和「ロン、8000です」

京太郎「ぐわー! またラスか~!!」

久「これで6連続ラスね……」

優希「いくらなんでも弱すぎだじぇ……」

まこ「お前さん、もうちっと頑張った方がいいんじゃないかのう。和ほど完璧にとは言わんがもう少し効率ってもんを理解するべきじゃな」

京太郎「うぅ、くそ~……」

咲「きょ、京ちゃん! 私が教えてあげるから落ち込まないで!」

久「……須賀君、とりあえずこれ読んどきなさい。麻雀の初心者から中級者まで幅広くカバーしてくれる本だから。これを見ながら、自分で牌を並べて打ってみなさい。誰かと対局するんじゃなくて、一人でじっくり考えながらね」

京太郎「それって一人で四家全部やれってことですか?」

久「ええ。とりあえず1週間やって、その後に私がテストしてあげるわ。それまでは部活ではもちろんネットでも対局しちゃ駄目よ」

京太郎「ええ、そんなぁ!」

久「この際だからはっきり言うけど、ここ数カ月でほとんど進歩がみられないのよね。あなた、何も考えずに打ってるでしょ」

京太郎「そ、そんなことありませんよ! 俺だってちゃんと考えて……」

久「ならさっきの一巡東切りは何? 同じ不要牌でも自風でもなんでもない西があるのにどうして東を切ったの?」

京太郎「それは……」

久「確かに先にそういった牌を処理する戦略もあるわ。他家の安牌を出来るだけ手に残しておいて、いざという時に凌げるようにする打ち方もね。でも、あなたのは違うでしょ?」

京太郎「はい……」

久「同じ不要牌でも価値が違うのよ。そんなことは少し考えればわかることだわ。そういう風に最初から最後まで、端から端まで考え抜くのが麻雀なの。あなたがただの遊びで麻雀をやってるなら私の言うことは無視してくれていいわ。部内での対局の機会は当然減らすことになるけど、一応打たせてはあげるから」

久「でも、あなたが本当に強くなりたいなら。まずは基本を押さえなさい。そして観察し、考えなさい。自分の手はもちろん、相手の捨て牌やツモ切りか手出しかどうか、時には相手の仕草さえも読み取って場を支配するの」

久「それが出来るようになった時、きっとあなたは和にも匹敵するくらいの打ち手になれるわ」

京太郎「部長……」

久「だからこの1週間、とにかく死ぬ気で頑張ってみなさい。テストに合格出来ればまた打たせてあげるし、ご褒美も上げるから、ね?」ナデナデ

京太郎「……はい! 頑張ります!」

まこ「……まぁ和ほど完璧に効率を考えられるようになるには山ほど時間が必要そうじゃがのう」ボソッ

咲「しーっ!それは言っちゃ駄目です!」ボソッ

和「……でも、本当に須賀君が突き詰めることが出来れば私くらいにはまれますよ」ボソッ

優希「それは流石に無理だじぇ」ボソッ

和「いえ、ありえないなんてことはありえません。私の打ち方はあくまでデジタルです。直感や運に頼らずに確認できるデータから打牌を決めるものですから、突き詰めれば誰もが同じ打ち方になるはずです。そこまで行けば、後は本当に運の勝負になります」

和「須賀君は確かに凡人です。彼はきっと咲さんやゆーきのようにはなれません。けど、本当に頑張ればきっと私のようにはなれるはずですよ」

まこ「でも時間がかかることには変わりないのう」

和「ふふ、それは確かにそうですけどね」

―――

~帰り道~
京太郎「対局禁止か……」

京太郎(……まぁ確かに6連続でラスになってるようじゃ練習相手にもならないよな)

京太郎「効率、か。考えてたつもりなんだけど、それじゃ足りなかったってことか。もしかしたら俺って今まで惰性で打ってきただけなのかもな」

京太郎「……よし、この一週間死ぬ気で頑張ってみるか!」

京太郎(……とはいうものの)

京太郎(俺なんかが頑張ったところで、本当に強くなんかなれるのか? そりゃ、今は咲達に敵わないのは仕方ないって思うけどさ。これから先勝てるようになるとは限らない訳だし……)ピリリ

京太郎「ん? メールか……」

【差出人:三尋木 咏
  件名:今度の日曜暇?
  内容:今度の日曜仕事で長野に行く予定なんだよね~。それで晩空いてるからさ、晩御飯でも食べに行かね?】

京太郎「お、三尋木さんからお誘いのメールだ」

京太郎(日曜か。俺も暇だし、麻雀のこと三尋木さんに相談してみるのもいいかもしれないな。あの人もプロだし)

京太郎「い、い、で、す、よっと」

―――

~料亭前~
京太郎「ここか……」

京太郎(え? なんかすっげぇ高級そうなとこじゃないか?)

