一「あ~あ、透華ってば走ってどこかに行っちゃったよー」

京太郎「あ、あのっ、本当にさっき衣さんが言ってたことは誤解で――」

一「はいはい、分かってるから。っていうか、オッパイ大好きな須賀くんが衣を口説くなんて思ってないって」

京太郎「な、なんで知ってるんですか!?」

一「いや、そこで予想もしなかったって顔されても困るんだけど」

ハギヨシ「須賀様……」

京太郎「え?えぇ?」

呆れ返った一さんの言葉にうろたえてた俺に、ハギヨシさんが近付いてきて頭を下げる。

ハギヨシ「……申し訳ありませんが、透華お嬢様を連れてきていただけませんでしょうか?私はこれから皆様の昼食の準備をしなければなりませんし、今回は須賀様に取り成していただいた方が問題がスムーズに解決するはずですので」

京太郎「は、はあ……」

一「そだねー。っていっても、透華が拗ねてどっか行っちゃったのも須賀くんが原因なんだけどさ」

純「どーでもいーから早く飯にしよーぜー」

智紀「透華が戻ってくるまでお預け」

純「え~、マジかよ。おい京太郎、さっさと透華引き摺ってこい!」(ゲシッ、ゲシッ

京太郎「い、痛っ、蹴らないでくださいよ!?分かったから、分かりましたから!」

純さんの蹴りに追い立てられるようにその場を離れる。
肩越しに恨めしげな視線を送ってみたが、返ってきたのはハギヨシさんや一さんのすばらなスマイルぐらいだった。

「龍門渕さんを捜して、って言われてもなあ……」

下手な球場よりも広い敷地の中、龍門渕さんを見つけ出すのは至難の業な気がする。

京太郎「とりあえず、適当に思いついた場所を捜してみようか」


――――それにしても俺、最近龍門渕さんを怒らせてばかりな気がするな。

京太郎「麻雀教えてもらったり、色々よくしてもらってるのに申し訳ないぜ」



京太郎「それで……思いつく限りの場所は捜したんだけど、龍門渕さんの姿がどこにも見えねえ」

一通り見て回ったはずなんだけど、それで発見できないってことは……どこだ。

京太郎「まさか帰っちゃった、ってことはないだろうし――――ん?」(ムゥ~ン

腕組みして頭を悩ませていた時、ふと背後に違和感を感じてそちらの方へ耳を傾けてみる。

京太郎(あれ、このやけに不機嫌そうな声って……)



???「フ、フン、さっきから同じところをグルグルと……真面目に捜す気がありますの、京太郎は!?」

京太郎「……………………」

後ろの方に並んでいる自動販売機と自動販売機の間。
そこにすっぽり挟まる形で隠れている人に、どうしようもなく見覚えがあった。

???「ちょっとみんなが気になって戻ってみたら、私のことを捜しにいったまま帰ってこないと聞いて心配してみれば……」(ブツブツ

京太郎「龍門渕さん、見つけましたよ」

透華「ふえっ!?ど、どうして気付きましたの!?」

京太郎「どうしてって、そんな場所でブツクサ言ってたら気付きもしますって」

貧にゅ――スレンダーな体をしている龍門渕さんとはいえ、やっぱり自販機の間は狭かったんだろう、モゾモゾズリズリと隙間から抜け出した後、いつもの調子でふんぞり返って断言してくれた。

京太郎「あそこでなにやってるんですか……」

透華「なにをやってるか?フン、そんなもの決まってるでしょう、私のことを捜し回っている京太郎に気付かれないよう尾行ですわ!」

透華「べ、別に?急に走って逃げた手前、気まずくて声をかけられなかったわけではありませんわよ!?」

京太郎「は、はあ、そうなんですか」

透華「……な、なんですの!?私が嘘をついてるとでも!?」

京太郎「いやいや、そんなこと思ってませんて!絶対に、誓います!」

透華「っ…………な、なら……許し、ますわ」

自分でも相当無理のある言い訳だと――――とにかくまあ、俺の誓うという言葉に納得してくれたはいいが、それっきり龍門渕さんは俯いてしまう。
やっぱり恥ずかしかったに違いない。黙りこくったまま、顔を真っ赤にして肩を震わせている姿は……どう表現すればいいのか、妙に庇護欲をそそられるというか。

