コンコン

善野「どうぞ」

ガチャ

京太郎「失礼します」

善野「いらっしゃい。あなたが須賀君ね」

京太郎「はい。一年の須賀京太郎です。えっと……善野監督」

善野「ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?」

京太郎「は、はい!」

善野「そこに椅子があるわ。立ち話もなんだし、とりあえず掛けてください」

京太郎「は、はい。失礼します」

善野「写真で見るよりも、なかなか凛々しい顔立ちね。おばさん年甲斐もなくはしゃいじゃうわ」

京太郎「それ程でも……」ポリポリ

善野「ふふ」クスクス

京太郎「……」ソワソワ

善野「病室が物珍しい?」

京太郎「はい!あ、いえ……その、俺、いや僕は昔から大きい病気とか罹ったことないので」

善野「健康なのはいい事ね」

京太郎「あの、監督はどういうご病気で」

善野「気になる?」

京太郎「あ、すみません。失礼ですよね」

善野「咎めてはいませんよ。気になるのも当然だものね」

善野「アリアード性急速進行型他系統萎縮症という病気はご存知?」

京太郎「!?そ、れは……神経系の、あの難病ですか」

善野「よく知ってるわね」

善野「解説しておくと、神経系と内臓が同時多発的に死滅していく難病で、四万分の一の確率で発症するといわれている遺伝病よ」

善野「Ⅰ型とⅡ型があって、私の場合はⅡ型でね?Ⅰ型に比べて一気に初期症状が出るけど、その後の重症化は緩やかとされてるわ」

京太郎「……」

善野「この病は、いくら患部を除去しようと次から次へと全身に転移して発症する」

善野「神経の壊死は脳まで到達する。普通その前に、呼吸器不全や内臓機能不全で死に至る」

善野「治療法としては、全身の遺伝子の異常を改変していくしかないけど」

善野「治療には莫大なお金、小国家の年間予算並みの医療費が掛かる。それでも患者の脳を丸ごと改変することとなる」

善野「仮に助かったとしてもそれはもう私ではないわ」

京太郎「俺が、呼ばれた理由はなんですか?」

善野「医療とは不思議なものでね?」

善野「病気を放置して死ねば、自然死として話は簡単に済むの。けど、一度呼吸機や生命維持装置をつけてしまったら」

善野「そしてそれを外してしまったら、それは家族や医師、本人であっても殺人行為となって刑法で裁かれてしまうの」

京太郎「……」

善野「須賀君は私の教え子の子達と仲が良いそうね?」

京太郎「はい……」

善野「次の試合は私も見に行こうと思ってるの」

善野「それが負担にならないよう、須賀君にはあの子達を支えてもらいたいの。もう私には、少し難しいことだから」

京太郎「何故、俺なんですか……」

善野「貴方には、他者との不思議な縁(えにし)がありますね」

京太郎「それは、どういう?」

善野「貴方が普通の男の子だからかしら」

京太郎「?」

善野「あの子達は強いわ。姫松の歴史の中でも最高の資質と可能性を秘めている」

善野「けど、張り詰めた弓の弦はいつか切れてしまう」

善野「あの子達は若くして強くなり過ぎている。それはとても危ういことなの」

善野「だから、あの子達のことを側でずっと見ていてあげてほしいの」

京太郎「……っ」

京太郎「わかりました。何があっても俺はみんなのことを支えます。誓います!」

京太郎「だから、だから監督も信じてください!あなたの教え子達が必ず優勝するって、信じて待っていてください!」

善野「ふふ、そうね。ねぇ、須賀君」

京太郎「はい」

善野「ありがとう。貴方が姫松に、あの子達の側にいてくれて本当によかった」


カン