太郎(昨日の純さんの話が気になって眠れなかったぜ……)

咲(京ちゃん、朝からぼーっとしてるけど、どうしたんだろ……)

和(須賀君、元気ないですね)

京太郎、精彩を欠いているっ……!
牌に乗っていない、魂が……!

咲「あっ、カン!」

優希「ふえぇっ!?」

咲(つぎのドラ牌をカンしたら、リンシャンカイホウでツモ和了り……!)

和(宮永さん、勝負に出ましたね……でも!)

京太郎の不調和が気にはなるが、今は対局中。
話はそれが終わってから。

京太郎(うーむ、透華さんに許嫁……。許嫁ってあれだよな、どっかの地方に伝わる伝説の漬け物なんてボケじゃなくて、本当に字そのままの許嫁だよなあ……)

咲や和が思考を切り替えて対局に没入する中、一人場の流れに浮かびながら山へ手を伸ばす。
何故こうも気にかかっているのか、モヤモヤしながらのツモ。

まこ「ホンマに京太郎の奴、どうしたんじゃ?気もそぞろな感じなんじゃが……」

久「大会も近いっていうのに困ったわねー」

先輩二人が顔を見合わせ、懸念を抱く。
が、それを杞憂と嘲笑うかのように京太郎が牌を倒した。

九九一二三・123・?????つ?

京太郎「あー、ツモ。門前・純チャン・三色・裏……乗ってドラ5で三倍満?6000・12000」

優希「じぇええええ!?お、親っかぶり……」

咲「は、張ってたの……!?」

和「そんな……この手を鳴かずにツモ和了り」

京太郎「あ、次俺が親か………………あ、それロン」

咲「ふ、ふえぇっ!?」

和「清一色を……三巡目で……?こ、こんなオカルトありえませんっ!」

まこ「…………のう」

久「……なに?」

京太郎「んー…………おぉ、ツモ。8000オール」

咲和優「ええぇぇぇー……」

まこ「あっちの状態の方が、普段の数倍えげつないんじゃが、アレはどうしたもんかの?」

久「私、いま一瞬だけ、大会終わるまで須賀君があのままなら……って考えちゃった……最低よね」(めげるわ


京太郎「ツモ……あ、役満だコレ。大三元か、初めて作ったぜー……」

咲和優「なん……だと……」(ざわ……ざわ……


まこ「いや……気持ちは分からんでもないがの……」

京太郎自身、どうしてこうも気が散ってしまうのか理解できぬまま時は過ぎていく。
刻一刻と、関係者を混乱の渦へと巻き込みながら。
その渦の底に待っているものの正体を知るものは、不幸なことにまだ誰もいなかった。




透華「……………………」(ゴロゴロ

一「いい加減さ、そろそろ機嫌直そうよトーカ」

透華「べっつに拗ねてなんておりませんわっ……!」

智紀「とてもそうには思えません……」

純「おーっす、透華の奴、まだ不貞腐れてさがんの?」

衣「フフフ、今日は衣の方から会いにきてやったぞ……!」(ざわ……ざわ……

純「そうやってすぐに人の真似してんじゃねーよ……」

純、衣が辺りに生み出した「ざわ……」を、手で追い払う……!
少女を、元のいたいけな外見へと引っ張り戻すっ……!

衣「アァッ!?衣のざわざわがー!」

一「いつの間に名前つけたのさ……」

智紀「……彼に言っといた方がいい?」

一「えー?ああ……うん、一応ね。なにかっていうと、最近はすぐにあの真面目顔になるから……」

一「須賀くんとか衣の顔が濃いまま固定されたら困るもん。ねえ、透華?」

透華「…………そうですわね」

衣「衣はあっちの京たろーも嫌いではないぞ?あちらの方が衣の遊び相手には申し分ない」

純「いや、麻雀やってる時以外にあれじゃ困んだろ。顎とか鼻危ねーって、アレ」

智紀「ある意味、凶器」

一(一応、みんな同じ風に見えてるんだ……うーむ、手品として考えると面白いよね、確かに)

