~奈良県のとある雀荘前~
京太郎「よし、今日もいくか」

京太郎(親の都合で奈良に引っ越してきた時はどうなるかと思った)

京太郎(折角麻雀部で全国に行くことになったのに、転校しなきゃならないなんて)

京太郎(まぁ行くのは女子だから何の問題もないっちゃあないんだけどな。それでも一緒に行きたかったとは思う)

京太郎(俺一人でも長野に残るって言っても聞いてくれなかったし。これも日頃の行いってやつなのかね)

京太郎(救いと言えば転校してきた学校のやつらは気のいい奴らばっかりですぐに馴染めたことくらいか)

京太郎(その代わり……)

京太郎「麻雀部がないなんてな」

京太郎(転校する直前、お別れパーティーで部長に『麻雀部がなくても牌には触ってなさい』って言われてたんだけどな。麻雀部がなけりゃ話にならねぇ)

京太郎(新しく立ち上げようとしても『麻雀は風紀を乱すから』って言われちまった。今どき中学生でも麻雀全国大会やってんのに考えが古いというかなんというか……)

京太郎(だからといって麻雀は止められない。皆と過ごして麻雀の楽しさを知っちまったから)

京太郎「だからバイトで金稼いでフリーの雀荘通い、か。まぁ案外こっちの方が伸びたりするかもしれんしな。腐らず頑張ろう!」



京太郎「ロン、8000です」

おじさん「いやー強いね少年! おじさん敵わねぇよ」

京太郎「はは、前居たとこで鍛えられましたから」

おじさん「へぇ~そうかい。だが、おじさんを倒した程度で調子乗っちゃいけねぇな」

京太郎「え?」

おじさん「ここにはおじさんなんかよりもっと強い子が来るんだよ……ほら、噂をすれば」

???「(カランコロン)卓は空いてますか?」

おじさん「あーお嬢ちゃん、こっち俺抜けるから!」

???「わかりました。そちらに入らせてもらいます」

おじさん「おい少年、かわいい女の子だからって油断すんじゃねぇぞ。滅茶苦茶強ぇんだからな!」バンバン

京太郎「いたたたた! 油断なんかしませんよ。可愛い顔して強いなんて人なんて一杯知ってるんで」

京太郎(だからわかる、この人只者じゃないぞ……)

???「ん? 君は初めて見る顔だな」

京太郎「○×高校一年の須賀京太郎っていいます。あなたは?」

やえ「ふむ。私は小走やえ、晩成高校の3年生だ。よろしく」

京太郎「よろしくお願いします!」



やえ「ロン、12000」

京太郎「ぐっ」

京太郎(つ、強すぎだろ……咲みたいな超能力じみた力はないけど、この堅実な内筋。7割は勝てる麻雀だ)

やえ「……少し見せてみ」ズイ

京太郎「え、ちょ」

やえ「ふむ、この手なら普通はベタおりだな。突っ張りたい気持ちも分かるが、折角トップだったんだ。もう少し慎重さを覚えた方がいいよ」

京太郎「で、でも、2位の小走さんとの点差が1000点だったし……(ち、近い!?)」

やえ「確かにそうだが、それで焦って振り込んでしまっては意味がないだろう? ほら、ハネ満直撃を受けてラスを引いてしまっている」

やえ「こういう場合はベタおりか、それが嫌ならとりあえずまわすべきだ。それなら何順後かにはより安全な形でテンパイ出来るかもしれないし、たとえツモられても他家がロンされても2位で済む……聞いてるかい?」

京太郎「き、聞いてます! でも結局1位から落ちちゃう可能性の方が高くないっすか?」

やえ「須賀君、この手からまっすぐに行って私を追い越す可能性と、その前に私に振り込む可能性。どっちが大きいと思う?」

京太郎「えっと、それは……」

やえ「自分が追い越す可能性の方が大きいとは言えないだろう? 君がまっすぐに行くには、私に対する危険牌が多すぎる」

京太郎「は、はい……」

やえ「……だが筋はいい。明日のこの時間、もう一度ここに来るといい」

京太郎「え?」

やえ「もう少し君を見せてもらいたくなったからね。じゃ」カランコロン



~自宅~
京太郎「ふぅ」

京太郎(今日の人、強かったな)

京太郎(名前は確か……小走やえさんだっけ。ちょっと調べてみるか)カタカタ

京太郎「え~と、何々……」

京太郎(奈良県で長く王者に君臨していた晩成高校のレギュラー!? 今年は運が悪く阿知賀女子に負けてしまい、奇しくも10年前の再現になってしまったと)

京太郎(この阿知賀女子ってのは今年全国に行ってるんだな……ということは本当に運が悪かっただけなのか。この人去年も出て全国に行ってるし)

