突然、ハギヨシがいなくなった。少し、ヤボ用ができたと言って。

何があったのだろう、ハギヨシがあそこまで慌てるなんて。

事実、彼の表情には汗が滲んでいた。そして、決意の表情が浮かんでいた。

自分を置いてまでのことだ、よっぽどのことに違いない。

トーカに電話して迎えに来てもらって下さいとは言われたがどうするべきか。

「どうすればいい、きょーたろー?」

須賀京太郎。年下ではあるが、自分よりしっかりしている男。

出会いは決していいものではなかった。それは、人の感情に疎い衣でもわかる。

雨の日、ずぶ濡れになって打たれている彼。そして、彼を必死に抱きしめている彼女。

どちらも両の瞳から涙を流していた。咆哮を上げ、世界を呪っていた。

「なぁ、きょーたろー。お前はあれから……変われたのか?」

人間、いきなりは変われない。それでも、変わってくれることを願わずにはいられない。

だって、衣にとって。きょーたろーは……。

「わーーーー!龍門渕の天江衣さんだよー」

いきなりの名指しの声に身体が大きく震える。

ぎょっとして振り返ると――巨人がいた。

「こんなとこで会えるなんてちょーうれしいよー。感激だよー」

「お、お前はなぜ衣の名前を知っている?」

「ああ、これは失礼を!私、衣さんの麻雀のファンなんですよー」

自分の麻雀のファン……?ああ、そういえば去年は全国で戦ったか。

惜しくも、トーカの番で他の高校がとばされたから優勝こそ出来なかったが。

初出場で大暴れしたものだから有名になったのだろう。

「そ、その……できれば、サインお願いしますっ!」

そう言って渡された色紙はかすかに震えていた。

体つきに反して、気が小さいのだろう。

「だ、だめかなー」

ああ。そんなうるうるした目で見られては断れないじゃないか。

まあ、サインぐらい好きなだけ書いてもいいのだが。

しかし、純よりも大きいとは……世界は広いなあ。

衣もあれだけ大きければきょーたろーは振り向いてくれるのかな……?

「サインなら書いてやろう。えっと、名前はどうすればいい?」

「私、私の名前は――」




「姉帯豊音だよー」









カン!