一「――――というわけで、この間の買い物の目的はココで使用するための一式でしたー」

一「真夏の砂浜に、押しては返す波まで完全再現した巨大プール施設のチケットを格安で手に入れちゃってね。これはもう来るしかないと思ったのさ」

智紀「わー、パチパチ」

純「おーい、大丈夫か京太郎~?」

京太郎「ゼーハー……だ、大丈夫、です……」(両肩にクーラーボックス+背中にデカリュック

ハギヨシ「申し訳ありません、須賀様……」(デカランチボックス提げ+ビーチパラソル背負い等々

京太郎「いえ、ハギヨシさんに比べたら全然楽……ですから」

京太郎「っていうかココに着ても執事服のまんまなんですね、暑くないんですか!?ここ、真夏のビーチを再現してるって話ですけど……」

ハギヨシ「ハハハ、問題ございません」

ハギヨシ「私はあくまで執事ですから」(キリッ

京太郎(カ、カッケ~……)



衣「おおお~、凄いぞ、実に雄渾壮大な施設だ!」

一「衣はこーいうとこ初めてだったっけ?今日は思いっきり楽しんじゃってよ」

衣「無論!!透華、早く着替えに行こう!」

透華「え、ええっ、わか、分かりましたわ……!」

京太郎「龍門渕さん、朝から調子悪そうだけど大丈夫なんですか?」

透華「も、問題なんて何一つありませんわ!ええ、あるものですか!!」(真っ赤

透華「さ、さあ着替えに行きますわよ衣!」(ズッタカズッタカ

衣「おー!」

一「それじゃあ、ボクらはあっちで着替えてくるよ」

純「陣地取りは任せたぜー」

智紀「行ってきます」

京太郎「さってと、コレはここでコイツはあの辺でいいか」

ハギヨシ「須賀様――ここの準備は私がやっておきますので、水着に着替えてきてくださいませ」

京太郎「え、でも……」

ハギヨシ「どうかお気遣いなく。むしろこの場では須賀様も皆さまと一緒に楽しんでいただけることが、私にとって一番の気遣いになりますので」(ニッコリ

京太郎「そ、そうですかね?じゃあ……お言葉に甘えて俺も!」

ハギヨシ「ハイ」



ハギヨシ「透華お嬢様、出過ぎた真似をして申し訳ありません……」



衣「京たろー、待たせたな!!」

京太郎「いや、全然待ってないですよー。俺も着替えて今戻ってきたところだし」

衣「おー、京たろーも準備万端か!よし、だったら衣が一緒に遊ぼうじゃないか!」

一「あ、ちょっと衣――」

京太郎「それは心強いですね。よーし、分かりました!衣さん、一緒にここを遊びつくしましょう!!」

衣「ここは物情騒然、衣とはぐれないよう注意するんだぞ京たろー!」

衣「まずはあそこだ、あそこにあるおっきな滑り台で遊びたい!!」(手を引っ張ってグイグイ

京太郎「了解しました!と、というわけで俺、衣さんとその辺ブラついてきますから、みなさんも楽しんできてくださいね」

衣「京たろー、何してる、早く早く!!」



一「あーぁ、行っちゃった……」

ハギヨシ「国広さん、透華お嬢様はどちらに?」

一「んっとねー、着替えたまではよかったんだけど、土壇場になって水着姿を見られるのが恥ずかしいって逃げ出そうとして――――」

ハギヨシ「さ、左様でございましたか」

一「そろそろ、純くんとともきーのコンビに捕まって引っ張ってこられるんじゃないかなー」


透華「い、いい加減、手を離しなさい純!こんなことしなくても……しなくても一人で……ぜ、絶対に大丈夫ですから、たぶん」

純「んな弱々しく誓われても信用できねーって。つーか、そんなこと言うなら智紀にプロファイリングされなきゃ見つけらんねー場所まで逃げんなってーの!」

智紀「かなり、手こずった」

一「おかえりー、透華」

透華「ぁ、うぅ……」(モジモジコソコソ

透華「フ、フフンッ、お待たせしましたわ!」

透華「折角こういった場所に来たのです、ひ、暇潰しに付き合いなさい京太郎――――あら?一、京太郎はまだ着替えから戻っていないませんの?」

一「ごめーん、透華。須賀くん、もう衣に持ってかれちゃった」

透華「――――――――」(ヘニョリ

一「あ、頭頂の触角がしおれた……」

純「ウダウダやってるから、痺れ切らして行っちまったんだな。まあ腹減ったら戻ってくるだろうし、俺達も好きに泳いどこーぜ」

智紀「たぶん透華は、それが目的じゃなかった」

透華「いいですわ、純……一も智紀も、好きに遊んできなさい。私はここで休んどきますわ」(トボトボ

一「あ、ちょっと透華!?」

純「なんだ、アイツ?朝から落ち着きなかったし、やっぱ体調悪かったのか」

