京太郎「おわっ!」ガッシャーン

透華「何をしていますの須賀京太郎! さっさと片付けなさい!」

京太郎「は、はいぃ!!」



京太郎「あーくそ、またやっちまった……」フキフキ

ハギヨシ「大丈夫ですか京太郎。手伝います」

京太郎「ハギヨシ。サンキュー、助かる」

ハギヨシ「しかしまたですか」

京太郎「あぁ、悪ぃな。お前の顔に泥塗るようなことしちまって。透華さ……お嬢様にも怒られちまった」

ハギヨシ「気にしなくても構いませんよこういうことを覚悟であなたを執事のバイトに誘ったのですから」

ハギヨシ「ミスに関しては……まぁ仕方ないですね。いや、むしろ京太郎はよくやってるほうですよ」

京太郎「いや、失敗しまくってんだけど」

ハギヨシ「執事の仕事は厳しいですからね。家事手伝いとは訳が違います」

ハギヨシ「ろくに研修も受けていないあなたが、初日でこれだけの失敗しかしていないのは筋がいい証拠ですよ」

京太郎「そ、そうか?」

ハギヨシ「執事としては及第点どころか落第点すらつけられませんが」

京太郎「うぐ……」

ハギヨシ「そう焦らないでください。焦りは余計にミスを生みます。ゆっくりでもいいですから慎重に行動した方が全ての仕事をこなそうとしてミスをするよりはよほどマシです」

京太郎「ああ、わかった。頑張ってみるよ」

京太郎「……あんたも最初はこうだったりしたのか?」

ハギヨシ「さぁ、どうでしょう?」

京太郎「ちぇ、教えてくれてもいいのに」

ハギヨシ「ふふ、あくまで執事ですから。そのようなことを知られる必要はないんですよ」

京太郎「そういうもんなんか……よし、片付け終わり!」

ハギヨシ「割れたカップは私が処分しておきますので、あなたは透華お嬢様のところへ」

京太郎「ああ、頼む。んじゃ、透華お嬢様のところ行ってくる!」ダッ

ハギヨシ「……はぁ」

ハギヨシ(透華お嬢様ももう少し優しく接すればいいのですが……折角京太郎を執事として雇ったのに、これではすぐに辞めてしまいますよ)



~数日前~
透華「ハギヨシ」

ハギヨシ「何でしょうか、お嬢様」

透華「専属の執事が欲しいですわ」

ハギヨシ「専属の……ですか? 失礼ですが透華お嬢様、私では不足ですか?」

透華「あなたは龍門渕の執事でしょう。一応私付きの執事ということになっていますが、衣の世話も頼んでいますし。あの三人もメイドではありますが……まぁ純はメイドという感じでもないですが、とにかく彼女達は一応身の回りの世話のためにいるのであって、執事ではありませんわ」

ハギヨシ「……なるほど、お嬢様の仕事等の方面を手伝える専属の者、ということですね」

透華「えぇ、察しが良くて助かりますわ」

ハギヨシ「そうですね、お嬢様ももう高校二年生ですし、そろそろ将来のことを考えて仕事を手伝う執事を就けても構わないでしょう。では、明日にでも能力の在りそうな人間をまとめた資料を……」

透華「ああ、それには及びませんわ。既に目星は付けてあります」

ハギヨシ「……誰かお聞かせ願いませんか?」

透華「清澄の須賀京太郎ですわ。あなたも知っているでしょう?」

ハギヨシ「京太郎……ですか? 失礼ですがお嬢様、京太郎は執事とするには少々(主に頭の)能力が低いかと」

透華「それはこれから鍛えていけばよろしい話でしょう? そのために今から雇おうというのです」

ハギヨシ「恐れながら申し上げますが、そこまで京太郎を推す理由がわかりません。執事なら他に有用な者がいくらでも……」

透華「能力で言えばそうでしょうね。しかし私が彼を推すのはそういった理由ではありませんの」

透華「大会の時に見ましたわ、あの者が清澄の者たちに雑用を押し付けられていたのを。それを彼は嫌々ながらでもちゃんと仕事を果たしていましたわ、報酬もなかったでしょうに」