京太郎(そう、あれだ、優柔不断な時の咲に似た感じだ)

直接、口にすると洒落にならない爆弾になる予感がしたので、あくまで心の中でだけ呟いておく。

透華「………………わ、悪かったですわ。どうでもいいことに目くじら立てて、当たり散らした挙句、逃げ出したこと」

京太郎「ハハ、あ、あんま気にしてないから無問題です」(モーマンターイ

透華「私がそれでは納得いかないから謝ってるんですわ。だからそこは素直に感謝しておけばいいのです!」

何だかんだで責任感とかが強い龍門渕さんらしい言葉。
まだ顔が赤かったり、そっぽを向きながらだったりするせいで威厳は微塵もないけど、それの代わりを果たすナニカは十分に秘めている――はずだ。

透華「じゃ、じゃあさっさと戻りますわよ!ハギヨシが食事を用意してますし、純が早くご飯を食べさせろとうるさかったですし!」

そう言って踵を返して、ハギヨシさん達が待っている場所へ戻ろうとする龍門渕さんに、ふとした悪戯心が湧き上がる。
言っても大丈夫なのかという不安はあったけど、この広いプール施設を捜し回らされたことへの小さな意趣返しいうことにしておこう。

京太郎「心得ました、お姫様」

透華「――――――ッ、ハ、なにっ、ぇ!?」

なにふざけたことを言ってるんだ、ぐらいの反応が返ってくると思っていたんだけど、コレはもしかして失敗したか?
ギョッとした顔でこっちを凝視して固まった龍門渕さんの顔、そして体と一気に赤く染まっていく。

透華「きょ、京太郎、あ、あななた、いき、いきなり何を言って……!?」

京太郎「え、や、アハハッ、すみません、ちょっとしたジョークのつもりだったんです……!」

透華「え……ジョー、ク?」

京太郎「そ、そう、ジョーク、俺の友達相手にたま~に言うリップサービスっていうか!」

透華「そ、そうでしたの――――ん、友達?」

透華「京太郎、その友達っていうのは……」

京太郎「え?あ、まあ当然のように女の子ですけど。さすがに男相手にお姫様、なんて言いませんしね」

透華「あっ、当たり前ですわ!何をたわけたことを言ってますの!?」(ショボン

京太郎(声の大きさと反比例するように、頭上の髪の毛が萎れちゃってる……)





