「やっぱりコタツはくつろげるね」
「あったかい」
『(・∀・)イイ』
「ダルい……」
「京太郎君ももっとくつろいでいいんだよー」
「どうしてこうなっているのでしょうか……」

 冬の炬燵の魅力は耐え難い。
 宮守女子の5人と京太郎は部室の中で炬燵に入り寛いでいた。
 最初は6人で交代で麻雀をしていた。
 しかし京太郎が炬燵で休憩をしていた時に豊音が一緒に炬燵に入ってきたのがはじまりだった。
 一人、また一人と炬燵に魅入られ入っていったのだった。
 炬燵の魔力は偉大である。

「休憩だしこういうのもいいよー?」
「まあそうですけど」

 日頃雑用などで働いている京太郎であるので、まったり休めるのは嫌いでない。
 しかし先輩のおねーさま方に囲まれていてドギマギしてしまう身でくつろぐのは中々に難しかった。

「ほらっ。みかんでも食べて」
「いただきます」

 渡されたみかんの皮を剥き出す。
 京太郎だけでなく他の皆も食べ始めていた。

「ちょうだい」

 そんな中自分で剥くのがめんどうなのか胡桃が催促してきた。

「もー。はいっ」
「はい。どうぞ」
「えっ」
「えっ」

 言葉が被ったので見ると京太郎と塞の二人で胡桃に皮を剥いたみかんを差し出していた。

「んっー」

 当の胡桃はどちらを食べるか迷ったが、差し出されたみかんを見比べた後に塞のを選んだ。

「ちなみに京太郎のじゃなくて私のを取った理由は?」
「京太郎はおばーちゃんと違ってスジを取ってないから減点!」
「くっ、負けたか」
「おばーちゃんじゃないから! そこも何で落ち込んでるの!」

 がっくしとこたつにうつ伏せになり落ち込んでいる京太郎。
 慰めるように豊音が肩に手をぽんぽんと叩いてた。

「俺もまだまだ修行が足りないと思いまして」
「あんた何を目指してるのよ?」
「俺の師匠に気配り完璧な万能執事さんがいまして、いつかその人のようになりたいんですよ」

 どこか遠くを見るような目で夢を語る京太郎。
 その手には差し出した人にスルーされたみかんが空しくあった。

「じゃあ私がもらうねー」

 差し出したみかんは豊音が召し上がってくれました。

 ***

「しかしせっかくの休みなのにこんなにまったりしてていいんですかね」
「いいんじゃないかなー」
「そうそう、休むのも大事だよ」
「それに卒業したら皆で会う機会なんてそうそうないしね」

 どこか寂しげに塞は言った。
 三年で卒業の近い彼女達はもう時期ばらばらになる。
 配慮が足りなかったと京太郎は思った。
 見ると塞は何かを堪えている様子だった。
 きっと悲しいのだろう。
 謝ろうとして――

「私達皆同じ大学行く予定でしょ?」

 胡桃の突込みが入った。

「えっ!?」
「くくくっ」

 どういうことですかーと塞を見ると、笑っていた。
 先程こらえていたのは笑いだったのだろう。
 悪そうな笑いだった。

「もしかして騙されました?」
「ふふふっ。京太郎ってからかうと面白いよね」
「うっ……よく言われます」

 年長組の中にただ一人で一年の京太郎は弄られるのであった。

 ***

「……喉が渇いた」
「俺お茶入れてきますね」

 京太郎は炬燵を出ると慣れた手付きでお茶を入れだす。
 入れ終えるとお茶を持って戻ってきた。

「どうぞ」
「ありがと……」
「ありがとー」
「ミカンが終わっちゃったね」
「向こうに箱があるはずだけど」
「俺とってきますね」

 京太郎はまた炬燵を出るとみかん箱を取りに行く。
 みかんを持って戻ってくる。

「どうぞ」
「ありがとー」
「どうも」
『 m(__)m』
「そういえばストーブの灯油がそろそろ切れそうじゃなかったっけ?」
「灯油どこですか? 入れてきますよ」
「灯油なら部室の外にあるよ」
「分かりました」

