京太郎「……勝てない」

京太郎(加治木さんに言われた通り、色々と考えてやってるけどあんなオカルトに対抗できねぇよ)

京太郎(悪待ちだのリンシャンだの東場最強だのデジタルのどっちだの)

京太郎(染谷先輩はまだ子供の頃から雀荘で牌を触ったり対局を見続けていたらしいからわかるけど)

京太郎(アレは無理ゲーすぎる)

京太郎(気分転換に買い出しに無理やり行ったけど、メゲルな……)

京太郎(やっぱり、天才には届かないのか?)


京太郎「くそっ……」

???「……ちょっといいでしょうか」

京太郎「ん?何ですか?」

???「実は道に迷ってしまって。できれば、ここから駅までの道のりを教えて欲しいのですが」

京太郎「いいですけど……えーと、かくかくじかじかです」

???「ありがとうございます」ペコリ

京太郎「よければ、案内しましょうか?」

???「え、よろしいんですか?」

京太郎「はい、俺も丁度時間がありますし」

???「それでは、お願いしてもよろしいでしょうか?」

京太郎「ええ、では行きましょうか」

京太郎(んー、珍しい服装。というか、もろ巫女さんじゃん)

京太郎(俺とそんな歳は変わらなそうだし……学校とか行ってないのかな)

???「ああ、そう言えば自己紹介がまだでしたね……私は――狩宿巴といいます」

巴「いや、助かりました。長野は一度も来たことがないもので」

京太郎「そうなんですか?長野の中でも田舎の方っすよ、ここ。そんなとこにどうして?」

巴「ちょっとした仕事ですよ。言うなれば、悪霊退散っていうやつですか」

京太郎「へー」

巴「信じていませんね……まあ、当然でしょう」

京太郎「そりゃあ、悪霊って言われても実感わかないですよ。漫画じゃあるまいし」

巴「でしょうね。ですが……貴方はとっくに気づいているはずですよ」

巴「オカルト、麻雀をやったことがあるなら。そのオカルトに何度も打ちのめされている貴方なら」

京太郎「……!」

巴「ねぇ、須賀京太郎くん」

京太郎「どうして、自己紹介もしていないのに俺の名前を……?」

巴「それは企業秘密です。まあ、仕事の関係上知ってしまったといいますか」

京太郎「……仕事と、俺の正体を知っていることに何の関係が?」

巴「ぶっちゃけますと、貴方の高校、相当やばいですね。空気が淀んでいます」

京太郎「……」

巴「それも、貴方を中心に。知っているはずです、今の環境が少しずつ狂い始めていることに」

京太郎「ということは……!俺に送られてくる嫌がらせじみたメールも!」

巴「それについては存じ上げませんが、とにかく……注意しておいて損はないですよ」ヒョイッ

京太郎「これは……」

巴「私の電話番号とメアドです。何かあったら連絡を。とはいっても、私にできることは限られていますが」

京太郎「……教えてくれないんですか、今、俺の周りで何が起きてるか」

巴「教えても意味がありませんよ?今起こっているのはありのまま、真実が曝け出されているだけなのですから」

京太郎「……真実?」

巴「誰しも、人は仮面を被るものでしょう?それがなくなりつつあるということですよ」

京太郎「よくはわからないっすけど、注意しておきます」

巴「それが一番です。はぁ……君とはもっと違う形で会いたかったんですけどね」

京太郎「違う形とは?」

巴「あはは、一応私も女の子ですんで。ロマンチックに憧れたりもするんですよ」

巴「こんな堅苦しいのはやめにしてフランクにいきたいのですが……どうも私はそれが苦手で」

京太郎「……それなら、ちょっとずつでも変えていけばいいじゃないですか」

京太郎「例えば、仲がいい友達にあだ名を付けるとか」

京太郎「それから口調も変えて、おちゃらけた風にしたり」

京太郎「狩宿さん、せっかく綺麗なんですからもったいないですよ?」

巴「……須賀君それってナンパですか?」

京太郎「違いますよ!ありのままを言っただけですって!」

巴「……ぷっ。必死ですね」

京太郎「そりゃあ勿論、狩宿さんに嫌われたくないですから」

巴「……巴。巴でいいですよ、“きょーちん”」

京太郎「なっ……というか、そのあだ名は何ですか!?」

巴「言い出しっぺの君からあだ名をつけようと思って。ダメかな?」

京太郎「いや、いいですけど……じゃあ、俺は“巴さん”で」

巴「うん、いい響き。この口調も変えられたらいいんですけどね、いきなりは難しいですよ」

京太郎「ちょっとずつでいいんですよ、こういうのは」

巴「では、努力してみましょうかね……おっと、もう駅ですか」

京太郎「喋りながらだったから早かったですね」

巴「まあ、いい気分転換になりま……なったよ」

京太郎「俺の方も。じゃあ、巴さん。また会えたら」

巴「ええ。じゃあね、きょーちん」

京太郎(巴さん、か……)

