私はいま埼玉県にいる

京太郎が連れてきてくれた街だ

霧島で生きる宿命にあった私を好きになってくれて真っ直ぐな愛を注いでくれた京太郎

そんな彼を私も心から慕い、日ごとに二人の愛は深まっていった

ある晩我慢できなくなり「私をさらって」とぽつり零れたその願いを聞き届けてくれた京太郎は、

約束通りに私の手をとり未来を歩む事を誓ってくれた

そうして辿りついたこの街で私達はアパートを借りて二人暮らしを始めた

それは十代の私達には大変な事だらけで、特に世間をよく知らない私にはなおさらだった

だけど京太郎はその明るい性格で常に私を励まし、ありのままの私を尊重してくれている

お互いを尊重し、助け合う事を当然と思うのは、長く愛し合っている夫婦に見られる特徴らしい

そう考えるとやはり私達は一緒になるべくして一緒になったんだと確信できる


今日は大宮まで一緒に出かけた

少し羽を伸ばそうと京太郎が誘ったからだ

街中を歩き回ると楽しい時間はすぐに過ぎて、日が沈み始めた

ビルに腰をかける夕陽の眩しさに横を見ると京太郎が私を見つめていた

「春、俺はこの街に来てよかったよ」

唐突にそんな事を言い出す京太郎

「ここには俺を知る人も、春を知る人もいない
ここで俺以上に春がどんなに可愛いかを知る人はいない
本当に春が俺だけの女性だって思えるんだ

…鹿児島でもそうだった自信はあるけどな」

ははは、と笑う京太郎につられて私もくすりと笑みがこぼれる

でもそんな私の目を見る京太郎はまた真面目な顔に戻って

「だからさ、春……そんな悲しい目をしないでくれよ」

「え…」

意外な言葉が返ってきた

確かに故郷を離れて少し寂しい気持ちがあるし、これからに不安を抱かない時がないわけじゃない

でもそれ以上に京太郎と一緒に暮らせる喜びがあった

お互いに黙ってしまい、京太郎は目を閉じて何かを考えているようだった

やがて目を開けると私に話しかけた

「もしかしてさ………その…春?」

「なに?」

「……まだ、だから不安になってるのか?」

「?」

「だから、その……恋人がするようなこと」

「………」

そういえばいくつもの愛の言葉を交わし合い、その口を吸いあった私達でも、まだ及んでいない行為があった

抱きしめあうのにも難しかった鹿児島では機会に恵まれず、こっちに来てからも暮らしを整えるのに精一杯だった

その中で充分に京太郎を愛している筈なのに、もっと確かな証拠を欲している自分もいたのは事実だ

「明日はさ、日曜で仕事もないから……今夜寝なくてもいいんだ」

「……うん」

「春、お前を抱きたい」

「…うん」

ああ、幸せはまだあった

京太郎と一緒にいて、これ以上幸せを感じないだろうと思っていたのに、

胸の中がじわ、と一層強い幸福感に浸される

「京太郎」

「…ん」

「愛してる」

「俺もだ」

「京太郎が考えるよりずっと」

「俺も春が考えるよりずっと」

神様に「幸せになりますように」なんて願う人達がいる

神を捨てた私にそんな資格はないけど、あっても願わない

いまはっきりと分かったから

これから、ずっと幸せでいられるって



カンッ