 京太郎はまた炬燵を出るとストーブの灯油を入れに行く。
 入れ終えると戻ってきた。

「お腹空いた……」
「小腹が空いたね」
「そういえばタコス作ってきたんですよ」

 京太郎はまた炬燵を出ると持ってきていた紙袋からタコスを取り出す。
 戻ってくると、どうぞと差し出した。

「ありがと……」
「ありがと……ってお客さんなのに働きすぎでしょ! 皆も動かないとダメでしょ!」

 せわしなく炬燵を出たり入ったりしている京太郎に胡桃が突っ込みを入れた。
 自然と動いていたから今まで疑問に思わなかったが明らかにおかしい。

「ダルい……」
「京太郎君ごめんねー」
「まあまあ、俺のことはいいから食べてくださいよ」

 ぷんぷんと怒っている胡桃にタコスを差し出す。
 胡桃はまだ何か言いたそうだったが、渡された以上仕方なしに食べだした。

「おいしいね」
「そうね」
「京太郎君は何でもできるねー」
『(゚д゚)ウマー』
「師匠に鍛えられてますから」

 各々がタコスの感想を述べている中、胡桃は無言で食べていた。

「胡桃?」
「めっ」

 先程とは違い明らかに注意が弱くなっていた。
 餌付けされていた。

 ***

「京太郎……」

 タコスを食べ終えたシロがぽつりと呟いた。

「なんですかシロさん?」
「ずっと私の傍にいてよ……」
「シロさん!?」
「ええ!?」
「シロー!?」
「シロ何言ってるの!」
『ヽ(#゚Д゚)ノ┌┛』

 シロの突然の告白にまったりとしていた場が一気に荒れた。
 しかし当のシロはどこ吹く風と聞き流していた。

「皆なんでそんな怒ってるの?」
「なんでってあんた!」
「どうしてそんな事言ったの?」
『(`Д´≡`Д´)』
「むー」

 各々疑問の声を上げる。
 豊音は言葉は出さずとも唸りながら抗議の視線を送っている。

「だって京太郎がいると便利じゃん……」
「あー、そういう意味で」
「確かに楽だとは思ったけど……」
『ε-(´∀`*)』
「よかったー」

 答えに納得したのか、露骨にホッとしている一同であった。
 納得してる一同と違い当のシロは、はてな顔のままであったが。

「まあいいけど……」

 また突っ込まれるのがめんどうなのか、シロはそれ以上の事を言わなかった。

 ***

 座椅子でくつろいでいるシロ。
 そのシロに乗ってくつろいでいる胡桃
 そんな二人を羨ましげに豊音は見つめていた。

「ねえー京太郎君?」
「無理です」
「えー」

 何かを言われる前に即座に否定した。
 眼前の光景を見ていれば要求される事は即座に思いつく事である。

「不味いですって」
「なんで不味いのー?」

 豊音は心底分からないと言った顔だ。

「女性の方を膝の上に乗せるのはちょっと……」

 男の子として問題があった。
 口には出さないがちょっぴりやってみたいと思ったのは男の子の秘密である。

「京太郎君ならいいよー」
「問題ないよね」
『(*‐д‐*)』

 その言葉は信用しているという事なのだろうか?
 男して見られていないという事なのだろうか?
 どちらにしても複雑な気分だった。

「でも流石にそれは――」
「サイズ的に無理じゃない?」

 なんとか拒否しようとしたら、胡桃のもっともな突っ込みが入る。

「そうですよね! 仕方ないから諦めましょう!」

 このままでは不味い事態になりそうなのでその意見に乗っておいた。

「うー」

 残念そうな顔の豊音を見ると心揺れるが、男の子として非常に不味いので心を鬼にして見なかったことにした。

「ダルい……」

 そんな会話が起きてる中、乗られているシロは相変わらずダルそうだった。

 ***

 塞の顔が険しかった。
 やたら眉間にしわが寄っていて、唇はぷるぷると振るえ、瞳は揺れ動いていた。
 心当たりはまったくないのだが、自分が何かしたかなと京太郎は怯えていた。

「塞さん?」
「なんでこんな普通なのよ!」

 恐る恐る聞いてみたら、よく分からない理由で怒られた。

「どういう事です?」
「清澄の大将がいるでしょ?」
「咲がどうかしました?」
「なんであんな恐ろしい人と仲良く出来てるのにこんな普通なのよ!?」
「いやいやー、あのちんちくりんが恐ろしいとかないですって」
「そのちんちくりんに熊倉先生のモノクルが壊されたんだけど……」
「ダルい……」

 塞は京太郎と初めて会った時には特に何とも思わなかった。
 豊音がお世話になった人としか認識していなかった。
 しかし豊音が妙に懐いていた風だったので気にはなっていた。
 その後二度目に会ったときに、二回戦で見たあの恐ろしい清澄の大将の幼馴染で仲がいいと知って見方が変わった。
 豊音といい咲といい、おかしい――もとい、ちょっと変わった子二人に懐かれてるって何かある人かと思ったのだ。
 気になって二度目の時も今も注視してみたが京太郎は全然普通だった。
 だからこそ塞には分からなかった。