巴(うん、やっぱりいい響き。きょーちん、か)

「「また、会えるといいな」」



京太郎「さてと、買い出しも全部終わったことだし早く戻らないとな」

京太郎(巴さん、か。落ち着いていて綺麗な人だったな……)

京太郎(まさか、部室で言った冗談が本当になって出てくるとは。これは、幸先がいいかもしれんな)

ハルカーナルヤシロノカミヨー

京太郎(ん、メールか。大方、部長達が早く帰って来いメールだろ)

京太郎「………………えっ」

京太郎「なん、だよ……このメール」

京太郎「おい、悪戯にしちゃあ洒落になんねーぞ……!」






Fromモブ女

『たすけて』





【清澄高校・保健室】


京太郎「おい、大丈夫か!」

モブ女「……あ、須賀さん」

京太郎「あの後のメールで保健室にいるって書いてあったからさ、急いできたんだよ」

モブ女「そうですか、すいませんわざわざ」

京太郎「気にすんなって。それよりもあのメールはどうしたんだ?」

モブ女「はい、それが階段を降りようとした時、誰かが私を押したんです」

モブ女「幸いに、転がり落ちる前に手すりに捕まったんで打撲で済んだんですけど」

モブ女「改めて、考えると怖くて……それであんなメールを送っちゃったんです」

京太郎「そっか……」

京太郎(これも偶然か?でも、偶然にしちゃ出来過ぎだぞ。モブ友達が言ってた俺を嫌ってる奴等か?)

京太郎(うーん、情報が足りないな……)

京太郎「その、押した奴の顔は見たのか?」

モブ女「後ろ姿しか……その、髪の短い女の子でした」

京太郎「わかった。サンキューな、教えてくれて。身体、大事にしろよ」ガラッ

京太郎(畜生……俺だけならまだいいけど、周り巻き込んでんじゃねえよ!)

京太郎(くそっ、イライラする)