純「てかさ、マジでどーなってるわけ?話しておいてって言われたから、透華に許嫁がおるとか、その辺りは聞かせたけど」

透華「きょ、京太郎に話したんですの!?」

純「あ、ああ、まあな」

透華「…………そ、それで、なんて?」

純「いや、特に何も。え、って言ってポカーンって顔したまま帰ってったぜ、昨日は」

純「なに聞いても上の空でさ、参ったぜまったく」

一「ふーん、上の空……か」

智紀「脈あり?」

一「分かんない。須賀くんの大きなオッパイ好きは筋金入りだからね」

智紀「……」(ササッ

透華「そこで私を見ながら胸を隠すのやめていただけませんか!?」

一「フフ……でも、まあ――――確かめてみる価値はある、かな?」

純「なんか思いついたのかよ、国広くん」

一「まあねー。透華が理事長に啖呵切っちゃった手前、できるだけ早く手は打っておかないとね」

一「というわけで萩原さん、準備はオーケー?」

ハギヨシ「須賀様を利用する点は些か不本意ですが……手筈は万事抜かりありません」

一「さすが……っていうか、今回の件で一番乗り気なの、絶対に萩原さんだよね」

ハギヨシ「いえいえ、そんなまさか」(背中に巨大旅行バッグ

ハギヨシ「では私は出掛けて参りますので、少しの間、透華お嬢様達のことをよろしくお願いいたします」(シュタッ

衣「おお、さすがだなハギヨシ!まるで忍者のよーだ!」

純「忍者でもあんな荷物背負って消えたりできねえよ……」





京太郎「それじゃ、帰ります」(ざわ……ざわ……

久「え、ええ……」

まこ「く、車に気を付けるんじゃぞ。ああ、あと人にぶつからんようになっ」

京太郎「わかりました……?」(ざわっ……ざわ……

咲「アハハ、ま、負けちゃった…………今日の京ちゃん、絶対に変だった。あんな打ち方、京ちゃんじゃないよぅ……!」(ポロ……ポロ……

和「おお、落ち着いてください!……でも、宮永の言う通りですね。本来であれば、須賀君の成長を喜ぶところなんですけど……」

優希「東場で私を一回も和了らせない……く、狂ってやがるじぇっ!」(ざわ……ざわ……

久「(なんか感染し始めてるし)これは色々問題よねえ」

まこ「昨日は変わったとこなかったはずじゃがのう」

久「……となると、原因はあそこかしら」

まこ「龍門渕がか?何ぞ事件でも起きとるんかのう、あちらさん」

久「さあ……?」

まこの疑問に、さすがにそこまでは分からないと、久は肩を竦めた。


えてして、事件というものは、誰かが「まさか、そんなことはありえない」と考える時に起こるものである。
事件の全てが、映画の演出術でも学んでいるのかと問いたくなる絶妙なタイミングで、須賀京太郎は事件の渦中に呑み込まれて…………いや、放り込まれていた。
後から考えてみれば、それはただの身投げに等しい、完全に彼の過失による行為であったかもしれないのだが。

京太郎「じゃあ、今日も透華さん、部には来ないんですか……」

智紀「理事長……お祖父さんに、きちんと納得できる答え
を持ってこい、って言われたから……」

純「まあ、あれでいいとこのお嬢様だし、許嫁候補ってのがわんさかいたこともあんだけどさ、あいつそのほっとんどを突っぱねてたんだよ」

純「あれやこれや理由はあったけど、まあだいたいが麻雀一つできない男、興味ありませんわー、ってな」

京太郎(ありませんわー、ってお嬢様言葉が純さんが口にした途端、ひどくオッサンっぽく……!?)

智紀「…………クッ」(ブルブル

純「…………ここは流せよ」(カッ

京智「ごめんなさい」

それとなく落ち込んでいた場が和む。
笑ったことで肩の力が抜けたのか、純が背もたれに身を預け、ギシリと椅子を軋ませながら話す。

純「んでさ、孫娘の好きにさせてたじいさんも、いい加減しびれを切らしたみたいでよ。なら、お前の希望通りの男を連れてきたぞー、となったわけだ」

智紀「去年の長野県予選個人戦優勝者で、全国大会でも優秀な成績だった人……」

純「今度ばっかは、俺が男のフリしてご破談にするのも難しそうなんだよなー。なんか昔馴染みの後継者だなんだで」

智紀「県予選までに、この人なら自分の将来を懸けた勝負でも任せられるって人を連れてきて……」

純「そいつが県予選で、少なくともそいつよりいい成績を残したら、この話はなかったことにしてやってもいい―――っつーわけだ」

京太郎「はあ…………お金持ちって大変なんですね」

交互に説明してくれる純と智紀の間で視線を右往左往させながら、小学生並の感想を口にする。
正直、話のスケールが大きすぎて頭が追いついていなかった。
そんな京太郎の両肩に置かれる二つの手。

純「だから、さ……」

智紀「お願いが、ある」

京太郎「――――へ?」

不思議そうに向けた視線の先にあったのは、さっきまでとは一変して、残された最後の望みを託す真剣な表情。

純「ホントはこーいうの、透華からお願いすんのが筋なんだろうけどさ」

智紀「迷惑がられるのが嫌で言えなかった……」

自分の問題で助けを求めて、迷惑がられると思った。
それはとどのつまり――――信頼されてなかったということか。
両肩に置かれた手を掴み、伏せていた顔を上げる。


純「お、おい?」

智紀「え……」

京太郎「その相手よりいい成績を残せばいい……?馬鹿にしないでください」

二人の手を肩から外す。

京太郎「ただ勝てばいい……」

透華の婚約者候補の話を聞いてから妙にぼやけていた頭がすっきりしていた。

京太郎「対局した奴、全部倒して優勝する……ただそれだけのこと」

ざわ……、と辺りの空気が震えた。

京太郎「県予選……端から負ける気なんてなしっ……」

純「――京太郎……やっぱそうこなくっちゃな!」

智紀「そう……ありがとう」

京太郎「フフッ、構いませんよ。勝って、勝って、勝ち抜いて……一番に相談するのを躊躇ったこと、透華さんに謝ってもらいますからっ……!」

京太郎「面白い……これだから麻雀は面白いっ……。今なら分かるっ……姉ちゃんに会うために頑張る咲の気持ちが……!」

充実しているっ……心が、貪欲な勝利を求めて……!


透華「……………………」

一「――――だってさ。須賀くん怒らせちゃったみたいだね、透華ってば」

透華「だって、それはっ…………京太郎に迷惑がられたら、その、私が嫌……でしたし」

一「そんな嬉しそうな顔で言われても説得力ないなー。ホントはいっち番最初に頼りたかったくせにー」(ケラケラ

衣「万事塞翁が馬だな!」

一「ああー、確かにそうかも。これってもう、個別ルートの最終イベントだもんね」

透華「な、なんの例えですの、それ!?」

一「さあねー。あー、熱い熱い、真っ赤な透華の顔が熱いよー」

衣「うむ!微笑ましいな、とーかよ!」

透華「う、うぅ……あ、あまりからかわないでくださいまし……!」(脱兎

一「あ、逃げた」

透華「うきゅう!?」(ビターン

衣「転んだぞ」

一「須賀くんも罪な男だよねー。もうこれ、エンディング回避不可能じゃないかな」