智紀「フラグが……折れたから」

純「ふーん?」


衣「京たろー、次はアレだ、アレに挑戦するぞ!!」

京太郎「ア、アレですか」

衣さんの指差した先にあったのは、グルグルウネウネと捻じりくねった巨大なウォータースライダー。

京太郎「あの、本当にアレに挑戦するんですか?」

衣「無論!どうした京たろー、臆したのか?」(フフン

京太郎「え、ええ、まあ……」

チラリと見た看板に書かれている「心臓の弱い方・ご老人のお客様の利用はご遠慮ください」の文字を確認してから頷く。
楽しそうにしている衣さんには悪いけど、ここは駄目な気がする。

京太郎「あ、さっき滑る系のアトラクションは楽しんだし、次は……そうだ、流れるプールとかどうです?」

衣「むう、衣はアレがいいんだ!」

京太郎「ええ~……まあ、衣さんがいいんでしたら構わないんですけど」

こんなに楽しそうにしてるんだし、もう衣さんの好きにしてもらっていいんじゃないかな――――そう考えてた時が俺にもありました、なんて嘆くことになったのはそのすぐ後のことだった。




衣「よ、よし、衣の心の準備はできたぞ……!」(ガクブル

京太郎「あ、あの、ホントにやるんですか?ものすっごく震えてるのに……」

衣「フ、フフ、震えてなんかない!これは武者震いだ!!」

京太郎「日本語って便利だなあー」

ウォータースライダーの順番待ちの列に並んだ時に出された係員さんの指示。
それは、衣さんの体格だと途中でコースから飛び出してしまう危険がなきにしもあらずだから、しっかり抱きしめて一緒に滑ってあげてください、ということだった。
そんな危険な施設を年齢制限も身長制限もなしに開放してるのはどうなのかと思ったけど、そこはまあ諸般の事情という奴があるのだろう。
かくして今の俺は、足の間に座る衣さんの腰を抱いてウォータースライダーの入口で待機していた。

衣「は、はは、なかなか楽しめそうじゃあないか。い、いいか京たろー、離すなよ?絶対に衣のことを離すんじゃないぞ!?」

京太郎「ハイハイ、分かってますって……」

いざ入口に来て、眼下に見える人が大き目の豆粒程度な高さであることに驚いたのだろう。
腕の中で震えている衣さんを安心させるために、ほんの少し腕に力を込めて抱き寄せる。

衣「ぁぅ……」

京太郎「大丈夫ですよ、ちゃんとこうして衣さんのこと抱きしめておきますから」

ちょびっとばかし臭いなとは思ったけど、まあ相手は衣さんだし問題ないだろう、たぶん。
内心、今腕の中にいるのが和だったり智紀さんだったりすれば、あの魅惑的なお餅が腕に触れて得も言われぬ快感を味わえたりしたんだろうな、と考えたり。
俺だって健全な男子高校生なわけでして、そうした幻想を抱いてしまうのは仕方のないこととして諦めてほしい。

京太郎(にしても、高っけ~……これその辺のビルよか高いだろ~)

係員「それじゃあ、押しますよー」

京太郎「はーい」

衣「あ、あわわわ……!」

ウォータースライダーの中に押し込むための合図。
腕の中で衣さんが目を瞑って、体を強張らせる。
背中に衝撃。

京太郎「おおわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

衣「ヒヤアァァァァァァァアァァァァッ!?」

そして俺と衣さんは――――――その日、流れ星の気持ちを少しだけ理解した。



衣「うぅ、グスッ……」

一「あ、帰ってきたみたいだよー……ってどうしたの、衣!?」

京太郎「い、いや、ちょっと……ウォータースライダーで――」


一「えっと……何があったの?」

衣「京たろーが嘘ついたんだー、衣のこと抱きしめてるって約束したのにー」(メソメソ

一「は?」

京太郎「ちょっと、人聞きの悪いこと言わないでくださいよ!!」

透華「えっと……どういう、ことですの?」(ガタブル

透華「あ、遊びに来て早々、衣とばっかり遊んでたと思ったら……抱きしめてるって、え?何なんですのそれ?」(ワナワナ

京太郎「りゅ、龍門渕さん?」

透華「きょ、京太郎――――ロリコンでしたのねーーーーーー!?」(脱兎

京太郎「なんて誤解をまねくことを!?っていうか龍門渕さん、龍門渕さーーーーん!?」

衣「ロリコン……?」

智紀「自分より年下の女の子にしか魅力を感じない人のこと。だから、ここでの使い方は間違ってる」

純「一応、衣って京太郎よか年上だしな……信じらんねーけど」

衣「衣は子供じゃないぞ!!」(プンスコ

〈ケース4・衣〉子供じゃない、ころもだ!END