京太郎「ただいま、戻りましたー」

まこ「おお、帰ってきたか。遅かったのう」

京太郎「まあ、途中色々ありまして……そういえば、他の人達は?」

まこ「ああ、アイツらなら休憩と称して食堂にデザートを食べにいきおった」

京太郎「そうですか……それなら、どうして染谷先輩は残っているんですか」

まこ「まぁな……いい機会じゃ、話しておきたいことがあってな」

まこ「メールで伝えるとは言ったが、本人がいるんじゃ。今話すぞ」

京太郎「はい、それで用件って?」

まこ「アイツらの様子がおかしいことについてじゃ。お前さんが鹿児島に転校するって冗談で眼の色が変わったじゃろ?」

京太郎「はい、いつもだったらすぐに流してくれるんだろうなーって思っていたんですけど」

まこ「それなんだがな、アイツら……お前さんが麻雀部をやめて転校するって噂を聞いたんじゃ」

まこ「何でもお前さんがアイツらを苦手にしているだのなんだの。それで、お前さんの挙動に過剰に反応してるんじゃろう」

京太郎「はぁ……?訳わかんないですよ。俺はそんなこと一言も言った覚えがないっすよ」

まこ「じゃろうな、わしもそう思っとる。全く、みんな噂に流されておるよ」

京太郎「染谷先輩は信じてないんですか?」

まこ「アホ抜かせ。わしはちょっとやそっとのことじゃあ揺らがんのよ。アイツらはまだ子供じゃ、成熟しきっておらん」

京太郎「それだったら染谷先輩も……」

まこ「わしは小さい頃から雀荘の手伝いをやっていてのぅ。大人の中で育ったから嘘だの恫喝だの慣れっこなんじゃよ」

まこ「わしが言えることは流されるな、今まで培ってきたものを信じろ、だけじゃ。それは京太郎にも言えることだと思うがな」

まこ「知ってるぞ、雑用の合間に牌譜を読んだり、ネトマをして必死になってたり。夜もわしらが帰った後、毎日一人で練習してるそうじゃな」

京太郎「っ!?」

まこ「こっそりと覗いてたんじゃ。お前さんも男じゃ、女の影でこそこそ雑用なんて本当は嫌なんじゃろ?」

京太郎「……そうですよ。俺には雑用をやることしかない。そんなのは嫌だ、強くなってアイツらを見返したい」

京太郎「力があれば、今の状況だって覆せる。誰にも文句なんて言わせない」

京太郎「才能が空っぽだけど強くなれるって。俺が麻雀部にいる意味の証明を」

京太郎「力が欲しい……!」

まこ「だが、今の状況でそれは厳しいぞ?最近はお前さんに対して嫌な空気があるしな」

京太郎「関係ないっすよ。確かに、先輩には言ってないんすけど、最近は色々あって参っていました。」

京太郎「だけど、吹っ切れましたよ、この程度を乗りきれなくて、強くなんてなれるかっ!」

京太郎「今より前に進むには!認めてもらうには!俺は、勝つしかないじゃないですか!」

京太郎「今までの俺は覚悟が足りませんでした。このぬるま湯の環境を、関係を壊す覚悟が」

まこ「……その道は茨じゃぞ。アイツらと今までどおりにいかんかもしれんぞ」

京太郎「それでも、俺は勝ちたい。咲達が掴んだ栄光を俺自身の手で掴みたい」

京太郎「それで、言ってやるんですよ。俺だって一発決められんだぜ?って」

まこ「そうか。そこまで決意が固いならわしは何も言わん。京太郎自身の問題じゃ、あまり突っ込むのも野暮というもんじゃろ」

まこ「だが、一つ訂正しときたいことがあるのぅ」

京太郎「えっ、何か……!そ、染谷先輩!?」

まこ「ふむ……こうして後輩を抱きしめるというのもなかなかにいいものじゃな」

京太郎「ちょ、ちょっと恥ずかしいっすよ……」

まこ「何を言っておる。お前さんはもう少し、人と触れ合っておくべきじゃ」

まこ「さてと、訂正じゃ。わしは、お前さんを認めている。一人の男として、な」

まこ「それだけは訂正してもらわんと困るなぁ。わしも誤解されたままは嫌じゃし」

京太郎「……は、はは」ポロポロ

まこ「全く、泣き虫じゃのう。ほれ、胸、貸してやる。遠慮なく飛び込んでこい。相手が和だったらよかったんじゃがの」

京太郎「冗談、言わないで下さいよ……アイツらの前でこんなみっともない姿、見せられませんよ」

京太郎「だけど、先輩。今だけ、今だけでいいから……思いっきり泣いてもいいですか?」

京太郎「これ、終わったら……俺頑張るんで。絶対、強くなるんで」

まこ「遠慮無くって言ったじゃろうが、アホ」ダキシメ

京太郎「……ありがとう、ございます」




扉の向こう側

咲「…………へェ」

和「……」ギリッ

優希「おかしいじぇ……こんなのありえないじぇ」

久「落ち着きましょう、そうよ落ち着きましょう」

咲「大事なことだから二回言ったんですね。そうです、落ち着きましょう」ゴッゴッゴッ

久「……何か様子がおかしいからこっそり覗いてみたらねェ。おねーさん、予想していなかったわ」

咲「どうして、どうしてどうして……!」

優希「落ち着くじぇ、咲ちゃん。ひとまずは撤退だじぇ」

和「……」

久「もしかしたら、噂……本当なのかもしれないわね。まこに対してはいつも通りだけど私達には最近そっけないしね」

咲「…………………染谷先輩」

優希「行こうじぇ。今は、私達が入っても適当にごまかされるだけだじょ」

和「そうですね……」

咲(どうして、その立ち位置に私が入ってないのかな?)


【夜・帰り道】

京太郎(とりあえず、一通り泣いた後……咲達が帰ってきたんだけど)

京太郎(どこかぎこちないなぁ……やっぱり噂を信じてるのかなあ)

京太郎(はぁ……最近疲れることばっかだ)

京太郎「かったるいなぁ……」

???「あ!」

京太郎「ん?」

衣「お前はこの前の!」

京太郎「ああ、天江衣さん、でしたよね。こんばんは」

ハギヨシ「どうも、タコスの店を教えた時ぶりでしょうか」

京太郎「そうですね、その節はお世話になりました」

ハギヨシ「いえいえ、こちらこそ」

ハギヨシ「衣様……チャンスですよ」

衣「な、何がだ?」

ハギヨシ「須賀君と初めて会った時、落ち込んでいたではありませんか」

ハギヨシ「何か言葉をかけるには今が、よろしいかと」

京太郎「で、俺に何か用ですか?」

衣「悩んで、苦しんで、自分が孤独だと思うなら、衣が添い遂げてやろう!」ドヤッ

京太郎「…………」

京太郎(ど、どう反応すればいいんだろう?)

