姉帯、京太郎には過去の記憶がない。
ただ、自分がこの村の生まれではなく、
どこか遠いところからやってきたのだ、ということだけは何となく確信していた。
薄暗いあぜ道を、泣きじゃくりながら、背の高い女に手を引かれて歩いている光景。
それが、自分の思い出せる一番古い記憶。
「きょーうくんっ♪」
「おわっ」
そして、こうして物思いに耽っていると、必ず姉の豊音が抱きついてくる。
体格差もあり、京太郎の体はすっぽりと豊音の両腕の中に収まってしまう。
豊音の体は冷たかったが、いい匂いがして、柔らかくて気持ちが良い。
「きょうくんは、どこにも行かないよね?」
『きょうちゃんは、どこにも行かないよね?』
不安そうに揺れる赤い瞳。
その向こう側に、誰かが写っているような気がするけれど。
「……俺は、どこにも行かないよ。豊音が一番だから」
「えへへーっ♪」
何よりも今は、この姉のことが大事だ。
背伸びをして頭を撫でると、豊音は嬉しそうにはにかんだ。
カンッ
最終更新:2014年04月09日 01:12