透華「そういえば、京太郎に一つだけ聞きたいことがありましたわ」

京太郎「え、なんですか?」

もうちょっとでハギヨシさん達の姿が確認できる距離まできたところで、ションボリと落ち込み気味に歩いていた龍門渕さんに質問を投げかけられた。

透華「衣達は名前で呼んでますが……そ、その、どうしていまだに私のことは苗字で呼ぶのですか?」(オズオズ

透華「も、もしかして密かに私のことが苦手だったりしますの?」(オドオド

京太郎「いやいやっ、そんなわけないですよ!これって理由もないんですけど、呼び慣れた感じがするから――――」

透華「そう、そんな理由でしたのね」

ホッと貧そ――フラットな胸を撫で下ろして顔を上げた龍門渕さんは、いつもの自信に溢れた力強い顔をしていた。

透華「それでは命じますわ、京太郎。私のことは今後、『透華』と呼ぶこと!これを守らないのなら、もう麻雀は教えませんわよ」

京太郎「え、ええっ?どうしたんですか急に……」

透華「どうしたもこうしたもありませんわ!私だけ仲間はずれな呼び方が我慢できませんもの!!」

透華「感謝なさい、この龍門渕透華の名を呼べる男性は、父やハギヨシを除けば京太郎、あなたが初めてですわよ!」

京太郎「は、はあ、それは光栄なことですね。ありがとうございます、龍も……透華さん」

透華「――――――」

京太郎「透華さん?」

透華「―――――も、もう一回呼んでみなさい」

京太郎「透華さん」

透華「…………フフ、フッフッフッフ!!」

京太郎「いきなりニヤニヤしだして……怖いですよ」

透華「フフフフッ、オーッホッホッホッホ!」

京太郎「おお、いかにもお嬢様な笑い……生まれて初めて見た」

よく分からないけど、とにかく透華さんの機嫌も直ったことだし良しとしておこう。


透華「遅くなりましたわ。さあ、今日も張り切って練習に励みますわよ!」

衣「意気軒昴か、心地好き気炎なるぞトーカ!」

一「最近透華、いつも以上に気合入ってるよねー」

純「まあいいんじゃねーの?県予選も近いんだし」

智紀「残り一ヶ月、ぐらい」

透華「去年の雪辱を果たすためにも、県予選は確実に突破しないといけませんわ」

純「そーだな、去年の借りは返してえよな」

一「前とは違うってこと、全国に教えてあげないとね」

智紀「全国強豪の牌譜は揃えてる」

衣「フッ……衣達とまともに打ち合うことを恐れ、他校を跳ばすことに腐心した軟弱者共を、今年こそ黄泉路に叩き落としてくれる!」

透華「ええ、ええ……!必ずや勝ちましょう。県予選を勝ち抜き、そしてまた私達全員揃って東京へ――――?」(ハテナ

透華「……ところで、京太郎の姿が見えませんけど、今日はまだ来てませんの?」

純「京太郎の奴なら、県予選近いからしばらく清澄の麻雀部の方に専念するって言ってたぜ?」

透華「え?」

衣「業腹だぞー!せっかく京たろーも衣が遊んでやれる程度になってきたのにー」

智紀「男子三日会わざれば刮目して見よ」

一「意外とここで出稽古する必要ないぐらい強くなっちゃったりねー」

透華「フ、フフン、そんなオカルトありえませんわ」

一「そっかなー?」

透華「そうですとも、ええそうに決まってますわ!」

透華「ま、まあ、大事な大会ですし、元々所属している部で練習するのは当然のことですけど……それで、そのー……」(ミョミョミョ

一「(おー、アホ毛がソワソワしてるよ……)ああ、次ここに来るのはいつか?」

透華「え、ええ、まあ?京太郎はこちらが招いた客人ですし、そう、そのぐらい把握しておきませんと、ねえ?」(シャッキリ!

一「(我が意を得たり、かな?)えっとね、たぶん県予選終わるまでは来ないんじゃないかなー」

透華「……え?」

智紀「連休に合宿に行ったり、いろいろしなきゃって言ってた」

純「そういやそれの準備が大変だー、ってちょっと前にぼやいてたなぁ」

透華「…………ええ?」

一「あれ?聞いてなかったっけ」

衣「前に皆でプールに行った時に聞いたぞ、衣も」

透華「………………えええ?」

純「そーいやあん時、なんかやり遂げてやったぜってドヤ顔でずっとニヤついてたもんな、お前」

智紀「右から左?」

透華「た、たぶん」(ショビーン

一「あー、アホ毛が萎れちゃった」(アチャー

純「おーい、ハギヨシー。透華の奴がまたへこみだしたぞー」

ハギヨシ「畏まりました。さ、透華お嬢様、カモミールティーをどうぞ。これで気を落ち着かせて県予選に向けての特訓に励んでくださいませ」

透華「あ、ありがとう、ハギヨシ……」

一「一応、須賀くんだって敵校の一員だしね、変に迷惑かけたくないとも言ってたよ」

純「清澄とか今年初参加の無名もいいとこなんだから、そんなもん気にしなくていいんじゃねーの、とは言ったけどなー」

智紀「油断は禁物」

衣「フン、手の内の一つや二つ知られたところで、有象無象相手に衣達の勝利は揺るぎなし!」

一「そりゃ、衣はそーだろうけどね。県予選当日はほぼ満月になるはずだし」

純「京太郎にゃ悪いが、今年も俺らが県予選頂きだな」

智紀「必ず勝つ」

衣「オー!!」