京太郎(とりあえず、悪いことを言ってないってのはわかるけどさ)

衣(あれ、外したか?衣なりに考えたのだが。添い遂げるって一緒にいることだろ?)

京太郎「え、えーとですね……」

ハギヨシ「須賀君、少々お待ち下さい」

京太郎「へ?」

ハギヨシ「衣様。それではダメですよ。もう少し言葉を選ばないと」

ハギヨシ「……大丈夫ですか」

衣「うむ!こんどこそ間違えないぞ!」

ハギヨシ「ご武運を」

京太郎「えっと、もう返ってもいいですか?」

衣「ちょ、ちょっと待って欲しい!」

衣「衣が本当に言いたいことは……!」

衣「お前は強さを求めているようだが、強いことが幸せに繋がるとは限らないぞ」

京太郎「……!」

衣「そのいい例がお前の目の前にいる」

衣「強さにこだわってばかりで、衣は何も見えていなかった」

京太郎「それと、俺に何の関係が?」

衣「何も強さだけが全てではないということだ。気分を害したらすまない。だが、これだけは伝えておきたかったんだ」

衣「衣としては同じ道をお前に歩ませたくないのだ」

京太郎「……そうですか」

京太郎「ありがとう」ナデナデ

衣「むーっ!子供扱いするなっ!」

京太郎「俺のことを心配してくれて。赤の他人にそこまで言うなんて天江さんは優しいんですね」

衣「えっへん!」

京太郎「でも……ごめんなさい」

京太郎「強くなりたいのは俺が悩んで悩み抜いた結果、願ったことです」

京太郎「もう決めたことですから。天江さんの理論は……強いから言えることなんです。
それでも、少し……響きました」

衣「っ!……このわからずやーっ、ハギヨシっ!」

ハギヨシ「承知いたしました。すいません、須賀君」ドスッ

京太郎「ぎょほっ!」

衣「よし、家に運ぶぞっ!」

衣(……須賀京太郎、こいつは危うすぎる。このままだと、いつか自壊してしまう)

衣(止めないと。咲やトーカ達が衣を引き戻してくれたように)

衣(今度は衣がその役割を果たす番だっ)






京太郎「……うーん、ここは」

京太郎(何だ、この豪華な部屋は……!俺、何があったの!?)

???「お目覚めのようですね」

京太郎「あ、はい……って」

ハギヨシ「おはようございます、というには少し遅すぎますが」ハダーカ

京太郎「」

ハギヨシ「はっはっは、須賀君との熱い夜は私の人生で一番の思い出になりました」

京太郎「」

ハギヨシ「二人は幸せなキスをして終了ですね!」

京太郎「なにいってだ、アンタ」

ハギヨシ「私の穴に入れて、どうぞ」

京太郎「オーケー、三発殴って活路を開く」グーッ

ハギヨシ「暴力反対!暴力反対!」

京太郎「うるせーーーー!人の処女奪ってんじゃねえええええ!!!!」

ハギヨシ「たった一度与えーられたー処女貫通はチャンスだーからー」

京太郎「何口走ってんだ、アンタ!?」

ハギヨシ「ハギヨシルートにもう入ったから安心!」

京太郎「今までのシリアスムードはどこ行ったんだよ!?」

ハギヨシ「うるさい、そんなことよりセックスだ!」

京太郎「というか、キャラ変わってるんだよ!!」

ハギヨシ「というか貴方だってキャラ違うじゃないですか!声優的に全裸の方でしょう、労働者じゃない!」ホ

京太郎「……」ドカッ

ハギヨシ「無言で殴るのは良くないですよ!というか何ですか、この仕打ちは!」

京太郎「ハギヨシもげろ」

ハギヨシ「そんなご無体な!これがなくなったらどうやって須賀君のお尻を掘ればいいんですか!」

京太郎「掘らなくていいよ!?」

ハギヨシ「金髪巨乳の王女と別れてまで貴方の元へと走ってきたのに!」

京太郎「ふざけんな、テメエ」ドカッ

ハギヨシ「グボッ!いい拳をお持ちで……」

京太郎「誰のせいだ、誰の!」

ハギヨシ「…………冗談はここまでにして。気はほぐれましたか?」

京太郎「えっ」

ハギヨシ「先程までの貴方は抜き身の日本刀のようでした。寄るもの全てを斬り捨てるかのような」

ハギヨシ「確かに、勝負事の時はそれでいいかもしれません。ですが、日常にまで及ぶともはやただの凶器……」

ハギヨシ「それを一旦無くすためにこのようなことをやらせていただきました」

京太郎「……ハギヨシさん」

ハギヨシ(この台本を書いた智紀様、後で仕事五倍に増やす。衣様が面白そうだとさえ言わなければこんなことしませんよ!!!)