透華「あの奉仕の心、それこそが執事として一番必要なものではなくて?」

ハギヨシ「そこまでお考えとは、御見それしました。しかしそれだけでは些か理由としては薄いように思います。他に何か理由でも?」

透華「あ、そ、それは私が直接見て判断したのですから、他の者が評価したものより信用できるでしょう! それにあの会場で会った時もなかなか気が利く殿方でしたし……!」

ハギヨシ(おや、もしやこれは……いえ、これは言わぬが花というところでしょうか)

ハギヨシ「そうですか、出過ぎた口をきいてしまい申し訳ありまあせん」

透華「で、では、彼を雇うことに異存はありませんわね?」

ハギヨシ「はい」

透華「では明日にでも彼を雇い入れ……」

ハギヨシ「お待ちください、お嬢様」

透華「なんですの?」

ハギヨシ「いきなり雇い入れると言っても京太郎は混乱するでしょうし、断られる可能性も高いです。彼はまだ高校一年生で、そのような将来を決める決断を迫るのは少々酷かと」

透華「ならばどうするんですの?」

ハギヨシ「まずは土日だけのアルバイトということで誘ってみてはいかがでしょうか?」

透華「アルバイト……」

ハギヨシ「いわゆる試験期間です。そうすればお嬢様も彼が本当に適任か判断できますし、彼も将来龍門渕に仕えるかどうかの決断もしやすいはずです。それに正式に雇い入れたとなれば万が一にも解雇するにも面倒な手続きが必要ですが、バイトであれば切りやすいですしね」

透華「なるほど……一理ありますわね、切るつもりはありませんが。ではそのようにお願いしますわ」

ハギヨシ「かしこまりました」



咲「でね、和ちゃんが~」

京太郎「へぇ、そりゃ(ピリリ)っと悪い。電話だ……ハギヨシ?」

咲「うん、わかった。私は飲み物でも入れとくよ。京ちゃんはコーヒーでいい?」

京太郎「ああ、頼む(ピッ)もしもし、俺だけど」

ハギヨシ『ハギヨシです。今、大丈夫ですか?』

京太郎「ああ、大丈夫だ。なんか用か?」

ハギヨシ『少しお話したいことがあるんですが……』

京太郎「なんだよ改まって」

ハギヨシ『京太郎は何かアルバイトをしてますか?』

京太郎「いや、してないけど。そろそろ高校生活に慣れてきたからしようとは思ってる」

ハギヨシ『そうですか、ならよかった。話というのはそのことでして、アルバイトの紹介なんですよ』

京太郎「バイトの? なんでまた……」

ハギヨシ『それはですね、私の紹介するアルバイトが龍門渕家での執事の仕事だからです』

京太郎「龍門渕家の執事!?」

ハギヨシ『はい、土日限定ですが』

京太郎「執事かぁ……でもそういうのって専門の知識とかいったりするんじゃねぇの?」

ハギヨシ『本来はそうなのですが、京太郎にやってもらいたいのは透華お嬢様の執事なんです』

京太郎「透華お嬢様って……龍門渕透華さんの?」

ハギヨシ『はい』

京太郎「いや、無理だってそんなの!」

ハギヨシ『大丈夫ですよ。基本的にはお嬢様のおっしゃる通りのことを忠実にこなしていれば問題ありません』

京太郎「でもよ……」

ハギヨシ『分からないことがあればその都度私がフォローしますから』

京太郎「……そういうことなら、やってみてもいい、かな」

ハギヨシ『ありがとうございます。では早速明後日からこちらで働いて頂きます。詳しい契約の内容はその時にお伝えします』

京太郎「って明日からかよ!?」

ハギヨシ『何かご用事でもありましたか?』

京太郎「いや、ねぇけどよ」

ハギヨシ『ではよろしくお願いします』

京太郎「あぁ、わかったよ。んじゃあな」(ピ、ツーツー

咲「ハギヨシさんから?」

京太郎「ああ、バイトの紹介で龍門渕の執事やらないかって」

咲「龍門渕で執事!? 大丈夫なの京ちゃん?」

京太郎「そんな専門的なことも要求されないみたいだし、なにかあってもハギヨシがフォローにまわってくれるらしいしさ。まぁ何事も経験だって」

咲「う~ん、大丈夫かな……?」

京太郎「心配すんなって!」

咲「京ちゃん結構ドジなところあるし」

京太郎「お前にだけは言われたくねぇよ!」(グリグリ

咲「痛い痛い! やめて~!」



~現在~
ハギヨシ(こういった経緯で京太郎を雇ったわけですが……ん? あれは……)