京太郎「ま、まぁとにかく入ってみるか」ガラガラ

店員「いらっしゃいませ、おひとり様ですか?」

京太郎「あの~三尋木って人が先に来てると思うんですけど」

店員「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

京太郎「須賀です。須賀京太郎」

店員「少々お待ち下さい」タッタッタッ

京太郎「もう来てるって話だし大丈夫だよな?」

店員「確認が取れました。こちらへどうぞ」

―――

咏「お、やっと来た!」

京太郎「すいません、遅くなりました」

咏「まぁまぁ私も今来たところだからねぃ。という訳で待ち人が来たからいつもの料理運んできて」

店員「松コースですね。かしこまりました。こちらの方は学生さんのようですからお酒は……」

咏「あぁそのまま持ってきてよ。私が飲むからさー」

店員「かしこまりました。では、ごゆっくりとおくつろぎください」

京太郎「三尋木さんはよくここにくるんですか?」

咏「ここの天麩羅はおいしいから長野に来た時は必ず来るんだよね」

京太郎「へぇ~そりゃ楽しみです! でもここってかなり高いんじゃ……」

咏「梅コースで2万超えるから、学生にゃちーっとお高いかな?」

京太郎「に、2万!?」

咏「まぁ気にせんでいいよ~それくらいぽんと払えるぐらいには稼いでるからねぃ」

京太郎「プロ雀士ってすごい儲かるんですね……」

咏「ピンキリだけどな~。私は上位の方にいるから儲けてるだけだし。今じゃ麻雀はプロ野球と同じくらいの知名度だから、それくらいのお給料が出てもおかしくないっしょ?」

京太郎「それはそうですけど……」

咏「なんなら須賀君も目指してみる? プロ雀士。頑張ればいいとこ行くかもしれんよ? 知らんけど」

京太郎「…………俺には無理っすよ」

咏「? どして?」

京太郎「実はかくかくしかじかで……」

咏「これこれうまうまと。なるほどね~。それで自信なくしちゃってる訳か」

京太郎「はい……」

咏「まぁその清澄の部長ちゃんの言ってることもあながち間違っちゃいないよ。戦術の基本を知らなきゃどうしようもない、将棋の駒の動かし方を知ってても戦術を知らなきゃ勝てないようにねぃ。そりゃ麻雀は運も絡んでくるから何十回とやってりゃ一回くらい勝てる時もあるけどさー」

咏「でもコンスタントに勝ちを拾いたいなら最低限の戦術を知って、その上で自分なりの戦術を構築するのが必要なんだよ」

京太郎「そんなのわかってます! でもその最低限の戦術も覚えられないんです……!」

咏「……ま、私だって覚えらんないしそんなの」

京太郎「……えっ?」

咏「私だってそんなの頭で覚えらんないし。そりゃ本くらい読んだことあるけどさ、あとは全部実戦で覚えたんだよね。最初は理屈でこれがこうなるからこれは駄目なんだって考えんだけど、何度も打ってるうちにあぁこれは駄目だなって感覚でわかるようになってくるもんだよ」

京太郎「……でも、部長は対局禁止って」

咏「部活で本片手に対局してたら迷惑っしょ? ネットでも制限時間があるしねぃ。だからまずは2,3個頭で覚えて、それを何度も牌並べて体で覚えてっていうのを繰り返すんよ。そうすりゃ基本戦術なんてすぐ身に付くもんなんだよね」

京太郎「……」

咏「……なんなら私が対局してあげよっか?」

京太郎「え、それは悪いですよ。忙しそうなのに俺なんかのために時間使わせるなんて」

咏「暇な時ならどれだけでも付き合ってあげるよ。もうそろそろ私も麻雀の今期シーズンが終わるし」

咏「それに後進を育てるのもプロの役目だしねぃ。そういう目的だってわかってんなら長考しててもいくらだって待ってあげられるし。だから」

咏「ちょっと一緒に頑張ってみようぜぃ」

京太郎「…………三尋木さん」ウル

咏「あ~もう泣かない泣かない! ほら、料理来たよ! 今日は私のおごりなんだからさ、嫌なことは全部パーっと忘れて楽しみなよ!」

京太郎「はい、ありがとうございます!」

京太郎「おぉ、このてんぷらすっげぇサクサクしてる! 中のエビもプリプリしてて最高!」

咏「こっちの酢の物も食べてみ。すっげーおいしいからさ!」

京太郎「うまー! 酢の物ってあんま好きじゃなかったけどこれおいしい!」

咏「あははは! こっちも食べてみ!」

……

―――

京太郎「今日はありがとうございました」

咏「どういたしまして~」

京太郎「ごちそうになった上、なんか愚痴っちゃって……」

咏「いや気にせんでいいよ。誰だって愚痴りたい時もあるもんだ。ま、今度会う時は私の愚痴聞いてもらうからねぃ」

京太郎「はい。俺でよければ」

咏「また暇な時メールするからさ。んじゃね~」スタスタスタ

京太郎「さようなら~」

京太郎「……ふぅ」

京太郎(ああやって悩みを聞いてくれて優しくしてもらうと、やっぱり大人の女性って感じするよな。見た目ちっこいけど)

京太郎(それにお酒飲んで赤くなってた三尋木さん、色っぽかったな~)

京太郎(周りにああいう人いないよな~。部長も染谷先輩も大人の女性って言うよりはおねえさんって感じだし、咲も優希も妹みたいなもんだし。和は同級生って感じだしな)

京太郎「……もっとあの人の色んな表情見てみたいな」

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