ハギヨシ「どうかお許しを。お詫びに私にできることであれば何でもするので」

京太郎「ん?今何でもするって言ったよね?」

ハギヨシ「ファッ!?」

ハギヨシ(まさか、この短期間でホモに目覚めてしまったのですか!?)

ハギヨシ(ホモの申し子、須賀京太郎……!)

京太郎「とりあえず」

ハギヨシ(ああ、透華様、衣様お許し下さい。私は一足先に大人の階段を登ります……!
智紀様、後で仕事八倍に増やしますから)

京太郎「家に帰せ」

ハギヨシ「……ですよねー」

京太郎「とりあえず、いきなり拉致は犯罪でしょ、犯罪!」

ハギヨシ「バレなきゃ犯罪じゃないですよ」

京太郎「駄目だよ!?俺にバレてるから!!!!」

ハギヨシ「お待ち下さい!まだ、本題が始まっていませんよ!」

京太郎「はぁ。じゃあせっかくですし、聞きますよ」

ハギヨシ「ふぅ、やっと本題に入れますよ。長い道のりでした」

京太郎「……ここまでの流れに意味はあったのか」

ハギヨシ「では、ゴホン。まず、ここに連れてきた理由からお話しましょう」

ハギヨシ「貴方は力がほしい、そう話しましたね?」

京太郎「まあ、そうですね。追いつきたい奴等がいるから、俺は強くなりたいです」

ハギヨシ「その過程で……大切なものを失う可能性があったとしても?」

京太郎「……どういう意味ですか」

ハギヨシ「言葉の通りです。何かを得るには同等の代価が必要です。力の代わりに失うものがあるだろうということですよ」

ハギヨシ「今から道を変えるということは視野には入れていませんか?」

京太郎「くどいですよ。俺は、決めたんです。迷うぐらいなら前に進むって」

京太郎「強さを手に入れるまで、走り続けるって」

京太郎「後悔なんて、ある訳ない」

ハギヨシ「そう、ですか……ならば、最後に一つだけお願いをしてもよろしいでしょうか」

京太郎「何ですか?」

ハギヨシ「衣様のお友達になってはもらえないでしょうか」

京太郎「いやいやいや。俺よりも適任がいるでしょうよ。咲達の方が仲良くなれるんじゃないですか」

ハギヨシ「貴方は自分のことを過小評価し過ぎですよ。まあ、私の方からは何とも言えません」

ハギヨシ「衣様がなぜ、貴方を気にかけるのか。答えは私よりも直接本人から聞かれた方がよろしいでしょう」

京太郎「……わかりました。タコス屋のお礼もあります、ここは言う通りにします」

ハギヨシ「感謝、します。では、ご案内をいたしますのでお後に」



【衣の部屋】


ハギヨシ「私はここまでです。後は、お二人で」シュタッ

京太郎「消えちゃったよ、おい」

京太郎(天江衣、去年のインターハイでも大暴れした娘。才能に恵まれた……)ギリッ

京太郎「聞くだけ、聞こう。それから、さっさと帰ろう」

京太郎「失礼します」

衣「……来たか」

京太郎「ハギヨシさんにはお世話になっていますから。その御礼も兼ねています」

京太郎「質問しても、いいですか」

衣「いいぞ、今日は夜通し語り合う覚悟でいる。メガシャキも飲んだから眠くないぞっ!」

京太郎(本当に大丈夫なんだろうか?)