透華「資料室にこの本を返して、この次の次の巻をとってきて下さいまし」

京太郎「分かりました、お嬢様」(キィ、バタン

透華「……ふぅ」

透華(ぞ、存外緊張しますわね……こう、今までいなかった殿方が常に一緒にいるというのは。それもあの方が執事として私の傍にいるというのは)

ハギヨシ「お嬢様、お疲れですか?」

透華「ハ、ハギヨシ!?」

ハギヨシ「すいません、驚かせてしまいましたね」

透華「い、いえ、別に大丈夫ですわ」

ハギヨシ「それならいいのですが。ところでお嬢様、京太郎はどうですか?」

透華「え、ええ、まぁ? 流石に初日では全く使い物になりませんが、物覚えは悪くありませんし? ちょっとした気配りもできているのではないかしら?」

ハギヨシ「そうですか。それではこれからの成長次第では正式採用も見えてきますね」

透華「ええ。流石私の見込んだ殿方ですわ」

京太郎「お嬢様、とってきましたよ。これでいいんですか?」

透華「わひゃい! え、ええ、それですわ! 早く渡しなさい!」

京太郎「は、はいぃ!」

ハギヨシ「お嬢様、落ち着いてください。京太郎にみっともないところを見せてしまいますよ」(ボソ

透華「わ、わかっていますわ!」(ボソ

京太郎「あ、あの、お嬢様?」

透華「ゴホン、つ、次は紅茶でも入れてもらおうかしら? ハギヨシもいますし、この機会に主要な茶葉の淹れ方くらい学びなさい。ハギヨシ、須賀京太郎に紅茶の淹れ方を教えてあげなさい」

ハギヨシ「かしこまりました、お嬢様。京太郎、キッチンに行きましょう」

京太郎「おう。ではお嬢様、失礼します」(キィ、バタン



京太郎「お待たせしました」

透華「ちゃんと教わりまして?」

京太郎「はい。ちょっと自信ありませんけど……」

透華「何事も初めてであれば上手くいくかどうかわからないものです。気負わず淹れなさいな」

京太郎「はい!」(コポコポ

透華「……」(ジー

京太郎「で、出来ました」

透華「では早速いただきますわ」

京太郎「どうぞ」

透華「……」(コクコク

京太郎「…………」(ゴクリ

京太郎「ど、どうですか?」

透華「……あなた、本当に初めて紅茶を淹れましたの?」

京太郎「こんな本格的な淹れ方初めてですけど……駄目でした?」

透華「いえ、おいしいですわ。初めてとは思えないくらい」

京太郎「そうですか! よかったぁ」(パアァ

透華「っ! ま、まああくまで初めてにしてはおいしいというだけであって、ハギヨシや一には到底及びませんけど! 現状で満足せず、もっと練習しなさい。向上心を持ってこそこの龍門渕透華の執事にふさわしいのですわ!」

京太郎「は、はい! 精進します!」

透華「よろしい……あら? もう夕食の時間ですわね。あなたも食べていきますでしょう?」

京太郎「いいんですか?」

透華「構いませんわ。あなたもここで働く執事ですもの」



~食堂~
京太郎「おお、ここが食堂……」

透華「自慢の食堂ですわ。あ、調度品にはくれぐれも触れないように。そこの燭台でも数百万はしますから」

京太郎「数百万!?へぇ~……あ、どうぞ」(スス

透華(あら、言われる前に椅子を引くなんて……やはり気配りが出来ますのね。京太郎は元々こういった性質なのか、それとも清澄であごで使われているからこうなのか……そういえば彼女達はこの方を無償でこき使っているんでしたわね)(イラ

