「……もうやめましょうよ、京太郎ー」

それは何処にでも在る平凡なスーパーの真ん中で。
須賀京太郎はとても焦っていた。それはもう、遅刻寸前でダッシュをする学生並に。
いつもの露出力最大の巫女服を纏った薄墨初美が横で喚いているのもまるで気にならない。
ウルウルと目に涙を溜めて服の袖を引っ張っている姿も今は無表情で返せるだろう。

「はっちゃん、止めないで下さい」
「止めますよー!いつまでそうしてるつもりなんですー?」
「無論、死ぬまで」
「冗談でも笑えませんよーー!」

今の初美を表するとプンスカと擬音が生まれるだろう。
目を釣り上げて、京太郎の服の袖を強く引っ張ってはいるが、依然と反応は簡素なものだ。

「半額シールが!半額シールが貼られるまで!」
「もー。定価のものでいいじゃないですかー。その後、」
「甘いっ!甘いです!そんなことじゃこの先を生き残れませんよ!」

カッと京太郎は目を見開いて、今度は逆に初美の身体をがくがくと揺らす。
半額シール。その名の通り、惣菜が半額になる魔法のシールである。
つまるところ、京太郎と初美は、神代家の晩御飯のおかずを買いに近くのスーパーに来たのだ。
何故この二人なのかについては巫女五人で深い闘争があった結果であり、血で血を洗う決闘譚を語らなくてはいけないので割愛だ。

「半額ですよ、半額!少しでも安くなるならそれに越したことないですって!」
「あわ、わわっ!めがまわるから、やめてくだ、さい!」

ちなみに、初美の頭が前後に揺れるのと同時に巫女服がはだけて、灼けた肌が露わになっていくのだが、京太郎はロリコンではないので立つものは立たない。
このことは地味に初美の心を傷つける案件となるが、それはまた別の話である。

「はぁ……はぁっ。京太郎は細かいことを考え過ぎなんですー!そ・れ・よ・り・も!
私に他に言うことがあるはずです!」
「……他に?」
「そうですよー!」

はだけた巫女服を直しながら、初美は両手を腰に当て怒ってますよオーラ全開で言葉をまくし立てる。
マシンガンの如く、言葉の弾丸は京太郎へと次々と命中していった。
その度に、陳腐な謝罪の言葉を繰り返すが、そんなもので初美の気は収まらなかった。

「こんな可愛い女の子と一緒に買物をしているんですよ?ちょっとしたロマンス的な展開はないんですか!」
「ある訳ないでしょ。頭湧いてるんですか?」
「…………」
「…………いやぁ、はっちゃんは可愛いなー」
「……」
「すいません、すいません。棒読みだったのは謝るんでジト目で見つめないで下さい」

背の小さい初美に対して、ヘコヘコと頭を下げる京太郎の姿は傍から見ると出来の悪い兄と優秀な妹といった風に見て取れる。
道行く人が微笑ましい視線を送ってるのを二人が気づかないのはご愛嬌だ。


「バーカバーカ」
「返す言葉がございません」
「本当ですよー、京太郎は馬鹿なんですからー」

チクチクと針で刺すかのような罵詈雑言を汗をかきながら京太郎は受け止める。
目の前でポカポカと柔らかい攻撃を続ける初美の機嫌を治すにはどうすればいいか。
抱きしめる?こんな公衆の中でやったらそれこそ、何を言われるかわからない。
愛してると囁く?付き合っていない女の子に愛を囁く程京太郎は軽い男……ではある。

(まあ、はっちゃんだしなー)

起伏のない胸、小学生と間違えられるであろう背丈。健康的な肌色と茶色のグラデーション。そして、限界まではだけている巫女服。
一部の愛好家達にはたまらない存在だろう。元いた高校の副会長ならば、即昇天してしまいかねない破壊力だ。
だが、京太郎は違う。彼女の貧相な身体に興奮する愛好家足り得ない。
いつだって、大きな膨らみを持ったナイスバディを愛するノーマルを自称しているのだから。
そもそも、京太郎は初美を年上の女性というよりも、近所の小さな子供のような認識を持っている。

「はいはい、いい子いい子」

ほんの少しの優しさと大部分の適当さを存分に出した撫で撫でで無理矢理誤魔化しておこうとするが、そう上手くはいかない。
もっと優しく!と頬を膨らませて、初美はピョンピョンと跳ねる。

「年考えてくださいよ、一応俺よりも年上でしょう!」
「関係ないでーすよー!第一、二歳程度で年上言い張られても困りますー」
「いや、割と大き」
「……霞に同じ事言えますか?」
「ごめんなさい、勘弁して下さい」
「…………私も悪かったです。厳しいことですよねー」

何故か、霞と年齢を絡めると変な空気になってしまうのはいつものことだ。
正直、あの容姿で高校生を名乗るのは如何なものかとは京太郎もちょっぴりであるが思っている。
そのことを本人の前で言うとかなり落ち込むので心の内に留めているが。

「というか、いい加減買い物を済ませないといけませんね。このままだと小蒔さん達が空腹で倒れちゃいますし」
「最初からそう言ってるじゃないですかー!」
「だって、半額」
「どこまで主夫感覚なんです!?」
「安いにこしたことありませんし」

しれっとした顔で安売りシールが貼られた惣菜を籠へと放り込んでいく京太郎を尻目に。
初美は今日数度目の重い溜息を吐いたのだった。






カン……ワキュウダイ!