京太郎「俺に興味を抱いた理由です。ぶっちゃけると、天江さんから見ると俺は塵レベルの存在だと思いますが」

衣「……似ているからだ。衣とお前は」

京太郎「それはないでしょう。天江さんは才能に恵まれて、俺には何もない」

衣「才能、か。今思うと、才能なんてなければ、そう思うよ」

衣「古い話をしよう。才能がなまじ人よりあったせいで勘違いしていたバカな少女の話だ」

京太郎「そんな、ことが原因で……!」

衣「そんなことが衣の人生を縛り付けていたんだよ」

京太郎「監禁だなんて……!家族よりも、重いのかよ!?
麻雀が家族を壊しちまうのかよ!!!!!」

衣「狂ってるんだろうな……麻雀が家族を壊すなんて。だが、それが衣にとっての世界だった。
その影響か、衣の存在価値は麻雀しかないとしか思っていなかった。
目の前で手を差し伸べてくれる人達に気づかずに、強者のみを追い求めた」

京太郎「それで、俺に対して強さだけが全てじゃないって」

衣「そうだ、お前は衣と違って……戻れる。修羅の道を歩まなくてもいい」

衣「お前に手を差し伸べる者だっているだろう?というか、衣だ!」ズイッ

京太郎「天江さん……」

衣「別に、今すぐこの手を取れという訳ではない。ただ、お前の身を案じている者がいるんだってことは覚えておけ」

衣「それと、天江さんじゃなくて……衣で、いい」

衣(と、友達になりたいって言いたいのに……恥ずかしくて言えん)

京太郎「……衣さん」

京太郎「わかりました。俺、ちょっとだけ周りに目を――――――」

ズキン、と。

京太郎「が、あ。あっ」

ズキンズキンズキンズキン。

京太郎「が、ああっ!」

重い痛みが、これから発しようとする言葉を忘却の彼方へと押し流す。

京太郎「がひゃえちゃうぇrjgjっrgんうぇctkmrsklらckgぁえわzwっq」

衣「お、おいどうした!!!!」

耐え切れぬ痛みに脳のキャパシティが超える。
ついには立っていることすらままならず、倒れこむ瞬間、京太郎の目には一つの景色が鮮明に写った。
見えた景色は、駆け寄る衣でもなく。
ドアを乱暴に開け放って飛び込んできたハギヨシでもなく。

京太郎「……おん、な……のこ?」

思い出してはいけない過去の記憶の一ページ。
それは、血の涙に塗れた、“俺”と。

京太郎「……」

涙を流して、雨の空を見上げる、女の子。



「ごめんなさい」



京太郎「……あ」

ハギヨシ「大丈夫ですか、どこか御身体の具合がよろしくないのであればすぐさま病院へと!」

京太郎「だ、大丈夫です。ちょっと、突然頭痛が……」

京太郎(な、何だったんだ、今見た光景は?)

衣「……ううっ」

京太郎「泣かないで下さいよ、もう……俺は生きてるんですから」

衣「だって、いきなり倒れて心配したんだぞ!!」

京太郎「……ハギヨシさん、俺どれくらい意識なかったですか?」

ハギヨシ「一秒、ジャストです」

京太郎「時間に換算すると少ないんですね……」

ハギヨシ「そんな些細な事は今は関係ありません。車を出します、病院へ行きますよ」

京太郎「んな、大げさな。今は平気です、ご心配おかけしました」

ハギヨシ「駄目ですよ、無理は禁物です。もし、途中で今みたいなことがあったらどうするのですか?」

衣「そうだぞ……もし、そのまま意識がなくなったままだったら」

京太郎「……わかりました。それでは、お言葉に甘えて」

ハギヨシ「お金に関してはこちらが負担します。元はといえば、私達が連れてきたせいでもあるかもしれませんしね」

【朝・京太郎の部屋】



京太郎「また、だ」

京太郎(嫌がらせのメールが増えてやがる……)

京太郎(マジでどうしよう。こんなことが続くと、もっとヤバいことになるかもしれねー)

京太郎(部活をやめれば、なくなるかもしれないけど

京太郎(……こんなことが原因で麻雀を諦めたくない)

京太郎(負けたくない、裏でコソコソ嫌がらせをしてくる奴等に)

京太郎(土日は部活に行っても何もなかったし……まだ、安心かな)

京太郎(しかし、あの頭痛は何だったんだろう。病院でも健康ですって言われたし)

京太郎「ああ、かったるい……」

衣「きょ、きょーたろーっ。ぐ、偶然だな?」

京太郎「天江さん……おはようございます」

衣「衣でいい、さん付けだと照れくさいんだ……」

京太郎「では、衣さんで」

衣「うむ、親愛を込めて呼ぶといいっ」フンッ

京太郎(うーん、何度見ても年上には見えんな……どうしたものか)