京太郎「あ、あの、なにかまずかったでしょうか?」

透華「い、いえ、別に。少し考え事をしていただけですわ」

京太郎「あ、そうですか。俺またなんかやっちゃったのかと」

透華「まったく心配症ですわね。さ、あなたも早くお掛けなさい」

京太郎「え、でも俺執事ですよ? 執事ってその、雇主と一緒に食事しないものなんじゃ?」

透華「ウチは違いますのよ。ほら、一達も一緒の卓に着いてるでしょう?」

京太郎「ハギヨシは立ったままですけど」

透華「ハギヨシは配膳がありますから。気にしないでそこにお掛けなさいな」

京太郎「そ、それじゃあ遠慮なく」



京太郎「うわ……すげぇうまそう」

透華「当然ですわ。一流の食材を一流のシェフが調理しているのですから」

京太郎「は、はやく食べましょう!」

透華「ふふ、それでは頂きましょうか」

「「「「「「いただきます」」」」」」

京太郎「うわ、すっげぇ美味い! このサラダにかかってるドレッシングからして最高!」

透華「一流ならばドレッシングにまでこだわって当然ですわ。それはそうとこちらの料理を食べてみなさい」

京太郎「? これ何の肉ですか?」

透華「これは鴨のソテーですわ。私のお気に入りの一つです」

京太郎「へぇ~(パク)うわ、やわらか! 鴨ってこんなに柔らかいものでしたっけ!? しかも肉の味も濃くて最高!」

透華「そうでしょう! このソテーに使われているソースは……」



一「なんか会話に入りづらいね」(ボソ

純「ああ、あんな楽しそうに会話されるとな……」(ボソ

智紀「……」(コクコク

衣「うぅ……衣もきょーたろーと話してみたいのに」(ボソ

ハギヨシ「まぁまぁ衣様、これから機会はいくらでもあるんですから」(ボソ



京太郎「はぁ~ごちそうさまでした」

透華「いかがでした?」

京太郎「すごい美味かったです。あんなの今まで食べた事ありませんよ」

透華「龍門渕の執事になればあのレベルの料理を毎日食べられますわ。だからあなたも……」

ハギヨシ「京太郎、そろそろ帰りませんと遅くなってしまいますよ」

京太郎「え、あ、もうこんな時間か! 勤務時間とっくに過ぎてるよ……」

ハギヨシ「それだけ充実していた時間をすごした、ということでしょう。大丈夫ですよ、ちゃんと延長した時間もお給料を払いますから」

京太郎「いや最後の方なんもしてなかったし、あんなうまい飯まで食わせてもらったんだから別にいいよ。むしろお釣りがくるくらいだ」

ハギヨシ「そうですか、京太郎がそう言うならやめておきましょう。さ、車で送りますから先に玄関に行って下さい」

京太郎「了解!」(スタスタ

透華「ちょっとハギヨシ! 折角いい所でしたのに!」(ボソ

ハギヨシ「お嬢様、焦ってはいけませんよ。もう少し様子を見てから、です」(ボソ

透華「むぅ……わかりましたわ」



ハギヨシ「どうでしたか? 一日執事をやってみて」

京太郎「いや~、大変だったけどやりがいはあるかなって」

ハギヨシ「そうですか、それはよかった」

京太郎「それに何より透華さんって美人だしなぁ(胸はないけど)。やっぱり美人と四六時中一緒にいられるっていうのは役得だぜ」

ハギヨシ「ふふ、この仕事を気に入っていただけたようでなによりです。では明日もよろしくお願いします」

京太郎「おう!」



ハギヨシ「さて、車を……おや、お嬢様。こんなところでどうされたのですか」

透華「な、何でもありませんわ!」

ハギヨシ「しかし、顔が赤くなっておられますよ? もしや熱でも……」

透華「~~っ!! 何でもないと言ってるでしょう」

ハギヨシ「まぁ、お嬢様がそうおっしゃるなら……」クスクス

透華「何を笑っていますの!?」

ハギヨシ「いえ、何でもありませんよ。それでは私はお風呂の支度がありますので」

透華「ハギヨシ! もう!」



透華「ハァ……」

透華(美人だなんて……と、当然ですけど! 当然ですけど……京太郎に言われると、悪い気はしませんわね)

透華(さて、これからどうなるかしら。できれば、あの方にずっと使えてもらいたいですわね……)



終わり。


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