京太郎「凄い人が雀荘に通ってるもんだ」

京太郎(まぁ和も咲も一時雀荘で打ってたしな。やっぱりたまにはこういった場で打つのがいいのか)

京太郎「ま、こっちとしてもそれは好都合だな。王者の打ち筋を学ばせてもらおう」



~次の日~
カランコロン……

やえ「来たか」

京太郎「どうも。今日も勉強させてもらいます」

やえ「いい心がけだ。じゃあ早速打とうか」

京太郎「はい!」



やえ「ここはこう打つんだ」

京太郎「え、でもこっちの方が待ちが広い……」

やえ「馬鹿者。私のリーチに対して対家がノンストップで二萬を切っただろう? 安牌でもないのにそれが切れるということは、三萬を手の中で使い潰している可能性が高いんだ。三萬が4枚見えていれば、二・五萬待ちである可能性が極めて低いからね」

京太郎「な、なるほど……」

やえ「だからむしろこちらを切った方がいい。こちらを切った場合の待ちは私の安牌だからね。闇で待てばまず間違いなく出されるよ」

京太郎「へぇ……麻雀はやっぱり奥が深いなぁ」

やえ「だからこそ面白いんだ……っとそろそろこんな時間か。私はよくここに来るから、また会いたければ君も来るといい。それまでは自分で勉強しなさいな。麻雀の本もたくさん売られているし、今の時代ネットを使えばそういった情報は山ほど出てくる。まずはそういうのを見て勉強するといい」

やえ「じゃ」スタスタ



京太郎「ま、待って下さい小走さん!」

やえ「まだ何か用かな?」

京太郎「もっと、もっと俺に麻雀を教えて下さい!」

京太郎(この人の打ち方は咲やタコスの打ち方とは違う。和や部長、まこ先輩のような打ち方とも違う。この人の打ち方こそが一番俺に合ってる気がする。この人に教わればもっと強くなれるんだ!)

やえ「だからそれはまた会った時にでも」

京太郎「そうじゃないんです! こんな場当たり的な教わり方じゃなくて、もっとちゃんと教わりたいんです!!」

やえ「……それはならんよ」

京太郎「っ! どうしてですか!? そりゃ合って間もない人にこんなこと「王者とは!」!?」

やえ「全ての頂点に立つ者を指す言葉だ。私はね、須賀君。奈良代表、晩成高校のレギュラーとして麻雀に対して誇りを持っていたんだよ」

やえ「全国の頂点には立つことが出来なかったけど、それでも奈良県の王者としての自負と誇りがあった」

やえ「しかし今年は負けてしまった。誰もがノーマークだった阿知賀女子にね」

やえ「もちろん勝負は時の運だということは理解している。いくら堅実な打ち方をしていても負ける時はあること。それに無名校だからといって麻雀の強い人間が偶然5人集まらないとも限らない。実際に今年の阿知賀女子は強かった。10年前に赤土晴絵を擁した時みたいにね」

やえ「だからといって負けは負け。私は、私達は王者ではなくなったんだ。そんな私がアドバイスこそすれ、弟子をとるような真似は出来んよ……」

京太郎「そんなんじゃない!」

やえ「!?」ビクッ

京太郎「そんなんじゃ、ないんです。こんな言い方失礼かもしれませんけど、小走さんが王者だから弟子入りしたいんじゃない、小走さんだからこそ弟子入りしたいんです。俺、転校してくる前の高校で麻雀部入ってたんですけど、そん時は筋がいいなんて一度も言われたことなかった。でも、小走さんはそんな俺にそう言ってくれた」

京太郎「そりゃダイヤの原石とかじゃなくて、普通よりちょっとだけ珍しいだけの石ころってくらいかもしれないですけど。それでもあれだけわかりやすく教えてくれた小走さんに教わりたいんです。だから」

京太郎「お願いします! 俺を弟子にして下さい!!」

やえ「……」

京太郎「……」

やえ「…………ふふ、負けたよ。こんな私をそこまで必要としてくれるのなら、私も応えなければいけないな」

京太郎「じゃ、じゃあ」

やえ「私の弟子になったからには覚悟するといい。いつまでもニワカでいるような弟子はいらんよ?」

京太郎「あ、ありがとうございます!」



~二年後~
京太郎「うぅ……緊張してきた」

やえ「まぁそう緊張しなさんな。この二年、君は必死に努力しただろう? 君はもうニワカじゃない。全国大会個人戦の決勝に来れるまでの実力に成長してるんだ」

京太郎「で、でも」

やえ「はぁ、仕方ないな……ほら」チュ

京太郎「!?」

やえ「おまじないだよ。君には私がついてる。この小走やえがね」

京太郎「は、はい! 行ってきます!」

アナウンス『それでは全国大会男子の部・個人戦の決勝戦を開始します』



小走先輩が去年全国に行ったとかいうのは完全に妄想

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