京太郎「そういえば、衣さんはなぜここに?ハギヨシさんとかに車で送ってもらわなかったんですか」

衣「それは……きょーたろーがきになったから」ボソッ

衣「ええいっ、その話は関係無いだろう!」

京太郎「まあ、いいですけど。学校とか大丈夫なんですか、こっから龍門渕までってそんなに近くない気が……」

衣「あ」

衣「…………」アセダラーリ

京太郎「もしかして、そのことに気づかずに……?」

衣「う、うるさーいっ!ハギヨシィッッッ!」

ハギヨシ「ここに」シュタッ

衣「ここから龍門渕まで今から向かっても間に合うか?」

ハギヨシ「衣様がお望みならばこのハギヨシ、必ずや時間までに」

衣「よし、なら急ぐぞっ!ではな、きょーたろーっ!」

ハギヨシ「須賀君も良き学校生活を」ビューン

京太郎「……一体何がしたかったんだろう」


【清澄高校前】

京太郎「おっす」

モブ友1「よう、今日は遅刻ギリギリじゃないのな」

京太郎「たまには余裕を持って登校もいいもんだろ」

モブ友1「違いねぇ」

京太郎「さってと、上履きに取り替えて-っと」ヌチャ

京太郎「……うわぁ」

モブ友1「どした?」

京太郎「上履きの中に噛んだガムが……」

モブ友1「……胸糞悪いな」

京太郎「お前達が前に言ってた奴等か」

モブ友1「多分な、とりあえずさっさと取って教室行こうぜ」

京太郎「ああ……」

:一応だから本編にギリ差し支えないッテ程度な。このままだとはるるダントツになる[saga]:2012/10/09(火)01:29:52.49ID:08smUdsw0【教室】

京太郎「はよー」

クラスメイト女「…………」

京太郎「……無視かよ」

モブ友1「やっぱ、抑えきれてねーのか」

京太郎「抑えきれてないって?」

モブ友1「ああ、お前のことを妬んでるって奴等だよ。
何のいい成績を麻雀で出してないからって嫌がらせしてるんだよ」

モブ友1「片や初の全国出場でルックス抜群。片や予選敗退のうだつのあがらない奴。
お前がいると邪魔だ、せっかくのきらびやかな麻雀部が汚れるってよ」

京太郎「何だ、それ。頭がおかしいとしか思えねーよ……」

モブ友1「元からそういう下地があったんじゃねーのかな?
原村とか会長って男女共に人気があってさ。宮永と片岡も可愛いって最近言われ始めてさ」

京太郎「染谷先輩は?」

モブ友1「なぜか言われてねー」

京太郎(一番頼りになって心強い先輩なのに……見る目ねーのな)

モブ友1「ともかく、結構妬まれてるんだって、お前」

京太郎「わかった……夜道を歩く時には注意しとくよ」

モブ友1「そうしとけって」

京太郎(……しかし、これって結構辛いな)

京太郎(今はダチがいるから安心できるけど、もしいなくなったら……)

京太郎(それでも、麻雀は……やめられない。ここでやめたら今までの積み重ねが無駄になっちまう)

京太郎(それに、嫌がらせしてくる奴等に負けた気分は癪に障るし)

京太郎(うわっ教科書に落書きまでされている)

京太郎(くそっ……何か、嫌な気分だ)




京太郎(昼になった訳だが……)

京太郎(どうすっかな、こんな状況じゃあ麻雀部の奴らと飯なんて悪化するだろうし)

京太郎(そもそも、この噂ってアイツらに入ってるかもしれないんだよな)

京太郎(俺がやめるかもっつー噂も知っていたし)

京太郎(幸いに誰も誘いに来なかったし……)