「壊されたってのはよく分からないんですけど、たまたまじゃないですか?」
「たまたまにしては凄まじい壊れ方だったけどね。幼馴染だったら何か感じない?」
「まったくないですね」

 何も感じないからこそ普通に接して仲良くなる事が出来るのだろうかと塞は思った。

「京太郎はある意味特別なのかもね」
「京太郎君は私にとって特別な人だよー」

 はいはいと惚気は受け流した。

 ***

「岩手ってなにが有名なんですか?」

 岩手に来てからの素朴な疑問を京太郎は発した。

「なんだろうねー」
「何かあったっけ?」
「知らない……ダルい……」
『n(ー_ー?)』
「あんた達自分の住んでる所の事くらい知ってなさいよ」

 エイスリンを除く地元民のあんまりな返事に塞は呆れていた。

「でも地元の事をいきなり聞かれても意外と分からないですよね。俺も長野で何があるか聞かれても分からないですよ」
「そうかもしれないけどー」
「塞さんは何か知ってるんですか?」
「そうね。この辺りだったら遠野物語の舞台としてちょっとは有名かな」
「あー、遠野物語は聞いた事はありますね」
「その中でも有名なのがマヨイガって話」
「どういう話ですか?」
「大した話でもないんだけどね」

 塞が語りだす。
 京太郎以外の面々も耳を傾けていた。

「旅人が山奥で迷っていると、立派な門を持った屋敷を偶然発見。
 これ幸いと門をくぐってみれば、屋敷の庭には紅白の花が咲き乱れ、多くの鶏、牛、馬がいる。
 それで屋敷に入ると美しい食器が多く並べられてあり、生活感はあるんだけど探せど探せど人はいない。
 結局誰とも会えないで休んだ後に帰るんだけど、その時に屋敷から食器などの日用品を持ち帰ると、幸運が訪れるって話よ」
「へえー」
「よく知ってるね。おばーちゃんの知恵袋?」
「だからおばーちゃん違うから!」

 容赦のない胡桃の突っ込みにちょっと泣きそうな塞だった。

「まあまあ」
「もー。ちなみにマヨイガはここから近い白望山にあるらしいからね」
「シロ?」

 聞いた名前にエイスリンが問い掛ける。

「そのシロじゃないよ」
「でも同じ名前だねー」
「ダルい……」

 同じ名前だと思うとなんだかダルそうな山に見えてきていた。

「じゃあシロがいるからここもマヨイガ?」
「だったら京太郎君は迷い込んだ人だねー」
「そういう事になりますかねー」

 他所から来たお客さんだしそういうものかと思う。

「じゃあ何か持ち帰る?」
「豊音の制服でも持って行く?」

 にししと笑いながらからかうように言う塞。

「制服なんて持って行ってどうするのー?」
「豊音は知らなくていいの!」

 純真な質問をする豊音を教育上よろしくないということで胡桃が止めていた。

「むー」

 京太郎は考える。
 豊音の情操教育は胡桃に任せるからいいとする。
 しかしこのままからかわれ続けるのもよくない。
 ならばこちらもお返しをしようと決意した。

「制服は要らないです」
「じゃあ何か他に欲しいのがあるの?」
「制服じゃなくて豊音さん自身を持ち帰っていいですか?」
「!?」
「ええ!」
『 Σr('Д'n)』
「なーんて――」
「不束者ですがお願いしますっ!」

 冗談ですと言おうとしたのだが、豊音のお願いで言葉は途中で遮られた。

「え!?」
「ちょっと!」
「トヨネー」
「持ち帰られるんじゃなくて、京太郎がこっちにいて欲しいんだけどなー……」

 冗談だったのに事態はなんだかおかしいな方向に向かっていた。
 三つ指ついてよろしくしてくる豊音。
 娘を盗られると絶句している胡桃。
 ダルそうにしながらも軽く問題発言をするシロ。
 京太郎が何かしたのかと思いそれを塞ごうと見てるけど何の反応もなくて戸惑っている塞。
 怒りの絵を描いているエイスリン。
 京太郎は予想外の事態に笑ってなかった事にしたかったが、頬の筋肉が引きつりうまく笑えなかった。

 そんな宮守での一日。

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