モブ友1「京太郎、飯食いに行こうぜー」

モブ友2「こんな時こそ、美味い飯を食べるべきだって」

モブ友3「あんなクソ連中のことなんざ気にしてんじゃねーよ」

京太郎「……ああ、そうだな」

モブ友1「今日のÀランチはコロッケラーメンと餃子のセットらしいぜ」

モブ友2「お前のあしたが明るくなるようおごったるぜー」

京太郎「お前等……」


【午後・清住高校麻雀部・部室】


とん、と小気味いい音が連続して響く。

その音は聞いていて不思議と気分を落ち着かせてくれる。

視界にはアイツらが時より談笑しながら麻雀をうっている姿。

そして、俺は牌譜の整理。まあ、適材適所というやつなのだろうか。

片や全国出場が控えている“宝石”と予選で負けた“石”である俺。

“石”は“宝石”に価値は到底及ばない。

抗うことを決めた今でもその事実は変わらない。

抗うきっかけはほんのささいな会話、アイツらにとっては取るに足らない日常会話だったと思う。

『えへへ、一位だっ』

『うへー、咲ちゃん強すぎるじぇー』

『そうですね、最初と比べて強くなりましたよ』

『それに比べて犬は弱すぎるじょー!』

その言葉はいつも聞き慣れているありふれたものだ。

俺は、弱い。それは当然の事実、自身でもわかっていることだった。

ここの連中と違って、俺は何のオカルトもデジタルもない。

正真正銘の凡人、雑用オブ雑用。

仕方ない、まあそれが現実だよね、これ以上は悲しくなるので以下省略。

多分、その時の俺は曖昧に笑っていたのだろう。

いつも貼り付けている軟派な笑顔を表面に出して。

だけど、一瞬……剥がれ落ちたんだ。

『京ちゃんも頑張ろう!今は弱いけど強くなれるよ!』

『とはいっても、私には敵わないと思うがな!』

『まあ、保証はありませんけど……』

いつもは流せるその言葉がどうしてか、チクリと胸に刺さった。

魚の骨が喉に引っかかったような、嫌な気分。

おかしいと自分でも思う。咲達からするとただの激励であるはずなのに。

どうして、こんなにも胸がざわつくのだろう。

だけど、このざわつきがきっかけでそれまで適当でいいやと思っていた麻雀に熱が入り始めたのは確かだ。

覚えきれてなかった役と点数計算を頭に入れて。

染谷先輩に頼んで雀荘でも練習のお世話になった。

思えば、この時こそ俺はしっかりと思ったのだろう。

アイツらの後ろじゃなくて横に並んで歩きたい。才能なんてなくても一緒にやれるってことを証明したい。

きっと、この思いは心の片隅に始めからあったんだ。

雑用をすることで俺の存在は認められているんだと逃げていたから。

雑用ばかりを押し付けられることを弱いから仕方ないと思い込んで。

見たくない現実から目を背けて、俺は……。

泥に塗れた“石”でも磨けば綺麗になるように。

掴むのは勝利の美酒か、それとも敗北の苦渋か。

俺は、欲しい。勝利の美酒が。咲達みたいな栄光を掴みたい。

所詮は夢物語、現実は甘くなかった。

目の前に吹き荒れる風は俺が前に進むことを許さなかった。

アイツらの背中すらこの目で見ることは出来ない。

おいおい、ちょっとぐらいの甘さがあってもバチは当たらないだろ?

神様は応えない。そっぽを向いて、“宝石”に夢中だ。

ガン無視かよ。ちょっとぐらい夢、見させてくれよ。なぁ、おい。

どれだけネット麻雀を打っても。

牌譜を読んで研究しても。

“宝石”は輝くのに“石”は輝かない。

神様は賽すらも投げない。俺の無条件敗北を暗に告げている。

嶺上開花、東場の王、悪待ち、デジタルの化身、瞬間記憶能力。

どうして、俺にはなかった。

皆と横に並び立って歩いていける力が!

足りないのか?もっと、貪欲にならないと駄目なのか?

何かを切り捨ててでもしないと、強くなれないのか?

わかってるさ。麻雀は運が強いゲームだ、努力だなんて言葉で報われるものじゃない。

勝ちか、負けか。簡素に言ってしまえばそれに尽きる。

だけど、だけどっ!!!

意地があるだろ、男には!!!

女の影でコソコソと雑用やってるクソ野郎なんざ消えてなくなっちまえ。

前に出てこその男だろうが!

勝ちたい、勝ちたい……!

アイツらに……勝ちたい。横に並び立つよりも、俺は前を歩きたい。

だから、俺は――覚悟を決める。

強さの代償を払う覚悟を。

立ち止まってしまったら、再び歩き出せる自信がないから。

引き返せと囁く悪魔を振り払って、前を見た。

拳を強く握り締める。爪が皮膚に刺さり、後がくっきりと残るぐらい、強く。

忘れたら、思いだせ。強くなりたいと恋焦がれるこの激情を。

覚悟を決めろ、須賀京太郎。無償で強さを得るなんてご都合主義はありえないんだ。

“勝ちたい、力が欲しい”

俺が最初に望んだ願いが間違いか、正解か。

皆で一緒に笑いあった日常は切り捨てる必要があるのか。

地区大会優勝で食べたラーメンの味は美味しかったか。

でも、そんなの今となってはどうでもいいのかもしれない。

『強くなる、誰よりも』

この思いだけは、きっと間違いなんかじゃない。

アイツらと横に並ぶよりも。ぬるま湯の日常に浸かるよりも。

俺が望んだことなんだから。